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専門職博士課程に移行したアメリカにおける理学療法教育の現状と課題

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(1)理学療法学 第 22 43 巻第 1 号 22 ∼ 29 頁(2016 年) 理学療法学 第 43 巻第 1 号. 研究論文(原著). 専門職博士課程に移行したアメリカにおける 理学療法教育の現状と課題* ─養成課程へのアンケート調査による検討─. 田 中 幸 子 1)# 田 中 秀 樹 2) Butcher Chiyoko 3). 要旨 【目的】理学療法教育における専門職博士(DPT)課程への移行の検討に資するため,博士課程に移行し たアメリカの理学療法教育の特徴および利点・問題点・課題を明らかにすることを目的とした。 【方法】理 学療法士養成の認定全課程を対象とし,責任者に対して郵送アンケート調査を行った。開設要因,開設利 2 【結果】回収率は 51.4%であった。修 点,問題点,課題の回答の有意性について χ 適合度検定を行った。. 士課程から移行した 3 年制博士課程および入学資格を大卒とする課程が多数であった。開設利点はカリキュ ラム改善および学生の能力向上,直接診療の拡大が多かった(p < 0.05) 。問題点・課題は学生の経済的負 担増に関するものが多かった(p < 0.01) 。また,博士にふさわしい臨床実習改善と教員の確保も課題とし て挙げられた。 【結論】理学療法士養成の専門職博士課程への移行は内容の充実が期待されるが,学生の経 済的負担を考慮する必要性がある。 キーワード 理学療法教育,博士課程,アメリカ. Doctorates)である。大学院博士後期課程において学術. はじめに. 研 究 を 修 め た も の に 与 え ら れ る 博 士(Doctor of Phi-.  アメリカにおける理学療法士養成は,この 100 年の間. losophy:PhD)とは異なるものであり,明瞭に表記す. に専門学校から大学学士課程,修士課程,そして博士. るために DPT は日本語で専門職博士と表記する。アメ. (Doctor of Physical Therapy:以下,DPT)課程へと 移行した. 1). 。1993 年にはじまった DPT 課程は,APTA. (American Physical Therapy Association) の DPT 推 2) 進を決定した Vision 2020(2000 年) を受け急速に増 3). リカでは理学療法士に限らず,看護師. 6). ,作業療法士 7). を含め医療職養成の専門職博士課程への移行が進行して いる。カナダでも理学療法士養成は修士課程に移行し, 現在,専門職博士課程への移行をめぐって議論が起こっ 8)9). 加し,2015 年にすべての養成課程が DPT に移行した 。. ている. 養 成 課 程 認 定 を 行 う CAPTE(Commission on Ac-. 移行は,理学療法教育再編の有力な動向であり,カナダ. creditation in Physical Therapy Education) も,2006. をはじめアメリカの国境を越えて影響を及ぼしてい. 年に DPT の推奨を決め. 4)5). ,現在の認定は DPT 課程. る. 。理学療法教育における専門職博士課程への. 10). 。. に限定している。本論文で示す DPT とは,大学院修士.  学士から修士課程への移行段階の研究では,学士と修. 課程を経ずに大学卒業で進学可能な専門職博士(Clinical. 士学生の専門性形成の違いについて Warren らの報告が. *. The Current State and Challenges of American Physical Therapy Education Following a Move to Clinical Doctoral Courses: An Analysis of Data from a Questionnaire Survey of Training Courses 1)広島都市学園大学 (〒 731‒3166 広島県広島市安佐南区大塚東 3‒2‒1) Sachiko Tanaka, PT, PhD: Hiroshima Cosmopolitan University 2)広島大学 Hideki Tanaka, PhD: Hiroshima University 3)前 West Memphis School District Chiyoko Butcher, OT, MS: Former West Memphis School District # E-mail: tanaka@hcu.ac.jp (受付日 2015 年 5 月 19 日/受理日 2015 年 10 月 9 日) [J-STAGE での早期公開日 2015 年 12 月 10 日]. ある. 11). 。1990 年代になるとアメリカにおける専門職博. 士課程への移行をめぐる議論が活発になった. 12‒15). 。賛. 成意見の中では直接診療の拡大につながる理学療法士の 専門性向上効果への期待があった. 16). 博士への移行をめぐる議論を整理し. 1). 。Plack は専門職. ,移行による専門. 性向上にかかわる議論について言及している。Johanson は専門職博士への移行による専門性向上効果について研 究したが. 17). ,専門職博士修了生がまだ少ない段階にお. ける専門職博士学生の意識調査であり,また専門性向上.

