温暖化長期安定化目標はどう考えるべきか?
How Should We Deal with the Issue of Long-term Stabilization Target
against Global Warming?
秋 元 圭 吾
*・ 森 俊 介
**・ 林 礼 美
*・ 本 間 隆 嗣
*Keigo Akimoto Shunsuke Mori Ayami Hayashi Takashi Homma
佐 野 史 典
*・ 小 田 潤 一 郎
*・ 友 田 利 正
*・ 茅 陽 一
*Fuminori Sano Junichiro Oda Toshimasa Tomoda Yoichi Kaya
(原稿受付日2007 年 7 月 30 日,受理日 2008 年 2 月 26 日)
The long-term stabilization target of greenhouse gases is discussed with the consideration of the post-Kyoto treaty. However, it is very difficult to decide the target level because of large uncertainties of global warming and its impacts, and inevitable value judgments. For example, EU proposes that the increase in global mean temperature should be below 2 ºC from pre-industrial level. We conducted integrated assessments of global warming damages and mitigation and adaptation measures for different stabilization levels, and investigated which level Japanese experts consider to be preferable from the provided quantitative results of impacts alleviation and emission reduction costs which were scientifically obtained. Based on the evaluations of and the comparison with the Stern Review that intends to be a recent comprehensive assessment of global warming, this paper discussed how we should deal with the issue of long-term target and whether they are appropriate. Our highly consistent analysis indicates that around 550 ppmv stabilization is justified better than the EU-proposed target or the levels recommended by the Stern Review, and will contribute towards leading discussions on the post-Kyoto treaty.
1.はじめに ポスト京都をめぐり,国連気候変動枠組条約(UNFCCC) を舞台とした公式な国際的議論が2005 年に開始された.そ して, 2007 年に入り,ポスト京都をめぐる議論が一層活 発化してきた.これまで,主導的な役割を果たしてきてい るのは,何と言ってもEU である.全球平均の気温上昇は 産業革命以前比で2℃を越えるべきではないとした上で, その実現のために世界全体が 2050 年までに少なくとも 1990 年比半減,先進国と途上国の差異を考えると,先進国 全体で2050 年までに 1990 年比で 60~80%削減すべきと した.また,このため,先進国は2020 年までに 1990 年比 で30%削減すべきであるとした.その上で,EU は,他の 先進国が相応の削減を行い,途上国がその責任及び能力に 応じて十分な貢献を行う場合は,2020 年までに 1990 年比 で30%削減する.国際的な協力が得られない場合であって も,独自のコミットメントとして,2020 年までに 1990 年 比で少なくとも20%削減するとした. 日本政府も,2007 年 5 月 24 日に具体的な長期目標につ いに言及した.それは,世界全体の温室効果ガス排出量を 2050 年までに現状から少なくとも半減させるとするもの である.またそこでは,3原則として,米国,中国,イン ドを含む枠組み,個別の事情を配慮した柔軟な枠組み,環 境と経済が両立した枠組みを目指すとした.続いて米国政 府も5 月 31 日に,具体的な数値目標は示さないまでも,2008 年末までに中国,インドを含む主要排出国で長期目標の合 意をはかることを表明した.その上で,個別事情を考慮し た柔軟な中期目標の提案や,セクター別の取り組みの重要 性などを強調した.そして6 月 6~8 日に開催されたG8 ハ イリゲンダム・サミットでは,世界全体の温室効果ガス排 出量を2050 年までに少なくとも半減させるという目標1に ついて「真剣に検討する」ことが合意された.世界レベル での具体的な長期目標の合意に向けて大きな前進が見られ た.しかし,具体的な目標自体が合意されたわけではなく, 全世界的な合意は今後の議論に委ねられた形となっている. これらと前後し,IPCCの第4次評価報告書(AR4)の政 策決定者向け要約1)が2007 年 2~5 月に公表された.温暖化 の深刻さが増していることが窺い知れる報告となった.一 方これに先立つ2006 年 10 月には,英国財務省の委託によ
ってN. SternらがまとめたStern Review2)も公表され,IPCC
の報告と同様にマスコミにも大きく取り上げられた.Stern ReviewはEUの温暖化緩和目標をサポートするような内容 になっている.一方,我々は通称PHOENIXプロジェクトを 2002 年に立ち上げ,温暖化影響と緩和・適応方策を総合的 に分析・評価し,長期的な温暖化抑制目標のあり方を検討 してきた3).本報告ではPHOENIXによる研究から示唆され た現時点での望ましい濃度安定化目標を,EUの2℃安定化 目標,またそれを強くサポートしているStern Review,更に * (財)地球環境産業技術研究機構 システム研究グループ 〒619-0292 京都府木津川市木津川台 9-2 e-mail [email protected] **東京理科大学 理工学部 経営工学科 〒278-8510 千葉県野田市山崎 2641
