水工学論文集,第56巻,2012年2月
瀬切れによる河川表面水の消失が
河川近傍の温熱環境に及ぼす影響
INFLUENCE OF SURFACE WATER ON
HEAT ENVIRONMENT AROUND RIVERS
森脇 亮
1・亀井祐紀
2・藤森祥文
3Ryo MORIWAKI, Yuki KAMEI and Yoshifumi FUJIMORI
1正会員 博(工) 愛媛大学准教授 理工学研究科生産環境工学専攻(〒790-8577 愛媛県松山市文京町3番) 2
修(工) 正会員 株式会社エイト日本技術開発 (〒164-8601 東京都中野区本町5-33-11)
3正会員 修(工) 愛媛大学助教 理工学研究科生産環境工学専攻(〒790-8577 愛媛県松山市文京町3番)
We examined the cooling effect of rivers under the conditions where surface water existed and where the water disappeared by drought. The followings were main results. There were differences on the surface temperature of the bridge and air temperature within river channel; they were clearly lower than surroundings under the condition of surface water existence, which was not observed in drought condition. However, air temperature above the bridge tends to be always lower than that of surrounding area. This tendency was consistent regardless of the existence of surface water in the river. The reduction of air temperature above the bridge was often observed under the condition where wind direction matched the direction of stream and where the wind speed was high. The influence of low temperature above the rivers reached around the double of river width in the transverse direction.
Key Words: Heat Island, Urban River, Drought, Cooling Effect, Thermal Environment
1.はじめに 都市域では都市部の気温が郊外に比べて上昇するヒー トアイランド現象が発生している.この原因としては, 都市化によるアスファルトやコンクリートの増加に伴う 地表面温度の上昇や,人間活動による人工排熱の増加な どが考えられており大きな社会問題となっている.この 問題解決の方法のひとつとして,河川の冷却効果による ヒートアイランドの分断・縮小化が注目されている1). 例えば,武若ら2)は河川上に発生した冷気層が市街地に 流れ込むことで冷却効果を発生させることを報告してい る.また加藤ら3)は,河川の大きさに関わらず,河川付 近ほど気温が低くなることを報告している. この河川による冷却効果には大きく二つの要因がある と考えられており,一つは河川表面水による影響,一つ は風道としての影響である.河川に水が存在することに より,その熱容量の大きさや水面からの潜熱輸送によっ て夏期日中においては,周辺のコンクリート等と比べ, 温度の低い表面水が直接冷源として働き,周囲の気温上 昇を抑制している効果である.菅ら4)によると水面付近 での気温は周辺市街地に比べ0.8 ℃~1.2 ℃程度低いと 報告されている.もう一つの風の道としての効果につい て述べる.建物密集地に比べ粗度の低い河川は風の通り 道となり,夏季において冷涼な海風を内陸部まで侵入さ せ周辺気温の低下に役立っていると考えられている.例 えば,福田ら5)は東京都荒川では河口付近から河川沿い に侵入する海風が周辺の気温を低下させることを明らか にしている.また神田ら6)は河川に沿って遡上する海風 が内陸の盆地の気象にも大きく影響を与えることも示し ている. このように,河川による冷却効果についての研究は進 んできているが,実際の河川周辺における気温低下は二 つの要因が複合して発生するため,観測結果よりそれぞ れの影響を個別に検討することが困難である.そこで, 本研究では愛媛県松山市を流れる重信川と石手川に着目 した.両河川は河川水が地下に伏流し表面水が消失する 瀬切れが特有の現象として発生しているため,それぞれ の状態において気象観測を行うことが可能である.流水 状態と瀬切れ状態の観測結果を比較する事により表面水 の影響を検討し,河川周辺の温熱環境を決定づける要因 について検討した.
