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[Problems of a Public Health Center(puskesmas)in Rural Indonesia: A Study of Health Behavior of Farmers in West Java]

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東 南 ア ジア研究 25巻4号 1988年 3月

西 ジャワー集落 にお け る農 民 の保健行動 か ら

みた公 的医療機 関 (ブスケスマ ス) の問題 点

洋*

Problemsof a Public IIealth Center(Puskesmas)in Rurallmdone8ia :

A

Study of IIealth Behavior of Farmers iTLW estJava

HiroshiKoYAMA

*

An interview surveyon thehealthstatusand

medicalcheck ofa hamlet in W estJava c on-ductedbytheauthorrevealed thatthe Weekly morbidity rate was24-32%. Mostepisodesof diarrheaandfeverwerefollowedbytreatment,

butconJunCtivitisandskindiseaseswereusually untreated. Rates oftreatmentwere also dif. ferentamongagegroups,theratebeing higher in oldergroup than youngergroups.

A studyofthehealthbehaviorofthefarmers showed that they normally used the prlVate clinicofamalenursenearthehamlet,anddid notusethepublichealthcenterso often. For

Ⅰ は じ め に イン ドネシアにおけ る公的医療機関の末端 であ る プスケスマス1)は 日本におけ る保健所 と診療所をかねた活動を行な ってい るが ,診 療 とい う点では うま く利用 され ていない。南 *群馬大学医学部公衆衛 生 学 教 室 ;Department ofPublicHealth,GunmaUniversity School ofMedicine,Showa-machi,Maebashi 371,

Japan

1)Puskesmas;PusatKesehatanMasrarakatの 省略表記 。英語 では PublicHealth Centerと

訳 され てい る。

seriousillness,theywenttothegeneralhospital

(rumah sakitumum) 10km from the hamlet

ratherthan to thepublichealth center. The following werefactorsunderuseofthe publichealth center.

1. Distance from the hamlet and lack of transportation.

2. Shortopeninghours(8a.m.through1p.m.),

whichcoincidedwiththefarmers'work. 3. Di氏cultyofcommunication between doctors

and patients.

4. Frequentabsenceofthedoctors. 5. Lack ofalong-term caresystem.

ス ラウェシで調査を行 な った Lapau [1981: 530-531]は プスケスマスの利用頻 度 が 低 い こと,お よび利用頻度は プスケスマスまでの 距離が関係 してい ることを指摘 してい る。東 ジ ャワにおいて, プスケスマスと同 じ公的医 療機関であ る一般病院 (rumahsakitumum) の患者統計 を用いて病院か らの距離 と患者数 の 関 連 に つ い て分 析 した Soetopo ei al. [1973: 30]に よると,病院か ら 5km 以 内 か らの患者が全体 の72%を占め ていた。 こ う した距離的な要因以外 では,経済状態 [Lubis etal.1975:22]や ,教育程度 ,世 帯主 の職 業に よって利用率が異 な っている と指摘 され

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東南 ア ジア研究 25巻 4号 てお り [Lapau1981: 530],特に 農 村 部 で の プスケスマス利用率が低い とされ てい る。 イン ドネシアにおけ る主要 な死因は感染性 疾患であ る。 死因別死亡 の推計 に よれば ,柿 結核 ,肺炎 な どの呼吸器疾患 ,下痢性疾患 お よびその他の感染性疾患に よる死亡が全死亡 の46% [Hull 1981:107],あ るいは60.1% [Indonesia,DepartemenKesehatan 1980a: 29]を 占め てい る。 こ うした感染性疾患 に よ る死亡 のい くつかは,適切 な医療 を受け るこ とが できれば ,防 ぐことが可能であ り, プス ケスマスな どの公的 な医療機関の整備 ・充実 と利用 の しやす さが求め られ てい る。 本稿では西 ジ ャワの- 集落におい て1983年 か ら84年 にかけ て行な った調査か ら,まず感 染性疾患を 中心に,疾病がその調査地 におい て, どれ くらいの頻度 で存在 してい るか につ いて明 らか に し,ついで プスケスマスお よび その他の医療機関の利用状況 ,村人が購 入 し た薬 の種類 とそ の入手先 な どにふれ なが ら, 疾病 に対 して村人たちが どの よ うに対処 して い るのか , またそ の中で プスケスマスが ど う 位置づけ られ るのかについて検討 し,問題点 を明 らか に してい きたい。 Ⅱ 調査地 の概要 調査地 は,西 ジ ャワ州の州都 Bandung市 か ら東南-約 40km,標高1,918m の Raku・ tak山の北斜面 中腹 の標 高 約 950m に位置 す る タヌー集落 ⅩampungTanu(図1)で , 1983年 の調査時には45世帯,219人の スソダ 人が居住 していた。通年的に行われ る稲作が 主 な生業活動で,その他に換金作物 としての タバ コの栽培 , タキギの採取 な どが行われ て い る。 性別年齢区分別 人 口構成 を Hullの死因別 死亡数推定[Hu11 1981:88]の もとにな った 囲 1 調査地 タヌー集落 (KampungTanu)の位置 与46 1975年 におけ る推 定人 口構 成 お よび1980年 イン ドネシ ア世帯健康調査[lndonesia, Departemen Kesehatan 19808: 14]の対象 とな っ た抽 出標本の人 口構成 と比 較す る と, タヌー集落では 0-14歳 の割合がやや高 く, 15-49歳 の 割 合がやや低 く な ってい る(表 1)。 これは この年 齢層 の都市部へ の流 出を 反 映 した もの と思 わ れ ,実際に数人の若者が近 くの 都 市 - 働 き に 出 て い た。 栄養状態 は感染性疾患 に 対す る抵抗力を高め る うえ で重要だが ,西 ジ ャワ農民 の栄養状態 につい ては タン パ ク質 ,特に動物性 タンパ

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小山 :農民の保健行動か らみた公的医療枚関 (プスケスマス)の問題点 ク質が 不足 し [鈴木 ・小 山 ・ 兵 頭 1984], マージ ナ ル な 低 栄養状態 に あ る ことが示 さ れ てい る。 感染性疾患 の成 立 には ,感 染経路が重要 な役 割 を担 って い る。経 口感 染す る下痢 性疾 患 との関連 で は ,糞 尿 の処 理 や 飲 用水 の確 保 が , どの よ う に な され てい るかが重 要 で あ る。 以下 に調 査地 におけ る衛 表 1 タヌー集落における年齢区分別人 口構成割 合 とHull [1981]の1975年の全国推定人口および1980年 イ ン ドネ シア世帯健康調査 [Indonesia,DepartemenKesehatan

