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商業地における空間的変化と空間構造-香川大学学術情報リポジトリ

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香 川 大 学 経 済 論 叢 第74巻 第 4号 2002年3月 309-330

商業地における空間的変化と空間構造

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商業を空間的な広がりの側面から眺めた時に 1つの特徴として指摘できるの は,小売商業者ゐ活動の舞台である小売庖舗(以下,庖舗)が空間的に近接し て立地するという集積の性質である。小売商業者の庖舗が集積する地域は,商 業集積,商業地,中心地といった様々な用語によって語られるのであるが,こ こではある一定の空間的範囲に複数の庖舗が集まって立地している地域を商業 地と呼ぶ、ことにしよう。 このような商業地を経時的に見れば,それが決して定まった状態で存在して ないことは容易に想像される。商業地における個別の庖舗の姿が変化していく のはもちろんであるが,そのまとまりとしての商業地もその姿を変化させてい く。商業地における小売商業者は日々他の小売商業者と競争を展開しており, それらの競争関係を勝ち抜いた庖舗は存続・繁栄するし,敗れたものはその市 場,ここでは商業地から退出を余儀なくされる。しかし商業地において潜在的 な需要が十分存在するとすれば,庖舗の退出の後には,新たな庖舗が開庖し, 商業地自体は存続するはずである。商業地はこのような競争関係を背景として 日々その姿を変化させていくのである。 このような商業地の変化する性質はいくつかの側面から捉えられる。例えば, 既存研究においては,その業種構成の変化(Whysall1989,Brown 1990),ある (1) 本研究では商業地を研究対象とし,そこで活躍する主体を小売商業者と呼んでいるた めに,一般的に小売商業者と呼ばれるものよりも若干広い範囲の対象をこの概念に含め ている。すなわち一般的な小売商業者に加えて,商業地において消費者にサービスを提供 しているサービス提供者,飲食業者もあわせて便宜的に小売商業者と呼んでいる。

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1022 香川大学経済論議白 -310ー といった側面を いは内部の商業者の組織的な繋がりの変化(石原・石井 1992) それらは商業地における変化の一側面を捉えてい しかしこれまで十分に検討されてこなかったのは,商業地の空間的な側面に 関わる変化である。商業地は新たな庖舗の新設や移転,既存届舗の閉屈といっ た要因によってその姿を変化させていくのであるが,それらは商業地の空間的 な広がりを変化させる性質をもっている。 Brown(1990)が示したように,一般 捉えた研究が存在しており, ると考えられる。

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的には商業地に出屈しようとする小売商業者が増加すれば商業地の空間的な広 がりは拡大するし,開庖を上回る閉j吉が発生すれば縮小する。商業地の空間的 このような小売商業者の立地活動の積み重ねによって,順次変化 しかし他方で,商業地の空間的な側面に な広がりは, していくものと考えられるのである。 あらためて注目すれば,空間的に変化する要素とは空間的な広がりだけに限定 されるものではない。多くの商業地に関わる研究が示しているように,商業地 にはその構造的な側面として中心が想定されている。そのような中心に関わる 変化も,商業地の空間的な変化の一側面である。 どのように統合的・整合的に この点に関しては,従来暖昧なまま議論が進められて きた。本稿はこのような研究上の間隙を埋めるため,商業地の空間的変化の全 体像を捉える概念的な枠組みを提示し,その中に既存研究を位置づけることを このような空間的側面の異なる変化の関連は, 理解されるのだろうか。 近年,社会的には商業地やそれを含んだ中心市街地のマネジメントに対する 意識が高まっている。各地でおこなわれている街づくり活動はその典型であろ これらの活動は商業地や中心市街地における様々な変化を意図的に統制し ようとする試みであると考えられ,それらの活動をおこなう前提として,商業 地の変化の性質に対する理解を深めることには大きな意義があると考えられ る。本稿の議論は,このような商業地の変化の性質の理解に貢献することが期 目的としている。

待できるのである。

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1023 商業地における空間的変化と空間構造 -311

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商業地の空間的な変化一一範囲と位置の変化一一

1 商業地の空間的把握と内部構造の議論 商業地とは本来空間的な広がりをもったものであるが,それらが検討する問 題に直接関わらない限りは捨象して議論される。しかし本稿が問題とするよう な商業地の空間的な変化を取り扱う際には,必然的に空間的な広がりを考慮し た上で商業地を捉える必要がある。商業地の空間的な変化を議論する前に,こ のような商業地の空間的な把握に関して確認する必要があるだろう。 一般的に空間的な側面を考慮、した商業地とは中心をもった円として示される ことが多い。その代表は商業地の内部構造の議論である。商業地の内部構造の 議論とは,空間的な広がりをもっ商業地の内部において,空間上のどのような位 置にどのような機能の庖舗が集積するかを議論したものである。このような内 部構造に関する議論は,商業地の空間的変化の議論とも関連するので,この分野 の研究で基礎的な貢献をしたGarner(1966)の議論を確認することにしよう。 Garner (1966)によれば商業地とは場所としての近接性(accessibility)の もっとも高い場所を中心にして庖舗が集まったものである。場所としての近接 性とは,ある場所における地域的な範囲の中からの近づきやすさの程度を示し たものである。例えば,交通の結節点とよばれる交通機関のターミナノレや主要 道路の交差点は場所としての近接性が高い場所である。近接性の高い場所はそ の場所に到達するまでの費用が低いことから,多くの人たちが集まる場所であ ると考えられる。 商業地の内部構造の議論では,近接性のもっとも高い場所は小売商業者の庖 舗立地場所として最も望ましい場所であると考える。近接性の高い場所は潜在 的な買い手である通行者がもっとも多い場所であり,少しでも多くの買い手を 吸引したい小売商業者は通行者のより多い場所を立地場所として選択したいと 考えるからである。従って商業地に立地しようとする多くの小売商業者は,こ のような場所を獲得するために競争をおこなう。そしてこの競争の結果,当該 場所を使用するための費用は高騰し,もっとも高い費用負担能力をもっ小売商

