• 検索結果がありません。

育児支援プログラム「HUG Your Baby」の有用性 – 産後のアンケートとインタビューを通して–

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "育児支援プログラム「HUG Your Baby」の有用性 – 産後のアンケートとインタビューを通して–"

Copied!
11
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

育児支援プログラム「HUG Your Baby」の有用性

– 産後のアンケートとインタビューを通して–

Assessing the usability of the “HUG Your Baby”

parenting support program

柏 原 由梨恵(Yurie KASHIWABARA)

*1

新 福 洋 子(Yoko SHIMPUKU)

*2

堀 内 成 子(Shigeko HORIUCHI)

*3

抄  録 目 的

本研究は,妊娠期に新生児の行動を教える HUG Your Baby を受講した母親への質問紙とインタ ビューによってプログラムの有用性を評価することを目的とした。 対象と方法 本研究は質問紙調査とインタビュー調査を統合するプログラム評価研究である。質問紙データの記述 統計量を算出し,産後1か月と産後3か月の教材使用回数の差を分析した。インタビューは生後2~7か 月に半構成的面接を行い,Bowen et al.の介入研究の評価方法を参考に,需要,実用性の内容分析を 行った。聖路加国際大学の研究倫理審査委員会(承認番号:16-A052)の承認を受けて実施した。 結 果 質問紙調査は産後1か月と産後3か月の両方に回答した82名を対象とした。以下のすべての教材で産 後3か月の使用回数が有意に高かった:新生児の行動のDVD(p<0.001),新生児の行動のリーフレット (p<0.001),母乳育児の道のりのリーフレット(p<0.001),おくるみ(p=0.001)。教材のわかりやすさ を比較し有意差が認められたのは新生児の行動のDVD(p=0.032)と母乳育児の道のりのリーフレット (p=0.009)であった。 インタビューによる需要の評価では,多くの母親が育児は大変というイメージをもっていたことか ら,タイトルにポジティブなメッセージを感じ,育児を楽にしたいという気持ちを抱いていた。実用性 の評価では,育児のコツを取得することで児の泣きへの対応,授乳や寝かしつけができたこと,育児体 験談に助けられたこと,教材で家族と情報共有ができたことが語られた。 結 論

HUG Your Babyは母親たちの需要に即し,新生児の行動を理解し対応すること,家族の育児サポー トを得る側面からも教材の実用性は高く,その教材は育児期を通して繰り返し使用されることでわかり

2019年10月14日受付 2020年2月11日採用 2020年6月9日早期公開

*1社会福祉法人聖母会聖母病院(International Catholic Hospital)

*2広島大学大学院医系科学研究科(Hiroshima University, Graduate School of Biomedical and Health Sciences) *3聖路加国際大学看護学研究科(St. Luke's International University Graduate School of Nursing Science)

(2)

やすさが増し,プログラムの有用性が示された。

キーワード:妊娠期教育,育児,育児支援,育児体験,プログラム評価

Abstract Purpose

The HUG (Help-Understanding-Guidance) Your Baby program is designed to support parents with a newborn baby. This study aimed to evaluate the usability of the program through 1) questionnaires on class contents and use of learning materials, and 2) interviews on parenting experiences of those who participated in the HUG Your Baby program during pregnancy.

Participants and methods

This study is a program evaluation study that integrates findings from questionnaire data and qualitative inter-views. Descriptive statistics of the questionnaire data after the program during pregnancy, 1 month postpartum, and 3 months postpartum were calculated, and differences between 1 month postpartum and 3 months postpartum were analyzed. Semi-structured interviews based on the evaluation method of the intervention study by Bowen et al. were conducted 2 to 7 months after the birth of the baby.

Results

The questionnaire survey included 82 participants who responded both at 1-month postpartum and at 3-month postpartum. In terms of the frequency of use of learning materials, use of the following materials was significantly higher in the 3 months after delivery: newborn behavior DVD (p<0.001), newborn behavior leaflet (p<0.001), breastfeeding leaflet (p<0.001), and swaddles (p=0.001). In comparisons of the comprehensibility of the learning materials, significant differences were found between the newborn behavior DVD (p=0.032) and breastfeeding leaflet (p=0.009). More than 90% of mothers answered“I would recommend” or “I would highly recommend” HUG Your Baby to other people.

With regard to demand, in the interviews, many mothers reported that they had expected parenting to be diffi-cult; however, they considered the title“HUG Your Baby” to be positive and reassuring. They wanted to love their children without stress and to make parenting easier. With regard to practicality, in the interviews, participants de-scribed the following benefits of the program: being able to respond to the child's crying, breastfeeding and cuddling according to the sleep pattern of the newborn; being helped by parenting experiences; and being able to share learning materials with other family members.

Conclusion

The program HUG Your Baby is highly usable in terms of meeting parents' needs regarding understanding and responding to the newborns behaviors. The learning materials were useful for obtaining support from other family members, and their comprehensibility increased as they were repeatedly used.

Key words: antenatal education, parenting, parenting support, parenting experience, program evaluation

Ⅰ.緒   言

日本では,未婚率の上昇や晩産化よる少子化の進行 に加え,核家族化や地域のつながりの希薄化により, 産後の母親が育児不安を抱えやすい状況である(厚生 労働省,2015a)。また,母親の育児不安は,妊娠,出 産を通してマタニティブルーや産後うつなどの精神的 に不安定な状況につながりやすく,養育能力の低下や 児への虐待,児の精神発達障害と関連することが国内 外で報告されている(厚生労働省,2014a)。厚生労働 省(2015b)によると,児の虐待死の原因は,「保護を 怠ったことによる死亡」が 6 人(16.7%)と最も多く, 次いで「しつけのつもり」,「子供の存在の拒否・否 定」,「泣き止まないことにいらだったため」がそれぞ れ 4 人(11.1%)であった。小さい子どもの泣きに対 し,抱いてあやすという経験のないまま子育てを開始 する母親も多い。児の泣きにうまく対処できないこと は,母親の育児不安や自信の喪失につながるといわれ ている(堀越他,2016)。 平成 27 年から実行されている「健やか親子 21(第 2 次)」でも,上記に関連する 1)育てにくさを感じる親 に寄り添う支援,2)妊娠期からの児童虐待防止対策 を重要課題として掲げている(厚生労働省,2014b)。 方策の一つとして父親の育児参加の促進があるが,先 行研究では,父親の育児参加への満足度が高いほど, 母親の育児困難感は有意に低くなること,父親の育児

