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日中両言語における人称代名詞の対照研究

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Academic year: 2021

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Title

日中両言語における人称代名詞の対照研究

Author(s)

付, 敏

Citation

古代文化とその諸相, p.7, p121-136

Issue Date

2007-08-31

Description

URL

http://hdl.handle.net/10935/1432

Textversion

publisher

Nara Women's University Digital Information Repository

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も ら う」 な どが い え る が 、 こ れ らの 表 現 で 「か れ 」 と 「わ た し」 を 入 れ 替 え る こ と は で き な い 。 これ は 日本 語 に 一 種 の 人 称 の 枠 が あ っ て 、 そ れ を超 え る こ とが で き な い か らだ と い わ れ る。 そ の2、 「… … した い 」 や 感 情 ・感 覚 形 容 詞(か な し い 、 い た いな ど)は お も に 一 人 称 に使 わ れ 、三 人 称 の 場 合 に は 「… … した が る」 「悲 しが る」 の よ う に 形 を 変 え る。 これ も一 種 の 人 称 性 で あ る 。 そ の3、 日本 語 で は 敬 語 が 人 称 表 現 に 参 加 して い る こ とが 指 摘 さ れ て い る 。 「こ こ で お 待 ち 申 し上 げ ます 」 は 一 人 称 の 表 現 で あ り、 「こ こで お 待 ち にな りま す か 」 は 二 人 称 の 表 現 で あ る 。 そ の3に つ い て 、 三 輪 正(2000)も 、 一・人 称 も 、 二 人 称 も 適 当 な 敬 語 の 使 用 に よ っ て 省 略 す る こ と が で き る 、 と述 べ て い る 。 「(私が 参 り ます)(私 に や らせ て 下 さ い)な ど と い わ ず と も 、(参 りま す)(や らせ て 下 さ い)で 十 分 分 か る の で あ る。 そ れ に も か か わ らず そ こ に な お ワ タ シ や オ レ な どの 代 名 詞 を特 に発 言 す る とす れ ば 、 そ の 代 名 詞 は そ れ だ け で 強 調 の 意 味 合 い を 持 つ こ と に な り、 そ れ が 一 人 称 の 場 合 時 に 強 い 自己 主 張 、自 尊 の 色 合 い を 帯 び て く る 。」と述 べ て い る 。一 方 、中 国 語 の 敬 語 表 現 に つ い て 、 藤 堂 明 保(1974)〔 注3〕 は 「中 国 語 は 文 革 以 後 、 男 と女 の 間 、 上 級 者 と下 級 者 の 間 に 、 こ と ば つ か い の 差 異 は まず 存 在 し な い 」 と言 っ て い る 。 果 た し て 、 現 代 中 国 語 に お い て 、 男 女 差 、上 下 の言 葉 遣 い の 差 が 本 当 に 存 在 しな い の か 、大 い に検 討 の 余 地 が あ る 。ほ か に 、 自覚 な ど を表 す 動 詞 も 人 称 に参 入 して い る と い う指 摘 も あ る 〔注4〕 。 「(あの子 は 美 人 だ と 思 う)、 誰 が 思 うか 、 これ は 決 し て 、 あ の子 自身 で は な い 、(わ た し は 思 う)で あ る 。」 と述 べ られ て い る 。 一 番 興 味 深 い の は 大 河 内 康 憲(1990)〔 注5〕 の 日 中 両 言 語 語 彙 使 用 頻 度 の 調 査 で は 、 口語 資 料 と して 中 国 語 の 人 称 代 名 詞 の 使 用 頻 度 は全 語 彙 の 第2、3位 を 占 め て い る の に 対 して 、 日本 語 は 第15位 に な っ て い る こ とで あ る。 2本 論 上 述 し た 先 行 研 究 に よ る と、 日本 語 の 人 称 代 名 詞 の 使 用 頻 度 は ほ か の 言 語 と比 べ る と 、 は るか に低 い こ と が 分 か っ た が 、 ど こ ま で 低 い か 、 ど う し て 低 い か 、 及 び 使 用 上 の 異 同 な ど に つ い て 、日中 の 比 較 研 究 は ま だ 少 な い よ う だ 。本 稿 で は 、先 行 研 究 を 参 考 に しな が ら 、 日 中両 言 語 人 称 代 名 詞 使 用 上 の 異 同 、 及 び 使 用 頻 度 の 差 が 生 じ る 原 因 を検 討 して み る 。 2.1日 中 両 言 語 に お け る 人 称 代 名 詞 使 用 頻 度 の 調 査 大 河 内 康 憲 の 平 成2年 の 日中 両 言 語 語 彙 使 用 頻 度 調 査 の 結 果 は 、現 代 日本 語 と 中 国 語 の 研 究 資 料 と して 少 し古 い と考 え 、 本 稿 で も 日 中 両 言 語 人 称 代 名 詞 の 使 用 頻 度 の 調 査 を 試 み た 。 人 称 代 名 詞 の 出 現 が 会 話 文 に 一 番 多 く 出 て く る こ と を考 慮 した うえ 、 日本 人 向 け の 中 国 語 月 刊 学 習 雑 誌 『中 国 語 ジ ャ ー ナ ル 』 を選 ん で 、 そ の 中 か ら2000年12月 ∼2002年3 月 まで 掲 載 の 「吟 吟 陶 世 界 」 と い う ラ ジ オ ドラ マ を 取 り 出 し、(全16集 、 吟 胎 と い う主 人 公 が 登 場 し、 い ろ い ろ な 人 と出 会 い 、 主 に 北 京 語 を 中 心 に 、 現 在 、 北 京 に 住 ん で い る 庶 民 の ご く 自然 な 話 し言 葉 を 用 い る会 話 文 で あ る 。 物 語 の 内 容 も 、 言 葉 遣 い に もユ ー モ ア が 溢 一122一

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れ て い る 。)研 究 の 口語 資 料 と して 、 日中 両 言 語 に お け る 人 称 代 名 詞 の 使 用 頻 度 を 統 計 し 、 そ し て 、 そ の使 用 頻 度 の 差 が 生 じ る 原 因 を 分 析 して み た 。 これ を 通 じて 、 両 言 語 の 人 称 代 名 詞 は そ れ ぞ れ の 言 語 の 中 で ど ん な 地 位 を 占 め て い る の か 、 使 用 上 に お い て 、 ど ん な 違 い が あ る の か 、 明 らか に した い 。 2.2日 中 両 言 語 に お け る 人 称 代 名 詞 使 用 頻 度 の 調 査 結 果 『恰 吟1司世 界 』 の 原 文 と そ の 日本 語 訳 の 中 で 用 い られ る 人 称 代 名 詞 の 使 用 状 況 及 び 使 用 頻 度 を調 べ た 。 そ の 結 果 は 次 の 表1、 表2に 示 した 通 りで あ る 。 中 国語 日本語 一 人 称 代 名 詞 我 、ロ自、俺 わ た し、 ぼ く、 うち 、 おれ 、 われ 二 人 称 代 名 詞 イホ、悠 あ なた 、 あ ん た 、 き み 、 お ま え 、お た く 三 人 称 代 名 詞 他 、地 、官 彼 、彼 女 、 こい つ 、そ い つ 、 あ い つ 反 帰 代 名 詞 自己 、 自ノト兀 自分 注:中 国語の 「噌、俺 、悠、 自ノト几」は北方方言で はよ く用 い られ るが、南方 ではあま り用いない。 表1日 中 両 言 語 人 称 代 名 詞 の 使 用 状 況 1000 900 800 700 600 500 400 300 200 100 0 一 人 称 二 人 称 三 人 称 反 帰 代 名 詞 麟 中 国 語83389613419 ■ 日本 語3012377122 表2日 中 両 言 語 人 称 代 名 詞 の 使 用 頻 度 統 計 の 結 果 か ら 、 日 本 語 人 称 代 名 詞 は 種 類 が 多 い わ り に 、 使 用 頻 度 が 低 く 、 そ れ に 対 し て 、 種 類 の 少 な い 中 国 語 人 称 代 名 詞 は 使 用 頻 度 が 高 い こ と が 分 か っ た 。 特 に 一 人 称 と 二 人 称 で 差 が 顕 著 で あ る 。 三 人 称 に お い て は 、 両 言 語 と も 使 用 率 が 低 い 。 本 稿 で は 主 に 一 人 称 と 二 人 称 に 重 点 を 置 き 考 察 す る 。 -123一