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討 B a a l -H i l l i -s f -312- 香川大学経済論叢 1024 業者がこの場所を占有すると考えられるのである。 このような競争の過程は商業地におけるそれぞれの地点でおこなわれる。し かし潜在的な買い手である通行者は,近接性のもっとも高い場所を中心として 順次減少するとされる。つまり近接性の最高点を中心とし,場所ごとの通行量 を高さで示せば,その形状は円錐状となるのである。このような仮定に対応し て近接性の最高点から離れるにつれ,小売商業者の買い手の吸引可能性は減少 し,使用に伴う費用も減少する。それ故,費用負担能力の低い小売商業者もそ の場所を占有できるようになる。このような過程を経て,最終的にはもっとも 近接性の高い場所を中心とした円状の商業地が形成されることになるのであ る。 2, 商業地の空間的変化に関わる既存研究 以上のように空間的側面を考慮、した上で商業地を捉えた場合,それは中心を もっ円として把握されてきた。このような円としての商業地が空間的に変化す るという現象は,大きく分けて 2つの側面をもっと考えられる。そのlつは円 の大きさの変化である。ある円状の商業地が存在するとすれば,その大きさが 拡大・縮小する現象を想定することができる。ここではこれを「商業地の範囲 の変化」と呼ぶことにしよう。 また他の1つは,円自体の空間的移動である。ある円状の商業地が空間上に 存在するとすれば,それが異なる地点に移動することが考えられる。それを端 的に示すのは商業地の中心の移動である。商業地の中心と考えられる地点が空 間的に変化すれば,商業地は空間的に変化していると考えられるだろう。 ではこれを「商業地の位置の変イ七」と呼ぶ、ことにしよう。 ヲ ヲ '-- '- -(2 ) このGamer(1966)の議論とBerry(1963)による中心業務地区の内部形態の議論を統 合し,商業地の業種に関する内部構成を具体的に議論したのはDavise(1972)である。彼 は商業地の内部構成を,第1に費用負担能力の高い業穫の庖舗が中心に近い場所から立 地していく同心円状の配列,第2に幹線道路沿いの地域に存在するリボン状の集積,第3 に開業種が集まることによって発生する集積の経済性を考慮した,高度に特殊化された 庖舗の集積という3つの状況が重なりあうものとして示した。

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1025 商業地における空間的変化と空間構造 -313 商業地の空間的な変化に関わる既存研究には,このような 2つの側面に対応 した研究がそれぞれ存在している。これらの研究は商業地の空間的な変化を捉 えるという意味においては共通しているが,捉えている現象は完全に一致する ものではない。従って以下では,とりあえず商業地の空間的な変化に関わる研 究を,これらの

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つの変化に対応させて概観しよう。 商業地の位置の変化 商業地の位置の変化は,主に商業地の中心の変化から捉えられる。まず

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の研究を取り上げよう。彼は

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年代の埼玉県熊谷市における商業地の 調査をもとに,商業地の中心の移動を示している。彼は業種構成,歩行量,住 民意識,庖舗移動の傾向,路線価格という

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つの側面から熊谷の商業地の中心 を推定した。そして,それが老舗百貨屈である八木橋デパートを中心とした地 域から,熊谷駅前に移動しつつあることを示した。 彼はそのような中心の移動の要因として大型庖の新設,消費者意識の変化, 交通機関の影響,再開発の影響を指摘する。まず熊谷市の場合,駅前商業地の 周辺に大型スーパーのキンカ堂,熊谷ショッピングデパートが新築されること が移動の要因の Iつであると考えられている。さらに再開発された駅前地域は より近代的な施設を望む消費者の意識と合致していること。また駅前が交通的 な利便性の高いこと。これらの要因が影響して,商業地の中心の移動が発生し たと考えられているのである。 また木地

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は既存の商業地の近隣において,新たな商業地が形成される 現象を「立地移動」という概念で捉え,その発生要因を指摘している。立地移 動とは「過去の立地条件が低下,あるいは消滅してその場所の商業の集積機能 が低下し,他の場所の新しい立地条件によって商業集積が成立したれあるい は従来からの商業集積があればその集積機能が強化され顧客吸引力が拡大され ていく現象J(木地

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としている。ここでは,商業地の中心の移動 や変化が明確に考慮されているわけではないが,対象とされる現象は商業地の 位置の移動に関わるものである。

