日中敬語表現と儒教文化
一日中両語教育への提言一
王
鉄 橋
Japanese And
し
hinese Honorinc Expression
And Coniuciamsm
Some Suggestion for The Japanese And
Chinese Language Teaching
Wang Tie-qiao
Generally speaking, language and culture are closely related. The
expressions in a certain are still more closely related to the specific
culture in the area where the language is used. It is even a casual
relation between them. For example, the honorific expressions shared
by both Chinese and Japanese have a thousand and one links with
Confucianism and the living culture which has originated from it.
The present treaties, starting from the human relationship based
on the Confucian culture,has analysed the characteristics of the
honorific expressions in the two languages, discussed their similarities
and differences, and demonstrated the relations between honorific
expressions and the Confucian culture.On the basis of the evolution
of the history and human values, the treaties has also examined the
development and change of the honorific expressions in the two
language and from the theoretical and practical point of view put
forward some suggestions for the Japanese and Chinese language
teaching.
言 語 と 文 化 第 3 号 1990年 (王 鉄 橋 )
1 . 言 語•敬 語 • 文化 言語は、人類の生活活動に起源する思想の直接な現実であり、社会現象 の一つである。⑴ 敬 語 は 、人 間 と 人 間
•
人 間 と 自 然 の 人 倫 的 • 心理的相互関 係 から来ている言語の特殊な表現形式であり、言語の下位概念である。文 化については定義がいろいろあるが、 ここではそれを人類がある生態環境 に 適 応 し て 生 活 活 動 か ら 形 成 し た 独 特 な 精 神 構 造 (価 値 体 系 ) と社会構造(
人間関係)のこととして捉えることにする。言 語 • 敬語と文化の関係は簡 略にして言語と文化の関係と言ってもよい。敬語は両者の接点と言えよう。 言語 と 文 化 は 、すでに認められているように密接な関係にある。例 え ば 、 古 代 の 中国語では、生 産.
生 活 活 動 に 密 接 に か か わ っ て い た 「馬」 に対し て 「弾」 「骆 」 「狗」 「獅 」 「哪 」 「驱 」 「服」 「骚 」 「骑」 「骓」 「琪」 「狂 」 「皇」 「黄 」 な ど と 、毛 色•
種 別•
長 幼•
作用によって細かく分けられていた。 現代になって生産と生活における役割が少なくなるにつれて上述の名詞も 次第に消えていった。 また、 日本は海にかこまれていて天気の変化が著し いので、海産物と天気についての言葉が豊富である。 た と え ば 「鏗 」 「鰊」 などを中国語に翻訳すると専門用語のように感じ、「入道雲」「日照り雨」「あ られ」などには不慣れな感じがする。「きりさめ」 と 「こぬかあめ」、「にわ か雨」 と 「ゆうだち」 の区別がつかないのである。 同じ中国でも南方人は 「氷」 と 「雪」の概念がはっきりしないし、北 方 人 は 「柑 」「格」「澄」「柚 」 の区 別がつか な い のである。 以上の人間の自然に対する認識と言語のかか わりに対して、人 間 の 精 神 的 な も の (思 想.
意識的なもの) も そ の 民 族.
社会の人間関係によって言葉を規定している。 たとえば、東洋文化の儒教 文 化 の 「忠」「孝 」「悌 」「仁」「義 」「礼」「智」「信」を英語に訳すと、「Loyalty
」「
rilial
」 「orotherly
」 「Denevolence
」 「righeousness
」-propriety
」 「wisdom
」「sincerity
」 とは一応なっているが、しかし細く吟味すると、キ リ ス ト 教 的
•
西欧的な意味合いが強く、 中国本来の意味とは多少ずれが日中敬語表現と儒教文化一日中両語教育への提言一
-言 語 と 文 化 第 3 号 1990年 (王 鉄 橋 ) ある。中 で も 「孝 」(
filial
) ということばは中国人の心にやきつけられたも の のようだが、ア メ リ カ や オ ー ス ト ラ リ ア の 若 者 に 「めずらしいことば」 と言われたことがある。 日本は儒教文化圏を構成する一員であるし、 日本 語のものは中国語のそれを漢字とともに受け入れたので意味的にかなり一 致 し ているが、 それでも日本の社会と結びついて実用的に理解し、 日本独 自の文化と融合したので概念のずれや各徳目の比重の違いがある。 たとえ ば 、 中 国 の 「忠」 は皇帝や国家に対するものだが、 日本の場合、天 皇 • 国 家 組 織•
主 人‘
親分に対する広い概念となっている。ま.