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2.3使 用 頻 度 の 差 が 生 じ る原 因 及 び 使 用 上 の 異 同 2.3.1敬 語 表 現 と 人 称 代 名 詞 日本 語 の 敬 語 表 現 は 人 称 に 参 加 して い る と言 わ れ て い る が 、 そ の 基 本 的 な 原 則 と して は 目上 の 人 に 向 か っ て 、 二 人 称 を 使 わ な い こ と だ 。 目上 の 人 に 対 して 、 適 切 な 人 称 代 名 詞 が 存 在 しな い と い え よ う。「話 し手 と 聞 き 手 の 上 下 関 係 が 人 称 詞 を左 右 す る の が 日本 語 対 話 の 世 界 で あ り、 一 人 称 に せ よ 、 二 人 称 にせ よ 、 上 下 、 尊 卑 を離 れ て は あ りえ ず 、 代 名 詞 よ り 敬 語 の 有 無 が も の を 言 う こ と に な る 。」(三 輪 正2000)要 す る に 、三 輪 正 は 、人 称 代 名 詞 の 地 位 は 日本 語 の 会 話 世 界 に お い て 、 そ れ ほ ど重 要 で は な い と言 っ て い る 。 一 方 、 中 国 語 の 人 称 代 名 詞 は 会 話 の 中 で 常 に 使 わ れ 、 中 国 語 会 話 世 界 の 中 で 重 要 な 役 割 を果 た して い る 。 しか も 、 日本 語 と違 って 、社 会 地 位 、性 別 、年 齢 な ど に 関 係 な く、 目上 の 人 に 向 か っ て も 、 目下 の 人 に 向 か っ て も 、 同 じ く 「弥ni」 を用 い る 。 北 京 語 を 始 め 、 北 方 方 言 で は 、 目上 の 人 に対 して 、 現 代 中 国 語 の 二 人 称 尊 敬 語 と して の 「悠nin」 を よ く使 う。 目上 の 人 に 対 す る 両 言 語 の 二 人 称 使 用 の 相 違 につ い て 、 次 の 用 例 を見 て み る。 恰 恰 が 原 稿 を書 い て い る と こ ろ 、 お 母 さ ん が 姶 吟 に 「早 く寝 な さ い 」 と言 い 、 姶 恰 は (1)a咬!弓 上 就 抄 完 了,娼,盗 先 睡 咀,咽!(第2回86頁) bは 一 い!も うす ぐ終 わ る よ 。 母 さ ん 、 先 に 寝 て! 恰 姶 の 自転 車 が 盗 ま れ て 、 お 母 さ ん が 心 配 して い る と こ ろ を 、 給 恰 は お 母 さ ん に (2)a別 悦 了,娼.去 了就 去 了 咀!今 天 是 迩 生 日,哨 不 悦 那 些 晦 『 活 了,我 自杁 倒 電 就 得 了 。(第4回86頁) bも う い い よ 、 母 さ ん 。 な くな っ た も の は 仕 方 な い じ ゃ な い か 。 今 日は 母 さ ん の 誕 生 日 だ か ら、 つ い て な い 話 は も うや め よ う 。 自分 は 運 が 悪 い と思 う しか な い よ 。 恰 恰 の 弟 が 二 番 目 の お 姉 さ ん に 恰 恰 の 文 句 を言 っ た (3)a岐,二 姐,迩 不 用 打 屯活 去,二 嵜 一 天 神 游,迩 能 技 到 他 啄?(第4回84頁) b姉 さ ん 、電 話 す る必 要 は な い よ 。 恰 恰 兄 さ ん は 一 日中 ふ らふ ら し て い る か らみ つ か らな い よ 。 (1)∼(3)の 用 例 は 家 族 の 中 で 、 い ず れ も 目下 の 人 が 目上 の 人 に 向 か っ て 言 っ た 発 話 で あ る 。 (1)aで は 親 族 名 の 「娼 」で 呼 び か け た 後 、二 人 称 の 「悠 」を 用 い る 。そ の 訳 文bで は 「娼 」 は 「母 さ ん 」 と訳 さ れ て い る が 、 「悠 」 が 訳 され て い な い 。aと 同 じよ う に 「母 さ ん 、 あ な た 先 に寝 て!」 と い う 形 式 が 日本 語 で は 不 自然 だ か らで あ ろ う。 (2)aで は 「称 生 日」 の 「伽 は修 飾 語 と して 用 い られ て い る が 、訳 文bで は 「あ な た の 一124一

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誕 生 日」 に 訳 さ れ ず 、 「母 さ ん の 誕 生 日」 と訳 され て い る。 日本 語 で は 「あ な た 」 よ り そ の ま ま親 族 名 の 「母 さ ん 」 を 修 飾 語 と し て 、 用 い た ほ うが 自然 だ か らで あ ろ う。 (3)aで は 二 箇 所 に二 人 称 代 名 詞 「伽 を 用 い る の に対 し て 、 訳 文bは 、 「あ な た 」 に訳 さ れ て い な い 。 日本 語 と し て は 、兄 弟 の 間 で も、 目下 の 者 が 目 上 の 者 に対 し て 、 「あ な た 」 を用 い に く い か らで あ ろ う。 恰 喀 は 同 僚 の 饅 頭 に 頼 ま れ 、 饅 頭 を 職 場 に戻 し て くれ る よ う に 、勤 め 先 の 上 司 、 呂 主 任 に頼 ん で 言 っ た 。 (4)a児 了 墨 就 不 敢 悦 活.逮 一 千 快 銭 是 他 伯 小 柄 口子 的 一 点 几 心 意,塩 就 牧 下 咀!(第 14回86頁) b主 任 に お 会 い した ら話 を 切 り 出 せ な くな って し ま い ま し た 。 この1,000元 は 彼 ら 夫 婦(饅 頭 夫 婦)の さ さ や か な 気 持 ち で す 。 お 受 け 取 り くだ さ い! 投 稿 先 の徐 編 集 長 が 恰 姶 の 作 品 を見 も せ ず 、 い い 加 減 に 恰 恰 を評 価 した 。 実 際 に は 、 恰 姶 は 間 違 っ て 市 販 さ れ た 本 を 渡 して し ま っ た 。 恰 姶 は (5)a咬,我 悦,徐 主 翁,悠 可 是 老 前 輩,清 不 要 抱 苦 我 。(第2回93頁) bあ の 、 徐 編 集 長 、 大 先 輩 な の で す か ら 、 冷 か す の をや め て く だ さ い 。 (4)∼(5)の 用 例 は 社 会 的 な 地 位 に お い て 目下 の 人 か ら 目上 の 人 に対 す る 発 話 で あ る。 (4)aで は 尊 敬 語 の 二 人 称 代 名 詞 「悠 」 を二 箇 所 に用 い る が 、訳 文bで は 「あ な た 」 に 訳 さ れ ず 、 一 番 目 の 「悠 」 は そ の 人 の 肩 書 き 「主 任 」 に 訳 さ れ 、二 番 目の 「悠 」 は 訳 さ れ て い な い 。日本 語 で は 部 下 は 上 司 に 対 して 、二 人 称 代 名 詞 が 使 い に く く 、代 わ り に 、 そ の 人 の 肩 書 き を 用 い る の は 、 適 切 と さ れ て い る の で あ ろ う 。 (5)aで は 聞 き 手 の 肩 書 き 「徐 主 編 」 と呼 び か け た 後 、 二 人 称 代 名 詞 の 「悠 」 を 用 い る の に 対 して 、 訳 文bで は 「徐 編 集 長 」 と い う肩 書 き だ け訳 され 、 「悠 」 は 訳 さ れ て い な い 。 原 文aの よ う に 「徐 編 集 長 、 あ な た は 」 と い う 形 式 が 日本 語 で は不 適 切 と さ れ て い る か らで あ ろ う 。 レス トラ ン の マ ネ ジ ャー が 客 に 向 か っ て (6)a(前 略)我 是 逮 ・↑'店的 鋒 理 。 剛 オ 伽 「]的活 我 都 所 見 了,(後 略)(第16回90頁) bわ た し は こ の 店 の マ ネ ジ ャー で す 。 今 、 お 客 様 の お 話 、 お 伺 い し ま した 。 (6)の 用 例 は サ ー ビ ス 提 供 者 が 客 に 向 か っ て 言 っ た 発 話 で あ る 。 (6)aは お 客 さ ん に対 し て 、 「休 イ「]的」 と表 現 し て い る 。(6)b訳 文 で は 「あ な た 達 の」 に訳 され ず 、 「お 客 様 の 」 と訳 され て い る 。 「お 客 様 」 とは 日本 サ ー ビ ス 業 の 独 特 な 呼 一125一

