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写真発掘,イネもみ枯細菌病の過去と現在

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Academic year: 2021

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植 物 防 疫  第70 巻 第 2 号 (2016 年)

― 56 ― 132

2011 年,国際誌 Molecular Plant Pathology に「Burk-holderia glumae : next major pathogen of rice?」(B. glu-mae:次の時代のイネの主要病原菌?)というタイトル の論文が掲載された。世界のコメ生産にとって極めて重 要な病害が増加しているというものである。 Burkholderia glumae は,イネもみ枯細菌病菌の学名 であり,イネもみ枯細菌病は日本で最初に発見されたイ ネの病害である。1967 年に,農林省九州農業試験場の 栗田年代氏と田部井英夫氏により Pseudomonas glumae KURITA et TABEIと命名された(栗田・田部井,1967)。本 病は,1980 年前後に西南暖地でイネに大きな被害をも たらした。そのため,1980 年に九州農業試験場に採用 された筆者はイネもみ枯細菌病の生態と防除の研究に取 り組むことになった。 冒頭の論文には,私が研究を始めて間もなく九州病害 虫研究会に投稿した論文までもが引用されていて,1992 年に九州を離れてから,本病の海外での発生についての 詳細を知らなかったこともあり,なぜ米国からこのよう な報告が出されたのかを詳しく知りたくなった。さっそ く,著者であるルイジアナ大学のHAM, JH 博士に問い合 わせたところ,すぐに返事が届き,イネもみ枯細菌病が 米国のイネ生産地域で深刻な被害をもたらしており,そ の対策のために研究をしているとのことであった。高温 を好む本病原菌が地球温暖化に伴って今後も発生を拡大 させるのではないかとの懸念から上記のタイトルを付け たものと推察された。日本で最初に記載された病害が, 今や世界で大きな問題になりつつあることを知った。 イネもみ枯細菌病に関する最初の記載は,1956 年に, 当時の農林省農業技術研究所の後藤和夫氏と大畑貫一氏 によって「稲の新しい細菌病(褐条病及び籾枯性細菌病)」 (日本病理学会報第31 巻)として報告されている。それ によると,「(中略)Phoma 菌による籾枯病と仮に同定 されていた。本病の特徴は頴の基部が褐変腐敗しその為 先端部の水分が断たれて籾は速に蒼白色に枯死する。病 籾を分解調査すると幼玄米は基部が濃褐色になって枯死 しており,早い時期には護頴は未だ枯れていないものが 多い。病変部には多数の細菌が見られ,分離接種の結果 病原性を確かめたので一応之を籾枯性細菌病と呼ぶこと にする(以下,略)」と書かれている。しかし,残念な ことに,この報告は講演要旨であるため,それらの最初 に発病した籾の写真を見ることはできない。 ところがである。筆者が現在勤務している,国立研究 開発法人農業環境技術研究所の微生物標本館で,本年, 偶然,当時のスライドが段ボールの中から多数見つか り,その中に,この報告と関連すると思われる写真を発 見することができたのである(図―1)。 スライドには,「1956.10.3,細菌による籾枯病,羽犬 塚」とある。羽犬塚は,当時九州農業試験場があった福 岡県筑後市内の地名である。撮影者不明のため,想像の 域を出ないが,農業技術研究所の標本等を多数保管して いる標本館から発見されたことから,農業技術研究所の 研究者が羽犬塚で撮影した写真と考えられる。また,同 時に出てきたスライド2 枚に「1956.10.3, Phoma による 籾枯病,羽犬塚」とあることから,上記の講演要旨の記 載にあるように,Phoma による籾枯病もあるが,その ほかに,『明らかに細菌による籾枯病がある』というこ とを確認し,写真に残したものではないかと考える。写 真はやや淡い像になっているが,本病特有の褐色の条が 横または斜めに形成されている。後に褐色帯(栗田ら, 1958)と呼ばれているものと思われ,このことからも, イネもみ枯細菌病の最初の病徴写真ではないかと推察さ れる。写真には,一部汚れがついているが,あえてそれ らを削除加工することなく,そのまま紹介することにし た。 1980 年に,九州農業試験場でイネもみ枯細菌病に出 会い,その研究により学位までいただいた筆者が退職し た年に,偶然にも,本病の最初の報告に関係していると 思われる写真に出会えたことに,不思議な思いでいっぱ いである。おそらく,イネもみ枯細菌病の研究を筆者が していなければ,このスライドは多くのスライドの一つ として,記録して保管はされるものの,世に紹介される ことはなかっただろう。国内のみならず世界初の新病害 を見つけて,この写真を撮影した研究者はどのような思 いでシャッターを切ったのであろうか。それを思うと 1956 年当時の研究者の記録を,何等かの形で後世に伝 えるのが,私の使命のように感じている。

コラム

予察灯

国立研究開発法人農業環境技術研究所 生物生態機能研究領域

写真発掘,イネもみ枯細菌病の過去と現在

對馬 誠也

(つしま せいや) 図−1  細菌による籾枯病,羽犬塚(1956.10.3,撮影者不明)

参照

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