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不安障害研究, 9(1), 17-32, 2017

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(1)

患者用

Panic and Agoraphobia Scale

日本語版の信頼性および妥当性

貝谷久宣

1

 石井 華

2

 正木美奈

3

 小松智賀

2

 野口恭子

2

境洋二郎

2

 吉田栄治

2

 栗林和彦

4

 今枝孝行

4 1 医療法人和楽会パニック症研究センター 2 医療法人和楽会心療内科・神経科赤坂クリニック 3 医療法人和楽会横浜クリニック 4 ファイザー株式会社 要約

パニック症の症状評価尺度である患者用Panic and Agoraphobia Scale(PAS)の日本語版を作成し, その信頼性および妥当性を検討した。DSM-IV-TR(APA, 2000)でパニック症あるいは広場恐怖と 診断された外来患者を対象とし,初回面談時,その3日後および4週間後にPAS(患者用)を実施した。 その結果,特に未治療の患者に対して,症状の理解が十分でない場合,患者に対して心理士による 心理教育を行い,症状の理解を深めてもらうことで,PAS(患者用)は十分な信頼性を有すること が示された。しかしながら,妥当性評価では,PAS(患者用)合計点の変化量とPatient Global

Impression–Improvementスコアの間に,医師評価ほどの相関関係は認められなかった。そのため, 臨床試験等の研究で使用する場合,PAS(患者用)は副次評価とすることが適切と考えられた。 キーワード:パニック症,広場恐怖,評価尺度,信頼性,妥当性 【背景】 パニック症は,予期しない状況で強い不安感 とともに心悸亢進,発汗,身震い,窒息感,胸 痛,悪心,めまい感,死ぬことに対する恐怖感, 冷感等の自律神経症状や恐怖症状が出現する パニック発作を主症状とする精神疾患であり,

1980年 にDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM)-III (APA, 1980)で 初めて独立した診断名として記載された。そ の 後,DSM-III-R(APA, 1987)で は,広 場 恐怖を伴うものと伴わないものに分類された。 DSM-5(APA, 2013)では広場恐怖はパニック 症から独立した。パニック症と広場恐怖の関係 について筆者らは最近詳細な検討をした(貝谷 ら,2014)。純粋な広場恐怖は一般人口の1.5% 前後であるが,これらはほとんど治療を求める ことはなく,パニック発作が併発すると診療の 場面で見られることが多くなる。臨床的には, パニック症に広場恐怖が併発する場合と,広場 恐怖からパニック症に発展する場合,または, 両者がほぼ同時期に出現する場合がある。もち ろん広場恐怖のないパニック症も存在する。し たがって,日常臨床あるいは臨床研究において はパニック症と広場恐怖を同時に評価すること の重要さは変わらない。それゆえ,Panic and

Agoraphobia Scale (PAS)はDSM-5 (APA, 2013) においてもその有用性を保持する。また,元来

PASは広場恐怖の独立性を認めるInternational

Classification of Diseases (ICD)-10 (WHO, 1993) に準拠したものであることも認識しておくべき であろう。

パニック症の重症度を評価する尺度として, 近年のパニック症を対象とした臨床試験では,

Panic Disorder Severity Scale(PDSS)お よ び

PASが使用されることが多い。PDSSは高塩ら

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(2004)により,PASは貝谷ら(2008)により 日本語版が作成され,その信頼性および妥当性 が確認されているが,患者用PAS日本語版の 信頼性および妥当性はまだ検討されていない。 そこで筆者らは,PAS(患者用)の信頼性およ び妥当性を評価するためのパイロット試験を実 施し(石井ら,2012),その結果から得られた 問題点に対処したうえで,本試験を計画した。 PASは,Bandelowら(1995; 1999)よ り 開 発 された評価尺度であり,医師用と患者用が作成 されており,DSM-IVおよびICD-10によりパ ニック症および広場恐怖と診断された患者の全 般的な重症度および変化を評価できるよう作成 されている。PASは,パニック症における次の 5つの下位尺度について13項目,すなわち,パ ニック発作(頻度,重症度,持続時間),広場 恐怖・回避行動(頻度,恐怖を感じる状況の数, 回避された状況の重要度),予期不安(頻度, 程度),病気による障害(家庭生活,社会生活, 職業),健康に関する危惧(健康を損なうこと に関する心配,身体的疾患の想定)より構成さ れ,過去1週間の状態を評価する。各項目は5 段階(0∼4)で評点化し,評点が高いほど重 症を意味する。 本研究では,患者用PAS日本語版の信頼性 および妥当性を確認した。 【方法】 1.PAS(患者用)の作成 PAS原版である英語版について日本語を母国 語とする専門知識を有する精神科医が,原版 (英語)を日本語に翻訳した。その後,原版を 知らない者で英語圏移住経験があり,英語に堪 能で専門知識を有する者が,日本語翻訳版を英 語に逆翻訳し,その逆翻訳版を,PAS開発者で あるBandelow博士が原版と同等であることを 確認した。精神科医が,患者が理解できるよう な平易な言葉になっていることを最終確認し, PAS(患者用)を完成させた。 2.調査方法 2–1. 調査対象者 本研究の対象は,首都圏および東海圏の不 安・抑うつ疾患を専門とする3つのクリニック を受診し,DSM-IV-TRで広場恐怖を伴わない パニック症(300.01),広場恐怖を伴うパニッ ク症(300.21)あるいはパニック症の既往歴の ない広場恐怖(300.22)と診断された外来患者 のうち,研究の目的,方法,プライバシーの保 護に関して説明し,文書による同意が得られた 患者とした。 2–2. 調査材料 PDSS(高塩ら,2004):パニック障害の症 状の重症度を評価する尺度であり,パニック発 作 と 症 状 限 定 エ ピ ソ ー ドLimited Symptom