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1026 香川大学経済論叢 -314-彼はこのような立地移動がまず人口や交通機関,公共機関といった要因(木 の変化によって潜在的に変化の可能性を与えられると考え そしてそれらの要因の変化に加えて,大型庖舗の新設や移転が発生するこ 地の言う立地条件) る。 とにより,商業地の移動が発生すると考えるのである。つまり彼は人口や交通 機関,公共機関といった要因の変化に大型屈舗の影響が加わったときに,既存

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の商業地の近隣に新たな商業地の中心が生まれ「立地移動」がおこると考えて いるのである。 われわれが議論の対 商業地の範囲の変化 商業地の範囲の変化に関わる既存研究としては,歴史的な記述をもとに中心 業務地区 (CentralBusiness

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strict: CBD)の空間的な範囲の変化を取り扱う 研究がある。 ここで対象となっている中心業務地区とは, 象とする小売庖舗とサービスを提供する飲食業などの庖舗に加えて,事務所や しかしそれらの施設が集積し 政府機関など若干広い範囲の施設を含んでいる。 その空間的な広がりの変化を議論するとい ている地域を中心業務地区と考え, う意味においては,商業地の範囲の変化と同様の現象を捉えていると考えてよ これらの研究の共通した特徴はMurphyand Vance (1954)によって提示さ れた中心業務地区の空間的範囲の設定手法を基本とし, り扱う点にある。 Murphyand Vance (1954)は都市の中心業務地区に立地する と考えられる業務の種類をあらかじめ定め,それら施設の地域的な密度を中心 ビジネス高度指数と中心ビジネス強度指数という

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つの指標から測定し必そ その経時的な変化を取 いだろう。 (3 ) 中心業務地区の空間的範囲に含まれる施設は,一般的には小売庖舗,飲食業等のサービ ス提供庖舗に加えて,事務所,会計士や広告会社など中心業務地区それ自体に役立つ機能 を提供しているもの,政府関連施設,中心業務地区であることにメリットを見いだしてい るような一部の製造業者,卸売業者(買ー金属製造業や賃金属卸売業)である。Murphyand Vance(1954), Bowden (1971)を参照のこと。 ( 4 ) 中心ビジネス高度指数は中心ビジネス周の総床面積を街区の1階の総床面積で除した もの,中心ビジネス強度指数は街区の総床面積にしめる中心ビジネス用床面積の比率で ある。

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315-してそれらの指標に中心業務地区とみなす一定の基準を設け,都市の空間的な 広がりの中で中心業務地区の空間的な範囲を設定する手法を開発したのであ この手法に従つである特定の都市を取り上げ,その都市の中心業務地区の 範囲を年代ごとに測定し,変化の発生要因を検討するのが, る。 これらの研究の基 本的なアプローチである。 例えばMattingly(1964)は米国ペンシノレパニア州,ハリスパーグ(Harrisbur -g)における中心業務地区の空間的範囲の変化を1890年代から 1960年代にわ たって明らかにし,その発生要因を指摘している。この地域においては1890年 代からの都市の人口増加に伴って,中心業務地区が時間の経過にともなって拡 大している。またその拡大は, 1929年までは南方向に向かつて,また1960年代 までは北西方向に向かつて拡大する傾向が示されている。これらの拡大の要因 は,既存の商業施設の衰退と新たな商業施設の新設, また駅や橋といった交通機関の影響が指摘されている。 i i ト l i i i ! l h i ; i t i l -l i l t -i 商業地における空間的変化と空間構造 1027 の 自然上の地形(河川) 影響, またBowden(1971)は米国サンフランシスコの中心業務地区を歴史的に分析 している。 Bowden(1971)が対象とする時期に選択した19世紀後半から20世 紀初頭のアメリカは,都市への人口集中が急速に起こった時代である。その中 で彼は中心業務地区が外縁的に拡大したことを示し,その拡大の様子を3つに 分類した。第1には緩やかで微少な拡大,第2に爆発的な拡大, 飛び石的(Leapfrogging)な拡大である。第1の拡大は緩やかで長期間に渡って そして第3に 発生する拡大であるのに対して,第

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の拡大は短期間のうちに急激に拡大する。 前者の拡大は映画館や医療機関などの施設の新設・移転などによって発生して いるのに対して,後者の拡大は中心業務地区の中心部の主要な施設の移転や新 築が中心業務地区の外縁部に波及すると考えられている。 Bowden(1971)がそ のような主要な施設として指摘しているのは,銀行などの金融機関と主に女性 これらの施設が中心業務地 そ を対象としたアパレル商品を取り扱う庖舗である。 区の中心部で立地場所を移転したり,庖舗を新設したりすることによって, れが外縁部に波及し,急激な中心業務地区の拡大が発生すると考えられている のである。

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-316-- 香川大学経済論叢 1028 また第

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の変化は金融機関やアパレノレ屈舗といった主要施設が中心業務地区 の外側に飛び石的に立地することによって中心業務地区が拡大することを指摘 したものであり

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番目に挙げた中心業務地区の急激な拡大の特殊形態として 捉えられている。この変化の考察において重要なのは,そのような立地行動に よって中心業務地区が少なくとも 2つに分かれ,複極化した中心業務地区 (polynuclear central area)が発生することを指摘している点である。彼はこの ような複極化が地震や火災によって起こるケースがあったのと同時に,主要な 施設の飛び石的な立地行動によっても発生していたことを示している。このよ うな第

