赤門マネジメント・レビュー 17 巻 2 号 (2018 年 4 月)
47 〔研究ノート〕
デザインは市場成果をもたらすのか
?
製品デザインが市場成果に与える影響についての文献レビュー
Product Design Enhance Market Performance?
A Literature Review on Product Design, Firm Performance and Consumer Response
原 寛 和a 立 本 博 文bHARA, Hirokazu TATSUMOTO, Hirofumi
要約:製品デザインが市場成果に与える影響について、(i)企業レベル(ii)製品レベル(iii)デザイン組織レベルに分類して実証研究の レビューを行なった。いずれの研究も、製品デザインが市場成果にプラスの影響を与えることを支持している。ただし、そのメカニズ ムは単純ではなく、変数間の媒介効果や交互作用効果を多く含んでいる。これら既存研究のレビューを踏まえ、今後の研究として、 (1)戦略的文脈の影響を考慮した研究 (2)消費者の反応を取り込んだデザインプロセスの研究 (3)デザインマネジメントの組織メカ ニズムの研究が必要であることを報告する。 キーワード:製品デザイン、デザインマネジメント、デザイン組織、デザインの新奇性・典型性、顧客・サプライヤーとの協働プロセス
Abstract: This paper reviews prior empirical studies on the effect of product design on firm performance, by classifying them into three areas: (i) firm level, (ii) product level and (iii) design organization level. These studies support product design positively affects firm performance through the complex mechanism with mediation and/or interaction effects. These empirical results suggest further studies regarding (1) strategic context and product design process, (2) consumer cognition as mediation variables between design process and firm performance and (3) organizational mechanisms and key factors in design management.
Keywords: product design, design management, design organization, design newness and typicality, design involvement with customers and suppliers
a 筑波大学大学院ビジネス科学研究科 (Graduate School of Business Sciences, University of Tsukuba, 3-29-1 Otsuka,
Bunkyo-ku, Tokyo, Japan), [email protected]
b 筑波大学ビジネスサイエンス系 (Faculty of Business Sciences, University of Tsukuba, 3-29-1 Otsuka, Bunkyo-ku,
Tokyo, Japan), [email protected]
1. はじめに
デザインは決して新しい話題ではない。1900 年代初頭、西欧において工業デザイン (Industrial Design) という概念が生まれ、1930 年代にはアメリカを中心にマーケティング的な色合いの濃い製品デザイン戦略 を採る企業も出ていた (Lorenz, 1990)。そして近年、製品デザインへの関心が再び高まっている。特に製造 業においては、機能的な同質化が進む中で、製品デザインを差別化の主要な要素として戦略的に競争優位を 構築しようという動きが世界的に活発である。2000 年代のアップル (Apple Inc.) とサムソン電子 (Samsung Electronics Co., Ltd) の成功はその代表的な事例といえる。長らく品質改善や生産性向上に関する 組織能力を磨いて来た日本の製造業も、製品デザインについての新たなアプローチが求められている。こうした産業界の動きを受け、製品デザインに関する研究の数も増加し、体系化も試みられている。 http://doi.org/10.14955/amr.0170327a © 2018 Global Business Research Center
査 読 つ き 研 究 ノ ー ト 2 0 1 7 年 3 月 2 7 日 受 付 2 0 1 8 年 2 月 5 日 受 理
Luchs and Swan (2011) によると、製品デザインは「形状がもつ個別の性質 (有形品・サービスがもつ美感) と機能 (能力) が統合された、全体的な性質で構成される一連の人工物」と定義される。しかし、製品デザ インの持つ意味や解釈は幅広く、近年は製品デザインに期待される役割も拡大しつつある。また、デザイン を研究対象として扱う分野は、経営学のみならず、工学や建築学、認知科学など、多様にして広大であり、 全体を網羅的に捉えることは容易ではない。それゆえ、製品デザインに関する各論点の深耕が十分に進んで 来なかった。 経営学における製品デザイン研究の主な関心は「企業経営において製品デザインが市場成果に与える影 響」にある。これまでの調査研究から、良いデザインが売上や利益などの企業パフォーマンスへ影響を与え ることは概ね普遍性を持つと理解されている (森永, 2016)。ただし、その条件や効果の程度については明確 な整理があるとは言えず、更なる研究が必要とされている。条件や効果の程度の探求は定量的な問題である と同時に、経営上の重要な関心事項である。このような背景から、近年、製品デザイン研究分野で定量分析 をおこなう実証研究が増加している。 これら実証研究は、既存研究の理論枠組みをベースにして行われている。理論枠組みを包括的に整理し たものがレビュー論文であり、意義のある実証研究のためには欠かせない基盤である。しかしながら、既存 のレビュー論文は実証研究と事例研究を区別せずに扱っており、将来研究のための理論枠組みや研究出発点 の提供が不十分である。一般に批判されるように、事例研究は重要な洞察を提供する一方で、恣意性・厳密 性・再現性・妥当性・一般化可能性などの点で問題があるからである。より堅牢な議論のためには実証研究 の積み重ねは欠かせない。 従前であれば、レビュー論文が実証研究・事例研究を区別せずに扱ったとしても問題は少なかった。 2000 年代以前の製品デザイン研究は事例研究が中心で、実証研究は少数であった。そのため、実証的に確 認されたエビデンスを整理するよりも、事例にもとづいて理論の裾野を広げることが優先された。しかし近 年の実証研究の急増により、ある程度の蓄積が生まれている。 そこで本稿では、実証的なエビデンスで確認された事実にもとづいて、将来研究に堅牢な理論的基盤と 研究の出発点を提供する。そのため、製品デザイン研究に関する実証研究のみを対象に包括的なレビューを 行う。
2. 本レビュー論文の位置づけと方法論
本研究は、既存の製品デザインのサーベイ研究と異なり、実証研究のみを対象にして文献サーベイと研 究知見の整理を行う。ただし、既存研究の理論枠組みを援用しながら、実証研究で確認されたエビデンスを 整理・再構成するという方針をとった。 実証研究のみを対象とする点で、既存のサーベイ研究に比べ、狭い範囲について扱うという短所が生じ る。一方で、実証的に確認されたエビデンスのみを対象とするため、より厳密に確認された理論枠組みを提 示することができ、今後の実証研究や、そこから派生する新たな研究課題について堅牢な理論的基盤を与え ることができる。 このような考えにもとづき、本章ではまずデザインの定義について触れた後、既存の文献サーベイで提 示された理論枠組みを紹介する。その後、既存の実証研究を中心に本サーベイ研究で再整理した理論枠組み を提示する。2.1. デザインの定義とその多義性
既存研究は、デザインに関する定義の多様性がデザインの議論をより複雑にしていると指摘している (水越, 2008; 森永, 2016; Ravasi & Stigliani, 2012)。
Oxford English Dictionary を繙くと、design は大別して「実行を意図した企画や計画」と「図面やスケッチ
などの意匠」の二つの原義があると考えられる (表 1)。
Luchs and Swan (2011) は、マーケティング研究を中心に製品デザインの定義を整理した。これを概観す ると、意匠を生み出すプロセスを含むデザイン (プロセスとしてのデザイン) と、最終的な意匠に着眼した デザイン (結果としてのデザイン) とに大別できる (表 2)。この点、英語の design の原義と整合的だが、 これらを包括した製品デザインに関する学術上の定義は定まっていないとも言える。
経営学における製品デザイン研究においては、製品の形状 (Form) と機能 (Function) の側面に着目して
表1 英語における design の意味
出所) Oxford English Dictionary (Web 版:http://www.oed.com/ December 2016)
表2 デザインの定義
出所) Luchs and Swan (2011, p. 337) の Table 2 を和訳して一部抜粋。 なお、本サーベイで抽出されていない以下の論文を含む。
Office of Technology Assessment. (1992). Green products by design. Washington DC: U.S. Government Printing Office. Utterback, J. (1994). Mastering the dynamics of innovation. Boston, Harvard Business School Press.
