勾配情報に基づく画像合成のためのポアソン方程式安定化
神尾 亮, 田中 正行, 奥富 正敏
†1画像合成処理の従来手法として,入力画像の勾配情報を用いた Poisson Image Edit-ingという手法がある.しかし,Poisson Image Editing では,合成する画像によっ ては不自然な画像が生成されることがある.そこで筆者らは,画像全体で最適化を行 うことで自然な合成画像を生成する合成処理について考える.従来手法として,画像 全体で最適化を行う画像合成処理手法が提案されているが,合成画像を生成するため のポアソン方程式の解を安定的に求めることができない.また,計算機に実装するた めには評価関数を離散系で考える必要があるが,離散系での検討が十分でない.筆者 らは,従来手法について検証し,安定的に合成画像を出力することのできる手法を提 案する.
Stabilization of Poisson Equation for
Gradient-Based Image Composing
Ryo Kamio
,
Masayuki Tanaka
,
Masatoshi Okutomi
Poisson Image Editing is the image composing processing that uses the image gradient information. However, Poisson Image Editing synthesizes an unnatu-ral image for some input images. We propose an image composing algorithm to generate natural images by optimizing over the entire image. Agarwala et al proposed the algorithm by optimizing over the entire image. However, their algorithm is unstable, especially DC and low-frequency components. In addi-tion, they did not mention about an implementation in a discrete system. First, we clarify issues for the implementation of the Poisson equation in the discrete system. Then, we also provide an solution for the implementation issues.†1 東京工業大学
Tokyo Institute of Technology
図 1 画像合成概要
1.
は じ め に
近年,フォトレタッチやスーパーインポーズなど,画像・映像編集の分野において,画像 合成処理技術に対する期待が大きい.そのため,自然な合成画像を生成するための研究が行 われている1)2).図1のように2枚の画像を用意して合成することを考える.合成したい 対象を”注目対象”と呼び,注目対象を含む画像を”挿入画像”と呼ぶことにする.また,注 目対象を合成する画像を”背景画像”と呼び,注目対象を合成する領域を”挿入領域”と呼ぶ ことにする.挿入画像の中にある注目対象を背景画像の挿入領域に自然に合成することを 考える.画像合成の方法としては,挿入画像から注目対象を手動で切り出すか,グラフカッ トを用いた手法3)などで正確に切り出して背景画像に合成する方法が一般的である.一方,注目対象を正確に切り出さずとも自然に画像合成する方法として,Poisson Image Editing
等の方法が知られている1)2).これらの手法では,注目対象を囲む適当な領域を注目領域
と呼ぶことにすると,注目領域を指定し合成するだけで,注目領域の境界が目立たないよう な合成画像を作成することができる.Poisson Image Editingでは,注目領域の勾配情報に 基づき定式化が行われているものの,結果的には注目領域の画像にラプラシアン演算を施 したものを背景画像にはめ込み,対応するポアソン方程式を生成している.このようにし て生成されたポアソン方程式を解くことによって合成画像を作成している.この方法では, 注目領域の背景と背景画像の輝度や色が大きく異なる場合に,背景画像の輝度や色の影響を 受けて,注目対象の輝度や色が不自然になってしまうことがある.
また,Poisson Image Editingでは注目領域内で最適化を行っているのに対し,Agarwala
らは,作成する画像全体で最適化を行い,画像全体として自然な合成画像を作成している 方法を提案している2).しかし,Agarwalaらが設定している最適化問題では,画像のDC
図 2 Poisson Image Editing
成分を求めることができず,適当なDC成分を与える必要がある.また,計算機に実装する
ためには評価関数を離散系で表現する必要があるが,離散系での表現がほとんど述べられ ていない.そこで筆者らは,挿入画像および背景画像それぞれの勾配情報および輝度情報
を用いることで,画像のDC成分も含め,画像全体で最適化を行うことのできるシームレ
ス画像合成処理手法を提案する.2章では,従来手法であるPoisson Image Editingおよび
Agarwalaの方法について紹介する.3章および4章では,Agarwalaの方法で述べられて
いない離散系における画像合成のうえでの問題点について明らかにし,その問題を解決する
方法を述べる.5章では,従来手法と提案手法を実装し,画像合成処理結果の違いについて
検証する.
2.
