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健康心理学観点から見た健康関連アセスメントの課題と今後の展望 : ポジティブ心理学の提言

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健康心理 学 的観 点か ら見 た

健康 関連 アセス メ ン トの課題 と今後 の展望

ポジテ ィブ心理学の提言

木 桃 代

Present

Problems

and Future Prospects

of the Health-Related

Psychological

Assessments

from the View of Health Psychology

—Introduction

to Positive Psychology

Momoyo Ohki 1.は じ め に 真 の 健 康 と は い か な る もの で あ ろ う か 。 た と え ばWHO(世 界 保 健 機 関)は 「健 康 とは 身 体 的 、 精 神 的 、 お よび社 会 的 に 良 好 な状 態 で あ り、単 に疾 病 に罹 って お らず 、 衰 弱 して い な い状 態 とい う こ と で は な い 」 と定 義 して い る 。 こ の30年 来 、 器 質 的 な 精 神 疾 患 で は な くて も、対 人 関 係 や 環 境 へ の 適 応 に お い て 問題 を生 ず る人 が 増 加 して い る背 景 か ら、 ス トレス フル な現 代 社 会 に お け る 「真 の健 康 」 に注 目 が 集 ま る よ う に な っ た 。 この 流 れ を 受 け て1978年 にAPA(ア メ リ カ 心 理 学 会)の 第38部 会 と して 健 康 心 理 学 が 発 足 した 。APA健 康 心 理 学 部 会 は1980年 の 年 次 大 会 で 、 健 康 心 理 学 の領 域 を 「健 康 の 増 進 と維 持 、 疾 病 の 予 防 と治 療 、健 康 ・疾 病 ・機 能 障 害 の病 因 と診 断 の解 明 に対 す る心 理 学 の 特 別 な教 育 的 ・科 学 的 ・職 業 専 門 的 貢 献 の全 て をい う」 と定 義 して い る 。 この 定 義 に もあ る よ う に、 健 康 心 理 学 は健 康 の 推 進 ・維持 及 び疾 病 の 予 防 を 目的 と して お り、 積 極 的 な心 身両 面 の健 康 を め ざ して い る 学 問領 域 で あ る 。 した が っ て健 康 心 理 学 に お い て 使 用 され る ア セ ス メ ン トも この 目 的 に 沿 った 背 景 理 論 を備 え て い る は ず で あ る 。 しか し現 在 健 康 心 理 学 の 研 究 にお い て多 く用 い られ て い る健 康 関連 ア セ ス メ ン トは 、 実 際 に は そ の 目 的 と異 な る観 点 か ら測 定 を して い る 場 合 も多 い 。本 論 文 にお い て は 、 そ の 問題 点 を指 摘 し、 今 後 の 一 指 針 とな る新 しい観 点 を報 告 す る こ と を 目 的 とす る。 2.課 題 と な る 問 題 点 心 理 的 ア セ ス メ ン ト自体 の 問 題 点 、 た と え ば 質 問 紙 法 や 投 影 法 の抱 え る問 題 の検 討 等 は本 論 の 目的 とす る と こ ろ で は な い 。 こ こ で は と く に 「健 康 に 関 連 した 心 理 的 ア セ ス メ ン ト」 に関 して 、 問題 で あ る と考 え て い る2点 につ い て言 及 す る 。 ま ず 一 点 目 は ア セ ス メ ン トにお け る 「目 的」 と 「応 用 」 の 不 明 確 さ で あ る。 そ の ア セ ス メ ン ト