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び 方 で 、 最 も適 切 な 表 現 で あ り、 これ を 代 用 す る も の が な い だ ろ う。 以 上 の 用 例 は 、 家 族 構 成 に お い て 、 子 が 親 に 、 弟 が 姉 に 、 社 会 的 な 地 位 に お い て 、 部 下 が 上 司 に 、 肩 書 き の な い 者 が 肩 書 き の あ る 者 に 、 サ ー ビ ス 提 供 者 が 客 に 、 い ず れ も 目下 の 者 が 目上 の 者 に 向 か っ て 言 っ た 発 話 で あ る 。 中 国 語 の 二 人 称 「称,悠 」 を 使 って い る 箇 所 は 、 日本 語 の 訳 で は どん な 二 人 称 で も 用 い に く い。 む し ろ 省 略 す る か 、 あ る い は 別 の 呼 び 方 が 選 ば れ て い る 。 無 理 に 二 人 称 を 使 う と、 失 礼 な 言 い 方 に な る の で あ る 。 要 す る に 、 日 本 語 で は 目上 の 人 に 、 二 人 称 代 名 詞 は 用 い に く い。 中 国 語 に は こ の よ うな 制 限 は な い 。 日本 語 に は 人 称 暗 示 機 能 を持 つ 敬 語 表 現 が 大 い に 関 係 し て い る か ら こそ 、 敬 語 の 使 用 に よ り、 人 称 代 名 詞 の 省 略 が 可 能 に な る と、 多 く の 言 語 学 者 が 指 摘 し て き た 。 特 に 尊 敬 語 と 謙 譲 語 に よ り、 話 し手 が 主 語 の 時 に 謙 譲 語 を 使 い 、 聞 き 手 が 主 語 の 時 に尊 敬 語 を使 う 。 一 方 、 中 国 語 の 敬 語 は 日本 語 ほ ど多 くな い が 、 実 際 の 会 話 の 中 に存 在 して い る。 主 に 尊 敬 語 と謙 譲 語 の 二 種 類 に 分 け られ て い る 。 例 え ば 、 尊 敬 語 に は 「高 兄 、 玉 照 、 貴 校 、 品 裳 、 貴 干 、光 旺缶」 な ど が あ り、謙 譲 語 に は 「清 示 、鄙 人 、小 店 、拝 渡 、拝 坊 、恭 敬 」な ど が あ る 。 中 国 語 の 敬 語 表 現 は 果 た し て 、日本 語 と 同 じ よ うな 人 称 暗 示 機 能 を 持 っ て い る の か 。ま た 、 先 行 研 究 で 言 及 し た 藤 堂 明 保 の観 点 「中 国 語 は 文 革 以 後 、 男 と女 の 間 、 上 級 者 と下 級 者 の 間 に 、 こ と ば つ か い の 差 異 は ま ず 存 在 しな い 」 に つ い て も、 以 下 の 一 人 称 が 主 語 の 時 に 謙 譲 語 を 使 う 用 例 で 検 討 して み る 。 恰 姶 が 町 で 出 会 っ た 女 性 柳 紫 が 、 姶 姶 か らち ょっ と し た 世 話 を受 け 、 そ の 感 謝 の 言 葉 (7)a柳 紫:(感 劫 地)称,大 嵜,称 迭 ノト人 可 真 好!我 不 知 道 急 広 扱 答 〔注6〕 弥?(第 1回88頁) b柳 紫:(心 を打 た れ て)お 兄 さ ん 、 あ な た っ て 本 当 に い い 人 ね!ど うや っ て お 返 しす れ ば い い の か 分 か らな い わ 。 投 稿 先 の 徐 編 集 長 が 姶姶 か ら原 稿 を 受 け 取 る シ ー ン (8)a徐 主 編:(前 略)咽,清 把 稿 子 交 給 我 咀,我 一 定 杁 真 地 拝 渡 〔注7〕 。(後 略)(第 2回89頁) b徐 編 集 長:原 稿 を 渡 して くだ さ い 。 しっ か り読 ませ て い た だ くよ! 恰 恰 が 徐 編 集 長 に 原 稿 を 渡 した 後 、 帰 る 時 (9)al冶 吟:清 多 美 照 咽!那 … … 我 告 辞 〔注8〕 了!再 兄 。(第2回90頁) b恰 吟:よ ろ し く お 願 い い た し ます!そ れ で は … お い と ま さ せ て い た だ き ま す 。 失 礼 し ま す 。 -126一

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(7)a∼(9)aの 用 例 を 見 て み よ う 。 下 線 を 引 い て あ る 一 人 称 「我 」 を 脱 落 させ て も、 動 作 主 は話 し 手 で あ る こ と が 判 断 で き る 。 従 っ て 、 中 国 語 の 謙 譲 語 も 日本 語 と 同 じ く、 主 語 暗 示 機 能 を持 ち 、 主 語 省 略 が 可 能 で あ る 。 し か し、 こ こで 問 題 にな る の は 、 中 国 語 の 謙 譲 文 の 人 称 代 名 詞 が 省 略 さ れ る と 、 果 た し て 、 文 の 意 味 が 原 文 と 全 く変 わ らず 、 話 し手 の 気 持 ち を伝 え る こ とが で き る か ど う か で あ る 。(7)aの 例 文 を よ り詳 し く検 討 して み る 。 (7)a柳 紫:(感 劫 地)弥,大 寄,イホ遠 介 人 可 真 好!我 不 知 道 急 広 扱 答 像? a①:(感 劫 地)弥,大 苛,弥 遠 全 人 可 真 好!不 知 道 急 広 扱 答 弥? a②:(感 劫 地)休,大 寄,弥 遠 ノト人 可 真 好!我 不 知 道 急 広 扱 答? a③:(感 劫 地)称,大 嵜,弥 逮 ノト人 可 真 好!不 知 道 急 広 扱 答? 原 文aで は 「我 不 知 道 急 広 扱 答 休?」 主 語 と し て の 「我 」 と 目的 語 と して の 「伽 が 用 い られ て い る 。a① は 主 語 の 「我 」 が 省 略 さ れ 、a② は 目的 語 の 「伽 が 省 略 さ れ 、a③ は 両 方 と も 省 略 さ れ た 文 で あ る 。 いず れ も文 章 と して 、 成 立 す る が 、 伝 え る 意 味 は 果 た して 、 同 じで あ ろ うか 。 原 文aは 敬 語 表 現 の成 立 条 件 を全 部 揃 え て い る 。 「我 」 は 表 現 主 体 で 、 「弥 」 は 表 現 受 容 者 で 、 そ の 表 現 素 材 は 謙 譲 語 の 「振 答 」 で あ る 。 a① は 主 語 の 「我 」が 省 略 され 、表 現 主 体 が は っ き り明 言 さ れ て い な い 敬 語 表 現 で あ る 。 も し、 謙 譲 語 「振 答 」 の 主 語 と して 、 「我 」 を 補 え ば 、動 作 主 の 「我 」 が 下 位 者 で あ る 、 と い う意 味 合 い を強 調 す る こ と に な る 。そ の 上 、恩 恵 を受 けた の は 、他 人 で は な く、この 「私 」 で あ り、 恩 を 返 さ な け れ ば な らな い の も 、 こ の 「私 」 で あ る 、 と い う責 任 を感 じさ せ る 。 よ っ て 、 「我 」 が あ っ た ほ うが 、 相 手 に 感 謝 の意 を よ りい っ そ う感 じ させ る。 a② は 目的 語 の 「伽 が 省 略 され 、 表 現 受 容 者 が は っ き り明 言 され て い な い 敬 語 表 現 で あ る 。 も し、謙 譲 語 「振 答 」 の 目的 語 と して 、 「伽 を 補 え ば 、動 作 の 対 象 「あ な た 」 が 上 位 者 で あ る 、 と い う意 味 合 い を 強 調 す る こ と に な る 。 そ の 上 、 「私 」 は感 謝 しな け れ ば な らな い の は 、 他 人 で は な く 、 そ こ に 立 っ て い る 「あ な た 」 で あ る こ と も強 調 で き る 。 よ っ て 、 感 謝 の 気 持 ち が よ り い っ そ う伝 え られ る 。 a③ の よ う に 表 現 主 体 の 「我 」 と 表 現 受 容 者 の 「伽 両 方 省 略 さ れ て い る と 、 恩 恵 を 受 け る側 も 、 恩 恵 を 与 え る 側 も、 ど ち ら も 、 は っ き り明 言 され て い な い た め 、 方 向 性 と強 調 性 に欠 け 、 聞 き 手 が 話 し手 の 感 謝 の 気 持 ち を 軽 軽 し く感 じて し ま う。 以 上 の 分 析 に よ る と 、最 も感 謝 の 気 持 ち が 重 く感 じ られ る の は 原 文aで あ り、 最 も軽 い の はa③ で あ る 。 人 称 代 名 詞 の 「我 」 と 「伽 が あ る か な いか の 違 い に よ り、 伝 わ る 意 味 に差 が 生 じ て い る 。 従 っ て 、 こ こで の 「我 」 と 「弥 」 は 、 本 来 の 人 称 代 名 詞 の 指 示 機 能 を 超 え て 、 謙 譲 語 と連 用 す る こ と に よ っ て 、 よ り一 層 謙 譲 の 意 味 を 強 め て い る。 これ を 確 認 す る た め に 、 中 国 語 の ネ イ テ ィ ブ 〔注9〕13人 に 、 こ の 四 つ の 文 章 の 違 い を 聞 い て み た 。 そ の 調 査 結 果 、 み ん な の 答 え は 私 の 結 論 と一 致 した 。 -127一 陰