議論されることが多い (Dumas & Mintzberg, 1991)。19 世紀後半から 20 世紀前半に活躍したアメリカの著名 な建築家ルイス・サリヴァン (Louis Sullivan) の「形状は常に機能に従う (form ever follows function.)」と いう格言にあるように、両者は相互依存的でもあるが、どちらかに重点をおいた研究も見られる (Luchs & Swan, 2011)。
また、形状と機能に加え、第3 の側面も主張されている。例えば、Dumas and Mintzberg (1991) は Fit (使 いやすさ) を、近年では Homburg, Schwemmle, and Kuehnl (2015) が Symbolic (象徴性) を提示している。
本稿が対象とする「製品デザインと市場成果」に関する研究には、形状と機能それぞれに着眼したもの、 どちらも内包したもの、さらには第3 の次元を加えたものが存在する。本稿では先行研究である Luchs and Swan (2011) に従い、製品デザインを「形状がもつ個別の性質 (有形品やサービスがもつ美感) と機能 (能 力) が統合された、全体的な性質で構成される一連の人工物」と定義する。ただし、製品デザインと市場成 果の関係を定量的に分析した既存研究では、製品デザインは製品の形状 (外観) や意匠1 として操作化され ることが多い。
なお、製品デザインに関連する言葉として「工業デザイン (ID: Industrial Design)」がある。近年は、前述 の製品デザインの定義以上の概念でとらえられる向きもあるが、2 Gemser and Leenders (2001) が指摘するよ うに、国際的に合意された定義はない。また、Luchs and Swan (2011) のサーベイ研究では、製品デザイン と工業デザインという二つの言葉の用語法 (Terminology) が明確でない点も指摘されている。市場成果の 視点から経営学におけるデザイン研究を整理することを目的とする本稿では、先行研究に倣い「製品デザイ ン」を前提に分析を進める。 既存研究では製品デザインの形状に関して様々な単語が用いられている。Product Form (製品の形状) や Appearance (外観) と並び、特徴的な言葉が Aesthetics である。製品デザイン研究の文脈からは「美感を起 こさせる外観や雰囲気」という意味と解されるが、本稿では Aesthetics を「美感」と和訳した。理由は以下 の2 点である。
第一にSchmitt and Simonson (1997) の訳者が、著者の Schmitt 氏と会話した際、Aesthetics に代替する言葉 として「Look/Feel/Atmosphere/Sensory Experience」を挙げており (邦訳 p. 4, 下線は筆者による)、この単語 は形状が与える“感覚”を重視していると考えられることである。第二に、日本において意匠が「視覚を通 じて美感を起こさせるもの」と定義されていることである (意匠法 2 条 1 項後段)。日本語には「美観」と いう言葉もあるが、単なる外観以上の“感覚”も含むというニュアンスを重視した。 2.2. 先行サーベイ研究 本研究の位置付けを明らかにするため、まず、近年行われた製品デザインに関する包括的サーベイ研究 であるRavasi and Stigliani (2012) と Luchs, Swan, and Creusen (2016) を取り上げる。ともに製品デザインを 中心にしたサーベイ研究であるが、筆者たちの関心がやや異なるため、取り上げる領域に若干の違いがある。
Ravasi and Stigliani (2012) は、マーケティング・イノベーション・組織論など、経営学の幅広い分野を対
1 特許庁によると「意匠は、物品のより美しい外観、使ってより使い心地のよい外観を探求するもの」とされている。
http://www.jpo.go.jp/seido/s_ishou/chizai05.htm
2 公益社団法人日本インダストリアルデザイナー協会によると「(ID の責務は) 製品開発ばかりでなく、企画から企業戦略まで、また
ハードの分野からソフトの世界にまで拡がりつつある」。http://www.jida.or.jp/site/about.html 同じく、米国の Industrial designers
Society of America でも「ID は歴史的にステークホルダーの相互利益のための機能・価値・外観を最適化する製品とシステムの創造
象に製品デザイン研究のレビューを行った。125 本の論文と 20 の文献について、研究の流れを九つに整理 し、それらを収斂させる形で三つの領域にグループ化した。製品開発プロセスに則りつつも、研究分野や テーマに基づいたフレームワークと言える (図 1)。 第 1 の領域は、Design Activities である。デザインの選択がどのようになされるのか、あるいはどう実践 すべきかに注目した研究群である。この領域は、(1) 成功するデザインを生み出すためのデザイン資源のマ ネジメント、(2) デザイナーの知の獲得、(3) (ユーザー中心あるいは最適化のために) デザイナーが用い るツールに分類される。これらは組織内あるいは製品開発プロジェクトにおけるデザイン組織およびデザイ ナーの活動にフォーカスがあたっているという意味で、製品開発研究の視点と言える。 第2 の領域は、Design Choices である。選択したデザインが製品の形状や機能的特性へどう影響するのか に注目した研究群である。この領域は、イノベーション研究の視点からデザインを捉え、(1) デザインと技 術的イノベーション、(2) 製品に意味をもたらすデザイン主導のイノベーションに分類される。 第3 の領域は、Design Result である。製品の形状や機能的な特性が企業成果にどう影響するかに注目した 研究群である。この領域は、経営戦略に関わる (1) オペレーション効率 (モジュラー化など)、(2) 財務パ フォーマンス、そして消費者行動研究が中心の (3) 消費者の反応に分類される。
一方、Luchs and Swan (2011) は、主にマーケティング分野から製品デザイン研究のレビューを行い、製 品の開発プロセスを中心にした製品デザイン研究の理論枠組みを提示した。後続研究となる Luchs et al. (2016) では、1995 年~2014 年までに八つの主要なマーケティングジャーナルで発表された 252 の論文 を11 のトピックに分類、それらを開発プロセスの順に三つの領域に分けて整理している (図 2)。
製品開発の初期段階であるContext and Strategy は、(1) 顧客ニーズや社会文化的な文脈、競合やその他の 外部要因の理解、(2) 企業あるいは製品開発チームのケイパビリティとパフォーマンス、(3) 製品の複雑性 に対処するためのサプライチェーンマネジメント、サプライヤーや顧客との関わりなどの企業間の結びつき
図1 製品デザイン研究の概観①
に分類される。
具体的な製品開発段階であるProduct Design Process は、(1) アイデアの創出とその選別、(2) コンセプト 開発とその評価、(3) 部品やプラットフォームなどの共用化、(4) マスカスタマイゼーションや生産性、そ して製品デザインとマーケティングの統合に分類される。 開発した製品の市場投入後に関する Consequences は、さらに二つの領域に区分されている。ひとつが 「企業や製品の成果」であり、(1) 製品の成功率、製品の成功が顧客の選好に与える影響、(2) 市場シェア や売上など企業成果に与える影響が含まれる。もうひとつが「消費者の反応」であり、(3) 製品デザインが 消費者の反応や評価に与える影響、(4) 社会や環境を考えた顧客の選択行動への影響が含まれる。 冒頭に述べたように、本稿の目的は、将来の製品デザイン研究に対して堅牢な理論枠組みと出発点を提 供することである。ここまで、主要なレビュー論文であるRavasi and Stigliani (2012) と Luchs et al. (2016) を概観した結果、両者には共通する部分もあるが、異なる部分も見受けられることがわかる。そこで、次項 で述べる手順にしたがい、市場成果に関する製品デザイン分野の実証研究を抽出した後、本レビュー研究の 範囲を明らかにする。 2.3. 方法論 前述の通り、本研究は実証研究のみをレビュー対象とした。対象とする既存研究の収集にあたっては、 以下の三つの方法を併用した。 第一の方法として、既存レビュー論文で紹介されている研究のうち、実証研究のみを抽出した。ただし、 ひとつひとつの既存論文を精査するため、全てのレビュー論文を扱うことは時間的に現実的でない。また、 多くの場合、レビュー論文間で扱っている既存論文は重複している。そこで、複数の既存レビュー論文を比 較し、今回の抽出に用いるレビュー論文をひとつ選択した。
