せん妄への対応のポイントをまとめる ・せん妄は「意識障害」であること ・せん妄は問題⾏動という認識でとらえられがちであるが、⾝体的問題で⽣じた意識 障害であり、意識障害の治療をおこなうことで、予防や改善が可能であること をまず確認することが重要である。 せん妄には、過活動型せん妄と低活動型せん妄があり、どちらも患者の⽣命予後に影 響する。過活動型せん妄は問題⾏動として認知されやすいが、活動が低下する。低活動 型せん妄は、症状に気づきにくいため⾒落とされがちである。 せん妄は単⼀の要因で⽣じることは少ない。複数の要因が重なり⽣じるため、その要因 を丁寧に検索し、対応することが基本である。原因検索と対応は、看護だけではなく、医 師やリハビリを交えた多職種で進めることが効果的である。 対応力向上編(せん妄) 1
せん妄が引き起こす問題について ・医療管理上の問題: 転倒、転落、ルートトラブルとの関連 ・家族とのコミュニケーションの阻害 ・意思決定能⼒の低下、喪失と、治療⽅針決定の遅れ ・結果として、患者の意向に沿った治療を提供できない、対応の負担による 医療スタッフの疲弊 ・⼊院期間の⻑期化(⽶国では8000ドル程度の負担増加) が指摘されている。 対応力向上編(せん妄) 2
せん妄に関しては、集中治療領域を中⼼に、そのとらえ⽅が変化してきている。 ⼤きくは、せん妄が⾝体的問題により⽣じた「意識障害」として再認識されてきている 点である。 つまり、問題⾏動として、問題⾏動への対処(抑制、鎮静)のみ考えるのではなく、 全⾝状態悪化の想起サインとしてとらえ、原因の探索と治療につなげることが意識されて きている。 対応力向上編(せん妄) 3
⼊院中のがん患者を対象として、せん妄を記憶している割合、苦痛の程度、および せん妄が患者の家族や看護師に与える影響を検討した報告。 せん妄から回復しせん妄の体験を記憶していた患者さんは54⼈で回復したせん妄 患者のうち約半数でした。家族75名、看護師101名に苦痛を0から4点で評価し てもらった結果、⾮常につらいと4点をつけた割合が、患者⾃⾝80%、家族76%、 看護師73%といずれも⾼い割合で強い苦痛を感じていることがわかる。 これは平均値ですが、苦痛の程度は家族でもっとも⾼い。苦痛の予測因⼦となって いるものは、患者の苦痛には妄想の存在、家族の苦痛には患者のPS、看護師の苦 痛には患者のせん妄の重症度と幻覚の存在だった。 このようにせん妄は意識障害であるものの患者さん⾃⾝の苦痛につながるものであ ること、また関わっている家族、看護師さんにとっても強い苦痛を与える疾患であること がわかる。 対応力向上編(せん妄) 4
せん妄の診断基準(DSM-5)を⽰す。
このスライドは、特に覚える必要はないが、せん妄の臨床上の確認に簡略化して⽤ いてもよい。
せん妄の中核症状は、注意障害と睡眠覚醒リズムの障害である。 軽度の場合は、本⼈の⾃覚症状を尋ねることで、微細なサインをとらえることができる。 中等度に達すると、客観的な症状として気づかれるようになる。 せん妄の症状は、注意の障害であり、それが忘れっぽい、情動の変化などさまざまな形に かえて現れる。そのため、医療者は「せん妄」を念頭にアセスメントする必要がある。 対応力向上編(せん妄) 8
せん妄の分類の⼀覧 (DSM-5では、混合型は活動⽔準混合型と分類が変更されている。ここでは、以前 から⽤いられている混合型で表記する) 重要な点は、過活動型せん妄と低活動型せん妄は同様に発症することである。臨床 では、どうしても「⾏動の⾒える」過活動型が気づかれ、「⾏動が⾒えにくい」低活動型は ⾒落とされがちである点を意識したい。 対応力向上編(せん妄) 9
