• 検索結果がありません。

インスリン非依存型糖尿病における急激な血糖コントロールの網膜症に及ぼす影響

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "インスリン非依存型糖尿病における急激な血糖コントロールの網膜症に及ぼす影響"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

原 ・著 〔東女医大誌 第61巻 第3号頁232∼238平成3年3月〕

インスリン非依存型糖尿病における急激な血糖

コントロールの網膜症に及ぼす影響

東京女子医科大学 第3内科学教室(主任:平田幸正教授) モリ タ チ ヒロ

森 田 千 尋

(受付平成2年9月28日)

Effects of the Rapid Control of Blood Glucose to the Diabetic Retinopatlly in

Patients with Non・lnsuhn Dependent Diabetes Melhtus Chihiro MORITA

Department of Medicine III(Director:Prof. Yukimasa HIRATA)

Tokyo Women’s Medical College

Afollow−up study on the progress of diabetic retinopathy was performed in 376 patients with

non−insulin dependent d童abetes mellitbs。 The patients were divided into two groups, according to the

decrease in HbA1。 during six months after the first examination;HbA1、 in group A(n=256)was reduced more than 3%and in group B(n=120)less than 3%. The patients in group A whose blood glucose w3s improved rapidly showed a more severe progress of retinopathy than those in group B.

Another way to demonstrate the speed of blood glucose control was by the slope of HbA1。 under 996 devided by number of months. When HbAl、 was reduced to 9%in a short period, the development of retinopathy was accelerated significantly. This tendency was remarkable, especially in insulin−treated

pat豆ents.

Age and duration of diabetes were also risk factors which caused exacerbation of the retinopathy. These results suggest the careful and slow improvement of blood glucose is important to prevent the deterioration of diabetic retinopathy.

緒 言 糖尿病性網膜症は,成人の失明原因として重要 視されている.したがって網膜症の進展と増悪に 影響する諸因子について,各方面から検討されて いる.特に長期間血糖コントロール不良例に急激 に血糖を改善した場合に,網膜症が増悪する症例 を日常経験することがしぼしぼあり,日本におい ては1975年以前からすでに知られていた1).その 後も急激な血糖改善後に網膜症の増悪を呈した症 例の報告がいくつかされており2)3),この現象をよ り詳細に検討する必要があると考えられるが,統 計学的にその影響を分析した報告はまだみられな い. そこで今回,著者は,インスリン非依存型糖尿 病(以下NIDDMと略す)患者において,血糖コ ントロール改善の速度,治療の方法が網膜症にい かに影響するか統計的に検討した. 対象および方法 1985年9月から1988年9月までの3年間に東京 女子医科大学糖尿病センター外来を訪れた新患患 者のうち1989年9月まで通院を続けていた者で1 年間に6回以上グリコヘモグロビン(HbA1。)の測 定および,1年に1回以上当センター眼科部門に

属する専門の眼科医による眼底検査を受けた

NIDDM患者のうち,初診時のHbA1。が10.0から 15.0%であり,かつ初診時より6ヵ月後にHbA、,

(2)

表1 初診時の網膜症とその経過 A 群 B 群 網膜症の推移 軽 快 不 変 増 悪 計 軽 快 不 変 増 悪 計 男 工 ? 性 17(IL1) P1(10.7) 73(47,7) T8(56.3) 63(41.2) R4(33.0) 153 P03 10(17.9) V(10.9) 31(55.4) R7(57.8) 15(26.8) Q0(31.2) 56 U4 網膜症なし P純型網膜症 O増殖型網膜症 攝B型網膜症 o過中PCを @施行した例 0(0) P3(25.0) P2(23.5) R(273) f(G ) 109(86.5) P6(30.8) @6(11.8) @0(0 ) 潤io) 17(13.5) Q3(44.2) R3(64.7) W(72.7) P6(76.2) k11騨P〕 126 T2 T1 P1 P6 0(0) T(16.1) P0(323) Q(20.0) O(0) 35(81.4) P7(54.8) P2(38.7) S(40.0) f(0 ) 8(18.6) X(29.0) X(29.G) S(40.0) T(23.8)

?o〕

43 R1 R1 P0 T 計 28(10.9) 131(51.2) 97(37.9) 256 17(14.2) 68(56.7) 35(29.2) 120 急激に血糖をコントロールしたA群とそうでないB群にわけ初診時の網膜症の程度とその後の網膜症の推移 について示した. A群1初診時と6ヵ月後のHbA、、の差の絶対値が3%以上のもの ()内は% B群:初診時と6ヵ月後のHbA、。の差の絶対値が3%未満のもの

PC:photo coagulation, PP:preploliferative retinopathy, P:proliferative retinopathy.

