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No.102 October 2006

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■巻頭言 研究所広報からみた科学館活動 3 ■特集 科学技術館FOREST10周年記念特集 「遊び」、「創造」、「発見」の森 4 ■活動報告 科学技術館と所沢航空発祥記念館で、 昆虫をテーマにした特別展を開催 14 『青少年のための科学の祭典』2006全国大会開催 17 「星空を教室に!」―昼間に星を見てみよう―  ∼科学技術館における  国内外の機関との協力事業の展開 18 放射線一日体験教室 ∼放射線 見て 測って 考えてみよう!∼開催 20 ■連載 JSF Staff 's View 〔ラボラトリー〕 本当は器用な子どもたち 22 科学者モニュメントを訪ねて<3>  世界ではじめて「ビタミン」を発見した男 理研を支えた農芸化学者 鈴木梅太郎 25 ■シリーズ 企業各社の社会貢献活動紹介 株式会社日立製作所 26 ■お知らせ 30 表紙の絵は、今号で特集している科学技術館 「FOREST」の隠れた人気展示のひとつです。 まず、表紙の絵を逆さまのままご覧ください。 次に、上下ひっくり返して絵を正立させてみ てください。いかがですか?まさか、こんな 顔になっていたとは…。 実は、表紙のモナリザは目と口を上下反転 (180度回転)して貼り付けています。ヒト は顔を認識するとき、目や鼻、口などの各パ ーツとともに、全体の配置で捉えています。 顔が逆さまのときには、普段見慣れていない ので顔全体の配置として捉えにくいため、パ ーツごとの情報を個々に見ています。そのた め目や口のパーツがおのおの正立しているこ とにより違和感はありません。逆に絵をひっ くり返して顔を正立させると顔の全体配置を 捉えるとともに各パーツを見るので上下反転 した目と口には強い違和感を覚えます。 比較できるように、上の絵はオリジナルのモ ナリザにしました。逆さまにしてみてくださ い…いかがですか。表紙の絵とは違います か? この現象は、最初に示した論文で、イギリス のサッチャー元首相の顔写真が使われていた ので「サッチャー錯視」と呼ばれています。 「FOREST」に来たら是非この絵を探してみ てください。 JSF Today(財団の窓) 第102号 発行日:2006年10月31日 企画・編集・発行:財団法人日本科学技術振興財団 企画広報室

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ところで、わが国が、資源の少ない国であることは、よく知られた事実であ りそのわが国が、世界の中で生き抜いてゆくためにはこれまた「科学技術創造 立国」であることが欠かせません。知恵が富を生み出すのです。この知恵を、 生み出すのは当然「人」でありとりわけ新たな時代を切り開くためには、若い 人たちの力を結集しなければなりません。その意味において、もし若者の理科 離れが進んでいるとしたら、まさに国家の危機です。だからこそ、国を挙げて その対策に立ち上がろうとしているかもしれません。 しかしながらその歩みは、決して単調ではありません。子どもたちにどうや って興味を抱かせるのか。そしてその興味をいかに持続させるのか、さまざま な取り組みを、さまざまな場所で、さまざまな人たちが少しずつ実施してゆく 以外に方法はないのでしょう。 そのような中で、科学館に対する期待は、大きいのです。体験を通して科学 を身近なものに感じさらにその中から不思議を発見する。自ら発見した不思議 を興味を持って調べる。少し理解する。そこでまた新しい不思議を発見する。 その繰り返しがさらなる理解へと繋がります。 ところで北の丸の科学技術館を訪ねてみると、多くの子ども達で賑わってい ます。年間60万人も来場者があるということで、理科離れなど何処の国のこと なのかと考えてしまいます。 一方で本当に若者の理科離れが進んでいるとしたら、私が所属するような研 究機関は、一体何が出来るというのでしょうか。自問します。まずは、研究が 楽しいということを、広く知らせるということなのでしょうか。科学技術の成 果は、時として特許という形の巨額の富をもたらすこともありますが、一般に は、地味で目立たないことの方が多いのです。それでも、多くの研究者は、目 の前にある謎の解明や新たな解決策を見出そうと必死で努力しています。時折 出る成果も単独で世界を驚かせるようなものは、残念ながら数少ないですが、 きちんとプロセスを追ってなされる研究は、将来の素晴らしい研究成果へと繋 がってゆきます。物資的に私達の生活を豊かにする研究でなくても、私達の心 の生活を豊かにしてくれます。理研のことで恐縮ですが、2年前に発見した113 番元素は、確かに実生活では役に立たないかも知れません。でも、その発見で、 周期表にわが国で発見し命名された元素の名前が歴史に残るとしたら、それだ けで多くの人たちの心の中に何かが残るでしょう。もちろん研究者にとって、 どれだけ名誉なことであるか計り知れません。しかもたった1個の原子が、さ らなる宇宙の歴史を物語り、今、私達が目にする全ての世界がどうして出来上 がってきたのかその理解を進めるとしたら、そのわくわく感はどんどん広がっ ていきます。 もちろん理研では、直接人々のためになる多くの研究も実施しています。そ の成果は、着実に社会へ還元されています。このような研究所の活動を、さま ざまな形で、直接間接に人々に伝えられたら、しかもその折に研究者の感動を 添えて伝えられたら、理科離れ対策に多少の貢献が出来るということかもしれ ません。 FORESTを通した活動で、子ども達の興味を引き、さらに科学技術に関する 関心がより高まるよう微力でも尽くしたいです。 【理研ギャラリーの展示】 和光市の理化学研究所内にある理研ギャラリー の展示。113番元素の展示をはじめ、理研の研究 成果や歴史を紹介している 【理化学研究所の広報誌】 理化学研究所の最新研究成果や年間の活動内容 など研究所に関する情報を、一般から研究者ま で幅広い層に向けて公表している

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水の中にいるのは…?

【FOREST(Footsteps Of Rallying Education, Science, and Technology)】

科学技術館FORESTは、科学的思考センスを養 うための基本プロセスとして、 「遊び」:心身共に解放された状態の中でさまざ まな環境と戯れること。 「創造」:現象の観察を通じてその発生メカニズ ムを考察し、獲得した知見を基に新た な視点の提示となる更なる知的好奇心 の誘発を試みること。 「発見」:環境に潜む思いがけない現象に出くわ すこと。 を重視し、個々の展示がこの何れかに焦点を当 てていることに加え、一つの展示が他のテーマと 関連していたり、それ自体遊びの道具であると 共に発見の仕掛けであったりする多義性を持た せている。 この多義性という考え方をFOREST(森)と いう概念でとらえ、全体のコンセプトを表現す ることを試みている。 1996(平成8)年4月、科学技術館 FOREST(フォレスト)∼「遊び」、「創造」、 「発見」の森∼ は、これまでの科学技術館の展示手法や製作アプローチとはま ったく異なった新たな試みによって誕生しました。オープン当初より注目を浴 び、さまざまなメディアにも取り上げられて、現在では科学技術館を代表する 展示空間のひとつになっています。そして、この4月、おかげさまで10周年を 迎えることができました。 そこで、本号では10周年を記念して、特集を組むことにしました。この特集で は、FORESTの魅力について、来館者のご意見、プロデューサーや館スタッフ の思いなどをベースに紹介しております。まだ体験されたことがない方も、ぜ ひ科学技術館へいらして、この森の奥深くへと入っていただければ幸いです。 ●森の訪問者∼お父さんのFOREST探検記∼ ある日曜日。小学生の息子にせがまれて、朝から科学技術館にやってきたお 父さん。受付を抜け、エスカレーターをあがり、いよいよ“「遊び」、「創造」、 「発見」の森”の中へと足を踏み入れることになりました。 さあ、これから「お父さんのFOREST探検」がはじまります。驚きの連続に、 お父さんの眠気はいっきにさめることに…。 ── FORESTへ! 小1の息子といっしょに科学技術館にやってきた。息子はつい先日、学校の 行事で訪れたばかりなのだが、どうやら、それがものすごく楽しかったらしい。 「また行きたい」、「連れてって」と顔をあわせるたびにせがまれ、妻の入れ知恵 に違いないのだが、「お父さんと行く!」ということになり、今日の日曜日をむ かえたという訳だ。 順 路 に し た が っ て 、 ま ず は エ ス カ レ ー タ ー で 5 階 ま で あ が る 。 5 階 は 「FOREST」という名前で呼ばれているらしい。森?科学技術の森?どういう 意味だろう…まあ、なにはともあれ、5階から順に階を下りながら見ていくこ とにしよう。 ──オオサンショウウオ?の罠 FORESTに着いて最初に目に入ってきたのは、ものものしく金網で囲われた 水槽。その中には黒々と怪しげな物が横たわっている。流水で水面が揺れるせ いで姿ははっきり見えない。何だろう?この形には見覚えがあるのだが…あっ、 そうだ。サンショウウオだ。 「これ何だか知ってる?これはね、オオサン…」 「お父さん、これオオサンショウウオじゃないよ」 「え?」 「ニセ物だよ、これ。ただ石がならんでいるだけ」 備え付けののぞき眼鏡を息子が差し出すので、それを水の中に差し入れて覗 いてみる。何だかはっきりわからないが、確かに、そこにはオオサンショウウ