Episode(LSE)の頻度,パニック発作とLSE

による苦痛,予期不安,広場恐怖と回避,パ ニックに関連した感覚への恐怖と回避,職業上

の機能障害および社会機能障害の7項目より構

成され,5段階(0∼4)で評価する。

Panic Disorder Scale(PDS; 貝谷,未公表):

過去1週間に経験したパニック発作の詳細な記

録や予期不安,心気性不安,身体感覚性不安, 非発作性愁訴,広場恐怖および生活への支障度 といったパニック障害の症状を総合的かつ詳細 に測定できる質問紙である。

Clinical Global Impression–Severity(CGI-S; Guy, 1976):重症度を次の7段階(1:症状な

し,2:境界,3:軽症,4:中等症,5:重症,

6:かなり重症,7:極めて重症)で医師が評

価する尺度である。

Clinical Global Impression–Improvement

(CGI-I; Guy, 1976):初回面談日と比較した際 の症状の改善度を次の7段階(1:非常に良く なった,2:良くなった,3:少し良くなった, 4:変わらなかった,5:少し悪くなった,6: 悪くなった,7:非常に悪くなった)で医師が 総合的に評価する1項目の尺度である。

Patient Global Impression–Improvement

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の症状の改善度を次の7段階(1:非常に良く なった,2:良くなった,3:少し良くなった, 4:変わらなかった,5:少し悪くなった,6: 悪くなった,7:非常に悪くなった)で患者が 総合的に評価する1項目の尺度である。 2–3. 調査手続き 本研究では,各調査対象者に対して2回の面 談と1回の自宅等での評価を施行した。初回面 談日には,患者がPAS(患者用)とPDSを評 価し,評価されたPAS(患者用)およびPDS の結果を知らない医師および心理士が,PAS (医 師 用),PDSS, CGI-Sを 評 価 し た。ま た, 初回面談の3日後に,自宅等で患者にPAS(患 者用), PGI-IおよびPDSを評価してもらい, 評価されたPAS(患者用),PGI-IおよびPDS を郵送等により医療機関に送付してもらった。 2回目の面談日は,初回面談の4週間後とし, 患者にPAS(患者用),PGI-IおよびPDSを評 価してもらった後,評価されたPAS(患者用), PGI-IおよびPDSの結果を知らない医師および