2.観測概要 (1) 重信川・石手川における瀬切れの状況 1級河川重信川は,高縄山系の東三方ヶ森に源流を発 して松山市に扇状地を形成している全長約36 kmの川で ある.河口から約3.7 kmの出合地点で合流する石手川は その支川となっており,松山市の中心部を流れる都市内 中小河川である.松山平野は年間降雨量が1300 mmと全 国平均と比較しても降雨量が少なく,古くから渇水に悩 まされている.このため重信川および石手川の中下流部 では恒常的に流量が少なく,また扇状地河川であるため 表面水が伏流しやすく,出水時以外には河床が露呈する 瀬切れが発生している.図-1の赤で塗りつぶしたエリア では,夏季の渇水時を中心とし年間の約半分の期間で瀬 切れが発生している7). (2) 観測地概要 主に瀬切れが発生しているのは,石手川では永木橋か ら小野川合流点までの区間,重信川では上流端から石手 川合流点までである.そこで,図-1のように石手川では 湯渡と末広エリア,重信川では出合と久谷エリアを選定 した.出合エリアでは,川幅は約240 m,低水路幅は約 140 mである.この地点より下流側は瀬切れが発生せず, 表面水が常に存在する.そのため,流水状態である河川 規模の大きい河川における観測データとして位置づけら れる.久谷大橋を中心とした久谷エリアは,河口からの 距離は約12.3 km,久谷大橋での川幅は約405 m,低水路 幅は約200 mである.久谷エリアは砥部川合流点より上 流側にあり,瀬切れが頻繁に発生している.そのため, 瀬切れ状態である河川規模の大きい河川における観測 データとなる.湯渡橋を基準とした湯渡エリアは,河口 からの距離は約10.5 km,湯渡橋周辺での川幅は約115 m, 低水路幅は約30 mである.この地点は瀬切れが発生せず, 表面水が常に存在している.そのため,流水状態である 河川規模の小さい河川における観測データが取得できる. 末広エリアは河口からの距離は約8.1 km,末広橋での川 幅は約150 m,低水路幅は約27 mである.末広エリアは瀬 切れが発生する区間内にあるが,降雨条件により流水状 態(写真-1)と瀬切れ状態(写真-2)になることがあり,二 つの状況での観測が可能である.そのため,流水状態で ある河川規模の小さい河川における観測データを得るこ とと共に,瀬切れの有無による影響について詳細な検討 を行うことができる.なお,全ての地点において河道は 高水敷を有する複断面となっている. (3) 観測方法 観測は一日を通して晴天が続いた日を対象とした.観 測 時 間 は 日 の 出 か ら 日 の 入 り 迄 の 間 を 中 心 と し AM6:00~PM8:00までとした.エリア毎に観測日は異な る(表-1). 図-2に各観測エリアにおける観測概略図を示す.橋上 をBS(Bridge Street)1~4地点,河川北側の路上をNS(North Street)1~3地点,南側をSS(South Street)1~3地点,高水敷 をRS(River Side)地点,水路内をR(River)地点とした.各 地点に配置した観測機器を表-2に示す.気温湿度セン サーは強制通風式の通風筒へ内蔵し,センサー毎の機差 はキャリブレーションにより補正した.また,設置型の 観測機器は1秒間隔で取得したデータを1分毎に平均して 記録した.サーモトレーサと携帯式の風速計については 地点毎に6時,10時,12時,14時,17時,19時に観測地 点を周回し,合計6回分を測定した. 図-1 松山市中心部地図 写真-1 流水時の石手川(9月17日,写真撮影地より) 写真-2 瀬切れ時の石手川(9月2日,写真撮影地より)