1 EUは 1990 年比を主張,日本は現状比を主張したが,基準年は明 確にされなかった.
はそれらと比較的近い日本政府提案とを比較しつつ,その 妥当性を論じる.これによって具体的な長期安定化目標の 国際的な合意に向けての科学的な側面からの支援としたい. 2.長期濃度安定化目標 UNFCCC 第2条目的においては,「(・・・)気候系に対 して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準におい て大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを究極 的な目的とする.そのような水準は,生態系が気候変動に 自然に適応し,食糧の生産が脅かされず,かつ,経済開発 が持続可能な態様で進行することができるような期間内に 達成されるべきである.」とされており,これは「究極目標」 とも呼ばれているが,条約においては,その具体的な濃度 安定化レベルは示されていない.ここでは,持続的な経済 開発無くしては,有効な気候緩和方策も実行できないため, 「究極目標」は,気候系と経済活動へのインパクト双方の バランスを考えたものである必要性が述べられている. EUはこの「究極目標」として,産業革命以前で2℃安定 化が望ましいとしてきたわけである.一方,このEUの2℃ 目標に対する批判的な論文として,Tol (2007)が挙げられる 4).Tol (2007)では「2℃目標は根拠がない」とし,「矛盾し た目標や,不当に正当化した目標は,速やかなる政策決定 や実施を妨げる」としている.本論文では,より科学的根 拠を有し,またより首尾一貫性のある手順に基づいた目標 はどのようなものであるかを議論する. 3.長期濃度安定化目標へのアプローチと得られた望まし い安定化目標 3.1 長期濃度安定化目標へのアプローチ 人類が利用できる資源は限られており,それを効果的に 割り当てることが求められる.そのため,長期濃度安定化 目標も費用便益的に考えることが不可欠である.また,そ れは,UNFCCC の目的や原則とも整合した考え方と言える. そこで我々は費用便益的な分析・評価によって,望ましい 長期濃度安定化目標の検討を行った. 従来からも費用便益分析に基づいた温暖化影響の大きさ と緩和費用の統合評価が行われてきた.しかし,Tolが文献 4)で言及しているように,EUの2℃目標は明らかにそこか ら得られている科学的知見を取り入れていない.費用便益 分析からは,より高い濃度レベルでの安定化が好ましいと する結果が得られている.一方,温暖化問題は,各種温暖 化影響事象間の相対価値化の問題,地域的な差異の考慮, 世代間の衡平性の考慮が必要なことに加え,不確実性が極 めて大きいため,どの程度予防的に考えるかについてなど, 長期安定化目標のレベルを決定する際には,価値判断が不 可避である.そのため,通常の費用便益分析では限界もあ る.これまでの費用便益分析においても,支払意志額 (WTP)を調査して非市場価値の影響事象を統合したり, 地域間の温暖化影響の統合において各地域の所得を用いて 補正を行ったり,将来世代との衡平性については時間選好 割引率を用いたりして一定限の考慮はなされてきた5).しか し,これらはすべて個々人の価値判断によるものであるに も関わらず,費用便益分析に基づく統合評価モデルで評価 する場合,モデルの前提条件パラメータとして扱われ,ブ ラックボックス的になりやすい.そのため,コミュニケー ションツールとして十分なものとは言いがたい面もある. そこでPHOENIX では,各種温暖化影響の大きさや緩和 費用等の定量的な分析・評価をまず実施した上で,その結 果を複数の専門家に提示した上で判断を求めた.これによ って科学的な分析評価と価値判断の評価とを区別した.以 下に,我々が実施した望ましい濃度安定化レベル導出のた めの分析・評価の手順を示す.なお,第1ステップと第2 ステップと2段階で専門家の判断を求めたのは,分析・評 価結果が膨大なため,専門家といえども論理的な思考がし にくいことを考えたためである.第1ステップでは定量的 な評価が比較的容易な事象に限定し,また,時点(2100 年), 地域(世界合計)も限定して調査を実施した. <I.RITE による温暖化影響・緩和コストの推定・評価> ① 特段のCO2排出抑制を想定しないリファレンス(BaU) 排出パスと,IPCC WG1 による各CO2濃度レベルに安定化 するためのS650,S550,S450 の各排出パス6)について,2050, 2100,2150 年の各時点における各種温暖化影響の大きさの 物理量,およびリファレンス排出パスから濃度安定化パス に排出抑制するためのエネルギーシステムコスト,付加価 値損失等を,各種のモデルを利用して整合的に推定2(分 析・評価の基礎となる人口,GDP等のベースラインシナリ オはIPCC SRES B2 シナリオ7)で統一) ② 定量的な評価が困難な温暖化影響事象についても,考 えられる影響を定性的に整理 <II.エキスパートジャッジメント―第 1 ステップ> ① I.の評価のうち,リファレンスから S550 にした場合の 5項目(海面上昇・沿岸影響,農作物影響,健康影響,陸 上生態系影響,熱塩循環崩壊)についての温暖化影響低減 の物理量(2100 年時点,世界合計値),および,そのとき の緩和コスト(世界合計値,2100 年時点の実質価格(2000 年価値)での限界削減費用)をエキスパートに提供 2 PHOENIXでもNon-CO 2 GHGs排出の推定,削減費用の評価を行な ったが,それらは不確実性が高いため,Non-CO2 GHGs排出は,す べての排出パスで,外生的にIPCCシナリオを用いて分析した.