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てこの原理で大玉を、運べ! あれ?玉が重くなっていく…? お姉さんは科学技術館の人? 展示を何倍も楽しくしてくれるインストラクター 「本当だ、ただの石だよこれ。お父さん、てっきり…」 おや?息子がいない。見回すと、ロビーの先のほうを、何か探しものでもす るように歩くその姿が見える。 私はあわてて息子のあとを追いかける。それにしても、あのオオサンショウ ウオ、いや、オオサンショウウオっぽく並んだ石ころは、いったい何だったん だろう…。 ──鉄の大玉送り 「お父さん、ここ、ここ」と指さすと、息子は「メカ」の部屋に入っていっ た。部屋の中央に作られた大掛かりな“球転がし”のコース。そのところどこ ろに、子どもたちがとりついて何やら奮闘中。実は、コースの要所要所に、球 を先へ送るためのいろいろな仕掛けが設けられていて、子どもたちはそれを一 生懸命操作しているところなのだ。 要領を得ずにとまどっている子どもに、何やら手ほどきをしているトレーナ ー姿の“お姉さん”は、この館の人なのだろうか?どうやら、インストラクタ ーであるらしい。勝手にイメージしていた「コンパニオンでございます」とい ったよそよそしさがなく、お客さんの中に溶け込んでいる感じだ。 わが息子はというと、コースから突き出た鉄のハンドルをグルグルと回して いる。その目の前を、重さ20∼30kgもあろうかという巨大な金属の球が、ベル トコンベヤに乗って移動していく。球が通過し終えると、息子は一目散に次の 仕掛けに走るが、おっと、ここには先客あり。息子は、その先の空いた仕掛け に走り、そこに陣取って球がやってくるのを待つ。 こんなに重そうな球を、自分の力で転がしたり、押し上げたりできることの 不思議さに、はたして子どもたちは気づいているのだろうか?ともあれ、彼ら は巨大な球転がしを、からだ全体で力いっぱい楽しんでいる。 コースを1周し終えた息子は2周目に。さらに1周、もう1周。どうやら、 いっこうに飽きる気配がない。そこで、私は息子を「メカ」の部屋に残して、 1人でFORESTの散策に出かけることにした。 ──“小粒でピリリと辛い”仕掛けがいっぱい 途中を飛ばして進むのはどうにも気持ちが悪い。これは大人の習性?それと も単なる貧乏性?とにかく私は、振り出しに戻り、改めて順番に見ていくこと にした。まずは、この「オリエンテーリング」の廊下をたどっていこう。 私がまんまと騙されたオオサンショウウオのところに立ち、最初に目に入っ てきたのは、犬小屋?でもどうして?近づいていくと、いきなり中から吠えつ かれた。子どもがやってきて、小屋からはみ出した犬の首綱を引っ張った。私 もまねして引っ張ってみる。犬は出てこないが、吠え声といっしょに犬小屋全 体がガタガタ揺れる。いったい何なんだろう。どうしてこんなところに犬小屋 が…。 お次は空気砲。これは知ってるぞ。テレビで、煙の輪をつくる実験か何かを しているのを見たことがある。あそこに立っている子どもを驚かしてやろうか な…。やめとこう。 なんで、こんなところに犬小屋が? そっと中を覗こうとしたそのとき…

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あっ! テレビの画面に水かけちゃうなんて!! ん?白だと思ったらいろんな色が… テレビ画面の中でカクカクとおかしな動きをする私自身の姿を横目に見なが ら進んでいくと、マイクに向かって競い合うように大声を発する子どもと大人 がいる。親子かな?2人の前にはシーソーに乗った2台のパソコンモニター。 画面には、声に応じてどんどん文字が積もり、多いほうのモニターが下がって いく仕掛けらしい。大の大人が屈託なく大声を張り上げて楽しむその姿に、ち ょっとばかり嫉妬を感じながら、そばにあったソファーに腰を下ろす。 「あっ!」ソファーの意外な柔らかさにどっぷりと身体が埋もれる。なんだ、 壊れてるのか。隣りに移る。どうやらこれは大丈夫らしい。ん?待てよ…。 試しに、背中合わせのソファーに腰を下ろしてみると、ガタンと座面が落ち た。なるほど、そういうことか。油断ならないぞ、FORESTは。 ソファーの隣りの、本当に「大丈夫」そうな木のベンチに腰かける。目の前 には、テレビを中に仕込んだテーブルがある。ガラスの天板の下に映像が見え る。そう、昔、インベーダーゲーム用に喫茶店によく置いていたようなテーブ ルだ。しかし、ここのは壊れているらしい。画面はただ真白になっているだけ で、ゲームらしいものは何も映っていない。テーブル面が水で濡れているあた り、まさに喫茶店のイメージだ。例のトレーナー姿の“お姉さん”がやって来 て、テーブルの上を拭きだしたので、ますます喫茶店のイメージだな、などと 思っていると、彼女はスポイトで数滴水をたらして行ってしまった。えっ、わ ざと水をこぼしていたの?でも何のために?近づいてみて驚いた。ただの白っ ぽい画面が、水滴のところだけ、赤と緑と青に、鮮やかに色づいているのだ。 そうか!水滴がレンズの役目をはたして、テレビ画面の三原色が拡大されて見 えているんだ。 なんとなく、分かってきた気がする。FORESTでは、思い込みで、ただ漫然 と眺めていたのでは、何も発見できないのだということを。 大人の背よりはるかに高い、得体のしれない大きな箱。何が入っているんだ ろう?いくつかある窓から中をのぞいてみる。怪物?それともマンモス象か? 気がつくと、ハシゴをよじのぼって上の窓から箱の中をのぞく自分がいた。 「オリエンテーリング」の廊下をたどるうちに、だんだん好奇心に素直に振 る舞えるようになってきた気がする。気分もワクワクしてきたし…。 気がつくと、例の「メカ」の部屋の前だ。息子は、部屋の奥にあるクレーン の仕掛けで、“お姉さん”と楽しそうに遊んでいた。そして、私の顔を見つける なり、「お腹すいた」と駆けてきた。時計を見ると、たしかにもうお昼だ。地下 のレストランで食事することにして「メカ」の部屋を出ると、隣りの「ワーク ス」の部屋から出てくる人波に出くわした。子どもも大人も、みんなニコニコ して満足げだ。見ると、入口にチョークで「科学教室」という文字。これか。 午後1時半からは、3時限目があるらしい。 「よし、お昼ご飯を食べたら、これを見にこよう!」 ── 子どもの目には見えている 食事を終えて5階に戻ってきたのが1時前。科学教室まで、まだ30分以上時 声の量で!?いざ、勝負! いろいろな仕掛けがいっぱいのロビー“オリエン テーリング”。何がおこるのか…油断は禁物