表-1 各観測エリアにおける観測条件 観測日 天候 観測エリア 川幅(m) 河川状態 平均気温(℃) 平均風速(ms-1) 平均風向 2010/6/24 晴れのち曇り 湯渡(石手川) 115 流水 26.7 1.4 西南西 2010/9/2 晴れ 末広1(石手川) 150 瀬切れ 31.6 1.7 西 2010/9/17 晴れ 末広2(石手川) 150 流水 27.3 1.8 西南西 2010/11/5 晴れ 久谷(重信川) 405 瀬切れ 15.8 2.5 西南西 2010/11/11 曇りのち晴れ 出合(重信川) 240 流水 16 1.4 南 表-2 観測機器設置概要 観測項目 観測機器 観測地点 設置高さ 設置型観測機器 気温・湿度 温度湿度センサー HOBO Prov2 全地点 1.1 m 風速・風向 三杯式風速風向計 MODEL 03002-5 BS2 2.2 m 水温 T 型熱電対 R 移動式観測機器 風速 ポケットタイプ風杯型 風速計 AM-4221 NS,SS,RS,R 2.0 m 地表面温度 サーモトレーサ TH9100 全地点 図-2 観測機器の配置図.道路は南北方向で あるが河道の方向は観測エリアによって異なる. 3.結果と考察 (1)河川周辺における温熱環境の特性 末広エリアでの流水状態の観測結果を代表例として, 河川周辺における温熱環境の検討を行う.図-3に気温の 時系列変化を示す.データは橋上,市街地,高水敷,低 水路にグループ化し平均化している.気温は13時頃に最 高となり,どの地点もほぼ同様の日変化を示している. 早朝の7時と夕刻の18時には各グループの気温差が小さ くなっているが,日中の時間帯は気温差が大きくなる傾 向があり,低水路(R地点)の気温が最も低く推移して いる.日中に最も気温が高くなる時間帯(11時~14時) の気温の空間分布を図-4に示した.市街地の気温はおお むね一番高くなる傾向があり,橋上の気温は市街地より も低くなる傾向がある.低水路の気温は他の観測地点と 比較して0.7℃~1.7℃程度低い.高水敷(RS地点)の気 温は市街地の気温に近い結果となった.しかし,14時以 降は気温低下が顕著であり16時以降にはR地点とほぼ等 しくなった.これは風向が河川の流下方向と合致した時 間帯と一致していた(図-3).図-5は12時における各グ ループの平均地表面温度である.気温と同様に水路付近 の地表面温度が最も低く,橋の表面温度も周辺市街地に 比べ低いことがわかった. 低水路,橋上での気温と地表面温度の低下について推 察する.これらの地点での気温低下は以下の過程で発生 すると推察される.1)一般的に,日中,日射により地表 面温度は上昇し,それに伴い地表面付近の大気が高温化 する.2)それに対して,低水路では流水が存在するため 熱容量の違いにより温度上昇が抑制される.また,表面 水の蒸発により潜熱が放出されやすいことも大気の加熱 を抑制する.これらの要因により水路上に相対的な冷気 層が発生する.3)さらに,河道が風道となって橋上に冷 気層が輸送され橋上の気温も低下させる.また橋の表面 温度が低くなったのは,橋梁下部における低温な水面か らの輻射熱(放射熱)が小さいこと,風通しのよい橋上 での対流による冷却が進んだことが理由として挙げられ る.風の影響については3(3)節で詳しく述べる.以上 の過程の模式図を図-6に示す.河川表面水の蒸発につい ては,日平均の絶対湿度の空間分布を調べたところ,水 路内のR地点と高水敷のRS地点での絶対湿度が路上に比 べ0.2~0.4 gm-3程度高く(図-4),表面水の蒸発と思われ る観測結果が得られていることを付記しておく.次節で はこの表面水が消失したケースでの観測結果を述べる. (2)瀬切れの有無が温熱環境に及ぼす影響 本節では末広エリアで瀬切れが発生したときの観測結 果について検討を行い,3(1)節の結果と比較する.そ して,瀬切れによる表面水の消失が及ぼす影響について 考察を行う. 図-7,8に瀬切れ発生時に観測した気温の時系列変化, 昼の時間帯の気温空間分布を示す.流水時の観測結果 (図-3,4)と比べ,まず顕著に異なるのが低水路(R地 点)での変化であり,瀬切れにより気温が大きく上昇し