1980a]の対象集団との比較 年齢(読) 構讐 tt%2(1,^数) nH!li38!95556㌔。。 世帯讐 欝 壬129,80)a) 0-4 17.35% (38) 5-14 31.05% (68) 15-49 42.01% (92) 50- 9.59% (21) 16.76% 14.09% 27.41% 27.65% 46.20% 51.25% b) 9.64% 7.01% C) a) 全国8カ所からの標本抽出調査。 ち) 15-54歳 C) 55歳以上 生環境 を概観す る。 タヌー集落 では地面 に穴 を掘 って糞 尿 を処 理す る衛 生 的 な 便 所 は な く,養 魚池 で排 便 を行 な ってい る。 この よ う な池が 集落 内に5カ所 あ り, この池 の水 は水 田へ 流れ込 ん でい る。 また , この調査地 のわ きを流れ てい る川 で排 便が な され る こ ともあ る。 上水道 として川岸や水 田の 中のわ き水 を竹 の筒 を通 して家 の側 まで導 き使用 してい る。 こ うした水場 が 集落 内に5カ所 あ る。 また , 川岸 のわ き水 を ポ リ容器 に汲ん で家 まで運 び 利用 してい る世 帯 もあ る。 こ うした水 を直接 飲む こ とは な く,い った ん沸か した ものに茶 菓 を 入れ て飲用 してい る。 また この水 は食器 や 野菜洗 い な どに も利用 され る。 洗 い終 わ っ た食器 類 は ときに庭 で 日光 消毒 され る。 しか し野菜 につ い ては水洗 い のあ とそ の まま生食 す る習慣 が あ る。 下痢 性疾 患羅息 の リス クを 高め る と思われ る この 習慣 は ,ジ ャ ワ人 な ど にはみ られ ない スソ ダ人特有 の習慣 であ る。 飛沫 感染す る呼吸器 系疾 患 では人 々の住 まい かたが重要 であ る。 西 ジ ャワの住居 は 中部 ジ ャ ヮに比べ 著 し く狭 く [鈴木 ・小 山 1984: 第 1章 ],そ の狭 い寝床 に子供 た ちは友 だ ち 同 士 数 人で寝 る習慣 が あ り,飛沫 感染 は容易 に 成 立 し うる。 また後述す る よ うに結核患者 を 特別 視す る ことが な く,患者 の家へ の人 の 出 入 りは頻繁 であ り,感 染 の機会 は大 きい。 El プス ケスマスお よび その他 の医療検 閲 公 的 医療 機 関 の末端 であ る プス ケスマ スは 那 (kecamatan)ご とに1カ所設 置 され るの が原則 であ る。調査地 が属す る Ibun郡 の プ スケスマ スは ,調 査地 が郡境 に近 い ため に調 査地 か ら約 5km 離 れ てい る (図2)。 また 西 隣 の Pacet郡 の プ ス ケ ス マ ス も時 に 利 用 され てい る。 この二 つ の プス ケスマ スへ は 交 通機 関が な く,通常 徒 歩 で どち ら も約1時 間かか る。 朝8時か ら午 後1時 までが 診療 時 間で ,診 察 ,注射 ,投 薬 込 み で 費 用 は 1人 150ル ピア2)であ る。 プスケスマ スに薬が な い場 合 には医師が 書 いた処 方集 を持 って薬局 へ 行 き,薬 を買 うことに な る。 こ うした診療 活 動 の他に井 戸や衛 生的 な便所 の普 及 な どの 衛 生 環 境 改 善 活 動 (Program Kesehatan Lingkungan), 栄 養 改善活動 (Usaha Per -baikn nGiziKeluarga),家族計 画 (Keluarga Berencana)の普 及 な ども行 な ってい る。

実際 に どの よ うな診療 が 行われ てい るか , Ibun郡 プスケスマ スの診療 活 動 を見学 した。 職 員構 成 は ,医師

1

人 ,助 産婦

1

人 ,お よび 2)調査時点での円とルピアの換算 レ- 卜では,1 円が約4ルピアに相当する。タヌー集落におけ る当時の賃金農作業 は1日500ル ピアであ っ た 。

(4)

東 南 ア ジア研究 25巻 4号

Simpang W&ngisagar& Cip&ray Bandung l

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cet

i

t.l・.■■■lll■一.■■■■■ 1km 3人であ った。診療 は朝8 時20分か ら始 ま り41人の患 者 を診察 し,10時ち ょうど に終 わ った。 1人あた りの Paseh 診察時間は約 2分半であ っ た。診察用具 は聴 診器 と血

1.Ibun郡 プスケスマ ス (Puskesmaslbun)

2.Pacet郡 プスケスマ ス (PuskesmasPacet)

3.プスケスマ ス支所 (BalaiPengobatan)

4.私立診療所 (Klinik Simpang) 5.一般病院 (RumahSakitUmum) 6.Majalayaプスケスマ ス 7.薬局 (apotek) 8.マ ン ト リ (mantri)の 自宅診療所 図2 タ ヌー集 落 (KampungTanu)周辺 におけ る医療機関の分布 マン トリ (mantri)と呼ばれ る保健職員3)が

3)Mantri, あ るいは mantrikesehatanともい

う。中卒後看護専門学校 (SekolallPenjenang Kesehatan)を卒業 した もので, 日本での準着 に ほ ぼ 相 当 す る が,英 語 で は male nurse [Lubisetal.1975:Glossary]と訳 され てい るよ うに,すべ て男子であ る。職務 は簡単 な治 療行為 (投薬,注射) を行 うほか,統計資料 の 作成や プスケスマ スの事務管 理 な ども行 なって いる。

4

8

圧計 だけで,問診のあ と訴 えに合わせ て胸部か腹部を 聴診す る。 カゼ症状 と下痢 を訴 えるものが 多 く,41人 の うち感染性疾患 と診断 さ れた ものは25人 (61.0%) であ った。 その他の疾患 と しては腰痛 , 胃炎 な どの診 断が 多か った。医師は処方 葦を書 き,それ に応 じて隣 の部屋 でマン トリに よって 注射や投薬が な され る。 個 々の患者 に対す る診療記録 (カルテ) は とってお らず , 長期的継続的 な ケアは考慮 され ていない。 また処方 さ れた抗生物質 としては ク p ラムフェニコールが多か っ た。 どの よ うな疾患 の時 に村 人は プスケスマスを利用 し てい るのか , プスケスマス の部 内統計か ら,い ま少 し くわ し く検討 してみたい。 Ibun 郡 の プスケスマスが 毎 月県 の保健局 (Dinas Kesehatan)へ提 出 す る報告 書 (Laporan Bulanan Data

Xe-sehatan)を集計 しなお した月別疾患別患者数 (蓑 2)に よると,疾患別患者数の 月 ご との 変動はみ られず ,最 も多い疾患 は呼吸器疾患 であ り,そのほ とん どは 上 気 道 感 染 症 で あ る。ついでその他の疾患が多いが ,この うち の約半数は腰痛 ,関節痛な どであ る。限疾患

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小山:農民の保健行動からみた公的医療検閲 (プスケスマス)の問題点 (主 として結膜 炎)や 皮 膚疾患 の患者 も全体 の 約20% を 占め てい る。 各 月 の 利 用 者 数 は 1,100か ら1,300 人で , 全体 として上述 の一 日 の観察 と大 きな差は な い よ うに思われた。 プスケスマ スでは こ うした診療活動以外 に さまざ まな保健 活動 を 表2 Ibun郡プスケスマスにおける月別,疾患別患者数(1983-84年) 疾患分類 6月 7月 8月 9月 10月 2月 合計 消化器系 呼吸器系 限 皮膚 その他の感染症 その他の傷病 8 7 1 .4 8 2 3 4 9 7 7 7 1 3 1 2 7 3 1 5 7 2 2 8 8 3 00 2 1 3 1 3 4 3 7 7 1 9 6 8 9 .4 9 6 1 3 1 2 6 8 7 1 0 1 6 4 9 2 9 2 1 3 1 3 8 3 2 5 8 4 7 8 0 1 8 9 1 3 1 1 2 3 5 1 6 5 1 0 7 2 7 8 3 2 3 1 1 3 2 1 0 8 .4 .4 4 9 4 1 8 2 7 5 1 3 1 2 6 9 9 8 9 9 7 1 8 6 1 0 9 2 5 8 5 8 合 計 1,291 1,160 1,143 1,151 1,135 1,100 6,980 資料の出所 :プスケスマスか ら県の保健局 (DinasKesehatan)へ の報告書 (LaporanBulananDataKesehatan)。