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の変化は,商業地における中心が複数発生していることを指摘してお り,先に取り上げた商業地の中心の変化と同様の現象を捉えていると考えられ る。 以上の研究は中心業務地区の空間的な範囲の変化がどのような歴史的要因に 基づいて発生しているか,という歴史的なアプローチを採用しているのである が,そのような歴史的事実をより抽象化した要因で示そうとする研究も存在す る。 Murphyet aL (1955)は米国の9つの都市において,中心業務地区の空間的 範囲の変化について分析している。この研究では,これら9つの都市における 中心業務地区の空間的な変化が,隣接する地域の性質によって影響されること を指摘している。特に隣接地域の所得が高い地域(高級住宅街など)の場合, 中心業務地区はその方向に拡大する傾向があることを指摘している。 またBrown(1990)は同心円上の商業地の空間的な範囲が経済の状況と関係 することを指摘している。そこでは経済が成長している際には商業地への底舗 の立地が増加するために商業地の空間的な範閤が拡大し,経済的に衰退してい るときには,庖舗が減少し範囲が縮小するという仮説が提示されている。これ らは商業地の範囲の変化を,隣接地域の性質や経済状況といった社会環境要因 と関連させて説明しようとしているのである。 3伽 商業地の空間的変化における 2側面 以上のように,商業地の空間的な変化は位置と範囲という 2つの側面から議

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1029 商業地における空間的変化と空間構造 -317-論されてきた。これらの議論を整理したものが第

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表である。 第1表商業地の空間的変化に関わる既存研究の整理 研 究 対象とする変化 変化を発生させる要因 変化の方向に影響を与える要因 服部(1977) 大型屈の新設,消費者意識の変化,交通機関 の影響,再開発の影響 木地(1975) 商業地の位置 人口,交通機関,公共機関の影響,大型応の 新設 Bowden (1971)

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主要庖舗,主要施設(金融機関とアパレル庖 舗)の移転 Mattingly (1964) 人口の増加,既存商業施設の衰退,新規商業 施設の開設,地形の影響,交通機関の影響 Bowden (1971)

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商業地の範囲 人口の増加(都市への集中入居舗や施設の移 転(映画館,医療機関など) Murphy et aL (1955) 隣接地帯の性質 Brown (1990) 経済状況

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Bowden (1971)は2つの側面の変化を分けて考察しているので,別々に議論の内容を記述 している。 出典:各研究をもとに著者が作成。 まず商業地の空間的変化に関わる研究は,-商業地の空間的な変化の把握」と 「変化の発生要因の特定J,-変化の方向性に影響を与える要因の特定J,という 2つの問題領域を設定してきた。つまりこれらの研究は商業地の空間的な変化 を特定し,それがどのような要因で発生してきたのかを考察してきたと考えら れるのである。しかしこれらの研究には,範囲と位置という異なる変化を捉え たものが併存しているのであり,その関連性は明らかではない。個々の研究が 対象としている変化は共に商業地の空間的な変化であり,部分的に共通の要素 を見ることができるが,完全に一致するものではない。商業地の空間的な変化 の全体像を把握するためには,まず

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つの変化の関連性を明らかにすることが 必要であろう。 このような

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つの変化の関連性に関しては

Bowden(

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の研究から示唆

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1030 香川大学経済論叢 -318ー を得ることができる。先にも取り上げたBowden(1971)は米国サンフランシス コにおける中心業務地区の空間的範囲の変化を歴史的に記述したのであるが,

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-より そこで示された分類に関して, それと共に変化の分類もおこなっている。 詳細に検討してみよう。 Bowden (1971)の分類は第 1図のように要約できる。先に触れたように彼は 中心業務地区の空間的な変化が「緩やかで微少な拡大J,-爆発的な拡大J,-飛び 石的拡大」という 3つに分類できることを示した。そこでの分類基準は,空間 的な範囲の変化の程度と中心の変化というものであり, 1つの分類をのぞいた3つの変化が現実には観察されるというのである。 中心業務地区の空間的変化の分類(Bowden1971) 空間的な範閣の変化 緩 慢 急 激 中心 ① ② 一 定 中心の変化 中心 ③ 変 化 そのような分類軸から 第1図

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出典:Bowden (1971)の記述をもとに,著者が作成。 まず商業地の空間的な変化にはその基礎的 これによって示されているのは, その変化は緩慢で それは程度の問題であり,特定の期間 側面として商業地の範囲の変化が存在するという点である。 ある場合と,急激な場合が存在するが, を設定すれば範囲の変化は常態的に存在するものと考えてよいだろう。 そして商業地の中心の変化という軸においては, ることができる。ある特定期間における商業地では,その範囲の変化が程度の 差こそあれ発生するが,商業地の位置の変化,すなわち,商業地の中心の変化 はいつでも観察されるわけではなく特殊な現象であると考えられる。つまり商 業地の空間的な変化はその範囲の変化を前提とした上で,中心の変化の有無を そこに発生の有無を想定す 問うことによって分類されると考えられるのである。 しかし商業地における位置と範囲の変化の関連性をこのように捉えたとして