が絶対値で3%以上低下した256名(男性153名, 女性103名)(以下A群)と初診時のHbA1。が10.0

以上15.0%以下であり初診時より6ヵ月後の

HbA、cが減少しその差が3%未満である120名(男 性56名,女性64名)(以下B群)を対象として,こ の両群を比較検討することとした. 網膜症の有無は初診時において判定し,網膜症 有りを単純型網膜症,前増殖型網膜症,増殖型網 膜症に大別し(表1),Scott分類も併せて施行し

た.対象としたA群256名とB群120名の糖尿病

の病型NIDDMは1979年NIH分類4)に基づき判

定した.網膜症の進展については網膜症無しの者 に網膜症の出現をみた場合,あるいは単純型から 前増殖型や増殖型になった場合,前増殖型から増 殖型になった場合,さらに同じ単純型あるいは増 殖型でも,Scott IaからII, Scott VbからVIに

なった場合に網膜症が増悪したと判断した.また フォローアップ中A群の単純型網膜症の1名,前 増殖型網膜症の15名,増殖型網膜症の3名と,B群 の前増殖型網膜症の4名,増殖型網膜症の1名に 光凝固が施行されておりこれらは網膜症悪化のた め施行されたものであるため増悪群に入れた(表 2). 血糖コントロールの指標としてHbA、。を用い, 表2 網膜症増悪の判定基準 初診時の網膜症 1年後の網膜症 なし 単純型網膜症 O増殖型網膜症 攝B型網膜症 単純型網膜症 P純型網膜症(Scott Ia) 前増殖型網膜症 攝B型網膜症 P純型網膜症(Scott II) 前増殖型網膜症 増殖型網膜症

増殖型網膜症(Scott Vb) 増殖型網膜症(Scott VI)

単純型網膜症 O増殖型網膜症 攝B型網膜症 光凝固施行例 糖尿病性網膜症を単純型,前増殖型,増殖型に分類し,さ らにScott分類を併用して初診時網膜症と1年後の網膜症 を比較し増悪したと判断した基準を示した.

その改善の著しいA群と緩徐なB群における網

膜症の経過を比較するとともに,さらにA群256

名の中でHbA、。が9%のレベル以下を示すに

至った症例215例において初診時よりHbA、。が 9%未満になるまでに要した月数を求め,初診時 のHbAlcの値と9%未満になった時のHbAユ。の 値の差を,月数で除した値(以下改善速度と定義す る)を求めることにより,この改善速度と網膜症 との関係を調べた.HbA、。は高速液体カラム法(京

(3)

都第一科学,AUTO Alc TMHA−8111型)にて測 定したものを用いた. また年齢,罹病期間,治療との関係も合わせて 調べた.年齢は初診時の年齢を用い,罹病期間は 問診により糖尿病を初めて指摘された時を発症年 齢として求めた. 統計学的処理にはt検定を用いた. 結 果 1.初診時網膜症とその経過(表1) A群256名の平均年齢は52,4±11.2歳であり, 男性153名(59.8%),女性103名(40.2%),B群 120名の平均年齢は52.7±10.9歳で,男性56名 (46.7%),女性64名(53,3%)であった. 初診時の検査にてA群では126例(49.2%)に網 膜症を認めず,B群では43例(35.8%)で網膜症 を認めなかった.またA群で網膜症が増悪する例 が256例中97例(37.9%)であったのに対し,B群 で網膜症が増悪する例は120例中35例(29.2%)で あり増悪する症例は急激に血糖の改善をみたA 群において:有意に多くみられた(p<0.05).また