(3)

参加を促進するためには,夫婦間のコミュニケー ションを目的とした支援が必要であることが示されて いる(佐藤,2010)。 「HUG(Help-Understanding-Guidance)Your Baby」は 米国ノースカロライナ大学メディカルセンター, ファミリーナースプラクティショナーのJan Tedder氏 によって開発された産後早期の育児をサポートするプ ログラムであり(新福他,2013),これまでにNICUの 看護師と父親のコミュニケーションを促し,父親の育 児の知識の向上とストレスの減少に寄与したと報告さ れている(Kadivar et al., 2013)。 日本では,2013 年に Tedder 氏を迎えた医療者や学 生を対象としたセミナーが開かれ,本プログラムの有 用性や日本の文化における効果について高い評価が得 られている(新福他,2013)。日本での本プログラム の実施にあたり,妊婦と家族が共に参加することを促 し,妊婦とその家族が児の行動を正しく理解し,出産 後に肯定的な育児行動を継続することができることを 目的とした。本プログラムを受講者の視点から評価す ることにより,実際にどのような効果があったのか, もしくはどうした配慮や工夫が必要かを示す必要があ る。

Ⅱ.研 究 目 的

本研究の目的は,妊娠期に HUG Your Baby を受講 した母親のクラスの内容や教材の活用に関する質問紙 の分析と育児体験に関するインタビューによってプロ グラムの有用性を評価することである。

Ⅲ.研 究 方 法

1.研究デザイン

本研究は,育児支援プログラム「HUG Your Baby」 に受講した母親を対象とし,プログラム実施後に取得 した質問紙データの分析とインタビュー調査を統合す るプログラム評価研究である。 2.研究対象者 妊娠 25 週以降の妊婦で,研究に同意しクラスに参 加した対象に質問紙調査を実施した。クラスを受講し 出産した育児中の母親にインタビューを依頼した。初 産婦と経産婦を含めてプログラムを試行した際,初産 婦も,一般的に新生児の対する知識のあると考えられ る経産婦からも「役に立った」と評価があったため, 初産婦・経産婦を限定せず募集した。 3.調査期間 質 問 紙 調 査 は 2015 年 7 月~2016 年 2 月, イ ン タ ビュー調査は,2016年10月~11月であった。 4.HUG Your Baby育児支援プログラムの概要 1)目的

HUG Your Babyは,妊婦とその家族が児の行動を 正しく理解し,出産後に肯定的な育児行動を継続する ことができることを目的としている(新福他,2016)。 タイトルの HUG は,Help(助け),Understanding(理 解),Guidance(ガイダンス)の頭文字を取ったもので ある。 2)プログラムの内容 本プログラムは,前半後半の 2 部構成で,2 時間実 施した。前半に HUG Your Baby のオンラインコース を修了したインストラクター(看護師・助産師)から 育児に使える2つのスキルの講義を行った。詳細は飯 田他(2017)に示されているが,1つ目は,新生児のス テートの簡易的な表現である「ゾーン」を理解するス キル,2つ目は新生児が示すSOS(Sign of Over-Stimu-lation;刺激過多のサイン)を読み取るスキルであり, それらによって新生児の行動の理解を促す。クラスの 後半ではおくるみと赤ちゃん人形を一組ずつ配布し, 妊婦やその夫がおくるみを巻く練習を行った。使用し たおくるみの大きさは一辺120cmの正方形で,素材は 通気性に優れ,柔らかいモスリンコットン100%であ る。また,クラスの最後には特別講師としてオムニバ スに依頼をした育児を体験している母親,父親からの 体験談を提供した。 3)プログラムの中で使用する教材 プログラムの中で使用する教材は,1)新生児の行 動のDVD,2)新生児の行動のリーフレット,3)母乳 育児の道のりのリーフレット,4)おくるみ,の4つで あり,各教材はおくるみも含め1 家族に 1つずつ配ら れ,クラスで使用した後にすべての教材を持ち帰るよ うにした。

Ⅳ.データ収集方法

1.質問紙 質問紙は,クラス自体への感想・評価,クラスで配

(4)

布した教材の使用回数,わかりやすさ・使いやすさに ついてフィードバックを受けるため,クラス実施後と 産後 1か月,産後 3か月の三時点で回答を得た。産後 1か 月 と 産 後 3 か 月 は, 紙 媒 体 と オ ン ラ イ ン 調 査 (メール配信)のどちらかを母親に選択してもらい, いずれかで回答を得た。質問紙の内容は以下の通りで ある。 1)クラス実施後のアンケート 対象者の属性:母親の年齢(歳),産科歴,最終学 歴,雇用形態,無職者の退職時期,有職者の勤め先, 有職者の職種 2)産後1か月と産後3か月の両方のアンケート プログラムで使用した教材(新生児の行動の DVD, 新生児の行動のリーフレット,母乳育児の道のりの リーフレット,おくるみの使用回数(回)とわかりや すさ・使いやすさの回答を求めた。使用回数は「今ま でに何回使用しましたか」と数値での回答を求め,わ かりやすさは「1.とてもわかりにくい」~「5.とて もわかりやすい」,使いやすさは「1.とても使いにく い」~「5.とても使いやすい」,HUG Your Baby の クラスを他の人に勧めたいかでは「1.とてもすすめ たくない」~「5.とてもすすめたい」の5件法で回答 を求めた。教材に関する感想や意見は自由記載にて回 答を求めた。