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は何 の た め に 、 誰 の た め に行 うの か 、 そ して どの よ う に そ の ア セ ス メ ン トの 結 果 を応 用 ・展 開 し て い くの か 、 とい う点 が 不 明 確 な研 究 が 多 い 。 言 い か え る と、研 究 の た め の ア セ ス メ ン ト開発 が 多 く、 そ れが 実 践 や応 用 に結 び つ い て い な い現 状 が あ る 。心 身 両 面 に お け る健 康 の増 進 や 維 持 の み な らず 、 疾 病 の予 防 とい う こ と を 目的 とす る の で あ れ ば 、 当 然 応 用 に まで そ の研 究 は進 展 して しか る べ きで あ るが 、 アセ ス メ ン トの 作 成 の み で 終 わ っ て し ま っ て い る こ とが 多 い 。 そ れ で は ア セ ス メ ン ト本 来 の 目的 が 本 末 転 倒 に な る。 また 、 こ の 実 践 や応 用 を 阻 む 要 因 の ひ とつ と して 、 同 じ もの を測 定 して い る はず の ア セ ス メ ン トで あ っ て も、 そ れ ぞ れ の ア セ ス メ ン トに お け る用 語 や構 成概 念 の定 義 が 食 い 違 っ て い る こ とが あ る 。 す な わ ち使 用 して い る用 語 は 同 じで あ っ て も、 結 果 と して測 定 して い る もの が 異 な っ て い る とい う場 合 で あ る 。 こ の よ うな 場 合 、 概 念 の 統 一 を 図 らず に応 用 し よ う とす る と、 か え っ て 問 題 を混 乱 させ て し ま う こ とに な る 。 タ イ プAの アセ ス メ ン トな どは そ の 典 型 的 な例 で あ ろ う。 現 在 の タ イ プA研 究 の混 乱 と停 滞 は こ こ に根 本 的 な問 題 を抱 えて い る と言 っ て も過 言 で は な い(大 木 ・渡 辺,2001)。 第 二 点 と して 、今 まで の健 康 関 連 の 研 究 や ア セ ス メ ン トは、 ネ ガ テ ィ ブ な視 点 か ら な さ れ る こ とが 多 か っ た 、 とい う こ とが 挙 げ られ る 。被 検 者 の 抑 うつ や 不 安 、 あ るい は怒 りの 程 度 や そ の 表 出 の 仕 方 等 ネ ガ テ ィブ な面 に 焦 点 を当 て 、 これ らの見 られ ない 場 合 が 「精 神 的 に健 康 で あ る 」 と 定 義 して い る研 究 が 多 い とい う こ と で あ る 。 た とえ ば 日本 版GHQ(Goldberg,1978;中 川 ・大 坊,1985)は 精 神 的健 康 を測 定 す る と して 多 く用 い られ て い る 質 問 紙 の ひ とつ で あ る 。