た 中 国 で は 「忠」 よ り 「孝 」 が重ん じ ら れ る が 、 日 本 で は 「孝」 よ り 「忠」 が重んじられる ように思われる。 日本と中国は、歴史から見れば同じ東アジア文化圏に所属し、農耕文化 によるつながりが繩文時代からある。 とくに農耕文化に根ざしている儒教 思想が中国の漢時代より日本に伝わってきて貴族連合国家と氏族社会の価 値体系 と な っ た 。 そ う い っ た 価 値 体 系 に 特 色 づ け ら れ た 「冠位 十 二 階 」や 後 世 の 「士農工商」 などの身分階層制度が強く人間関係とそれを結びつけ る言語行動に影響を与えつづけてきたのである。曰中両国の敬語はそういっ た社会構造と人間関係の中で育ってきたのである。 儒教文化はヨーロッパのキリスト教文化そのものと神との関係に精神的 平衡を求めるのとちがって共同体内外の人間関係に精神的平衡を求めるの である。 それは、敬語が欧 米 で は な く 、中 国•
朝 鮮 • 日本で発達してきた 原因の一つであると思う。常 に人と協力し、.人との関係に気を使ったりエ 夫をしたりしなければならない文化は、必ず人間関係を結びつけるのに必 要な言語形態を生み出すのである。 それは敬語と敬語表現である。 もちろ ん 、 どこの国でも敬語表現が存在しているが、中でも東アジア諸国の敬語 表 現 の 発 達 と 存 続 に 、儒教文化が温床のような役割を果たしてきたことが 考えられ る の で あ ろ う 。そうした共通の儒教文化が中国語と日本語の敬語表現の生成と発展に役 立ち、またその相違点によって日中両語の敬語表現がそれぞれ異った様態 を呈したのである。 このように考えると、言葉を十分に理解するには、その源泉となる生活 環 境
•
様式および人間関係と、人間と物の関係における価値体系もある程 度理解する必要があるように思われる。それは社会言語学の課題であるば かりでなく、 日本語教育と中国語教育においても重要なボイントではない かと思われる。本稿では、主として曰中両国の敬語表現と両国に共有して いる儒教文化の変容について考えてみたいと思う。その上で日本語教育と 中国語教育につ い て いくつか提言してみ た い 。 2. 日中両語の敬語表現と儒教文化(1
) 日中両語の敬語表現 日中両語の敬語表現を捉え、そして文化との関連を考えるには、敬語表 現 の 機 能 種 類 (尊 敬•
謙 譲•
丁寧など) と 形 態 構 造 (人 称•
選 語.
接 辞•
構文)2)
の両面から歴史的に考察する必要があると思う。まず日本語の敬語 表現につ い て考えてみよう。 宮地裕氏の考察⑶によれば、 日本語の敬語の機 能種類の分化と発展は次表のようにまとめられて いるが、 しかし、古代文献資料の数および敬語の 使用範囲と量に限られてその変化はつかみにくい ところがあるし、各種類の量的変化が観察しにく い弱点もある。たとえば、上 代 の 資 料 が 『大宝律 令』 『古事記』 『風土記』 『日本書記』 『懐風藻』な どに限られ、記述者と記述内容がどれだけ当時の 言語実態を反映しているか研究する余地はかなり 日中敬語表現と儒教文化一日中両語教育への提言一 表 I 美 化 語 丁寧 語 丁 重 語 謙 譲 語 尊 敬 語 上 代 X X X 〇 〇 中 古 X A 〇 〇 〇 中 世 A 〇 〇 〇 〇 近 世 〇 〇 〇 〇 〇 現 代 〇 〇 〇 〇 〇 - 20-言 語 と 文 化 第3号 1990年 (王 鉄 橋 ) 残っている。一方、上古時代は中国から伝来した儒教文化が主として皇帝 や上流社会に入り、 そうした背景に生れた文献は貴族と上流社会の生活様 態を反映したものであり、それは社会全#:の人間関係を反映する敬語表現 であるかどうかも課題をのこしている。 また、近世後期、江戸敬語の発展 と欧米語の影響もあって構造的にどのような変化がおこっ'たか定かではな い。いずれにせよ、敬語表現が出揃ったのは近世である。近世はまた日本 の儒教文化の全盛期である。近世前期の上方敬語が上流社会から町人• 遊 女など庶民社会へ普及されていくとともに、儒教文化も江戸時代において 支配層から武士道を通して町人文化と結びつき、社会全体に広められていっ たことに注意すベきである。つぎに日本語敬語の成熟期である近世の敬語 表現を考えてみよう。 近世における敬語をまとめれば次表⑷のように示すことができよう。 表 II - 21 -人 称 的 敬 語 表 現 尊 称 貴 下.貴 殿.御 辺.尊 下.貴 方•貴 公•貴 君.貴 兄•貴 様•御 自 分• 貴 所. 足 下.尊 兄•尊 君 .尊 公 謙 称 小 生•僕 .余 .拙 者•下 拙•朕 •わ たくし •てま え 他 称 あ の さ ん. か の さ ま. あなた•さま 選 語 的 敬 語 表 現 敬 語 お ぼ す. お ぼ し め す. ご ら う じ る. ご ら ん な さ る. お ほ せ ら れ る• お っ し ゃ る. およる(寝).げ し な る.お や す み•おひなる(起きる)• きこしめす(食)•め し あ が る• あ が る•めす(着.乗 )•おこし(行• 来.有 )•お は こ び. お ひ ろ ひ. みえる(来).わせる(有.行 •来)• こ さ る•お じ ゃ る•お り ゃ る•お り な い•おいでなさる•いらっしゃ る. ご ざ ん す.お い で る. た ま ふ. た ま は る. た も る. く だ さ る. く だ さんす• くだんす• あ そ ば す
•
なさる•
めさる• さっしゃる 謙 語 存 ず•存 ず る•拝 見 す る• うけたまはる. うかかふ(聞)•もうしあぐ る.いただく(食) •くださる.まゐる.参 ず る. あがる•うかがふ(行)• は べ り•さ う ら ふ. お め に か か る•か し こ ま る. たてまつる(与)•日中敬語表現と儒教文化一日中両語教育への提言一 選 語 的 敬 語 表 現 謙 語 ま ゐ ら す• おまする(与 )• 進 ず る•進 ぜ る• あ げ る. さ し あ げ る• たまはる(もらう).いただく . くださる.頂 戴 す る. おめにかける. 御 覧 に い れ る• お み み に 入 れ る•つ か ま つ る • いたす 丁 寧 語 存ずる(思 )• ま う す. いただく(食). た べ る• まゐる(行 .来 ).つ か ま つ る. い た す. さ う ら ふ. ご ざ る. ご ざ り ま す. ご ざ い ま す• ござんす 構 文 的 敬 語 表 現 敬 語 で いらっしゃる. ていらっしゃる. た ま ふ.