従来法に基づく合成処理
2.1 Poisson Image Editing 2.1.1 連続系における表現
Poisson Image Editingの手法を,空間的に連続な連続系において概説する.まず,空間
的に連続な輝度画像f (u)を考える.ここで,uは2次元連続座標であり,u = (x, y)と表 される.また,微分演算子∇ = (∂x∂ ,∂y∂ )を利用すると,輝度画像f (u)に対応する勾配画 像は∇f(u)と表される.Poisson Image Editingでは,挿入画像がはめ込まれる挿入領域
以外は背景画像の輝度値がそのまま利用される.挿入領域における合成画像の輝度値f (u)ˆ
は,挿入画像の勾配画像∇gin(u)を利用して次のように求められる. ˆ
f (u) = arg min
f (u)
∫
Ω 1 2|∇f(u) − ∇gin(u)| 2 du (1) Ωは挿入領域を表す.この最適化問題は変分問題と考えられるので,対応する次式のオイ ラーラグランジュ方程式を解けばよい.∆f (u) = ∆gin(u) with f (u)|∂Ω= gbk(u)|∂Ω (2)
ここで,∆はラプラス演算子と呼ばれ,次のように定義される. 図 3 ガウス・ザイデル法を用いた画像生成 ∆ = ∂ 2 ∂x2 + ∂2 ∂y2 (3) また,∂Ωは挿入領域Ωの境界を表し,背景画像の輝度画像をgbk(u)で表す.なお,一般
に式(2)はポアソン方程式と呼ばれる.そのため,この手法はPoisson Image Editingと呼 ばれている.Poisson image Editingでは,ポアソン方程式を解くために必要な境界条件と
して,挿入領域Ωの境界の輝度値に境界の外側の背景画像の輝度値を用いるディリクレ境
界条件を利用している.
2.1.2 離散系における表現
Poisson Image Editingでは,式(2)のポアソン方程式を挿入領域Ωで解くことによって
出力画像を生成する.連続系における画像のラプラシアンは離散系では画像にラプラシアン
フィルタをかけた画像として扱うことができる.ラプラシアンフィルタとは図2に示される
フィルタカーネルを持っており,各画素ごとのラプラシアンflp(i, j)を式(4)のような計算
によって求めることで画像に対してフィルタリングすることができる.
flp(i, j) = f (i, j + 1) + f (i, j− 1) + f(i + 1, j) + f(i − 1, j) − 4f(i, j) (4)
ここで,f (i, j)とは座標(i, j)の画素の輝度値を表す.ところで,画像の各画素の輝度値を 要素とするベクトルを利用すれば,フィルタリング処理は行列演算として表現できることが 知られている.画像を表すベクトルをf,ラプラシアンフィルタを表す行列をDとすれば, ラプラシアン画像を表すベクトルflpは次のように表される. flp= Df (5) さて,挿入画像および背景画像の輝度画像をgin(i, j),gbk(i, j)で表すことにする.挿入画 像gin(i, j)にラプラシアンフィルタによるフィルタリング処理を施すと,図2のように各
図 4 Agarwala の方法
画素がラプラシアンの値を持つラプラシアン画像gin
lp(i, j)を得ることができる.Poisson Image Editingでは,挿入領域Ωにおいて挿入画像のラプラシアンginlp(i, j)と境界外側の
背景画像の輝度値gbk(i, j)|∂Ωを用いることで,挿入領域Ωにおける合成画像の画素値を求 める.式(2)のポアソン方程式を離散系で解く方法として,ガウス・ザイデル法が知られて いる.式(2)より,挿入領域Ωにおける画素(i, j)のポアソン方程式は次式で表される. flp(i, j) = glpin(i, j) (6) これを式(4)に代入すると,挿入領域Ωの画素の輝度値f (i, j)について式(7)の関係式が 得られる.
f (i, j) = (f (i, j + 1) + f (i, j− 1) + f(i + 1, j) + f(i − 1, j) − ginlp(i, j))/4 (7)
挿入領域Ωの各画素に対して,輝度値が収束するまで式(7)の計算を繰り返し,輝度値を
更新する.このような方法をガウス・ザイデル法と呼んでいる.n回目の繰り返し計算にお
ける,挿入領域Ω内部の画素の輝度値fn(i, j)は次式で表される.