GHQ28 の 身 体 的 症 状 、 不 安 と不 眠 、 社 会 的 活 動 障 害 、 うつ 傾 向 な ど の ネ ガ テ ィ ブ な 側 面 が 低 い 場 合 に 「精 神 的 健 康 」 で あ る 、 と定 義 し た研 究 が 数 多 く見 られ る。 しか し先 述 の よ う に、 積 極 的 な健 康 を志 向 す る 立 場 の健 康 心 理 学 にお い て 、 この よ う な観 点 の ア セ ス メ ン トの使 用 は決 して本 意 とす る と こ ろ で は な い と思 わ れ る 。 ま たDiener(2000)は 否 定 的感 情 と肯 定 的 感i青を一 次 元 の 両 極 に 想 定 す る1因 子 モ デ ル よ り も、 両 者 が 直 交 す る とい う2因 子 モ デ ル の 方 が モ デ ル の適 合 度 が 高 い こ と を示 し、 両 者 の 独 立 性 を 主 張 して い る 。 こ の よ う に ネ ガ テ ィ ブ な側 面 とポ ジ テ ィブ な 側 面 は 別 個 の もの と して 考 え る必 要 が あ る。 そ れ に もか か わ らず 、前 述 の よ うに 一次 元 的 に健 康 を捉 え て い る場 合 もま だ 多 い 。 3.QOLア セ ス メ ン ト 本 節 に お い て は、 健 康 心 理 学 の 主 要 テ ー マ の ひ とつ で あ り、 多 くの ア セ ス メ ン トが 開 発 さ れ て い るQualityofLife(QOL)を 取 り上 げ 、具 体 的 に前 節 の2つ の 問題 点 を検 討 す る 。 QOLと い う言 葉 は、1960年 代 の後 半 に 「国 民 の 暮 ら し の豊 か さ」 な ど の社 会 経 済 的 な 指 標 と して用 い ら れ た こ とが 発 端 で あ る。 しか し近 年 は と くに 医療 や福 祉 な どの 領 域 に お い て 使 用 され る こ とが 多 い 。 ま たQOLは し ば しば 「生 活 の 質 」 と訳 さ れ る が 、 か な らず し も統 一 見 解 を も っ た訳 が な さ れ て い る わ け で は な く、 「ク オ リ テ ィ ・オ ブ ・ラ イ フ」 と表 記 され る こ と も多 い 。 い くつ か の 分 野 に 共 通 す る定 義 を概 観 す る と、QOLは 生 命 の 質(身 体 的 側 面)、 生 活 の 質(社 会 的 側 面)、 人 生 の 質(心 理 的側 面)を 表 し、 主 観 的 ・客 観 的 な立 場 か ら個 人 の 人 生 や 生 活 を総 合 的 に把 握 す る概 念 で あ る と考 え られ る。 た と え ばWHOは 、QOLを 「一 個 人 が 生 活 す る 文 化 や価 値 観 の な か で 、 目標 や期 待 、 基 準 、 関心 に関 連 した 自分 自身 の 人 生 の状 況 に対 す る 認 識 」 と定 義 し、 個 人 の 主 観 的 評 価 を強 調 して い る(田 崎 ・中根,1997)。 しか しQOLの 「Life」の 意 味 の 広 さ