(2) 専門職博士課程に移行したアメリカにおける理学療法教育の現状. 23. への効果は明確にならなかった。Gwyer らは専門性形. 2.アンケート内容. 成にかかわる臨床教育について,アメリカにおける臨床.  アンケートは 3 部 18 設問で構成した。第 1 部は専門. 18). ,. 職博士課程の概況を把握することを目的とし,課程開設. 博士課程への移行との関連は示されていない。さらに,. 年,専門職博士課程以前の先行課程の有無と取得可能学. Plack は専門職博士への移行による成果や問題・課題を. 位,前年度学位別取得者数,1 学年あたりの学生数,学. 示すデータや研究がほとんどないことも指摘してい. 位取得に必要な就学年月数,新入学生の学位別入学者. 教育の歴史を踏まえながら近年の成果を報告したが. る. 1). 。Domholdt らの研究は,2003 年に専門職博士への. 数,課程開設決定に影響した要因(以下,開設要因)(複. 移行が急速に進行している移行最盛期の現状を分析し,. 数回答),卒業後 6 ヵ月以内の就職率について質問した。. 移行の賛否や移行判断に影響した要因,および移行を促. 第 2 部は専門職博士課程の自己評価であり,開設してよ. 進・阻害した要因の検討に加え,移行により教育時間が. かったこと(以下,開設利点)(複数回答),課程が抱え. 5). る問題点(以下,問題点)(複数回答),課程が直面する. また,博士課程への移行により大都市就職志向が強まる. 課題(以下,課題)(複数回答),その中でもっとも重要. ことによる,地域医療に及ぼす影響についての報告もあ. な課題(以下,重要な課題)(自由回答),専門職博士課. 増加しカリキュラム改善が見られたことを報告した. る. 。. 19). 。以上の研究はいずれも専門職博士課程への移行. 程に関しての意見(以下,意見) (自由回答)を質問した。. 経過中の研究報告であり,移行したことによる成果や問. 第 3 部は回答者の年齢,課程での役職,職位および大学. 題・課題分析には限界があった。. 機関名を聞いた。.  現在は全課程が専門職博士養成となり,専門職博士課 程についての総括的な現状評価が求められているが,そ. 3.集計・解析方法. こに焦点をあてた研究はない。その背景には,専門職博.  回収したデータは IBM SPSS Statistics ver.20 を用い. 士課程への急速な移行過程にあり 2015 年に完了したば. て,設問ごとに集計し解析した。開設要因,開設利点,. かりであると同時に,APTA として専門職博士課程へ. 問題点,課題の 4 設問は各選択肢の回答数の有意性につ. の移行を積極的に推し進めてきた経過がある。また,我. 2 いて χ 適合度検定(期待度数 5 未満のセルが全セルに. が国の視点からのアメリカにおける理学療法教育に関す. 対して 20%以上存在するときは Fisher の正確確率検定). る研究は歴史的考察. 20). や現状紹介が多く. 職博士への移行にふれた研究は川口. 24). 21‒23). ,専門. と残差の比較を行った。選択肢のその他欄に記述のあっ. 千住 25)に限ら. た自由回答は意味内容によって文章を区切り,その類似. れる。. 性によって回答群に分類集計し,頻出する回答があった.  専門職博士課程への移行によって得られた利点・課題. 場合はアフターコード化した。. を研究することによって,我々の理学療法教育への示唆.  大学機関名は,回答のあった 89 校について,CAPTE. が得られると考える。本研究は,アメリカにおける専門. ホームページ認定 PT 課程一覧. 職博士課程の現状について,課程責任者へのアンケート. がって分類し,公立私立別データを解析に使用した。上. 調査を通して分析し,課程の特徴および移行の利点・問. 2 記 4 設問と公立私立別の関連について χ 独立性検定(期. 題点・課題を明らかにすることを目的とする。. 待度数 5 未満のセルが全セルに対して 20%以上存在す. 26). の課程情報にした. るときは Fisher の正確確率検定)を行った。調整済み. 対象および方法. 残差による頻度の差,関連度を表す連関係数 φ も検討し. 1.対象. た。また公立私立別に専門職博士課程開設年について t.  本研究での理学療法教育とは Entry Level(資格取得. 検定を行った。なお,有意水準は 5%とした。. のための課程)を指す。.  もっとも重要な課題,意見は,記述のあった自由回答.  対象はアメリカにおける理学療法士養成の CAPTE 認定全課程とした。CAPTE ホームページ課程一覧. 26). を転記した回答一覧表を作成し,回答ごとに複数の内容 を含む場合は文章を区切り分割し,共通する意味内容に. に Program Director として氏名が公表されていた 212. ついて小見出しをつけコーディングを行い分類整理し. 課程責任者に対して,2015 年 1 月に郵送アンケート調. た。自由回答の分類整理は筆頭著者が行い,共著者が回. 査を行った。調査目的,調査対象選定方法,統計的に. 答一覧表に沿って文章の分割およびコーディングの妥当. データ処理し研究目的にのみ使用することを述べたアン. 性について追確認し,修正点があった場合は協議し修正. ケート依頼文と返信用封筒を同封し,調査への同意を求. したコードを割りあてた。. めた。3 週間以内での返送を依頼し,返送をもって同意 を得られたとみなした。. 結   果 1.回収率および回答者の属性  回収されたアンケートは,送付した全課程 212 中 109.