fn(i, j) = (fn−1(i, j + 1) + fn−1(i, j− 1)
+ fn−1(i + 1, j) + fn−1(i− 1, j) − glpin(i, j))/4 (8) 本論文では,挿入領域の輝度の初期値としては,挿入画像の輝度値を用いた.ここで,図3 に示されるように挿入領域Ω境界の画素を更新する際に,背景画像の輝度値が利用される. このため,ディリクレ型境界条件を満たす.式(8)によって輝度値の更新を繰り返し行い, 得られた輝度画像を背景画像にはめ込むことによって合成画像が得られる.Poisson Image Editingでは,挿入領域Ωの画像を生成する際に背景画像の輝度値を使用するため,図2の ように背景の色および輝度が異なる画像どうしの合成処理においては注目対象の輝度や色 が不自然な合成画像が生成されてしまうという問題がある. 2.2 Agarwalaの方法 背景画像と挿入画像の背景の色および輝度が異なる場合でも自然な画像が生成されるよ うな手法として,Agarwalaの方法がある.この手法では,画像全体Ω0に対するポアソン 方程式を設定し,設定されたポアソン方程式を解いている.背景画像の勾配画像∇gbk(u) に挿入画像の勾配画像∇gin(u)を単純にはめ込んだ勾配画像をv(u)とする.この勾配画 像v(u)は式(9)のように表される. v(u) =
{
∇gin(u) u∈ Ω ∇gbk(u) otherwise (9) Agarwalaの手法では画像全体Ω0において合成画像の輝度値f (u)ˆ は次のように求められる. ˆf (u) = arg min
f (u)
∫
Ω0 1 2|∇f(u) − v(u)| 2 du (10)Poisson Image Editingと同様に,この最適化問題は変分問題であるので,対応する次式の
オイラーラグランジュ方程式を解けばよい.
∆f (u) = div v(u) with ∇f(u)|∂Ω0= 0 (11)
ここで,境界条件Ω0としては,画像の境界において微分値が0になるというノイマン境 界条件を利用している.文献2)では,連続系で式(9)の方程式に関する記述があるものの, 具体的な方法が述べられておらず,離散系における微分の扱いがあいまいである.また,画 像のDC成分を求めることができず,適当なDC成分の値を設定しなければ自然な合成画 像を生成することができない.しかしながら,DC成分の設定方法も述べられていない.そ こで,これらの問題点について3章で考える.
3.
画像全体最適化のための評価関数の設定について
3.1 Agarwalaの方法における評価関数 Agarwalaの方法では,画像全体で行う最適化問題として式(11)のポアソン方程式を設 定している.しかしながら,式(11)のポアソン方程式を離散系で表現し,解を求めるため にはいくつかの問題がある.文献2)では,これらの問題については全く述べられていない. そこで,離散系における問題点を明らかにし,その問題を解決する方法を述べる.輝度画 像g(u)において,勾配画像∇g(u) = v(u)とすると,divv(u)はラプラス演算子∆を用 いて次式のように表すことができる.divv(u) = ∆g(u) (12)
Agarwalaの方法では,v(u)は式(9)のように表されるため,挿入領域境界を除く領域で
divv(u) =
{
∆gin(u) u∈ Ω ∆gbk(u) otherwise (13) 式(11)に示されるポアソン方程式に対応する離散表現は,次式のように表すことができる. Df = q (14) ここで,qはdivv(u)に対応するベクトル表現を表す.式(14)から直接解を求める方法も 考えられるが,後の議論の都合上,式(15)の評価関数を最小化することを考える. E(f ) =1 2∥Df − q∥ 2 2 (15) ところで,ラプラシアン画像qは勾配画像v(u)から変換される.その際,とくに離散系で は,挿入領域境界における取扱いに注意が必要である.その注意点については,4章で述べ る.コスト関数をfで偏微分すると以下の式が導かれる. ∂E ∂f =−(D T q− DTDf ) (16) この式において,∂E∂f = 0となるようにfを求める.