② 温暖化影響事象5項目の影響低減について,一対比較 による相対的重付けを質問 ③ I.における評価の前提とした一人当たり所得,および, 統計的生命価値(VSL)の事例,日本の各種環境政策にお いて費やされている費用を参考情報として提示した上で, 温暖化起因健康影響による死亡回避価値について,具体的 な金銭値を質問 <III.費用便益分析> ① II.②,③の質問に対する回答から,回答者別に,2100 年時点の5項目の温暖化影響についての影響低減に伴う便 益の金銭換算値を導出.なお,5項目の温暖化影響低減の 便益は,それぞれの物理量変化に対し線形とした. ② I.の評価のうち,2100 年時点におけるリファレンス, S650,S550,S450 の各排出パスについての5項目の温暖化 影響および緩和コストの推定値と,上記①で導出した2100 年時点における温暖化影響事象別の影響低減(リファレン スからS550 にした場合)の金銭換算値を基に,影響低減の 金銭換算値と緩和コストの差(これを純便益と定義)を算 出し,純便益の最も大きい安定化レベル(以下,「一次最適 安定化レベル」と記載)を特定 <IV.エキスパートジャッジメント―第 2 ステップ> ① 各回答者に,本人の第 1 ステップでの一次最適安定化 レベルを通知 ② リファレンス,S650,S550,S450 の各排出パスについ て,2050 年,2100 年,2150 年の3時点における,地域別 の各種温暖化影響(第1 ステップで注目した5項目以外の 事象も含む)および緩和コスト・緩和策に関して,モデル や文献調査に基づいて実施した定量的(淡水資源影響など) もしくは定性的評価(西部南極氷床の崩壊,グリーンラン ド氷床の減少,林業,漁業,異常気象など)について整理 した資料を提示 ③ 最も望ましいと考える濃度安定化レベル(排出パス) を直接的に質問 ④ 質問③の回答を行った理由や,一次最適安定化レベル と異なった(もしくは同等とした)理由について質問 <V.結果のまとめ> ① IV のエキスパートジャッジメントの回答集計,分析, まとめを実施 なお,本稿は,EU2℃目標の意味づけについての政策的な 評価を論じることを目的としているため,分析に用いた各 モデルの説明やそれによって得られた定量的な分析結果 (その一部については文献8–12)を参照),専門家へのアン ケート調査のより詳細な内容については,別稿で機を改め て紹介したい. 3.2 望ましい安定化目標 第 3.1 節で示したような評価手順によって,望ましい濃 度安定化レベルを導出した.専門家は日本における主要な 温暖化問題に関する専門家25 名(大学,産業界,研究機関 など)である.調査対象者の偏りをなくす工夫は特段行っ ていない.これは温暖化問題全体に精通した専門家はかな り限定的であり,またアンケートが複雑であったためであ る.そのためエキスパートジャッジメントの結果は,限ら れた日本の温暖化問題の専門家による判断ということにな る.しかし,整合的かつ一貫的な分析・評価によって,地 球温暖化の望ましい安定化レベルを導出した意義は大きい. 図1 には,第1ステップにおける費用便益分析によって, 専門家が望ましいと考えた濃度安定化レベルを4グループ 別(グループA:緩和策専門家、グループB:温暖化影響専 門家、グループC:温暖化全般専門家、グループD:RITE 研究実施者)および全調査対象者の相乗平均で示したもの である.この分析からは,いずれのグループにおいても, 650 ppmv (CO2 only)が望ましいと考えたと推定された.次 に,図2 に第2ステップにおける回答結果を示す.これに よると,第1ステップの自身の回答からの推定結果,およ び温暖化影響,対策に関する定量的・定性的な評価結果の 全容情報を基に判断した結果,最終的には平均的には 550 ppmv (CO2 only)が望ましいとする結果が得られた. -2,500 -2,000 -1,500 -1,000 -500 0 500 1,000 1,500 2,000 Ref S650 S550 S450 総便 益 ( B ill ion U S 19 90$ per y ear ) Group A Group B Group C Group D All the repondents
図1 第1ステップにおける費用便益分析による結果(4 グループ別および全調査対象者の相乗平均) 回 答者数( 人 ) 0 2 4 6 8 10 12 14 450 500 550 600 650 700 750 Group A Group B Group C Group D 0 2 4 6 8 10 12 14 450 500 550 600 650 700 750 安定化レベル (ppmv-CO2 only) 第1ステップ推定 第2ステップ回答 図2 第2ステップにおける回答結果(第1ステップとの 比較を含む)
4.Stern Review の概要と本研究との比較 4.1 Stern Review の概要 2006 年 10 月,英国財務省の委託を受けたN. Sternらによ る気候変動問題に関する報告書Stern Reviewが公表された2). Review報告書ではあるものの,政治的な色彩が強く英国を 中心としたEUのポスト京都への方針が窺える内容となっ ている.COP12 においても,話題提供がなされた.報告書 の長期目標に関連する記載の概要は以下の通りである3.
