国際税務協力とエージェンシー関係
著者
大野 裕之
著者別名
Ohno Hiroyuki
雑誌名
経済論集
巻
26
号
1
ページ
1-14
発行年
2001-02
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00005393/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja東洋大学「経済論集J 26巻1・2合併号 2001年2月
国際税務協力とエージェンシー関係
大 野 裕 之
しはじめに 2.国際課税と税務協力の現状 3.モデル分析 4.国際課税制度に対する政策インプリケーション 5.まとめ1.はじめに
今日の世界は国際化の時代であるといわれて久しい。一層の国際化の進展が我々の経済生活を豊 かにすることは論を待たないが,それにより,今までになかった新たな問題が生じてくることもま た事実である。こうした問題には,国際犯罪や資金洗浄,武器・麻薬・有害物質の国境問移動,感 染症の拡散,環境破壊,国際金融システムの不安定化等々さまざまな政治・経済・社会問題が含ま れるが,課税の分野でもまた新たな課題が多く生まれている。例えば,よく知られているように, 居住地主義を採用する国の居住者たる投資家が,源泉地主義を採用する国で行った投資から得られ る収益には,両国が課税権を主張して二重課税の問題が生ずる。また,多国籍企業の活動が活発化 すれば,居住地国の異なる親・子会社やその他の関連企業の間で、移転価格問題が培加するかもしれ ない。さらに,国境を超えた資金移動は,不適切な程税回避行動や脱税を誘発するであろう。 こうした国際課税問題は.80年代以降の世界的な金融自由化の動きと. 90年代に入って始まった 「情報通信革命」によってより深刻化,複雑化しているが,この解決のためには,関係国間で,課 税制度の調整や政策協調,情報交換等の協力が重要となることは言うまでもない。二重課税を排除 するためには外国に支払った税額の控除や免除の制度が必要になるであろうし,移転価格に対する 公正な課税のためには,企業聞の取引価格に関して課税庁間の十分な情報交換が緊要である。また, 資金移動にともなう租税回避・脱税を防止するためには,資金提供国の課税庁が,資金受入国の課税庁や金融機関と連携することが不可欠となってくる。このような国際課税における調整・協力に 関しては,既に二国間や多国間の外交的な枠組みで検討が行われてきており,租税条約等で一応の 解決を見ている問題もある。しかし,今日の急速な投資・資金移動の拡大に伴う様々な種類の国外 源泉所得の急増にあたり,より一層の取り組みが求められている。それを受けて,例えば OECD は,金融機関がもっ顧客情報を課税庁が入手することを改善するための提言をまとめて,各国の課 税情報交換や協力の一層の円滑化を目指しているしl,わが国も参加する PATA(環太平洋税務長官 会議)や SGATAR(アジア税務長官会議)等の地域的なフォーラムでは,長官級の意見交換や専門家 レベルの実務協力も活発におこなっている。 一方,こうした租税協力にはさまざまな現実的な困難さが伴うことも深く認識されている。例え ば Tanzi(1995)は,各国聞の納税者権利に関する認識の相違や程税条約の適用範函が狭いこと等の 法的問題,課税情報の伝達方法や保存にかかる技術制約や言語等の問題,自国企業の競争力に関わ る情報は提供したくないという各国の政治的な思惑等,情報交換に伴う様々な障害をあげている20 こうした障害は,二重課税問題の解消を中途半端なものにしてしまっている。即ち,資本輸出の中 立性や公平性の観点から居住地主義が源泉地主義に優位すると考えられている3が,これが有効に 機能するためには国外源泉所得の十分な捕捉が前提となる。それには各国課税庁間の密接な協力関 係が緊要であるが,こうした様々な協力の障害は,居住地主義が各国で広く採用されることを妨げ, 二重課税問題の解消を事実上源泉地主義を優先する部分的な調整にとどめているのである九こう した状況を踏まえ.Tanzi(l995)は, “it seems naive to assume... that enhanced exchange of information among countries... is the instrument that will allow countries to cope with the exponential growth of foreign source incomes that accompanies the increasingly deeper integration ofthe world's economies." と結論付けている九 Tanzi(1995)の指摘する諸々の障害はすべて正しいが,そこに触れられていない重要なものひと つに課税庁間のインセンティヴの問題があると思われる。