行 な ってい る。 どの よ うな活 動が どの程 度行われ てい るのか,Ibun お よび Pacet 郡 プスケスマ スの医師に活動 日誌 をそれぞれ1カ月お よび3カ月間つけ て もらった。 それに よれば ,医師が プスケスマ スで一般診療 を行 な ってい るのは週 の半分以 下 にす ぎず ,特定 の曜 日を家族 計画 の普及 に あ て,子宮 内避妊具 の装着 ,避 妊 につい ての 講 習会 な どを行 な ってい る。 また県 の保健局 や郡 での会議 な どで不在 の こ とも多い (医師 が 不在 の時は マン トリが診療 を行 う)0 Ibun 郡 プスケスマ スでは実施 していないが,Facet 郡 プスケスマ スでは 週 に一 度 , 移 動 診 療 班 (Tim MedisKe

l

i

ling)を組織 して郡 内の各 集落 を まわ り,診療活動を行な ってい る。 調査地 周辺 の プスケスマ ス以外 の医療機 関 につい て も図2に示 してあ る。 タヌー集落 か ら北へ約 5km 下 った Wangisagaraとい う 集落 には プスケス マ ス の 支 所 (BalaiPeng・ obatan)4)が あ る。 ここには医師はいないが , マソ トリが症状 に応 じて注射 お よび投 薬 を行 う。 治療 代は プスケスマスと同 じ く1人 150 ル ピアであ る。 ここは こ の 地 域 の 中 核 都 市 Majalaya- の通 り道 にあた り, タヌーか ら 2km 下 った Cisindangとい う集落か ら乗 合 4)イソ ドネシア統計年報では Puskesmas Pem・

bantu (英語では PublicHealth Sub・center) となっている。・ バ スも利用で きる。 Wangisagara か らさら に 1km 先 の Simpang には私立 の診療 所 (KlinikSimpang)5)が あ り医師に よる診察 が 受 け られ る。治療費は 2,000-3,000ル ピアで あ る。 Majalaya には入院施 設 を持つ公 立 の 一 般病院 (RumahSakitUmum)が あ り,入 院は

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0

0

ル ピア,外来 は プスケスマスと 同 じ 150ル ピアであ る。 ここでは Ⅹ線撮影 , 血液検査な ども受け られ るが , これ らの検査 代は別料金 であ る。 タヌー集落か ら Majal a-ya までは約 10km で,W angisagaraか ら Majalaya - は馬車が通 ってい る。 また ここ には別 の プスケスマ スもあ るが ,調査地 の人 々は利用 していない。 このほか Majalayaに は大 きな薬局 (apotek)が あ り, ここでは抗 生物質 も入手す るこ とが で きる。 小 さな売店 (warung)ではいわゆ る カゼ薬や ,鎮痛剤 , 解熱剤,整腸剤 な どを購 入す る ことが で きる。 値段 は 1錠15-20ル ピア程 度で,ト4錠入 りで 売 られ てい る。 この よ うな売 店 は Majalaya

をは じめ,Wangisagara,Cisindangにあ る。 また徒歩 で約10分 の隣集落 の Cimarangiに

5)Simpangはイン ドネシア語で分岐す る,十字 路になったとい うような意味で,タヌー集落の 人たちI.iMa3'alayaへの道からの分岐路がある この辺 りを Simpang,そこにある私立診療所を KlinikSimpangと呼んでいる。

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東南 アジア研究 25巻4号 は Pa(:et郡 の プスケスマスに勤め るマン ト リが住んでい る。 プスケスマスでの勤務時間 外 には 自宅で診療 を行な ってお り,また往 診 に も応 じてい る。 治療費は開業医の場合 の約 半分 であ る。 以下に この調査地におい て行な った疾病 の 頻度 と保健 行動に関す る調査 の方法 と結果 に つ いて述べ る。 Ⅳ 調査方法 と括果 本調査地において行な った調査は,疾病調 塞 ,医療機関の利用状況についての調査 ,お よび薬 とその入手先 についての調査の三つ で あ る。 まず疾病が どれ くらいの頻度で存在す るのかについてみ てゆ きたい。 1. 疾病調査 主観的な健康状態 についての聞 き取 り,健 康 でない と答えた ものにたい しての診察 ,お よび どの よ うな保健行動を とったかについ て の聞 き取 り調査 を タヌー集落 の全世帯を対象 に,1983年10月 と1984年2月にそれぞれ1週 間行 な った。1週 間の うちの第1,4,7日 目の 3回にわた り筆者 自身 が 各 世 帯 を 訪 問 し,世帯主 またはその配偶者 に世帯構成 員全 員の健康状態 につ いて質問 した。第

4

,

7

日 目にはそれ ぞ れ あ い だ の2日間 (第2,3 日目,お よび第

5

,

6

日日) に,その疾病 ま たは健康が持続 してい た か ど うか を 質 問 し た。 「健康 であ る」 に あ た る ス ソ ダ語 は 「 d8-mang」であ るが , これは挨拶言葉 と して も 佼われ,「Damangですか ?」と聞 くことは, 「お元気ですか。」 とい う挨拶 に解釈 され る こ とが考 え られ る。 また同意語で ア ラビア語起 源 の 「sehat」 もあ るが ,スソダ農 民の 日常 会話 では一般的にあ ま り使われ ないや、こ.の調 査 では 「damang」を用いる こと とし, また

S

P

挨拶 と取 られない よ うに 「Dazpang,atanapi henteuP(健康 です か ,そ うで は な い です か ?)」と質問 した。 健康 でない と答 えた場 合には直接本人に会 って 自覚症状を聞 き,い くつか の症状名 をあ げてその有無 をたずねた。6)また容易 に 患 部 を観察す ることがで きる限お よび皮膚疾患 に ついてはそ の性状 ,す なわち発 赤 ,膿性分泌 物 ,腫脹 ・浮腫 お よび 自発 痛の有無 ,泌尿器 系の訴 えでは排尿 回数や排尿時痛についての 聞 き取 りのはかに尿試験紙 を用いて尿 タンパ ク,尿潜 血 の有無 を調べ た。その他の呼吸器 系や 消化器系の訴 えでは体温の測定 ,黄症 の 有無 ,甲状 腺 ・リンパ節 の腫脹 ,咽頭 ・へん と う腺の発 赤腫脹 の有無 ,呼吸音 ・心音 の聴 敬 ,腹部 の圧痛 ・自発 痛 ,下痢や噂庚 の有無 とその性状 ,肝 ・牌膿 の有 無 に つ い て 調 べ た。 また ,既 に治療や なん らかの保健 行動を と ったか ど うかについて も聞 き取 った。保健 行 動には医療機関での受療 以外に買薬や休業な ども含 まれ ていた。 これ らの訴 えや 他覚所見 の有無に よって ま ず感染性疾患 と考 え られ るもの とそ うでない ものに二分 した07)次に局所症状 に よ っ て 呼 6)本稿における傷病調査では健康でないと答えた ものだけに診察を行なってお り,従って自覚症 状を伴わないいくつかの疾患がもれている可能 性がある。日本における有病率調査では高血圧 と糖尿病が最も大きなもれの閉居を形成 してい るが,タヌー集落においては別の時期に血圧測 定 [Koyamaetal.1985:Ch.3] と試験 紋 による尿検査をはば全員に行なっている。その 結果,尿糖陽性者はおらず,また WHO 分類 で高血圧に分類されるものは1人 のみであっ た。この者は特に訴えがなかったので,傷病に は含めていない。 7)一般に感染性疾患では全身症状として発熱,顔 痛,倦怠感などを伴い,また感染 した臓器の局 所症状として呼吸器ではせき,タン,ラ音の聴 取など,消化器では下痢,腹痛などがみられる ので,こうした症状をもとに分類を行なった。 もとより著者の行なった検査項 目は不十分なも/