せん妄は、その症状が多彩なために、系統だった評価をすることが望ましい。 アメリカの⾼齢者病棟での検討では、看護師の経験に基づいた判断を⽶国精神医学界 の診断基準をゴールドスタンダードとして⽐較をすると、80%で⾒落としていることが明らかと なった。 ⾒落とす要因としては、①低活動型せん妄、②⾼齢(年だがら、との誤解)、③感覚 障害(⽩内障などの視覚障害、難聴など聴⼒障害)の合併があげられる。 対応力向上編(せん妄) 10
せん妄との最も⼤きな違いは発症様式である。前者は急性であり、認知症、特にアルツ ハイマー型認知症では潜⾏性に発症し、緩徐に進⾏する。何⽇の夜からと特定できる発 症は前者の特徴である。また、夜間に増悪することが多く、夜間せん妄ともいわれる。注意 ⼒の散漫という形での意識障害と幻視および運動不穏はせん妄の三徴であるが、⾼齢者 では幻視を伴わないこともある。また、通常は運動不穏のために多動となることが多いが、 多動状態を伴わず、不活発な状態となる場合もある。 対応力向上編(せん妄) 11
せん妄を⾒落とすリスクも挙げられている。 ⼤きくは、 1.低活動型せん妄を⾒落とす 2.⾼齢者 3.視聴覚障害 4.認知症 があげられている。 特に、「●●歳だから」という、年齢で歳相応とみなしてしまうリスクには注意をしたい。 対応力向上編(せん妄) 12
せん妄の原因としては様々なものがある。アルコールや薬物、肺炎や尿路感染症等 の感染症、脱⽔状態や電解質異常、感覚遮断や⼼理的ストレス(⼊院、旅⾏等の 環境の変化など)などがある。そのため、せん妄の対処には原因を適切に把握する必 要があり、⾝体的診察や臨床検査等も必要である。 せん妄を来す可能性のある主要な薬剤を⽰す。特に頻尿や尿失禁に対して使⽤さ れる抗コリン薬や胃潰瘍や胃炎に⽤いられるH2受容体拮抗薬は⾒逃されやすいので 注意を要する。せん妄が疑われたときに、これらの薬剤の使⽤によるものではないかを検 討する必要がある。 対応力向上編(せん妄) 13
せん妄の原因を同定したら、その原因を準備因⼦、誘発因⼦(促進因⼦)、直 接原因(因⼦)に整理をして、対応できる要因をチームで共有し、アプローチを組み ⽴てていく。
せん妄の要因間の関連を図に⽰す。
準備因⼦、誘発因⼦、直接原因の3要因が関連して、せん妄の発症につながる。
準備因⼦は、脳機能低下を⽣じうる要因を指す。 主に⾼齢(昔は65歳以上の設定が多かったが、最近は70歳でリスク要因と捉え ることが多い)、脳器質疾患(脳構想、神経変性疾患)、認知症の既往、がある。 他に術後せん妄に関しては、アルコール多飲歴、⾼⾎圧の治療歴なども指摘されて いる。 対応力向上編(せん妄) 16
環境に関連した要因で、せん妄⾃体を直接⽣じさせはしないが、せん妄を⻑引かせ たり、増悪させる要因を指す。 環境(外部環境): ⾮⽣理的なリズム(夜間の照明、過剰な⾳刺激)、 ⾝体抑制、点滴・バルーン等 環境(内部環境): ⾝体の不快な感覚(代表的なものが痛み、便秘、 排尿困難) がある。 対応力向上編(せん妄) 17