(て)た ぶ.て た まは る. て た も る. てくださる.御〜くださる.てくださんす.てくだんす• 御 〜 あ そ ば す• め さ る•御 〜 め さ る• さ っ しゃ る. さします•なさ る.御~な さ る. (さ)せ た ま ふ. (御 )〜 あ り• (御 )~あ る• (御 )〜 な し• (御 )〜 な い• (御 )〜 や る.御〜になる 謙 語 ま う す•御 〜 ま う す•御 〜 ま う し あ ぐ る• た て ま つ る• ま ゐ ら す- ておます • て 進 ぜ る• て あ げ る• て さ し あ げ る•御 〜 い た す • てい ただく •てをる 丁 寧 語 (に )さ う ら ふ• (で)ご ざ り ま す• (で)ご ざ い ま す• (で)ござんす 敬 語 ら る. らるる. れ る. ら れ る.(さ)せ ら る•(さ)せ ら れ る. (さ)しゃ る. (さ)し ゃ る る• (さ)し ゃ ん す• (さ)ん す•や し ゃ る .や し ゃ ん す•や さ ん す•や ん す• な ま す • なんす 謙 語 御 〜 ぢ ゃ•御 〜 だ.御 〜 で ご ざ り ま す.御〜でございます で す• ま ら す る• ます(る)•や ん す • やす |敬 謙 . 丁 寧 | 御+名詞+形容詞(御心苦し)•御+形容詞(御恋し)•御+準名詞(御 幼 稚 ).御+副詞(御 ち と) 接 辞 的 敬 語 表 現 敬 語 一 お、-お み. お ん.み*貴. ぎよ(御 )•玉• ご(御 )• 尊.高 • 芳 謙 語
1
愚• 小•寸 •拙•微 • 弊 敬 謙 語 う え• が た• ぎ み• さ ま. さ ん.た ち. ど の. 君.兄.御. ご ぜ ん. ごぜ(御 前 ).子 •氏• ど も.め• ら .前表は近世前期の上方敬語と近世後期の江戸敬語を合わせ
T
まとめたも のである。近 世 前 期 の 上 方 敬 語 は 封建社会の様相を反映し、武 士•
町 人•
遊女などの身分と男女の違いによって表現形式がさまざまに分かれてきわ めて特色のあるものとなり、現代日本語の敬語の原型となったのである。 その後、政 治 文 化 の 中 心 が 大 阪 •京 都 か ら 江 戸 に 移 る 歴 史 背 景 が あ っ て 上方敬語が江戸語と結びついて相互補完という一層の発達と普及を見せて いた。つ ま り 、上方語には尊敬語を豊富にする傾向が見られるのに対して 江戸語は謙譲語を豊かにする傾向があった。⑸ このように、幕末になって上方敬語に江戸敬語が加わって江戸敬語の表 現機能を生かして助動詞や補助動詞などの構文的な敬語表現が発達してき たのである。例 え ば 、上 方 敬 語 の 代 表 的 な 「れる」「られる」「ある」「やる」 「やす」 などに加え、江 戸 敬 語 の 接 頭 語 「御 (お•
ご )」などと補助動詞の 「お〜になる」 「お〜やる」 「お 〜 い た す 」 などが発達して、普及しやすい 形態となってきた。 そして敬語を使用する階層と範囲が大幅に拡大され、 儒 教 文 化 に よ る 社 会 の多重的階層と身分制に拍車がかけられ、 日本語の敬 語はその成熟期を迎えるようになったのである。 明 治 からの近代日本語の敬語は、天皇制に よ る 集 権 化 、身 分制度の廃止、 経 済 交 通 の 発 達 、教育の国家的統制によってかなりの変化が起こった。方 言的な敬語の一部と遊里語にもとづいた敬語表現及び一部の人称的敬語表 現 が す た れ る 傾 向 を 見 せ た が 、一 方 で は 、構 文 的 敬 語 の 増 加 が あ り 、 また 語によって使用率の増大もあるので総量的にはたいした変化がなかった。 もちろん文体は言文一致運動によって転換はされたが、敬語表現はもとも と庶民文化に根をおろしていたし、一 方 、天 皇 制 の 確 立 、新 し く 華 族 •士 族•
平 民 な ど の 区 別によって敬語の使用は一層厳然となり、 また教育の発 展にともなって敬語が一層普及される下地があった。 ところが、昭和二十年の敗戦後の社会民主化の影響によって天皇に対す 言 語 と 文 化 第 3 号 1990年 (王 鉄 橋 ) - 23-る 敬 語 の 簡 略 化
•
勅語や天皇の言葉の普通化などの現象と、伝統的な農業 社 会 が す た れ 、家族の核家族化がすすむことによって敬語の簡素化の現象 が見られるようにな っ た の は 事 実 だ が 、 そ れ と 同 時 に 近 代 産 業 • 商業の発 達と都市化の発展にともなって社内敬語の訓練と商業敬語の多用によって 敬語の使 用 量 の 減 少 が 見 ら れ な い 。 とくに商業敬語における複雑な構文的 敬 語 表 現 (休 業 さ せ て い た だ き ま す •毎 度 ご 来 店 い た だ き ま し て ま こ と に あ り が と う ご ざ い ま す 。 お先に失礼させていただきます、 など)がむしろ 発 達 する傾向も見せている。⑹ 以 上 、見てきたように日本語の敬語表現は近世に入ってその機能種類が 出揃って、明治から現代敬語となって各種類の敬語表現は量的にたいした 変 化 を 見 せ ず 、構造的には一部選語的敬語表現や人称的敬語表現の減少と、 構 文 的 敬 語 表 現 の 増 加が見られたのである。 つ ぎ に 、 中国語の敬語表現を考えてみよう。 中国語の敬語は封建官僚体 制 下 の 文 語 体 の 古 代 敬 語 と 清 末•
辛 亥 革 命 • 五四運動以後に文語体敬語と 白話文敬語の並存期と社会主義革命後の現代中国語の敬語とに分けられる。 中国語の古代敬語は人称的敬語表現と接辞的敬語表現および選語的敬語表 現 に 表 わ れ て い る 。 全体として 人 称 的 敬 語 が 圧 倒 的 に 多 い 。 それが中国の 儒 教 思 想 の 「名分 」 「上下」 「長幼」 とかかわってい る 。 しかし、皇室を含 む文人官僚制による国家体制の中で使われている文語体敬語が一般庶民に あまり普及されなかったことは日本と異ったところである。 中国現存の歴 史文献は殆んど文語体のものである。 その概略を眺めてみると、つぎのよ うなものがあげられるであろう。 人 称的敬語としては、対 称 の 場 合 に ① 地 位•
爵 位•
身分によるもの、 た とえば、「万岁 」 「千岁」 「大夫」 「公子」 「君」 「卿」 「公」 「大人」 などがあ る。② 美 徳•
教 養 に よ る も の 、たとえば、「子」 「先生」.