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1031 商業地における空間的変化と空間構造 319-も,商業地の空間的な変化を捉える上では,なお問題が残っている。それはこ れらの研究の中で,位置の変化を示す商業地の中心の概念が定式化されていな いことである。例えば服部(1977)は商業地における複数の側面から中心に関す る検討をおこない,その総合的な結果から中心の移動を推測している。また, Bowden (1971)においては中心に対する明確な定義はないが,そこでは金融機 関とアパレJレ庖舗が商業地の中心に立地する主要な施設と考えられており,そ れらの施設の存在をもって商業地の中心を捉えていると考えられる。また直接 的に商業地の空間的な変化を取り扱う議論ではないが,先に取り上げた商業地 の内部構造の議論においては,中心とは近接性のもっとも高い場所であって, 潜在的な買い手となる通行者がもっとも多い場所であった

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1972)。このように商業地の位置の変化を代表する中心の概念には定 まった議論が存在せず,商業地の位置の変化がどのような現象であるのかは, 依然として暖昧なままである。 このような問題を解決するには,範囲と位置の変化の関連性と中心という概 念の明確化を考慮しながら,商業地の空間的な変化を捉える新たな枠組みを構 築することが必要である。本研究ではこのような枠組みとして,小売商業者の 立地行動を基準とした空間構造の概念を提示したいと考えている。よって以下 では,商業地の空間構造に関する議論をおこない,あらためて商業地の空間的 変化の性質を捉え直すことにしよう。

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. 商業地の空間構造とその変化

1 小売商業者の集積的立地行動に基づいた商業地の姿 先に確認したように,商業地の空間的な変化は種類の異なる変化を含んだ複 合的な性質をもっている。それらを区別しながら議論する鍵となるのは商業地 の中心をどのように捉えるか,という問題である。この問題に

1

つの視座を与 えてくれるのは,小売商業者の集積的な立地行動である。小売商業者の庖舗立 地場所選択は,都市圏や県・市といった比較的広い空間的範囲を対象とした選 択から始まり,最終的には土地の形状や地価といった詳細な条件を考慮するよ

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320- 香川大学経済論叢 1032 うな,狭い空間的範囲を対象とした立地場所選択に至ると考えられる (Ghosh and McLafferty 1987)。このような狭い範囲の立地場所選択において,小売商 業者は他庖舗がすでに立地している場所の近隣を積極的に選択する集積の性質 を示すと考えられる。 このような集積的な立地行動が発生するのは,集積の経済性と呼ばれるメ リットが存在するからである。多くの研究によって指摘されてきたように,小 売商業者の庖舗は他庖舗の近隣に立地することによって,単独で立地するより も多くの買い手の吸引が期待できる。それは他庖舗との近接した立地によって 買い手の多目的購買や比較購買といった購買行動に適応することができるから である。例えば,わが国の秋葉原や日本橋のような同業種唐舗が集積する地域 では,買い手は比較購買をおこなうことができる。探索傾向が強い買回品のよ うな商品の場合にはこの傾向が強く,多くの同業種が集まっていることによっ て比較購買はより低い費用でおこなうことができる。その結果,買い手は積極 的に集積に出向し,小売商業者は単独で出屈するよりも多くの買い手を吸引す ることができると考えられる (Nelson1959, Eaton and Lipsey 1979)。 またこの点は商庖街やショッピングセンターといった異業種が集まる地域に ついても同様である。異なった商品を提供する庖舗が集まる地域は買い手の多 目的購買に対応している (Eatonand

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psey 1982, Ghosh 1986,石原 2000)。 探索傾向の比較的低い最寄品のような商品の場合,買い手は一度の買物出向で 多種の商品の購買を望む。その結果,買い手は多目的購買にともなう買物費用 を削減するために,異業種が集まる地域をより好むことになる。出庖する小売 商業者は,このような買い手の選好を取り込むために,異業種の集まる商業地 に出庖するのである。ここでは小売商業者が集積して立地することを集積的立 地行動と呼ぶことにしよう。 しかし集積の経済性を前提とした集積的立地行動は,当然自由におこなえる 訳ではない。何らかのきっかけである場所に集積の経済性が発生し始めるとす れば,小売商業者が最も立地場所として理想とするのは,最も多くの買い手を 吸引している庖舗の近隣であるだろう。しかしながら,その立地場所は多くの

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1033 商業地における空間的変化と空間構造 -321-小売商業者にとって理想の立地場所となるのであり,そこには競争が発生し, 場所の使用に伴う費用が高騰する。その結果,より費用負担能力の高い小売商 業者がその場所を占有し,その能力に従って庖舗は順次配列されると考えられ るのである。 2引 商業地の空間構造とその変化 以上のように,商業地の空間的な姿は集積的な傾向を示す小売商業者の立地 行動を基準とすることによって,小売商業者の費用負担能力に基づいて配列さ れた庖舗の集まりとして把握することができる。このような商業地の姿は,商 業地の空間構造という概念をもって,より整理した形で示すことができる。 商業地の空間構造 商業地における小売商業者の立地行動は集積的な性質をもつが故に,多くの 買い手の集まる場所を理想として描くが,それは多くの場合自らの費用負担能 力のために制約される。このことは新たな庖舗を立地しようとする小売商業者 は,現実化されなかった理想の立地場所と,現実の立地場所という 2つの立地 場所をもつことを意味している。ここで小売商業者による理想の立地場所と現 実の立地場所とを線分で結び,理想、点に向けた矢印を描くことを考えよう。そ してその矢印の方向を集積的立地行動における方向性と呼ぶことにする。 このように小売商業者の集積的立地行動をその方向性という観点から見た場 合,商業地に立地する庖舗群は,立地場所選択段階で想定された集積的立地行 動の方向性を反映して,特定の方向性をもっていると考えられる。仮に方向性 をもった各庖舗を短い矢印によって示すとすれば,商業地の庖舗群は複数の矢 印の集まりによって示されることになるだろう。そしてこれらの庖舗群の矢印 は,無秩序に別々の方向を指し示すのではなく,商業地における特定地点を指 し示すことが予想される。それは小売商業者の集積的立地行動における理想点 が,その時点におげる買い手分布の動向を反映して決定されるからであり,多 くの庖舗の方向性は,その時点、の商業地における理想的な地点に収束すると考