(7)

小山 :農民の良庵行動からみた公的医療機関 (プスケスマス)の問題点 吸器系,消化器 系,8)限,皮膚 疾 患 に分 類 した 。発 熱 の訴 え が あ り, 体 温 の上 昇 (37.0

以 上 ) だ け が 確 認 され ,そ の 他 の局 所 症 状 が み られ なか っ た もの は 発 熱 と し て 分 類 し た 。 ど こ まで を傷 病 と して扱 う か は ,有 病 率 ,羅 患 率 を 求 め るに あ た り重 要 な 問 題 で あ る が ,本 稿 で は 表 3の よ うな三 つ の基 準 を 設 定 した 。 レベ ル 1ほ 自覚 症 状 調 査 に あ た る もの で ,体 が 熱 い ,痛 い な ど の 身 体 の 具 合 の 悪 さ (illness)に つ い て主観 的 に表 表3 疾病定義の三つの レベル レベル 判定基準 内 容 1 訴 えの有 無 なんらかの身体の具合の悪 さの訴 (illness) えがあ った もの 2 異常所見の有無 身体 の訴えに伴うなんらかの異常 (disease) 所見が医学的に認められた もの 3 保 健行動 の有 無 なんらかの治療を行なったか,過 (sickness) 常 の仕事や学校を休んだ もの

それぞれの レベルは illness,disease,お よび sicknessに対応 して い

る。なんらかの自覚的 な身体の具合の悪 さ (illness)を訴えること自体,

なんらかの治療や助けを求めていることを表わ しているが, なんらかの

保健行動へ結び付 く (sickness)か どうかは, さまざまな環境 的, 文 化

的要因が働いている [Basch1978:Ch.4]。Illnessと sicknessはこの

ような関連を持 っているが,diseaseは医学的 な検査 ・診断に よって定

義 され るもので, これ らとは重な りながらある部分でずれカミある. この

調査では訴えのあった ものに対 してのみ診察を行なっているので, 厳密

に は 自覚症 状 を 伴 わ な い diseaseが 含 まれ て い ない。 また illness,

disease,sicknessに別の定義を与えている場合 もある。例 えば,Young

[1982]は sicknessを広い意味で用い てお り,illnessと diseaseとを

包括す るもの としている。 現 され る もの で あ る。 乳 幼 児 につ い ては 母 親 の 申告 に よ って い る。 レベ ル 2は 何 ら か の 他 覚 的 異 常 所 見 を 伴 う も の (disease)で , この基 準 で は 診 察 項 目や ,検 査 項 目が一 定 で な け れ ば 他 と比 較 す る こ とは で き な い 。 本 稿 に お け る この基 準 で の有 所 見 者 は 前 述 の よ うな患 部 の観 察 や 検 査 で 訴 え に 応 じた 異 常 所 見 が み ら れ た も の を 示 し て い る。 レベ ル 3は 行 動 上 の 定 義 (sickness)で あ り,身 体 の具 合 の悪 さの た め に 買 薬 ,受 療 な ど何 らか の保 健 行 動 を と った ものや ,身 体 の \ のである。例 えば,感染性 疾 患 以外 で発 熱 を 伴い,鑑別を要す る疾患 と して特 に悪 性 新 生 物,屡原病があげ られるが, フィール ド調査で は これ らの疾患 との鑑別診断は不可能である。 しか しより正確 な診断が可 能 で あ る病 院統 計 [Sarnanto 1973:23]に お いてこれ らの疾患 の頻度は非常に低いことが示 されてお り,本稿 における調査結果に大 きな影響を与えていない と思われ る。 8)下痢をひきおこす疾患は感染性疾患以外に もい くつかあげられ るが,Bandungで 行わ れた乳 幼児の下痢患者の糞便検査では,そのほ とん ど から病原微生物が兄いだ され,そのなかでは病 原性大腸菌が もっとも多かった ことが示 されて いる [Thaibet

a

l

.

1968:133-47

]

O

具 合 の悪 さ の た め に通 常 の 仕 事 を休 ん だ もの を 示 して い る。 幼 児 で は 身 体 の具 合 の悪 さの た め に外 で 遊 ば な か った な どを判 断 の基 準 と して い る。 訴 え の有 無 ,異 常 所 見 の有 無 ,お よび保 健 行 動 の有 無 の そ れ ぞ れ の レベ ル でみ た 1週 間 の期 間 有 病 率 , お よび そ れ ぞ れ の レベ ル に お け る感 染 性 疾 患 の有 病 率 を 表 4に示 す 。 訴 え の有 無 を基 準 と した 1週 間 の期 間 有 病 率 は10 月 で39.7%,2月 で30.6%,感 染 性 疾 患 だ け で は10月 で25.6%,2月 で16.4% で あ る。 こ の有 病 率 を 異 常 所 見 の有 無 でみ た場 合 で は10 月 ,2月 と も若 干 減 少 し,10月 で3

1

.

5

% ,2 月 で23.7% ,感 染 性疾 患 だ け で は10月 で24.7 表4 各疾病定義の レベル ごとの1週間の全期 間有病率お よび感染性疾患有病率 (形) レべ/レ 全有病率 感染性疾患有病率 10月 2月 10月 2月 訴えの有無 39.7 30.6 25.6 16.4 異常所見の有無 31.5 23.7 24.7 14.2 保健行動の有無 11.0 8.2 8.7 5.9

(8)

東南アジア研究 25巻4号 %,2月で14.2%である。 次に保健行動の有 無でみた期間有病率は さらに減少 して1/2か ら1/3とな り, 10月で11.0%,2月で8.2%, 感染性疾患だけでは10月で8.7%,2月で5.9 %であ った。 この よ うな基準間の差異を もた らす要因を 552 分析す る手がか りとして,各 レベルにおけ る 年齢区分別 ,局所症状別の有病数,有病率を 表5(10月調査) お よび表6 (2月調査)に 示 した。表 5において訴えの有無を基準 とし た有病率では5-14歳が もっとも低 く,50歳以 上が もっとも高い。 しか し感染性疾患だけで 表 5 1983年10月調査 におけ る疾 病定義 の各 レベル ごとの疾患別 ・年 齢 区分別 の1週 間 の有病数 お よび有病 率 年 齢 0-4 5-14 15-49 50一 計 調査対 象者数 n-38 m-68 m-92 n-21 m-219 レベル1 消化器系 呼吸器系 限 皮 膚 発 熱 等 l 1 5 4 1 3 1 2 0 2 1 5 5 0 7 3 1 4 0 1 0 0 1 7 2 6 日 HH F: : 感染症小計 12(31.6%)18(26.5%)20(21.7%) 6(28.6%)56(25.6%) そ の他 の訴 え 2 3 16 10 31 合 計 14 21 36 16 87 期 間有病 率 36.8% 30.9% 39.1% 76.2% 39.7% レベル2 消化器系 呼吸器系 限 皮 膚 発 熱 等 l 1 5 .4 1 3 1 2 0 2 1 4 5 0 7 2 1 4 0 1 0 9 1 7 2 5 日リ : 感 染症小 計 12(31.6%)18(26.5%)18(19.5%) 6(28.6%)54(24.7%) そ の他 の傷病 1 3 9 2 15 合 計 13 21 27 8 69 期間有病 率 34.2% 30.9% 29.3% 38.1% 31.5% レベル 3 消化器系 呼吸器系 限 皮 膚 発 熱 等 1 0 0 1 0 3 0 0 0 2 3 4 0 1 1 1 2 0 0 0 8 6 0 2 3 感染症小計 2(5.3%) 5(7.4%) 9(9.8%) 3(14.3%)19(8.7%) その他 の傷病 0 0 3 2 5 合 計 2 5 12 5 24 期間有病 率 5.3% 7.4% 13.0% 23.8% 11.0% 荏 :レベル1