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(生命 、 生 活 、 人 生 な ど)や 「Quality」の 語 意 の あ い まい さ 、 さ らに様 々 な分 野 で 様 々 な 目 的 に 用 い られ て い る た め 、 概 念 規 定 に つ い て か な らず し も一 致 し た見 解 が得 られ て い な い の が 現 状 で あ る。 言 い か え る な ら ば 、QOLア セ ス メ ン トの 内容 は 、 そ れ が 用 い られ る領 域 や 目的 に よ っ て 異 な る とい う こ とで あ る 。 こ こで は 、信 頼 性 ・妥 当 性 が 検 討 さ れ 、 多 くの 国 際 的研 究 に お い て用 い られ て い る2つ の 「健 康 関 連QOL:HRQOL」 尺 度 を紹 介 す る。 前 述 の よ うな 現 状 に お い て、 世 界 規 模 で 標 準 化 さ れ て い る 代 表 的 な2つ の 健 康 関 連QOLア セ ス メ ン トの 構 成 要 素 は い か な る もの か 、 具 体 的 に 考 察 し、 そ の 観 点 を検 討 す る 。 な お そ の 他 のQOLア セ ス メ ン トに 関 して は 中根 ・伊 藤 ・田 崎 ・稼 農 (1996)な ど を参 照 さ れ た い 。 (1)WHO/QOL-26 世 界 保 健 機 関 ・精 神 保 健 と薬 物 乱 用 予 防 部 に よ って 原 版 が作 成 さ れ 、 日本 にお い て は 田 崎 ・中 根 が 標 準 化 を行 っ た 自 記 式 の 質 問 紙 で あ る 。 対 象 集 団 の 経 時 的QOLの 変 化 を見 る の み な らず 、 対 象 集 団 間の 異 同 も比 較 で き る とい う特 色 が あ る。 ま た世 界15ヶ 国 に わ た る 言 語 と文 化 圏 で 同 時 期 に 開 発 の 進 行 を行 っ た た め 、 異 文 化 間 で も結 果 が 比 較 で きる 。1995年 に100項 目か ら な る QOL-100が 作 成 され 、1996年 に短 縮 版 で あ るwHOQOL-breve(日 本 語 版 で はWHOIQOL-26)が 発 表 され た。 身体 疾 患 の患 者 を対 象 と した 研 究 や 介 護 者 を対 象 と した研 究 な ど、 国 際 的 に多 くの 研 究 に用 い られ て い る。 質 問 項 目 は 表1に 示 す よ う な4領 域24下 位 項 目 か ら構 成 さ れ る。 身 体 的 領 域 項 目 に お い て 、 厂日常 生 活 動 作(毎 日の 活 動 をや り遂 げ る 能 力 に満 足 して い ます か)」 や 「仕 事 の 能 力(自 分 の仕 事 を す る 能 力 に満 足 し て い ま す か)」 と い うポ ジ テ ィ ブ な 表 現 が あ る 一 方 、 「医 薬 品 と医療 へ の依 存(毎 日の 生 活 の 中 で 治 療(医 療)が どの く らい 必 要 で す か)」 や 「痛 み と不 快(体 の 痛 み や 不 快 の せ い で 、 しな け れ ば な ら な い こ とが ど の くらい 制 限 さ れ て い ます か)」 な ど の ネ ガ テ ィ ブ な 側 面 も含 まれ て い る 。 同様 に心 理 的 領 域 項 目 に お い て も、 「肯 定 的感 情(毎 日の 生 活 を ど の く ら い 楽 し く過 ご して い ます か)」 や 「自 己 評 価(自 分 自身 に満 足 して い ます か)」 な ど と共 に、 「否 定 的感 情(気 分 が す ぐれ な か っ た り、 絶 望 、 不 安 、 落 ち込 み とい っ た い や な気 分 を どの く らい ひ ん ぱ ん に感 じ ます か)」 と い う両 面 か ら測 定 さ れ て い る。 さ ら に特 徴 的 な もの は環 境 領 域 項 目で あ る 。 「金 銭 関係(必 要 な もの が 買 え る だ け の お 金 を 持 っ て い ます か)」 「自由,安 全 と治 安(毎 日 の 生 活 は どの く らい 安 全 で す か)」 「交 通 手 段(周 辺 の 交 通 の 便 に満 足 して い ま す か)」 な どの 物 理 的 な 表 現 が 注 目 され る 。 表1WHOIQOL-26の 構 成(田 崎 ・中 根,1997よ り改 編) 領域(項 目数) 下 位 項 目 身体 的領 域(7) ① 日常 生 活動作 ② 医薬 品 と医療 へ の依存 ③ 活 力 と病 気 ④ 移動 能力 ⑤ 痛 み と不 快 ⑥ 睡眠 と休 養 ⑦ 仕事 の能力 心理 的領 域(6) ① ボ デ ィ ・イメ ージ ② 否 定 的感 情 ③肯 定 的感 情 ④ 自己評価 ⑤ 精神 性1宗教1信条 ⑥ 思 考,学 習,記 憶,集 中 社 会 的 関係(3) ①人間関係 ②社会的支援 ③性的活動 環 境(8) ① 金銭 関係 ② 自由 ・安 全 と治安 ③ 健康 と社 会 的 ケア:利 用 の しや す さ と質 ④ 居住 環境 ⑤ 新 しい情 報 と技術 の獲 得 の機 会 ⑥ 余暇 活動 の参加 と機 会 ⑦ 生活 圏 の環境(公 害/騒音1気候)⑧ 交通 手段