心 理 士 が,PAS, PDSS, CGI-Sお よ びCGI-Iを

評価した。なお,PDSS, PDS, CGI-Sの3つの 尺度は,本研究の目的に照らして他の尺度に比 べて有益性が低いと考えたので,解析に使用し なかった。 本研究では,パイロット試験でPAS(患者用) の信頼性および妥当性を評価した結果から得ら れた問題点に対処したうえで,本試験を実施し た。パイロット試験では,未治療の患者に対し て心理教育を実施していなかったため,患者の 症状に対する理解が十分でなく,PAS(患者用) 合計点とPAS(医師用)合計点で初回面談より 4週間後面談のほうが高い一致性を示した。そ のため,本試験では,患者に対して心理士によ る心理教育を行い,症状の理解を深めてもらっ た。 2–4. 倫理的配慮 本研究は医療法人和楽会の研究倫理委員会で 承認を得て実施された。 3.統計解析 3–1. 症例数の設定 PAS(患者用)合計点とPAS(医師用)合計 点の一致性を一致相関係数で評価するとき,母 一致相関係数ρCCC=0.8であった場合に,有意 水準0.025の片側検定でρCCC ≤ 0.5の帰無仮説 を検出力80%以上で棄却するために,少なく とも28例が必要であった。PAS(患者用)合 計点のテスト – 再テスト信頼性を,3日後評価 でPGI-I=4(変わらなかった)の患者の初回 面談時と3日後評価を用いて,級内相関係数で 評 価 す る と き,母 級 内 相 関 係 数ρICC=0.8で あった場合に,有意水準0.025の片側検定で ρICC ≤ 0.5の帰無仮説を検出力80%以上で棄却 するために,少なくとも28例が必要であった。 3日後の評価におけるPGI-I=4(変わらなかっ た)の患者の割合は未知であるため,その他の 解析も考慮して60例の登録を目標とした。 3–2. 信頼性の評価 信頼性を,PAS(患者用)とPAS(医師用) の一致性,PGI-I=4(変わらなかった)の患 者におけるテスト−再テスト信頼性,内的整合 性により評価した。PAS(患者用)とPAS(医 師用)の一致性については,各項目には重みつ きκ係数,合計点には一致相関係数(concordance correlation coefficient; CCC),テスト−再テス ト信頼性については,3日後評価でPGI-I=4 (変わらなかった)の患者の初回面談時と3日 後 のPAS(患 者 用)合 計 点 の 級 内 相 関 係 数

(intraclass correlation coefficient; ICC), 内 的

整合性の評価にはCronbachのα係数を用いて 評価した。 3–3. 妥当性の評価 妥当性を構成概念妥当性と基準関連妥当性に より評価した。構成概念妥当性の評価には因子 分析を用い,評価時点ごとに,PAS(患者用) とPAS(医師用)のそれぞれに検討した。基準 関連妥当性の評価では,3日後評価および4週 間後評価について,PAS(患者用)合計点の初 回面談時からの変化量とPGI-IのPearsonの相

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関係数により評価した。以上の統計解析には, R(version3.2.3)を用いた。 【結果】 1. 患者背景および疾患特性 本試験の対象となった調査対象者の初回面談 時の83例の患者背景および疾患特性をTable 1 に要約した。性別は男性27例(32.5%),女性 56例(67.5%)で,平均年齢は34.3歳であった。 DSM-IV-TR診断では,広場恐怖を伴うパニッ ク症が76例(91.6%)で最も多く,罹病期間 の中央値は60カ月であった。また,他の精神 疾患の並存していた患者は16例(19.3%)で あった(Table 1)。 2. PAS(患者用)および PAS(医師用)スコ アの要約 Table 2に各評価時点におけるPAS(患者用) およびPAS(医師用)の各項目および合計点の 平均および標準偏差を示した。PAS(患者用) およびPAS(医師用)の平均は初回面談時がそ れぞれ22.1および22.1点,4週間後面談時が 12.7および13.3点であり,PAS(患者用)およ びPAS(医師用)合計点の平均値は同程度で あった。また,各項目においてもPAS(患者用) およびPAS(医師用)の平均値は同程度であっ た。さらに,いずれの評価も4週間後面談時に おける合計点および各項目の平均値は初回面談 時と比較して低かった。 3. 信頼性 PAS(患者用)合計点とPAS(医師用)合計 点の一致性について,CCC(95%信頼区間)は, 初回面談(n = 81)では0.82(0.74, 0.88),4 週間後面談(n = 61)では0.88であった。PAS (患者用)とPAS(医師用)における各項目の スコアの一致性について,重みつきκ係数を Table 3に示した。初回面談時と4週間後のいず れにおいても「C予期不安」でやや低い値で あったが,全項目が0.41から0.84の間に分布 した。 3日後評価でPGI-I=4(変わらなかった)の 26例のうち,25例で初回面談時と3日後評価 のPAS(患者用)合計点が利用可能であり, ICCは0.74(95%CI: 0.36 to 0.89)であった。 内的整合性を評価するCronbachのα係数は, PAS(患者用)で,初回面談時,3日後,4週 間後はそれぞれ0.86, 0.87, 0.87, PAS(医師用) で,初回面談時,4週間後はそれぞれ0.84, 0.88 であった(Table 4)。 4. 妥当性 PAS(患者用)およびPAS(医師用)のそれ ぞれについて,評価時点ごとに因子数を4とし たバリマックス(直交)回転を用いた因子分析 を実施し,因子負荷量をTable 5および6に示 した。なお,因子数の決定には,Scree plotと Parallel analysisで適切と考えられた最大の因 Table 1 初回面談時の患者背景と疾患特性の要約 例数 83 性別 男性 27 (32.5%) 女性 56 (67.5%) 年齢(歳) 平均(標準偏差) 34.3 (11.3) 診断名 広場恐怖を伴わないパニック 症(300.01) 7 (8.4%) 広場恐怖を伴うパニック症 (300.21) 76 (91.6%) パニック症の既往歴のない広 場恐怖(300.2) 0 罹病期間(月) 中央値(第1–第3四分位値) 60 (9–120.5) 合併症(精神疾患)の有無 あり 16 (19.3%) なし 66 (79.5%) 不明 1 (1.2%) PDSS合計点 平均(標準偏差) 13.0 (4.8)