•
断固たる排出削減行動による便益は,行動を取らなかっ た場合の経済的費用を大幅に上回る•
気候変動のリスクと費用の総額は,現在および将来にわ たって世界GDP の 5%強に相当し,より広範なリスクや 影響を考慮すれば,GDP の 20%にも達する可能性有り•
450–550 ppmv CO2eq. (Kyoto-6 gases)に安定化すれば,最悪の気候変動による影響はかなり減少
•
500–550 ppmv CO2eq. (Kyoto-6 gases)に安定化するための温室効果ガス排出削減コストは,世界GDPの 1%未満に 留まる見込み.一方,450 ppmv CO2eq. (Kyoto-6 gases)に
安定化することは,大変難しくコストがかかる.すぐに 対策をとらなければ,500–550 ppmv CO2eq. (Kyoto-6
gases)に安定化する機会を失ってしまう.
明示的に長期安定化目標を示しているわけではないもの の,これらからは,500–550 ppmv CO2eq. (Kyoto-6 gases)に
濃度を安定化することを推奨しているものと解釈できる.
このように,Stern Reviewでは気温ではなく,大気中温室効
果ガス濃度安定化レベルで言及しているが,500 ppmv CO2eq. (Kyoto-6 gases)の場合,EUの2℃目標とほぼ整合す
る. Stern Reviewに対しては,多くの賛辞がある一方,地球温 暖化の統合評価において著名な研究13–14)を行っているR.S.J. TolやW.D. Nordhausらが批判的な評価を行っている15–16).特 に共通した批判は,Stern Reviewがあまりに低い時間選好割 引率(0.1%/yr)を用いている点である.Nordhausは,統合 評価モデルDICEによってその検証を行っている16).それに よると,DICEで計算した場合でも,割引率 0.1%/yrを用い ると,Stern Reviewと同様に早期から大幅な排出削減を行う ことが望ましいという結論が得られる一方,割引率を 3~ 1%/yr(時点の経過と共に低減)とすると結果は全く異なり, Stern Reviewが述べているような結論は得られないとして いる.その上で,割引率0.1%/yrは低すぎ,経済社会行動の
3 Stern Review記載の等価CO 2濃度は京都議定書で削減対象となっ ている6 種類の温室効果ガスのみの放射強制力を基に算出された ものであり,IPCC AR41)(温室効果ガスに加え,エアロゾルによ る冷却効果を含む放射強制力に基づく等価CO2濃度で主に議論さ れている)やPHOENIXプロジェクトなどのCO2のみの濃度との比 較に際しては注意が必要である.対応関係については付録を参照. 観測結果から正当化できないとしている4.更に,TolはStern Reviewで引用している論文の選択が偏っていること,適応 策を考慮していない研究成果に基づいて評価が下されてい ること,費用便益分析で決定的な誤りをしている(後述) ことなどを批判している.更には,G. Yohe et al.も批判的に まとめている17). 4.2 本研究と Stern Review の比較 本節では,我々の分析・評価とStern Review の差異につ いて述べる.表1 には,その比較の概要を示す. (1) 方法論の比較
まず,Stern Reviewが 500–550 ppmv CO2eq. (Kyoto-6 gases)
相当の安定化レベルを推奨するに至った方法論について, PHOENIXと比較しつつ見ることとする.まず,温暖化影響 の評価であるが,Stern Reviewでは,基本的にIPCC SRES A2
ベース(人口は,高位の想定で2100 年に 150 億人,2200 年はStern Review独自の想定により 270 億人.一人当たり経 済成長は低位)のBaUシナリオ(温暖化緩和策をとらない 場合)で行っている.その結果,2100 年の一人当たりGDP ロスは0.9%,2200 年では 5.3%としている.これに時間選 好割引率 0.1%/yrを用いて年平均の温暖化影響費用を算出 した結果として,一人当たりGDPロスは 5%としている. 一方,非市場の温暖化影響を考慮すると2200 年に 11%に, また,最近注目されつつある気候システムのフィードバッ クを更に考慮すると 14.4%のGDPロスになるとしている. そして地域的な貧富の差に関する重み付けを行うと 2200 年のGDPロスは 20%になるとしている. 一方,PHOENIXでは,ベースシナリオはIPCC SRES B2 (人口中位,一人当たり経済成長中位)で実施し,BaUシ ナリオのみならず,650,550,450 ppmv (CO2 only)濃度安 定化シナリオで評価を実施した.Stern Reviewでは濃度安定 化シナリオに対応したシステム的な評価を実施していない ため,濃度安定化による温暖化影響低減の便益は算出され ていない.費用便益を考える場合,温暖化影響の大きさそ のものではなく,無対策時と比べて対策によって影響を低 減できる便益と,対策にかかる費用について議論しなけれ ばならないが,Tolも指摘しているよう,Stern Reviewでは それを実施しているわけではない.温暖化影響は,講ずる 温暖化緩和策の程度に応じて低減するものの,仮に今すぐ に厳しい緩和策をとったとしても,気温上昇や海面上昇の 時間遅れ等にもよって,ゼロにはならない.すなわち,温 暖化影響の低減分は,緩和策をとらない場合の影響の大き 4 Stern自身もStern Review出版後,補足資料を公開し(文献 18)), そこにおいて,割引率による感度解析も実施した.それによると, 割引率を1.5%/yrとすると,GDP比 5%強としていた影響は,1.4% となると報告している.