(3) 24. 理学療法学 第 43 巻第 1 号. 表 1 回答者の属性(n=109) 属性 Position. Age. Rank. n. Program Director. %. 102. 93.6. Academic Coordinator / Director of Clinical Education. 1. 0.9. Other Faculty Members. 1. 0.9. Others. 3. 2.8. Unmarked. 2. 1.8. 30s. 4. 3.7. 40s. 24. 22.0. 50s. 41. 37.4. 60s. 37. 33.9. Unmarked. 3. 2.8. Professor. 51. 46.8. Associate Professor. 49. 45.0. Assistant Professor. 3. 2.8. Instructor. 1. 0.9. Others. 1. 0.9. Unmarked. 4. 3.7. ( 有 効 回 答 109, 回 収 率 51.4 %) で あ っ た。 回 答 集 団 (n=109)と母集団(CAPTE 認可 212 課程)の公立私 立 別 構 成( 本 研 究: 公 立 47.7 %, 私 立 33.9 %, CAPTE:公立 50%,私立 50%)に有意な差はなかっ 2 た(χ 独立性の検定 p = 0.18)。公立私立の区分は日本. と同じであるが,アメリカは国立(連邦立)が少なく, 公立の多くは州立であった。  回答者の属性は表 1 に示した。回答者の 93.6%が課程 責任者であった。 2.専門職博士課程の概要  開設年は 2000 年代に多くの課程が開設しており,特 に 2001 年 の 開 設 が も っ と も 多 く(11.0 %),2002 ∼. 図 1 開設年(%) 注:はじめて専門職博士(DPT)課程が開設されたのは 1993 年のため,それ以前と記入した人は前身校を指すと思 われる.. 2004 年と続いた(図 1)。公立私立別の開設年に有意な 差はなかった(t 検定の結果:等分散,公立平均 2002 ± 13,私立平均 2002 ± 6,p = 0.91)。修士課程から専. 97.2%であった。また,高等学校卒業で学士と博士が両. 門職博士に移行した課程が 92 校(84.4%)と多数であっ. 方とれる課程(3 + 3 コース)が 10 校 9.2%あった(大. た。1 学年学生数は最頻値が 40 名 15 校(13.8%,範囲. 学卒業コースと高等学校卒業コースの併設校を含む) 。. 18 ∼ 120 名)であった。修学期間の頻度は 36 ヵ月(62.4. 修士取得者は 57 校 52.3%で入学があった。博士学位取. %),次いで 33 ヵ月(13.8%),範囲 27 ∼ 78 ヵ月であっ. 得者の入学は 12 校 11.0%であり,いずれも 1 校につき. た。78 ヵ月と回答した課程は高等学校卒業で入学する. 1 ∼ 2 名であった。. コースを併設していた。修了後 6 ヵ月以内の就職率は 100%が 94.5%,その他も皆 95%以上であった。前年度. 3.専門職博士課程の現状評価. 修了生は,開設が近年で修了生がまだいない 2 校と無回.  開設要因,利点,問題点,課題の 4 設問について χ. 答 3 校を除き 104 校 95.4%で専門職博士修了生をだして. 適合度検定と残差の比較を行った。期待度数 5 未満のセ. おり,最頻値は修了生 40 名(8.3%,範囲 11 ∼ 108 名). ルは 0%であった。開設要因は, 「APTA の決定にした. であった。修士修了生をもつ 2 校はいずれも近年の開設. がって」「教育内容高度化が可能」,「専門職博士課程へ. で専門職博士課程への移行過程にあった。新入学生の取. の移行が時の流れ」,「入学希望者増大効果」がいずれも. 得していた学位は,入学要件を大学卒業とする課程が. p < 0.001 で有意に偏りがあり,多かった(表 2) 。その. 2.