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以 上 見 た 通 り、 謙 譲 文 に お い て は 、 中 国 語 も 日本 語 と 同 じ く、 人 称 代 名 詞 の 省 略 が 可 能 で あ る が 、 省 略 され る と、 丁 寧 さ に 欠 け て し ま う。 一 方 、 日本 語 の 一 人 称 主 語 は 、 強 い 自 尊 自己 主 張 の 意 味 合 い を 伴 うた め 、 話 し手 が 聞 き 手 に 対 して 、 自己 主 張 を 感 じ させ な い よ う に 、 一 人 称 主 語 を 避 け る こ と が 多 い 。 お 母 さ ん が 恰 冶 に 、 な ぜ 小 学 生 の 甥 に 難 し い本 を あ げ た の?と 聞 く と、 恰 恰 が 答 え て 、 (10>a姶1冶:嘱,娼,遠 悠 就 不 知 道 了,遠 オ 叫 超 前 意 沢,知 沢 殖 存 。知 道 喝?(第2回 88頁) b吟 恰:へ え っ 、 母 さ ん は ご存 知 な い ん だ 。 こ う い う の を 先 取 り教 育 、 知 識 の ス ト ッ ク っ て い う ん だ よ 。 分 か っ た? 1冶恰 が 自分 の 方 にや っ て 来 る知 り合 い の 警 察 に (11)al冶 姶:啄?片 几 警 来 駐!冴!刻 嵜 大 鷲 光li缶〔注10〕,有 何 貴 干 〔注11〕?(第15 回86頁) b吟 恰:え?お 巡 り さ ん が 来 られ た!や あ!劉 兄 貴 、 い らっ し ゃ い ま せ 。 ご用 件 は 何 で ご ざ い ま す で し ょ うか? 以 上 は 、二 人 称 が 主 語 の 時 に 尊 敬 語 を使 う用 例 で あ る 。 ま ず 、(10)aの 用 例 を 見 て み よ う。 中 国 語 は 二 人 称 の 「悠 」 で 敬 意 を表 す の に対 し て 、 訳 文 のbは 二 人称 が 用 い られ て い な い 。 上述 した 通 り、 日本 語 に は 目上 の 人 に対 し て 、 適 切 な 二 人 称 代 名 詞 が な い 。 そ の た め 、 こ こで は 、 動 詞 の 形 の 変 化 に よ り敬 意 を 表 す 。 「知 る 」 を 「ご存 知 」 に 変 え 、 敬 語 表 現 と して い る 。 現 代 中 国 語 の 二 人 称 代 名 詞 「悠 」 自体 は 尊 敬 語 で あ り、 聞 き 手 に 対 す る 敬 意 を 表 し、 敬 語 表 現 の 中 で 一 番 よ く使 わ れ て い る 。 (11)aに 用 い られ て い る 「光1陶 、 「貴 干 」 は 書 面 語 で あ る 。 敬 語 表 現 の 書 面 語 を 口語 に 用 い る こ と に よ り、 相 手 に対 す る 強 い 敬 意 を 表 す 。 上 記 の 用 例 で は 、 人 称 代 名 詞 を わ ざ わ ざ 明 示 しな くて も、動 作 主 は 聞 き 手 で あ る こ とが 判 別 で き る。日本 語 の尊 敬 語 と 同 じ く 、 人 称 暗 示 機 能 を 持 ち 、 人 称 省 略 が 可 能 で あ る 。 だ が 、 違 っ て い る の は 、 中 国 語 の 用 例 で は 「悠 」を用 い て も構 わ な い 、寧 ろ あ っ た ほ う が よ りい っそ う敬 意 を 深 め る と い う点 で あ る。 これ に つ い て 、 中 国 語 の ネ イ テ ィ ブ に 聞 い て み た 。 そ の 結 果 は 、全 員 一 致 して 、 「悠 」 が あ っ た ほ うが 、 丁 寧 に 感 じ られ る と の 解 答 で あ っ た 。 従 っ て 、 中 国 語 の 尊 敬 語 も先 述 した 謙 譲 語 と 同様 に 人 称 代 名 詞 と連 用 す る こ と に よ っ て 、 よ り一 層 敬 意 が 深 ま る こ とが 明 らか と な っ た 。 日本 語 は 目上 の 人 に 対 して 、 二 人 称 を使 う と 、 逆 に 失 礼 に感 じ る こ の 点 が 大 き な 相 違 で あ る 。 -128一