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決まった!ジャンピングポーズ。 いろんな角度から見てみよう。超スローでリプ レイ 驚きの実験の連続。時を忘れ、もうここから抜 け出せない…。あっ、次の時間の先生は、昨夜 テレビで見た人かも… は、台の上からクッションにジャンプして、その姿を周囲から7台のカメラで 撮影し、7台のモニターにストップモーションの連続として映しだすというも の。瞬間の思いがけないポーズや、ふだん見慣れない自分の後ろ姿が新鮮なの か、けっこう人気があるらしい。息子のジャンプもなかなかのポーズで納まっ た。もう一回チャレンジしたいようだが、すでに長い列ができていて断念。午 後になって、少し混んできたみたいだ。 部屋の奥には、地面すれすれに進む昆虫の視点を、座席の揺れとともに体感 できる装置があり、やはり順番待ちの列ができている。しかし、130cm以上の 人という身長制限があってこれも断念。これは来年のお楽しみかな。 まだ少し時間があるので、「イリュージョン」のもう一つの部屋も見ていくこ とにしよう。「さあ急ごう!」と私から部屋に入るが、なぜか息子は入口の前で 立ち止まり、入ってこない。見ると、その視線は“舐めるように”床の上をさ まよっている。床面にエッシャーのような錯視の模様が描かれていたのだ。ま だ、用意された展示物を一つ一つこなしていくという発想から抜け切れていな い。ましてや「急ごう」なんて…。床面の模様を息子といっしょに楽しんでい るうちに、科学教室の3時限目の時間がきた。 ──科学教室の楽しさは予想以上 「ワークス」の部屋は他の空間とは趣が違う。たとえて言えば、理科の実験 器具をしまう物置小屋と、実験装置をこしらえる作業小屋が合わさったような 感じ。その一角の実験卓を使って、「科学教室」が開かれる。 実験卓を取り囲む大勢のギャラリーの前に、白衣をまとった若い“先生”が 現れた。演題は「楽しい科学」。淡々とした中にもさり気なくユーモアを交えつ つ、ゴム風船を使った静電気の実験がくり広げられる。静電気により引き合う 力、反発し合う力に操られ、風船はまるで空中で踊っているよう。曲芸のよう なその現象に、もう息子の視線は釘付けだ。圧巻はシャボン玉を使った実験。 シャボン玉が割れ、幾本もの輝く糸となって空中に舞い上がった時には、ギャ ラリーから思わず歓声があがった。 すっかり虜になった息子は、2時半からの「超低温」の実験も見ていくとい う。身体がすっぽり入る巨大なシャボン玉を作る装置や、竜巻や渦巻きを発生 させる装置など、「ワークス」に点在する仕掛けを楽しみつつも、息子の目は実 験卓の混み具合のチェックを忘れない。その甲斐あって、液体窒素を使った 「超低温」の実験は、かぶりつきの席から存分に堪能したようだ。 ──時間を忘れる面白さ 「イリュージョン」の部屋の、私の一番のお気に入りは、傾いた畳敷きの間 だ。音声ガイドに促されて、靴を脱いで畳の上に横になる。いびつな造作で視 覚を混乱させようという“作意”はお見通しのつもりだが、インストラクター が手渡してくれたゴムボールを放り投げた時に、そんな冷静さはあっけなく崩 れ去った。錯覚も計算に入れて、仰向けに寝ころんだ顔の真上に投げ上げたつ もりなのに、何度試してもボールは頭の先の遠くのほうに飛んでいくのだ。こ の不思議な感覚には、もう笑っちゃうしかないな。 私だけ?わかっているのにはまってしまう。い かにも怪しい部屋

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隣りの「オプト」の部屋には、マニア受けするものが多いようだ。立体造形 が変容していく、文字通りの“立体アニメ”装置。自分の影が壁に焼き付けら れる小部屋。映画などでお馴染みの、怪しい“鏡の間”に入り込んだ気分が味 わえる巨大三面鏡。レンズや偏光板などで変わる光の進み方が“光跡”として 直に見られる装置。こんなのが学生時代にあったらなあ…。 そんなことを思っていると、閉館を告げるアナウンスが流れ始めた。もうこ んな時間なのか。他の階どころか、「アクセス」の部屋や「ゲノム」の部屋など、 FORESTさえも全部見切れていない。 ──『次はいつ来る?』 階段を下りて4階にくると、正面に「ユニバース」の部屋がある。これも FORESTの続きらしい。だまし絵風の入口に、興味がそそられるが、残念なが ら時間切れだ。パンフレットによると、土曜日には、アメリカの夜空をライブ で観測する科学ショーなどもあるらしい。 「また来ようか?」、「うん、また来る!」2∼3時間も見れば息子も満足す るだろうぐらいのつもりで訪れた科学技術館だったが、一日いてもまだまだ遊 び足りない気分。どうやら、私自身が病みつきになりそうだ。 ●森の案内人のひそひそ話∼来館者の声∼ この森には、インストラクターと呼ばれる体験のサポート役がいます。インス トラクターは、森をさまよう来館者のそばにそっと現れ、遊び方をそれとなく 導いてくれます。そんなインストラクターが実際に受けた来館者の反応のいく つかを、インストラクターどうしの会話にしてみました。FORESTのどんなと ころが受けているのか、来館者の生の声を聞いてください。 ∼先輩インストラクターと新人インストラクターの控え室での会話∼ 「どう?FORESTには、だいぶ慣れた?」 「まだちょっと緊張しています。でも、とても楽しいです」 「来館者とコミュニケーションとれてる?」 「なんとか…。この前、子どもに『こんな博物館があるとは知らなかった∼』っ て言われました。自分もそうでしたけど、“博物館”ってどうもかたいイメージ があるみたいで…。でも、ここでは、大きな声を出したり、驚いたり、発見し たり休まる暇もない場所だからか、『帰りたくなーい!』、『楽しかったー!』 『また来るね!』と言ってくれます」 77777777777777を出す確率は?双子でない限 り、染色体の組み合わせがまったく同じになる 確率は、これとほぼ同じ! “ユニバース”では、天体ライブショーも開かれ る。でも、この入口通れるのだろうか? 巨大な鏡の中に現れる無限の世界。 幼い頃に三面鏡で遊んだ記憶がよみがえる

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「何回も来てくれる子は、『一日中いられる。いつきても飽きない』ってよく言 うよ」 「大人が見ても子どもにとって楽しめる場所だって思ってもらえているみたいで すね。小学校の先生が下見にいらして、『特に、体を動かして遊ぶことができる のが良いね』っておっしゃっていました」 「大人は錯覚に興味を持つ方が多い気がする。床の模様やモナリザの絵(表紙参 照)など、一見、地味な展示もインストラクションすると、『おもしろい!』と 言ってもらえるよ。大人ならではの固定観念がくつがえされておもしろいと思 ってもらえるんじゃないかな」 「でも、大人の方からは『もう少し解説があったほうがいい』っていう要望も受 けました」 「あえて解説がないのは、自由に体験する中から遊び方そのものをいろんな方向 から見つけたり、ときには創り出したりして人それぞれに不思議さや発見を楽 しむことができるようにしているから。遊びの中に自分から考えて見つけてい くアクションがある。用意されたひと通りの体験、というか決められた遊び方 だけをするのではなく、自分なりの遊びと学びを自分で発見できるという点に 気づいてもらうことが大事なんだ。そんな体験をした後には、来てよかったと いう声が多く上がっているよ」 「一番うれしかったのは、『お姉さんのおかげで展示がすごく楽しくなったよ!』 って言ってもらえたことです。FORESTの楽しみ方をつかんでもらえるかどう かは、お客さまのその日一日の体験を何倍にも膨らませるくらい大きなことに 気づかされました。そこが、インストラクターの腕の見せどころでもあるんで すね」 「『自由にさせてくれるから、楽しかったわ!』っていう意見もよく聞くよね。 でも、それは、放りっぱなし、ということじゃないんだよ。楽しんでいるなら そっと見守りつつ、タイミングを見て、遊びや考えるヒントを出してあげるこ とが重要なんだよ。展示だけでなく、本当の自然だって誰かが接し方や楽しみ 方を少しだけ指南してくれると、格段におもしろくなる。それと同じかな」 「うーん、難しい…。もっとがんばらなくちゃ」 「さあ、休憩時間はおわり!とにかく実践あるのみ。さあて、今日はどんなお客 さまが来てくれているかな」 *この会話は、実際にインストラクターが受けた来館者の声をもとに構成しています。ぜひ、科学技術館に いらして展示を体験いただき、あなたの声もお聞かせください。