2.インタビュー

妊娠中に HUG Your Baby のクラスを受講した母親 に,産後 2~7 か月時点で調査を依頼し,研究協力の 同意が得られた9名を対象とした。直接面会してのイ ンタビューであるため,児を安全に連れて来られる, もしくは預けられる時期を考慮し,自宅でできるアン ケート調査より遅い時期に行った。研究の目的,内 容,倫理的配慮を説明し,研究協力者の同意を得た 後,インタビューガイドを用いた半構成的面接を 行った。インタビューの内容は研究協力者の同意を得 た上で,ICレコーダーによる録音を行った。 インタビュー内容は,妊娠中に思い描いていた育児 のイメージ,クラスに参加した目的や感想,また,母 親がどのような環境下で育児を行い,クラスで得た知 識や教材を活用できているかを把握するために,授乳 や児の睡眠状況,夫や家族の協力の有無,育児をして いて嬉しいこと・大変なこと,など会話の中でインタ ビューガイドの質問項目を投げかけ,自由に語る形式 とした。

Ⅴ.分 析 方 法

1.質問紙 分析にはSPSS Statistics 22を用いて行った。対象者 の属性の各項目の度数分布表を作成し,平均値と割合 を算出した。プログラムで使用した各教材の使用回数 は,度数,平均値,標準偏差(SD),中央値,最頻値 を算出した。わかりやすさ・使いやすさ・クラスを勧 めたいかの項目は,5 件法で回答したものを得点化 し,度数,平均値,標準偏差(SD),中央値,最頻値 を算出し,「4.わかりやすい」「5.とてもわかりやす い」または「4.使いやすい」,「5.とても使いやすい」 または「4.すすめたい」,「5.とてもすすめたい」と 回答した割合を算出した。さらに,教材の使用回数と わかりやすさ・使いやすさが産後 1か月と産後 3か月 に差があるのかを見るために,Wilcoxonの対応のある 検定を行い,検定の有意水準は5%両側検定として有 意差を算出した。自由記載は,データの共通点をまと め,表を作成し,代表的な意見を抽出した。 2.インタビュー 録音されたインタビュー内容を文章化し,逐語録を 作成した。1 ケースずつの遂語録を繰り返し読み, コードを付して内容を抜き出した。1 ケースずつの コードを作成した後,9ケースを統合し,共通点を見 出しカテゴリー化した。Bowen et al.(2009)が,確 立されたプログラムを新しい対象に用いる場合に評価 すべきとする,需要,実用性の2つの項目に沿って分 類し記述した。

Ⅵ.倫理的配慮

本研究は,聖路加国際大学の研究倫理審査委員会 (承認番号:16-A052)の承認を受けて実施した。研究 への参加にあたっては自由意志であること,不参加に よって不利益を被ることはないこと,参加の拒否や途 中で辞退する権利があること,インタビューは録音す るが,収集した逐語データからは個人情報を削除しす べて匿名化すること,データは研究終了報告から5年 間保存するが研究終了時には消去すること,協力を途 中で辞退した場合でも,それまでに得たデータはすべ て消去すること,研究者にはメールにて連絡がとれる ことを伝えた。

(5)

Ⅶ.結   果

1.質問紙の研究対象者の特性 クラスを受講した121名の母親にアンケートを実施 し,産後 1か月と産後 3か月の両方の回答が得られた 82名を対象とした(回収率67%)(表1)。 2.質問紙の結果 1)教材の使用回数 産後 1か月と産後 3か月の教材の使用回数を比較す ると,すべての教材で,産後3か月の方の使用回数が 有意に高かった。「新生児の行動の DVD」(p<0.001), 「新生児の行動のリーフレット」(p<0.001),「母乳育児 の道のりのリーフレット」(p<0.001),「おくるみ」(p= 0.001)と,有意差が認められた。特に,「おくるみ」 は,産後 1 か月時点から使用回数の平均値が 11.78 回 と高く,産後 3 か月時点でも平均値 20.34 回と使用回 数が高かった(表2)。 2)教材のわかりやすさ・使いやすさ 産後1 か月と産後3 か月の時点を比較すると,教材 のわかりやすさ・使いやすさで有意差が認められたの は,「新生児の行動の DVD」と「母乳育児の道のりの リーフレット」の 2 つであった(それぞれに p=0.032, p=0.009)。「おくるみ」は産後 1か月に 4.16,最頻値が 5と高く,産後 3 か月との差は認められなかった(p= 0.148)。また「新生児の行動のリーフレット」も産後1 か月に3.59,産後3か月では3.56で有意な差は認めら れなかった(p=0.838)(表2)。