さよりも小さいのである.これらの理由によって,実のと ころStern Reviewは望ましい濃度安定化レベルについて示 唆を与えていないのである. そして,Stern Reviewでは,ベースシナリオとしてSRES A2 ベースを利用しているが,PHOENIXでの検討において も,温暖化影響の大きさは人口や経済成長の度合いによっ て大きく影響され(A2 の場合,温暖化影響が大きく出やす い),ベースシナリオの違いは濃度安定化レベル以上に支配 的な要因となり得ることが示唆されている.また,Stern Reviewでは非市場的な温暖化影響や地域的な貧富の差に関 する重み付けの根拠は必ずしも明確ではないが,PHOENIX では割引率も含め,これらは価値判断の問題であることを 明確にした上で5,手続きを明確にした専門家によるアンケ ート調査を介して望ましい濃度安定化レベルの導出を行っ た.PHOENIXでは科学的な分析・評価と価値判断を区分す ることにより,政策的な論点を明確にすることを試みてお り,Stern Reviewの方法論と決定的に異なっている. 次に緩和コスト面についてだが,Stern Review では温暖 化影響評価はSRES A2 ベースで実施しているにも関わらず, 緩和コストの評価においては B2 ベースに近い条件でのモ デル計算結果が中心となっており整合していない.一方, PHOENIX では温暖化影響・緩和策評価を通じて同一のベ ースシナリオ(B2:人口中位,一人当たり経済成長中位) で統一した評価を実施しており整合的な評価となっている. (2) 政策的含意の比較 それらを踏まえた上で政策的な含意を考えたい.基本的 に は 費 用 便 益 的 に 考 え よ う と す る ア プ ロ ー チ はStern ReviewもPHEONIXも両者共通しており,限りある資源を有 効に使い全体的な最適性を追求するためには基本的にこれ しか評価の方法論はあり得ない.しかし,費用便益といっ ても,非市場的な影響もあれば,世代間や地域間の衡平性 の問題もあり,また,不確実性が未だに大きい問題でもあ 5 Stern Reviewでは,とりわけ低い割引率の想定に対して多くの批 判が見られたが,PHOENIXで採用した方法では,複数時点の温暖 化影響を専門家に提示し,望ましい濃度安定化レベルを尋ねたた め,割引率は専門家の価値判断に委ねたことになる.これによっ て割引率選定の恣意性の議論は回避される.なお,PHOENIXの緩 和策評価においては,動的な評価を行うために5%/yrの割引率を用 いたが,各濃度安定化のための排出パスはIPCC WG1 による排出 量シナリオを外生的に与えて計算したため,たとえ想定する割引 率が異なっても,ある濃度を実現するための排出パスが異なるこ とはない.一方,緩和策評価から導出される各時点の(割引前の) CO2排出限界削減費用は,低い割引率の下では高い割引率と比較し て,近い時点の限界削減費用が高く,遠い時点の費用は安価にな る.しかし,第1ステップではそのうち中間的な2100 年の情報を 提示することによって割引率の差異による影響を受けにくくし, また第2ステップでは,複数時点における費用を提示したため, 仮に異なった割引率を用いた場合でも,エキスパートジャッジメ ントにおいて時間横断的な費用の把握に大きな影響はないものと 考えられる. る た め , 必 然 的 に 価 値 判 断 が 入 り 込 む 問 題 で あ る . PHOENIXではベースラインのシナリオ(人口やGDP)を揃 え,その上で,各濃度安定化レベルについて各種温暖化影 響・緩和策を可能な限り定量的かつ整合的に分析・評価し, その結果を専門家に提示した上で専門家の価値判断を調査 した.その結果は,先述のように,平均としては,第1 ス テップでの調査では650 ppmv (CO2 only)程度,非市場的な 温暖化影響や世代間や地域間の衡平性等が考慮されたと考 えられる第2 ステップの調査結果では 550 ppmv (CO2 only) 程度が望ましいと考えるレベルであった.Stern Reviewが暗 に推奨していると考えられるレベルは,少なくとも日本の 専門家は低過ぎるレベルと考えていると示唆される. しかしながら,調査は気候予測,温暖化影響,緩和策等 の分野に跨りつつ,それぞれ日本を代表する気候問題の専 門家に対して実施したものの,人数が限られることもあり, この平均化された望ましいと考えた濃度安定化レベル自体 が大きな意味を有しているとまでは言えない.むしろ,整 合的に評価された同じ科学的情報の下であっても,望まし いと考えるレベル,また,重視する影響要因に大きな開き があることに注目すべきである.そのため,望ましいと考 える濃度安定化レベルが主に何に起因しているかを特定す ることの方が,今後更に究極目標を具体化していく議論の 上で,より重要なポイントであるとも考えられる.その一 例は,生態系影響を重要と考えた専門家ほど,望ましいと 考える濃度安定化レベルが低い傾向が見られ,これは統計 的にも有意であったことが挙げられる.このような示唆は, Stern Review や IPCC の評価報告書からは見出せず, PHOENIX における専門家の価値判断に関する調査・分析 およびその根本となった温暖化問題全体の整合的な分析・ 評価によって得られた点である.今後,より信頼性を持っ てそういった点を明確にしていくことによって,究極目標 をめぐる科学的認識や価値判断の差異の収斂にもつながる 可能性があり,政策の合意に重要であると考えられる. 5.提案する濃度安定化目標とその位置づけ 我々の分析・評価から望ましいと示唆された 550 ppmv CO2濃度安定化は,産業革命以前比で約2倍のレベルとし て,従来から多くの分析が実施されてきたレベルであり, 言わばありふれた目標である.しかし,従来,特段の強い 理論的根拠があったわけではないが,高度に整合性をとっ たシステム的な分析およびそれに基づく専門家への調査に よって,この目標に一定の根拠を与えた.そして,それは, 前節で見たように,Stern Reviewで推奨していると考えられ