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こ の 領 域 や 項 目の 構 成 か ら、WHO/QOL-26は 身体 的 ・社 会 的 ・心 理 的 す べ て の 面 のQOLを 包 括 して い るHRQOLア セ ス メ ン トで あ る と考 え られ る 。 と くに 世 界 共 通 とい う条 件 で の項 目設 定 の場 合 、 物 理 的 環 境 もHRQOLの 要 因 の ひ とつ と して 考 え る 必 要 が あ る こ と を示 して い る。 (2)MOS36-ltemShort-FormHealthSurvey.(SF-36) SF-36は1991年 に 欧 米 の5力 国 で 国 際QOL評 価(IQOLA)プ ロ ジ ェ ク トが 開 始 さ れ 、 原 版 が 作 成 さ れ た 。 日本 は こ の プ ロ ジ ェ ク トに6力 国 目 と して 参 加 し、現 在 で は約25力 国以 上 が 参 加 して い る 。 日本 に お け る信 頼 性 ・妥 当 性 は1996年 に確 認 さ れ 、 日本 語 版 が福 原 ・鈴 鴨 ・尾 藤 ・黒 川 (2001)に よ っ て作 成 され た 。 SF-36は 年 齢 、 病 気 、 治 療 に 限 定 され ず 、 す べ て の 人 の 機 能 状 態 や 健 康 状 態 に関 す る基 本 的価 値 を 表 わ す 概 念 を評 価 す る包 括 的尺 度 と され て い る。 した が って 病 気 や 治 療 の 直 接 的 な 結 果 を評 価 す る こ とが 可 能 で あ り、 医 療 評 価 の 有 効 な手 段 と考 え られ て い る。 ア メ リ カ に お け る医 学 分 野 な どで は と く に 中 心 的 な ア セ ス メ ン トと な りつ つ あ る 。 日本 にお い て も透 析 患 者 、慢 性 肝 疾 患 、 脳 血 管 障 害 、 在 宅 人 工 呼 吸 療 法 、 睡 眠 時 無 呼 吸 症 候 群 、 ク ロー ン病 、精 神 分 裂 病 、感 情 障 害 、 人 格 障 害 等 、 様 々 な精 神 ・身 体 疾 患 患 者 を対 象 と した研 究 が な され て い る 。 さ ら に施 設 入 所 老 人 と 一 般 在 宅 老 人 との 比 較 か ら、 面 接 バ ー ジ ョ ンの妥 当 性 も検 証 され て い る 。 内 容 は大 き く身体 的健 康 度 と精 神 的 健 康 度 に分 け ら れ る36項 目か ら成 り、 そ れ ぞ れ 表2に 示 す よ うな 下 位 尺 度 が あ る。 さ ら に全 体 的健 康 度 を 測 定 す る1項 目が あ る。 自己記 入 式 調 査 票 で あ る が 、 面 接 方 式 で の使 用 も可 能 で あ る 。 表2SF-36の 構 成(福 原 ・鈴 鴨 ・尾 藤 ・黒 川,2001よ り改 編) サ マ リ ー ス コ ア 下 位 尺度(項 目数) 内 容 例 身体的健康度 身 体 機 能(10) 日常 役 割 機 能(身 体)(4) 体 の 痛 み(2) 全 体 的 健 康 感(5) 激 しい運 動,階 段 を一階 上 までの ぼ る 普段 の活 動 時 間減 少,普 段 の活 動不 可 能 痛 みの程 度,痛 み に よる生活 の制 限 病気 にな りやす い,人 並 み に健 康 精神的健康度 活 力(4) 社 会 生 活 機 能(2) 日常 役 害叮機 能(精 神)(3) 心 の 健 康(5) 元 気 い っ ぱ い,疲 れ 果 て て い た つ き あ い の 減 少,つ き あ い 時 問 の 減 少 普 段 の 活 動 時 間 の 減 少 神 経 質,お ち こ み,穏 や か な気 分,ゆ う う つ 全 体 的 健 康 健 康 の推 移(1) 「身体 機 能 尺 度 」 に お い て は 、 「階段 を1階 上 まで の ぼ る」 「自分 で お風 呂 に 入 っ た り,着 が え た り す る 」 等 の 活 動 が 、 健 康 上 の 理 由 で む ず か し い か ど う か を 尋 ね て い る 。 こ れ ら は PerformanceStatus(PS)を 確 認 す る 目的 の 項 目 で あ る と考 え られ る。 ま た 「心 の健 康 尺 度 」 にお い て は 、 過 去1ヵ 月 間 の 感 情 と して 「元 気 い っ ぱ い 」 「楽 しい 気 分 」 で あ っ た か ど うか とい うポ ジ テ ィブ な 面 と と も に、 「か な り神 経 質 」 「ど う に もな ら な い くらい 、気 分 が お ち こん で い た」 か ど うか とい う ネ ガ テ ィ ブ な 面 も尋 ね て い る。 さ ら に 「全 体 的健 康 感 尺 度 」 と して 「私 は他 の 人 に 比 べ て病 気 に な りや す い と思 う」 「私 は 、 人並 み に健 康 で あ る」 「私 の健 康 は、 悪 くな る よ う な気 が す る」 な ど の 項 目が あ る 。