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以 上 を ま と め る と、日 中両 言 語 の 敬 語 表 現 と 人 称 代 名 詞 の 関 係 に 関 して 、共 通 点 も あ り、 相 違 点 も あ る 。 共 通 点 につ い て は 、 両 言 語 の 謙 譲 語 と尊 敬 語 は 同 じ人 称 暗 示 機 能 を 持 ち 、 文 中 で 使 え ば 、 人 称 を 明 示 し な く て も 、 話 し手 と 聞 き手 が 誰 で あ る の か が 分 か る。 こ こで 藤 堂 明 保 の 観 点 に 疑 問 符 が つ く。 実 際 、 中 国 語 に も 上 下 言 葉 遣 い の 差 異 が 存 在 して い る か ら こそ 、 敬 語 の 使 用 に よ り、 人 称 を 明 示 せ ず に 、 聞 き手 と話 し手 が 判 断 で き る の で あ る 。 相 違 点 は 、 第 一 に は 、 中 国 語 の 敬 語 表 現 は 人 称 代 名 詞 が あ っ て も 差 し支 え な い 、 寧 ろ敬 語 と連 用 す る こ と に よ っ て 、 よ り い っ そ う丁 寧 に 感 じ る こ と で あ る 。 第 二 に は 、 日本 語 の 敬 語 表 現 に は 人 称 代 名 詞 を用 い に くい こ とで あ る 。 両 言 語 人 称 代 名 詞 の 使 用 頻 度 の 差 が 生 じ る 一 番 目の 原 因 は 敬 語 表 現 の 違 い に あ る こ と に な る 。 最 も重 要 な 要 素 は 現 代 中 国 語 の 敬 語 表 現 は 日本 語 ほ ど多 くな い こ と、 そ して 、 両 言 語 の 敬 語 表 現 に お い て 、 人 称 代 名 詞 の 存 在 意 義 が 違 う こ とで あ る 。 2,3。2授 受 表 現 と 人 称 代 名 詞 日本 語 で は 「くれ る 、 あ げ る 、 も ら う」 な ど授 受 表 現 も 人 称 に 参 加 し て い る と い わ れ て い る 。 これ らの 動 詞 は方 向性 の 強 い 動 詞 で あ る た め 、 「あ げ る」 は 、話 し手 側 か ら聞 き 手 側 へ の 授 受 で あ り、 「く れ る 」 「も ら う」 は 、 そ の 逆 で あ る 。 本 節 で は敬 語 問 題 と絡 ん だ 「く だ さ る 、さ し上 げ る 、い た だ く」な ど を 除 い た 授 受 表 現 と 人称 代 名 詞 の 関 係 を 探 っ て み る。 「彼 は 一冊 の 本 を くれ た 」、 「本 」 を も ら っ た の は 誰 で もな く、 「私 」 で あ る 。 中 国 語 の授 受 表 現 は 「給 」 を用 い る 。 「人 称 代 名 詞+給+人 称 代 名 詞 」 の 形 で な い と 、 や り手 と受 け 手 が 分 か らな い 。 「我 給 弥 」(私 は あ な た に あ げ る)、 「祢 給 我 」(あ な た は 私 に く れ る)、 「他 給 祢 」(彼 は あ な た に あ げ る)、 「他 給 我 」(彼 は 私 に くれ る)な ど 人 称 を は っ き り明 示 しね ば な らな い 。 先 の 例 文 を 中 国 語 に 訳 す と、 「他 給 了我 一 本 需 。」 必 ず 「我 」 と い う受 け手 を 明 示 す る必 要 が あ る 。受 け 手 を 明 示 し な い 「他 給 了 一 本 弔 。」 と い う例 文 で は 受 け 手 は他 の 人 称 の 可 能 性 もあ り得 る 。 これ に つ い て 更 に 下 の 例 文 を 用 い て 、 検 証 して み る 。 陰 喀 が 学 生 時 代 に憧 れ た 同級 生 花 娼 と ラ ブ レ タ ー に つ い て 話 して い る (12)a花 娼:怒 広?那 吋 候 弥 給 我 写 条 几{又仮 是 湊 熱 洞 ロ阿?(第3回92頁) b花 娼:ど う い う こ と?あ の と き手 紙 を 書 い て くれ た の は 、 み ん な と一 緒 に な っ て 騒 い だ だ け な の? お 兄 さ ん が 恰 吟 の た め に 、 自 転 車 の 手 配 を し た (13)a大 寄;袷 恰,氾 住 了 目阿,利 迭 自行 牢 π 赴 π 長 己経 給 我 批 了 一 輌 出π 倫 的 牢 子,明 天 派 人 送 来,称 把 銭 准 各 好,明 天 在 家 等 着 呵!(第4回91頁) bお 兄 さ ん:姶 胎・、 憶 え て お い て 。 利 達 自転 車 工 場 の 趙 工 場 長 が 工 場 出 荷 価 格 で 自 転 車 を 手 配 して くれ た ん だ よ 。 明 日、 人 に 持 って 来 て も ら うか ら 、 お 金 を準 備 し 一129一

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て 家 で 待 っ て ろ よ! 恰 晧 が 町 で 出 会 っ た 女 性 に お 金 を渡 す つ も りだ っ た が 、 女 性 に 断 られ て 、 喀 恰 は (14)a吟 恰:我 悦,称 遠 全 人 也 太 死 性 了,那 就 算 我 借 給 称 的 迩 不 行 喝?(第1回90頁) b吟 姶:君 っ て い う人 は 本 当 に 頑 固 だ な あ 。 貸 して あ げ る っ て い う こ と に し て も だ め な の か い? 用 例(12)a∼(14)aの 中 国 語 で 人 称 代 名 詞 の 現 れ る箇 所 が 、 訳 文bで は す べ て 訳 さ れ て い な い 。な ぜ この よ うな 違 い が 生 じた の か 。そ の 理 由 は 、訳 文(12)b、(13)bの 「く れ る」 は 「誰 が 私(或 は 私 側 の 者)に 」 とい う意 味 合 い し か 含 ま れ て い な い た め 、 「私 」 を 明 示 し な く て も 、授 受 の 方 向 が 分 か る 。 これ に対 し て 、原 文(12)a、(13)aで は 、 「我 」 を 省 い た 「… … 那 吋 候 称 給 写 条 九 仮 仮 是 湊 熱 飼 ロ阿?」 は 、 受 け手 は 一 人 称 の 「我 」 以 外 と は 限 定 され ず 、 例 え ば 、 「地 」 も考 え られ る 。 しか し、 日本 語 で は あ りえ な い 。 訳 文(14)bは 、話 し 手 と 聞 き 手 を す べ て 明 示 せ ず に授 受 方 向 が 判 断 で き る の に対 して 、 原 文(14)a、 話 し手 と 聞 き 手 を 省 略 した 「… … 那 就 算 借 給 的 迩 不 行 喝?」 は ① ② ③ の よ うな い ろ い ろ な 可 能 性 が 考 え られ る 。 ① 我 悦,伽 遠 ノト人 也 太 死 性 了,那 就 算 他 借 給 弥 的 込 不 行 喝? ② 我 悦,称 遠 ノト人 也 太 死 性 了,那 就 算 像 借 給 他 的 迩 不 行 喝? ③ 我 悦,弥 迭 ノト人 也 太 死 性 了,那 就 算 休 借 給 我 的 込 不 行 喝? 訳 文(12)b、(13)bに 示 さ れ て い る よ う に 、 授 受 動 詞 が 「くれ る」 の 場 合 、 「私 」 と 明 示 しな くて も 、 授 受 方 向 が 分 か る 。 これ に 対 して 、 中 国 語 の 場 合 は 、 受 け手 の 「我 」 以 外 に、他 の 人 称 も 成 立 す る た め 、 「我 」 を 明 示 す る こ とが 要 求 され る。 訳 文(14)bは 、 「話 し手 が 聞 き 手 に」 と い う授 受 方 向 で あ り、 日本 語 で は 話 し手 と 聞 き 手 、 両 方 と も 明 示 せ ず に 、 そ の 方 向 が 判 断 で き る が 、 中 国 語 で は で き な い 。 な ぜ な ら、 や り手 と 受 け 手 共 に様 々 な 可 能 性 が 考 え られ る か らで あ る 。 以 上 の 分 析 か ら、 両 言 語 人 称 代 名 詞 の 使 用 頻 度 の 差 が 生 じ る 二 番 目の 原 因 は 授 受 表 現 の 違 い に あ る 、 と い う こ とが 明 らか に な っ た 。 2.3.3感 情 、 感 覚 を 表 す 形 容 詞 と 人 称 代 名 詞 日本 語 で は 「彼 女 は 悲 し い 」 と は 言 え な い 。 「彼 女 は 悲 しそ う だ 」、 或 い は 、 形 容 詞 の 動 詞 化 し た 「彼 女 は 悲 しが っ て い る 」 と い うべ き だ と さ れ て い る 。つ ま り、 「悲 しい 、 うれ し い 、 ほ し い 、痛 い 、 痒 い」 な ど感 情 や 感 覚 を 表 す 形 容 詞 に は 人 称 性 が あ る と指 摘 さ れ て い る の で あ る。 話 し手 の 感 じ方 と して 「悲 し い 」 とい え る が 、 二 人 称 、 三 人 称 で 、 しか も 現 在 形 で は お か し い と さ れ る 。 こ の 現 象 に つ い て 、柳 父 章 〔注12〕 は 「二 人 称 、三 人 称 の"あ つ い"の 表 現 に つ い て 考 え る と、 発 言 者 以 外 の 人 間 が"あ つ い"か ど うか は 、 発 言 者 に は 分 か らな い 。 そ の 人 の 動 作 、 状 態 、 表 現 な ど か ら見 て 推 測 は で き る と して も、 そ の 知 覚 自 一130一