(Kyoto-6 gases)の場合,EU提案である2℃安定化とも概ね 整合的)よりも論理的根拠が強いものと言える. なお,長期安定化目標は,先進国だけではなく,途上国 を含めた少なくとも主要な排出国で合意されなければ意味 がない.その場合,途上国が合意できる目標であるか否か も重要な視点になってくる.500–550 ppmv CO2eq. (Kyoto-6 gases)では,何も対策をとらなかったとしたときの 2050 年 の予測排出量6からの削減率で見たとき,先進国が2000 年 比 60-70%削減してようやく先進国と途上国が同等の削減 率になるにすぎない.差異ある負担を考えると,先進国は 更に大きな削減が必要なため,世界的な合意の困難さも指 摘できる.一方,550 ppmv CO2濃度安定化では,2050 年に 先進国が2000 年比 30-50%程度削減すれば,何も対策をと らなかったとしたときの 2050 年の予測排出量からの削減 率は,先進国は途上国の2~3倍程度の削減率となる.こ のように,550 ppmv CO2濃度安定化の場合には,途上国と の負担の差異は十分確保できるため,世界的な合意の可能 性はかなり高まるものと考えられる. 6.まとめ IPCC の最新の報告からも,地球温暖化は着実に進行して おり,人類は排出削減に向けて断固たる対応をとる必要に 迫られている.本稿で提案した長期安定化目標としての 550 ppmv 安定化はあくまで現時点での科学的知見に基づ いて可能な限り合理的と考えられたものであり,将来の科 学的知見の更なる進展次第で異なってくると考えられる. しかしながら,この長期安定化目標レベルは,現時点の科 学的知見の下では,EU が提案している2℃目標や Stern Review が言及している濃度レベルより高い合理性を有し ていると強く主張できるに足る目標である.
表1 Stern Review と PHOENIX の差異
Stern Review PHOENIX
望 ま し い 濃 度 安 定 化 レ ベ ル を 言 及 す る た め の アプローチ 温暖化緩和費用(GDP 損失)と,緩和策を取らな い場合の温暖化影響の被害額をそれぞれ算出.両 者を比較し,望ましい濃度安定化レベルを言及. 一見すると,費用とそれによりもたらされる便益 を考えているようではあるが,温暖化の緩和がも たらす温暖化影響低減の便益を算出しているわ けではなく,緩和策を取らない場合の温暖化影響 の被害額と緩和費用とをただ比較しているにす ぎないので,実は費用便益分析とはなっていな い. 費用便益的アプローチ.緩和策を取らない場合,および,各種 レベルに濃度安定化する場合,それぞれの排出パスに沿って, 各種温暖化影響の大きさを算出.これから温暖化緩和策を講じ たときの温暖化影響の低減効果(便益)を算出.一方,各種レ ベルに濃度安定化するための緩和費用を算出.これらを専門家 に提示した上で,温暖化影響低減のための支払い意思額を調 査.費用便益分析によって望ましい濃度安定化レベルを推定. その推定結果を参考にしつつ,現時点では定量化できない温暖 化影響や世代間・地域間の衡平性なども考慮してもらい,最終 的に望ましいと考える濃度安定化レベルを表明してもらった. 評 価 に お い て 用 い ら れ た ベ ー ス シ ナリオ ~2100 年まで:IPCC SRES A2 シナリオ(人口高 位,一人当たり経済成長低位) 2100-2200 年:世界人口 0.6% p.a.で増大すると仮 定(2100 年:150 億人,2200 年:270 億人相当) 《ただし,A2 シナリオが用いられているのは温 暖化影響の評価のみであり,緩和コストの算出の ベースはB2 シナリオに近いものがほとんど》 ~2100 年まで:IPCC SRES B2 シナリオ(人口中位,一人当た り経済成長中位) 2100-2200 年:世界人口 0.06% p.a.で増大すると仮定(2100 年: 100 億人,2200 年:110 億人) 《温暖化影響の評価,緩和策の評価共にこの同一条件の下で推 定を実施》 全 球 平 均 気 温上昇推定 SRES A2 リファレンスパス ベースライン:2100 年 2.4~5.8℃(4.1℃) 高シナリオ:2100 年 2.6~6.5℃ SRES B2 リファレンスパス 気候感度3.0℃:2100 年 3.3℃ 気候感度4.5℃:2100 年 4.3℃ 時 間 選 好 割 引率 温暖化影響評価において0.1%/yr を利用 緩和策評価においては5%/yr を利用.温暖化影響評価において は明示的に用いず,専門家の判断に包含される. 温 暖 化 影 響 の金銭換算 不透明さを有する(市場的影響としては2200 年 にはGDP 比 5%としているものの,非市場影響な ど様々な面を考慮すると20%.ただし,その数値 的根拠は必ずしも明瞭ではない.) 温暖化影響は項目毎にそれぞれの指標で算出.その上で,その 情報を基に専門家が判断.その導出プロセスは明瞭. 温 暖 化 影 響 の閾値
450–550 ppmv-CO2eq. (Kyoto-6 gases)に安定化す