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Ta bl e 2   PA S ( 患者用 ) および PA S ( 医師用 ) の評点の要約 初回面談 3 日後 4 週間後 患者評価 医師評価 患者評価 患者評価 医師評価 項目 例数 平均 SD 例数 平均 SD 例数 平均 SD 例数 平均 SD 例数 平均 SD A: パニック発作 A1 頻度 82 1.4 1.29 83 1.4 1.34 67 1.1 1.18 61 0.7 1.00 61 0.6 0.97 A2 重症度 82 1.3 1.16 83 1.3 1.20 67 1.0 1.09 61 0.6 0.90 61 0.5 0.77 A3 平均持続時間 82 1.1 0.98 83 1.0 0.94 67 0.8 0.91 61 0.6 0.86 61 0.5 0.81 B: 広場恐怖 ・ 回避行動 B1 回避行動の頻度 82 1.9 1.45 83 2.1 1.37 66 1.3 1.20 61 1.2 1.16 61 1.4 1.13 B2 恐怖を感じる状況の数 82 2.8 1.11 83 2.7 1.12 66 2.7 1.23 61 2.4 1.02 61 2.3 1.12 B3 回避された状況の重要度 82 2.4 1.35 83 2.6 1.31 66 2.1 1.40 61 1.7 1.44 61 1.9 1.37 C: 予期不安 C1 頻度 82 2.5 1.23 83 2.5 1.16 66 1.6 1.14 61 1.3 1.12 61 1.6 1.06 C2 程度 82 2.1 1.07 83 1.9 1.03 66 1.4 1.08 61 1.1 0.88 61 1.1 0.62 D: 病気による障害 D1 家庭生活 81 1.3 1.36 83 1.1 1.15 67 1.0 1.25 61 0.8 1.18 61 0.7 0.93 D2 社会生活及び自由時間 82 1.5 1.36 83 1.7 1.27 67 1.0 1.20 61 0.7 1.17 61 0.9 1.08 D3 職業 ( 家事 82 1.7 1.48 83 2.0 1.43 67 1.2 1.31 61 0.8 1.27 61 1.2 1.48 E: 健康に関する危惧 E1 健康を損なうことの心配 82 1.5 1.26 83 1.2 1.19 67 0.8 1.07 61 0.4 0.69 61 0.4 0.66 E2 身体的疾患の想定 82 0.6 0.91 83 0.5 0.87 67 0.4 0.72 61 0.3 0.70 61 0.2 0.57 合計 81 22.1 9.88 83 22.1 9.04 66 16.2 9.33 61 12.7 8.59 61 13.3 8.34