すなわち,条約等により各国間で税務協 力を取り決めたとしても,その履行を現実には十分に monitorできない。実際,各国聞の租税条約 の多くは,課税庁が情報交換などでお互いに協力することを規定している。しかし,外国に供与す I OECD(2000)参照。 2 Tanzi(1995). p78-88. 3居住地主義は投資に関し,源泉地主義は貯蓄に関して中立的であるが.租税弾力性は投資の方が貯蓄より高いと考えられる。 また,居住地主義は納税者ごとの課税が可能であるから,納税者のグローパルな所得に対して累進課税を適用することも 可能である. 4二重課税の調整方式としては.外国税額控除方式,外国税額損金算入方式,外国税額免除方式等が一般的であるが,前二 者はそれぞれ,源泉地図に納めた税額を居住地図への納税額から径除し,あるいは領金参入する方式であるから,源泉地 図の課税権が優先する。外国税額免除方式は,更に進んで,居住地主義にもとづく課税権を放棄するものである。 5 Tanzi(1995). p89. n L
国際税務協力とエージェンシ一関係 べき情報の多くは,事案の調査や特別の情報収集が必要であり,それには少なからぬ人的・財政的 負担を伴う。そのため,条約で「最大限の協力をする」義務を謡ったとしても,調査等を行うべき 条約当事国の税務当局が,その義務を常に履行するとは限らないというモラルハザードが生ずる可 能性がある。したがって,国際税務協力の将来を展望しまたその発展を図るためには,こうした課 税庁間のインセンティヴの問題とその背景にある戦略的行動を明示的に取り上げる必要があろう。 国際課税の理論研究は今日まで数多い。その中で各国政府聞の戦略的行動に焦点を当てた研究と しては.Bond and Sarnuelson(1989). Bovenberg and Gordon (1996). Razin and Sadka(1989). Razin and Yuen (1995)等がある。これらは,非協力ゲームの枠組みを使って,主として租税競争の分析 を行った研究であり,上述のような両国間の「協力関係」に潜むモラルハザードの誘因を明示的に 扱った研究ではない。一方,モラルハザードの研究に関しては.Miηlees(1971)の先駆的研究以来, 依頼人と代理人の間の関係(principal-agent関係)を分析する「ヱージェンシ一理論J のーっとして, 今日まで理論的な発展が著しい。応用研究も古典的な保険,医療,雇用契約の分野にとどまらず, 近 年 は 財 政 学 や 程 税 論 に お い て も 多 く 行 わ れ て き て い る 。 例 え ば .Marihuana and Ortuno -Ortin(1997). Reingnum and Wi1de (1985)等が課税の遵法(コンブライアンス)問題を.d'Aspremont and Gerard-Varet(1997)は政府間財政を.Hopenayn and Nicolini(1997)は失業保険の制度作りを, それぞれ principal-agent関係の枠組みで分析を行っているが,国際的な税務協力に関するものは今 日まで見られない。そこで本稿は,各国課税庁聞の「協力関係」を principal-agent関係として捉え て,インセンティヴ問題に根ざす国際税務協力の問題を分析する。すなわち,モラルハザードの誘 因が存在する状況下では,このような「協力関係」とその制度化としての協定・条約はどのような 形態をとることが望ましいかを探り,それを踏まえて,国際課税制度の現状に評価を加えることと する。 本稿の構成は以下の通りである。次節でまず,国際課税と税務協力の現状を概観する。続く第3 節では,税務調査協力の問題に標準的な principal-agentモデルを当てはめ,エージェンシ一理論の 含意を導き出す。第4節は,前節で得られた結果を受けて,現行制度の評価を行い,望ましい制度 設計の取り組みの方向を考察する。第5節は本稿のまとめであり,本稿の分析枠組みでは十分に取 り上げることのできなかった点に言及し,今後の研究を展望する。
2
.
