京都府沿岸における近年のサワラ漁獲動向
戸嶋 孝,熊木 豊,井上太郎
京都府農林水産技術センター海洋センター
2011年3月
京都府沿岸における近年のサワラ漁獲動向
戸嶋 孝,熊木 豊,井上太郎
Fishing conditions of Japanese Spanish mackerel Scomberomorus niphonius in coastal areas of Kyoto Prefecture in recent years*
Takashi Tojima,Yutaka Kumaki and Taro Inoue*1
Annual catches of Japanese Spanish mackerel Scomberomorus niphonius in coastal areas of Kyoto Prefecture have increased since 1999, with the highest catch being 2,230 tons in 2007. The main fishing season was September and October from 2000 to 2004, but this changed from 2006, in addition to an increased catch in the winter season. Regarding the fork length from autumn to winter, the rate of a small fork length in 1-year-old fish increased in winter. These phenomena may be related to changes in their distribution and movement.
キーワード:サワラ,漁獲量,漁獲物組成,移動 日本海におけるサワラScomberomorus niphonius の漁 獲量は1998 年以後増加しはじめ,2000 年には 4,000ト ン以上となった。その後,漁獲量は2005 年まで 3,000 ~4,000トンで推移し,2006 年には 7,314トンとさらに増 加して,2007 年には 10,000トンを突破した。日本海で 漁獲されるサワラは東シナ海に分布するサワラと同じ系群 と考えられている(為石ら,2005; 由上,大下,2009)が, 2000 年以降の日本における同系群の漁獲量は,その半 分以上が日本海で漁獲されている。また日本海でのサワ ラの漁獲は,福井県から山口県の日本海西部の漁獲量が 3,000 ~ 6,000トンで 6 ~ 7 割を占めているが,2006 年 以前には2,000トン以下であった青森県から石川県の日 本海北部の漁獲量が,2007 年以後は 3,000 ~ 4,000トン と増加してきている*2-4。 京都府沿岸においても,サワラの漁獲量は1999 年か ら急増し,2004 年には約 1,100トンに達し,2007 年には 2,000トンを超えた*5-6。現在では,サワラは京都府の 基幹漁業である定置網の主要漁獲対象魚種となっている。 京都府沿岸における本種の生態的知見については,井上 ら(2007)が 2002 年から 2006 年までの資料を基に年齢 および移動に関して報告している。それによると,京都 府沿岸で漁獲されるサワラは0 歳魚主体であること,冬 季には漁獲量が減少する傾向にあること,4 ~ 6 月の産 卵期における京都府沿岸からの成魚の移動などが明らか になっている。一方で井上ら(2007)は,2005 年には冬 季や春季にも漁獲されるなど,2004 年までとは異なる漁 獲状況の変化を報告している。そこで本研究では,2005 年以後の京都府のサワラ漁獲量および漁獲物組成を調べ, 特に近年の冬季における漁獲状況から,京都府沿岸で のサワラの移動について考察した。 材料と方法 本研究における京都府のサワラ漁獲量は,2000 年 1 月 から2010 年 7 月の京都府漁業協同組合連合会の漁獲統 計資料を用いた。京都府漁業協同組合連合会が開設す る市場に水揚げされたサワラは,「さごし」と「さわら」 の2 つの銘柄に区分されている。各銘柄の大きさは,体 重では約1 ㎏以下は「さごし」,1 ㎏以上は「さわら」で あり,井上ら(2007)による尾叉長と体重の関係から算 出した計算尾叉長では概ね520 ㎜で区分される。漁獲量 は各銘柄別に集計した。なお,2000 年から 2004 年まで の銘柄別漁獲量は1 ~ 8 月の漁獲が少なく,9 ~ 10 月に 「さごし」および「さわら」の両銘柄が集中して漁獲され る傾向にあることが明らかになっている(井上ら,2007)。 そこで,銘柄別月別漁獲量および漁獲割合については, 2000 年から 2004 年は月ごとに 5 ヶ年の平均値(以下, 2000-2004 年平均とする。)を求め,2005 年から 2010 年 7 月までについては年ごとに集計した。 2004 年から 2010 年に京都府沿岸の定置網で漁獲され, 市場に水揚げされたサワラを無作為に抽出し,尾叉長の 測定を行い,各年の月ごとの尾叉長組成を求めた。 冬季における漁獲量と沿岸水温との関係を調べるため, * 本研究の一部は,農林水産省「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」により実施した。
*1 京都府農林水産部(Department of Agriculture, Forestry and Fisheries, Kyoto Prefectural Government, Kyoto 620-8570,Japan) *2 農林水産省経済局統計情報部.1998-2000.平成 8 ~ 10 年漁業・養殖業生産統計年報.農林統計協会,東京.