前述の通り、製品デザイン分野の主要レビュー論文には Ravasi and Stigliani (2012)、Luchs and Swan (2011)、その後続研究である Luchs et al. (2016) の三つが存在する。表 3 は各研究の探索方法を比較したも
図2 製品デザイン研究の概観②
のである。
三つのレビュー論文のうち、検索対象とした既存論文の期間が長く、検索範囲が包括的である (マーケ ティング研究に限定していない) ことから、Ravasi and Stigliani (2012) を対象レビュー論文とした。そして 同論文で「市場成果に関する研究 (Design Results)」に分類されている 52 本の既存論文および文献のうち、 入手可能な46 本をひとつひとつ精読し、市場成果を目的変数とした実証研究を抽出した。この結果、22 本 の実証研究が本論文のレビュー対象となった。
このRavasi and Stigliani (2012) では、「市場成果に関する研究」の中で、製品デザインとパフォーマンス (Design and Performance) に関して 22 本の既存研究が紹介されているが、サンプル数の少ないものや目的変 数がやや異なるものを除くと、実証研究が7 本しか含まれていなかったことはやや驚くべきことであった。 近年、製品デザイン分野の実証研究は特に増加しており、本レビュー論文では対象となっていない可能性が ある。 そこで、第二の方法として、学術論文データベース「Web of Science」を用いた探索を行った。特に最近 時の製品デザイン研究を網羅するためである。 検索条件として、以下を用いた。 • 論文発表期間:1980 年~2016 年
• キーワード:Product Design, Product Appearance, Product Aesthetics をタイトルに含む • 被引用回数:5 回以上
検索にあたっては、対象レビュー論文としたRavasi and Stigliani (2012) の Design Result 領域 46 本の論文 タイトルにおいて「製品デザイン」の意味で使われている三つの単語を検索キーワードとして用いた。この 検索で得られた論文のうち、第一の方法で既に抽出されていた論文との重複を除き、19 本の実証論文が新 たにレビュー対象として追加された。
第三の方法として、Ravasi and Stigliani (2012) の探索と同様に、データベースでは検索されなかった論文 表3 主要レビュー論文の探索の概要
誌に発表されていた論文タイトルを確認し、実証研究のみを追加した。具体的には、四つのデザインジャー ナル3 と日本語による文献が検索対象から除外されていた。この検討から、製品デザインに関する 6 本の実 証分析が追加された。
なお、これらレビュー対象となった実証論文には、先行研究となった初期の理論および事例研究がある。 そこで、Ravasi and Stigliani (2012) で取り上げられている 80 年代~90 年代の論文および文献 11 本を主要な 文献として、合わせて整理を行なった (初期の製品デザイン研究については Appendix 1 を参照)。 以上三つの探索に近年の理論・事例研究を補足し、レビュー対象論文は60 本となった。内訳はレビュー 対象として取り上げた実証研究が41 本、補足的に取り上げた理論研究・事例研究・初期の研究が 19 本であ る。初期の研究は附表 2(a)(b)に示した通り、若干の実証分析を含むが大半が理論研究あるいは事例研究で ある。今回取り上げた研究は、タイトル・掲載紙・論点・調査方法・目的変数・独立変数および制御変数・ 主な発見物を整理し、本論文の附表1~13 にまとめた。 レビュー対象とした実証論文のうち、「企業が得る成果」と「消費者の反応」に該当する論文の領域と出 版年を示したものが図3 である4 (対象は 38 論文で重複カウントあり)。 図3 より、特に 2010 年以降に実証論文が増加していることがわかる。製品デザイン分野の実証論文は市 場成果を製品単位で測定したものがほとんどであり、企業単位の市場成果を測定した実証分析は少ない。ま た、製品単位の実証論文は、その関心により細分化しており、製品デザインの新奇性や典型性に関するもの などがあげられる。 2.4. 本研究の範囲
ここで、主要な先行サーベイ研究であるRavasi and Stigliani (2012) と Luchs et al. (2016) の理論枠組みを
3 Ravasi and Stigiliani (2012) と同様、Design Management Review, Design Management Journal, Design Issues, Design Studies
を対象とした。
4 各領域の論文は次のとおり。ただし番号は附表 1~13 の論文番号。企業成果は 16, 17, 18, 19, 20, 42, 48、製品成果は 21,
23, 24, 28, 31, 33, 49, 50, 51、消費者の評価と反応は 22, 24, 25, 26, 27, 29, 30, 32, 33, 34, 35, 36, 37, 38, 39, 40, 41, 43, 45, 44、
購買後の消費者評価は46, 47。
整合的に解釈できるように対応付けを行う。その上で、前項で抽出した実証研究がカバーする領域を本研究 の範囲として図示したものが図4 である。
まず、主要なレビュー論文であるRavasi and Stigliani (2012) と Luchs et al. (2016) では、対象とする領域 に異なる部分もあるが、共通している部分も多い。
両者の違いは、Ravasi and Stigliani (2012) が製品デザイン活動そのものやイノベーションに関心があるの に対して、Luchs et al. (2016) は製品デザインによるマーケティングを中心に、より広い文脈の影響に関心 があるためであると考えられる。また、Ravasi and Stigliani (2012) は、部品共通化やモジュラー化などのオ ペレーション効率に関する議論を市場成果に分類しているが、Luchs et al. (2016) では製品デザインプロセ スに分類している。5
一方、共通点は、製品デザインプロセスから企業が得る成果へのメカニズムである。ただし、若干の違 いもある。Ravasi and Stigliani (2012) は、製品デザインプロセスをより詳細に考えており、製品デザイン活 動と製品デザイン選択から構成されるとしている。 次に、2.3 項「方法論」にもとづいて本研究が抽出した実証分析の範囲が破線である。本研究が対象とす る「市場成果に関する製品デザインの実証研究」は、既存のレビュー論文がカバーする領域よりも狭い範囲 に限定されていることがわかる。特に、今回の方法論で選択した実証研究の中には、戦略的文脈と市場成果 を直接的に扱った分析が見られなかった。 5 本稿では、オペレーション効率に関する議論は製品デザインプロセスに分類した。 図4 本レビュー論文で再整理した理論枠組みと本研究の範囲
注) a:Ravasi and Stigliani (2012) の範囲 / b:Luchs et al. (2016) の範囲 / - - 破線:本研究の範囲 出所) Ravasi and Stigliani (2012), Luchs et al. (2016) をもとに作成