国際課税と税務協力の現状
現在,国際的な投資から得られる資本所得に関しては,源泉地主義と居住地主義の異なった課税 原則が並存していることは良く知られている。源泉地主義は,自国内に源泉をもっ所得に対しては 所得を得る人の居住地に関わらず同ーの課税を行うという原則で,それに対して居住地主義は,自-3-国居住者の得る所得に対してはその源泉地を問わず同一に課税するという原則である。そのため, 居住地主義を採用する国の居住者が得る,源泉地主義を採用する国を源泉とする所得には,両国か らの二重課税に服することになる。こうした二重課税は,全ての国がどちらかの課税原則で統一す ることで解決される。居住地原則は中立性,公平性のいずれの基準からも源泉地主義に優位すると 考えられるから,理論上は前者で統一されれるのが最も望ましい解決策である。ところが,課税原 則の世界的統一は外交交渉上極めて困難であることから,各国は圏内法や租税条約により部分的な 調整にとどめており,しかもこれらはいずれも,源泉地主義を事実上優先する制度となっている。 この背景には国外源泉所得を十分には捕捉することは困難であるという執行上の問題がある。した がって,居住地主義を実効あらしめるためには,各国課税庁間で,所得の捕捉等に関して密接な協 力が必要になってくるのである。 こうした国際課税における課税庁間の税務協力の重要性は,古くから認識されている。所得と資 本に関する
1
9
7
7
年のOECD
モデル条約では,その2
6
条で締約国相互の情報交換を規定している。EC
も既に1
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7
7
年に,指令7
7
/
7
9
9
/
C
E
E
で直接税に関する相互協力を定めており,7
9
年には付加価 値税に関しても適用範囲を広げている。わが国の二国間条約では,例えば1
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5
5
年の相続・贈与税に 関する日米条約の6
条や1
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7
4
年の白米租税条約の2
6
条でも情報交換が語われている。8
0
年代以降, 世界的な金融の自由化の動きの中で投資や為替取引の規制が大幅に緩和された。加えて,9
0
年代に 入り情報通信技術が飛躍的に発展したこともあり,様々な租税回避の可能性が急速に高まった。こ れを受けて,各国は近年,こうした条約の適用範囲や協力の内容の改善に向けて税務協力体制を整 えている。OECD
では1
9
8
8
年に課税分野における相互執行援助に関する多国間条約を起草し,各国 の批准を待っている。そこでは単なる情報交換にとどまらず,必要書類の供与や徴収共助に関しで も規定を設けている。またOECD
は,銀行の機密と税務当局聞の情報交換に関する研究をあわせ て進めている。EU
においては,1
9
9
2
年に市場統合に向けた,直接税,間接税での執行協力に関す る指令が承認されている。わが国も,二国間の組税条約のネットワークを4
4
にまで広げ,金額ベー ス(類型額)で対外投資の80%
をカバーするまでに至っており,スイスを除く4
3
の租税条約で情報交 換規定を取り入れている。 しかしながら,こうした条約の規定は多分に「精神規定J的である。例えば,OECD
修正モデル 条約では「可能な限り広い範囲で」行われるべきとしており,また1
9
9
2
年のEC
指令でも,情報提 供の要請を受けた国の当局が「全ての必要な調査jを行わなくてはいけないとか, i可及的速やか に」関連情報を提供しなくてはいけない等規定しているものの,それを担保する特別な仕組みは作 られていない。一方,こうした規定は,既に入手している情報で不十分な場合には,要請を受けた 国の当局は特別な調査や捜査を行う必要があるものと考えられている。いうまでもなくこうした調 査や捜査には要請を受けた国側に相当程度の人的・財政的負担を強いるもので,特に今日,様々な 4国際税務協力とエージエンシ一関係 形態のデ1)ィバティブ取引等金融取引が非常に複雑化しているので,調査や捜査がますます難しく なっていることを考慮すれば,尚更である。その意味で,こうした規定は単なる「精神規定J
r
紳 士協定Jにとどまってしまう可能性は否定できない。モラルハザードの誘因が現実に存在し,こう した条約の規定を美辞麗句に終わらせてしまう危険が潜んでいるといえよう。そうならないために は,このような誘因を除去する適切な「インセンティヴ・メカニズムJが必要なのである。3
.