ここで,Agarwalaの方法では式(11) のポアソン方程式を解くうえでの境界条件として,ノイマン型境界条件を設定している.画 像はDCTを用いてDCT領域に変換すると,境界において微分値が0であるコサイン関数 の重ね合わせで表すことができ,ノイマン型境界条件∇f|∂Ω0 = 0を満たすようになること が知られている4).行列Dは図5に示すように,空間的に上下左右対称なフィルタカーネ ルを利用したフィルタリング処理を表す行列である.このような行列は,DCTを表す変換 行列Wを利用して,次式のように対角化可能であることが知られている5)6). D = W−1diag(ξ)W (17) ここで,diag(ξ)はベクトルξを対角成分とする対角行列である.ξはDを入力画像の画像サイズをwidth×heightとしたとき,2width×2heightでDFTして得られる実数部分
を用いることで求められることが知られている5)6).このようにフィルタカーネルが対称で あれば,DCTによって変換したDCT領域において空間領域同様にフィルタリング処理を 実現することができる.式(16)を用いると,式(15)のDTおよびDTDは以下のように 書きかえることができる. DT= W−1diag(ξ)W (18) DTD = W−1diag(ξ2)W (19) これらを用いて,∂E ∂f = 0として解くと以下のように合成画像fを得ることができる. 図 5 ラプラシアンのフィルタカーネルの DCT f = W−1(diag(ξ))−1Wq (20) = W−1[Wq⃝ξ]÷ (21) ここで,⃝÷は要素ごとの割り算を表すものとする.すなわち,出力画像fはqをDCTし たものWqを要素ごとにξで割り,IDCTすることによって求められる.ここで,ラプラ シアン演算に対応するラプラシアンフィルタのフィルタカーネルをDCTしたものを画像と して出力すると図5のようになる.図5の左上の領域が画像の低周波成分に対応しており, 座標(0,0)の値が画像のDC成分に対応している.Agarwalaの方法で設定された評価関数 では,DC成分を求めるときの要素ごとの割り算において,0で割るため値が発散してしま う.また,低周波成分を求める際も割る値が非常に小さいため,値が不安定となる.すなわ ち,Agarwalaの方法では,与えられた評価関数の最小化では安定的に出力画像を生成する ことができず,画像のDC成分を与えなければならないことが分かる. 3.2 安定化項を加えた評価関数に基づく画像合成手法の提案 出力画像のDC成分および低周波成分を安定的に求めるために,Agarwalaの方法の評価 関数に安定化項を加える方法を提案する.挿入輝度画像を背景輝度画像に単純合成した画像 h(u)は以下のように表される. h(u) =
{
gin(u) u∈ Ω gbk(u) otherwise (22) 輝度画像を単純合成した画像を,Agarwalaの方法の評価関数に安定化項として付け加える と,提案手法における評価関数は式(22)のように表される. E(f ) = 1 2∥Df − q∥ 2 2+ 1 2ε∥f − h∥ 2 2 (23) ここで,εは調整パラメータを,qは式(13)のように表されるdivv(u)に対応するベクト ル表現を,hは式(20)のh(u)に対応するベクトル表現を,それぞれ表す.式(21)の第一図 6 離散系における差分の表現
項はポアソン方程式に対応しており,第二項は安定化項と考えることが出来る.また,調整
パラメータεは安定化項の強さを調整していることになる.この評価関数を用いて,3.1節
同様にDCTを利用して最適化を行うと以下のように画像が得られる.
f = W−1(diag(ξ2) + εdiag(1))−1(diag(ξ)Wq + εdiag(1)Wh) (24)
= W−1[(diag(ξ)Wq + εdiag(1))⃝(ξ÷ 2+ ε1)] (25) ここで,1は全ての要素が1であるベクトルを表す.式(20)と比べると,提案手法では安 定化項を加えたことにより,要素ごとの割り算において0で割ることもなく,周波数領域も 含めて安定的に出力画像を求めることができる.
4.