分析単位について 次章より、各領域でどのような実証研究が行われたのかの詳細を紹介する。図 4 の通り、市場成果は、 (1) 利益率や株価などの「企業の成果」、(2) 製品の売上や伸び率などの「製品の成果」、(3) 好みやイメー ジ、購入意向などの「消費者の評価や選択」、(4) 再購入意向や満足度などの「購入後の消費者評価」の 4 項目に分類される。しかし、今回抽出した実証研究の中には、複数の市場成果を横断的に1 本の論文で分析 しているものもある。そこで、文献整理にあたっては分析の単位に着眼した。例えば、Landwehr, Wentzel and Herrmann (2013) は、実験 1 で消費者の好みを、実験 2 で販売台数を目的変数としているが、ともに分 析単位は「製品」であるといった具合である。 この視点で本研究の対象論文を整理すると、分析単位は「企業」と「製品」に大別される。ただし、内 容を精査していくと、近年の研究はより精緻化され、「(企業内の) デザイン組織」を対象にした研究群があ る。それらの主たる関心は、デザイン組織のマネジメントと市場成果の関係である。したがって、本研究は この三つの分析単位に基づき、既存の実証研究のレビューを行う。
3. 製品デザインが市場成果に与える影響に関する実証研究
3.1. 企業単位での分析 (附表 3(a)(b)) デザインを重視する企業とは、デザインに関する様々な経営資源に積極的かつ戦略的に投資をする企業 と捉えることが出来る。デザインへの投資において問題となるのは、投資対効果 (ROI) である。特に、生 産設備などへの影響が大きい製造業の場合、デザインへの投資によって期待される売上あるいは利益の増加 と必要な支出のバランスが重要になる。そのため、デザインと企業の財務パフォーマンスに対する関係性を 明らかにすることが求められている。Gemser and Leenders (2001) は、オランダの家庭用家具と精密機器産業を対象に、デザインへの投資の多 寡で企業を2 群に分類、利益や利益成長率などの企業パフォーマンスへの影響を分析した。この結果、デザ インへの積極的な投資は財務パフォーマンスに正の効果をもたらすこと、さらにデザインの差別化による効 果が業界の環境や成熟度の影響を受けることを明らかにした。具体的には、デザインへの投資が一般的では ない精密機器業界においてはデザインの差別化戦略は有効だが、デザインへの投資が一般化している家具業 界ではデザインへの投資と企業パフォーマンスの関係は見出せないとした。Ulrich and Eppinger (1995) が主 張するように、工業デザインの役割が技術の成熟度によって異なることを定量的に証明したと言える。ただ し、この研究は対象とした業界が二つのみで、サンプルとした企業数も 47 と十分とは言えない点に課題が 残った。 デザインを重視する企業の株式市場でのパフォーマンスについて分析を行ったのがDesign Council (2004) である。1994 年から 2003 年までの FTSE1006 を比較した結果、様々な産業セクターから選んだデザイン重 視企業グループ (63 社が含まれる) は、200%近く株価指数が優れていることを明らかにした。本研究は指 数の比較分析のため、両者の関係が統計的に有意かどうかは明らかではないが、産業分野を超え、また中長 期においてデザインが企業の財務評価にも影響を及ぼす可能性を示したと言える。 6 英国ロンドン証券取引所に上場する時価総額上位 100 銘柄で構成される株価指数。1983 年 12 月 31 日の価格を基準値 1,000 として時価総額加重平均で算出される。
株式市場に加え、利益率・ROA・営業キャッシュフローに着眼したのは Hertenstein, Platt, and Veryzer (2005)である。従来の研究はパフォーマンス評価の多くが企業アンケートによる自己申告である点が問題で あった。同研究はこの点を改善し、成果変数にSEC (米国証券取引委員会) に報告された 7 年間の財務デー タを用いた。家具や自動車、アパレルなど九つの業種の企業について、デザインのエキスパート138 名の評 価をもとに二群 (high design effectiveness group/low design effectiveness group) に分類して比較を行った結果、 工業デザインへの投資は株式市場での高いリターンを生むだけでなく、高い ROS と ROA を生み出してい ることを統計的に明らかにしたのである。二次データを用い、産業横断的にデザインの効果を示した点で本 研究の貢献は大きい。なお、同論文によると、工業デザインが企業の収益性に影響を与えることが示唆され た一方で、工業デザインへの投資と販売量の増加の間には有意差が発見されなかったことから、売上高の増 加に対する影響は認められないとしている。 製品デザインと財務パフォーマンスに関するGuo (2010) の研究は、地域を拡大して分析を行っている。 北米・欧州・アジア・新興国において、インターナショナル・デザイン・エクセレンス賞 (IDEA) などの 国際的な三つのデザイン賞を受賞した577 の企業 (winner) を処置群 (=分析対象企業) とし、ランダムに 選んだ 524 の企業 (non-winner) を統制群 (=比較対象のための企業) として分析を行った。各企業が属す る46 の産業について、デザイン特性を踏まえた三つのタイプ (high/middle/low design industries) を設定し、 企業情報データベースに登録された産業コードをもとに企業を分類、国の違いと合わせて制御しながら、総 資産回転率や総資産当期純利益率 (ROA)、売上高総利益率や成長率など六つの財務指標について重回帰分 析を行った。
Guo の研究の特徴は、会計処理や文化、経済状況などが異なる各国企業の異質性を踏まえるため、企業 を異質な部分集団に分類する潜在クラス回帰モデル (latent class regression) を用いたことである。六つの目 的変数それぞれについて最適なクラス数を設定して分析を行った結果、効果的なデザインは財務指標にプラ スの影響を与えることを明らかにした。また、効果的なデザインと産業特性に関する交互作用がセグメント ごとに異なることも示している。中でも、総資本回転率および売上高利益率についてはセグメントを問わず 正の影響を与えること、家電やテキスタイルなどのデザインが重視されているセグメントでは良いデザイン による財務パフォーマンスへの影響が僅かであることが国や地域を超えて示唆されたことは大きい。後者に ついては、Gemser and Leenders (2001) の先行研究における考察を裏付ける結果とも言える。
最近の興味深い研究として、Rubera and Droge (2013) がある。デザインイノベーションと技術イノベー ションのどちらが企業パフォーマンスに影響を与えるかをテーマに、業績指標 (成果変数) として売上高お よびトービンの q を設定した。7 本研究の特徴的な点は、企業ごとのブランド戦略の違いをモデレーティン グ効果として分析したことである。デザインイノベーションをアメリカのデザイン特許から、技術イノベー ションを特許数・引用数・価値の償却からそれぞれ指標化し、家電業界の大手200 社を対象にパネルデータ 分析を行った。その結果、デザインイノベーションが業績に与える効果はブランド戦略の違いによって異な ることを明らかにした。デザインイノベーションの効果はコーポレートブランド戦略を採った際にプラスに 有意であり、売上およびトービンのq のどちらにも影響を与えている。一方、コーポレートブランド以外の 7 トービンの q は次の式で定義される。トービンの q = (株式の時価総額 + 負債の時価総額) / 保有資産の時価総額 これは、企業の事業活動の時価評価額が保有資産の時価評価額よりも大きいか小さいかを表す指標である。トービンの q が 1 より大きければ、保有資産よりも事業活動の価値への評価が大きいことを示す。逆にトービンの q が 1 より小 さければ、保有資産よりも事業活動の価値への評価が小さいことを示す
戦略 (ハウスブランド戦略および混合ブランド戦略) を採用した場合、デザインイノベーションの効果は売 上およびトービンのq ともに有意ではなかった。企業戦略の違いにより、デザインイノベーションが市場成 果に与える影響が異なる可能性を示した点で、本研究の貢献は大きい。 企業単位の分析を行った既存研究の結果をまとめると、製品デザインが企業の財務指標や業績指標にプ ラスの効果をもたらす事が支持されている。また、パネルデータ等を用いた分析から、その効果は一定期間 において有効である可能性が示されている。ただし、製品デザインの財務指標に対する影響は、産業特性や 技術特性 (技術の成熟度合いなど)、そして企業戦略によって異なることが報告されている。 3.2. 製品単位での分析 製品デザインの市場成果への影響 (附表 4) 製品デザインと市場成果の関係を考える上で最も直接的な関心は、デザインが製品それ自体にどのよう な利益をもたらすのかという点であろう。