モデル分析
(1 )モラルハザードのエージェンシ一問題 本稿は,エージェンシ一理論に関する文献の標準的なモデルを用いる九即ち,依頼人は代理人 が行う「努力」に依存して確率的(stochastic)に決定される「結果Jを受領し,それにもとづいて代 理人への「報酬Jを決定する。「努力」は代理人へのコストを伴う。もちろん「結果Jは依頼人に とっても観測可能であるが,代理人の「努力」は同人の私的情報であり,依頼人には観測不能であ る。「代理契約」に先立つて,依頼人は代理人に対して.r
結果J にもとづいて「報酬jを決定する ルール,即ち「報酬体系」を提示し,代理人はそれを受けて,自己の効用を最大化するように, 「契約」を結ぶかいなか,結んだ場合に契約の実行にどの程度の「努力Jを払うかを決定する。代 理人も,こうした依頼人の行動を見越して,自己の効用を最大化するべく.r
報酬体系」を提示す るわけである。 「努力」はコストがともなうため,仮に「報酬」が「結果J に依存しすぎると,コストだけか かって「報酬」が大して得られないことが起こりえるので,代理人は「努力jを怠ったり,あるい はそもそも「契約」に参加しないかもしれない。したがって,代理人に十分な「努力」を払わせる には.r
結果」がどうであれ,ある程度の「報酬」を与えることが条件となる。一方.r
報酬」が 「結果」に余りに依存しない(例えば一定であったりすると)場合にもまた,代理人は「努力」を怠 り,結果的に十分な「結果」を上げられない可能性がある。そのため,ある程度は「報酬」を「結 果」に依存させる必要がある。ではいかなる「報酬体系」が最も望ましいか,これがモラルハザー ドのエージェンシー問題の中心的課題である。以下の議論は,こうしたロジックを国際税務協力に 適用するものである。 (2) モデルの設定 以下では,国際課税問題の典型例たる国際投資収益(資本所得)に対する課税を念頭において議論 6例えば.Salanie(1997)等参照。 5するに依頼人は投資家たる納税者の居住する国の課税庁,代理人は源泉地国課税庁であり,それ は居住地国課税庁から委託を受けて当該納税者が自国に源泉をもっ,居住国国内法で課税ベースと される所得に関して調査し報告を行う。したがって,代理人の選択する「努力Jはそうした源泉地 国課税庁の行う調査努力である。それには調査員を新たに雇い入れたり,その他の業務から配置換 えをしたりしなくてはならなくなるから,源泉地国課税庁は有形・無形のコストを被ることになる九 ここでは簡単化のために,源泉地国課税庁には,aおよび、bの 2つの調査努力が選択可能であり, それに伴うコストはc(
h
)
,h
=
a,b
, と表されるものとしよう九より厳密な調査にはより高いコ ストが伴うから,今c(b)>
c(a)と仮定すれば, bには高いレベルの調査努力(r
働くJ), aには 低いレベルの調査努力(r
怠るJ)が当てはまる。このような調査によって,当該納税義務者に新た な 所 得 が 見 つ か る な ど し て , 居 住 地 国 に は 追 加 的 な 税 収 Xi (i = 1, 2,…, n.ただし, Xi >Xiー1"i/i )がもたらされるであろう。この税収が「結果Jである。代理人が依頼人から受け取 る「報酬Jは,居住地国から源泉地国へもたらされる何らかの金銭的移転である。これは例えば, 両国間であらかじめ追加的税収の一定割合を源泉地国に譲渡するなどと約した場合,その移転税収 等などが考えられる。これをsで表すと,コストc
(
h
)
は源泉地国課税庁の効用u(S)を引き下げる から,調査努力を行ってsを得た場合の源泉地国課税庁の効用は,u
(
s
)
-
c
(
h
)
と表すことができる。いうまでもなく,u
(
s
)
はsに関する増加関数である。 さて,居住地国課税庁にもたらされる追加的な税収Xiは「努力 J水準,即ち源泉地国課税庁の 、 ‘ , ノ I ( 調査に依存して決定されるが それ以外の要因にも左右されるため 確定的 (deterministic)には決 定されない10。そこで,a,bそれぞれの水準の調査努力を行った場合,結果としてXiなる税収を居 住地国課税庁にもたらす確率を Pik(k = a,b)で表す。居住地国課税庁は,源泉地国課税庁の努力 水準h=a,bを観測できないが,それがもたらす税収はXiは無論観測可能であるから,それに基づ いて移転税収額sを決定することができる。よって,源泉地国課税庁への「報酬体系」は,税収移 転ルールSi= S(Xi)と表すことができる。 7しかしながら,以下の議論のエッセンスは,例えば移転価絡問題や単純な脱税事案のコンテクストにも,そのまま応用可能 である. 8 こうしたコストを金銭に換算することは,可能である。