,

レベル 2

,

レベル3の意味 につい ては表3参照。

(9)

小山 :農民の保健行動からみた公的医療境開 くプスケスマス)の問題点 表6 1984年2月調査 におけ る疾 病定 義 の各 レベル ごとの疾 患別 ・年齢 区分 の1週 間 の有病数 お よび有病 率 年 齢 0-4 5-14 15-49 50一 計 調査対 象者数 n-38 m-68 n-92 m-21 n-219 レべ′レ1 消化 器系 呼吸器 系 眼 皮 膚 発 熱 等 4 4 3 1 2 0 0 2 1 1 4 2 0 2 5 0 2 1 0 2 8 8 6 .4 01 感染症小計 14(36.8%) 4(5.9%) 18(19.6%) 5(23.8%)36(16.4%) そ の他 の訴 え 1 10 8 7 31 合 計 15 14 26 12 67 期間有 病 率 39.5% 20.6% 28.3% 57.1% 30.6% レベル2 消化器 系 呼吸器系 限 皮 膚 発 熱 等 3 4 3 1 1 0 0 2 1 1 2 2

0

2 5 0 2

0

0 2 5 8 5 4 9 感染症小計 12(31.6%) 4(5.9%) ll(12.0%) 4(19.0%)31(14.2%) そ の他 の傷病 1 10 7 3 21 合 計 13 14 18 7 52 期 間有病 率 34.2% 20.6% 19.6% 33.3% 23.7% レベル3 消化器系 呼吸器系 眼 皮 膚 発 熱 等 1 2 0 1 1

0

0

0

1 1 1

0

0

0 3 0 0 0 0 2 2 2 0 2 7 感染症小計 5(13.2%) 2(2.9%) 4(4.3%) 2(9.5%) 13(5.9%) そ の他 の傷病 0 2 1 2 5 合 計 5 4 5 4 18 期 間有病 率 13.2% 5.9% 5

.

4

%

19.0% 8.2% 荏 :レベル1,レベル2,レベ ル3の意味 につ い ては表3参照 。 ほ どの年 齢群 も20-30%で,年齢 区分 ごとの 差 はみ られない。14歳以下に眼 の訴 え9)が多 9) イ ン ドネシ アでは トラ コーマの羅息 率 が非常 に 高 い といわれ てい る [May 1958:290]。 トラ コーマは慢性化 しやす く,失 明 の原因 ともな る ため,普通 の結膜炎 以上 に注意 が必要 であ る。 本 調査地 でみ られた結 膜炎 では,結膜 の充血 と 黄 色 の膿性分泌物 を主症状 と し, トラ コーマの 特 徴 であ る渡 胸形 成 が な く,ト2週 間 で 自然 治 癒 す る傾 向があ り,細菌性 の 結 膜 炎 と思 わ れ た 。 また プスケスマ スか ら県 の 保 健 局 (Dinas Kesehatan)-提 出す る報 告書 (LaporanBu1

-ananDataKesehatan)のなかに も トラ コーマ

につ い て記載 す る欄 が も うけ られ てい るが,忠 者 の報 告 は なか った 。

(10)

東南アジア研究 25巻4号 い。その他の訴 えには腰痛 ,筋 肉痛が 含 ま れてい る。 この項 目では加齢 とともに訴 え 率が上昇 してい る。 異常所見の有無 でみた期間有病率では, 訴えの有無を基準 とした ものに比べ ,感染 性疾患 ではあ ま り変わ らないが ,その他の 傷病 で特に15歳以上で有病率が減少 してい る。 これは腰痛 ,筋 肉痛の訴 えがあ って も 診察上異常所見が な く,仕事 も通常 に行な っていた ものが除外 されたためであ る。 次に保健行動の有無 でみた有病率では, 診察上異常があ って もその まま放置 され る ケースが除かれ る.特に限疾患 ,皮膚疾患 は治療 されず に放置 され るケースがほ とん ど であ る。 消化器系 ,呼吸器系疾患お よび発熱 が保健行動を伴 う主 な疾患 とな ってい る。年 齢区分 ごとにみ ると50歳以上 で有病率が もっ とも高い。その他の傷病のほ とん どは事故に よる外傷 な どであ る。 次に これを2月調査 の結果 (表6)と比べ ると,2月調査では異常所見の有無 の レベル で限疾患がやや減少 し,発 熱がやや増加 し, 保健行動を伴 った疾患では発熱が もっとも多 くな ってい る。 この2回の調査結果か ら,限 疾患は14歳以下でみ られ るが放置 され ,消化 器系 ,呼吸器系感染症 お よび発 熱は保健行動 表7 異常所見のみ られた疾病 (レベル2)が 治療や休業 などの保 健 行 動 (レベル3) に結 び付 く率 (レベル3/レベル2)(1983 年10月 と1984年2月の合計) 表8 年齢区分別にみた,異常所見のみ られ た疾病 (レベル 2) が治療や休業 な ど の保健行動 (レベル 3) に結び付 く率 (レベル3/レベ ル2) (1983年10月 と 1984年2月の合計) 年齢 (読) レベル2 レベル3 レベル3/レベル2 0-4 26(24) 7(7) 26.9% (29.2%) 5-14 35(22) 9(7) 25.7% (31.8%) 15-49 45(29) 17(13) 37.8%(44.8%) 50- 15(10) 9(5) 60.0% (50.0%) 合 計 121(85) 42(32) 34.7% (37.6%) 注 :レベル2, レベル3の意味については表3参照 。 カッコ内は感染症 のみ。 疾患分類 レベル2 レベル3 レベル

3

/レベル2 消化器系 呼吸器系 限 皮 膚 発 熱 等 その他の傷病 人 0 8

一4 0 0 r= tH tH 人 4 9 2 6 ▲4 6 1 1 2 1 1 3 71.4% 42.1% 0.0% 25.0% 7

1

.

4

%

27.8% 合 計 121 42 34.7% 症 :レベル2, レベル3の意味 については表3参照 。 5S4 を伴 うことが多 く, また年 齢区分 ごとにみ る と50歳以上 で保健行動を とる率が高い とい う 傾 向が うかが える。 この よ うな債 向をい ま少 し詳 し く検討す る ために,異常所見の有無か らみた有病者数 と 行動上 の基準に よる有病者数の比か ら疾病が 保健行動に結び付 く割合を疾病 の分類 (表 7) ごとに, また年齢区分 ごとに (表8)検討 し た。疾病 の分類 ごとに治療 または休業に結び 付 く割合をみ ると(表 7),下痢 な どの消化器 系感染症 お よび発熱では

7

0

%以上が何 らか の 保健 行動 と結び付いてい る。 ついで呼吸器系 感染症が約

4

0

%である。結膜炎な どの限疾患 は治療 な どの行動に結び付かず放置 され る。 また皮膚疾患 は各年 齢層 でみ られたが, 治療 な どの行動に結び付 く率は全体で25 % と低い。 各年 齢区分 ごとに保健 行動に結び付 く 割合をみ る と(表

8),0-

1

4

歳 で低 く,以 後加齢 とともに上昇 し

,5

0

歳以上 で

6

0

%

ともっとも高 くな ってい る。 また感染症 だけをみ て も同様 の偵 向であ る。 2. 医療検閲の利用状況調査 前章で取 り上げた保健 行動には医療機 関での受療以外に買薬や休業な ども含 ま れ ていた。 以下では この保健行動を主 に