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●森の創造主たちの誤算?∼プロデューサーの思惑∼ この森ができるとき、創造主たるプロデューサー7名が各方面から集められま した。プロデューサーたちにはそれぞれさまざまな思惑がありました。しかし、 今では、そのねらい以上のことも起きているようです。各プロデューサーに当 時の考えや今の思いを聞いてみました。 下條 信輔氏 (カリフォルニア工科大学 教授(生物学部、神経計算系)) ●FORESTの見果てぬ夢 FORESTが10周年を迎えたことは、企画の当初から関わった人間のひとりとして、喜びに堪えません。 科学技術行政や教育など館を巡る環境が激変する中で、FORESTの志の高さと展示の質が、風雪に耐えた ものと感じられるからです。 当初の熱気に満ちたディスカッションや、ヘルメットを被って入った工事中の現場、オープニング、イ ンストラクター達との交流など思い出は尽きません。しかし敢えてそれらは語らず、代わりにFORESTで 目指したが未だ夢半ば、と思われる目標を語ることで、未来形の祝辞とさせていただきます。 その夢の第一は、 館と現役の科学者、クリエータとの間にバイパスを作り、常に科学技術の最先端の 夢を導入すること。第二に、原案から施工に至るプロセスの中で、それを実現するための新しいシステム を考案すること。第三に、アイテム単位や平米単価で語るような書類至上主義の展示ではなく、空間全体 を驚きと探索の喜びに満ちたものに変えること。第四に、おとなの勝手な思いつきを実現するのではなく、 子ども自身の感覚運動レパートリーに直接訴える展示形式を編み出すこと、それによって子どもたちがリ ピーターとして自発的に戻ってくる、魅惑に満ちた「発見の森」を実現すること。そして最後に、それを 正当に評価する「成果主義」の立場から、運営、メンテ、更新を見直すこと。 こうした目標のさらなる実現のために、FORESTに関わった各方面からの善意と意志が再びどこかで結 集することを熱望しながら、私の(はなはだアジテーション気味の)祝辞とさせていただきます。 Illusion ─イリュージョン─ まっすぐ立っている つもりなのに傾いてい る? 真上にボールを投げ ているのに遠くに落ち る? そんな錯覚、錯誤を 体験できます。ものを 見ること、感じること とはどういうことか直 感的に理解できる空間 です。 霜田 光一氏(前 物理教育学会会長) ●創造の夢を広げたい FORESTの展示「オプト」は、人と光と物質との関わりを体験し、感じ、考えることを望んでいます。 テレビや携帯電話の限られた画面のイメージばかりを見ている現代人は、知識がますます豊富になってい ますが、創造力は縮こまっています。そこで、からだ全体で光の世界に遊ぶことによって、創造の夢を広 げたいと思います。 今では、オリンピックやワールドカップのゲームが即時にカラーで見られるようになっただけでなく、 私たちの衣服も食物も住居も、光技術による改革が進んでいます。「オプト」で育まれたアイディアや夢 が発展すれば、多彩で美しい科学技術の花を咲かせることでしょう。 Optics ─オプト─ 自分の影が壁に閉じ 込められた!? 首を振ったら太陽が 現れた!? 光の原理、性質を探 る実験装置が並びます。 不思議で美しい光の現 象を体験しながら、光 とはどんなものなのか 考える空間です。 佐伯 平二氏(名古屋市科学館 学芸課長) ●全国の科学館の展示へ 全国の科学館の使命の一つに「科学を好きにさせる」があげられています。そのために展示をはじめ啓 発事業など、いろいろな手法を駆使し展開しています。展示では、参加体験型とし、「教える」という考え 方をしないで、「感動を与え」、「楽しんでいただく」ことをポイントとし、そのあとに学習したくなるし くみと道筋を用意しています。これらを具体化し実現するために、科学館の専門スタッフ(学芸員など) が重要な役割を担っています。この考え方を10年前、全国の科学館の専門スタッフを代表し、科学技術館 の展示室「メカ」で具体化させる機会を与えていただきました。この展示室での10年間の教育的成果が上 がり、さらには、全国の科学館の展示に活用させていることに感謝しております。 Mechanics ─メカ─ くるまは簡単に持ち 上 げ ら れ ま す 。 で も 、 歯車を1周させるのに は10年かかります。 滑車やギアなどの組 み合わせで、目的の動 きをする機械がつくら れます。新しい機械を 創造する意欲がわいて くる空間です。

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米村 でんじろう氏(サイエンスプロデューサー) ●お客さんから得た大きな成果 私が担当しましたワークスは、新しい実験や展示を開発するスペース、工房として構想されました。 この10年を振り返ってみると、開発に取り組むための運営はシステムに問題があり難しく、当初構想し た通りに工房としての機能を果たしていたかと言えば、必ずしもそうではありませんでした。しかし、ど ういう展示が好まれて、どういう展示が失敗だったのか、お客さんの動きを通して具体的に見えてきたの は大きな成果だと思います。 この10年間お客さんから得たものと10年間の経験をベースにして、もう一度(ワークスを構想した当時 の)原点に戻って、本当にお客さんに喜んでいただける実験や展示を開発していくことが今後の目標だと 思います。 Works ─ワークス─ シャボン玉の中に入 っ た こ と が あ り ま す か? 浮いている風船を自 由に操ったことがあり ますか? 身 近 な も の が 、 創 意・工夫で展示物や実 験道具になります。早 速、家で試したい!そ んな挑戦する心がかき たてられる空間です。 餌取 章男氏(科学ジャーナリスト) ●みんなの熱意と汗のたまもの 発端は、当時科学技術庁長官であった田中真紀子氏の来館でした。鶴の一声で始まった極めて短期間の リニューアルプロジェクトは、最終的にFORESTという形で結実し、いまもなお立派に輝いています。 7人のプロデューサー、科学技術館の関係職員、それに周囲の協力者たちが、わずか6か月のあいだに つくりあげたFORESTは、まさにみんなの熱意と汗のたまものでした。これからもFORESTは、科学技 術館の代表的な展示として多くの人たちに愛されつづけて行くでしょう。プロデューサーの一人として、 まとめ役として極めて印象深い仕事であり、私自身はこれをきっかけに、科学技術展示に特別の関心を持 つようになりました。 Access ─アクセス─ 自分の顔をどんなふ うにアレンジしようか な 。 目 を 大 き く し て 、 ほっぺたをへこまして …ん?宇宙人? パソコンを操作して いるうちにアートな感 覚がよびさまされます。 楽しみながら新しい驚 きを発見できるような 空間です。 森田 法勝氏(株式会社イエロー 代表取締役) ●目に見えない大切なものが詰まった森 不思議な森が誕生して10年。この森にはどんな秘密が内包されているのでしょうか?開発当初、参画し たメンバーは実に多彩なものでした。科学者、学芸員、エンジニア、デザイナー、アーティスト…。まる で、レオナルド・ダ・ビンチの好奇心が一気に結集した感がありました。「まず、自らが見てみたいもの」 に対する大人の無邪気な情熱が科学の森を作ったのです。 森は多くのことを語りませんが、来訪者の好奇心を無言でかきたて、非日常的なコミュニケーションを 生み出してきました。人と人、そして「科学する心」つまり自分との遭遇です。FORESTには、目に見え ない大切なものがたくさん詰まっているのです。そしてこれからも、一人でも多くの子どもたちが、この 大切な宝と出会ってほしいと願っています。 Orienteering ─オリエンテーリング─ 見た目、ふかふかし て い そ う な ソ フ ァ ー 。 座ってみたら…。見た 目、冷たそうな鉄の板。 触ってみたら… ちょっとしたきっか けで何かを発見できる。 そんな、しかけがたく さんあります。科学す る心の扉が、ひとりで に、そしていつの間に か開かれる空間です。 戎崎 俊一氏(独立行政法人理化学研究所 理学博士) ●進化し続ける活きた展示 科学ライブショーユニバースは10年間、活きた展示として今日まで進化し続けてきました。開始当初に 比べると、スクリーンは大きくなり、立体映像となり、また全国への出張講演も可能になるなど拡大し続 けています。講演数はのべ1000回を超えました。科学者自身が熱く科学の魅力を伝えるこのユニバースは、 世界で探しても珍しい成功例と自画自賛しています。 これまで続けてこられたのは、熱意を持って案内役を務めてくれた科学者たち、世代交代を繰り返しな がら縁の下でずっとユニバースを支えてくれた「ちもんず」の学生達、我々の無理な要望にも笑顔で応え てくれた科学技術館スタッフの方々、そして毎週ライブショーを笑顔で楽しんでくれるお客さんの声援の おかげだと思います。 次の10年も、さらなる飛躍をこの仲間たちと目指していきたいと思います。 Universe ─ユニバース─ 昼間なのに星空をラ イブで見ることができ ます。さまざまな研究 者の生の声を直接聞く ことができます。 研究データに基づく シミュレーション映像 の上映や、研究者を迎 えた科学ライブショー を行っています。科学 に対する夢と可能性が 広がる空間です。 *2001(平成13)年にGenome−ゲノム−が加わりました。 「DNA」ってホントは何?「ゲノム」って最近よく聞くけどどういうこと? その答えを見つけ出すための入口となる展示が並びます。身のまわりの動植物、そして自分や家族について、もういちど考えるきっかけとなる空間です。