経過露光凝固を施行した例はA群ではB群の3

倍以上であった. 改善速度は,表3に示すように網膜症が増悪し

た例では初診時の網膜症が前増殖型網膜症で

表3 初診時網膜症別網膜症の推移と血糖の改善速度 網膜症の推移 軽 快. 不 変 増 悪 計 初診時網膜症 n 改善速度 n 改善速度 .n 改善速度 網膜症なし 0 96 1.87±0.94 17 1.85±0.84 113 単純型網膜症 12 1.43±0.75 9 1,79±0.74 22 1.67±1.19 43 前増殖型網膜症 6 1.30±0,57 6 LO1±G.28 37 1.71±0.74常 49 増殖型網膜症 2 1.47±0.88 0 8 2.38±0.95寧皐 10 初診時の網膜症別に網膜症の推移と各々の平均の改善速度をmean±SDで示した. 改善速度:初診時のHbAエ。と9%を割った時のHbA、、の値の差をそれまでに要した月 数で除した値(mean±SD), ホp〈0,05V.S. no change,**p〈0.05 V.S. improvement. 表4 患者年齢と網膜症の推移 A 群 B 群 網膜症の @ 推移 軽 快 不 変 増 悪 計 軽 快1 不 変 増 悪 計 平均年齢 N齢 55.2歳 53.4 54.6 51.4 52.9 52.9 11∼20歳 0( 0) 3(100) 0( 0) 3 0( 0) 0( 0) 0( 0) 0 21∼30 1(14.3) 5(71.4) 1(14,3) 7 1(25.0) 3(75.0) 0( 0) 4 31∼40 0(0 ) 14.(56,0) 11(44.0) ’25 2(11.1) 11(61.1) 5(27,8) 18 41∼50 8(17.0) 22(46.8) 17(36.2) 47 5(19.2) 13(50.0) 8(30.8) 26 51∼60 9(8.8) 52(51,0) 41(40.2) 102 5(11.4) 26(59.1) 13(29.5) 44 61∼70 9(15.8) 29(50,9) 19(33.3) 57 3(13,0) 12(52.2) 8(34.8) 23 71∼ 1(6.7) 6(4G,0) 8(53.3) 15 1(20,0) 3(60.0) 1(20.0) 5 回目:初診時と6ヵ月後のHbA、,¢)差の絶対値が3%以上のもの. ()内は% B群:初診時と6ヵ月後のHbA、cの差の絶対値が3%未満のもの. 初診時の年齢を10年ごとに区.切り,各年代と網膜症の推移をA群,B群言の示した.

(4)

1.7%,増殖型網膜症で2%以上を示していた.こ れに対して増悪しなかった例では平均1,2%の改 善速度であり,改善速度は初診時の網膜症が前増 殖型や増殖型においては網膜症増悪群で有意に高 値であった(p<0.05).すなわち初診時前増殖型 網膜症や増殖型網膜症では急激に血糖を下げた場 合に網膜症が増悪する率が高かった. 2.患者年齢と網膜症の経過(表4) 患者の初診時の年齢を10年ごとに区切り,各年

代と網膜症の推移をA群,B群別に表4に示し

た.A群では21から40歳で32例中12例(37.5%)

が増悪したのに対しB群では22例中5例

(22.7%)が増悪したにすぎず,また71歳以上でも A群で15例中8例(53.3%)の増悪があったがB 群では5例中1例(20.0%)の増悪をみたのみで あり,A群では比較的若い年代と高齢者で増悪す る率が高い傾向が認められた. 3.糖尿病罹病期間と網膜症の推移(図1) 患者の初診時までの罹病期間を5年ごとに区切 り,初診時網膜症の有無を図1aに示した.罹病期 間が5年以内のものは214例中80例(37.4%)で網 膜症を有するのに対し6年から10年では86必中63 例(73.3%)と5年を境に網膜症有病率は急増し, 21年以上では全例に網膜症を認めた.また網膜症 の程度も単純型網膜症は罹病期間6から10年で86 下中33例(38.4%)と最も多く罹病期間が長くな ると前増殖型や増殖型網膜症のような重篤な網膜 症が増加する傾向が認められた.