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子数4をすべての解析で用い,因子軸の回転に は,貝谷ら(2008)によるPAS(医師用)の結 果と対比するためにバリマックス回転を用い た。PAS(患者用)では「Aパニック発作」と「C 予期不安」については,評価時点間で,下位尺 度内で同様の傾向を示したが,「B広場恐怖・ 回避行動」,「D病気による障害」,「E健康に関 する危惧」で差異が認められた。一方,PAS(医 師用)では,いずれの評価時点でも下位尺度内 で同様の傾向を示した。 基準関連妥当性を評価するために,PAS(患 者用)合計点の変化量とPGI-Iスコア,PAS(医 師用)合計点の変化量とCGI-Iスコアについ て,Pearsonの相関係数をTable 7に示した。患 者評価の相関係数は,3日後,4週間後のそれ ぞれで0.43, 0.51, 4週間後の医師評価で0.68で あった。 【考察】 PASは,パニック症を対象とした研究におい て,パニック症の重症度あるいは症状の変化を 捉えられるよう意図して開発された評価尺度 で,5つの側面,すなわちパニック発作,広場 恐怖・回避行動,予期不安,病気による障害, 健康に関する危惧を総合的に評価することが可 能であり,治療間の有効性を比較するうえでも 合計点だけでなく,それぞれの特徴を項目毎に 評価することができる。また,PASは,医師用 だけでなく,患者用も作成され,非常に簡便か つ短時間で評価でき,評価方法に慣れることに より5∼10分程度で評価が可能である。 本研究において,PAS(患者用)の計量心理 学的特性を検討したところ,PAS(患者用)お よびPAS(医師用)の合計点の一致性は,いず れの評価時点においてもCCCが0.8以上であ り,一致性を有することが確認できた。各項目 のスコアの一致性の評価として使用した重みつ きκ係数は,「C予期不安」でやや低い値であっ たが,全項目が0.41から0.84の間に分布した。 κ係数の解釈として,0以上0.4以下であれば 「乏しい」,0.4超0.75未満であれば「まずまず ないしは優れている」,0.75以上1.0以下であれ ば「非常に優れている」とされるところ(Fleiss, 1981),パイロット試験(石井ら,2012)では Table 3 各項目における評価者間信頼性(重みつき κ係数) 例数 初回面談 4週間後 82 61 A: パニック発作 A1頻度 0.83 0.80 A2重症度 0.84 0.75 A3平均持続時間 0.66 0.81 B: 広場恐怖・回避行動 B1回避行動の頻度 0.73 0.76 B2恐怖を感じる状況の数 0.72 0.79 B3回避された状況の重要度 0.64 0.64 C: 予期不安 C1予期不安の頻度 0.51 0.57 C2予期不安の程度 0.52 0.41 D: 病気による障害 D1家庭生活 0.64 0.73 D2社会生活および自由時間 0.49 0.62 D3職業(家事) 0.69 0.72 E: 健康に関する危惧 E1健康を損なうことの心配 0.67 0.58 E2身体的疾患の想定 0.57 0.82

Table 4 PAS(患者用)およびPAS(医師用)の内的整合性

患者評価 医師評価

初回面談 3日後 4週間後 初回面談 4週間後

例数 81 66 61 83 61

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Ta bl e 5   PA S ( 患者用 ) の因子構造 : バリマックス回転による因子負荷量 初回面談 3 日後 4 週間後 因子 1 因子 2 因子 3 因子 4 共通性 因子 1 因子 2 因子 3 因子 4 共通性 因子 1 因子 2 因子 3 因子 4 共通性 A: パニック発作 A1 頻度 0.856 * 0.028 0.196 0.070 0.777 0.651 *0.126 0.163 0.002 0.466 0.831 * 0.137 0.250 0.091 0.781 A2 重症度 0.867 * 0.224 0.097 − 0.101 0.822 0.978 *0.062 0.116 0.149 0.995 0.961 *− 0.064 0.193 0.158 0.989 A3 平均持続時間 0.679 * 0.281 0.075 − 0.011 0.546 0.820 *0.203 0.062 − 0.038 0.719 0.834 * 0.266 0.055 0.017 0.770 B: 広場恐怖 ・ 回避行動 B1 回避行動の頻度 − 0.114 0.277 0.461 0.492 0.545 0.042 0.578 * 0.179 0.381 0.514 0.083 0.682 * 0.199 0.245 0.572 B2 恐怖を感じる状況の数 0.087 0.258 0.092 0.524 * 0.357 0.036 0.182 0.359 0.534 * 0.449 − 0.061 0.233 0.069 0.041 0.065 B3 回避された状況の重要度 − 0.006 0.206 0.521 * 0.302 0.405 0.048 0.276 0.127 0.674 * 0.549 0.255 0.422 0.433 0.073 0.436 C: 予期不安 C1 頻度 0.219 0.647 * 0.284 0.223 0.597 0.298 0.171 0.827 * 0.177 0.834 0.190 0.215 0.641 * 0.043 0.495 C2 程度 0.240 0.930 * 0.248 0.105 0.995 0.248 0.162 0.818 * 0.219 0.805 0.082 0.196 0.969 * 0.107 0.995 D: 病気による障害 D1 家庭生活 0.317 0.354 0.428 0.263 0.477 0.344 0.648 * 0.037 0.331 0.649 0.226 0.565 * 0.518 * 0.089 0.647 D2 社会生活及び自由時間 0.394 0.247 0.445 0.492 0.656 0.304 0.744 * 0.193 0.315 0.782 0.388 0.731 * 0.277 0.139 0.781 D3 職業 ( 家事 0.418 0.228 0.870 * − 0.105 0.995 0.283 0.875 * 0.124 0.008 0.861 0.520 * 0.709 * 0.071 0.010 0.777 E: 健康に関する危惧 E1 健康を損なうことの心配 0.222 0.321 0.295 0.010 0.239 0.479 0.151 0.329 0.099 0.370 0.080 0.212 0.109 0.564 * 0.381 E2 身体的疾患の想定 − 0.058 − 0.045 0.004 0.376 0.147 − 0.118 0.310 0.238 0.128 0.183 0.084 0.067 0.023 0.991 * 0.995 因子寄与割合 0.338 0.257 0.253 0.152 0.335 0.296 0.219 0.150 0.335 0.263 0.236 0.166 *: 0.5 超