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●森のもっと奥深くへ 自然の森は遷移していきます。森の遷移とは、例えば、落葉樹林から常緑樹 林へと、その環境によって長い年月をかけて層を変えていくことをいいます。 「遊び」、「発見」、「創造」の森“FOREST”も、この10年間で大きく遷移して きました。 これまでの博物館・科学館にはない新たな試みとして生まれたFORESTは、 社会や教育という環境の変化によって、その受け止められ方も変わり、当初は 解説のない参加体験型展示に対して注目が高かったものが、現在ではインスト ラクターや実験の先生による人対応がより評価されるようになっています。 自然の森は、人が入り込みすぎて必要以上の伐採などによって衰退すること もありますが、FORESTは、人(来館者)が入るほど、そして想定以上の体験 をしてもらうほど成長していきます。おかげさまで、入館者数は年々増加傾向 にあり、今もなお成長し続けていられます。 また、自然の森は、適度に人が手を入れることで美しい森が保たれます。 木々を刈り、落ち葉や枝が拾われる森は常に明るくきれいで、新しい芽が生ま れ、さらに次の美しい森へと育ちます。 FORESTも、独立行政法人理化学研究所の支援を受け、各スタッフによる日 常のメンテナンスやさまざまな実験演示、ライブショー、イベント等を実施す ることによって、常に明るさを保ち、新たなアイディアが生まれ育ちます。 だから、10年経った現在でも、来館者もスタッフも、この成長する「遊び」、 「発見」、「創造」の森のまだ途中までしか分け入ってないのかもしれません。来 館者の方々には、より深く深く奥へと入っていっていただきたいと思います。 そのためにもスタッフ一同FORESTの成長を止めぬよう努力を続け活動してま いります。 これからも財団および科学技術館の活動をご理解いただき、ご支援、ご協力 を賜れば幸いです。 <企画広報室> 本特集を組むにあたり、ご協力いただきました、プロデューサー、インストラクターおよび財団各部門の 方々に深謝申し上げます。 森のもっと奥深くへ

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●構想から8か月で誕生したフォレスト―奇跡のリニューアル― 科学技術館 副館長 山田 英徳 「勝尾様――今明け方の午前5時45分。もうこれ以上は(解説原稿の執 筆を続けるのは)私には無理です。…云々。改めてまたご相談いたしまし ょう…」下條。 FORESTのオープンを間近に控えた2月のある日、総括ディレクターと して大車輪の活躍中であった下條信輔氏(当時東京大学助教授、現カリフ ォルニア工科大学教授)が当館職員に当てたファックスの冒頭部分である。 FORESTは全部で7つのテーマの提案者である7人のプロデューサーによ って企画監修、完成されたものであるが、下條氏は「イリュージョン」を テーマとしたブースのプロデュースを担当する一方、FOREST全体の企画 調整を行うプロジェクト総括グループの実質的リーダでもあったのである。 その下條氏が冒頭のファックスにあるような音を上げたくなる状況であ ったこと、そしてそれは下條氏のみならず、ほかの6名のプロデューサー、 展示装置を試作している研究者、展示業者、そして当館の関係職員…が多 かれ少なかれ産みの苦しみのまっただ中で闘っている時期であったのであ る。 およそ2,400 の展示面積をリニューアルする、ということは中規模以下 の科学館にとってはほぼ全館のリニューアルに匹敵するものである。我が 科学技術館においても全体の4分の1のリニューアルであるから当初は企 画から完成まで最低2年間は必要だと考えた。しかし予算の性質上年度内 完成を必須条件とされたため、各テーマの企画の煮詰め、図面の製作、展 示試作、現場工事等あらゆる面においてそれまでの仕事の進め方とは全く 異なる手法をとらざるを得なかった。 ここではそのすべてを振り返ることはしない。ただ15億円を投入し、8 か月で当館の目玉にふさわしい展示を実現すると言う、まさに奇跡のリニ ューアルを実施できたのは冒頭にご紹介したような各プロデューサの破格 の熱意と30人を超える当館職員がなんとしても完成させようとチームの結 束力を飛躍的に高めた結果であったことを、10周年を迎えたいま報告する ことができ、当時企画総括を担当したものとしてほっとしているところで ある。

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【生態展示】 南国の蝶や甲虫を手で触れることができる生態 展示 【バーチャル蝶々の飛翔】 ビデオカメラで撮ってスクリーンに映し出され ているひまわりに、バーチャルの蝶が集まる 当財団が運営する科学技術館と、財団法人埼玉県公園緑地協会から当財団が運 営を受託している所沢航空発祥記念館では、この夏休みに昆虫をテーマとした 特別展を開催しました。 科学技術館では、来年でファーブルの「昆虫記」全10巻が刊行されて、ちょう ど100年を迎えることに先駆け、『ファーブルと昆虫の世界展』を、所沢航空発 祥記念館では、昆虫の飛行メカニズムをテーマとした『ふしぎ体験 昆虫ワン ダーランド』を開催しました。近年の昆虫ブームも加わり両特別展とも大盛況 となり、多くの来館者に楽しんでいただきました。 ●科学技術館 夏休み特別展『ファーブルと昆虫の世界展』 2006(平成18)年8月12日(土)から8月27日(日)まで、NPO日本アン リ・ファーブル会と共催で、夏休み特別展『ファーブルと昆虫の世界展』を開 催しました。また、環境省、文部科学省、そして読売新聞社には後援をいただ きました。 「昆虫記」で有名なジャン・アンリ・ファーブル(フランス)は、小さいころ から、好奇心が強く記憶力がよい子どもでした。目で見、耳で聴き、手で触れ て観察した事実こそが本物であるという信念を貫き、生涯を通して「昆虫記」 を作り上げました。1879年、55歳の時に「昆虫記」第1巻が刊行され、ほぼ3 年に1巻ずつ出していきました。1907年、第10巻がグラビエール社(フランス) から刊行され、2007年で「昆虫記」が世界的に知れ渡り100年目を迎えますので、 1年先行して本展を実施しました。都会の子どもたちに昆虫を身近に観察でき るように室内に約50m2の大きな虫かごを作り、延べ500頭の蝶々と100匹の甲虫 を放し飼いする生態展示を中心に、甲虫をモチーフにした各種コーナーを設け ました。読売新聞の科学面でのファーブル関連記事やNHKの夜7時のニュース (全国放送)による放送などの効果もあり、入館者数増へとつながり大成功のう ちに閉幕を迎えました。以下に、実施した内容を簡単に紹介します。 ファーブル展 目玉は、昆虫(南国の蝶を中心に、カブトムシやクワガタなど)の「生態展 示」です。普段、なかなか手に触れることがない昆虫を直接触ることができ、 多くの方々に貴重な体験をしていただきました。 また、ファーブルの関連展示や昆虫標本、昆虫が自然界で生きていくための 知恵やカラダの特徴に関する解説展示など、来館者の興味をそそる内容で好評 を博しました。 昆虫と科学・技術 昆虫と科学・技術の関わりを紹介しました。昆虫の部位をナノの世界で観察 できる電子顕微鏡「これは何?」、実物のひまわりの花にバーチャルの蝶が集ま る映像システム「バーチャル蝶々の飛翔」、調べ学習に役立つ昆虫の不思議な習 性や活動をデータ検索できるシステム「昆虫教室」といったコーナーを設置し