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322- 香川大学経済論叢 1034 えられるからである。つまり小売商業者の立地行動を反映した庖舗の方向性の 収束点は,ある時点における商業地の中心をもっとも適切に示していると考え られるのである。 このように商業地は方向性をもって配列される庖舗群と,それらが指し示す 商業地の中心という

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つの側面から特徴づけられる。本稿ではこれを商業地の 空間構造と呼ぶ。一般的に構造とは,構造を構成する構成要素の規則的で安定 的な行為によって形成される全体的なパターンのことを指している。つまり商 業地の空間構造とは商業地に立地する庖舗群が空間的側面において織りなす全 体的なパターンである。上記のような商業地の姿は小売商業者の集積的立地行 動が共通した理想点に向かつて安定的におこなわれることから形成される。そ れ故に,それらの行動をもとにして描き出される商業地の姿は構造と呼びうる 特性を示していると考えられる。 さて,以上のような商業地の姿は,先に確認した商業地の内部構造の議論と 類似した側面をもっている。特に商業地における庖舗配列が費用負担能力に よって規定される点は,同様の議論である。しかし商業地の空間構造の議論は 先の内部構造の議論とは異なった想定において導かれたものであり,その点は 商業地の空間的変化を議論する上では重要である。 中心と買い手の分布に関する想定 2つの議論における違いとは,商業地の中心と買い手の分布に対する想定で ある。商業地の内部構造の議論においては,場所の近接性によって商業地の中 (5 ) ここで構造とは2つの側面をもつものと考えている。 lつは「パターンとしての構造」 であり,他のlつは「ルーlレとしての構造」である(今回 1986)。パターンとしての構造 とは構造を形成する構成要素(ここでは庖舗)の関連の態様を記述するものであり,先に 述べた商業地の空間構造がこれに当たる。またルールとしての構造とは,そのような安定 的な関連をもたらす行為者側のルールである。ここでは特定の中心を想定した集積的立 地行動がそれに当たる。このようなルールに複数の小売商業者が従うからこそ商業地の 空間構造が形成されると考えられるのである。基本的にこれら2つの側面はいずれも構 造と呼びうるものであるが,本稿では従来の商業に関する研究に従い「パターンとしての 構造」に当たる「商業地の空間構造」だけを構造と呼び,ルールとしての構造である集積 的立地行動は構造とは記述しない。これらの議論の詳細は小宮(1998)を参照のこと。

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1035 商業地における空間的変化と空間構造 323 心を設定し,また潜在的な買い手である通行者の分布は,その中心を頂点とし た分布をもつものとして固定化されている。従ってその場所が庖舗によって占 有されることになっても,この分布が変化するとは想定されていなし玉。つまり 庖舗の営業状態の如何が通行者の分布に影響を与えることはなく,商業地の中 心はその近接性が変化しない限り一定であることが想定されるのである。 一方,集積の経済性を想定した商業地の場合,商業地の中心とは小売商業者 の集積的立地行動の方向性が収束している場所であり,そこでの買い手の分布 は底舗の吸引力との相互作用の中で決まると考えられる。ある庖舗は多くの買 い手を吸引し,その近隣の買い手が増える。その買い手を取り込むために,次 の庖舗が出庖する。このように多くの買い手が集まっている商業地の中心とは, 庖舗の営業の結果として形成されるのであり,買い手の分布は商業地における 庖舗の吸引力によって変化する可能性をもっているのである。 このような想定の差は商業地の空間的な変化を議論する際に重要である。そ れは商業地の空間的な変化が,このような買い手の分布の変化によって発生す ると考えられるからである。このような認識に基づいて,商業地の空間的な変 化に関して検討することにしよう。 商業地における空間構造の変化 議論を単純化するために,ここでは商業地が1つの中心をもっ円であるとし よう。商業地の空間構造は小売商業者の集積的立地行動の方向性によって維持 されている。中心が

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つである商業地の場合,小売商業者が理想点としてもっ ている立地場所は

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つの中心に収束していると考えられる。 このような状態の下で商業地の空間的な変化が起こるとすれば,それは円の 大きさが拡大・縮小することである。新規に出庖を考える小売商業者は,あく まで理想点としての中心を考慮しながら,現実的な立地場所を選択する。その 際に商業地の中心に近い地域に適当な立地場所がなければ,中心から離れた場 所を選択することになるであろう。このような小売商業者が次々と商業地に出 庖すれば,その空間的な範囲は拡大し,商業地の空間構造が維持されたままそ