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こ れ らの 下 位 尺 度 や 項 目 の構 成 か ら、 一 部 に心 理 的 側 面 も含 ま れ る も の の 、SF-36は 全 体 的 に 身 体 的側 面 にお け るHRQOLを 中 心 に測 定 して お り、 医 学 的見 地 か ら開発 さ れ た アセ ス メ ン トで あ る こ と を強 く主 張 して い る 。痛 み が あ る と、 身体 状 態 の み な らず 精 神 状 態 も悪 化 す る とい う こ と は十 分 あ りえ る。 した が っ て 、 この ア セ ス メ ン トが 医 学 的 な見 地 か ら作 成 され た背 景 を考 え れ ば、 そ の よ うな 厂ネ ガ テ ィ ブ な側 面 が な い こ と」 とい う視 点 が 含 まれ て い る こ とは 、 あ る 意 味 に お い て は妥 当 で あ ろ う。 ま た こ の よ う な側 面 が 強 調 され て い る とい う こ とは 、 は か らず も現代 の 医 学 の視 点 を 露 呈 して い る と もい え る。 こ れ らの ア セ ス メ ン トは前 述 の よ う に世 界 規 模 で作 成 ・標 準 化 され て お り、 応 用 研 究 も多 数 な され て い る 。 した が っ て 特 定 の 概 念 か らのHRQOLを 測 定 す る場 合 にお い て は十 分 適 用 に値 す る もの で あ る 。 そ れ ぞ れ の 概 念 及 び構 成 要 素 の 定 義 が 異 な っ て い る とい う点 に お い て は、 ま だ 問 題 を残 して い る もの の 、 第 一 の 問題 点 の 多 くは 解 決 され て い る ア セ ス メ ン トで あ る。 しか し第 二 の 問題 点 が 解 決 され て い る と は い え な い 。 中里(1995)は 「QOLは そ もそ も、 障 害 や 慢 性 疾 患 な ど に よ っ て、 生 活 が奪 わ れ た り、 そ の水 準 が 損 な わ れ て い る 人 に、 本 来 あ るべ き 生 活 を 回復 させ る とい う観 点 か らで て きた概 念 で あ る 」 と述 べ て い る。 こ れ を裏 付 け る か の よ う に、 今 ま で のQOL研 究 の 大 部 分 は 、 医 学 、 看 護 学 、 老 年 学 、 福 祉 学 等 にお い て 、 身 体 障 害 者 、 が ん患 者 、高 齢 者 等 、社 会 生 活 を営 む 上 で何 ら か の不 便 さ を感 じる 人 々 を対 象 と してい た 。 す な わ ち い か に そ の 不 便 さ を 解 消 させ る か と い う こ とに研 究 の 主 眼 が 置 か れ て お り、QOLア セ ス メ ン トは い わ ば ネ ガ テ ィ ブ面 の 測 定 指 標 と位 置 づ け られ る。 上 記 の2つ の ア セ ス メ ン トも基 本 的 に は この 観 点 か らHRQOLを 測 定 して い る と考 え られ る。 これ ら の ア セ ス メ ン ト自体 は否 定 され る もの で は な い 。 しか し、健 康 心 理 学 の 観 点 か ら考 え る と、QOLは 積 極 的 な 意 味 で の 心 身 の 健 康 及 び 幸 福 と密 接 に関 わ る もの で あ り、QOLの 向 上 は 我 々 の 日常 生 活 、 さ ら に人 生 の 目的 で あ る と位 置 づ け られ る。 した が っ てQOLア セ ス メ ン トの も う ひ と つ の視 点 と して 、 よ りポ ジ テ ィ ブ な観 点 を取 り入 れ 、 日々 の 生 活 を よ り向 上 させ る 要 因 を 検 討 す る必 要 が あ る と思 わ れ る。 上 記 の2つ のQOLア セ ス メ ン トの概 念 に お い て は こ の よ う な ポ ジ テ ィブ な 視 点 は あ ま り見 られ な い 。 さ ら に世 界 規模 はお ろ か 日本 の み に お い て も、 そ の よ うな ポ ジ テ ィ ブ な観 点 か ら作 成 さ れ 、 標 準 化 さ れ たHRQOLア セ ス メ ン トは見 当 た らな い のが 現 状 で あ ろ う。 4.ポ ジ テ ィ ブ心 理 学 今 まで ネ ガ テ ィ ブ な視 点 か ら で は健 康 心 理 学 の ア セ ス メ ン トと して不 十 分 で あ る と論 じて きた 。 した が っ て 当然 求 め る もの は ポ ジ テ ィ ブ な視 点 とい う こ と に な る。 そ れ で は 、 ど うす れ ば ポ ジ テ ィブ な視 点 か らの 健 康 関 連 ア セ ス メ ン トの作 成 及 び応 用 が 可 能 に な る の で あ ろ うか 。 言 い 換 え れ ば 、 そ の よ うな 場 合 に は どの よ うな 背 景 理 論 を もち 、 どの よ う な概 念 を構 成 要 素 とす るの か 、 そ して そ の 到 達 目標 は ど こ にお くべ きな の で あ ろ う か 。 この よ う な 問題 の ひ とつ の 指 針 と な る の が ポ ジ テ ィ ブ心 理 学(positivepsychology)で あ る 。 ポ ジ テ ィ ブ心 理 学 は1999年 にSeligmanが 提 唱 し た新 しい 概 念 で あ る 。Seligmanは 「心 理 学 が 人 間 の 病 理 を見 つ け 出 し、 そ れ を治 そ う とす る こ とに の み 力 を注 こ う とす る の は 誤 った 方 向 で あ る 。 心 理 学 は 人 間 の 弱 さ よ り、 人 間 の 強 さ 、積 極 的 な 面 に もっ と 目 を向 け るべ きで は ない か」 と