(11)

小山 :農民の保健行動からみた公的医療枚開 (プスケスマス)の問題点 医療機関の利用 とい う側 面か らと りあげ る。 現金収 入の少 ない タヌ ー集落 の人 々に とって医 療機関を利用す ることは 大変な出費であ り, また そ の 日の労働が できず , 収 入が得 られない ことを も意味す る。 医療機関の 利用は一つ の出来事 とし 表9 タヌー集落 におけ る年 齢区分別,受療 医療 機 関別 の1年間 の 医療 境 関 の利 用者数 お よび利 用割 合 年齢 (読) - ソ ト ., 蓋療轟 夏子蒜 マ 病 院 合計′人 口(割 合) 0-4 5-14 15-49 5 0-人 0 0 0 1 1 1 3 1 1 6 7 3 1 2 6 1 0 2 2 2 12/38(31.6%) 20/68(29.4%) 45/92(48.9%) 17/21(81.0%) 合 計 場 所別割 合 4 % 6 6 %6 0 0 1 1 %1 7 8 1 1 % 9 1 7 6 6 94/219(42.9%) 100.0% て記憶 され ,思い出 し調査に よっ て も調査 もれは少 ない と考 え られ る。 そ こで 1年間 の思い 出 し法 に よる医療機関の利用の有無 ,その 時 の 自覚症状 ,お よび支払 った治 療 費につ いての聞 き取 り調査を行 な った。 表9に示す よ うに タヌー集落で は219人中1年 間に延べ94人(42.9 %)が医療機関を利用 していた。10) この表では直接売店 (warung)か ら薬 を購入 した ものは含め ていな 表10 タヌー集落 におけ る疾病 の種類 別 にみた医療 機 関 の利 用頻 度 私 立 プスケスマ 診療 所 ス ・支 所 疾患 分類 マ ン ト リ 宏慮蓋 二二三 三三' 病 院 合 計 消化器系 呼吸器 系 限 皮 膚 発 熱 2 2 4 1 9 2 1 3 1 0 2 8 3 0 0 0 6 1 0 0 0 2 9 3 4 3 5 2 3 感染症小計 48 14 9 3 74 そ の 他 13 3 1 3 20 合 計 61 17 10 6 94 い。 利用の割合を年 齢区分別 にみ る と,5-14歳 で最 も低 く,50歳以上 で最 も高い。各年 齢層 とも隣の集落に住む マン トリに診 て もら うこ とが最 も多 く,ついで私立 の診療所 であ り, 公的 医療機関であ るプスケスマスや病院の利 用はわずか に全体 の17%であ る。 症状別 では表10に示す よ うに発 熱が多 く, ついで下痢 な どの消化器系感染症 であ り,呼 吸器,限,皮膚疾患 に よる ものは少 なか った。 10)プスケスマ スでは家族計画 の普及活動 も行 な っ てお り,子宮 内避妊具 の装着や,注射 に よる避 妊 の 目的 で,プスケスマ スを訪れ る もの も多 い 。 しか し本 調査地 の タヌー集 落 では,調査時点 の 1984年2月 の段階 で家族計画活動 が まだ普及 し てい なか った 。そ のため この調査時点 では過去 1年 間 に家族計画 関係 で プスケスマ スを訪れ た ものはい なか った 。 症状別 に どの医療 機関を利用 してい るかをみ る と,どの疾患 で も隣の集落に住む マン トリ の 自宅診療 を利用す ることが最 も多 く,つい で私立の診療所であ り,公的医療機関であ る プスケスマスあるいは支所 の利用は どの疾患 において も少 ない。特に限疾患お よび皮膚疾 患 で プスケスマスまたは病院を利用 した もの はいなか った。 そ の他の傷病において,病院を利用 した

3

人は縫合や点滴を必 要 とした大 きな外傷や重 度の火傷 に よるものであ り,マン トリの 自宅 診療 を利用 した13人の症状 は腰痛 お よび皮膚 の才辛み であ る。 次に医療機関別 に治療費を比較す る と表11 に示す よ うに私立 の診療所が もっとも高 く, ついで病院 とな ってい る。 プスケスマ スでの

(12)

東南アジア研究 25巻4号 表11 医療機関別 の医療 費 (ル ピア) の平均 値 お よび最小,最大値 医療機関 N 平均値 最小値 最大値 私立診療 所 15 2,066.7 1,000 3,000 病 院 3 1,366.7 600 2,500 マン トリ自宅診療 61 895.1 500 2,000 プスケスマス ・支所 8 342.9 150 700 注:Nは医療 費を覚 えていた人数 で,表9,10より若干 少 な くな ってい る。 また,病院 では入院を除 いて あ る。 治療費が もっとも安 く, プスケスマスに薬が な く薬局 で薬を購 入 した場合を含め て も平均 343ル ピアである。 この よ うに プスケスマスでは医師 に よる診 察が受け られ , しか も最 も安価であ るに もか かわ らず , タヌー集落 の人 々の利用頻度は低 し、。

3.

世帯にある薬調査 どの よ うな薬を どこか ら購 入 してい るか と い う面か ら保健 行動 を探 るために タヌー集落 の全世帯 を訪問 し,そ の時点 で家 に残 ってい る薬 をすべ て出 して もらい,その薬品名 を調 査 した。 これは村人に どの よ うな薬 を購 入 し た か を 聞 い て も

,「

p

e

l

(錠剤) を 買 った」,

ka

p

s

u

l

(カプセル)を買 った」 な どの 答 え が返 って くるだけで 薬 品 名 ま で は 判 ら ず , このため聞 き取 り調査が不可能であ るか らである。 シ ロ ップのぴんや ビニー ル袋 に入 った カプセ ル,錠剤 な どが 出さ れ てきた。 薬品名が ぴんな どに記載 され て い る も の は そ れ 杏,判 らない ものは 形状や色 ,記 され て 556 い る略号な どか らイソ ドネシアにおけ る販 売 医 薬 品 を 掲 載 して い る KomPendium Farmasi[Hartono 1981]を用い て 薬 品 名 を割 りだ した.薬 の成分は Data Obat diIndonesia[Purwanto 1983]に記載 さ

れ てい るので,それを もとに成分 ・効能を 同定 し,抗生物質,鎮痛解熱剤,咳止め,そ の他に分類 した。 これ らは置 き薬 として保 管 され てい る ものではな く,必 要 な時に購 入 された ものの残 りや ぴんだけが捨 て られ ず に残 っていた ものであ り,ぴんや外箱のあ る ものは残 りやす い と考 え られ るが ,売店 で 1「2錠買い もとめ ,その場です ぐ服用 され る よ うな ものは この調査では もれ て しまってい る。 45世 帯中25世帯 に合計54の薬が残 され てい た。購 入時期 はつ い最近 の ものか ら4年前 の もの まで さまざ まであ った。購 入場所別 の薬 の数 を成分 ご とに分類 し,表12に示 した。 こ の裏か らマン トリ,私立診療所 , プスケスマ スあ るいは支所では抗生物質が処 方 され る こ とが 多 く,薬局か らは さまざ まな種類 の薬剤 が購 入 され てお り,売店では鎮痛解熱剤やそ の他の マーキ ュロクロム液 , ク リームな どが 購 入 され てい る ことが うかが え る。 村人は抗 生物質 を必要 とす るよ うな感染性疾患 では プ 表12 購 入場所別 の薬 の種類 購 入場所 抗生物質 卓 痛剤 咳止 め そ の他 不 マン トリ自宅診療 4(3) 私立診療所 1(1) プスケスマ ス ・支所a) 7(3) 薬 売 不 局 店 明 ll(8)