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体 を 経 験 す る こ と は で き な い。そ こ で 、知 覚 経 験 を 直 接 表 現 す る"あ つ い"と い う 述 語 は 、 二 人 称 、 三 人称 に つ い て 発 言 す る とお か し い の で あ る 。」 と説 明 して い る 。 これ に 対 して 、 中 国 語 の 感 情 、 感 覚 を 表 す 形 容 詞 は ど うで あ ろ う か 。 以 下 に 検 討 して み る 。 姶 拾 が 恋 人 の 小 莉 に (15)a恰 恰:好 。咬,小 莉,我 把 弥 的 照 片 几 給 我 娼 看 了,老 太 太 可 高 巣(形 容 詞)了, 盲 奄 弥 呪 。(第16回87頁) b恰 恰:ど う も、 … そ うだ 、 小 莉 、 君 の 写 真 を母 さ ん に 見 せ た ん だ 。 す ご く喜 ん で い た(動 詞)よ 。 君 の こ と を す ご く褒 め て い た 。 (15)aの 「高 巣 」 は 感 情 、 感 覚 を 表 す 形 容 詞 で 、 そ の 主 語 は 三 人 称 の 「老 太 太 」 で あ る 。(15)bの 訳 文 は 、 「喜 ぶ 」 と い う動 詞 を 用 い て 訳 され て い る。 中 国 語 の 形 容 詞 「高 巣 」 に相 当す る 日本 語 の 形 容 詞 は 「うれ し い」 で あ る が 。 「(お母 さ ん は)す ご く うれ しか っ た よ」 と訳 す こ とが で き な い 。 日本 語 で は 三 人 称 に つ い て 感 情 を 表 す 形 容 詞 を 述 語 に で き な い か らで あ る 。 これ に 対 し 、 中 国 語 で は 三 人 称 の 主 語 に感 情 を 表 す 形 容 詞 が 述 語 と して 用 い られ る 。 お 姉 さん が 吟 晧 の た め に 、 知 り合 い を 通 し て 、 自転 車 を30元 安 く 買 え た 、 恰 拾 は (16)a恰 恰:二 姐,二 姐,祢 真 能 耐 。什 広 人 都 杁 恢,便 宜 三 十 快 了,遠 我 就 知 足(形 容 詞)了,謝 謝 二 姐 。(第4回88頁) b恰 恰:姉 さ ん 、 本 当 に た い した の も だ な あ 。 い ろ ん な 人 と知 り合 っ て30元 も や す くな る な ん て 、 う れ しい よ 。 姉 さ ん 、 あ りが と う。 用 例 の(16)は 話 し手 が 自分 自身 の 感 情 、 感 覚 を表 す 用 例 で あ る 。 原 文 で は 主 語 「我 」 を用 い る が 、 訳 文bで は 「我 」 は 訳 され て い な い 。 訳 文(16)bの 「うれ し い」 は 感 情 、 感 覚 を 表 す 形 容 詞 で 、 そ の 主 語 が 一 人 称 に 限 られ て い る。 よ っ て 、 一 人 称 の 「私 」 を 明 示 しな くて も 、 発 話 者 が 自 分 自身 の こ と を言 っ て い る の が 判 断 で き る 。一 方 、中 国 語 に は こ の よ うな 人 称 特 定 性 が な い た め 、「我 」を 明 示 して 、 他 の 人 で は な く 、 「私 」 で あ る こ と を 強 調 して い る と解 釈 され て い る。 上 述 した 用 例 を ま とめ て み る と 、 日本 語 で は 、 感 情 、 感 覚 を 表 す 形 容 詞 場 合 は 、 一 人 称 に しか 用 い られ な い。 一 方 、 中 国 語 の 形 容 詞 に は こ の よ うな 人 称 特 定 性 が な い た め 、 常 に 人 称 代 名 詞 を 用 い て 、 主 語 を特 定 す る 必 要 が あ る 。 両 言 語 の 人 称 代 名 詞 の 使 用 頻 度 の 差 が 生 じ る三 番 目の 原 因 は 感 情 、 感 覚 を表 す 形 容 詞 の 使 用 上 の 違 い に あ る こ と に な る 。 -131一

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2.3.4知 覚 、 感 覚 を 表 す 動 詞 と 人 称 代 名 詞 「思 う 、 分 か る 、 信 じ る 、 考 え る 」 な ど の よ うな 知 覚 、 感 覚 を 表 す 動 詞 は 人 称 暗 示 性 を 持 っ て い る と言 わ れ て い る 。 「思 う」 の ア ス ペ ク トに は 、 現 在 形 の 「彼 は正 し い と 思 う」、 過 去 形 の 「彼 は 正 しい と思 っ た 」 と進 行 形 の 「彼 は 正 し い と思 っ て い る 」 が あ る。 現 在 形 と 過 去 形 の 「思 う」 の 動 作 主 は 「私 」 の み で あ り、 進 行 形 の主 語 は 一 人 称 以 外 、 他 の 人 称 も 可 能 で あ る 。 例 え ば 、三 人 称 の 場 合 は 「弟 は 彼 が 正 し い と思 う」 と言 え な い が 、 「弟 は 彼 が 正 しい と思 っ て い る」 と言 え る 。 こ の 問 題 に つ い て 、 最 初 に 明 瞭 に 指 摘 し た の は 、 大 江 三 郎 〔注13〕 で あ る。 「(てい る)を つ け る と客 観 的 に な る」 と 述 べ られ て い る 。 日本 語 は 知 覚 、 感 覚 を 表 す 動 詞 の ア ス ペ ク トの 違 い に よ っ て 、 主 語 の判 断 が 可 能 で あ る 。 これ に つ い て 、 下 の例 文 を 見 て み る 。 姶 恰 が 柳 紫 のハ ン カ チ を 断 る 理 由 を説 明 す る (17)a吟 姶:我 是 覚 得 我 遠 手 挺 腔 的,弄 駐 了祢 的那 介 白手 多昌几 。(第1回88頁) b姶 吟:手 が 汚 れ て い る か ら、 君 の 白 い ハ ン カ チ を汚 して し ま う と思 っ た ん だ 。 柳 紫 が 恰 吟 か ら ち ょ っ と した 世 話 を 受 け 、 そ の 感 謝 の 言 葉 (18)a柳 紫:(感 劫 地)弥,大 嵜,祢 遠 イ、人 可 真 好!我 不 知 道 急 広 振 答 弥?(第1回88 頁) b柳 紫:(心 を 打 た れ て)お 兄 さ ん 、 あ な た っ て 本 当 に い い 人 ね!ど うや っ て お 返 し す れ ば い い の か 分 か ら な い わ 。 (17)a、(18)aの 原 文 で は 、知 覚 、感 覚 を 表 す 動 詞 「覚 得 」、「知 道 」の 主 語 と して 「我 」 を用 い る が 、 訳 文bは 「私 」 と 訳 さ れ て い な い 。 上 述 し た よ う に 過 去 形 「思 っ た 」 と現 在 形 「分 か る」 の 主 語 は 一 人 称 に 限 られ る た め 、 主 語 の 「私 」 を 言 及 し な く て も 、 動 作 主 は 話 し手 で あ る こ とが 分 か る 。 一・方 、 中国語 の 「覚 得 」、 「知道 」 は、 どうで あろ うか。 日本 語 と同 じく、一 人称 に限 ら れ て い る の か ど うか 検 討 して み る 。 ①a他 覚 得 伽 並咳 去 。 歴 彼 は君 が 行 くべ き だ と 思 う。 ②a他 不 知 道 祢 的 想 法 。 歴 彼 は 君 の 考 え が 分 か らな い 。 ①aと ②aの よ う に 中 国 語 で は 三 人 称 を 主 語 と し 、 動 詞 「覚 得 」、 「知 道 」 を 述 語 とす る 文 章 は 成 立 す る 。 し か し 、 ①bと ②bの 日本 語 は 不 自然 で あ る 。 中 国 語 の 知 覚 、 感 覚 を 表 す 動 詞 は 一 人 称 以 外 、 三 人 称 も用 い られ る た め 、 日本 語 の 「思 う」、 「分 か る 」 の よ うな 人 称 制 限 を 持 っ て い な い 。 -132一