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の 問 い を投 げか け た(小 玉,1999)。 ポ ジ テ ィ ブ心 理 学 の 最 も大 き な研 究 テ ーマ は 、 主 観 的well-beingを も た らす 個 人 特 性 に は どの よ う な もの が あ る か を 明 らか に す る こ と、 そ し て そ れ を獲 得 、 育 成 す る た め に は どの よ う な こ とが 重 要 で あ るか を示 す こ とで あ る 。 具 体 的 に は 、 主 観 的 レベ ル に お け る ポ ジ テ ィ ブ心 理 学 の研 究 領 域 と して 、 過 去 の 「well-being」「心 の 安 ら ぎ」r満 足 」、 将 来 の 「希 望 」 「楽 観1生」、 そ して現 在 の 「幸 福 」 を挙 げ て い る 。 さ らに個 人 レベ ル の もの と して 「勇 気 」 「対 人 能 力 」 「美 的 感 覚 」 「忍 耐 力 」 「寛 大 さ」 「独 創 性 」 「未 来 志 向 」 「英 知 」 な ど を、 集 団 レ ベ ル で は 「責 任 感 」 「養 育 性 」 「愛他 性 」 「礼 節 」 「節 度 」 「寛 容 性 」 「勤 労 意 欲 」 な ど を研 究 す る こ とが 重 要 で あ る(Seligman&Csikszentmihalyi,2000)と して い る 。 また 、 ポ ジ テ ィブ 心 理 学 者 が 援 助 場 面 で行 うべ き事 柄 は 、 ク ライ エ ン トの弱 さ を修 復 す る こ と よ りも、 彼 らの 潜 在 能 力 の 開発 ・強 化 に尽 力 す る こ とで あ る 。 そ して そ れ は個 人 のwell-beingの 達 成 を超 え て 、 そ の 社 会 的 絆 を 強 化 ・促 進 させ 、 ポ ジ テ ィ ブ な 「共 同体 」 の 実 現 に ま で つ なが っ て い る(小 玉,1999)。 抽 象 的 で はあ る が 、 ポ ジ テ ィ ブ 心 理 学 にお い て は こ の よ う な非 常 に高 邁 で壮 大 な 目標 が 掲 げ ら れ て い る。 そ して これ は ま さ に健 康 心 理 学 が 目指 す 、積 極 的 な精 神 的 健 康 と共 通 して お り、 今 後 の健 康 関 連 アセ ス メ ン トの方 向性 を示 して い る と思 わ れ る。 しか し ま だ ポ ジ テ ィ ブ心 理 学 自 身が 提 唱 され た ばか りで あ り、 こ の視 点 ・観 点 か ら の ア セ ス メ ン トの作 成 は多 くの 問 題 点 と課 題 を残 して い る。 まず 、 積 極 的 な 精 神 的 健 康 の概 念 規 定 を明確 に しな け れ ば な ら な い とい う こ とで あ る 。 こ れ は 同 時 に、 精 神 的健 康 の構 成 要 素 と影 響 因 の 区別 をす る、 とい う こ とで も あ る 。Seligmanが 挙 げ た 研 究 領 域 に お い て もあ ま りに も抽 象 的表 現 が 多 く、 そ れ ぞ れ の概 念 規 定 が 明 確 で は な い 。 した が っ て 、 我 々 は何 を も っ て精 神 的 に健 康 で あ る と い え る の か 、 明確 に しな け れ ば な らな い 。 た とえ ば 主 観 的well-beingや 幸 福 感 は精 神 的 健 康 の 要 素 な の か 、 そ れ と も精 神 的健 康 を もた らす 影 響 因 な の か 、 とい う こ とで あ る 。 この よ うな概 念 の定 義 が 明 確 に な され 、構 成 要 素 と区別 され て い な い と、 前 述 の よ う に測 定 の 目的 が あ い まい に な り、 そ の 本 来 の 目的 が果 た せ ない 。 次 に こ れ ら の 定 義 に基 づ い て 、 特 定 の対 象 で は な く、 大 規 模 な対 象 か ら得 られ た デ ー タ を も と に アセ ス メ ン トを作 成 し標 準 化 を行 う。 ポ ジ テ ィブ な 共 同体 を作 る こ とが 目的 で あ る な らば 、 当 然 そ の デ ー タ の 収 集 領 域 も幅広 くな る は ず で あ る 。 最 後 に そ の ア セ ス メ ン トを積 極 的 な健 康 の促 進 と維 持 、 な ら び に疾 病 の 予 防 とい う、 ま さ に健 康 心 理 学 が 目 的 とす る こ と を実 現 す る に は、 ど うす れ ば実 践 に役 立 て る こ とが で き る の か 、 そ の 方 策 を考 え る必 要 が あ る 。研 究 で 終 わ っ て しま っ て は最 初 に述 べ た よ う に何 の た め の ア セ ス メ ン トか わ か ら な い 。 しか し この 応 用 は従 来 の よ うな 個 人 レベ ル で の研 究 で は難 し く、 政 策 と して の 取 り組 み が 必 要 と さ れ る で あ ろ う。 ス トレス が 良 くな い か ら とい っ て 、 現 代 社 会 にお い て ス トレ ス を す べ て消 して しま う こ と はで きな い 。 そ うで あ る な らば 、 ど うす れ ば そ の よ う な環 境 の 中 で 、私 た ち が よ り精 神 的 に健 康 で い る こ とが で きる か 、 そ れ を考 え て い くの が 健 康 心 理 学 の役 目で あ ろ う。 そ の た め に も従 来 の 健 康 関 連 ア セ ス メ ン トで 示 され た よ うな視 点 か らで は な く、 積 極 的 な健 康 心 理 学 的観 点 か らの ア セ ス メ ン トの 開 発 と応 用 が期 待 され る 。