またA群B群に分け,網膜症の経過別に二二

病期問の占める割合を図1b, cに示した. A群で

は罹病期間0から5年では網膜症不変のものが

% 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 11 9 4 4 101 21 5 2 2 53 25 9 7 3 []網膜症なし 羅馬増殖型網膜症 雁単純型網膜症 懸増殖型網膜症 図1a A, B両国の罹病期間別初診時網膜症 A群:初診時と6ヵ月後のHbA三,の差の絶対値が 3%以上のもの. B群:初診時と6ヵ月後のHbA、。の差の絶対値が 3%未満のもの。 枠内数字:人数. 罹病期間を5年ごとに区切り,各罹病期間別初診時の 網膜症の程度の割合を示した. 06111621 06111621 06111621罹病期間 11も1読l l1も舳∼ 11もτ脳∼ 年 年 年 軽快群 不変群 増悪群 図1b A群の罹病期間と網膜症の推移 A群:初診時と6ヵ月後のHbA、cの差の絶対値が 3%以上のもの。 枠内数字1人数。 罹病期間を5年ごとに区切り,各罹病期間別に網膜症 の推移の占める割合(%)を示した. % 10G 90 80 ア0 6Q 50 4Q 30 20 10 0 4 4 6 2 21 18 11 6 2 14 9 9 2 ?1111曾 11111習 l11洋竃1罹病期間 5 101520 5 101520 5 101520 年 年 年 軽快群 不変群 増悪群 図1c B群の罹病期間と網膜症の推移 B群:初診時と6ヵ月後のHbA、cの差の絶対値が 3%未満のもの。 枠内数字:人数. 罹病期間を5年ごとに区切り,各罹病期間別に網膜症 の推移の占める割合(%)を示した.

(5)

165例中101例(61.2%)と有意に高値であり(p< 0。05),その101例中91例(90.1%)では初診時に 網膜症を認めなかった.それに比し網膜症増悪群

では罹病期間が0から5年のものは53例中36例

(67.9%)が初診時に網膜症を有しており網膜症不 変群の同罹病期間に比し網膜症を有する率が高値 であった.また罹病期間が長くなる程網膜症不変 群は減少し逆に網膜症増悪群が増加する傾向が認 められた.また軽快群も増加する割合が多くなっ たが軽快群では症例数が少なく有意とは言い難い (図1b). B群に関しては罹病期間が0から5年のもので はA群と同様に網膜症不変のものが有意に多い が,その後の経過に関してはA群と違い罹病期間 が長くなった場合,増悪する例や軽快例が増える という傾向はなかった(図1c). 4.糖尿病の治療方法と網膜症の推移(図2) 糖尿病の治療別網膜症の推移を図2に示した. A群で網膜症が増悪する例では食事療法者に比

しインスリン使用者の数が有意に多く(p<

0.05),反対に網膜症不変群ではインスリン使用者 よりも食事療法の患者の割合が多かった. 一方B群では網膜症増悪例においてインスリ 晶 70 60 50 40 30 20 10 0 □食事療 %経ロ血 鰹・ 麗璽インス 葬 畿澆 薙籔 釜 醗穫 53=. X:o 芯・ 鯨 踵・ 遜 蔭凝 鯉 馨 撚餐:= 衰 藩 騒 軽快群 不変群 増悪群 軽快群 不変群 増悪群 A 群 B 群 図2 糖尿病の治療と網膜症の推移 A群:初診時と6ヵ月後のHbA、cの差の絶対値が 3%以上のもの. B群:初診時と6ヵ月後のHbA三、の差の絶対値が 3%未満のもの. 急激な血糖コントロールを行なったA群とそうでな いB群に分け各々で血糖改善を行なった治療方法別 に網膜症の推移の占める割合を示した. ン治療者の多い傾向は認められず,網膜症不変群 ではA群と同様に食事療法者がインスリン使用 者より多かったが,その差はA群ほどではなかっ た. 考 察 糖尿病性網膜症を始めとする細小血管症の進展 に関して,血糖コントロールの良否,罹病期間の 影響の強いことは以前より問題にされている.血 糖コントロールの悪い者,すなわちHbA1。の高値 な者に網膜症の進展率が高いという報告は数多い が5)∼7),インスリン依存型糖尿病(IDDM)のみに 関する報告や判型別になっていないもの,さらに 加えて対象者の少ないものが大半である.網膜症 を悪化させる因子のひとつとして,急激な血糖コ ントロールの是:正が関係することは,以前から指 摘されてはいたが,統計学的にその影響を分析し た報告はまだみられない. 今回著者はNIDDM 376例において初診時より 半年以内に低下したHbAlc(」HbA、。)が絶対値で 3%以上の群とそうでない群に分け,急激な血糖 コントロールが網膜症の進展にいかなる影響を及 ぼすか否か検討した.さらに改善速度を求め網膜 症を増悪させる因子の具体的分析を試みた. その結果,初診時までに糖尿病の経過が長く網 膜に変化を認めた症例が急激に血糖コントロール の是正をうけると増悪する割合の高いことが示さ れた.また初診時の網膜症が重症である程,この 傾向が強いといえた. 糖尿病の罹病期間が網膜症の出現,進展に対す る強い影響因子であることは言うまでもない.欧