(4) 専門職博士課程に移行したアメリカにおける理学療法教育の現状. 25. 表 2 専門職博士(DPT)課程開設要因・利点 回答数 開設決定要因. p値. 有意差. APTA の決定にしたがって. 84. 77.1. <0.001. **. 教育内容高度化が可能. 80. 73.4. <0.001. **. 専門職博士課程への移行が時の流れ. 76. 69.7. <0.001. **. 入学希望者増大効果. 73. 67.0. <0.001. **. 直接診療の道を開く. 57. 52.3. 0.63. CAPTE 認証が専門職博士課程のみとなった. 6. 5.5. 注. 専門職博士課程と同等の単位数の教育を実施. 4. 3.7. 注. その他 開設利点. 割合%. 9. 8.3. カリキュラム改善. 92. 86.0. <0.001. **. 学生の能力向上. 81. 75.7. <0.001. **. 直接診療拡大. 65. 60.7. 0.028. *. 質のよい入学希望者増加. 41. 38.3. 0.017. †. PT の社会的地位向上. 41. 38.3. 0.017. †. 入学希望者の増加. 36. 33.6. <0.001. ††. 国家試験合格率向上. 18. 16.8. <0.001. ††. 就職率向上. 10. 9.3. <0.001. ††. その他. 10. 9.3. * p<0.05 ** p<0.01 有意に多い 有意に少ない † p<0.05 †† p<0.01 注)その他記入欄からアフターコード化した. 他欄自由回答からアフターコード化したのが「CAPTE. 診療の拡大」の回答割合は表 4 のとおりであった。自由. 認証が専門職博士課程のみとなった」と「専門職博士課. 記載による意見は 44(40.4%)の回答があり,そのうち. 程と同等の単位数の教育を実施」であった。. 専門職博士課程への移行に賛成する意見が 65.9%と多.  同様に開設利点は,「カリキュラム改善」「学生の能力. く,反対する意見は 11.4%と少数だった。. 向上」 「直接診療拡大」が有意に多かった。「就職率向上」 「国家試験合格率向上」「入学希望者の増加」「質のよい. 考   察. 入学希望者増加」「PT の社会的地位向上」は有意に選.  回答者は専門職博士課程責任者が直接記入したものが. 択が少なかった(表 2)。. 93.6%を占め,各課程を代表する意見が集約できた(表.  問題点は,「学生の経済的負担の増加」が p < 0.001. 1)。回答者の職位は教授が 46.8%にとどまっており,課. で有意に多かった。有意に選択が少ない項目は表 3 のと. 程責任者の約半数が教授以外であることは日本と異なる. おりであった。その他記載欄で「博士課程教育にふさわ. アメリカの実情を示している。. しい教員の不足」を記載した人が 3.7%いた。  課題は,「学生の経済的負担の改善」が有意に多かっ. 1.専門職博士課程への移行. た。有意に選択が少ない項目は表 3 のとおりであった。.  先行研究によると,学士から修士課程への移行に比べ. その他記載欄で「博士教育にふさわしい教員の確保・充. ると,博士課程への移行はより短期で急速である. 実」を挙げた人が 8.3%いた。. 開設年は,2000 年代前半にピークがあり,2010 年前後 2. 1)5). 。.  上記 4 設問と公立私立別の関連について,χ 独立性. に収束し(図 1) ,2015 年に全養成課程が専門職博士課. の検定を行ったところ,すべて p < 0.05 で有意な関連. 程 に 移 行 し た。2000 年 の Vision 2020(APTA) ,2006. はなかった。また調整済み残差による頻度の差も見られ. 年の CAPTE による専門職博士課程推奨を契機に開設. ず,関連度を表す連関係数も ‒ 2 < φ < 2 で,有意では. が進んだことを考慮に入れると,開設年は「2000 年以. なかった。. 前の移行開始期」「2001 ∼ 2005 年の移行最盛期」 「2006.  自由記載による重要な課題において記入のあった回答. 年以降の移行収束期」の 3 つの時期がある。. は 88(80.7%)であり,そのうち「学生の経済的負担の.  公立私立別では,私立の移行が先に進んだとの報告. 軽減」,「臨床実習先の確保・充実」,「博士教育にふさわ. があるが,本研究では公立私立別の開設時期に関する有. しい教員の確保・充実」,「カリキュラムの改善」,「直接. 意差はみられなかった。開設平均値は 2002 年で同じで. 5).