「叟J
等がある。③ 相 手 の 地 を 尊 称 と す る も の 、た と え ば 「陛下」「足下」「閣下」などがある。 日中敬語表現と儒教文化一日中両語教育への提言一 - 24-自称する場合に①自分の名を称する。たとえば、孔 子 は 「丘也幸,苟有過, 人必知之」(論 語 述 而 )と言ってい る 。② 自分の品性を低めるもの、たとえ ば 、「不徳」「寡人」 (寡徳 の も の )「不穀 」(不 善 )などがある。③自分の地 位 を 低 め るもの、例 え ば 、「下」「賤」 「貧」 に よ る 「下走」 「賤子」 「貧道」 「小人」 などがある。他称 の 場 合 に 、人の字を使 う 。例 え ば 、「子 夏 」 「子 貢」「子卿」 な ど がある。 選 語 的 敬 語 表 現 は き ま り 文 句 と 化 し た 賛 辞
•
祝 辞 に多く見られる。 たと えば、「皇 恩浩蕩」 「威望風施」 「莫名頌祷」 「仰慕徳風」 「高瞻遠瞩」 「遙瞻 光霽」 「松 齢鶴算」 など、数え き れ な いほど例がある。 接 辞 的 敬 語 表 現 に は 上 述 の 「賤」 「貧」 「小」 を含め、表I I
に見る例が多 く見られる。 しかし、古代敬語が庶民層に広められたものはまれである。近世の白話 文 の 文 学 作 品 (石 頭 記•
西 遊 記•
水 滸 伝 な ど )を捜しても、「父親大人」「母 親大人」「官人」「兄長 」「客官」「妾」「奴」 「小人 」「小女」 などに限られる ようである。
’
しかし、この一般庶民の白話文における敬語表現は主として家族•
宗 族•
村落集団での親族名称の面で発達してきたもので、現代中国語の敬語表現 を特徴づけているのである。例 え ば 、「父親大人」 「母親大人」 「伯 父 大 人 」 「婶娘」「舅父」「姑母」「姨母」「姨夫」 「叔父」 「ニ嫂」 「張大姐」 「李 大 哥 」 というようなものが、家 族 • 宗族と近所づきあいなどの人間関係に一番多 く使われてい る 。 また、古代敬語の脈絡を引いた文語■
の敬語表現が、戦前 の 上 流 社 会 、 文 人•
商人社会の敬語として存在していた。例 え ば 、「令尊」「令 堂 」「令姐」 「令兄」「令妹 」「尊夫人」「令 岳 父•
母 」「家父」「家母」「舍弟」「賤内」「愚 妻」 などと、「拝」 「奉 」 「謹」 「敬 」 「恵」 「賜」 「台」 「敢」 などをかぶせた 動 詞 な ど が あ っ た(表III
參 照 )が 、新中国が成立してから台湾と一部の年 言 語 と 文 化 第 3 号 1990年 (王 鉄 橋 ) 一 25 —日中敬語表現と儒教文化一日中両語教育への提言一 配の知識人の書簡のほかは、殆んど使われなくなった。 表III 尊 敬 語 貴一貴国
•
貴 校•
貴姓•
貴方•貴庚 高一高兄•
高寿•高徒 大一大作•
大 名 • 大駕 令一令尊•
令 堂•
令 郎•
令 爵•
令 兄 • 令妹 贤一贤弟•
贤 妻•
贤侄 • 贤婿 尊一尊姓•
尊 府•
尊 駕•
尊夫人• 尊师 宝一宝地•宝眷 雅一雅教•
雅意•雅兴 台一台甫•
台蜜•台兄 賞一賞光•賞収 光一光临• 光顾 恵一恵贈•
惪顾•惠临 謙 譲 語 贱ー贱姓•
贱恙.
贱 内 . 贱荊 敝—
敝姓 . 敝处 鄙一鄙人•
鄙 意 . 鄙见 舎—
舍 弟.
舎 妹 . 舎侄 家一家父.