*3 農林水産省大臣官房統計情報部.2001-2003.平成 11 ~ 13 年漁業・養殖業生産統計年報.農林統計協会,東京. *4 農林水産省大臣官房統計部,2004-2008; 平成 14 ~ 19 年漁業・養殖業生産統計年報.農林統計協会,東京. *5 近畿農政局統計情報部.1998-2003.平成 10 年~平成 15 年京都農林水産統計年報.京都農林統計協会,京都. *6 近畿農政局統計部.2004-2008.平成 15 年~平成 19 年京都農林水産統計年報.京都農林統計協会,京都.
京都府伊根町新井崎沖礁漁場の水温データを用いた。こ の漁場では,大型定置網の水深25 m 層に設置した小型 メモリー式水温計による継続的な水温観測が行われてお
Sawara
Sagoshi
Quantity
of
catches
(t
ons
)
Month
Month
20 40 60 80 100 100 200 300 400 20 40 60 80 100 2005 (136) 100 200 300 400 20 40 60 80 100 20 40 60 80 100 2000-2004 Ave. (242) 2006 (343) 2007 (167) 100 200 300 400 100 200 300 400 2000-2004 Ave. (586) 2005 (583) 2006 (1,393) 2007 (2,064) 20 40 60 80 100 2008 (510) 100 200 300 400 2008 (1,675) 20 40 60 80 100 2009 (355) 100 200 300 400 2009 (1,277) 20 40 60 80 100 J F M A M J J A S O N D 2010 (226) 100 200 300 400 J F M A M J J A S O N D 2010 (404) 107 195 415Fig. 1 Monthly changes in the quantity of catches of S. niphonius classified into size categories
in Kyoto Prefecture from 2000 to July 2010.
Numbers in parentheses indicate the total catch (tons).
り,サワラも漁獲されている。本研究では,1999 年から
2010 年の 1 ~ 3 月に毎時計測されたデータを日平均化し
結 果 月別漁獲量および漁獲割合 京都府における銘柄別 月別漁獲量をFig.1 に示した。京都府のサワラの年間漁 獲量は,2000-2004 年平均で「さわら」が 242トン,「さ ごし」で586トンであった。2005 年の漁獲量は「さわら」 で136トン,「さごし」583トンであったが, 2006 年には「さ わら」で343トン,「さごし」で1,393トンが漁獲された。 さらに,2007 年には「さごし」の漁獲量が 2,000トンを 超え,2008 年には「さわら」が 500トン以上漁獲される など,2006 年以降の漁獲量は両銘柄ともに増加傾向にあ った。月別の漁獲量をみると,2000-2004年平均では,「さ わら」および「さごし」の両銘柄ともに,9 月に 93トンお よび163トンで最も多く,次いで 10 月に 47トンおよび 152トンであった。2005 年の銘柄別月別漁獲量をみると, 7 月の漁獲量が「さわら」で 42トン,「さごし」で128ト ンと両銘柄ともに最も多かった。2006 年は「さわら」は 1 月に49トン,4 月に 36トンが漁獲された後,8 月には 107 トンと集中して漁獲された。「さごし」は1 ~ 2 月および 5 月に100トン以上の漁獲があり,さらに 9 月および 11 ~ 12 月の漁獲量は 200 ~ 300トンと増加した。2007 年は 7 月以降12 月まで「さごし」を中心に多い月で 400トン以 上が漁獲されるなど,漁獲量が増加した。2008 年は両銘 柄ともに9 月に最も多く漁獲されたが, 1 ~ 4 月にかけて 「さわら」が30 ~ 50トンと多く漁獲された。2009 年の漁 獲量は両銘柄ともに1 月, 4 月および 9 月に多く,特 に「さわら」はこれらの月に60 ~ 80 トンが漁獲され, 他の月に比較して明瞭に多かった。2010 年は 3 ~ 4 月に「さわら」が50 ~ 90 トンと多く漁獲された。 次に,銘柄別の漁獲割合を2 ヶ月ごとに Fig.2 に示した。 2000-2004 年平均では,9 ~ 10 月の漁獲割合は「さわら」 で56.9%,「さごし」で52.0%と最も高く,他の時期は 概ね20%以下であった。2005 年から 2009 年における時 期ごとの漁獲割合をみると,9 ~ 10 月の「さわら」は 10.4 ~44.1%,「さごし」は23.5 ~ 31.6%であり,両銘柄と もに同時期の漁獲割合は2000-2004 年平均よりも減少し た。一方,2005 年以後の 1 ~ 2 月および 3 ~ 4 月におけ る漁獲割合は,「さわら」で10.3 ~ 20.0%および 14.6 ~ 28.9%であり,2000-2004 年平均(8.8%および 6.4%)よ りも増加した。