0 45 90 135 180 225 270 315 360 20 22.5 25 27.5 30 32.5 7時 8時 9時 10時 11時 12時 13時 14時 15時 16時 17時 18時 風向( ° ) 平 均 気温( ℃ ) 市街地 橋上 高水敷 低水路 風向 図-3 末広エリア(流水時)における気温と風向の時系列変化 19.6 19.7 19.8 19.9 20 20.1 20.2 20.3 28 28.5 29 29.5 30 30.5 31 ‐200 ‐150 ‐100 ‐50 0 50 100 150 200 250 300 絶対湿度 (g kg ‐1) 気温( ℃ ) 設置位置(m) NS1 BS3 BS2 BS1 NS3 NS2 SS3 SS2 SS1 RS R BS4 水路 市街地 高水敷 橋上 図-4 末広エリア(流水時)における気温(塗りつぶし)と湿 度(白抜き)の空間分布(11時~14時) 0 10 20 30 40 50 60 橋上 市街地 高水敷 低水路 地 表面温 度 (℃ ) 図-5 末広エリア(流水時)における平均地表面温度(12時) 図-6 橋上の気温低下メカニズムの模式図1 0 45 90 135 180 225 270 315 360 25 27.5 30 32.5 35 7時 8時 9時 10時 11時 12時 13時 14時 15時 16時 17時 18時 風向( ° ) 平 均 気温( ℃ ) 市街地 橋上 高水敷 低水路 風向 図-7 末広エリア(瀬切時)における気温と風向の時系列変化 19.6 19.7 19.8 19.9 20 20.1 20.2 20.3 32 32.5 33 33.5 34 34.5 35 ‐200 ‐150 ‐100 ‐50 0 50 100 150 200 250 300 絶 対湿度 (g kg ‐1) 気温 ( ℃ ) 設置位置(m) NS1 BS3 BS2 BS1 NS3 NS2 SS3 SS2 SS1 RS R BS4 水路 市街地 高水敷 橋上 図-8 末広エリア(瀬切時)における気温(塗りつぶし)と湿 度(白抜き)の空間分布(11時~14時) 0 10 20 30 40 50 60 橋上 市街地 高水敷 低水路 地表 面温 度 (℃ ) 図-9 末広エリア(瀬切時)における平均地表面温度(12時) 図-10 橋上の気温低下メカニズムの模式図2 ている.湿度の低下も観測されており,表面水の消失に より低水路では高温化,乾燥化が生じたといえる.その 他の観測地点に関しても表面水の消失による気温の上昇 が期待されたが,その他の地点に関しては気温の相対的 な時空間分布は流水時(図-3,4)と比べて大きな変化は 見られない.特に橋上では周辺市街地と比べて依然とし て気温が低くなる傾向がある. 地とほぼ同様なレベルまで上昇している.写真-2にみら れるように河床表面は乾燥状態にあるため,熱容量およ び熱伝導性の低下が生じていたと考えられる.また,路 上においては橋上の温度が市街地の温度よりも低い傾向 となった.しかし,温度差には変化が現れ,流水状態で は8℃程度であったのに対して,瀬切れ状態では5℃程度 となり温度差は3℃小さくなった. 図-9に地表面温度を示す.低水路は表面水が消失して いるので河床の表面温度となっている.瀬切れ状態にお いては河床の地温(日向)は約46℃に達し,橋上や市街 これらの結果に対して,再びメカニズムの考察を行う. まず,瀬切れによる影響として以下のことが考えられる. 1)日射により低水路内の地表面温度も他の観測地点と同