家叔. 家母 愚一愚见•
愚 兄. 愚妻 拙一拙见•
拙 作•
拙 著 • 拙笔 小一小弟.•
小 人 • 小女 拜-
拜 托•
拜 会.
拜 访•
拜 见.
拜 別.
拜 读 • 拜请 丁 寧 語 奉ー奉陪•
奉 劝•
奉 告•
奉 还 . 奉送 現代中国語の敬語表現として北方の白話文を基礎にしてできた普通話に 生きつづけてい る の は人 称 • 親族名称や一部の接辞的表現および近代から 欧米言語の影響で新しく出現した「您」「地」など人称的表現と顕著に増え - 26-言 語 と 文 化 第 3 号 1990年 (王 鉄 橋 ) てきた構文的敬語表現、例 え ば 「能不能请您〜」「是不是可以让我〜」など である。 要 す る に 、中 国 語 の 敬 語 は 古 代 敬 語 で は 敬 謙 度 の 高 い 皇 室 • 官僚層の敬 語表現 が 多 い が 、現代中国語の敬語では親族名称などの敬語表現が多い。 古 代敬語には敬語と謙語が併存したのに対し、現代敬語には尊敬語がある が 、謙譲語が少ない。 歴 史的に見れば、 中国語の敬語は日本語の敬語より 変 化 が激しいようである。
(2
) 日中両国の儒教文化 中国と日本は同じく儒教文イ匕圏に属しているので、い う ま で も な く 政 治•
経 済•
文 化 (言 語 を 含 む )の面で共通するところがある。 たとえば、歴史 上 の 身 分 制.
階 級 制 お よ び 家 族 的 人 間 関 係 (共 同 体 意 識 な ど )がその例で ある。 それらを反映する敬語表現にも人称的敬語や接辞的敬語の相似性を 持 っ ている。一 方 、歴 史 •文 化 の 構 造 と 発 展 は 様 態 が か な り 違 う の で 価 値 観の 相 違 も当然なごとである。 そういった相違はいうまでもなく敬語のあ りかたに影響を及ぼすわけである。a
. 国家倫理と家族倫理 中国では家族を単位とする小農民の生産様式によって家父長を中心とす る家族ないし宗族体制が秦前から整っているし、 また異民族の侵入や王朝 交代による不安状態がくりかえされた中で血緣関係の家族が一番たよりに なるものと価イ直づけられ、「孝 」 「悌 」 「慈」 「愛」 による家族倫理が発達し てきた。一 方 、王朝の建立と 維 持 を す る た め に 、支配層によって皇帝を中 心とする国家の統一と安定が強調され、儒 教 の 「忠」 による国家倫理も発 達 し て き た 。 中国では歴史を通じてそういった家族倫理の秩序と国家倫理 の秩序が並行して存続してきたのである。家族の中では家父長を中心にし日中敬語表現 と儒教文化一 日中両語教育への提 言一 て 家 族 成 員 が 長 幼 ・男 女 ・尊 卑 に よ る上 下 の 関 係 が 親 族 名 称 どお りに和 か で 自然 に保 た れ て い る。 国家(皇 帝 と臣 ・臣 と臣 の 間)で は 、皇 帝 が 絶 対 的 な権 威 を持 っ て 官僚 た ち に一 方 的 に 忠 誠 をつ くす の を求 め 、倫 理 的 規 範 も厳 し く要 求 し、位 階 体 制 に よ る上 下 秩 序 が 厳 然 と して い た。 しか し、 官 僚 層 が 朝 代 の 交 替 に よ って 非 常 に 不 安 定 な こ とか ら、 在 職 の うち に 家 族 や 宗 族 の た め に 蓄 財 した り職 権 乱 用 し た り して 国 家 と農 民 は常 に対 立 す る状 態 で あ っ た。 官 僚 た ち は 農 民 と農 民 の 組 織 を教 養 の な い 「暴 民 」「乱 党 」 と 見 る が 、 農 民 た ち は 官僚 た ち を 口だ け う まい 「偽 善 君 子 」 と呼 ん で い た。 官 僚 階 層 は 言 語 行 動 をか な り慎 しみ 、文 献 的 な教 養 を表 わ す 文 語 的 敬 謙 語 を う ま く運 用 して い た が 、 農 民 た ちに は そ ん な 「教 養 」 が な いか ら家 族 と 組 織 で は世 代 年 令 に よ っ て 親 族 名 称 をつ け 、 宗 族 的 秩 序 を保 っ て い た の で あ る 。 だ か ら官僚 体 制 の 中 の 型 どお りの敬 語 表 現 が 公 の場 や 官 用 文 書 に は 使 わ れ て も官 僚 自身 の家 族 に は 入 りに くい し、 ま して庶 民 の 家 族 に は 普 及 され る は ず は な か っ た の で あ る。 そ うい っ た 文 化 背 景 に お い て は 、 中 国 語 の敬 語 表 現 の特 徴 は 次 の三 点 が 捉 え ら れ る で あ ろ う。 ① 文 人 や 文 人 官僚 に記 され た文 献 ・書簡 や 、使 用 さ れ た文 語 的 言 葉(官 話)に 敬 語 が 多 く見 ら れ る が 、一 般 庶 民 ・農 民 の 話 し 言 葉 に は親 族 名 称 以 外 、 あ ま り使 わ れ な い こ と、 ② 中 国 の 家族 と宗 族 体 制 が 発 達 して き た結 果 、 中 国語 の 敬 語 表 現 に 親 族 名 称 が 細 か く区分 さ れ て 広 く活 用 さ れ て い る こ と 、③ 家 族(親 族)に つ いて は相 対 敬 語 が 行 わ れ る が 、 会 社 や 組 織 内 で は あ ま り行 わ れ な い こ とで あ る 。 日本 で は純 粋 た る家 族 倫 理 もな い し、 厳 然 た る 国 家 倫 理 もな い 。 血 縁 関 係 に よ る家 族 を拡 大 して 必 ず し も血 縁 関係 で な い 利 益 と権 力 を結 合 した 家 族 的集 団 の 倫 理 で あ った 。 こ の よ うな集 団 と集 団 に 所 属 す る 人 び とが そ の 中 で世 襲 的 な 身 分 を持 ち 、そ れ ぞ れ そ の 身分 に あ う言 葉 づ か い 、 つ ま り尊 貴 ・謙 卑 の 身 分 に あ う尊 敬 語 と謙 卑 語 を選 ば な け れ ば な ら な い。 そ うい っ 一28一