(8)

Ta bl e 6   PA S ( 医師用 ) の因子構造 : バリマックス回転による因子負荷量 初回面談 4 週間後 因子 1 因子 2 因子 3 因子 4 共通性 因子 1 因子 2 因子 3 因子 4 共通性 A: パニック発作 A1 頻度 0.920 * 0.043 0.051 0.097 0.861 0.830 * 0.186 0.077 0.138 0.748 A2 重症度 0.855 * 0.020 0.078 0.085 0.745 0.916 * 0.024 0.127 0.148 0.878 A3 平均持続時間 0.876 * − 0.020 0.153 0.088 0.799 0.902 * 0.210 0.024 0.071 0.863 B: 広場恐怖 ・ 回避行動 B1 回避行動の頻度 − 0.087 0.829 * 0.078 0.076 0.706 0.153 0.866 * 0.158 0.101 0.808 B2 恐怖を感じる状況の数 − 0.144 0.624 * 0.345 0.252 0.593 0.014 0.613 * 0.051 0.197 0.417 B3 回避された状況の重要度 0.052 0.693 * 0.202 0.285 0.605 0.268 0.820 * 0.147 0.119 0.780 C: 予期不安 C1 頻度 0.234 0.294 0.880 * − 0.072 0.922 0.458 0.279 0.508 * 0.309 0.641 C2 程度 0.156 0.481 0.550 * 0.016 0.559 0.048 0.154 0.984 * 0.021 0.995 D: 病気による障害 D1 家庭生活 0.392 0.384 0.142 − 0.282 0.401 0.426 0.267 0.393 − 0.034 0.408 D2 社会生活及び自由時間 0.211 0.734 * 0.158 0.047 0.610 0.369 0.681 * 0.285 0.152 0.705 D3 職業 ( 家事 0.426 0.430 0.159 0.125 0.408 0.476 0.276 0.350 0.058 0.428 E: 健康に関する危惧 E1 健康を損なうことの心配 0.275 0.089 0.101 0.627 * 0.487 0.125 0.217 − 0.026 0.762 * 0.644 E2 身体的疾患の想定 − 0.005 0.177 − 0.089 0.552 * 0.344 0.092 0.117 0.095 0.739 * 0.577 因子寄与割合 0.362 0.347 0.170 0.121 0.362 0.298 0.187 0.153 *: 0.5 超

(9)

初回面談のB3とD3はκ係数がそれぞれ0.12と 0.21と乏しいとされる値であったが,心理士が 患者に心理教育を行った本試験では全項目で 0.4を超えるまずまずの一致性を示した(Table 4)。特に未治療の患者に対して,症状の理解が 十分でない場合で,心理士らによる心理教育を 行うことでさらに信頼性が向上することが確認 できた。また,テスト−再テスト信頼性を評価 したICCも0.74であり,内的整合性を評価し たCronbachのα係数もいずれの評価時点でも 0.8以上であり,PAS(患者用)は信頼性を有 すると考えられる。 構成概念妥当性については,PAS(医師用) では,いずれの評価時点でも下位尺度内でほぼ 同様の傾向を示した。一方,PAS(患者用)で は「Aパニック発作」と「C予期不安」では各 評価時点で同じ因子に0.5以上の因子負荷量が 示されたが,「B広場恐怖・回避行動」,「D病 気による障害」および「E健康に関する危惧」 では同じ因子に0.5以上の因子負荷量が示され なかった。このことから,PAS(患者用)の構 成概念妥当性は十分でないと考えられた。基準 関連妥当性について,患者評価の相関係数は, 3日後,4週間後のそれぞれで0.43, 0.51であり, 4週間後の医師評価で0.68であった。相関係数 の大きさの解釈として,その絶対値が,0.2未 満であれば「ほとんど相関がない」,0.2以上0.4 未満であれば「弱い相関がある」,0.4以上0.7 未満であれば「やや強い相関がある」,0.7以上 であれば「かなり強い相関がある」とされる(本 多,1993)。これに従えば,患者評価は「やや 強い相関がある」に分類されるものの,医師評 価よりも相関が弱かった。 以上のことから,PAS(患者用)は,特に未 治療の患者に対して,症状の理解が十分でない 場合には,心理士らによる心理教育を行うこと で十分な信頼性を有する尺度になりうるもの の,妥当性評価において患者と医師で若干の差 異が認められ,臨床試験等の研究で使用する場 合には,PAS(医師用)を主要評価とし,PAS(患 者用)は副次評価とすることが適切と考えられ た。 欧州におけるパニック症治療薬の開発ガイド ライン(EMA, 2005)において,パニック症の 有効性評価ではパニック発作頻度だけではなく, 総合的な重症度を評価すべきであることが指摘