表-3 各観測エリアと松山AMeDASの平均風速 ‐1 ‐0.8 ‐0.6 ‐0.4 ‐0.2 0 0.2 0 22.5 45 67.5 90 橋上 気温 -市 街地 気温 (℃ ) 風向(°) 末広 久谷 観測エリア 川幅 (m) 平均風速(ms-1 ) 風速比 観測エリア 松山 AMeDAS 出合 240 1.4 1.6 0.88 久谷 405 2.5 2.3 1.10 湯渡 115 1.4 2.1 0.67 末広1(流水) 150 1.8 2.4 0.75 末広2(瀬切) 150 1.7 2.7 0.63 ‐1 ‐0.8 ‐0.6 ‐0.4 ‐0.2 0 0.2 0 1 2 3 4 5 6 風速(ms‐1) R² = 0.94 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 0 100 200 300 400 500 風速 比 川幅 久谷(瀬切れ) 出合(重信川) 湯渡(流水) 末広(流水1) 末広(流水2) 末広(瀬切れ) 末広 久谷 ・ エ ・ ・ ・ C ・ キ ・ |・ エ ・ O ・ C ・ キ (・ ・ ) 橋 上気温-市 街地気温 (℃ ) 図-12 各観測エリアにおける風速比と川幅の関係 図-11 末広と久谷(共に瀬切れ状態)における橋上気温と風 向(上),風速(下)の関係 立体構造に起因していると考えられる.当然のことなが ら,この考察は風向が河川の流路と一致していることが 前提となっている.風向と橋上の気温低下の関係につい ては次節で述べる. 様に上昇する.2)表面水の蒸発による潜熱消費がないた め大気の冷却効果は発生しない.3)低水路が高温化した ため橋下部への輻射熱も大きくなり橋の温度を上昇させ る.以上が水路内の気温と地表面温度の上昇,橋上の地 表面温度が市街地の表面温度に近づいたことの原因であ ると考えられる.しかし,橋上の気温低下は瀬切れが発 生しても依然として確認されている.この理由として, 高低差による気温差の発生が考えられる.図-10に模式 図を示す.まず日射によりすべての地表面温度は上昇し, 熱源となり付近の大気を加熱する.この大気の高温化現 象は熱源となる地表面に近いほど顕著であり,より上空 の大気ほど影響は軽微になる.そのため,地表面付近と 上空の気温には温度差が生じる.通常,平坦で一様な地 表上においては同じ高度の気温はほぼ同じである.しか し,河川においては河道が路上から掘り込まれたような 構造となっており,河床と橋上には高低差が存在する. 実際に観測サイトで計測したところ約10 mの高低差が あった.そのため,橋上では河床から上空10 mの大気を 観測していることになり,その結果,橋上での気温が低 水路や周辺市街地と比べて相対的に低くなったと考えら れる.1章で述べたとおり,河川周辺の気温低下の説明 には,河川表面水による効果と風道としての効果が混在 されていることが多いが,本観測結果を考察する限り, 河川表面水による影響は低水路内にとどまっており,橋 上レベルの気温低下は表面水の影響よりもむしろ河道の (3)河川上の気温低下と風向・風速の関係 前節の仮説についてさらに検討するために,表面水の ない瀬切れの状態で観測を行った末広1と久谷(表-1参 照)における橋上の気温低下と風との関係について述べ る.図-11に1時間毎の橋上と市街地の平均気温差と風 向および風速の関係をそれぞれ示す.ここで風向は0° を河道方向,90°を横断方向としている.風が河道方向 から吹くときに風速が大きくなりやすく,それに従って 橋上の気温が周囲に比べて低下する傾向がある結果と なった.つまり,河川上空の大気が橋上に強く流れてく るときに気温低下が発生しやすいことが示唆される.つ まり,瀬切れ状態においても河道上空は市街地に比べて 気温が低くそれが橋上の気温を低下させていると考えら れる. 表-3および図-12は各観測エリアにおいて観測された 日中平均風速を最寄りのAMeDASの結果と比べ川幅で整 理したものである.ここで風速比とは各観測エリアの平 均風速をAMeDASの平均風速で割ったものであり,風速 比が大きいほど風通しが良いことを表す.風速比は最も 川幅の大きい久谷エリアにおいて最大であり,他の観測 エリアにおいても川幅が大きくなるほど風速比は大きい