離散系における一次微分および二次微分の関係
ディジタル画像を処理するためには,連続系における一次微分や二次微分を空間的に標本 化されている離散系で近似的に扱う必要がある.Agarwalaの方法において,挿入領域境界 を除く領域では式(13)のように,背景画像および挿入画像のラプラシアンをそれぞれ用い ている.しかし,挿入領域境界をはさむ画素に関しては微分の取り扱いに注意が必要であ る.Agarwalaの方法では連続系における微分を離散系においてどのように表現するか述べ られていないため,このことについて考慮されていない.筆者らは,離散系における微分の 取り扱いに注目して,画像生成における問題を明らかにし,その解決法を提案する. 4.1 Agarwalaの方法を前進差分を用いて実装した場合 Agarwalaの方法では,連続系における画像の微分を離散系でどのように表現するか述べ られていない.一次元画像において,離散系におけるラプラシアンおよび一次差分は図6の ように表される.連続系における微分は,離散系では中心差分を用いて考えられることが多 い.しかし,図6(a),(b)よりラプラシアンのフィルタカーネルは中心差分のフィルタカー 図 7 差分表現による違い ネルの線形結合では表現することができない.一方,図6(c)の前進差分のフィルタカーネ ルまたは図6(d)の後退差分のフィルタカーネルを用いるとラプラシアンフィルタを簡単に 表現することができる.一次元画像の各画素の前進差分ff wd(i)およびラプラシアンflp(i) は次式で表すことができる. ff wd(i) = f (i + 1)− f(i) (26) flp(i) = f (i + 1) + f (i− 1) − 2f(i) (27) 式(26)(27)より一次元画像におけるラプラシアンflp(i)は前進差分ff wd(i)を用いて次式 で表すことができる. flp(i) = ff wd(i)− ff wd(i− 1) (28) 二次元画像における各画素のラプラシアンも同様に,x方向の前進差分とy方向の前進差分 によって求めることができる.図7は,挿入領域では挿入画像の前進差分を,それ以外の領 域では背景画像の前進差分を用いてラプラシアンを生成し,式(20)に基づいて画像を生成 した結果である.ここで,3.2節で述べたように式(20)からでは画像のDC成分を求める ことができないため,背景画像に挿入画像を輝度画像として単純合成した画像のDC成分 を用いて,画像を生成している.すると,図7(a)のように背景画像が左右対称であるにも 関わらず,生成される画像の色合いが左右で異なってしまうことがある.これは,挿入領域 の左側では背景画像の前進差分を使っているのに対し,挿入領域の右側では挿入画像の前進 差分を使っていることが原因であると考えられる.後退差分を用いた場合も同様に左右の色 合いが異なる画像が生成される. 4.2 Agarwalaの方法をラプラシアンを用いて実装した場合 4.1節で述べたように,前進差分を用いてAgarwalaの方法を実装すると,左右の境界に おいて使用している画像が異なるため不自然な画像が生成される.そこで,フィルタカーネ ルが左右対称なラプラシアンをそのまま用いてAgarwalaの方法を実装した場合について図 8 画像における前進差分と後退差分の関係 図 9 挿入領域境界における矛盾 考える.背景画像のラプラシアン画像gbklp(i, j)の挿入領域に挿入画像のラプラシアン画像 ginlp(i, j)をはめ込んで,画像を生成する.すると,図7(b)のように挿入領域境界付近で特 に不自然な画像が生成されることがある.この原因について考える.各画素のラプラシアン は隣接画素の輝度値の関係から計算される.一次元画像において,座標(i)の画素は隣接画 素との輝度値の関係から,前進差分ff wd(i),後退差分fbk(i)を計算することができる.図 8に示すように,注目画素(i)の前進差分は隣接画素(i + 1)の後退差分と等しく,注目画 素(i)の後退差分は隣接画素(i− 1)の前進差分と等しい.しかし,背景画像のラプラシア ン画像に挿入画像のラプラシアン画像をはめ込むと,図9のように境界においてそれぞれ のラプラシアンを構成する前進差分と後退差分の値が異なるという矛盾が起きる.これが原 因で,図7(b)のように不自然な画像が生成されるのだと考えることができる. 4.3 前進差分と後退差分の平均を利用した手法の提案 4.2節で述べたように,境界をはさむ2画素の前進差分と後退差分の値は異なる.そこで, 境界をはさむ2画素の前進差分と後退差分の値が等しくなるように,前進差分と後退差分 の値を平均したものを境界をはさむ2画素の前進差分および後退差分として使用すること にする. ff wd(i) = fbk(i + 1) = (ff wd(i) + fbk(i + 1))/2 (29) この処理により,境界をはさむ2画素の前進差分および後退差分は一致し,4.2節で述べた 図 10 提案手法の流れ ような矛盾を無くすことができる.2次元画像では,x方向の前進差分および後退差分とy 方向の前進差分および後退差分があるため,左右の境界においてはx方向の,上下の境界 においてはy方向の前進差分および後退差分を平均する.この方法によって得られる合成 画像は図7(c)で示される.これと図7(b)を比較すると,矛盾による不自然さが解消されて いることが分かる.
5.