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科学演劇「サイエンス・バーチャルファイター 」 科学技術館のイベントで大人気の科学演劇「サイエンス・バーチャルファイ ター」。今回は『ファーブルと昆虫の世界展』ということで、昆虫をテーマとし た科学演劇「昆虫救出大作戦」を実施しました。 昆虫は、なぜ鳴くの? 外敵から身を守るために、どのような工夫をするの か? など、知っているようで知らないことを実演と映像を交えて解説しました。 今回でシリーズ7作目。このショーを毎回楽しみにしているリピーターも多く、 大好評でした。 ワゴンによる移動科学実験ショー「実験ジャー」 6年前にキャラクターとして登場した「実験ジャー」は、サイエンス・バー チャルファイターと同様に子どもたちに大人気の科学インタープリター的存在 です。 科学技術館征服を目論む「ナゾナゾマン」。ナゾナゾマンが出すいろいろな難 問を解いていく「実験ジャー」。楽しいかけ合いを交えながら、科学の楽しさ、 不思議さを来館者へ振りまきました。 工作教室 ラジオ工作、ペーパークラフト、メタルで昆虫作りなどを実施しました。ま た、小さな子どもでも参加できる簡単な工作教室として、「オリジナルグラスを 作ろう」、「樹脂でアンモナイトのレプリカ作り」も毎日実施しました。 協賛・特別協力により、イベントの内容も充実し、参加者に大変喜んでいた だきました。今後もイベント企画の充実を図り、さまざまな企業との連携に取 り組み、学校ではなかなか体験できないような機会を提供していきます。 <科学技術館事業部> ●所沢航空発祥記念館 夏休み特別展『ふしぎ体験 昆虫ワンダーランド』 2006(平成18)年7月22日(土)から8月31日(木)まで、所沢航空発祥記 念館で、夏休み特別展『ふしぎ体験 昆虫ワンダーランド』を開催しました。 「飛行機の博物館」で「昆虫」? 何かの間違いじゃないの? そんな声が聞 こえてきそうです。昆虫を扱うのは、自然科学系の博物館か動物園と相場は決 っています。 実際、所沢航空発祥記念館に来てから、「昆虫」の特別展開催と「昆虫」の映 画の上映を知って、訝しげな顔をしている入館者も見かけました。 【サイエンス・バーチャルファイター】 大人気の科学演劇「サイエンス・バーチャルフ ァイター」。昆虫の特徴や性質などをとりあげた 内容を実演 【科学戦隊「実験ジャー」】 科学技術館の展示室内にどこかに突如としてあ らわれる移動科学実験ショー「実験ジャー」 ●協賛・特別協力をいただいた企業 ILTJ、アイツールス アンド イーエックスブレイン(株)、NHK、エプソン販売(株)、 (株)科学館サービス、(株)グリーンハウス、(株)最上インクス、(株)シクセンス、 (株)集英社、(株)小学館、新江ノ島水族館、(株)丹青社、日新製鋼(株)、(株)日展、 日本製紙(株)、日本電子(株)、(株)乃村工藝社、(株)博秀工芸、(株)ムラヤマ (以上50音順)

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【特別展会場】 昆虫の飛行のメカニズムを考えさせる会場を設定 【昆虫の飛翔のしくみと飛翔昆虫ロボット】 劉浩教授の研究を紹介するコーナー 【観察教室】 記念館のある所沢航空記念公園で松田邦雄先生 による昆虫の観察教室を実施 でもちょっと待って下さい。日本人が最初に考案した飛行機は、昆虫の「玉 虫」をモデルにした二宮忠八の「玉虫型飛行器」です。2mの翼を持ち、人が 乗れる「玉虫型飛行器」機体は、1893(明治26)年に完成しました。ライト兄 弟初飛行の2か月前のことです。 ところが、当時の日本はこの先進的なアイディアに資金を出す先見性がなく、 残念ながら世界初の有人飛行の栄誉はライト兄弟に輝いてしまいました。ライ ト兄弟の飛行機は、鳥の研究をもとにしたもので、大型の鳥の滑空の研究から 飛行原理を発見し、それをもとに発明された技術と言ってよいでしょう。現代 の航空機がその延長線上にあることは言うまでもありません。 ところがその動力付有人飛行から100年経った現代では、昆虫の「飛行」の研 究が最先端の科学分野で熱い研究テーマになっています。「昆虫が空中で静止し たり、急旋回できるのはなぜなのか?」、「昆虫が突風のなかで悠々と飛びぬけ て決して落ちないのはなぜなのか?」、「毎秒20∼1000回も羽ばたく翅が自重の 2倍以上の揚力を発生できるのはなぜなのか?」などについて、未だに理路整 然と説明できる理論はありません。 千葉大学工学部の劉浩教授は、スズメガについてスーパーコンピュータを駆 使して羽ばたき翅と胴体回りの複雑な空気の渦構造を解明し、それをもとに昆 虫ロボットを作った研究者です。当館の特別展『ふしぎ体験 昆虫ワンダーラ ンド』では、その研究成果をわかりやすく映像と解説パネルで紹介しました。 3億年前の古生代石炭紀に翅を持った昆虫が出現して以来、進化を重ね、現 在、昆虫の種類は100万種とも1000万種ともいわれています。これらの昆虫は自 然淘汰を重ねてきた結果、力学的に洗練された飛翔形態を持ち、人類にとって 学ぶべき設計図を提供してくれると、劉教授は語ります。いずれ新しいマイク ロマシン(小型飛翔ロボット)が発明されるとともに、昆虫から飛行機までを 包含する飛行の統一理論ができるかもしれません。 また、『ふしぎ体験 昆虫ワンダーランド』では、松田邦雄先生(科学技術館 サイエンス友の会講師)にご協力をいただき、ご所蔵の蝶や蛾、トンボ、甲虫、 バッタ、セミの標本を展示するとともに、さまざまな翅の形と飛び方の関係に ついて解説を書いていただきました。 その他、記念館を訪れる年少の皆さんがまず昆虫に親しんで関心を持っても らえるよう、外国の甲虫の生体展示、クイズラリーや「虫と遊ぼう」コーナー の設置、デジタル昆虫ゲーム、昆虫凧なども展示し、昆虫に関する公開講座や 観察教室、工作教室を開催しました。 本特別展開催にあたりましては、多くの関係者のご協力をいただきました。 お名前を記載するスペースがなく、恐縮ですが、ご協力くださった関係者の皆 様に感謝する次第です。 <航空記念館運営部>