言語 と文 化 第3号1990年(王 鉄 橋) た 倫 理 ・価 値 観 が鎌 倉 時代 か ら室 町 時 代 を通 じて江 戸 時代 前期 に な って 言葉 に 反 映 して 上 流 社 会 の敬 語 か ら武 家 社 会 を通 して 町 人社 会 の 敬 語 へ と普 及 し 、 また 「タ テ」 と 「ヨ コ」 の 人 間 関 係 に よ って 社 会 の 各 階 層 まで い きわ た っ て い っ た の で あ る(7)o方 、 日本 人 の 自然 と物 に対 す る崇 拝 心 理 に加 え て 日本 語 の 敬 語 は繊 細 な 姿 と と もに 、多様 な機 能 へ と発 達 して きた の で あ る。 また 、 日本(と くに徳 川 時 代 の 日本)の 支 配 階 層 は 文 人 に よ る もの で は な く、 武 士 や 武 士 出 身 の 将 軍 ・大 名 と な っ て い た の で 中 国 の 文献 的 教 養 し か な い官 僚 と ちが っ て武 士 の 倫 理 は儒 教 的 なが らか な り実 務 的 な もの で 、 実務 的 な もの が 労 働 階 級 の 町 人 ・農 民 層 に 入 りや す い傾 向 が あ っ た 。ま た 、 江 戸 時 代 の 町 人階 層 の財 力 的 発 展 に よ っ て 武士 や 大 名 と町 人層 との 関 係 が 密 接 化 す る こ と も敬 語 表 現 の低 層 化 に機 能 して い た と考 え ら れ る。 以 上 の よ うな文 化 的 背 景 に よ っ て次 の よ うな 日本 語 の 敬 語 表 現 が 特 徴 づ け られ たの で あ ろ う。 す な わ ち 、① 中 国 の よ うな厳 然 た る家 族 ・宗 族 体 制 で は な い の で 親 族 名 称 を区 分 し て使 わ れ て い る が 中 国 ぼ ど細 分 化 さ れ て い な い 。 ② 拡 大 家 族 の 普 遍 化 に よ っ て 家 族 内 だ け で な く社 会 全 体 の 敬 語 表 現 を相 対 化 して い る。 ③支 配 階 層 や 文 語 的 敬 語 に 限 らず 、社 会 各 階 層 に も話 し こ とば に も敬 語 表 現 が 遍 在 して い る。 b.中 国 の 「倒 皇 」 と 日本 の 「尊 皇 」 日中 両 国 の近 代 化 に と もな っ て 人 間 関 係 の 構 造 が 変 り、 そ の 変 化 は 言語 に 反 映 され て い る。 日中 両 国 の 近 代 史 が 辿 っ た 異 っ た道 は 、 社 会 の転 換 に 影 響 を与 え た ば か りで な く、 そ れ ぞ れ の敬 語 表 現 を特 色 づ け て い る こ と も 考 え られ よ う。 中 国 は 、近 代 に お い て 資 本 主 義 文 化 が 強 制 的 に輸 入 され 、辛 亥 革 命 が 起 っ た 。 政 治 上 、皇 帝 を中 心 とす る封 建 官僚 体 制 の 不 平 等 な 階 級 ・身 分 制 度 が 打 破 られ 、意 識 上 、 自由 ・平 等 ・博 愛 が 提 唱 さ れ て い っ た 。 さ らに 中 国 の 一29一
日中敬語表現 と儒教文 化一 日中両語教育への提 言一 伝 統 文 化 を徹 底 的 に否 定 し よ う とす るマ ル クス 主 義 者 左 派 の思 潮 も あ っ た の で 、 あ ま り深 く庶 民 に浸 み 込 ん で い な い皇 室 ・官僚 層 の 文 語 的敬 語 表 現 が た ち ま ち消 えて い っ た の で あ る。 中 国 人 の 意 識 転 換 が 今 世 紀 初 期 か ら始 ま っ て い たの で あ る。 毛 沢 東 の 労 農 革 命 に お い て も、 「官 兵 一 致 」(官 兵 平 等)「 幹 群 一 致 」(幹 部 と大 衆 の 平 等)を 提 唱 し て い た 。社 会 主 義 中 国 が 成 立 して 全 然 高 低 ・貴賤 の 別 の な い 「同志 」 と い う人称 的 丁 寧 語 が 広 く普 及 され た 。 しか し、「文 革 」 に よ っ て 毛 沢 東 の個 人 崇 拝 が 煽 られ 、社会 の人間 関 係 が 乱 され て しま い 、 また 、社 会 全 体 の 物 不 足 と相 俟 っ て だ ん だ ん政 治 力 に よ る権 力 や 、物 質 を管 理 す る権 力 が 価 値 づ け られ た の で 、 人 び との 間 で は 言 葉 の敬 謙 を慎 しむ こ とが 要 求 され て き た の で あ る。 