その場合(1)式は .U(Si -ai)のようにより一般的に表現するこ とができる.しかし本績では,数学的な tractability を確保する観点からも,コストはあえて金銭換算せずあくまでも効 用の減少という形で定義した。 9本稿では代理人の選択可能な努力を21こ限ったが.aはそのまま,代理人に与えられたb以外の選択可能な調査努力水準の 任意の1っとも解釈できるので,この仮定は何ら一般性を失うものではない. 10 こうしたそれ以外の要因としては,単なる偶然のほかに,納税者本人に脱税意図があるかいなか,あるとした場合にど れくらいの技巧を用いているか,さらには取引関連者,金融機関等からどれほどの協力を得られるかなど,事案ごとに 異なる要因を挙げることができる。-6-国際税務協力とヱージェンシ一関係 (3) 均衡解 さて,源泉地国課税庁は受け取る移転税収Siを所与として,自己の期待効用を最大化すべく努 力水準hを選択する。即ち
mE
Pzh14(S)-c(h)(
2
)
を 解 く 。 一 方 居 住 地 国 課 税 庁 は , 移 転 税 収 を 差 し 引 い た 後 の 純 額 の 税 収Xi-Siに依存し, V(Xi -Si)で表される自らの効用を最大化するべく . Si= S(Xi)を適当に決定する,即ち, maxヱ
p内
-Si) (3) なる最大化問題に取り組むのである。ここで,居住地国課税庁が,源泉地国課税庁をして「契約」 即ち租税条約・協定を締結し,そこに取り決められた「最大限の努力Jbを選択することを確保す るためには.Si=
S(XJの選択は.以下の参加条件(4)と誘因条件(5)を同時に満たすものでなくて はならない。 LPibU(Si)-c(b)三
ヱ
PiaU(Si)-C(α) (4)ヱ
Pi州
Si)-c(b)三
立
(5) ここで立は,代理人が契約に参加しない場合に他で得られる「報酬」であるが,ここでは,例え ば,源泉地国課税庁が条約を結ばない場合,当該居住地国の源泉所得調査に取られる税務人員を他 の税務業務に振り向けられた場合に上げることのできる税収,または,その税務人員を雇わないこ とによって出て行くことのなくなる出費等が当てはまる11。居住地国課税庁は,結局上記(4). (5) の2つを制約条件として. (3)の最大化を試みる,制約条件付最大化問題を解くことになる。その 結果,標準的なラグランジェ方程式を解くことにより, ' ( x i - s i ) 1 1一一一一
=μ+
川 lー ム │
U'(SJ1
PibJ を得る。ただし .jL. A.はそれぞれ条件式(5). (4)に対応するラグランジヱ乗数である。 (6) ここで,議論をより具体的に進めるため,居住地国課税庁,源泉地国課税庁の効用関数をともにCARA型のvonNeumann Morgenstem効用関数として特定しよう。即ち, v( w) = -e -r
,
w11最終節で言及するように,両国間の協力の双務性を取り入れた分析では,逆にこの源泉地国がこの居住地国の調査努力によ り得られる追加税収と考えることも可能であるが,この場合には両国間の複雑な戦略的インターアクションを明示的に取 り入れる必要がある。
-7-u(w) =-eーら である。この場合(6)は ~ n一円(Xj-Sj) ( _ '¥ 'IL _μ+ A
1
1
ーよ牛│ らeワ"j ¥ PibJ
(
7
)
のように改められるから, 仰[
-
1
j
(Xi-Si)+r2Si]
=
ム
│
μ
+
A
11ーム
11= Fi (8) 円I ¥ Pibハ
S i = - L x z + - L M =肘δ ω
円 + ら 円+r2 を得る。ただし 万= __
TiI_ Xi+
ーよー
logl川I
1ーム
1
1
1 j+r2 1j+らI
¥
Pib川 d=_I_logfム
l
1j+
r2l
れ j である。 (9)式の第2等号右辺の巧はiに依存するが dはしないから,それぞれ当該「報酬体系」の 「業績」比例部分と固定報酬部分を表している。この式がSiがXiの単調摺加関数を意味するか否 (10) ) 曹 E A I ' ' ' z 、 、 かは. (9)式に示すようにFiのiに関する性質によって決まり,そうであるためには. (8)より Pia/ Pib三MLRiが iに関する単純減少関数でなくてはならないことがわかる。これが単調尤度比 条件 (MLRC)であり,これが満たされるときにはSiがXiに関して単純増加する。即ち .r