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2006全国大会開催

【科学者に聞こう科学相談】 入場者の疑問・質問に研究者が答える 科学相談コーナー 【起震車】 研究機関や消防署の協力による起震車コーナー 2006(平成18)年7月27日(木)∼8月1日(火)の6日間、科学技術館にて、 『青少年のための科学の祭典』2006全国大会が開催されました(主催:青少年 のための科学の祭典全国大会実行委員会、文部科学省、財団法人日本科学技術 振興財団・科学技術館)。 15年目を迎えた今年は、145の出展ブースに加え、研究者や企業の技術者の 方々にご協力いただき、「科学相談コーナー」や「起震車コーナー」なども設け、 より充実した内容となり、入場者数も58,900人を数えました。 ●『青少年のための科学の祭典』とは? 『青少年のための科学の祭典』は、青少年が実験や工作などの実体験を通し て科学に親しむ場を提供することを目的とするイベントです。1992(平成4) 年から開始され、今年で15年目になります。最初は全国3か所の開催でしたが、 今では80か所で開催される全国的な科学体験イベントとして定着しています。 この全国大会は、演示実験をする講師の方々を公募している点が他の大会と 異なります。北海道から鹿児島まで、また海外からも応募があり、厳しい審査 を通った実験名人だけが出展できるようになっています。これによって、実験 の内容も毎年工夫がなされ、新しい講師も加わり常に祭典が活性化される仕組 みを維持していることが最大の特長となっています。 科学者に聞こう科学相談 祭典の出展者は大半が小学校・中学校・高等学校の先生です。研究熱心な先 生方のアイディアが詰まったブースは約150ブースにもなりますが、これに加え、 最先端の研究者の協力により、入場者の疑問・質問に何でも答える科学相談コ ーナーを設けました。さまざまな質問が100件あまり寄せられました。例えば、 「光って何ですか?」、「このアリはどんなアリでしょうか?女王アリでしょう か?」、「色が変わる物質についてどのような物があるか教えて下さい。また、 カメレオンの色が変わるのはなぜ?」などの質問が飛び出し、答えていただい た生物物理学会や物理学会の研究者は悪戦苦闘?の連続で、活気に溢れるコー ナーとなりました。 起震車 また、研究機関との連携強化として、東京大学地震研究所、防災科学技術研 究所、麹町消防署に協力を依頼し、「起震車コーナー」を設けました。 入場者は、地震の発生メカニズムの説明を聞いた後に、起震車に乗って、地 震のゆれを体験することができ、大変好評でした。 * 今まで、祭典を支えていただいていた小中高の先生方に加えて研究者や企業 の技術者の方々に参加いただき、大変充実した祭典となりました。来年度もさ らにこの方向を拡大すべく努力いたしますので、関係機関の方々のご協力をお 願い申し上げます。 <振興事業部>

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【北の丸インターネット望遠鏡(KIT)】 科学技術館の屋上に設置された望遠鏡。 アメリカの高校の授業でも利用されている 【「ユニバース」ライブ天体観測】 TV会議システムで、ヤーキス天文台のスタッフ が出演。昼間にアメリカの夜空を観察できる 科学技術館事業部では、理化学研究所、国立天文台、ヤーキス天文台、熊本大 学とアメリカの科学教育プログラム「Hands-On Universe」との協力によって、 「星空を教室に!」という事業を展開しています。 これまで、科学技術館屋上に北の丸インターネット望遠鏡の設置、科学技術館 FOREST「ユニバース」で行っている科学ライブショーでのライブ天体観測、 星座カメラi-CAN の共同開発と地域の小学校での実践授業を実現してきました。 ●昼間に星が見える?−「ユニバース」の試みから 「ユニバース」ではよく来館者に、「昼間に星が見えるかな?」と質問をしま す。「青空の中に月が見える」、「太陽は星の仲間」という解答もありますが、返 ってくる答えはほとんど「見えない」です。そこで、インターネット技術を使 ったらどうでしょう?答えは「見える」になるのです。 インターネット望遠鏡の開発は、大学や公共天文台でも行われています。し かし、インターネット望遠鏡や星座カメラを日本に設置したのでは、国内では 昼間に星や天体を見るための「ツール」になりません。 地球は丸く、自転によって昼と夜が交互に訪れます。日本が昼なら、夜にな っている国があるはずです。そこで、科学技術館ではアメリカのヤーキス天文 台と研究協力を結び、「ユニバース」のライブ天体観測コーナーで、24インチ望 遠鏡で撮影した画像を、ほぼリアルタイムで紹介しています。 インターネット望遠鏡や星座カメラは、国際協力による相互活用によってそ の有効性が見出せます。私たちがアメリカの望遠鏡を使う代わりに、アメリカ の高校生たちは、自主的に北の丸望遠鏡(KIT)を天文の授業で取り入れてい ます。授業時間内に直接天体を観測できることは、星や宇宙への興味・関心を 高める結果になっています。 【星座カメラi-CAN】 熊本大学と共同開発した星座カメラ "i-CAN" 日本からインターネットで 自由に操作できる ヤーキス天文台 24インチ望遠鏡 北の丸インターネ ット望遠鏡(KIT) 1.資料収集、友の会活動、課外活動の支援 2.天文の授業での活用支援(米国・イリノイ州) 3.Hands-On Universeへの画像データの提供 星座カメラ i-CAN 1.「ユニバース」ライブ天体観測コーナー 2.学習指導要領「天体」の学習支援 3.小学校における課外活動の支援、教員研修 1.「ユニバース」ライブ天体観測コーナー 2.サイエンス友の会への資料提供 インターネット望遠鏡や星空カメラの活用例

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【世界各地のi-CANサイト】 現在国内外の5か所で稼動中。今年度中に、 もう3台設置される予定 【ヤーキス天文台のi-CAN】 アメリカ・ウィスコンシン州ヤーキス天文台の 屋上に設置されたi-CAN"William" 【i-CANからの映像】 アメリカ・メキシコ州アパッチポイント天文台 の i-CAN "Sacra"からの映像 ●星座カメラ i-CAN 望遠鏡は美しい天体の姿を見せてくれますが、星空を見ているという実感が 持ちにくいものです。そこで、2005年度より熊本大学と、星座カメラの開発と 実践授業を開始しました。 星座カメラの基本設計は熊本大学の佐藤毅彦助教授が行い、小学校「理科」 の「天文」の単元で学ぶ内容を網羅しました。さらに自由にカメラを操作でき る楽しみもあります。また、カメラの設置場所にあわせた改良や、設置作業の 一部は科学技術館が担当しています。設置に関しては、輸送中に機材の一部が 破損したり、現地のネットワーク環境がまだ十分整っていなかったり、現地ス タッフの協力を得ながら、さまざまな困難を乗り越え、星空の配信が可能にな りました。こうして、現在、国内外で5台のカメラが稼動しています。また各 設置サイトも、教育のためのアウトリーチ活動につながるということで、カメ ラの運用について非常に協力的です。今年度中に、もう3台のカメラを設置す る予定です。設置が完了すると、日本1台、アメリカ合衆国4台、チリ1台、 スペイン領カナリア諸島2台の星座カメラが、世界中の子どもたちに星空を届 けることになります。 このプロジェクトは科学研究費補助金特定領域研究であり、熊本大学ととも に学校教育および社会教育での実践を行い、研究成果についての検証も行って います。科学技術館ではおもに社会教育における活用実践を行っています。ラ イブ天体観測コーナーで行っている、シミュレーションとリアルタイムの星空 の紹介、望遠鏡で撮影された天体の画像と現地スタッフによるコメントは、来 館者から高い評価をいただいています。また、地域連携として千代田区の小学 校の教員研修、研究授業とアフタースクール・プログラムを実施しています。 いずれの実践も、今まで科学技術館が培ってきた研究機関、大学、地域連携に よって実現しているものと思います。 Hands-On Universeでの画像のデータアーカイブや、インターネット望遠鏡 や星座カメラの運用と展示の整備、カリキュラムやプログラムの情報発信は、 科学技術館が担うアウトリーチ活動になると思われ、これから整えていきたい と考えています。 ユニバースホームページ http://universe.chimons.org/ 北の丸望遠鏡ホームページ http://jahou.riken.go.jp/kit/ 星座カメラi-CANホームページ http://rika.educ.kumamoto-u.ac.jp/i-CAN/ <科学技術館事業部>