れば,主要な温暖化影響は回避可能 既往文献からは,THC崩壊の閾値は気候感度を予防的に考えた 場合,550–650 ppmv (CO2 only)に存在する可能性がある.1℃の 上昇によりサンゴが白化すると見込まれる.ただし過去の排出 により既に 1℃程度の上昇は不可避.他の温暖化影響事象に特 段の閾値的な存在は見出されなかった. 温 暖 化 緩 和 費 用 の 見 積 もり
500–550 ppmv-CO2eq. (Kyoto-6 gases) 安 定 化 は
2050 年 ま で は GDP 比 1% 未 満 . た だ し , 450 ppmv-CO2eq. (Kyoto-6 gases)安定化は費用がかか
りすぎ,非現実的 550 ppmv (CO2only)安定化は 2050 年まではGDP比 1%未満.た だし産業構造を詳細に表現したDEARSモデル11-12)による分析結 果によると,450 ppmv (CO2 only)はGDP比 10%以上となる可能 性有り.それを回避するためには,2030 年頃までに運輸部門に おける革新的なCO2排出削減技術の導入が不可欠 6 世界エネルギーシステムモデルDNE21+による推定結果19)
本研究で採った方法論は,Stern Review に見られたような 結論に大きな影響を及ぼし得る時間選好割引率の選定に関 わる恣意性の論議を回避できるものである.そして何より 長期安定化目標の議論の争点を従来よりも明確にし,議論 を効率的なものとし収斂に導き得る手法であることを強調 しておきたい.このような正当なる根拠に基づいて,具体 的な長期安定化目標の世界的な合意がなされ,速やかに実 効ある温暖化抑制の政策決定や実施が促されることを強く 願うところである. 謝辞 本研究の多くは,H14~18 年度に実施した経済産業省の 補助事業「国際産業経済の方向を含めた地球温暖化影響・ 対策技術の総合評価」の成果に依っている.評価委員会委 員長の東京大学山地憲治教授はじめ委員会委員,WG委員 の方々に多くのご指導を頂き,アンケートにもご協力頂い た.また,東京大学山口光恒客員教授から本稿に関して有 益なコメントを頂いた.ここに深く感謝申し上げる. 参考文献
1) IPCC; Climate Change 2007, Summary for Policy Makers (SPM), (2007). http://www.ipcc.ch/ (アクセス日 2007.5.7) 2) N. Stern; The Economics of Climate Change – The Stern
Review, Cambridge, Cambridge University Press (2007). 3) S. Mori, K. Akimoto, T. Homma, F. Sano, J. Oda, A.
Hayashi, K. Dowaki, T. Tomoda, Integrated Assessments of Global Warming Issues and an Overview of Project PHOENIX–A Comprehensive Approach, IEEJ Transactions on Electrical and Electronic Engineering, Vol.1, Issue 4, 2006.
4) R.S.J. Tol; Europe’s long-term climate target: A critical evaluation, Energy Policy, 35, (2007), 424–432.
5) ExternE; ExternE Methodolody 2005 Update. http://www. externe.info/ (アクセス日 2007.7.20)
6) IPCC; Climate Change 1994, Cambridge, Cambridge University Press, (1994).
7) IPCC; Special Report on Emissions Scenarios, Cambridge, Cambridge University Press. (2000).
8) 秋元圭吾,佐野史典,森俊介,友田利正,「各種GHG 排出シナリオ下における世界の農作物影響評価」,第 22 回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス, 34-4,Jan. 2006. 9) 林礼美,秋元圭吾,佐野史典,森俊介,友田利正,「温 暖化による人間の健康への影響評価」,第25 回エネル ギー・資源学会研究発表会,Jun.2006. 10) 林礼美,佐野史典,秋元圭吾,森俊介,友田利正,「温 暖化による水資源影響評価」,第23 回エネルギーシス テム・経済・環境コンファレンス,22-4,Jan. 2007. 11) 本間隆嗣,森俊介,秋元圭吾,友田利正,室田泰弘, 「生産・貿易構造の変化を考慮した温暖化中期緩和策 評価」,第23 回エネルギーシステム・経済・環境コン ファレンス,22-1,Jan. 2007.
12) T. Homma, S. Mori, K. Akimoto, T. Tomoda, Y. Murota, Sectoral economic impacts of CO2 mitigation policies
under different levels of stabilization targets: A study with the hybrid model DEARS. Tenth Annual Conference on Global Economic Analysis, (2007).