0

2(0) 0 0 0 1 2 0 0 1 0 2 0 0 0 0 0 6 6 1 3 0 4 3 0 0 7 2 1 3 8 3 1 2 A 口 計 3 13 10 a) プスケスマ ス ・支所 で処方 集を出 され,薬局 で薬 を購入 した もの3例 が含 ま れ てい る。 抗生物質 の カ ッコ内 :ク ロラムフェニ コール その他 :マ-キ ュ Pクpム液, ビタ ミン剤,強壮剤, ク リーム

(13)

小山 :農民の保健行動からみた公的医療機関 (プスケスマス)の問題点 スケスマ ス,私立 診療 所 , マ ン トリを利 用す る ことが 多 く,そ の他 の傷 病 では薬局 ,売店 を利用 してい る様 子が うか が われ る。 また抗 生物質 のなか では ク ロラム フ ェニ コールが 6 割を 占め てい る。 この抗 生物質 は まれ に致 死 的 な副作用 (再 生不 良性 貧血) がみ られ るた め に , 日本 では多 くの感 染性疾 患 の第 1選択 薬 と しては 使われ な くな った ものであ る。西 ジ ャワ農 村部 では細菌 培養や細菌 の薬剤 感受 性 テ ス トな どを行わず に抗 生物質 が処 方 され るため , グ ラム陽性菌 , グ ラム陰性菌 お よび リケ ッチ アな どに広 い抗菌 作用 を持つ 薬剤 と して この ク ロラムフ ェニ コールが 多用 され る のであ ろ う。 Ⅴ 事 例 どの よ うな時 に , どの よ うな保健 行 動 を と るのか とい う意志 決定が この調査地 では どの よ うに してな され てい るのだ ろ うか。 著者 は この調査地 に本稿 で述べ た傷 病調査 の期 間 を 含め て 間 欠 的 に8カ 月 間 (1983年7月 か ら 1984年 2月 まで,お よび1984年 7月)滞在 し, そ の間 にい くつか の事例 を経験 した。 以下 に そ の事例 を通 して村 人の保健 行動 の決定 につ い て見 てみ た い。 事例1: 3歳 の女 の子。傷病 調査 の時点 の 1984年 2月には元気 であ ったが ,そ の5カ月 後 に再 訪 した ときには死亡 していた。父親か らそ の時 の様 子 を聞 くと,あ る 日,朝 か ら発 熱が あ って食 欲が なか ったが ,夕方 まで外 で 遊 び回 っていた. 家 に も どってか ら寝込 み , せ き, タンや 下痢 な どは なか ったが発 熱 が続 き,そ の後呼 吸が早 くな って きてそ の夜 の う ちに死亡 して しまった。 事例2:隣集落 の結核 の老 人。 プスケスマ スへ は行 った こ とが あ る。薬 を もら ったが そ れ では治 らなか った。 そ の後は医療 機 関 にか か ってない 。血 の ま じった タソやせ きを しな が らベ ッ ドの上 で寝 た り座 った りしてい る。 近 所 の人や 子供達 が し ょっち ゅ う出入 りして お り,子供達 にあれ これ用 事を言 いつ け て 日 常 生活 を こな してい る。 事例3:59歳 の老 人。10月 と2月の調査期 間 の 中間 で発 病。発 熱 が主 な症 状 でせ き, メ ソや 下痢 な どはみ られ なか った。食 事が とれ ず 重篤 な状態 とな って,娘 夫婦 らに運 ばれ て Majalayaの 一 般 病 院 に5日間 入院 した。 こ の ケー スの場 合 , まず は じめ に隣集落 の マン トリに往 診 して も らい ,次 に 私 立 診 療 所 へ 行 き,最 後 に一 般病 院へ 行 ってお り, プスケ スマ スは利用 してい ない。 どの医療 機 関を利 用す るか の決定は娘宿 に よ っ て な さ れ て い た。 村 人 の保健 行動 の決 定 につ い て これ らの事 例か ら, 1. 親が 乳幼児 の具 合 の悪 さや発 熱 な どを把 握 してい て も,安 静 に保 つ等 の適切 な保健 行動 に結 びつ か ない。

2.

村 人 は症状 の軽 重や 羅病期 間 な どに よっ て医療 機 関 にかか るか ど うか を決め てい る が ,判 断 の誤 りに よ り不幸 な転 帰 をた どる ケー スが あ る。 3. 治療 の効果 を短 期 間 で判 断す る。 4. まず 身近 な マ ン ト リの 自宅 診 療 に か か り,治 らない ときに一 般病院 を利用す る。 5. どの医療 機 関を利 用す るか の決 定は本 人 以外 に よって決め られ る こ とが あ る。 Ⅵ 考 察 有病率 調査 の調 査期 間 につ い ては調査者 に よって 1週 間 , 1カ月な どの さ まざ まな期 間 を設定 して行われ てい る。 例 えば,1980年イ

ン ドネシ ア世 帯健康 調 査 [Indonesia,Depar・ temen Kesehatan 1980も]では1カ月間 ,

ま た 鈴 木 ・小 山 [1984: 第9章],

Suz

uki

[1985:Ch.9]は198ト82年 に西 ジ ャ ワの別

(14)

東南アジア研究 25巻4早

表13 疾病定義の各 レベルごとの 1週間の期間有病率お よび

羅患率か らの1カ月お よび2週間 の有 病 率 の推 定 値

(10月 と2月の平均),お よびイン ドネシア世帯健康調

査 [Indonesia,DepaTtemen Kesehatan1980]と鈴

木 ・小山[1984:第9章

]

,Su2;uki[1985:Ch.9]の 2集落における有病率 有病率(%) レベル 本報告からの推定値 世帯健康調査 鈴木 ら 1カ月 2週間 1カ月 2週間 訴えの有無 85.1 51.8 異常所見の有無 65.9 40.4 11.5(16.5)a) 保健行動の有無 19.2 12.8 43.9 40.5 a) 全国 8カ所か らの標本抽出調査。 カッコ内は西ジャワに於け る有 病率。 の2集落において15日間の思い出 し法に よる 有病率調査を行な ってい る。期間の異 なるそ れ らの調査結果 との比較 のため ,筆者に よる 1週 間の疾病調査結果 を もとに本調査地 にお け る2週 間お よび1カ月間の期間有病率を推 定 し11)表13に示 した。 有病率 の調査では どの よ うな基準 と方法で 調査を行 な ったかが重要であ る。1980年 イ ソ ドネシア世帯健康調査では保健行動 の有無 で はな く,対象者 に思い出 して もらった有病時 の 自覚症状 ,あ るいは調査時 の診察 を もとに 調査にあた った医師 または最終学年 の医学部 学生が判 断 し有病率 を もとめ てい るが ,診察 手順や検 査項 目につい て は 明 示 され て い な い。 この世帯健康調査におけ る 1カ月間の期 間有病率 は11.5%,西 ジ ャワだけに限 った場 合は これ よ りも若干高 く16.5% とな って い る。 タヌー集落におけ る異常所見 の有無に よ る1カ月間の期間有病率の推定値 は65.9%と な り,世 帯健康調査 の結果 に比べ非常に高い ll)本調査の結果を もとに次の式から 2週間お よび 1カ月間の期間有病率を推定 した。 有病率 (2週間)-有病率 (1週間) +羅患率 (1週間) 有病率 (1カ月)-有病率 (1週間) +躍患率 (1週間)×3 558 値 となる。 この差は世帯健康 調査が 1カ月間についての思 い出 し調査であ るので,治療 や休業に結び付か なか った軽 度の傷 病 に つ い て の 記 憶 も れ ,申告 もれ の可能性を示唆 してい る。医学的に定義 され る疾病 の有無 についての長期 的 な思い出 し調査は方法論的 に適切 でない と考 え られ る。 保健行動の有無を基準 とし た有病率の比較 では調査地 周 辺 の医療機関や薬局 な どの利 用 の しやす さが重要 であ る。 鈴木 ・小山 [1984:第9章