報酬」た る移転税収が居住地国へもたらされる追加的税収の培加関数という「報酬体系jのもとで,最適契 約が成立することを意味する。 ここでこの MLRCの意味を考えてみたい。これはあるXiを得るのに「努力」をして得られる確 率と「努力」をしないで得られる確率の相対比が,xjが大きくなるにしたがって大きくなること を意味する。これは,本モデルのコンテクストでは,調査がより高い追加税収をもたらすためには 「努力 Jの比重が相対的に高まり,それ以外の要因,たとえば純然たる偶然の比重が下がっていく ということである。税務調査がより高い税収をもたらす場合は,往々にして,例えば複雑なディリ パティヴ等の金融取引が絡んでいたり,高度な所得隠しの手訟が用いられる等の困難なケースであ ろうから .r
結果」が「努力」によって規定される度合いが高まると考えるのは合理的であろう。 したがって,そうした状況を前提とする限り,移転税収を追加的税収の増加関数とする形で最適契 約は実行可能となる。 -8一国際税務協力とエージエンシ一関係 (4) 相対的リスク回避度 ここで
y
三ら/'iとしよう。これは,源泉地国と居住地国のリスク回避度の比である。すると, fJn
/
fJy
<
0
であるから,居住地固に対して源泉地国のリスク回避度が相対的に高まると,全ての 追加税収のもとで,譲渡税収における「業績比例」部分の割合は減少する。一方, f Jo
Iー = 一 一 ー マ(I+y-ylogy)
(12
)
fJy 'iy
(
l
+
y
)
L
は, y>Oの値が低いレンジでは,源泉地国の相対的リスク回避度が高まるにつれ固定報酬部分は 増加することを示唆する。したがって,任意のXiについて,源泉地国が居住地国に比してよりリス ク回避的になるほど,譲渡税収の「業績」比例部分が小さくなり固定報酬部分が大きくなる。これ はリスク回避度の高い源泉地国は,より確実に税収を確保したいとの欲求をもつであろうから,こ れは直観的である。ただし ,y>Oの健が高いレンジでは,源泉地国のリスク回避度がより高くな るとこの固定費部分もまた減少することになる。したがって, (12)は,源泉地国が居住地国に比し て大きくリスク回避的であるとすると,任意のXiについて , i報酬」たる移転税収は少なくすべし という結論にいたる。これは逆説的であるが,リスク回避度が極めて高い源泉地国の課税庁は,た とえわずかな「報酬」でも,それを得るために「努力Jを惜しまないから, i報酬Jは引き下げる ことが居住地国の合理的な戦略となる。ただし,各国のリスク回避度はそれほど異ならないであろ うから,このようなケースは例外的状況と見るべきであろう。 (5) i報酬体系Jの線形性 さて,(
9
)
式の「報酬体系」は一般に刊のXiに関する非線形関数である。この具体的な関数形は MLRi三 Pia/Pibの形状に依存することは, (8)と(9)より容易に理解できる。これがSi=
oxi +;J なる線形の「報酬体系Jとなるためには,μ=0
でかつMLRiがiに関して指数的に減少しなくて はならないことは,簡単な数式展開により確認することができる。いま仮に とおくと, となって, MLRi = 1-(eX ; FEZEL AtXI 円 log円=巧
+
logI.
!
i
_
A I 1 'i J -9一、
1 1 1 1 1 1 j ' ノ 今 J A OAU O I ' b+
¥ 1 1 1 1 1 1 s / ら 一 円 / f i l l ¥ 90 0 2 ι f a l l i -t、l
一 円+
列I
一 乃+
一
+
れ 川 ﹂ -れ 一 一 e d (13) を得るから, α=-円+1
'i+ら (14
)
β,= _ 1 _[ logr2-log 'i+logA
]
円+r2 (15) となる。 MLRiに関する上述の条件は,より大きな追加税収をもたらす調査の成否に占める「努力」の重 要性がただ単に高まっていくというだけではなく,指数的に高まっていくという状態を示している。 もちろんこのように指数関数で表されるのは,居住地・源泉地両国ともに効用関数を CARA型関 数として特定したからであるが,こうした「努力」の重要性が「結果」に関して逓増的に高まると いう状況は想定できなくはない。 ρ=0に関しては, μが(5)式に対応するラグランジエ乗数であ ることを想起すると,参加制約が non-bindingであることを意味していることがわかる。このこと は,税務協力規定を含む租税条約の締結そのものは,いわば「所与」である状況に対応するであろ う。各国は,組税条約にかぎらず条約一般を単一の理由のみではなく,多くの複合的な理由から政 治的に判断して締結することは少なくない120 したがって,この条件が自動的に満たされている状 況を想定することもまた,それほど不自然ではないかもしれない。いずれにしても,税収移転ルー ルが線形性を持つためには,こうしたより制約的な条件がクリアされなくてはならない。4