3)HUG Your Babyのクラスの感想・評価

HUG Your Babyのクラスを他の人に勧めたいかに ついては,産後 1 か月,産後 3 か月ともに 9 割以上が 肯定的な評価であり,「とてもすすめたい」の割合は, 産後 1 か月に 46% が,産後 3 か月には 57% であった。 さらに,産後1か月に「すすめたい」より産後3か月の 「とてもすすめたい」の割合が増えた。 自由記載では,「クラスを後輩のプレママに勧めて います。子どもが生まれて改めて参加してよかったと 感じています」,「客観的な情報から内容が導かれてい るので,主人も納得しながら見てくれてすごく助かり ました。お母さんが分かること,お父さんも理解でき る資料が今後も増えると女性も育児がしやすくなると 実感しました」との感想があった。 3.インタビュー対象者の特性 インタビューの対象者は研究の同意が得られた9名 とした(表3)。インタビュー対象者の年齢は,27~38 歳,初産婦 7 名,経産婦 2 名である。HUG Your Baby のクラスの参加時期は25週以降であり,6名が夫とと もに参加している。出産施設は,病院が5名,診療所 が4名であり,病院で出産した2名が緊急帝王切開,1 名が予定帝王切開で出産した。インタビュー時の児の 月齢は 2~7 か月であり,育児期の HUG Your Baby の 活用はそれぞれである。 4.プログラムの有用性 Bowen et al.(2009)のエビデンスに基づくプログ ラムの有用性の評価項目である,1)需要,2)実用性 について以下に述べる。 1)需要 Bowen et al.(2009)は,需要とは,クラスに参加 する目的や参加する人の特徴を把握し,どのような人 表1 質問紙調査対象者の属性 (n=82) 項目 回答 人数(割合) 産科歴 初産 65 (79.3%) 経産 17 (20.7%) 最終学歴 高校卒業 1 (1.2%) 各種専門学校卒業 7 (8.5%) 短期大学卒業 11 (13.4%) 大学卒業 57 (69.5%) 大学院修了 6 (7.3%) 雇用形態 無職 27 (32.9%) パートタイム 4 (4.9%) フルタイム 50 (61.0%) 欠損 1 (1.2%) 無職者の退職時期 (n=27) 結婚時 10 (37.0%) 妊娠中 13 (48.1%) 産休開始時 4 (14.8%) 有職者の勤め先 (n=54) 会社 47 (87.0%) 官庁省 3 (5.6%) 自営 2 (3.7%) 欠損 2 (3.7%) 有職者の職種 (n=54) 事務職 24 (44.4%) 営業職 6 (11.1%) 技術職 10 (18.5%) 保健職・医療職・福祉職 5 (9.3%) 販売職 1 (1.9%) 教員 2 (3.7%) 管理職・団体・役員 1 (1.9%) その他 5 (9.3%) ※雇用状態はフルタイム (有職)と回答したが,有職者の勤 め先が無回答の回答者が2名いた

(6)

にクラスが求められているのかを明らかにすることに よって評価することができると述べている。母親たち は,育児は大変というイメージを抱いていた。そのた め,タイトルがポジティブなメッセージだったことで クラスに参加した。より育児を楽にしたいという気持 ちが強く,ストレスを溜めずに子どもを愛したい,よ りお利口さんになってほしいという気持ちを妊娠中か ら抱いていた。 (1)ポジティブなメッセージ

「HUG Your Babyっていう,タイトルがすごく,あ なたの赤ちゃんを抱っこして愛しましょうみたいなポ ジティブなメッセージだったので,できれば,お腹を 痛めて生んだ我が子だから,楽しく育児をしたいと 思って。」(B) (2)より育児を楽にしたい 「毎日おっぱいあげて,おむつ替えて,おっぱいあ げて,おむつ替えて,抱っこしての繰り返しで,たぶ ん,すごく大変なんだろうなっていうイメージ。(中 略)育児ってすごくイライラしたり,大変だったり, うつになったりっていう,ネガティブな情報だけは 入ってたので。(中略)ストレスを溜めずに,子どもを 愛するために参考になる話が聞けたらなと思って。」 (B) 「(2経産)で,ますます大変になるから,だったら, よりお利口さんになる(笑)ふうにするには,どうし たらいいかなみたいな,ずっと泣きっぱなしだったら 困っちゃうなとか,そういう知識を得ることができる んだなと思って,あ,参加したいなって思いました。」 (C) 2)実用性 Bowen et al.(2009)は,実用性の評価の焦点には, 資源(教材),時間,クラスでの介入活動の 3 つがあ 表2 教材の使用に関する産後1か月と産後3か月の比較 項目 n 平均値 SD 中央値 最頻値 p値 新生児の行動のDVD 見た回数 産後1か月 81 1.62 1.8 1 1 <0.001** 産後3か月 81 2.42 2.4 2 1 わかりやすさ 産後1か月 74 3.57 0.8 4 4 0.032* 産後3か月 74 3.74 0.8 4 4 新生児の行動のリーフレット 見た回数 産後1か月 82 2.80 2.1 2 1 <0.001** 産後3か月 82 3.68 3.6 3 3 わかりやすさ 産後1か月 81 3.59 0.8 4 4 0.838 産後3か月 81 3.56 0.9 4 4 母乳育児の道のりのリーフレット 見た回数 産後1か月 82 2.16 3.8 1 1 <0.001** 産後3か月 82 4.17 11.3 2 1 わかりやすさ 産後1か月 68 3.54 0.8 3 3 0.009** 産後3か月 68 3.74 0.7 4 4 おくるみ 使った回数 産後1か月 80 11.78 8.3 10 10 0.001** 産後3か月 80 20.34 25.5 10 10 使いやすさ 産後1か月 82 4.16 1.0 4 5 0.148 産後3か月 82 4.33 0.9 5 5  *p<0.05 **p<0.01 表3 インタビュー対象者の特性 対象者 Aさん Bさん Cさん Dさん Eさん Fさん Gさん Hさん Iさん 年齢 34歳 36歳 38歳 34歳 36歳 35歳 37歳 27歳 31歳 初経産 初産 初産 2経産 1経産 初産 初産 初産 初産 初産

HUG Your Babyの

クラス参加時期 39週 32週 32週 39週

37週 31週 34週 25週 33週

HUG Your Babyの

クラスの同伴者 無 有(夫) 無 無 有(夫) 有(夫) 有(夫) 有(夫) 有(夫)

インタビュー時の 児の月齢

(7)