(5) 26. 理学療法学 第 43 巻第 1 号. 表 3 専門職博士(DPT)課程の問題点,課題. 問題点. 課題. 回答数. 割合%. p値. 有意差 **. 学生の経済的負担の増加. 74. 67.9. <0.001. 博士取得が経済的メリットにつながらない. 59. 54.1. 0.389. 博士にふさわしい臨床実習改善の遅れ. 38. 34.9. 0.002. ††. 学習時間が増え学生の負担が増加. 38. 34.9. 0.002. ††. PT の社会的地位の改善の遅れ. 32. 29.4. <0.001. ††. 博士取得が雇用改善につながらない. 28. 25.7. <0.001. ††. 優秀な学生確保競争の強まり. 11. 10.1. <0.001. ††. 博士にふさわしい教育が質量ともに不十分. 8. 7.3. <0.001. ††. 博士にふさわしいカリキュラム改善の遅れ. 6. 5.5. <0.001. ††. 博士教育にふさわしい教員の不足. 4. 3.7. 就職の大都市志向が強まり地方で PT 不足. 3. 2.8. <0.001. ††. <0.001. ††. **. DPT を避け安い PT アシスタント採用傾向. 2. 1.8. その他. 8. 7.3. 注. 学生の経済的負担の改善. 70. 64.2. 0.003. 臨床実習の改善. 58. 53.2. 0.503. 直接診療拡大のための活動. 17. 15.6. <0.001. ††. カリキュラム内容の改善. 15. 13.8. <0.001. ††. 就学期間の延長. 15. 13.8. <0.001. ††. 国家試験合格率の改善. 13. 11.9. <0.001. ††. PT の社会的地位向上活動. 10. 9.2. <0.001. ††. 入学希望者の拡大. 9. 8.3. <0.001. ††. 博士教育にふさわしい教員の確保・充実. 9. 8.3. 就学期間の短縮. 5. 4.6. <0.001. ††. 博士にふさわしい雇用先の拡大. 3. 2.8. <0.001. ††. その他. 9. 8.3. 注. * p<0.05 ** p<0.01 有意に多い 有意に少ない † p<0.05 †† p<0.01 注)その他記入欄からアフターコード化した. 表 4 重要な課題(自由記載). いが,必ずしも 3 年に限定されるものではなく,また 1 学年学生数も開設校によりばらつきが大きいことがわ. 回答数. 割合%. 学生の経済的負担の軽減. 36. 40.9. かった。. 臨床実習先の確保・充実. 24. 27.3.  学士取得を入学要件とする課程が多数であったが,高. 博士教育にふさわしい教員の確保・充実. 8. 9.1. 等学校卒業生対象の 3 年制学士コースを併設する課程が. カリキュラムの改善. 6. 6.8. 10 校あった(3+3 コース) 。CAPTE によると,3 年間. 直接診療の拡大. 4. 4.5. の学士養成コースを併設する専門職博士課程が全米で. その他. 6. 6.8. 25 校存在し,高等学校卒業で入学した場合,3 年の学士. 課題は特にない. 6. 6.8. コースを修了し専門職博士課程進学後の 1 年修了時に学 士資格を取得でき,合計 6 年で学士,専門職博士の両方 を取得できる. 26). 。アンケートからも高等学校卒業で入. あるが,標準偏差は公立 13 年,私立 6 年であり,私立. 学する学生の存在が明らかになった。修学期間の 78 ヵ. に分散が少ない傾向が見られた。. 月は高等学校卒業者を対象としている。また,専門職博 士は修士課程を経ずに専門職博士学位を取得できること. 2.専門職博士課程の特徴. が特徴である。.  就学期間は 36 ヵ月,33 ヵ月合わせて 76.2%を占めた が,27 ∼ 78 ヵ月まで幅があり,1 学年あたり学生数は. 3.専門職博士課程への移行の要因と利点. さらに大きく分散する傾向が見られた。3 年制課程が多.  開設要因で 2 番目に回答が多かった「教育内容高度化.