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P E E f f t h E 4 t h e -F a -S E P t e t ト t 匙 b b t b p 324 香川大学経済論議白 1036 の範囲が変化すると考えられる。このケースは第

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図に示した

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)

の分類における①,②のケースに相当するものである。 しかし何らかの契機によって商業地の買い手の分布が変化したとしよう。そ れは商業地の中心以外の場所における庖舗の画期的な成功であるかもしれない し,新たな交通結節点の誕生かもしれない。このような買い手の分布の変化は 新たに出庖しようとする小売商業者の立地行動の理想点を変化させる可能性を もっ。それまで商業地における中心を囲んだ同心円上の地域は中心から等距離 にあり,小売商業者にとって同等の魅力をもっていたと考えられる。しかしこ のような買い手の分布の変化は,そのような立地場所の魅力を変化させ,新た な理想点をもった小売商業者が現れる可能性を与えるのである。つまりある時 点における買い手分布の変化が,既存の空間構造に「ゆらぎ」を与え,小売商 業者の集積的立地行動の方向性を変化させるきっかけをもたらすのである。 これによって新たな方向性をもった小売商業者が複数現れると,商業地は以 前の中心に加えて,新たな中心を形成することになる。このときに商業地は複 数の中心をもった新たな空間構造を形成する。つまり商業地において新たな中 心が発生し,商業地には複極化した状況が生まれるのである。そして多くの場 合,商業地の空間的な範囲も変化するであろう。このように新たな中心が形成 されるケースが,第

1

図における③のケースに当たると考えられるのである。 3ゎ 既存研究と商業地の空間構造 さて,以上のように商業地の空間的な変化は,小売商業者の集積的立地行動 の方向性に基づいた空間構造の概念を用いることによって,商業地の空間構造 が維持されたまま発生する変化と,空間構造の変化を伴う変化という

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つの側 面をもっと考えられる。このような商業地の空間構造の概念を通して,第

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表 (6 ) ここでは商業地の位置の変化と呼んできたものは,商業地の複極化と同様の現象であ ると考えている。商業地の位置の変化と表現する場合,商業地に1つの中心を定める姿勢 がある。しかし小売商業者の立地行動を基準にした場合,それまでの中心も依然として中 心としての位置を占めていると考えられるため,商業地は複数の中心をもっと考えられ るのである。

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-325ー 商業地における空間的変化と空間構造 1037 ここでは次の2つの 点を指摘しておこう。 第1は,既存研究と商業地の空間構造概念との対応関係である。既存研究は 商業地の空間的な変化に関わる分類が不完全な状態で検討されたものであるの ま で,それらと商業地の空間構造の概念とは次のような関係をもつであろう。 ず「商業地の範囲の変化」に関わる研究は,

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にまとめた既存研究をあらためて捉え直すことができる。 それが変化の基礎的側面であるた めに,商業地の空間構造が維持されたままの変化と構造が変化する変化という これらの研究における変化 双方の現象を対象としている可能性がある。故に, の発生要因も双方の変化をもたらす可能性をもっ要因として理解する必要があ また「商業地の位置の変化」に関わる研究は,商業地の空間構造に 変化が伴うものを捉えていると考えられる。故に,その発生要因はそれに特化 るだろう。 して考察されたものと考えられるだろう。 第2は,既存研究における発生要因の位置づけである。第 1表に示したよう に既存研究では商業地の空間的な変化に影響する要因がいくつか指摘されてき これらの研究は発生要因を特定する際に特徴的な視座をもっている。それ は商業地という存在をlつの分析単位として捉え,商業地と発生要因との聞に 直接的な関連性を想定することである。特に範囲の変化に関わる研究の多くは, 対象となる地域の空間的範囲の設定を重要な研究目的の1つとしていたため に,商業地を

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つの分析単位として捉える傾向が強い。 しかし商業地の空間構造の概念では,商業地が庖舗の集合であることを重視 その変化は小売商業者の庖舗に関わる行動との関連で捉えている。故に, 既存研究において指摘されてきた要因は,小売商業者の行動(より具体的には 小売商業者の集積的立地行動の方向性)に変化を与える直接的な要因と, 変化に間接的に関わる要因の

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つに分類することができる。 た。 その し, このような認識をもとに,商業地の空間構造の概念を通じて既存研究を整理 まず商業地の空間構造が維持されたままの変化に関 このような変化は,小売商業者の集積的立地行動の方向性が その範囲のみが変化すると考えられる。この場合小売商業者 したものが第