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引 用 文 献 Diener,E.2000SubjectiveWell-Being.AmericanPsychologist,55(1),34-43. 福 原 俊 一 ・鈴 鴨 よ し み ・尾 藤 誠 司 ・黒 川 清2001SF-36日 本 語 版 マ ニ ュ ア ル(ver.1.2)(財)パ ブ リ ッ ク ヘ ル ス リ サ ー チ セ ン タ ー Goldberg,D.P.(原 著)中 川 泰 彬 ・大 坊 郁 夫(日 本 版)1985日 本 版GHQ精 神 健 康 調 査 票 手 引 日 本 文 化 科 学 社 小 玉 正 博1999ポ ジ テ ィ ブ 心 理 学 の 動 向 ヘ ル ス サ イ コ ロ ジ ス ト,20,5. 中 根 允 文 ・伊 藤 恵 子 ・田 崎 美 弥 子 ・稼 農 恵 子1996QOLの 枠 組 み が ん 看 護,1(1),11-15. 中 里 克 弘1995QOL(ク オ リ テ ィ ・オ ブ ・ラ イ フ)を ど う と ら え る か 一 老 人 学 の 立 場 か ら 一 日 本 性 格 心 理 学 会 第4回 大 会 発 表 論 文 集,8. 大 木 桃 代 ・渡 辺 尚 彦2001タ イ プAの 概 念 を め ぐ っ て:総 論 タ イ プA,12(1),15-18. Seligman,M.E.P.&Csikszentmihalyi,M.2000PositivePsychology.AnIntroduction.AmericanPsychologist, 55(1),5-14. 田 崎 美 弥 子 ・中 根 允 文1997wHOIQOL-26手 引 金 子 書 房 注:本 研 究 の 一 部 は 日本 心 理 学 会 第65回 大 会 シ ン ポ ジ ウ ム 「ス トレス 対 処 、 ラ イ フ ス タ イ ル 、 健 康 一 そ の 今 日的課 題 一 」 に お い て 「心 理 的 ア セ ス メ ン トの視 点 か ら」 と題 して 発 表 さ れ た 。

参照

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