(6) 専門職博士課程に移行したアメリカにおける理学療法教育の現状. 27. が可能」は,開設利点においても「カリキュラム改善」. 教員の確保・充実」については,公立大学の回答に「博. の高さとして現れており,カリキュラムの改善効果が. 士授与研究大学に比べて博士教育にふさわしいレベルの. あったと考えられる。また,「学生の能力向上」を利点. 教員が確保できない」とあった。博士課程への移行をめ. に挙げたものが 75.7%あった。しかし,開設要因の「入. ぐる論争点としても早くから専門職博士課程は博士号授. 学希望者増大効果 67.0%」は,開設利点においては「入. 与大学に,教員は専門職博士学位ではなくアカデミック. 学 希 望 者 の 増 加 33.6 %」,「 質 の よ い 入 学 希 望 者 増 加. な博士学位取得者に限定すべきという主張があり. 38.3%」とも低い割合であり,開設する際に期待してい. 小規模校を中心に専門職博士教育にふさわしい教員確保. た効果と実際に感じている利点との間にギャップがあっ. が課題となっていると考えられる。. た。専門職博士課程開設はカリキュラム改善や学生の能.  Mathur. 力向上につながったが,入学希望者の増加にはつながら. が強まり地方で PT が不足するのではないか,給料の高. なかったと考えられる。その背景として,開設数の急増. い専門職博士を避け安価な PT アシスタントを採用する. があり,課程間での学生確保競争が激化していることが. ようになるのではないかとの意見を紹介した。また,. 考えられる. 27). 。アンケートの中で,開設当初は効果が. King. 19). 8). 29). ,. は,専門職博士になると就職の大都市志向. も専門職博士課程への移行は地域医療に格差を. あったが,全課程が専門職博士課程になる中で,差別化. もたらすのではないかと予想したが,本アンケートでは. がなくなったとの意見も 2 校で認められた。. それらの意見はほとんど見られなかった。これは就職の.  開設要因,開設利点,問題点,課題について,公立私. 都市志向は以前からあるものであり,また PT と PT ア. 2 立別に χ 独立性検定を行ったところ,有意な関連はな. シスタントでは業務内容が違い,アシスタントで補うこ. かった。開設要因では,開設年が遅い傾向があった公立. とはできないため現実的な問題になっていないからと考. 大学. 5). ほど,「APTA の決定にしたがって」や「専門. えられる。. 職博士課程への移行が時の流れ」といった他律的要因が.  これらの課題を抱えつつも自由意見では,専門職博士. 強まるのではないかと考えたが,仮説を裏づけることは. 課程への移行を積極的に評価する見解が反対意見を 5 倍. できなかった。開設利点,問題点,課題においても,公. 近く上回った。「専門職博士は,直接診療拡大に向け理. 立私立別の有意差は認められなかった。. 学療法士の社会的評価を高める推進エンジンとなってい る」と,直接診療拡大のため不可欠なステップであると. 4.専門職博士課程が抱える問題点・課題. いう意見が 3 校で認められた。.  専門職博士課程の抱えるもっとも大きな問題は「学生.  アメリカの理学療法教育における専門職博士課程への. の経済的負担の増加」であった。本項目についても公立. 移行は,Hasson. 私立別での有意差は認められず,公立においても学生の. 響力をもつと考えられる。他方,ヨーロッパでは理学療. 経済的負担が問題となっていると考えられる。課題でも,. 法教育は 3 年制学士課程における養成へと収斂しつつあ. 学生の経済的負担改善が高く,学生の経済的負担改善が. り. 専門職博士課程の大きな課題である。博士課程への移行. に進行しているのは興味深い。. による学生の経済的負担増の要因としては,修学期間が 修士 2 年から博士 3 年に長くなったこと,博士課程の授. 10). が指摘するように,今後国際的な影. 30). ,ふたつの有力な世界的理学療法教育再編が同時. 本研究の限界. 業料が学士・修士に比べ高いことのふたつが自由回答で.  本研究の限界としては,回収率がほぼ半数であり,一. 指摘されていた。CAPTE は授業料を含む学生の総経費. 般化には制限がある。事前に課程責任者の承諾をメール. (3 年間)の平均が公立$50,294,私立$94,251 と報告し. で得るなど,回収率を高める工夫の検討が必要と考え. 28). 。統計的有意差はなかったが「博士取得が経. る。また,本研究で明らかになった専門職博士課程への. 済的メリットにつながらない」も高い割合であり,専門. 移行によるカリキュラム改善および学生の能力向上につ. 職博士への移行がそれに見合った給料向上につながって. いて,その具体的内容の検討は今後の課題として残され. いないことが公立私立共通した課題となっている。. ている。アメリカにおける専門職博士課程への移行は,.  重要な課題では,「学生の経済的負担の軽減」につい. 理学療法士による直接診療の拡大が背景にあり,移行の. で,「臨床実習先の確保・充実」,「博士教育にふさわし. 検討には各国保険制度も考慮する必要がある。直接診療. い教員の確保・充実」が順に多く見られた。「臨床実習. が認められている国と認められていない国との比較,お. 先の確保・充実」については,博士課程の急増により臨. よび民間保険優位のアメリカと異なる保険制度をもつ. 床実習先の確保充実が難しくなってきていること,博士. ヨーロッパ諸国との比較検討も有効である。. ている. にふさわしい臨床実習の内容改善が遅れていることの 2 点の指摘が見られた。特に急性期の実習地確保が難しい との意見が 3 校で認められた。 「博士教育にふさわしい. 結   論  専門職博士課程への移行は,多くの課程でカリキュラ.