り,クラスの内容や教材が時期を経て,どのような効 果があるのかを探ることであると述べている。実用性 として,児の訴えを拾うことができる,泣きへの対応 ができる,授乳や寝かしつけができるといった育児の コツの獲得,体験談による精神的な支え,育児が始 まってからの教材の活用について記述する。 (1)育児のコツの獲得 新生児のことを理解する効果として,児の訴えを拾 うことで対応ができるようになる重要性が語られた。 「(児の)フェンシングのポーズとかは落ち着くため にやりますよとか,初めて聞くことが多くて。今落ち 着かせようとしてるなら,無理になんかするのはやめ ようかなとか。判断材料になるので,よかったなって 思います。」(E) 「あ,なんか,こんなに簡単に泣き止むのかなって いう,そういうふうに見るんだとかいう感じで,新鮮 な感じでしたね。おなかがすいたら泣くものだし,泣 いて当たり前みたいに思ってたけど,泣かせないで済 むんだとか,なんていうんだろう,見方が違うってい うのに,びっくりというか新鮮でしたね。」(C) 「赤ちゃんの睡眠は大人より短いっていうやつで, ベッド置いてても,いきなりワーッと泣いたりとかし て,ハッと思って見に行くと,もう寝てたりするの で,そうか,ノンレムかなみたいな。そういうのはす ごい役立ってますね。多分,10 分でも寝てるってい うじゃないですか,赤ちゃんって。そのときに,まだ (眠りが)浅いんだなと思って降ろしちゃうと泣い ちゃうので,ちょっと深くなるまで寝かしてから降ろ すとか,そういうときにすごい役立ちます。」(A) (2)体験談による精神的な支え

対象者の中には,HUG Your Baby のクラスで聞い た母親の体験談以外にそのような機会がなく,家事が 予定通りにいかなかったときに体験談を思い出し,育 児だけは頑張ったと思うことで精神的に楽になると語 る母親がいた。 「子どもが生まれると,予定通りにいかないことが いっぱいあるっていう話をされていて。(中略)あれを やりたい,これをやりたい,予定通りにいかない, キーってならずに,赤ちゃんのペースに任せて,家事 はもう適当でいいですみたいな話を,そのママさんが されてて。(中略)このクラスに私も助けられてます ね。」(B) 「お風呂に入れる話。パパさんの(中略)手つきとか おぼつかないし段取りも悪いし,言いたいことも いっぱいあるんだけど,あれ駄目,これ駄目って口出 さずに,やってくれてる以上は見守るのも大事だみた いな話。(中略)上手じゃなくても,一生懸命,ママ さん,パパさん,それぞれにできることをやれば,赤 ちゃんはちゃんと分かってくれるっていうのは,ほん とにそうだなと思うので。」(B) (3)教材による家族との情報共有 持ち帰った教材は育児が始まってからさらに活用し たことが語られた。DVD やリーフレットは,家族へ の情報共有に役立っていた。 「あのDVDを夫婦で何回も見たんで。妊娠中はたぶ ん1~2回ぐらいしか見てなかったと思うんですけど, 生まれてから,泣く度に。同じように泣いてる赤 ちゃんのところ見て,この泣き方に,『うち,今,似 てない?』みたいな。『ちょっとおくるみで包んでみ る?』『ああ,泣きやんだ,ほんとだ,ほんとだ』みた いな感じで。通しでも何回も見たし,ポイント,ポイ ントで何回も再生しました。」(B) 「子どもは DVD のこともよく覚えていて,(中略) (手を)握って胸にとかっていうのとかもお兄ちゃん が一生懸命やってて(笑)。(中略)それで泣き止ます ことができるっていうのを,DVDっていうか,その 情報で入ってたんで,こうやればいいんだよみたいな のをやってて,おもしろいなって(笑)。産むのは自 分なので,いろんな情報をあさるじゃないですか,お 母さんって。で,なんか共有できてれば,みんなで育 てる,みんなで産んでみんなで育てるって。わざわざ 分担とかしなくても,自然とやるのかなって思いまし た。それが素敵な形ですよね」(C) 「義理の両親とかが遊びに来たりしてたんですけど, どうしてもかわいいからちょっかい出したり,話しか けたり,まだ無理なのにおもちゃで遊ばせようとした り,この子がボーッとしたりするときに,「ちょっと, 疲れちゃったぽいので」って言うと,『そんなことな いわよ』とかって言ってくるんですよ。そのときに, 私が言っても駄目なので,これ(新生児の行動の リ ー フ レ ッ ト)を 見 せ て,「ほ ら, 書 い て あ る で しょ?」 みたいな(中略)。『あら,ほんとね』みた いな。このリーフレットがあると,パッと見れるの で,これはこれで使いました。」(B) 「貼ってたんですよ,トイレに,これ(母乳育児の 道のりのリーフレット)を(笑)。で,お兄ちゃんは, ひらがなは読めるので,なんとなくで内容を見てて, 『ママ今ここだから,こうだね』とかって,で,アン

(8)

ケートとかで,DVD とか何回見ましたかって書いて あるけど,これだけ,もうなんか回数じゃないなって いうくらい見ていて(笑),もう目の前にある(笑), 指標にした方がいいみたいな感じで。これはすっごい 見て,今こんな感じなんだなってみてました。」(C) (4)おくるみの実践の効果 おくるみをすることで児が落ち着いた実感も語られ た。 「(おくるみすると)泣き止むんです,ほんとにびっ くりで。ギュって包まれて。」(B) 「毎晩,毎晩やってて,そのおかげで朝までぐっす り寝られるので。」(G) 「ほんとおくるみがすごいよかったです。そうする と,ほんと寝てくれて。絶対くるんだ方がいいよ ねって。」(H)