Roy and Potter (1993) は、イギリスにおいて、デザインの専門家を活用した 221 の製品プロジェクト (中 小企業) についてインタビュー調査を行った。そのうち、コストや売上、マージンが量的あるいは質的に得 られた91 のデザインプロジェクトの分析をした結果、約 2/3 が利益を出していることを明らかにした。中 でも、パッケージデザインに関するプロジェクトは 94%が利益を出しており、製品デザインのプロジェク トに比べて投資回収にかかる期間が短いことを発見した。また、助成金を得たプロジェクトの 28%が、新 規あるいは改良されたデザインによって海外の新市場に参入できたとし、輸出への好影響も示唆した。
Marsili and Salter (2006) は、オランダの製造業を対象に、デザインへの投資が製品の成果にどう影響する のかを分析した。本研究の特徴は、(1) 当該企業において初めての技術を用いた製品、(2)これまで市場に ない技術を用いた製品、(3) 既存製品の改良の三つに分類し、それぞれの売上についてトービットモデルに よる重回帰分析を行ったことである。この結果、(1)および(2)のケースの売上について、デザイン投資 (売 上高対工業デザイン支出の比率) との間に統計的有意の関係があることを明らかにした。 この研究では産業横断的にサンプルが取られているが、産業ごとの生産性の違い等をコントロールして おり、それでもなお製品戦略の違いによってデザイン投資が売上に与える影響が異なることを定量的に示し た点に貢献がある。なお、研究開発投資・マーケティング投資・設備投資について、デザイン投資との交互 作用も分析しているが、(1)(2)(3)の各パターンの大半で有意な関係が見いだされず、唯一見られた関係性 も相関係数が負となった点が興味深い。同論文にはこの理由についての考察がなく、今後のさらなる研究が 求められる。 では、具体的にどのような製品デザインが市場成果につながるのであろうか。製品デザインには多様な 側面があり (Hertenstein, Platt, & Veryzer, 2013)、消費者の反応にもさまざまな要因が影響するため (Bloch, 1995)、それら全てを包含してこの点を考えることは容易ではない。しかし近年、製品の外観面に絞り込む ことで、具体的な製品デザインのありようと市場成果との関係性を明らかにする研究が試みられている。
Landwehr, McGill, and Herrmann (2011) は、自動車と携帯電話を対象にした研究から、製品デザインの擬 人化の有効性を明らかにした。まず、一般に人間の顔のように認識される自動車のフロント部について、 ヘッドライトとグリルを変形させて「幸せそうな (happy) 顔」と「怒った (angry) 顔」をそれぞれ 16 車 種で制作、それらと消費者の好み、およびドイツ市場での販売台数との関係性を調査した。また、図5 は、 携帯電話のスイッチ類を人間の顔に見立てて変形させ、146 人の消費者の好みとの関係性を分析した結果で
ある。価格やブランドイメージ、セグメントを制御して回帰分析を行なった結果、好みと販売台数のどちら に対しても、上向きの (upturned) グリルと斜めの (slanted) ヘッドライドの組み合わせが最も有効である ことを明らかにした。
デザインの複雑さ (complexity) と対称性 (symmetry) に着眼したのは Creusen, Veryzer, and Schoormans (2010) である。複雑さと対称性の異なる八つのビデオデッキ (ブランド名は架空の VCR に統一) の写真 を用い、知覚される製品デザインの価値 (美感、機能性、品質、使いやすさの四つ) と消費者の選好の関係 性を回帰分析によって調査した。この結果、(1) 視覚的な複雑さが少なく、対称性が高い製品が好まれる、 (2) 視覚的な複雑さは四つの製品価値の全てに影響を及ぼす一方、対称性は使い勝手にのみ影響を与える、 (3) 複雑さと対称性の影響は、消費者が重要とする価値によって異なる (例えば、美感が重要な場合、消費 者はデザインが複雑ではない製品を好むが、機能性が重要な場合は、複雑な製品が好ましい) 等を明らかに した。
Hoegg and Alba (2011) は、製品デザインから知覚される機能的パフォーマンスが、客観的な情報 (ここ ではエキスパートのレビュー) との関係で選好にどのように影響するのかを統計的に分析した。ランニング シューズやスピーカーなどについて、二つの写真 (視覚的に良い・悪い) と二つのエキスパートレビュー (良いコメント・悪いコメント) を組み替えた実験の結果、製品デザインは機能的な性能に関する印象を作 り出すこと、さらにその印象は客観的な情報に基づく判断を変えうる可能性を示した。そのため、特定の機 能にフォーカスした製品開発を行う場合は、その機能を視覚的に伝える製品デザインとマーケティングに集 中すべきことを主張した。
Kreuzbauer and Malter (2005) は、オフロードおよびオンロードの二輪車の外観を単純化したイラストを用 いて比較実験を行い、製品の特徴 (シンボル) として知覚される主要なデザイン要素が、消費者のカテゴリ 認知に影響を与える可能性を示唆した。ただし、この分析は二輪車に関する知識の高い消費者を対象に行 なっている等の限界もある。
図5 形状を操作した携帯電話と好みの判断の関係性
こうした研究は製品デザインの外観面に焦点を当てているが、製品全体のコンセプトや方向性に影響を 与える製品デザイン研究も見られる。その代表的な論点が「新奇性」と「典型性」である。
デザインの新奇性 (附表 5(a)(b))
製品開発において、製品の新奇性は重要な意味を持つ。新奇性について、技術的な側面に着目した研究 は早くからなされたが、製品デザインとの関係における研究は十分ではなかった。
この点に関する代表的な実証研究がTalke, Salomo, Wieringa, and Lutz (2009) である。ドイツの自動車市場 を対象に、1978 年から 2006 年までに発売された 157 の乗用車について、デザインの新奇性 (design newness) が製品の売上に与える影響を分析した。この研究では、新奇性を「競合製品との外観的な特性に おける視覚的な共通の程度」と捉え、相対評価によって測定している。具体的には、対象車種の外観 (visual appearance) について、背景やボディカラーの影響を除いた白黒写真を時系列かつセグメント毎に貼 り出し、各車種が発売した時点での新奇性を免許保有者50 人に 7 段階で評価させ、その平均値を採用した。 分析の結果、デザインの新奇性が製品の売上に正の影響を与えることが明らかになった。本研究の特徴 として、製品ライフサイクルにおいてデザインの新奇性の影響力がどのように変化するのかを調査した点が 挙げられる。図 6 (左のグラフ) は、デビューからの時間の経過とデザインの新奇性が売上に与える効果の 関係を表している。ここから、デザインの新奇性が売上に与える影響力はライフサイクルを通じて変化が少 ないこと、また最初の4.5 年においては (90%信頼区間を踏まえても) プラスの効果が継続することが示さ れた。 この研究では、デザインの新奇性と技術の新奇性の効果の比較についても検証を行なっている。技術の 原理的な新奇性や自動車全体の技術革新の度合い等をもとに、専門家 40 名の評価から算出した技術的新奇 性 (technical newness) について、デビュー後の時間経過と製品売上に対する効果との関係を表したのが図 3 (右のグラフ) である。製品デザインの新奇性と異なり、4 年前後でピークを迎え、減少に転じることが示 された。このように、製品ライフサイクルにおいて、デザインの新奇性と技術的新奇性が異なる効果のパ 図6 デザインの新奇性と技術的新奇性が製品の売上に与える効果 注) 点線は 90%信頼区間、破線は 95%信頼区間を示す 出所) Talke et al. (2009, p. 611)