提案手法の流れ
筆者らは,挿入領域境界における前進差分および後退差分の平均処理を考え,挿入画像お よび背景画像をそれぞれ輝度,x方向前進差分,x方向後退差分,y方向前進差分,y方向 後退差分の5次元特徴量を持つ画像として扱う.第3章および第4章をふまえた提案手法 に基づく画像合成処理手法の流れを図10に示し,それぞれの処理内容を以下に示す. (1)挿入画像および背景画像をフィルタリング処理により,5次元特徴画像に変換する (2)挿入画像の注目領域を背景画像の指定した座標にはめ込む (3)挿入領域の境界における前進差分および後退差分を平均し,その値に設定しなおす (4) 4次元の勾配画像からラプラシアン画像を生成する (5)調整パラメータを設定し,安定化されたポアソン方程式を用いて最適化処理によって合 成画像を出力する6.
処理結果比較
Poisson Image EditingとAgarwalaの方法を実装し,提案手法との比較を行う.
Agar-walaの方法では画像のDC成分を求めることができないので,筆者らは,背景画像の輝度
画像に挿入画像の輝度画像を単純合成した画像のDC成分を用いた.また,Agarwalaの方 法では離散系における表現も行われていないため,筆者らは,連続系における微分を離散系
図 11 画像合成例 1
図 12 画像合成例 2
において表現する際に前進差分を用いた.提案手法における調整パラメータεは10−8とし
ている.
図10に示す合成結果を見ると,Poisson Image Editingでは,赤ん坊を含む注目領域の色
合いが砂漠の色合いの影響を受けて不自然になっている.また,Agarwalaの方法では,赤 ん坊の元の肌の色合いが失われてしまっていることが分かる.提案手法では,赤ん坊の肌の 色合いが比較的残されて自然に合成できていることがわかる.
7.
ま と め
筆者らは,画像合成処理の従来手法であるAgarwalaの方法の2点の問題点を明らかに し,その問題点を考慮した画像合成処理手法を提案した.Agarwalaの方法における1つ目 の問題点として,設定している評価関数では画像のDC成分を求めることができず画像の 低周波成分も安定的に求められないことを示した.ここで筆者らは,Agarwalaの方法にお ける評価関数に安定化項を付け加えることによって,DC成分も求まり低周波成分も含めて 安定的に合成画像を生成する手法を提案した.さらに,2つ目の問題点として,Agarwala の方法では連続系における微分を離散系でどのように表現するか述べられていないという 問題点を挙げた.画像のラプラシアンを離散系において表現する際,前進差分ないし後退差 分を用いると左右の挿入領域境界で不自然な画像が生成される.また,背景画像のラプラシ アン画像に挿入画像のラプラシアン画像をはめ込んで合成画像を生成してもやはり挿入領 域境界において不自然な画像が生成される.そこで,筆者らは画像境界において前進差分と 後退差分の平均値を利用することで自然な合成画像を生成する方法を提案した.従来手法と 提案手法によって得られる合成画像を比較し,提案手法では画像全体として自然な画像が生 成されていることを確認した.参 考 文 献
1) Patrick Peretz, Michel Gangnet, Andrew Blake. Poisson Image Editing,
2002.
2) Aseem Agarwala,Mira Dontcheva,Maneesh Agrawala,Steven Drucker,Alex Colburn,Brian Curless,David Salesin,Michael Cohen. Interactive Digital Photomontage,2004.
3) Carsten Rother,Vladimir Kolmogorov,Andrew Blake. “GrabCut”Interactive Foreground Extraction using Iterated Graph Cuts,2004.
4) Amit Agrawal, Rama Chellapa, Ramesh Rasker An Algebraic Approach to Sur-face Reconstruction from Gradient Fields ,2005.
5) B. Chitprasert, K. R. Rao. DISCRETE COSINE TRANSFORM FIL-TERING,1990.
6) 堀池和由, 吉田靖夫, 藤田和弘. 離散コサイン変換を用いたウィーナフィルタに
よる劣化画像の復元,1995.
7) Vladimir Britanak,Patrick C.Yip,K.R.Rao. Discrete Cosine and Sine Transforms: General Properties,Fast Algorithms and Integer Approximations
8) K.R.Rao,Patrick Yip,Vladimir Britanak. Discrete Cosine Transform: Algorithms,Advantages,Applications
9) 河合紀彦, 佐藤智和, 横矢直和. テクスチャの明度変化と局所性を考慮したパター