直接原因は、せん妄を⽣じさせる⾝体要因を指す。 臨床で頻度が⾼いのは、薬剤、脱⽔、感染がある。 特に薬剤については、医療者が注意をすることで予防できる最⼤の要因であり、知識を 共有して指⽰の実施に注意をしたい。 特に注意をすべき薬剤は、 ・オピオイド(医療⽤⿇薬): モルヒネ、オキシコドン ・ベンゾジアゼピン系薬剤(睡眠導⼊薬、抗不安薬):トリアゾラム、ブロチゾラム、 ゾピクロン、ゾルピデム、アルプラゾラム、エチゾラムなど (⾮ベンゾジアゼピン系睡眠導⼊薬もリスクは同等とみなされているため、 併せて注意をする) ・抗コリン作⽤の強い薬剤: 臨床でしばしば遭遇するものにH2ブロッカーの ファモチジンなどがある。 特に、せん妄の発症直前に開始・増量されている場合には、関連が疑われる。 対応力向上編(せん妄) 18
直接原因には、ほかに低酸素⾎症、代謝障害、電解質異常などがある。
せん妄への系統⽴てた対応として、海外のガイドラインを参考までに⽰す。 ポイントとしてあげられているのは、 1.⼊院・⼊所者に対して、基準を定めてせん妄のリスクのある⼈を抽出すること 2.ハイリスクの⼈に対しては、予防的な対応を実施するとともに、定期的なモニタ リングを⾏い、早期発⾒に努めること である。 対応力向上編(せん妄) 20
せん妄を発症した場合の対応について⽰す。 せん妄を発症した場合には、原因を検索し、要因の除去を進める。 要因の中には、対応可能な要因(たとえば、脱⽔、感染)と、対応が困難な要因 (たとえば、転移性脳腫瘍など)がある。 対応できる要因と対応が困難な要因を抽出し、対応可能な要因に対して、チームで アプローチをおこなう。 対応力向上編(せん妄) 23
せん妄を早期に発⾒するためには、医療者の積極的な評価と対応が求められる。 特に注意をしたいのは、注意⼒の低下である。 CAMでも取り上げられているように、せん妄の症状の中で、ほぼ確実に出現する症状である。 ⾒当識や精神病症状(幻視、妄想)などよりも、確実に出現することから症状評価を臨床 でトレーニングをし、チームで共有をする。 対応力向上編(せん妄) 24
せん妄への対応をまとめる。
せん妄への対応の基本は、「意識障害への対応」であり、原因となった⾝体疾患へ の治療である。(決して、鎮静ではない)
⼊院中の場合は、せん妄への対応とともに、安全⾯にも注意を払う
特に、転倒・転落、ルートトラブルは強く関連している。不要なルートを外すとともに、夜間の 点滴を可能であれば⽌める、などをおこなう。
せん妄は、家族の苦痛とも関連するため、家族に対しても説明を進めることが望ましい。 せん妄を⾒ると、家族は認知症になった、精神病になったと受け⽌めがちである。 認知症とせん妄は異なること、せん妄は⾝体的な要因で⽣じうるものであること、⾝体治療 を進めることで症状の改善が可能であることを説明する。 あわせて、接し⽅についてふれる。特に⾒当識の障害等は、無理に修正をする必要のない こと、家族がそばにいるだけでも本⼈は安⼼し、⾒当識の回復につながることを伝える。 対応力向上編(せん妄) 27
認知症とせん妄、どちらも注意⼒の障害のある⼈への接し⽅を⼯夫する点で共通。 認知症でのコミュニケーションについて説明があれば、ここでは触れなくてもよい。
せん妄に対しては、標準的な治療として抗精神病薬が⽤いられる。 (この点で、認知症と異なることは確認をする) 抗精神病薬はどの薬剤でも治療効果はほぼ同等であるが、最近は、有害事象であるパ ーキンソン症状を避ける意味合いで、⾮定型抗精神病薬が標準になりつつある。 少なくとも、各施設内で初期対応で⽤いられる薬剤について、どのようなものがあるかを 確認し、意識を統⼀させておきたい。 対応力向上編(せん妄) 29