されており(Guy, 1976; Rockville & Maryland,

1976),PAS(医師用)あるいはPDSSが評価尺 度として推奨されている。PAS(患者用)と PAS(医師用)を併用することで,実地臨床に おいても臨床研究でも情報収集のツールとして 利用できる可能性があるため,PAS(患者用) が広く用いられることが期待される。 【謝辞】 稿を終えるにあたり,本研究においてPAS (患者用)日本語版作成にご協力いただいた原 著者であるBandelow博士に心より感謝致しま す。 【文献】

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Table 7 基準関連妥当性の評価:PAS(患者用)合 計点の変化量とPGI-IスコアおよびPAS(医師用) の変化量とCGI-Iスコアの相関係数 例数 66 61 60 Pearsonの 相関係数 0.43 0.51 0.68

(10)

ed.) Washington, D. C.: American Psychiatric As-sociation.

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World Health Organization (1993). Diagnostic crite-ria for research. In: The ICD-10 Classification of

(11)

Reliability and Validity of the Japanese Version

of the Panic and Agoraphobia Scale

Patient

Hisanobu Kaiya

1

Hana Ishii

2

Mina Masaki

3

Chika Komatsu

2

Kyoko Noguchi

2

Yojiro Sakai

2

Eiji Yoshida

2

Kazuhiko Kuribayashi

4

Takayuki Imaeda

4

1

Warakukai Medical Corporation, Panic Disorder Research Center

2

Warakukai Medical Corporation, Akasaka Clinic

3

Warakukai Medical Corporation, Yokohama Clinic

4

Pfizer Japan Inc.

Abstract

A Japanese version of the self-rating format of the Panic and Agoraphobia Scale (PAS) was developed and its reliability and validity were investigated. Outpatients diagnosed with panic disorder or agoraphobia according to the DSM-IV-TR were assessed using both the clinician-administered version of the PAS and the self-rating format of the PAS on the first clinic visit, after 3 days, and after 4 weeks. We found that the self-rating PAS showed sufficient reliability, especially when untreated patients were educated about their disease before the treatment. However, the Pearson’s coefficient of correlation

between the self-rating PAS and the Global Impression–Improvement score was not highly significant

as the correlation between the clinician-administered PAS and the Global Impression–Improvement

score. Our results indicate that the clinician-administered PAS should be used as a primary test while the self-rating PAS should be used as a secondary test in clinical research.

(12)

Appendix

パニック発作・広場恐怖評価尺度

【患者用質問表】 B.Bandelow(貝谷久宣訳)(Version 08.11.93) 記入日  平成   年   月   日 カルテ番号      患者名        この質問表は,パニック発作や広場恐怖のある患者のために作成されました。 この1週間のあなたの症状について答えてください。最も適当と思われる番号に○をつけてくだ さい。 パニック発作は不安感とともに以下のようないくつかの症状(普通四つ以上)が突然出現します。 そして10分以内に最高潮に達し,その後,徐々に消失していきます。 (1)呼吸促迫(呼吸困難)または息苦しい感じ (2)めまい感,気が遠くなる感じ,ふらつき (3)動悸,ないし心拍数の増加(頻脈) (4)身震い (5)発汗 (6)窒息感 (7)嘔気,または腹部の不調 (8)離人感,ないし非現実感 (9)しびれ感,ないしうずき感 (10)紅潮(突発性の熱感),ないし冷感 (11)胸痛,ないし胸部不快感 (12)喉の渇き (13)死の恐怖 (14)気が狂ったり,何か制御できないことをする恐怖 【A1】 パニック発作(不安発作)の頻度は? 0. この1週間,発作は全くなかった 1. この1週間,発作が1回あった 2. この1週間,発作が2∼3回あった 3. この1週間,発作が4∼6回あった 4. この1週間,発作が7回以上あった 【A2】 この1週間のパニック発作の重症度は? 0. この1週間,発作は全くなかった 1. 発作はおおむね軽度であった

(13)