Ⅷ.考   察

結果を統合し,1.母親が児の行動を理解し,泣き への対応ができる,2.家族や周囲と共有できる一つ のツールになる,3.子どものいる生活を肯定的にイ メージできる,の3つの視点から述べる。 1.母親が児の行動を理解し,泣きへの対応ができる 母親は HUG Your Baby のクラスに参加したことに よって,児の行動に関する適切な知識を得て,クラス で配布された教材「新生児の行動のDVD」,「新生児の 行動のリーフレット」,「母乳育児の道のりのリーフ レット」,「おくるみ」を帰宅後に活用したことによっ て,児の行動を理解し,泣きへの対応ができていた。 インタビューのなかで,育児の大変さを母親らは不 安に感じていたが,クラスで得た知識から児の行動を 理解したことで,児の泣きへ対応することに役に 立ったと語られた。藤田他(2001)の研究によると, 子どもが泣くときや寝ないときに,子どもを憎らしい と思った母親は全体の 43.2% と多く,また田淵ら (2006)は,出生後間もない頃の,特に初産婦におい ては,児との生活に慣れず,児の泣きに対する世話に 苦慮することが多い現実があると述べている。母親の 育児適応には,新生児の“反応性”,“泣き”などの行動 の特徴を理解すること(榮他,2014)や子どもの要求 を捉えること(梅﨑他,2015)が必要であることが, 先行研究でも述べられている。田淵(1999)によると, 母親は,新生児の泣きに対し,健康的,強い,良い, うれしいと知覚することがある一方,特に初産婦は経 産婦より,泣き声を高い,うるさい,刺激的など知覚 する傾向がある,その中で,抱く,おむつ交換,授 乳,身体接触,話しかけなどの行動を行い,児の泣き の意味を探そうとすると示されている。HUG Your Babyのクラスによって,新生児の泣きや行動に対す る正しい知識を持っておくことで,対応を見出すこと ができたのではないかと考えられた。睡眠について も,母親が児の睡眠パターンを理解していたことで, 睡眠を考慮しながら寝かしつけたり,浅い眠りの状態 と授乳のサインを見極め,適切なタイミングで授乳を することができたことが語られた。睡眠や授乳が児の 泣きに関連することは先行研究でも指摘されている。 例えば,香取(2002)は,まどろみ状態で泣かせたり 移動するとそれが覚醒刺激となり再び児は泣きだす が,そのことに気づかない母親は原因が解らず児の変 化に最後まで翻弄されるという,悪循環の典型例を記 述している。HUG Your Baby のクラスで児の睡眠パ ターンを理解し,浅い眠りと深い眠りの状態を目で見 て学んでおくことが,児の泣きの予防につながったこ とが示唆される。 以下教材の活用について,検定では,新生児の行動 のDVDを見た回数は,産後1か月より産後3か月の方 が使用回数が多く,わかりやすさも高まった。実際に 新生児を目の前にして行動を観察する際に,DVD の 内容が有用だったのではないかと考えられた。インタ ビューの中では,児が泣くたびに DVD を繰り返し見 て,DVD と照らし合わせて児の状態や児が正常な泣 きであるのかを確認していたことが語られた。近年, 核家族化が進んだことに加え,産後1か月は自由に外 出ができない時期であり,他の母親や新生児と会う機 会も少ない(井田他,2015)。この時期は新生児訪問 以外に自分の子どもが正常であるのか判断する材料が なく,母親の行っている育児に対して,「これでよい」 と承認を与えてくれる存在も少ない(井田他,2015)。 この育児に対する不安が強まりやすい時期に,DVD は自宅で見ることのできる教材であったと考えられ る。DVD の強みは,視覚と聴覚から情報を得られる ことである。横田他(2014)によると,人間の五感に よる知覚の割合は視覚83%,聴覚11%であり,人間は 目と耳からの情報だけで情報の 94% を得ている。ま た,言葉や文字では伝わりにくい内容も映像を見るこ とでイメージがしやすい(横田他,2014)。インタ ビューでは DVD を繰り返し見て児の泣きを理解しよ

(9)

うと試行錯誤しながらも自信をつけていた様子が語ら れたが,小林(2006)は,母親の努力や試行錯誤によ り効果を実感することは,“できる”と思える体験につ ながると述べており,動画がこの過程を支えていた事 が考えられた。しかしながら,平均すると DVD の再 生回数は多いとは言えず,再生する手間がかかる点は 改善の余地がある。長坂(2016)は妊婦の腰痛のセル フケア動画を,DVD のみならずクラウド上の動画配 信ソフトを用いて,スマートフォンやパソコンからの 閲覧ができるようにした。身近で使いやすいツールを 選択できることでセフルケアを促進できたことを報告 しており,使いやすさや使用回数の向上には,ウェブ 上の動画配信サイトの利用や,スマートフォンのアプ リケーションへの展開などを今後考える必要がある。 新生児の行動のリーフレットを見た回数は,産後1 か月より,産後 3 か月の方が使用回数が多かったが, わかりやすさには変化がなかった。DVD の効果と関 連して,紙媒体のリーフレットは言葉や文字の羅列と 写真であり,DVD での映像媒体ほどの効果は見込め ない可能性が考えられる。しかしながら,活用方法の 一例として,インタビューで,SOSサインを示してい ることを祖父母に理解してもらうために新生児の行動 のリーフレットを見せていたケースがあった。DVD を共有する機会の持てない家族や DVD を見る時間の ないときに活用しやすいと考えられる。 母乳育児の道のりのリーフレットを見た回数は,産 後 1か月より産後 3か月の方が使用回数が多く,わか りやすさは,有意に高まった。実際にインタビューで は,母親が母乳育児の道のりのリーフレットをもと に,今の状況や今後どのようなことが起こるのかを自 身で判断したことが語られ,母乳育児を行っていくに 従って,この教材に関心が高まったことが,産後3か 月の使用回数やわかりやすさに反映されたのではない かと考えられる。 おくるみを使った回数は,産後 1 か月より,産後 3 か月の方が多く,教材の中でも最も使用回数が多 かった。また,使いやすさも産後1 か月より産後 3か 月の方が,多くの母親が高い評価をしていた。インタ ビューの中では,児を泣きやませる方法の一つとして おくるみを活用していたことが語られた。おくるみの 使用回数も多く,多くの母親が高い評価をしている理 由としては,児が泣き止むことを体感したことが考え られる。クラスではおくるみの巻き方を実施したが, 池住(2004)は,参加型のほうが,参加者が主体と なって理解し学ぶことが可能になると述べており,さ らに木村他(2005)は,実技・実習体験は長期の記憶 に残る割合が高く,手技が身につきやすいことを実証 的に示しており,妊娠期からの継続した参加型両親学 級は大きな意義があると述べている。今後も継続し て,おくるみを巻く体験を提供する意義は高いと考え られる。 2.家族や周囲と共有できる一つのツールになる HUG Your Babyのクラスでは,母親に加え,夫や 家族の参加も受け付けており,多くの母親が夫と共に 二人で参加をしている。母親の,夫や家族に情報を共 有 し た い, 理 解 し て い て ほ し い と い う 気 持 ち に, HUG Your Babyのクラスが応えていることが伺われ た。池田他(2014)は,妻と一緒に出産育児準備を多 く行った夫ほど,育児意図が有意に高まる傾向がある と指摘している。また西原他(2008)は,夫と自分が 理解しあえているという認識が,育児への楽しさや喜 びの感情と関連し,逆に夫と自分が理解している認識 がないと,育児へのイメージは否定的に捉えられてい たと述べている。インタビューの中でも,夫婦で共に 育児を行う認識を持ち,出産後のプロセスを夫婦で楽 しむ姿勢の重要性が語られており,夫の協力は母親の 育児負担も軽減させ,母親の育児や児への肯定的な感 情 に つ な が る と 考 え ら れ る。 ま た, Kadivar et al. (2013)は,HUG Your Baby の DVD や教育プログラム は,NICUに入院する早産児の父親の新生児の行動の 知識を高め,父親の自信を後押しし,親子関係を促 し,家族関係も強くする効果があったことを示した。 本研究から,夫が育児をイメージしやすい知識や ツールを提供し,夫婦で育児に関する価値観を共有し あうことを促進することの重要性が示唆される。少子 高齢化社会の中で両親や両親以外の家族が参加できる 育 児 学 級 の 実 施 の 重 要 性 が 高 ま っ て い る(古 川, 2006)が,HUG Your Babyの教材を持ち帰ることがで きることによって,参加できなかった家族にも情報共 有ができるという側面があった。 3.子どものいる生活を肯定的にイメージできる インタビューを通して,多くの母親が妊娠中に育児 に対してネガティブなイメージがあり,より育児を楽 にしたいという気持ちを抱いていることが示された。 西原他(2008)は,妊婦が育児ストレスを強くイメー ジする背景として,近年,子どもへの虐待への関心が