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国際課税制度に対する政策インプリケーション
(1 )現行制度の評価 さて,第3節で展開されたモデル分析の結果から,現行の国際投資課税制度を評価してみたい。 まず税務協力を規定した一般的な組税条約では,居住地国へもたらされる追加税収に依存して額が 決定される「報酬Jはおろか,何らの「報酬Jも存在しない。現行制度下では,納税者の所得であ る課税ベースに居住地国,源泉地国それぞれが独自の税率で課税するわけで,ここには,特段の 「報酬体系」があるわけではない。しかし,居住地国の明示的な要請にもとづくか否かに関わらず, 源泉地国課税庁の調査により新たな所得が見つかるなどし,その情報が居住者主義国にも伝われば, 12例えば,欧州統合がもたらす諸々の利益を考慮すれば,加盟各国は,税収確保の点からは必ずしも魅力がなくても,欧州の 一層の統合を推進するものとして租税条約を締結するかもしれない。 ハU ' E A国際税務協力とエージェンシ一関係 居住地国もその所得に適切に課税することで税収を得ることができる。したがって,このような現 行制度を,源泉地国の税収を移転税収,居住地国の税収を追加税収からその移転税収を除いた残余 として,上述のモデルの枠組みで解釈することは可能である。その場合,居住地国,源泉地国の税 率をそれぞれ可, ろとすると, 匹、 S:=ーーーニ一一-X: 可 +'2 (16) となり,線形の「報酬体系」が導き出される13 これは, (13)式で固定報酬部分が存在せず,すべ て「業績比例」である場合に対応する。これが成り立つためにはMLRjが特殊なパラメータ制約を 満足しなくてはならないから,こうした体系は一般に源泉地国の戦略的行動とは非整合的である。 仮に政治的な考慮から条約の締結がいわば「所与」と考えられ,参加制約が non-bindingな状況で あったとしても,何らの固定的報酬を与えられない源泉地国課税庁が,条約に語われている「最大 限の努力」義務を履行することは担保されない。 (9), (10), (11)式は, 1報酬」の構成は,居住地国と源泉地固とのリスク回避度に依存して決定 されるべきことを示唆していた。即ち,源泉地国が居住地固に比してよりリスク回避的であるほど, 「報酬」の総額は大きく,かつ「業績比例」部分を少なくし固定報酬部分を大きくすべしとするも のである。いま, (16)式の右辺に固定報酬部分が設けられて, (13)式で表されるような線形「報酬 体系Jが作られたものとしよう。この場合, (16)式と(14)式を比較すると, 可=(r2一I
/
t
i
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1)ら が得られる。これは,源泉地国の適用する税率を所与とした場合,居住地国は源泉地国のリスク回 避度に応じて自国の適用税率を決定するべきことを示唆する。これを前節のモデルの枠組で解釈す ると,源泉地国がよりリスク回避的であればあるほど,より高い税率を適用して, 1業績比例J部 分を担立盟主減らして固定報酬部分を培やすように「報酬j体系の構成を変更するということであ る。仮にリスク回避度が大きい国を「小国J,小さい国を「大国」とするならば,源泉地国が自国 に比して小国であればあるほど,居住地国は同じ課税ベースに高い税率を適用すべしということに なる。 いうまでもなく,現行制度下では居住地国が源泉地国の相対的大きさやリスク回避度に応じて, 適用税率を決定していることはない。確かに現行の二重課税調整方式は事実上源泉地国課税を優先 しているから,居住地国が実際に適用する税率は源泉地国の税率によって変ってくるが,そうした 要因に関わりなくq
くろとなることが多い140 これが誘因整合性の観点から正当化されるのは, 13 X を課税ペースとすると,源泉地図の税収はら X ,居住地図の税収はXj-Sj=