米ではNIDDMの罹病期間10年以内では10%前

後,10年を超すと60%以上に網膜症が出現すると 報告されている8)9).本邦においては,25歳未満発 症の糖尿病者IDDM, NIDDMのいずれにおいて も罹病期間5年から9年の者の約40%に網膜症を 認めると報告されている10).今回の検討の結果,5 年以内に25%の網膜症陽性率を示し,5年を境に 70%以上に急増している.NIDDMでは発症時期

がIDDMのようにはっきりしていないことが多

く,正確な罹病;期間を捕らえにくいが,本邦にお

けるNIDDMでは欧米の場合より比較的早い時

(6)

期に網膜症が進行するようである. 上記の成績で示したように,A群, B群におい て罹病期間別に網膜症の推移をみると,急激に血 糖を改善したA群では罹病期間の長くなるにつ れ,増悪する症例の割合が増加する傾向がみられ た。さらにまた上述の改善速度を用いた方法でも, 急速な血糖改善が網膜症の増悪を起こすことが示 された.このことは長年放置したNIDDM患者が 急激に血糖を改善した時に網膜症の増悪をみるこ とが多いと考えた従来の臨床経験と一致する.こ のような長期間血糖コントロール不良例に対し て,急激な血糖の是正が網膜症の増悪因子になる という統計的な報告はみないが,戸谷ら2)は罹病 期間16年の長期放置例でインスリン治療開始され HbA1,が1ヵ月の間に12.6%から8.3%まで減少 し,治療前網膜症がなかったものに増殖型網膜症 を認めた症例を報告している. 血糖コントロールの急速な改善は網膜症を増悪 させる傾向が認められたが,いかなる手段によっ て血糖コントロールが成されたかが次に検討され るべき問題であると思われる.治療方法を食事療 法,経口血糖降下薬使用,インスリン使用の3つ に大別すると,A群で増悪した者では,インスリ ンによって治療されていた症例が高率であった. 低1血糖が網膜症を増悪させることは周知の事実で あるがインスリン使用者では低血糖が無自覚のう ちにも起こっている可能性があり,またインスリ ンの皮下注射を行なっている患者の血中インスリ ン濃度は非糖尿病患者の約2倍になると言われて おり1D,また実験的にインスリンは血管内皮細胞 の増殖をもたらすことより,インスリン使用者で は増殖型網膜症を来しやすいと言われている, Gwinupら12)はII型糖尿病患者では血中インスリ ン濃度が高値な時;期が長く続くため,発見時すで に網膜症が存在していることがあることを指摘し ている.これらの詳細な機序については,今後の 検討が必要であるがいずれにせよ今回の研究の結 果より,糖尿病性網膜症の進行を抑えるためには, 慎重かつ緩徐な血糖のコントロールが肝要である ことが確認された. 結 語 1985年9月から1988年9月までの3年間に当セ ンター外来を初診した糖尿病患者のうち,初診時 HbA、。10∼15%という血糖コントロール不良群 376名を対象として,急激に血糖を改善した場合の 網膜症に与える影響をみた.すなわち治療開始6 ヵ月以内にHbA、。で3%を越える低下をみた256 名とそれ以外の120名とを比較したところ,以下の ような成績を得ることができた. 1)初診時網膜症を認めた症例に急激に血糖コ ントロールの是正を行なうと網膜症が増悪する割 合が高く初診時の網膜症が前増殖型網膜症や増殖 型網膜症で有意であった. 2)急激に血糖を改善した群では,20から40歳の 比較的若い年代と70歳以上の高齢者に増悪する率 が高い傾向が認められた. 3)罹病期間が長い程網膜症陽性率は高くなる が5年を境に急激な増加を示した.また急激に血 糖を改善した場合に罹病期間の長くなる程網膜症 が増悪する症例の割合が増加した. 4)急激に血糖をコントロールする手段として, インスリン治療を行なった場合に網膜症が増悪す る割合が高かった。 稿を終えるにあたり,御指導,御校閲を賜りました 平田幸正教授に深く感謝いたします.また,終始,御 助言,御無窮下さいました荷見澄子博士に心より感謝 いたします. 文 献 1)垂井清一郎:長期間きわめて治療不完全であった 糖尿病患者における急速な血糖調節に伴う網膜症 の変動・悪化.糖尿病 27二743,1974 2)戸谷理英子,木戸口裕,平田幸正:インスリン治 療開始後急激な視力低下を訴えた糖尿病患者の1 例.内科 66:523−527,1990