(10)

高まったことから,育児ストレスや育児不安がさまざ まなところで取り上げられるようになり,そのような メディアなどを通じて妊婦は育児に対する想像をする ため,育児を大変なものとして認識していると述べて いる。インタビューの語りからは,育児によるストレ スをなくし,より育児を楽にしたいという気持ちの背 景には,母親自身の負担を減らしたいという気持ちと ともに,育児が楽になることで心に余裕をもち,子ど もを愛してあげたいという気持ちもあることが伺え た。妊娠中から育児に関して学ぶ機会が求められる が,実際にはクラス以外に体験談を聞く機会は限られ ている。インタビューから,クラス内での育児体験談 が母親の精神面の支えになっていた。育児体験談の中 では,育児がうまくいくコツに加え,すべてが完璧に はいかない母親や妻としての自分を許してあげる,と いった育児期の受け入れ方も語られている。西原他 (2008)は,妊婦の抱く育児イメージと現実との相違 が広がり過ぎないよう,妊娠中に育児中の母親の話を 聞く交流機会の設定が必要であると述べている。現実 の育児は,楽できれいなことばかりではなく,出産・ 育児に対して予想していたイメージと現実のズレが あった場合,「こんなはずではなかったのに」とか「産 まなければよかった」などと否定の感情が生じること が考えられる(藤田他,2001)。そのため,育児体験 談の内容として,成功体験だけでなく,苦労体験,失 敗体験,その受け入れ方も学んでおくことの有用性が 示唆された。

Ⅸ.結   論

HUG Your Babyは母親たちの需要に即し,新生児 の行動を理解し対応すること,家族の育児サポートを 得 る 側 面 か ら も 教 材 の 実 用 性 は 高 く, そ の 教 材 (DVD,母乳育児の道のりのリーフレット)は育児期 を通して繰り返し使用されることでわかりやすさが増 し,プログラムの有用性が示された。

Ⅹ.本研究の限界と今後の課題

本研究の参加者は,新生児のことを知りたいという 育児に対してもともと高い関心を持つ母親に対象者が 偏っている可能性が考えられる。また,質問紙の回収 率が 67% であり,プログラムへのネガティブな印象 持つ母親や使用をしていない母親は回答をしていない 可能性がある。しかしながら,産後 1 か月の時期は, 育児に追われている時期であり,送り返さなかったこ とが必ずしもネガティブな印象と繋がらないと考え る。本研究で分析した質問紙の内容は,教材に関する 項目を分析したものであり,今後はその他の項目に関 して,プログラムの効果を検討する必要がある。 プログラムの有用性が得られたことから,今回語ら れた母親の不安やニーズに言及しながら内容を伝える こと,またこのプログラムをより多くの母親やその家 族の役に立てられるよう,HUG Your Baby の情報を 発信し,認知度をあげるように働きかけること,これ までに参加していない対象者へのアプローチも必要で ある。また,HUG Your Baby のプログラムを広める にあたり,プログラムを実施する人材確保やオンライ ンコースの受講を進め,インストラクターの育成にも 力を入れる必要がある。 謝 辞 本研究にご協力いただきました母親の皆様に心より 御礼を申し上げます。また,クラスの実施に協力いた だきました飯田真理子准教授,永森久美子助産師,仙 波百合香助産師,田中夢子看護師,データ整理にご協 力いただきました窪田杏奈氏,西村祐介氏,手嶋文香 氏に感謝いたします。エディテージ(www.editage. com)の的確な英文編集にも感謝いたします。 なお,本研究は聖ルカ・ライフサイエンス研究所 平成 27 年度臨床疫学等に関する研究助成金を受けて 実施したものの一部である。 利益相反 本研究は,参加者全員に Aden&Anais 株式会社より おくるみとその他ベビー用品の供与を受けた。 文 献