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従 っ て 、 両 言 語 人 称 代 名 詞 の 使 用 頻 度 の 差 が 生 じ る 四 番 目 の 原 因 は 知 覚 、 感 覚 を表 す 動 詞 の 機 能 の相 違 に あ る こ と に な る 。 2.3.5呼 称 と人 称 代 名 詞 日本 語 の対 話 世 界 で は 、 親 族 名 が 内 と 外 に 分 け られ て い る。 他 人 に 向 か っ て 自分 の 親 兄 弟 を 指 す 言 い 方 と し て 、 適 切 な の は 、 ち ぢ 、 は は 、 あ ね 、 あ に で あ り、 相 手 の 親 兄 弟 は 、 お と う さん 、 お か あ さ ん 、 お ね え さ ん 、 お に い さ ん で あ る 。 古 代 中 国 語 に は 同 じよ うな 使 い分 け が あ っ た 。 自 分 の 親 兄 弟 は 、 謙 称 の 「家 父,家 母,家 妹,家 兄 」 を用 い 、 相 手 の 親 兄 弟 二 は 、 敬 称 の 「令 尊,令 堂,令 妹,令 兄 」 を 用 い た 。 現 代 中 国 語 に 至 り、 そ の 使 い 分 け は 現 代 中 国 語 の 文 語 で は 残 っ て い る 。 現 代 中 国 語 の 口語 で は 、 そ の 使 い分 け は ど うで あ ろ うか 。 下 の 用 例 を見 て み る 。 晧 恰 と 同 じ病 院 に 入 院 して い る 患 者 さ ん の 娘 と の 会 話 (19)a吟1冶:称 釜 能 給 称 喝?(第12回90頁) 女 几:哩,給!我 佃 家 小 子 多 姑 娘 少,我 花 銭 我 釜 杁 来 都 不 心 痺 。 恰 吟:岐 啄,我 看 弥 釜 自 己花 銭 可 心 痺 胞! 女 几:就 是 呵,我 琶 他 杁 来 就 遠 祥 。(後 略) b恰 喀:お 父 さ ん は 君 に お 金 、 くれ る の? 娘:え え!く れ る の!う ち は ね 、 男 の 子 が 多 くて 、 女 の 子 が 少 な い か ら、 わ た し が お 金 を 使 っ て も お 父 さん は 大 丈 夫 な の よ 。 恰 喀:へ え 、 君 の お 父 さ ん は 自 分 で は お 金 使 う の が 惜 し い み た い だ け ど! 娘:そ うな の よ 、 お 父 さ ん は 前 か らそ う 。 入 院 して い るお 父 さ ん が 、 蜜 柑 を 買 っ て き た 娘 に (20)a老 訣 几:(前 略)弥 … … 給 弥 娼 掌 回 去 。(第12回92頁) bお 父 さ ん:お 母 さ ん に持 っ て 帰 って あ げ な さ い。 (19)a、(20)aの 用 例 を 見 る と 、 親 族 名 の 前 に す べ て 修 飾 語 と して の 人 称 代 名 詞 が 付 い て い る 。 これ に 対 して 、 訳 文(19)b、(20)bで は 人 称 代 名 詞 が 殆 ど訳 さ れ て い な い 。 特 に(19)aの 用 例 で は 、 恰 恰 が 「祢 琶 」 と い い 、 女 几 が 「我 釜 」 と答 え て い る 。 こ この 「我 」 と 「弥 」 は 絶 対 省 略 で き な い 。(19)aの 用 例 の 「我 」 と 「伽 が 省 略 され る と ど う な る の か を 見 て み よ う。 恰 ロ合:釜 能 給 弥 喝? 女 几:嚥,給!我 イ「]家小 子 多 姑 娘 少,我 花 銭 釜 杁 来 都 不 心 疹 。 恰 【1合:咬噺,我 看 琶 自 己花 銭 可 心 疹 胞! -133一

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女 几:就 是 咽,釜 他 杁 来 就 遠 祥 。(後 略) 「我 」 と 「伽 を省 略 した こ の 会 話 文 で は 、 文 中 の 「釜 」 は 吟 恰 に と っ て も 、 女 几 に と っ て も、 「父 」 で あ り、 つ ま り、 二 人 は 兄 弟 姉 妹 と い う こ と に な っ て し ま う 。 こ こ の 「我 」 と 「弥 」 は 絶 対 に 省 略 で き な い 。 よ っ て 、 現 代 中 国 語 で は 、 人 称 代 名 詞 が 自分 対 相 手 の 親 族 名 の 使 い分 け に 重 要 な 役 割 を果 た して い る こ とが 、明 らか で あ る 。自分 の 親 兄 弟 に は 「我 釜,我 娼,我 姐,我 寄 」 と言 い 、 相 手 の 親 兄 弟 に は 「イホ琶,祢 娼,称 姐,弥 嵜 」 と言 う。 1両 言 語 の 人 称 代 名 詞 の 使 用 頻 度 の 差 が 生 じ る 五 番 目 の 原 因 は 内 と 外 の 関 係 に 関 わ る 呼 称 に 人 称 代 名 詞 が 参 入 して い るか ど うか の 違 い に あ る こ と に な る 。 2.3.6指 示 代 名 詞 と 人 称 代 名 詞 中 国 語 の 会 話 で は 、 「人 称 代 名 詞+指 示 代 名 詞 」の 連 用 形 式 が よ く見 られ る が 、 日本 語 で は 見 られ な い 。 例 え ば 、 晧 姶 が 買 っ た ば か りの 靴 が 壊 れ て 、 店 員 に返 品 を 求 め た が 、 そ の 店 員 は (21)a女 店 員:(前 略)我 イ1]遠几 ロ阿,是 当 面 逸 好,概 不 退 貨 。 当 吋 弥 干 嗜 来 的?(第7 回85頁) b女 性 店 員:う ち は ね 、 じっ く り選 ん で も ら っ て 返 品 は 一 切 受 け 付 け な い ん で す 。 そ の と き ど う し て 買 っ た の 。 姶 恰 が ホ テ ル を 探 して い る (22)al冶1冶:小 姐,住 弥 イ「コ遠 ノト地 方,最 便 宜 的 房 同 多 少 銭?(第6回87頁) b吟 吟:す み ませ ん 、 こ こ の 一 番 安 い 部 屋 の 宿 泊 料 は い く らで す か 。 (21)a、(22)aの 用 例 は 、 「人 称 代 名 詞+指 示 代 名 詞 」 の 連 用 形 式 が 用 い られ る が 、 訳 文(23)b、(24)bで は 、 人 称 代 名 詞 か 指 示 代 名 詞 か 、 片 方 しか 訳 され て い な い 。 「我 伯 遠 几 」(私 た ち こ こ)、 「称 伯 迭 ノト地 方 」(貴 方 た ち こ こ)の よ う な 指 示 代 名 詞 と 人 称 代 名 詞 の 連 用 形 式 が 日本 語 で は お か し い と され る か らで あ ろ う。 従 っ て 、 両 言 語 人 称 代 名 詞 使 用 頻 度 の 差 が 生 じ る 六 番 目 の 原 因 は 人 称 代 名 詞 と指 示 代 名 詞 の 連 用 が で き る か ど うか の 違 い に あ る こ と に な る 。 ま と め 日本 語 は 人 称 代 名 詞 の 種 類 が 多 い わ りに 、 使 用 頻 度 が 低 く 、 中 国 語 は 人 称 代 名 詞 の 種 類 が 少 な い わ りに 、 使 用 頻 度 が 高 い 。 な ぜ 、 こ の よ う な 現 象 が 生 じ た のか?具 体 的 な 例 文 を 用 い て 、 細 か く分 析 した 結 果 、 以 下 の6点 に 要 約 さ れ る 。 一 、 両 言語 の 人称代 名詞 の使用 頻度 の差 が 生 じる原 因は敬語 表 現 の違 いに ある。 敬語 表 一134一