例 え ば 、「文革」 前 は 「清mS我 解 决 一 套 房 子 。」(家 の 問題 を解 決 して くだ さ い。)と い う よ う な こ とば で通 せ る こ とで あ っ た が 、 「文 革 」 後 の 現 在 に な る と、 「李 科 長 、 是 不 是 能 清 恷 響我 在 会 上 提 一 下 房 子 的事?」(李 課 長 に 会 議 の 時 、私 の家 の 件 を ち ょ っ とふ れ て い た だ け ます で し ょ うか)と い わ な け れ ば 、相 手 は 目 も くれ な い で あ ろ う。 それ に対 し て 日本 は幕 末 の 時 、 国 学 を提 唱 し、 中 国 の儒 学 の 「忠 」 と合 致 して 政 治 上 「尊 皇 攘 夷」 の 運 動 を引 き起 して い た一 方 、軍事 や経 済上は 西 欧 か ら輸 入 して 高 度 集 権 的 な 国家 的 資 本 主 義 な い し軍 国 主義 に 発 展 して い っ た の で 人 間 関 係 は 自由 ・平 等 ・博 愛 よ りむ し ろ上 下 服 従 の 関 係 に な り 、 士 農 工 商 の 身 分 制 度 の か わ りに 、 華 族 ・士 族 ・平 民 な ど の新 しい 身 分 制 度 が 立 て られ 、 儒 教 倫 理 は 武 士 道 に 変 容 して 軍 隊 や 会 社 に 移 り、国家や上 司 へ の敬 畏 と献 身精 神 が 強 調 さ れ た 。 それが言葉 に反映 して もともと広 く存 在 して い た敬 語 表 現 が一 層 生 か され 、敬 語 表 現 の衰 退 を見 せ なか っ た。戦 後 に な っ て 天 皇 権 力 の低 下 、 民 主 化 の 推 進 な どが あ っ て は じめ て敬 語 簡 素 化 の 現 象 を 見 た。 日本 人 の 意 識 転 換 が 戦 後 か ら始 ま っ た の で あ るが 徹 底 し た もの で は な い よ うで あ る。 一30一
言語 と文 化 第3号1990年(王 鉄 橋) そ れ をみ る と、 敬 語 表 現 の 発 展 は社 会 構 造 と人 間 関 係 お よ び そ れ ら にか か わ る価 値 観 の 転 換 と決 して 無 関 係 で は な い こ とが理 解 さ れ よ う。 3.日 本 語 と中 国 語 教 育 へ の 提 言 あ る言 語 は 、 あ る 地 域 の 生 態 環 境 と歴 史 ・文 化 の 発 展 お よび 特 定 な 人 間 関 係 ・社 会 意 識 と と も に 因襲 的 に 、 また 言 語 自身 の発 展 規 則 に したが って 形 成 し発展 し て きた もの で あ る 。 そ うし た 中 で の敬 語 表 現 は 時 代 の社 会 構 造 と思 想 ・文 化 の 流 れ と密 接 な か か わ り を持 ち 、 そ れ に 大 き く左 右 され る もの で あ る。 換 言 す れ ば社 会 存 在(階 級 ・身 分 制 度 ・長 幼 親 疎)・ 社 会 意 識(階 級 意 識 ・価 値 観 な ど)と い っ た もの に よ っ て 人 間 関 係 に対 す る認 識 とそ の 認 識 に よ る 人 間 の 言 語 行 動 な い し敬 語 表 現 が 大 き く相 違 す る とい う こ とが 、以 上 の 考 察 で 、 あ る程 度 分 っ て くる で あ ろ う。 した が っ て 、 日本 語 と中 国 語 の研 究 に お い て は も ち ろ ん の こ と、 外 国 人 に 対 す る 日本 語 教 育 と外 国 人 に対 す る中 国語 教 育 に お い て も言 語 とそ の社 会 との 関連 を考 え な け れ ば な らな い 。 と くに 人 間 関 係 を反 映 す る敬 語 表 現 (広 く とれ ば 、待 遇 表 現)は 日本 語 の 教 育 上 重 要 な項 目の一 つ で あ る し、 外 国 人 に と っ て も難 点 の一 つ で も あ る。 日本 語 の敬 語 表 現 が 人物 と場 面 に 応 じて 適 当 に使 え る よ うに す るに は 、 日本 語 の 敬 語 の 背 後 に潜 ん で い る価 値 観 ・国 民 性 を知 っ て お く必 要 が あ る。 例 えば 、勧 誘 ・応 答 に お け る 「直 接 表 現 型 」と 「調 和 重 視 型 」の 報 告 が あ る(s)こ の よ うな 日本 の 拡 大 家 族(家 族 的 集 団)の 人 間 関 係 に お け る 「和 」意 識 の 価 値 観 と、中 国 の家 族 内 の 「甘 え 」 や 国家 との 対 立 の 背 景 が 分 れ ば 、 学 生 も 日本 語 の こ の特 徴 に 気 をつ け な が ら意 識 的 に 勉 強 して い くで あ ろ う。 日本 語 の 相 対 敬 語 と中 国 語 の相 対 性 は 、 日本 と中 国 の 「内親 外疎 」 の 価 値 観 と両 国 の歴 史 的 な 流 れ に お い て 人 間 関 係 を知 っ て お か な け れ ば理 解 しに くい で あ ろ う。 中 国 の 親 族 名 称 が 複 雑 で あ っ て 単 純 に 覚 え る こ とは 難 しい が 、 中 国 の 親 族 系 譜 と宗 族 制 度 を 一31一