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【放射線ってなぁに?】 放射線の性質や放射線発見の歴史について わかりやすく説明 【飛べ!放射線】 放射線の飛跡を観察できる「霧箱」を作成 【放射線の種類と性質について】 サーベイメーターでα線を測定し、紙による 遮へいも実験 情報システム開発部では、文部科学省の委託事業として、夏休み期間中の土・ 日を中心に、放射線一日体験教室「放射線 見て 測って 考えてみよう!」を開 催しました。 本イベントは、児童生徒やその保護者層を対象に、私たちの身近にありながら 通常は見ることができない“放射線”の存在について、楽しい実験や観察を通 して理解を深めていただくもので、今年初めての試みです。7月、8月の夏休 み期間中に9日間開催され、延べ247名(小学生92名、中学生37名、高校生11 名、一般107名)が参加されました。 ●放射線を見て、測って、考える 目に見えない、音も聞こえない、においもしない、味もしない、そして触る こともできない“放射線”。本イベントでは、通常は見ることができない放射線 をまず目で見ることを体験し、続いて放射線量を測りながら、その特徴を学ん でいく実験が展開されました。 (1)放射線ってなぁに? はじめに、講師が、放射線はどのような性質を持つのか、どのようにして放 射線が見つかったのか、説明しました。「放射線」と聞いてイメージするものと して、参加者からは「原子爆弾」、「原子力発電」、「レントゲン」などの声があ がりました。 (2)飛べ!放射線 目に見えない放射線を、実際に見ることができる『霧箱』の実験を行いまし た。小さなシャーレの中にアルコールとドライアイスを使って霧と同じ状態を 作り、その中にできる放射線が飛んだ跡を観察します。小学生は、親子で一緒 に、各自1個の『霧箱』を製作しました。白い飛跡が浮かび上がると「見え た!」、「すごーい!」などの驚嘆の声があちこちから聞かれました。 (3)放射線の種類と性質について 放射線には、α線、β線、γ線などの種類があることが紹介され、α線を測 定するサーベイメーターという機器を利用して、実際にα線を測定しました。 また、紙を使ってα線が遮へいされることを目と耳(音)で確かめました。 (4)みんなレントゲン博士 “レントゲン写真”の現像を体験しました。レントゲン撮影の原理について 説明の後、科学技術館2階のアトモスにあるX線ビューワーを用いてあらかじ め煮干とエビにX線を当てておいた感光フィルムを、各自1枚現像しました。 フィルムに写った煮干またはエビの体の内部の様子を観察しました。 (5)放射線を捕まえる

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【放射線で泡ができる!?】 放射線を感知すると泡がはじけるバブルディテ クターで、放射線を測定 【こんな所にも放射線】 放射線を利用して作られた製品など、生活の中 に利用されている放射線についての解説 【科学の祭典に出展】 青少年のための科学の祭典全国大会にブースを 出展。延べ427名の方が参加した 【放射線を捕まえる】 GM式測定器を使った鉄の位置当てゲーム。放射 線が鉄で遮へいされ弱くなっているところを探知 しました。また、アルミや鉄を用いて放射線を遮へいできることを、実験しま した。高校生は、アルミや鉄に加え、アクリルや鉛といった素材も用いてその 遮へい力の違いを計測しました。 こうして、放射線の透過力と遮へいによる減弱作用を理解したうえで、グル ープ対抗で箱の中に隠された“鉄”の位置を、放射線源と放射線測定器を利用 して当てるというゲームを行いました。正解すると『霧箱』実験で使用したミ ニライトが貰えるということで、どのグループも真剣な顔で、仲良く測定をし ていました。 (6)放射線で泡ができる!? バブルディテクターという器具で放射線を測定しました。バブルディテクタ ーは、放射線源に近づけると、泡が発生し、パチパチとはじけて音がします。 昔は放射線測定によく使われていましたが、近年は精密な測定機器に押されて あまり用いられていません。参加者は、簡素な原理とパチパチという音のめず らしさに、一生懸命耳を傾けて観察していました。 (7)こんな所にも放射線 私たちの生活の中にも、放射線が多く利用されています。医療における病気 治療や医療器具製品の滅菌、また放射線を当ててゴムを強くしたタイヤ、真珠 に放射線を当てて色をつけた宝飾品等、さまざまなところで放射線が利用され、 私たちの生活に役立っていることが紹介されました。 * 本イベント終了後の参加者アンケートでは、「とても楽しくためになる実験で、 親子で楽しめました」、「図書館でさっそく本を借りてもっとくわしく調べたい と思います」、「とてもわかりやすく、興味深い教室でした。親子で夢中になっ てしまいました」、「普段見られないものを楽しく理解しながら実験できて楽し かった。説明がとてもわかりやすかった」等の感想が多数寄せられました。こ の体験教室を通じて、普段接することの少ない「放射線」について、多くの年 齢層の方々に理解を深めていただき、放射線の理解増進に貢献できたことを嬉 しく思います。 なお、7月27日(木)∼8月1日(火)に開催されました「青少年のための科 学の祭典」全国大会にも、「放射線 見て 測って 考えてみよう!」のブースを出 展し、6日間で、延べ427名の方々にご参加いただきました。 今後も、平成18年11月∼平成19年1月の毎月第3土曜日に実施する予定です。 みなさまのご参加をお待ちしております。 <申込・問合せ先> 財団法人 日本科学技術振興財団 情報システム開発部 〒102-0091 東京都千代田区北の丸公園2-1 科学技術館

TEL:03-3212-8472 FAX:03-3212-8596 E-mail:hashi@jsf.or.jp 放射線一日体験教室ホームページ http://hoshasen.jsf.or.jp

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このコーナーでは、財団スタッフが学芸活動や日常業務の中で得た科学技術 一般や展示、教育などに関する知識や情報を、スタッフの視点で楽しく、わか りやすく紹介していきます。 このコーナーは、次の4つのトピックスで構成されます。 ①バックヤード(4月) 展示の企画や実験プログラム開発、教育研究など、財団スタッフがこれまで の業務で行ってきた学芸活動やその裏側を紹介していきます。 ②フロントライン(7月) 科学技術館の運営の最前線に立つインストラクターをはじめ、現場スタッフ が体験したエピソードなどを紹介していきます。 ③ラボラトリー(10月) スタッフが研究し、考案した展示や実験、スタッフが調査し、考察した最新 技術動向など、スタッフの視点による科学や産業技術に関する様々な情報を紹 介していきます。 ④アウトリーチ(1月) 巡回展や出前授業、海外科学館調査など、スタッフが館外活動の中で得た情 報などを紹介していきます。 本コーナーで紹介していくスタッフの活動や考え方などを通して、財団の姿 をより深く知っていただければ幸いです。 第3回目のラボラトリーでは、科学技術館のサイエンス友の会で行われてい る実験教室や工作教室について、その教室が考案された背景などを合わせて紹 介していきます。 * 「本当は器用なこどもたち」 サイエンス友の会講師  柳沼 豊 ●サイエンス友の会の活動 科学技術館『サイエンス友の会』は1964(昭和39)年に会員制の「サイエン スクラブ」として発足しました。その後、1980(昭和55)年に「サイエンスク ラブ」を発展的に解消し現在の科学技術館『サイエンス友の会』となりました。 本年度の会員総数は2,090名(内小学生1,187名)となっております。 友の会では、実験教室、工作教室、自然観察教室、パソコン教室、施設見学 会、レオナルド・ダ・ヴィンチ教室などを行っており、これらの活動をとおし て会員の方々が科学的な物の見方、考え方を身に付け、自然に親しみ、自分自 身で問題を解決できることをめざしております。 これらの諸活動のうち、私が主に担当しております実験教室、工作教室につ いて紹介します。 実験教室、工作教室では簡単な知識、技術でできるものもあれば、ある程度 の基本的な専門知識、技術を必要とする内容のものまで、多岐にわたっていま す。

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