ターンを持つことを示した点が本研究の大きな貢献である。なお、デザインの新奇性と技術的新奇性の交互 作用が製品の売上に影響を与えるという仮説も検証されたが、統計的には支持されなかった。
新奇性と時間の経過に関連して、接触回数の議論がある。Bloch (1995) は、製品形状に対する消費者の 反応についての理論モデルを提示したが、そこでは接触回数が消費者の心理あるいは行動に直接的に影響す るとは言及されていない。この点、アパレル製品を対象にしたCox and Cox (2002) の実証研究では、接触 を繰り返すことで消費者の好みは変化すること、また、デザインの視覚的な複雑さの程度によって、接触回 数と好みの関係が異なることを明らかにしている。 こうした研究から、時間の経過や露出等による消費者の「慣れ」や「飽き」、あるいは競合の新製品投入 による相対的な新奇性の低下等は一様なものではなく、参入市場の違いやデザイン性によっても異なる可能 性が示唆されよう。 近年、デザインの新奇性とその影響については、消費者調査をもとに、さらなる研究が進んでいる。 Mugge and Schoormans (2012) は、洗濯機と一眼レフを題材に、典型的な外観色と斬新な外観色を比較した 結果、新奇性の程度が性能面における消費者の知覚品質にも正の影響を及ぼすことを明らかにした。Rubera (2015) は、アメリカで販売された自動車ならびに二輪車に関する定量分析から、デザインの革新性 (およ びデザインの革新性と技術の革新性の交互作用) は初期の販売こそ低減させるものの、販売の成長率を増加 させることを示した。 秋池・勝又 (2016) は、電気自動車を対象にした消費者調査を行い、購買行動に影響を与えるデザイン の新奇性には「機能喚起新奇性」と「情緒的新奇性」という下位の構成概念が考えうることを明らかにした。 本研究の特徴は、新奇性がもたらす影響について消費者の主観的知識の違いを分析に含んだことである。こ の結果、使いやすさや多機能などの機能性の良さを喚起させる「機能喚起新奇性」は購入意向に常に有効で ある一方、斬新さや独創的などの情緒に訴える「情緒的新奇性」が与える影響は消費者知識の多寡によって 異なる可能性が提示された。 デザインの典型性 (附表 6) Talke et al. (2009) らは、デザインの新奇性が市場成果に与える影響を論じた。一方、消費者行動研究を 中心に、デザインの典型性 (design typicality) が消費者の反応にどのような影響を与えるのかについての議 論がある。 デザインの典型性とは、その製品がカテゴリを代表している程度であり、一般的に想定されるそのカテ ゴリの製品形状に対する歪みの程度で測定される。消費者は典型性をもつ製品に好意的に反応するという研 究はこれまでも為されてきた (Veryzer & Hutchinson, 1998)。Kumar and Garg (2010) は、製品の美感と顧客 が感じる心地よさの関係において、典型性が強い調整変数 (moderator) になることを示している。しかし、 限られた富裕層が購入するような奢侈品には典型性がないように、どのような状況においても消費者が典型 性に好意を抱くわけではない。 この典型性に関する最近の実証研究が Landwehr et al. (2013) である。この研究はデザインの典型性に関 する三つのスタディから構成されているが、共通するテーマは、デザインの典型性と露出 (exposure) の関 係性である。既存研究がデザインを一度見た後の消費者の反応を計測しているのに対し、本研究は消費者が 意思決定前に製品に触れた回数を露出度と定義し、この露出度がモデレーティング効果として作用している 可能性を仮説検証した点に新規性がある。
デザインの典型性の測定にあたり、いくつかの方法で典型的なデザインが作成された。例えば、イメー ジモーフィングという手法を用い、16 のコンパクトカーと 12 の上級車の特徴をそれぞれ「ブレンド」し、 二つの典型的なフロントフェイスを作成した。そして、この典型的な顔を基準に、調査対象となるクルマの 顔の特徴的な 50 の点についてユークリッド距離を合計して典型性の指標 (典型性類似スコア:prototype similarity score) を算出、z スコアで標準化した。このような三つの実験から明らかになった主な点は以下の 通りである。 第一に、デザインの好みが露出とデザインの典型性に依存している点である。具体的には、露出 (=接 触頻度) が少ない場合は典型的なデザインが好まれがちな一方、露出が多い場合は非典型的なデザインが好 まれがちであることを示した。 第二に、デザインの典型性と実際の販売に関する時間的なダイナミクスが異なることを示した点である。 図7 は、ドイツの自動車市場における販売実績と典型性の関係を LMM (Linear Mixed Model:線形混合効果 モデル) で時系列推定した結果を示している。ここから、非典型的なデザイン (low typicality) のクルマが 販売ピークに達するまでの時間は典型的なデザイン (high typicality) に比べて長いこと、また非典型的なデ ザインはピーク後の減衰率が緩やかであり、典型的なデザインよりも長期的に成功する可能性があることが 示唆された (図 7)。 第3 に、情報処理の流暢性 (processing fluency) が消費者の好みに影響している可能性を示した点である。 先行研究を踏まえ、情報処理の流暢性が影響を受けるとされる「親しみやすさ」の程度を測定し、媒介変数 として分析を行った結果、(1) 露出が少ない場合、デザインの典型・非典型を問わず、流暢性が消費者の好 みを引き出すこと、(2) 露出が多い場合、流暢性が消費者の好みに与える影響が非典型的なデザインにおい てより顕著になることを示した。 また、従来研究においては、他に先駆けた製品によりカテゴリにおける代表的なデザイン (すなわち典 型的) という消費者認知を獲得すると、その優位性は長期的に競争力に貢献すると考えられてきた。しかし、 Carson, Jewell, and Joiner (2007) は、典型性がもたらす優位 (prototypically advantage) がフォロワーのデザイ
図7 露出 (時間) とデザインの典型性の関係から
予測されるドイツの自動車市場の販売台数
ン変更 (模倣) のタイミングによって変化することを指摘しており、時系列的な効果やその条件が変わる可 能性が示された。
製品デザインの定量化と市場成果に関する研究 (附表 7)
Talke et al. (2009) の新奇性や Landwehr et al. (2013) の典型性の議論は、製品デザインの形状、なかでも 美感 (Aesthetics) に注目した研究群である。しかし、美感は製品デザインの一部に過ぎず、この点のみを 持って市場成果との関係を考えるのは不十分であろう。ここでは、美感も含む製品デザインの操作化を試み ながら市場成果との関係性を考察した研究を紹介する。
Bloch, Brunel, and Arnold (2003)は、製品の形状に対する消費者の反応を定量的に分析し、価値 (value)、 洞察力 (acumen)、そして反応 (response) という三つの構成概念を提示すると同時に、これらを構成する 11 項目から CPVA (Centrality of Visual Product Aesthetics) という尺度を提案した。その名の通り、美感 (aesthetics) の定量化の試みである。
Page and Herr (2002) は、二つの実験を通じ、製品デザインを構成する「美感」と「機能性」がブランド 力と相互作用して、消費者の好みと初期の品質評価にどのような影響を与えるかを調査した。この結果、 (1) 美感・機能性ともに、好みと品質評価に正の影響を与える、(2) ブランド力の如何に関わらず、美感や 機能性の向上は製品の好みにポジティブに影響する、(3) ブランドの強さは製品の好みに大きな影響は与え ない。一方、製品のデザイン上の手がかり (Cue) となる美感と機能性、あるいは美感とブランド力が矛盾 していると感じられる場合、ブランド力が製品の品質評価を助けることを明らかにした。この研究では、製 品デザインを美感と機能性から成る概念とし、ブランド力を別個の属性として分析しているが、この前提自 体は検証されていない。