13) R.S.J. Tol; On the optimal control of carbon dioxide emissions–an application of FUND. Environmental Modelling and Assessment 2, (1997), 151–163.
14) W.D. Nordhaus, J. Boyer, Warming the World–Economic Models of Global Warming, MIT Press, (2000).
15) R.S.J. Tol; The Stern Review of the Economics of Climate Change: A Comment. The Center for Science and Technology Policy Research, (2006). http://www.fnu.zmaw. de/fileadmin/fnu-files/reports/sternreview.pdf (アクセス日 2007.5.7)
16) W.D. Nordhaus, The Stern Review of the Economics of Climate Change, (2006). http://www.econ.yale.edu/~nord haus/homepage/recent_stuff.html (アクセス日 2007.5.7) 17) G. Yohe, R.S.J. Tol, D. Murphy; On Setting Near-term
Climate Policy while the Dust Begins to Settle: The Legacy of the Stern Review. Energy and Environment, 18(5), (2007).
18) N. Stern; Technical Annex to Postscript, (2007). http:// www.hm-treasury.gov.uk/independent_reviews/stern_revie w_economics_climate_change/sternreview_index.cfm ( ア クセス日2007.5.7)
19) K. Akimoto et al.; Role of CO2 Sequestration by Country
for Global Warming Mitigation after 2013. In: E.S. Rubin, D.W. Keith and C.F. Gilboy (Eds.), Proceedings of 7th International Conference on Greenhouse Gas Control Technologies. Volume 1: Peer-reviewed Papers and Plenary Presentations, IEA Greenhouse Gas Programme, Cheltenham, UK. (2004)
20) IPCC; Climate Change 2007–Mitigation of Climate Change (Pre-copy edit version) http://www.mnp.nl/ipcc/ pages_media/AR4-chapters.html (アクセス日 2007.6.25)
付録 大気中CO2濃度,京都議定書で削減対象となっている6 ガス(CO2,メタン,N2O,PFCs,HFCs,SF6)のみによ る等価CO2濃度,温室効果ガスおよびSOxによるエアロゾル 冷却効果を含む等価CO2濃度の対応関係は,各排出ガスの 将来排出シナリオによって異なってくるため,単純化が難 しい.付表1 に,本稿内のこれらの異なった表記による数 値の対応を把握しやすいように,それらのおおよその対応 関係を示す.なお,2005 年時点のCO2濃度は379 ppmv,温 室効果ガスによる等価CO2濃度(6 ガスによる濃度とほぼ近 い)は455 ppmv-CO2eq.,エアロゾルによる冷却効果も含め た等価CO2濃度は375 ppmvとされている20).すなわち,現 時点ではNon-CO2の温室効果ガスによる温室効果とエアロ ゾルによる冷却効果はほぼ打ち消された状況にある.しか し,将来的には,それらの排出パターンの変化によってCO2 濃度と等価CO2濃度とには開きが生じると見られる. 付表1 各種濃度安定化および気温との対応関係 CO2濃度 400 ppmv 450 ppmv 500 ppmv 550 ppmv 等価CO2濃度(6 ガス) 500 ppmv 550 ppmv 600 ppmv 650 ppmv 等価CO2濃度 ( 温 室 効 果 ガ ス + エ ア ロ ゾ ル冷却効果) 450 ppmv 500 ppmv 550 ppmv 600 ppmv 2100 年時点の 全 球 平 均 気 温 上昇 1.5℃ 1.9℃ 2.3℃ 2.5℃ 2200 年時点の 全 球 平 均 気 温 上昇 1.7℃ 2.1℃ 2.5℃ 2.8℃ 全 球 平 均 気 温 上昇(平衡時) 1.9℃ 2.4℃ 2.9℃ 3.2℃ 推奨値 EU Stern Review PHOENIX ○ ○ 注1) MAGICC ベースの簡易気候モデルによる計算結果 注2) CO2濃度,等価CO2濃度(6 ガス),等価CO2濃度(温室効果ガス+エア ロゾル冷却効果)は50 ppmv単位で丸めている. 注3) Non-CO2 GHGs,SOxの排出シナリオはSRES B1 シナリオ相当として算 出(濃度安定化においては,Non-CO2 GHGsも削減されると考えられ るため,ここでは,SRESシナリオの中で排出が小さいB1 シナリオを 用いて算出した.ただし,IPCCの第4次評価報告書1,20)では想定され
たNon-CO2 GHGs排出量シナリオが異なるため,CO2濃度と等価CO2濃
度(温室効果ガス+エアロゾル冷却効果)の差異は本評価よりも大き く90 ppmv前後で報告されている.仮にこれに従った場合には,EU, Stern Reviewに対応するCO2濃度は本表よりも40 ppmv程度下がり,そ れぞれ350 ppmv強,350ppmv強–400ppmv強となる.一方,PHOENIX の対応する等価CO2濃度(温室効果ガス+エアロゾル冷却効果)は40 ppmv程度上がって 650 ppmv弱となる.) 注4) 全球平均気温上昇はいずれも産業革命以前比の上昇幅
注5) 平衡気候感度は 3.0℃(IPCC AR4 の最良推定値)を想定(AR4 では平