3)Daneman D, Drash AI.,正obes I.A et aL Progressive retinopathy with improved control in diabetic dwar丘sm(Mauriac’s syndrome). Diabetes Care 4:360,1981

4)National Diabetes Data Group, National

Institutes of】日【ealtk: Classi丘cation and diag−

nosis of diabetes mellitus and other categories of glucose intolerance. Diabetes 28:1039−1057,

(7)

5) Schanzlin DJ, Jay WM, Fritz KJ et al:

Hemoglobin Ai and diabetic retinopathy. Am J

Ophthalmol 88:1032-1038, 1979

6) Group LC, Tier H, Keskimies S et al: Risk

factors and markers associated with

ative retinopathy in patients with

dependent diabetes. Diabetes 35 : 1397-1403,

1986

7) Nakayoshi N, Nunoi K, Ohnishi Y et al:

Diabetic retinopathy and hemoglobin Ai. Jpn J

Ophthalmol 27:255-260, 1983

8) Nelson GR, Wolfe AJ, Horton BM et al:

Proliferative retinopathy in NIDDM incidence

and risk factors in Pima Indians. Diabetes 38 : 435-440, 1989

9) Nathan MD, Singer ED, Godine EJ et al:

Retinopathy in older type II diabetes.

tion 'with glucose control, Diabetes 35i 797-801, 1986

10) Ji<estwfi : 256JkmalffvaMfigtzctitiU-6kN4lintL

eefiomeRL HbA,.tasues. Ml(veJit:,S 56 : 573-582, 1986

11) Rasmussen SM, Heding LG, Parbst E: Serum IRI in insulin-treated diabetic during a 24-hour period. Diabetologia 15:151-158, 1978 12) Gwinup G, Elias AN : Increase of endothelial cell growth by sera from diabetic patients with

proliferative retinopathy. Lancet 335I 602-603, 1990

参照

関連したドキュメント

The construction proceeds by creating a collection of 2 N −1 demipotent elements, which we call diagram demipotents, each indexed by a copy of the Dynkin diagram with signs attached

In Section 3 the extended Rapcs´ ak system with curvature condition is considered in the n-dimensional generic case, when the eigenvalues of the Jacobi curvature tensor Φ are

We present sufficient conditions for the existence of solutions to Neu- mann and periodic boundary-value problems for some class of quasilinear ordinary differential equations.. We

Answering a question of de la Harpe and Bridson in the Kourovka Notebook, we build the explicit embeddings of the additive group of rational numbers Q in a finitely generated group

Based on properties of vector fields, we prove Hardy inequalities with remainder terms in the Heisenberg group and a compact embedding in weighted Sobolev spaces.. The best constants

Analogs of this theorem were proved by Roitberg for nonregular elliptic boundary- value problems and for general elliptic systems of differential equations, the mod- ified scale of

Definition An embeddable tiled surface is a tiled surface which is actually achieved as the graph of singular leaves of some embedded orientable surface with closed braid

Correspondingly, the limiting sequence of metric spaces has a surpris- ingly simple description as a collection of random real trees (given below) in which certain pairs of