「美感」と「機能性」がコンフリクトを及ぼす可能性について研究したのが Hoegg, Alba, and Dahl (2010) である。調理器具などを対象に、視覚による美感の情報 (写真) と言語による機能の情報 (製品レビュー) をミスマッチさせた三つの実験調査を行なった結果、(1) 美感と機能性のミスマッチを消費者が十分に認知 できる場合には、機能性によって美感の効果が打ち消される可能性がある、(2) ただし、視覚情報を先行し て提示すると、その美感の印象に機能性情報の解釈が引きずられる、(3) 消費者がブランドの情報を持つ場 合、強いブランド力は美感や機能性の判断を支配することを明らかにした。
Creusen and Schoormans (2005) は、既存研究をもとに、消費者に対する製品の外観 (product appearance) の役割を (1) 美感、(2) 象徴的、(3) 機能的、(4) 人間工学的、(5) 注目を集める、(6) カテゴリ分類の 六つに分類した。142 人の被験者に二つの留守番電話のデザインを見せ、選択理由を聞くインタビュー調査 を分類した結果、65%が美感の役割に言及し、次いで象徴的 (47.9%)、人間工学的 (35.9%) となった。こ の研究では、製品の外観の六つの役割は全てのコメントの分類に十分であるとされたが、分類方法が定量的 ではない点に問題が残った。
Homburg et al. (2015) は、製品デザインには「美感 (aesthetics)」「機能性 (functionality)」そして「象徴 性 (symbolism)」という三つの次元があるという仮説を大規模な消費者調査で検証するとともに、それらが 消費者の反応にどのような影響を与えるのかを分析した。機能性とは「(目的を満たす) 製品の能力に対す る消費者の認識」であり、象徴性とは「(製品の) 視覚的な要素に基づいた、自己と他者との間のイメージ に関する知覚的なメッセージ」であると定義されている。前者は、実際の使用または消費の前に“知覚した” 機能の評価であり、後者は、個人の価値観の表現や特定の場所・時間の連想などを意味している。市場成果
の目的変数として「購入意向 (purchase intention)」「口コミ (words of mouth)」「ブランドへの態度 (brand attitude) を設定し、製品デザインの 3 次元それぞれの影響について、以下の方法で検証した。 まず、顧客インタビューと既存文献から製品デザインの評価を29 項目に分類、アメリカ人 6,418 人への 質問票調査と因子分析によって、9 因子に絞り込んだ (実験 1)。その後、判別的妥当性の検証と確証的因子 分析を行い、仮説とした三つの構成概念 (次元) と 9 因子の正当性を評価した。さらに、ヨーロッパの消費 者1,083 人および 583 人に追加調査を行い、文化的な違いを踏まえた妥当性を検証 (実験 2 および 3) した。 その上で、実験1 のサンプルをもとに、ブートストラップ法による構造方程式モデリングによって分析を行 なった。推定結果をまとめたものが図 8 である。事後的に、製品カテゴリの影響の有無および支払い意欲 (WTP: Willingness To Pay) に関する検証も行なっている。 分析結果から明らかになったことは以下の 5 点である。(1) 製品デザインの機能性および象徴性は、購 入意向に直接的に影響する。特に象徴性がもたらす直接効果は、機能性の3 倍以上である。(2) 美感の効果 はブランドへの態度によって媒介される。(3) 美感・機能性・象徴性すべてが口コミに直接的に影響すると 同時に、ブランドへの態度を通じて間接的にも正の影響を与える。(4) 三つの次元が与える効果は、製品カ テゴリが変わっても一貫している。(5) WTP についても、三つの次元すべてのパスで正に有意となる。
Bornemann, Schöler, and Homburg (2015) も、製品デザインが株式市場に与える影響を分析するにあたり、 製品デザインを「美感 (aesthetics)」「人間工学 (ergonomics)」「象徴性 (symbolism)」という三つの次元に 区分した。そして、2001 年 10 月~2009 年 1 月までに発表された 83 の自動車ならびに家電製品について、 220 人の消費者へのインタビュー調査から 3 次元の各変数を測定し、当該製品の外観が初めて公になったプ レスリリース後の株価が異常な反発 (abnormal return) を示していないか、イベントスタディによって調べ
図8 製品デザインがもたらす成果の分析
ている。産業、企業規模、ブランドの親しみやすさを制御変数として重回帰分析を行なった結果、「美感」 と「機能的な優位性」の交互作用が有意であることを発見した。さらに、機能的な優位性の程度を3 段階に 分けて美感への影響を分析した結果、美感が株主価値に与える影響は機能的優位性のレベルとともに増加す るが、高水準の機能的優位を持つ場合においてのみ効果があることを明らかにした。換言すれば、あるレベ ルの機能性が満たされている場合に限り、投資家は美感を評価するということになる。このことは、企業が デザイン重視戦略を取る場合に重要な示唆であろう。 その他、人間工学的な価値が株価に正の影響を与えていること、一方で象徴的価値 (および象徴的価値 と機能的な優位性の交互作用) は株価に負の影響を与えていることも明らかにした。特に後者の結果は興味 深い。この点につき、同論文では、特定の外観に内在する象徴的価値は個々人によって大きく異なるため、 あまりに個性的な商品は大衆市場では受容されにくい可能性を示唆している。つまり、投資家にしてみると 期待する市場成果が得られないことになり、株価に悪影響を及ぼすという考察がなされている。 これまで見てきたように、既存の製品デザイン研究は「形状」と「機能」という二つの側面を中心に深 まってきたが、定量分析により新たな構成概念が提案されたこと、それらと市場成果の関係性がプラスに働 くことが示唆された点が上述した研究の大きな貢献であろう。 パッケージデザインが市場成果に与える影響 (附表 8) 製品に対する印象を形成する上で重要となる要素のひとつがパッケージデザイン (package design) であ る。アップル社はパッケージデザインでも積極的にデザイン特許を取得していることで知られるが (日経デ ザイン, 2012)、製品の魅力を消費者に効果的に伝える最初の“外観”として、マーケティング研究を中心に パッケージデザインの重要性が主張されている。デザイン研究の初期においても、Berkowitz (1987) が、冷 凍食品 (トウモロコシ) の二種類のパッケージについて 288 人の女性にシーケンシャルモナディック法によ る比較調査と回帰分析を行い、自然な表現が一定の成功を収める可能性を示した。
Orth and Malkewitz (2008) は、好ましい消費者の反応を引き出す上で、パッケージデザインがどのように 影響するのかを実証的に分析した。ワインのラベルおよび香水の容器を用いた実験の結果、パッケージデザ イン全体 (holistic package design) が消費者の持つブランドイメージと関係していることを明らかにしたの である。例えば、消費者にエキサイティングなブランドという印象を与えるのは「コントラストのある」 パッケージデザイン、洗練されたブランドという印象を与えるのは「繊細で」「ナチュラルな」パッケージ デザインといった具合である。自社にとって好ましいブランドイメージの形成という点も企業における市場 成果であろう。Keller (2013) は、TVCM などに比べてパッケージデザインの変更が費用面で優位である点 を指摘しているが、具体的にどのようなデザインが良いかという示唆も含め、本研究は実務的にも貢献があ ると言える。
Reimann, Zaichkowsky, Neuhaus, Bender, and Weber (2010) は、パッケージデザインの影響として「反応時 間 (reaction time)」に着目した。美しいパッケージデザインは、よく知られたブランドの (標準的な) パッ ケージよりも消費者の選択時間が長くなるのではないかとの仮説を立てたのである。Web 上でパッケージ を見せ、「選択」ボタンを押すまでの反応速度を分析した結果、この仮説は統計的に有意となった。合わせ て、魅力的なパッケージをもつ未知のブランドは、標準化されたパッケージを持つ著名なブランドより価格 が高くても選択される可能性を示唆した。