(7) 28. 理学療法学 第 43 巻第 1 号. ム改善と学生の能力向上という効果をもたらした。しか し入学希望者増大には十分につながらなかった。また, 博士課程への移行により学生の経済的負担増が大きな問 題となっており,負担改善や負担増を補う博士学位にふ さわしい就職先の開拓が課題となっていた。カリキュラ ム改善では効果があったが,臨床実習については,博士 教育にふさわしい実習先の確保および実習内容改善にお いて課題が残されていた。また専門職博士課程への移行 が急速に進んだため,博士教育にふさわしい教員の確保 も課題となっていた。  今後,理学療法士養成における専門職博士課程への移 行を検討する際には,アメリカの成果や課題に学ぶこと が有益と考える。 謝辞:本研究を実施するにあたり,調査にご協力いただ きました専門職博士課程責任者各位に感謝いたします。 また,研究助成を賜りました公益社団法人日本理学療法 士協会に深く感謝申し上げます。 文  献 1)Plack MM: The evolution of the Doctorate of Physical Therapy: moving beyond the controversy. J Phys Ther Educ. 2002; 16(1): 48‒59. 2)APTA [internet]. Vision 2020. [cited 2015 March 10]. Available from: http://www.apta.org/Vision2020/ 3)APTA [internet]. Physical Therapist (PT) Education Overview. [cited 2015 May 13]. Available from: http:// www.apta.org/PTEducation/Overview/ 4)CAPTE [internet]. Evaluative Criteria for Accreditation of Education Programs for the Preparation of Physical Therapists. [cited 2015 March 10]. Available from: http:// www.capteonline.org/uploadedFiles/CAPTEorg/ About_CAPTE/Resources/Accreditation_Handbook/ EvaluativeCriteria_PT.pdf - search=% 22Evaluative criteria 2006% 22 5)Domholdt E, Kerr LO, et al.: Professional (Entry-Level) doctoral degrees in physical therapy: status as of spring 2003. J Phys Ther Educ. 2006; 20(2): 68‒76. 6)Anderson CA: Current strengths and limitations of doctoral education in nursing: are we prepared for the future. J Prof Nurs. 2000; 16(4): 191‒200. 7)Griffiths Y, Padilla R: National status of the entrylevel doctorate in occupational Therapy (OTD). Am J Occupational Therapy. 2006; 60: 540‒550. 8)Mathur S: Doctorate in Physical Therapy: Is it Time for a Conversation? Physiother Can. 2011; 63(2): 140‒142. 9)Mistry Y, Francis C, et al.: Attitudes toward Master’s and Clinical Doctorate Degrees in Physical Therapy. Physiother Can. 2014; 66(4): 392‒401. 10)Hasson S: Doctorate in Physical Therapy (DPT): What is the DPT and why is it becoming the entry-level degree in the United States? Physiother Theory Pract. 2003; 19: 121‒122.. 11)Warren SC, Pierson FM: Comparison of characteristics and attitudes of entry-level Bachelor’s and Master’s degree students in physical therapy. Phys Ther. 1994; 74: 333‒348. 12)Deusinger SS, Deusinger RH, et al.: DPT controversy. Phys Ther. 1993; 73: 329‒330. 13)Paris SV, Fearon FJ, et al.: More on DPT controversy. Phys Ther. 1993; 73: 548‒550. 14)Rothstein JM: Education at the cross-roads: for today’s practice, the DPT. Phys Ther. 1998; 78: 358‒360. 15)Rothstein JM: Education at the cross-roads: which paths for the DPT. Phys Ther. 1998; 78: 454‒457. 16)Kuenstler K, Duquette TL: On the DPT. Phys Ther. 1998; 78: 780‒782. 17)Johanson MA: Association of importance of the doctoral degree with students’ perceptions and anticipated activities reflecting professionalism. Phys Ther. 2005; 858: 766‒781. 18)Gwyer J, Odam C, et al.: History of clinical education in physical therapy in the United States. J Phys Ther Educ. 2003; 17: 34‒43. 19)King J, Freburger JK, et al.: What does the clinical doctorate in physical therapy mean for rural communities? Physiother Res Int. 2010; 15(1): 24‒34. 20)Melzer BA:米国における理学療法教育の歴史的考察. PT ジャーナル.1993; 27: 316‒319. 