傾向にある.川幅が大きいほど風通しがよいことに疑念 の余地はないが,このことは橋上の気温低下にも関わる ので重要である.図-11によれば風速が大きいほど河川 上の気温は周囲と比べて低下しており,このことから考 えると川幅が大きいほど橋上の気温低下が期待されるこ とになる. ‐1.5 ‐1 ‐0.5 0 0.5 1 1.5 0 0.5 1 1.5 各観測点気温-観測エ リア 平均気温 ( ℃ ) 2 川幅比 湯渡(流水) 末広(瀬切れ) 末広(流水) 久谷(瀬切れ) 出合(流水) (4)気温低下の河川横断方向への影響範囲 最後に,気温低下が河川の横断方向に影響を及ぼす範 囲について検討を行う.各観測エリアにおいて,観測地 点の河川中心からの距離を川幅で無次元化し,これを川 幅比として定義した.川幅比0~0.5が河川区間内である. 図-13に川幅比と各観測エリアにおける路上気温の横断 分布の関係を示す.図より河川中央からの気温の連続的 な上昇は,久谷エリアと湯渡エリアでは川幅の約1.5倍 の範囲,出合エリアと末広エリアでは川幅の約2倍の範 囲で確認された.この結果は既存の研究事例4)5)と同程度 であった.表面水の有無,川幅,周辺の土地利用など, 観測場所の条件が多様であるにも関わらず,気温低下の 影響範囲が川幅の2倍程度まで確認されている.ただし, 観測データが十分蓄積されていないこと,さらに広範囲 での観測データが必要であることなどの理由で,気温低 下の影響範囲について結論を出すには拙速であり今後さ らなる研究が期待される.また川幅や堤防高さなどの河 道の立体構造や周辺地域の土地利用が気温低下(影響範 囲や気温の空間勾配)に及ぼす影響についても今後の課 題である. 図-13 道路(橋および市街地)上の日中平均気温と川幅比の 関係 謝辞:本研究は文部科学研究費補助金基盤研究(B) (課題番号:22360198)による財政的援助を受けた.ま た,愛媛大学環境建設工学科水環境工学研究室の方々に は観測機器の設置にご協力いただいた.ここに合わせて 謝意を表す. 参考文献 1) 森山正和:ヒートアイランドの対策と技術,学芸出 版社,pp.18-19,2004 2) 武若 聡,池田駿介,平山孝治,萱場祐一,財津知 亨:都市内河川による大気冷却効果,土木学会論文集, No.479, pp.11-20,1993 4.まとめ 3) 加藤拓磨,小田村康幸,山田 正:河川からの風が 都市の熱環境に与える緩和効果,水工学論文集,第53巻, pp.295-300,2009 河川上の気温低下を決定づける要因について検討を行 うため,表面水の有無や川幅など条件の異なる複数エリ アにて観測を行った.本研究で得られた主要な知見は以 下のとおりである. 4) 菅 和利,河原能久:都市河川,運河が周辺市街地 の熱環境に及ぼす効果,水工学論文集,第37巻, pp.195-200,1993 5) 福田忠弘,鹿島正彦,鈴木 譲,神田 学:海風前 線マップの作成による都市河川の風道効果の検証,水工 学論文集,第42巻, pp.49-54,1998 1)夏季晴天日の日中は,橋上では周辺市街地と比べて 気温が低くなる傾向がある. 2)河川表面水の消失は低水路内の気温上昇にはつなが るが,橋上レベルの気温分布には大きく影響しない.こ のことから橋上の気温低下は表面水の影響よりもむしろ 河道の立体構造(高低差)に起因していると考えられる. 6) 神田 学,角井 充:山梨県の夏季晴天日の風・気温場 の解析,天気,第42巻,pp.763-771,1995 7) 国土交通省四国地方整備局:重信川水系河川整備計 画,2008 3)橋上の気温低下は,風向が河道方向に合致しまた風 速が大きいほど顕著になる.また川幅が大きいほど橋上 の風速は市街地に比べて大きくなる傾向がある. (2011.9.30.受付) 4)河川による気温低下の影響は河川を中心として広が り川幅の約2倍の範囲に及ぶ.