日中敬語表現 と儒教 文化一 日中両語教育へ の提 言一 知 って おけ ば 理 解 しや す くな る で あ ろ う。 ま た指 導 者 の 立 場 か ら そ の 言 語 表 現 の 背 景 と原 因 を知 っ て い れ ば 意 識 的 に 指 導 して い け るの で あ り 、その 言語 表 現 の 原 因 ・由 来 を付 け加 え て 説 明 す れ ば 、学 生 に も分 か りや す く、 深 く印 象づ け る こ とが で きる で あ ろ う。 言 語 と文 化 の 関 連 、 と くに 日 中敬 語 と儒 教 文 化 の関 連 は 社 会 言 語 学 の 重 要 な課 題 の一 つ で あ る。 ま た比 較 言 語 学 と比較 文 化 論 に期 待 す る こ と も 多 い。 日本 語 と 中 国語 の教 育 に お い て 文 化 に即 して 言 語 を学 び、 文 化 と関 連 して 言 語 を教zる こ とに よ っ て 、両 国 語 教 育 の レベ ル を新 しい段 階 に導 く こ とが で き る で あ ろ う。 日本 語 の学 習 と教 育 、外国語教育 としての 中国語 教 育 を経 験 して き た筆 者 は 、 今 後 の 日中 両 語 の教 育 の た め さ さや か な問 題 提 起 と して 以 上 の提 言 を させ て い た だ い た も の で あ る。 最 後 に本 稿 の 作 成 に あ た っ て 全 文 を 目 を通 した上 、 ご訂 正 い た だ い た本 学 言 語 文 化 研 究 所 研 究 員 田 中 寛 先 生 と、 原稿 の 校 正 に お 手 伝 い い た だ い た 本 学 言 語 文 化 研 究 所 の今 井 陽 子 様 に 謹 ん で お 礼 を 申 し上 げ る。 注 (1)陳 原 『社 会 語 言 学 』 の 第三 章 の 第三 節 に よ る 。 (2)王 鉄 橋 「現 代 中 国 語 の 敬 語 表 現 」 『言 語 と文 化 』(文 教 大 学 言 語 文 化 研 究 所1989年 第2号P25に よ る。 (3)宮地 裕 厂敬 語 を ど う と らえ るか 」 『日本 語 学 』(明 治 書 院1983年 第1 号)P9に よ る。 (4)この 表 は 辻 村 敏 樹 『敬 語 の 史 的 研 究 』(東 京 堂 出 版1976年)の 附 表 に も とつ い て 整 理 し た もの で あ る。 (5)田中章 夫 「近 世 敬 語 の概 観 」 『近世 の 敬 語 』(林 四 郎 ・南 不 二 男 編 ・明 治 書 院1973年11月)に 所 収P20に よ る。 一32一
言語 と文化 第3号1990年(王 鉄 橋) (6)宮地 裕 「敬 語 を ど う 捉 え る か 」 前 掲 論 文 に よ る 。 (7)全 日 坤 『儒 教 文 化 圏 の 秩 序 と 経 済 』(名 古 屋 大 学 経 済 学 部 附 属 経 済 構 造 分 析 資 料 セ ン タ ー)1983年P101に よ る 。 (8)劉 建 華 「勧 誘 ・応 答 に お け る 中 日言 語 行 動 の 比 較 」 に よ る 。 参 考 文 献 (1)林 四 郎 ・南 不 二 男編 『敬 語 講 座 ④ ・近 世 の 敬 語 』 明 治 書 院1973年11 月 (2ト ー 一 『敬 語 講 座 ⑤ ・明 治 大 正 時代 の敬 語 』 明 治 書 院1984年5月 (3)陳 原 『社 会 語 言 学 』 学 林 出版 社1983年8月 (4)鈴木 孝 夫 『私 の 言 語 学 』 大 修 館 書 店1987年7号 (5)長谷 川如 是 閑 『言 葉 の 文 化 』 中 央 公 論 社1943年 (6)荒木 博 之 『や ま と こ とば の 人 類 学 』 朝 日選 書 朝 日新 聞社1986年2月 (7)西尾 実 『言 葉 と生 活 』 毎 日新 聞 社1955年11月 (8)洪 樵 容 『尺 牘 探 求 』 二 松 学 舎 大 学 出版 部1984年5月 (9>王 力 『漢 語 史稿 』(上 ・中 ・下)中 華 書 局1980年 新1版 (10)宮地 裕 「敬 語 を ど う と ら え るか 」 『日本 語 学 』 明 治 書 院1983年1月 号 (11)津田 左 右 吉 『儒 教 の実 践 道 徳 』岩 波 書 店1938年6月 (12圧 鉄 橋 「現 代 中 国 語 の敬 語 表 現 」 『言 語 と文 化 』文 教 大 学 言 語 文 化 研 究 所1989年 第2号 (13)臼井 吉 見 編 『現 代 教 養 全 集10い きた 言 葉 い きた 文 章 』筑 摩 書 房1959 年6月 (14)北原 保 雄 編 『敬 語 』(論 集 日本 語 研 究9)有 精 堂1984年8月 ㈲ 劉 建 華 「勧 誘 ・応 答 に お け る 中 日言 語 行 動 の 比 較 『直 接 表 現 型 』 と 『謫 和 重 視 型 』 を め ぐって 一 『待 兼 山論 叢,日 本 学 篇 第18号 』 大 阪 大 学 文 学 部1985年1月 一33一