Bowen, D.B., Kreuter, M., Spring, B., Cofta-Woerpel, L., Linnan, L., Weiner, D., et al. (2009). How We Design Feasibility Studies.NIH Public Access, 36(5), 452-457. 藤田麻美,飯田美代子,前嶋七海,森田せつ子,玉里八重 子,榊原久孝ら(2001).乳児を持つ母親の児に対す る憎らしい感情に関する研究.母性衛生,42(4), 539-544. 古川亮子(2006).両親学級の実態からみた妊婦教育の課 題.母性衛生,47(2),290-298. 堀越摂子,常盤洋子,國清恭子,高津三枝子(2016).生

(11)

後 1 か月の泣きに関する母親の認識.The Kitakento Medical Journal,66(1),23-30. 井田歩美,猪下光(2015).新生児をもつ母親の育児上の 不安や疑問 ― ソーシャルメディアにおける発言のテ キストマイニングによる分析 ―.母性衛生,56(1), 56-64. 飯田真理子,新福洋子,谷本公重,松永真由美,堀内成子 (2017).日本版“HUG Your Baby”育児支援プログラ

ムの開発.日本除助産学会誌,31(2),187-194. 池田友美,入山茂美(2014).妊娠期に夫婦で行う出産育 児準備と夫の育児意図の関連.母性衛生,55(1),95-100. 池住義憲(2004).参加型学習とは何か?― より意味のあ るファシリテーターになるために.助産雑誌,58, 9-16.

Kadivar, M. & Mozafarinia, S.M. (2013). Supporting Fathers in a NICU: Effects of the HUG Your Baby Program on Fathers' Understanding of Preterm Infant Behavior.

J Perinat Educ, Spring 22(2), 113-119.

香取洋子(2002).新生児のstate(睡眠-覚醒状態)に対する 母親の応答性に関する研究.母性衛生,43(1),36-42 木村弘子,星田秀子,菊池千代子(2005).参加型両親学 級の企画運営を通して ― 父親のニーズと満足度を考 える ―.日本看護学会論文集 ― 母性看護 ―,36,9-11. 小林康江(2006).産後 1ヵ月の母親が「できる」と思える 子育て体験.母性衛生,47(1),117-124. 厚生労働省(2014a).子ども虐待による死亡事例等の検証 結果について.社会保障審議会児童部会児童虐待等 要保護事例の検証に関する専門委員会(第 10 次報告 の概要). 厚生労働省(2014b).「健やか親子 21」,雇用均等・児童家 庭局母子保健課 http://sukoyaka21.jp/sub.html [2016-5-23]. 厚生労働省(2015a).厚生労働白書 ―人口減少社会を考え る ―~希望の実現と安心して暮らせる社会を目指し て~. 厚生労働省(2015b).子ども虐待による死亡事例等の検 証結果(第 11 次報告の概要)及び児童相談所での児 童虐待相談対応件数等.http://www.mhlw.go.jp/stf/ houdou /0000099975.html [2016-5-23] 長坂桂子(2016).妊婦の腰痛を緩和する看護プログラム の検討~正しい姿勢制御のためのセルフケアに焦点 を当てて~.兵庫県立大学大学院看護学研究科博士 論文. 西原由紀乃,小林康江,遠藤俊子,清水嘉子(2008).妊 婦が抱く育児に対するイメージ ― 第 1 子を育児中の 母親との比較から―.母性衛生,48(4),462-470. 榮玲子,植村裕子,松村惠子(2014).産褥早期における 母親の育児適応に関する検討.香川母性衛生学会誌, 4(1),27-33. 佐藤憲子(2010).父親の育児参加行動と父母の育児意識 との関連.北日本看護学会誌,13(1),31-43. 新福洋子,Jan Tedder(2013).HUG YOUR BABY:エビ

デンスに基づいた産後早期の育児サポートツール. 看護教育,54(12),1114-1118. 新福洋子,飯田真理子,麓杏奈,仙波百合香,永森久美 子,田中夢子(2016).育児支援クラス “HUG Your Babyプレママ・パパクラス”の実践.日本助産学会誌, 29(3),469. 田淵紀子(1999).新生児の泣きに対する母親の反応.日 本助産学会誌,12(2),32-44. 田淵紀子,島田啓子(2006).生後 1ヶ月から 1 年までの乳 児の泣きに対する母親の情動反応に関する縦断的研 究.日本助産学会誌,20(1),26-35. 梅﨑みどり,大井伸子(2015).初産の母親の出産後1週間 以内と 1 か月時の抑うつとそれに影響する要因の検 討.母性衛生,55(4),677-688. 横田恵実子,濱崎昌子,岡島真理子(2014).DVD を使用 した婦人科初回化学療法オリエンテーションを実践 して.日本看護学会論文集 看護総合,44,102-105.

参照

関連したドキュメント

He thereby extended his method to the investigation of boundary value problems of couple-stress elasticity, thermoelasticity and other generalized models of an elastic

Keywords: continuous time random walk, Brownian motion, collision time, skew Young tableaux, tandem queue.. AMS 2000 Subject Classification: Primary:

This paper presents an investigation into the mechanics of this specific problem and develops an analytical approach that accounts for the effects of geometrical and material data on

The object of this paper is the uniqueness for a d -dimensional Fokker-Planck type equation with inhomogeneous (possibly degenerated) measurable not necessarily bounded

Beyond proving existence, we can show that the solution given in Theorem 2.2 is of Laplace transform type, modulo an appropriate error, as shown in the next theorem..

Thus, as in the case of Example 2, the conditions for a HELP inequality in Theorem 4.5 become equivalent to the conditions for both of the scalar equations in (64) to have

While conducting an experiment regarding fetal move- ments as a result of Pulsed Wave Doppler (PWD) ultrasound, [8] we encountered the severe artifacts in the acquired image2.

In the proofs of these assertions, we write down rather explicit expressions for the bounds in order to have some qualitative idea how to achieve a good numerical control of the