製品デザインが顧客満足度に与える影響 (附表 9)
近年、ブランドおよびマーケティング研究において、経験価値の重要性が主張されている (Pine & Gilmore, 1999; Schmitt & Simonson, 1997)。なかでも、Schmitt and Simonson (1997) は、経験価値づくりにお いては美感 (aesthetics) を重視し、製品 (パッケージ) デザイン、コミュニケーション、空間デザインの戦 略的マネジメントが重要であると指摘した。
Srinivasan, Lilien, Rangaswamy, Pingitore, and Seldin (2012) は、製品デザインが顧客経験に与える影響を調 査するため、米国の自動車市場を対象に分析を行った。具体的には、製品が機能性 (functionality)、美感 (aesthetics)、そして意味 (meaning) の三つの要素8 で構成されるというフレームワークを提示し、潜在変 数とした各要素と顧客満足度との関係性を構造方程式モデリングによって調査した。 その結果、(1) 顧客セグメントによって各要素の影響度が異なること、(2) 最も大きな顧客セグメント (全体の 71%) では「機能性」「美感」「意味」の順で満足度に正に影響すること、(3) それ以外の顧客セグ メントでは「意味」が最も満足度に貢献することを明らかにした。この研究は単年 (2006 年) の分析であ り、時系列的な影響については明らかではないが、美感 (自動車においてはエクステリアおよびインテリア のデザイン) が与える影響が顧客によって異なるだけでなく、市場の多数派 (majority) の顧客満足に製品 デザインが影響することを示した。
製品デザインと購入後の満足度に関する調査はChitturi, Raghunathan, and Mahajan (2008) も行っている。 この研究では、製品デザインのもたらすベネフィットを情緒性 (hedonic) と実用性 (utilitarian) に分け、携 帯電話、ラップトップコンピュータ、自動車を対象に、感情およびロイヤルティに対する関係性を分析した。 構造方程式モデリングの結果、(1) 優れた情緒性を持つ製品は、顧客の喜びを高め、喜んだ顧客による口コ ミを生む、(2) 優れた実用性を持つ製品は顧客の満足度を高め、口コミや再購入意向に影響することを明ら かにした。 製品単位の既存研究をまとめると、製品デザインは、企業単位の分析でみたような財務指標以外にも、 さまざまな成果変数に影響を及ぼす。デザインは、製品の「新奇性」「典型性」や「美感」「機能性」「象徴 性」を通じて消費者に認知され、ブランドに対する態度に影響をあたえ、購入意向にプラスの影響を及ぼす。 このようなデザインの効果は、製品それ自体だけでなく、製品パッケージのデザインも有している。また、 購入意向だけでなく、顧客満足度に対しても製品デザインがプラスの影響を及ぼしていることが明らかに なった。 3.3. デザイン組織単位での分析 デザインマネジメントの組織成果・企業成果 (附表 10(a)(b),13) ここまで、製品デザインが市場成果に与える様々な影響について、近年の代表的な定量研究を取り上げ た。市場成果には企業の財務パフォーマンスから消費者の選好まで多様なものがあるが、条件や効果の差は あれ、製品デザインが何らかのプラスの影響を与える点についての異論は少ないことが明らかになった。で は、どのような組織マネジメントを行うと市場成果を高めるデザインが生まれるのであろうか。この項では、 デザイン組織とその組織マネジメントに関する分析を取り上げる。 製品デザイン研究の初期からデザインマネジメントに対する関心は高く、世界各国で多くの理論・事例 8 同論文における機能性とは燃費や加速性能・エアコン性能等の製品特性の因子であり、単なる使い勝手ではない。ま た意味は、エレガント・目立つ・信頼できる等の製品イメージをベースにした因子である。
研究が進められてきた (Gorb, 1986; Hargadon & Sutton, 1997; 菅野, 2012; Lorenz, 1990; 森永, 2010; Oakley, 1982; Ravasi & Lojacono, 2005; Utterback, Vedin, Alvarez, Ekman, Sanderson, Tether, & Verganti, 2006; Verganti, 2009)。近年は、事例研究に統計的手法を組み合わせた、よりロバストな研究も見られるようになっている (秋池, 吉岡, 2015; Obstfeld, 2005) 市場成果を目的変数におくデザインマネジメント研究の特徴は、デザインマネジメントがまずデザイン 組織の成果を向上させ、続いて、市場で企業が得る成果を向上させるというメカニズムを想定している点で ある。つまり、デザインマネジメントの効果を組織能力が媒介 (もしくは調整) して企業成果に影響を与え るという段階的なモデルである。そのため、扱う成果変数は組織成果、企業成果、もしくはその両方となっ ている。
デザインを含む開発組織の能力 (design capabilities) と市場成果の関係を分析したのが Swan, Kotabe, and Allred (2005) である。まず、文献調査と 10 名の役員へのデプスインタビュー等から、開発能力を (1) 機 能性、(2) 美感、(3) 技術、(4) 品質に分類した。84 名への質問票調査に基づいて、それぞれの合成変数 を作成し、市場パフォーマンスとの関係を回帰分析によって調査した。この結果、美感を生む能力 (aesthetic capability) に優れた組織と売上高成長率およびシェア伸び率との間に有意な関係が見出された。美 感を生む能力は、まさにデザイン組織を中心に培われる組織能力である。しかし、本研究が美感を生む能力 の測定に使用したのは (他の三つの能力と比べた際の) デザインに掛けた時間や投資額のみであり、優れた 美感を生む組織能力のためのマネジメントとして具体的に何をしたのかは明らかではない。
Hart and Service (1988) は、イギリスの製造業 369 社を対象にした質問票調査をもとに、デザインおよび 研究開発に関するトップマネジメントの方針が企業成果にどのような影響を与えるかを定量分析した。因子 分析によりトップの方針を 7 因子として回帰分析を行った結果、「社内のデザインスキルを高める」という コミットメントを発したトップのマネジメントが、新製品の売上や成長率、業界平均に対しての良いパ フォーマンスに繋がっていることを明らかにした。 Swink (2000) は、米国の製造業にランダムに質問票を送付して得た 136 社の有効回答を回帰分析した結 果、製品デザインに対する資源配分やコミットメントなどのトップマネジメントのサポートが財務パフォー マンスに正の影響をもたらすことを示した。一方で、技術的イノベーションの難易度が高い場合に限ると、 トップマネジメントの強すぎる支援は財務成果に負の影響をもたらす可能性を示唆した点は興味深い。ただ し、財務パフォーマンスは製品の利益に関する二つの質問回答をもとにした合成変数であり、回答者の立場 が役員から財務マネージャー、プロジェクトメンバーなど多岐にわたっている等の問題もある。 こうした研究は、デザイン重視というトップの方針や姿勢の重要性を示している。しかし、そうした方 針をどのように具体化するかについては明らかになっていない。このため、デザインマネジメントをより精 緻に概念化する研究が必要となる。
Dickson, Schneier, Lawrence, and Hytry (1995) は、急成長をする中小企業の CEO へ質問票調査を実施し、 因子分析から五つのデザインマネジメントスキルを導出した。具体的には、(1) コスト見積もりや CAD、 生産性などに関する特別なスキル (Specialized skills)、(2) 高品質で低コストの製品を素早く生み出すデザ インプロセス管理のスキル (Basic skills)、(3) デザインプロセスに顧客やサプライヤーを巻き込むスキル (Involving others)、(4) 部門横断型の組織編成など、変化を生み出すスキル (Organizational change)、(5) 競 合のイノベーションに気づき、素早く製品を投入するスキル (Innovation skills) である。