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現 の 文 中 使 用 に よ っ て 、 上 下 関 係 が 分 か り、 人 称 代 名 詞 を 明 示 し な く て も 、 そ の 動 作 主 が 判 別 で き る 。 日本 語 の 敬 語 表 現 が 中 国 語 よ り多 く存 在 し 、 しか も 、 人 称 代 名 詞 と一 緒 に使 い に く い 特 徴 が あ る 。一 方 、中 国 語 の 敬 語 表 現 は 人 称 代 名 詞 と一 緒 に 用 い る こ と に よ っ て 、 よ り一 層 敬 意 が 深 ま る 。 二 、 両 言 語 の 人 称 代 名 詞 の使 用 頻 度 の 差 が 生 じ る原 因 は 授 受 表 現 の 違 い に あ る 。 日本 語 の 授 受 表 現 は 「くれ る 、 あ げ る 、 も ら う」 な ど の 動 詞 が あ って 、 これ らの 動 詞 は 方 向 性 の 強 い 動 詞 で あ る た め 、 「あ げ る 」 は 、 話 し 手 側 か ら聞 き 手 側 へ の 授 受 で あ り、 「くれ る 」 「も ら う」 は 、 そ の 逆 で あ る 。 人 称 代 名 詞 を 明 示 しな く と も 、 そ の 授 受 の 方 向 が 判 断 で き る。 一 方 、 中国 語の授 受 表現 の動詞 は 「給 」 しか な いた め、授 受 の方 向が判 断 で きず 、や り手 と受 け 手 を 明 白 に 示 す 必 要 が あ る 。 三 、 両 言 語 の 人 称 代 名 詞 の使 用 頻 度 の 差 が 生 じ る原 因 は 感 情 、 感 覚 を 表 す 形 容 詞 の 使 用 上 の 違 い に あ る。 日本 語 の 感 情 、 感 覚 を 表 す 形 容 詞 は 一 人 称 以 外 、 ほ か の 人 称 に 適 用 で き な い 。 一 方 、 中 国 語 は 、 感 情 、 感 覚 を 表 す 形 容 詞 は 、 こ の よ うな 人 称 制 限 が な い た め 、 人 称 代 名 詞 を 明 示 す る こ と が 要 求 さ れ る 。 四 、 両 言 語 の 人 称 代 名 詞 の使 用 頻 度 の 差 が 生 じる 原 因 は 知 覚 、 感 覚 を 表 す 動 詞 の 機 能 の 相 違 に あ る 。 日本 語 で は 「思 う 、 分 か る 、 信 じ る 、 考 え る 」 な ど の よ うな 知 覚 、 感 覚 を表 す 動 詞 の 現 在 形 と過 去 形 の 主 語 は 一 人 称 に 限 られ て い る 。主 語 の 「私 」を 言 及 しな く て も 、 「私 」 で あ る こ とが 判 断 で き る 。 一 方 、 中 国 語 の 「想,知 道,相 信,考 慮 」 な どの 知 覚 、 感 覚 を 表 す 動 詞 の 主 語 は 人 称 制 限 が な い た め 、 常 に 人 称 代 名 詞 を 明 示 す る必 要 が あ る 。 五 、 両 言 語 の 人 称 代 名 詞 の 使 用 頻 度 の 差 が 生 じる 原 因 は 内 と 外 の 関 係 に 関 わ る 呼 称 に 人 称 代 名 詞 が 参 入 して い る か ど うか の 違 い に あ る 。 日本 語 の 対 話 世 界 で は 、 親 族 名 が 内 と外 に分 け られ て い る 。「ち ぢ 」と 「お 父 さ ん 」の よ う に 、立 場 に よ って 、呼 び 方 も違 っ て く る。 これ に対 し て 、 中 国 語 で は 、 自分 対 相 手 の 親 族 名 の 使 い 分 け は 、 人 称 代 名 詞 と連 用 して 、 「我 釜 」、 「称 琶 」 の よ う な 形 で 、 は っ き り させ る 。 故 に 、 親 族 名 の 表 現 に お い て 、 中 国 語 の 人 称 代 名 詞 は 日本 語 よ り多 用 さ れ る 。 六 、 両 言 語 の 人 称 代 名 詞 の 使 用 頻 度 の 差 が 生 じる 原 因 は 人 称 代 名 詞 と指 示 代 名 詞 の 連 用 が で き る か ど うか の 違 い に あ る 。 中 国 語 の 対 話 世 界 に お い て 、 人 称 代 名 詞 は 指 示 代 名 詞 と 連 用 す る こ とが で き る が 、 日本 語 に は 「人 称 代 名 詞+指 示 代 名 詞 」 の 形 式 が 見 られ な い 。 注 〔1〕 三 輪 正 『人 称 詞 と 敬 語 一 言 語 倫 理 学 的 考 察 』 人 文 書 院 、2000年 。 〔2〕 石 綿 敏 雄 ・高 田 誠 『対 照 言 語 学 』 お うふ う、1990年 。 〔3〕 藤 堂 明 保 「中 国 語 の 敬 語 」 『敬 語 講座8』 明 治 書 院 、1974年 。 〔4〕 鈴 木 孝 夫 編 『日本 語 の 語 彙 と 表 現 』大 修 館 書 店 、1976年 、p.215。 -135一

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〔5〕 大 河 内 康 憲 「日本 語 と 中 国 語 の 語 彙 の対 照 」(『講 座 日本 語 と 日本 語 教 育7日 本 語 の 語 彙 ・意 味(下)』 明 治 書 院 、1990年)。 〔6〕 「國,用 実 隊 行 幼 来 表 示 感 謝.」 『現 代 汲 語 詞 典(第5版)』 商 各 印 需 棺 、2005年 、 P.50。 〔7〕 「國,敬 辞,圓 旗 。」 『現 代 双 語 詞 典(第5版)』 商 劣 印 需 棺 、2005年 、p.32。 〔8〕 「國,(向 主 人)辞 別 。」 『現 代 双 語 詞 典(第5版)』 商 劣 印 需 棺 、2005年 、p.456。 〔9〕20∼30歳 台(海 南 島:女 性3人 ・男 性3人 、 湖 南 省:女 性2人 ・男 性2人)の 中 国 語 ネ イ テ ィ ブ 話 者 。 〔10〕 「國,敬 辞,称 箕 客 来 到 。」 『現 代 双 語 詞 典(第5版)』 商 劣 印 需 棺 、2005年 、p.509。 〔11〕 「国,敬 辞,向 人 要 倣 什 広 。」 『現 代 双 語 詞 典(第5版)』 商 劣 印 需 棺 、2005年 、 p.516。 〔12〕 柳 父 章 『比 較 日本 語 論 』 日本 翻 訳 家 養 成 セ ン タ ー 、1983年 。 〔13〕 大 江 三 郎 『日英 語 の 比 較 研 究 一 主 観 性 を め ぐっ て 』南 雲 堂 、1975年 。 用 例 出 典 ラ ジ オ ドラ マ シ リー ズ 「吟 吟 蘭世 界(全16集)」(『 中 国 語 ジ ャ ー ナ ル 』 ア ル ク 、2000年 12月 ∼2002年3月) 参 考 文 献 石 綿 敏 雄 ・高 田誠 『対 照 言 語 学 』 お うふ う、1990年 大 江 三 郎 『日英 語 の 比 較 研 究 一 主 観 性 を め ぐ っ て 』 南 雲 堂 、1975年 大 河 内 康 憲 「日本 語 と 中 国 語 の 語 彙 の 対 照 」(『講 座 日本 語 と 日本 語 教 育7日 本 語 の 語 彙 ・ 意 味(下)』 明 治 書 院 、1990年) 太 田辰 夫 『中 国 語 歴 史 文 法 』朋 友 書 店 、1981年 菊 地 康 人 『敬 語 』 角 川 書 店 、1994年 鈴 木 孝 夫 『こ と ば と文 化 』 岩 波 書 店 、1973年 鈴 木 孝 夫 編 『日本 語 の 語 彙 と 表 現 』大 修 館 書 店 、1976年 藤 堂 明 保 「中 国 語 の 敬 語 」(『敬 語 講 座8』 明 治 書 院 、1974年) 外 山滋 比 古 『日本 語 の 素 顔 』 中 央 公 論 社 、1981年 南 不 二 男 ほ か 編 『岩 波 講 座 日本 語4敬 語 』岩 波 書 店 、1977年 三 輪 正 『人 称 詞 と 敬 語 一 言 語 倫 理 学 的 考 察 』 人 文 書 院 、2000年 三 輪 正 『一 人 称 二 人 称 と対 話 』人 文 書 院 、2005年 柳 父 章 『比 較 日本 語 論 』 日本 翻 訳 家 養 成 セ ン タ ー 、1983年 対 月 隼 ・播 文 娯 ・胡 市 隼 『実 用 現 代 双 活 活 法 』 商 各 印 需 棺 、2002年 魯 宝 元 『日双i吾吉 対 比研 究 与 対 日汲 活 教 学 』隼1吾教 学 出 版 、2005年 一136一

参照

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