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表である。 して検討しよう。 維持されたまま,

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326 香川大学経済論叢 第2表商業地の空間的変化の分類とその性質 1038 商業地の構造維持された変化 商業地の構造変化が伴う変化 変化の種類 商業地の範囲の変化 商業地の範囲と位置の変化が併存 万ぷ又討ー 契機となる庖舗(施設)の出庖 化 直接的要因 -交通結節点の新設・移転 -大規模盾舗の新設・移転 の -公共機関の新設・移転 発 庖舗の出応・閉鎖に影響する要因 契機となる庖舗(施設)と後続庖 生 -周辺人口の増加 舗の出庖促進要因 要 間接的要因 -経済状況 -インフラの整備(再開発など) -隣接地帯の性質 -消費者意識の変化 因 -地形 -周辺人口等の環境変化 出典:著者作成。 の集積的立地行動の方向性は変化しないために,直接的な要因は存在しない。 しかし商業地全体としての範囲の変化は,底舗の新規出屈などによって発生す るので,既存研究によって指摘されてきた要因は,新規出庖を促進する間接的 要因として理解できる。 まず周辺人口の増加(Mattingly1964, Bowden 1971)という要因は,小売商 業者の販売の機会を増加させ,出庖数を増加させると考えられる。また経済状 況という要因(Brown1990)は好況時には出庖数を増加させ,不況時にはそれを 減少させる。また不況は既存脂舗の閉鎖も増加させることになるだろう。これ らが商業地の範囲の変化に影響を与えると考えられる。そしてそのような商業 地の範囲がすべての方向に均等に変化するのではなくて,ある方向に偏向する とすれば,そこには隣接地帯の性質(Murphyet aL 1955)や河川や山などの地 形の影響(Mattingly1964)といった要因が商業地の範閤の変化の方向性に影響 を与えるだろう。これらはいずれも小売商業者の出庖や閉鎖に影響を与える間 接的な要因である。 次に商業地の位置の変化が発生し,商業地の空間構造の変化が発生する場合 について検討しよう。商業地の空間構造変化が発生するということは,小売商 業者の集積的立地行動の方向性が変化し,新たな中心が形成されることを意味

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1039 商業地における空間的変化と空間構造 32昇一 している。そのためには,小売商業者の立地行動を変化させるような買い手分 布の変化がまず存在しなければならない。このような変化の契機となる要因が 空間構造変化における直接的な要因である。 既存研究において直接的要因として指摘されたのは,まず,新たな交通結節 点の発生である(服部 1977,木地 1975)。例えば,駅の移転や新たなパスター ミナノレの新設は,それまでの買い手の分布を変化させることから,空間構造変 化の契機となる可能性がある。また同時に,多くの研究者が指摘している大型 庖の新設 (Mattingly1964, Bowden 1971,木地 1975,服部 1977)や公共機 関等の主要機関の新設・移転 (Bowden1971,木地 1975)も,買い手分布に変 化を与える要因であると考えられる。これらの庖舗や施設は単独で多くの買い 手や利用者を吸引するために,それらが商業地の中心から離れた場所に立地す れば多くの人々が吸引され,商業地の買い手の分布に変化の契機を生むと考え られるからである。 そしてこれらの直接的要因の成立に影響を与える要因が間接的要因である。 間接的要因は,直接的な要因となる交通結節点や大規模庖舗,公共交通機関等 の主要施設がそこに立地しやすい状況を作り出したり,その要因が成立するこ とに影響を与えるような要因である。例えば再開発や消費者意識の変化といっ た要因(服部 1977)は,大型庄が出庖しやすい状況や,消費者が大型庖を支持 しやすくする状況をつくりだすことから,変化をもたらす間接的な要因として 理解できるだろう。また木地(1975)がいう立地条件の変化も,このような間接 的要因として理解できる。このような直接・間接双方の要因が相互に影響しあ うことによって買い手分布に変化が生まれ,空間構造の変化がもたらされると 考えられるのである。

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お わ り に

本稿では商業地の空間的変化という現象を,その空間構造という概念を通し て把握することを試みた。商業地の空間的な変化は,小売商業者の集積的立地 行動の方向性を基準とした商業地の空間構造を通して把握することができ,商

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ー ; -328ー 香川大学経済論叢 1040 業地の空間構造が維持されたまま発生する変化と,空間構造の変化を伴う変化 という 2つの側面をもっと考えられる。また既存研究を商業地の空間構造の概 念に基づいて捉え直し,そこで指摘されてきた現象が,空間構造という枠組み の中でどのように位置づけられるのかを示した。これによって,商業地の空間 的変化における異なる種類の変化が

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つの枠組みのもとで捉えられ,現象に対 するより深い理解が可能となったと考えられる。 しかし商業地の空間的変化に関わる議論には,今後に検討すべき課題が残さ れている。本稿では商業地の空間的な変化の概念的な把握と既存研究の整理に その目的が存在していたために触れることができなかったが,ここで残された 課題について言及し,本稿を締めくくることにしたい。 商業地の空間的な変化における議論において今後必要なのは,商業地の空間 的変化の多様性を考慮した分析をおこなうことである。これまでの研究では対 象とする商業地をすべて同質的なものとして取り扱ってきた。しかし商業地と は都市の規模によって,その性質が異なることが指摘されてきた。例えば,大 規模な都市の商業地と住宅地近郊の商業地とでは,その性質が著しく異なる。 このような商業地の差異が異なる変化をもたらす可能性がある。 また商業地の空間的な変化には,変化のスタイルといったものが想定できる。 商業地の空間的な変化は,決して全体を考慮することのない小売商業者の独自 の行動が相互に影響しあって変化が発生することもあれば,全体を視野に納め た何らかの主体が計画的にその変化を生み出すことも考えられる。商業地の空 間的な変化におけるこのようなスタイルに対する分析も積極的におこなわれる 必要がある。今後はこのような商業地の空間的な変化における多様な側面を考 慮した,より詳細なレベルの分析をおこなっていくことが必要であろう。 参 考 文 献

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