]

,

Suzuki[1985: Ch.9]の有病率調査におけ る疾病 の 定 義 は 筆者 の用いた保健行動の有無 に よるそれ と同 様 であ るが ,鈴木 らの調査集落 の15日間の期 間有病率はそれぞれ43.9% ,40.5%と筆者 に よる調査結果 よ り高 く,本稿 の異常所見 の有 無 に よる有病率 に近い値 とな ってい る。疾患 別 または症状別 に鈴木 らの調査結果 をみ る と 呼吸器系お よび消化器系疾患が多い ことは タ ヌー集落 と同様 であるが ,鈴木 らの調査集落 の特徴 として多 くの皮膚疾患 お よび限疾患が 治療 な どの何 らか の保健行動 に結び付い てい ることがあげ られ る。鈴木 らの調査地では集 落 内に売店があ り,そ こで薬 を購入す ること が できる とい う,入手の しやす さが保健行動 に結び付 きやす い原因 としてあげ られ る。 こ の二 つ の集落におけ る傷病 の治療方法 として 売店での薬 の購 入が約4割を 占め てい ること か らもこの ことが裏付け られ る。 本稿におけ る訴 えの有無 に相 当す る 自覚症 状調査を同 じ集落において1980年 に行な った

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[1982: 784]に よる と,訴 えの量 は非 常 に多 く,特に成人男 子 の 訴 え率 が 最 も高 く,労働量 と関連があ る と思われ る腰痛 ,節 肉痛が主 な訴 えであ った。 これ らの訴 えは筆

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小山 :農民 の保健行動か らみ た公的医療機関 (プスケスマス) の問題点 者 の用いた疾病 区分 の 「その他の傷病

に相 当す る。 本報告では加齢 とともに この項 目の 訴 え率が増加す ることを見 てい る。 この よ うに太調査地 やは 自覚的訴 え,お よ び医学的 な異常所見を有す る疾病は ともに多 いが ,受癖や売薬 な どの保健行動に結び付い ていない ことが特徴 としてあげ られ る。 特に 14歳以下 の年 齢層で疾 病が放置 され る傾 向が 強 く,母親 な どが異常 に気がついていて も適 切 な保健 行動に結び付いていない。疾患別で は限疾患や皮膚疾患はほ とん ど受療 な どの保 健行動に結び付かない。 医療機関の利用調査 では プスケスマ スの利 用頻度が低か ったが,その理 由 として Lapau l1981:530]e Soetopoe

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[1973:30] が指摘 してい るよ うに距離が遠 い こと,お よ び交通機関が利用で きない ことが本調査地に おいて もあげ られ る。 第2の理 由として プスケスマ スの診療時間 が限 られ てお り, しか も村人の労働時間に一 致 してい ることがあげ られ る。 この点は隣集 落の マン トリが夕方か ら自宅で診療 を行な っ てい ることと対照的であ る。 また医師が不在 であ る 日が多 く,医師の診察が受け られ ると い う保証 がない。 また Ibun郡 プスケスマスの医師は中部 ジ ャワ出身のジ ャワ人であ り,スソダ語で表現 され る 自覚症状を理解 し, またい くつか の症 状名を スソダ語で問診す ることはできるが , 病気の説明や 生活上 の注意を与えるな どの指 導 はで きていない。多言語国家 であ るイン ド ネシアでは医師 と患者が , しば しば出身民族 を異 にす ることに よ り,きめ細かい意思疎通 が成立 しない ことも大 きな問題のひ とつであ る。 プスケスマスの利用率が低い原因 として以 上 の よ うに さまざまな理 由があげ られ るが , この ことは保健 ・医療 の全般について我 々が 指摘 してい る よ うに,そ こに暮 らしてい る人 々の生活が どの よ うに して成 り立 っているか を考 えない対策 とい うものは容易に受け入れ られ るものではない [門司 ら 1986:291]と し、ら結論 と一致 してい

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今 縫 プス ケ 又マ ス が地域 医療 の中心 としての機能を よ り強 く発 揮 してい くため には ,村人に とっての利用の しやす さが よ り考慮 されなければ な らないで あろ う。 また タヌー集落 では,親が子供 の具合の悪 さを把握 していて も,適切 な保健 行動に結び 付か ない こと,時 に重症度の判 断を誤 り不幸 な転帰をた どる こと,また治療 の効果 を短期 間で判 断す ることな ど村 人 の 側 の 問 題 もあ り,社会的な ケア ・システムの充実 と健康教 育 とに よって適切 な保健 行動が とれ るよ うに していかなければな らないだろ う。 Ⅶ ま と め 本調査地 におけ る異常所見 の有無を基準 と した1週 間の期間有病率は24-32%で,保健 行動に結び付 く率は疾病 ご とに異な り,下痢 な どの消化器疾患 お よび発熱で高 く,限 ・皮 膚疾患 で低い。 また年齢区分に よって も保健 行動に結び付 く率は異な り,乳幼児お よび小 児 で低 く,50才以上 で もっとも高か った。 1年間に医療機関を利用 した ものは全体 の 42.9%で,年 齢 区分 ごとの利用率では50歳以 上が81.0%で もっとも高か った。疾患別では 下痢 と発熱 に よるものが多か った。 医療機関の利用状況では隣集落に住む マン トリの 自宅診療 の利用が もっとも多 く,それ で も治 らない時 に一般病院を利用 していた。 プスケスマスはあ ま り利 用 され て い な か っ た。 薬の種類 ごとの入手先をみ るとマン トリ, プスケスマスか らは抗生物質が多 く,鎮痛剤 や その他の薬は薬局や 売 店 か ら購 入 して お り,症状にあわせ て医療機関や薬局 ,売店 を

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東南アジア研究 25巻4号 使い分け ていた。 また どの よ うな保健 行動を とるか ,あるいは どの医療橡関を利用す るか の決定には患者個人だけでな くその家族や近 所 に住む ことが多い娘夫婦等の判 断が影響を 与えていた。 プスケスマスがあ ま り利用 され ていない理 由として,調査地か らの距離が遠 い こと,衣 通枚関がない こと,診療時間が限 られ てお り 村人の労働時間 と重 な ってい ること,医師 と 患者 との コ ミュニケーシ ョンの難 しさな どが あげ られ , プスケスマ ス 自体 の 問 題 点 と し て,他の保健活動 (家族計画,栄養改善) の ために医師が不在であ ることが多い こと,結 核 な どの長期的な ケアに欠け ることがあげ ら れ る。 謝 辞 この調査は文部省科学研究費補助金 (海外学術調 査) (代表 :鈴木庄亮,No.58041014)の助成を受 け て行われ, タヌー集落での調査は,長崎大学医学 部門司和彦助教授 との共同調査で,調査地お よびそ の周辺 に関 しての情報収集 でお世話になった。また 終始貴重 なご助言をいただいた群馬大学医学部鈴木 庄亮教授,京都大学東南 アジア研究 センター五十嵐 忠孝助教授,活動 日誌をつけていただ き, また貴重 な資料や助言をいただいた Ibun郡 プスケスマスの

医師 Dr.OthmanT.Ⅰ.,Pacet郡 プスケス マ ス の

医師 Dr.Subardiman M.A.に感謝 の意を表す る。

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