21)高 橋 正 明: ア メ リ カ の 理 学 療 法 教 育.PT ジ ャ ー ナ ル. 1995; 29: 4‒7. 22)Mathews JS:Present status of physical therapy in the United States and future Directions.理学療法学.1990; 17: 509‒523. 23)藤澤宏幸:理学療法士養成における教育制度の国際動向と 今後の展望.理学療法の歩み.2006; 17: 24‒31. 24)川口浩太郎:カナダ,アメリカ合衆国における大学院での 理学療法教育について.広島大学保健学ジャーナル.2005; 4(2): 94‒99. 25)千住秀明:7.理学療法士教育.理学療法概論(第 3 版) . 千住秀明(監),九州神陵文庫,福岡,2010,pp. 89‒107. 26)CAPTE [internet]. CAPTE Accredited Physical Therapist Education Programs. [cited 2014 Nov. 15]. Available from: http://www.capteonline.org/apta/directories/ accreditedschools.aspx?navID=10737421958&site=capte 27)Woods EN: The DPT: What it means for the profession. PT Magazine. 2001: 36‒43. 28)CAPTE: 2012-2013 Fact Sheet Physical Therapist Education Programs. 2014; 1‒37. 29)Threlkeld A, Jensen G, et al.: The clinical doctorate: a framework for analysis in physical therapist education. Phys Ther. 1999; 79: 567‒581. 30)田中幸子,田中秀樹:スウェーデンにおける高等教育再編 ─ボローニャ・プロセスの受容と進展─.健康科学と人間 形成.2015; 1: 21‒28.. 補遺 Questionnaire on Physical Therapy Entry Level Education (http://jspt.japanpt.or.jp/journal/rigaku-apendix/).

(8) 専門職博士課程に移行したアメリカにおける理学療法教育の現状. 〈Abstract〉. The Current State and Challenges of American Physical Therapy Education Following a Move to Clinical Doctoral Courses: An Analysis of Data from a Questionnaire Survey of Training Courses. Sachiko TANAKA, PT, PhD Hiroshima Cosmopolitan University Hideki TANAKA, PhD Hiroshima University Chiyoko BUTCHER, OT, MS Former West Memphis School District. Purpose: The aim of this study was to elucidate the features of American physical therapy education following a move to clinical doctoral courses and the benefits, problems, and challenges of this move in order to investigate the process of turning physical therapy education into clinical doctoral courses. Methods: A postal questionnaire survey of course directors of accredited physical therapist training courses by CAPTE (Commission on Accreditation in Physical Therapy Education) in America was conducted. The chi-square goodness-of-fit test was used to examine the significance of responses regarding course establishment factors, establishment benefits, problems, and challenges. Results: The recovery rate was 51.4 % . Three-year clinical doctoral courses that had moved from master’s courses and courses requiring bachelor’s degree for admission accounted for the majority. The most common establishment benefits were improved curriculum, enhanced student capabilities, and the expansion of direct medical care (p<0.05). The most common problem and challenge for the clinical doctoral courses was the increased economic burden placed on students (p<0.01). Improving clinical practice and securing faculties and equipment appropriate for a clinical doctoral course were also cited as challenges. Conclusions: While improvement in educational contents following the process of turning physical therapist training into clinical doctoral courses is expected, our results suggest that the economic burden placed on students needs to be considered. Key Words: Physical therapy education, Doctoral course, America. 29.

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