2. 発作はおおむね中等度であった 3. 発作はおおむね高度であった 4. 発作はおおむね非常に高度であった 【A3】 パニック発作の持続時間は? 0. パニック発作はなかった 1. 1∼10分間まで 2. 10分を超え60分間まで 3. 1時間を超え2時間まで 4. 2時間を超える U) 発作は不意に出現しましたか,それとも予期した場所(恐怖を感じる状況)で出現しました か? □ パニック発作なし 0. ほとんどすべて不意に出現 1. 予期した場所よりも不意に出現する場合のほうが多い 2. 予期した場所で出現する場合と不意に出現する場合が半分半分 3. 不意に出現することより予期した場所で出現することのほうが多い 4. ほとんどすべて予期した場所で出現 【B1】 この1週間にパニック発作が起こることや気分が悪くなることを心配して特定の状況を避け ることがありましたか? 0. どこも避けることはなかった(自分の発作は特定の状況で起こることはない) 1. 不安が起こりそうな状況をまれに避けた 2. 不安が起こりそうな状況をときどき避けた 3. 不安が起こりそうな状況をしばしば避けた 4. 不安が起こりそうな状況を常に避けた 【B2】 あなたの気分が悪くなったりパニック発作を起こしたり,あなたが避けている場所はどこ ですか? 01. 航空機 02. 地下鉄 03. バス,列車 04. 船 05. 劇場,映画館 06. スーパーマーケット 07. 列に並ぶ 08. 講堂/スタジアム 09. パーティーや社会的な集い

(14)

10. 人混み 11. レストラン 12. 美術館 13. エレベーター 14. 閉所(トンネルなど) 15. 教室や講義室 16. 車の中(渋滞など) 17. 大きな建物(ホール) 18. 通りを歩く 19. 野原,大通り,中庭 20. 高所 21. 橋を渡る 22. 自宅から離れる 23. 自宅に一人でいる その他の状況 24.       25.       26.       【B3】 あなたが避ける場所はあなたの生活にとって重要な場所ですか? 0. 全く重要ではない(または広場恐怖はない) 1. 特に重要ではない 2. かなり重要である 3. 重要である 4. 非常に重要である 【C1】 あなたはこの1週間,パニック発作が起こるのではないか不安になりましたか?(予期不安) 0. 予期不安はない 1. まれに発作が起こるのではないかと不安になる 2. 時に発作が起こるのではないかと不安になる 3. しばしば発作が起こるのではないかと不安になる 4. 常に発作が起こるのではないかと不安になる 【C2】 予期不安の強さは? 0. 予期不安はない 1. 軽度 2. 中等度 3. 高度 4. 非常に高度

(15)

【D1】 この1週間,パニック発作や広場恐怖によってあなたの家庭生活(夫婦関係,子供など) に支障がありましたか? 0. 支障なし 1. 軽度の支障があった 2. 中等度の支障があった 3. 高度の支障があった 4. 非常に高度の支障があった 【D2】 この1週間,パニック発作や広場恐怖によってあなたの社会生活や自由時間に支障があり ましたか? たとえば映画に行ったり,パーティーに出席できませんでしたか? 0. 支障なし 1. 軽度の支障があった 2. 中等度の支障があった 3. 高度の支障があった 4. 非常に高度の支障があった 【D3】 この1週間,パニック発作や広場恐怖によってあなたの職業(家事)に支障がありました か? 0. 支障なし 1. 軽度の支障があった 2. 中等度の支障があった 3. 高度の支障があった 4. 非常に高度の支障があった 【E1】 この1週間,あなたは,この病気のために健康を損なうことを心配していますか? たとえば,心臓発作になるとか,窒息して死んでしまうのではないかとか,脳卒中になる のではないかとか, めまいで卒倒して怪我をするのではないかと悩んだことがありますか? 0. 全く心配していない 1. ほとんど心配していない 2. 心配している 3. かなり心配している 4. 完全にそのような心配をしている 【E2】 あなたの動悸,めまい,耳鳴り,息切れなどは “精神的な原因” で起こっていると医師が言 うことは間違っていると思いますか?あなたの症状を起こす原因は,まだ見つかっていな いが,身体のどこかに隠れていると思いますか? 0. 全くそう思っていない(精神的な病気のせいだと思っている) 1. ほとんどそう思っていない

(16)

2. 少しそう思っている 3. かなりそう思っている 4. 完全にそう思っている(身体的な病気のせいだと思っている) 項目B.2.: すべてのパニック発作を起こしたり,避けている場所を列挙しました。0; 一つも該当 しない,1; 一つ該当する,2; 二∼三つ該当する,3; 四∼八つ該当する,4; 九つ以上該当する 総得点:項目Uを除くすべての項目を足して求められる

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