ZjXとなり,両方の式からX を消去す ることで得られる。 14例えば,外国税額鋒除や外国税額損金参入方式を採用すれば.本来の税額から外国に支払った税額を号lくわけであるから, -E Aたまたま居住地国が「小国」で源泉地国が「大国」である場合であろう。逆の場合には, 有 く ろ は成りたたないケースも多くなると考えられる。もっとも,二重課税の調整は投資の中立性を確保 するために行われる政策であるから,源泉地国が独自に税率を決定することを前提とするなら,居 住地国が税率をこのようにケースごとに決めることは,政策本来の目的をゆがめてしまう可能性が 高く,望ましくはない。しかしながら,第3節のモデル分析は,源泉地国の税率をいわば所与とし て居住地国が税率を決定するような現行のシステムは,誘因整合的でないことを示しているのであ る。 (2)望ましい制度設計 以上のように現行の法的枠組みでは税務調査にインセンティブの問題が全く反映されていないこ とがわかった。では,資本輸出の中立性を確保しつつ,源泉地国のモラルハザードを誘発しない制 度はどのように設計されるべきであろうか。それは,まず居住地主義を前提として,源泉地国は居 住地国のために所得税務調査を行い,事前の合意をもって,その成果に応じて「報酬jとして税収 の一部移転を受けるシステムであり,その「報酬体系」は,税務調査結果の成否の確率の状態に依 存して適切に決定されなくてはならない。そうした「報酬体系Jは,所得調査の結果の如何を問わ す,かならず源泉地国に支払われる固定報酬と,結果の如何で増減する「業績」比例報酬をもち, その具体的な構成は,各国のリスク回避度ないしは大きさを反映して,相手方たる源泉地国ごとに 異なるものとなる。こうした制度変更や交渉は確かに容易ではないから,直ちに実施することは現 実的なオプションとはなりえないであろう。しかしそうでない場合にも,源泉地国の税率をいわば 所与として居住地国が税率を決定するような現行の二重課税調整の手法ではなく,後者がまず自国 投資家に関して資本の中立性と公平性を確保すべく世界一律の税率を決定した上で,その税率を源 泉地国との交渉で両国に「配分Jするようなシステムが必要なのである。
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まとめ
本稿は,現在の国際化の状況下でますます重要となっている国際税務協力の問題を,エージェン シ一理論の立場から分析した。その結果まず,現行の国際課税制度は源泉地国のモラルハザードの 誘因が全く考慮されていないことが確認された。また,こうした問題は,所得源泉地国の課税庁に よる税務調査によって追加的税収をもたらされる居住地国が,源泉地国へ適切に「報酬」として税 有くらとなる可能性が高い。 -12国際税務協力とエージエンシ一関係 収を移転することによってクリアしうることが示された。そこで重要となるのは,税務調査の成否 を左右する課税庁の「努力」の重要性が,より多くの追加税収をもたらすためには,ますます高 まっていくいう税務調査の確率の状態が成立していることであるが,これは複雑な金融取引が発展 してきている今日の状況には整合的なものと見ることができる。これらの観点をふまえて,本稿の 分析は,各国の課税原則を居住地主義で統一し,その上で適切な報酬体系によって税収を分配する 必要性を示唆するものである。 本稿を終えるにあたり,本稿の分析枠組みでは十分に扱われなかった幾つかの点に言及し,将来 の研究を展望したい。いうまでもなく,本稿のモデル分析は多くの過度に単純化された仮定の上に 成り立っている。まず,資本移動の双方向性を考慮すれば,いずれかの国が投資家の居住地国,収 益の源泉地国と先見的に決まっているわけではなく,いすれの国も居住地国,源泉地国になりうる わけである。そうした状況を勘案すれば,税務調査「契約」関係は双務性をもっと考えるべきであ り,本稿のモデル分析は,将来そうした双務性を取り入れる形で拡張されるべきである。また,そ の際重要になるのは,各国課税庁の能力や信頼度である。本稿ではこの点については格段の仮定を 設けなかったが,現実には各国課税庁の調査能力には隔たりがあり,そうした能力格差が「報酬体 系Jにいかなる影響を及ぼすかは興味深い。一方,源泉地国課税庁が渡した情報は課税目的にのみ 必ず用いられるものと暗黙裡に仮定したが,居住地国がこれを厳密に履行する保証がない場合,源 泉地国から居住地国への情報の流通は阻害される。 OECDモデル条約では,これは情報交換を拒否 する理由のーっとしてあげられているから,それを前提とするならば現実にはほとんど情報が交換 されないということにもつながりかねず,この点は重要である15。将来の研究ではこうした,課税 庁の能力や信頼度を取り入れるべきであろう。更に,いうまでもなく,調査協力関係は一回の事案 だけで終了するわけではなく,長期間にわたって繰り返し行われる。こうした繰り返しの要素は, 課税庁の能力・信頼度の変化を通じて,両国間の最適契約の内容にも影響を与えるであろう。こう した各国課税庁間の多段階のインターアクションを視野に入れた分析も,将来の興味深い研究課題 である。 【参考文献】
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