また,同時期の「さごし」の漁獲割合は, 2008 年および 2009 年に高くなっていた。5 ~ 6 月の漁獲 割合は,両銘柄ともに2000-2004 年平均と同様に低かっ た。11 ~ 12 月をみると,2009 年を除き「さごし」の漁獲 割合が25.8 ~ 36.7%と高かった。 このように,京都府における近年のサワラの漁獲は, 両銘柄ともに秋季の漁獲量が最も多いものの,年間に占 める同時期の漁獲割合は低くなっていた。「さわら」につ いては,2006 年以後に 1 ~ 4 月における漁獲量が増加し, 同期間の漁獲割合も高くなっていた。また,「さごし」に ついても冬季から春季に多く漁獲される傾向がみられた。 年別月別尾叉長組成 2005 年 1 月から 2009 年 12 月 までに京都府沿岸で漁獲されたサワラの月別尾叉長組成 をFig.3 に示した。Fig.3 には、「さわら」と「さごし」を 区分する計算尾叉長520 ㎜を破線で示した。尾叉長組 成では,概ね6 ~ 7 月を除き,どの年も 2 峰型を示した。 そのうち,尾叉長の小さいサワラについては,2005 年お よび2007 年は 8 月に,その他の年については 9 月に尾 叉長350 ㎜前後でモードが出現した。これらは,どの年 においても12 月までに尾叉長 450 ㎜前後までモードの 移動が認められたが,翌年1 ~ 5 月にはモードの移動は 小さくなった。6 月になると再び顕著なモードの移動が認 められ,8 ~ 9 月には尾叉長 550 ~ 600 ㎜に移行し,同 時期に出現する尾叉長350 ㎜前後の小型個体とは明瞭に 異なる大型の尾叉長群に分かれた。これらの大型個体は, 11 月には尾叉長 700 ㎜前後までモードが移行した。しか し,2005 年,2007 年および 2008 年の 12 月から翌年 1 月 以降にかけての大型個体の組成は,モードの位置が尾叉 長600 ~ 650 ㎜にみられ,11 月よりも小さいサイズが出 現した。 ここで,冬季におけるサワラの大きさを確認するために, 11 月と翌年 1 ~ 4 月のサワラの大きさを年ごとに比較した (Fig.4)。尾叉長 400 ~ 450 ㎜にモードを持つ小型個体 (尾叉長範囲550 ㎜未満)では,どの年も 11 月よりも翌 年1 ~ 4 月の尾叉長が大きく(t-test,p < 0.01),若干の 成長がみられた。大型個体(尾叉長範囲550 ~ 850 ㎜ Catch (%) Catch (%) Sawara 0 20 40 60 80 100 2000-2004 Ave. 2005 2006 2007 2008 2009 (136) (343) (167) (510) (355) (242) Sagoshi 0 20 40 60 80 100 2000-2004 Ave. 2005 2006 2007 2008 2009
Jan.-Feb. Mar.-Apr. May-Jun. Jul.-Aug. Sept.-Oct. Nov.-Dec. (1,393)
(586) (583) (2,064) (1,675) (1,277)
Fig. 2 Changes in the percent frequency of catches
of S. niphonius classified into size categories in Kyoto Prefecture from 2000 to 2009.
Numbers in parentheses indicate the total catch (tons).
未満)についてみると,2004 年の 11 月に尾叉長 700 ㎜ 前後にモードを持つ群は,2005 年の 1 ~ 4 月でもモード の位置は変わらず,時期による大きさの違いは認められ なかった(t-test,p > 0.01)。2005 年 11 月の組成では尾 叉長700 ㎜前後にみられたモードの位置が,2006 年 1 ~ 4 月には尾叉長 600 ㎜となっており,大きさに明瞭な違 いがみられた(t-test,p < 0.01)。2006 年から 2009 年に ついても,11 月と翌年 1 ~ 4 月の組成には有意差が認め Jan. Feb. Mar. Apr. May Jun. Jul. Aug. Sept. Oct. Nov. Dec. 2008 2009 2005 2006 2007 Fork length (mm) Fr eq ue nc y (%) 0 10 20 n=1,526 0 10 20 n=560 0 10 20 n=744 0 10 20 n=325 0 10 20 n=1,537 0 10 20 n=2,775 0 10 20 n=683 0 10 20 n=1,569 0 10 20 n=1675 0 10 20 n=2819 0 10 20 n=1,967 0 10 20 n=1,917 0 10 20 300 400 500 600 700 800 n=1,753 0 10 20 n=2,170 0 10 20 n=946 0 10 20 n=1,762 0 10 20 n=1,023 0 10 20 n=324 0 10 20 n=1,281 0 10 20 n=3,326 0 10 20 n=2,318 0 10 20 n=3,024 0 10 20 300 400 500 600 700 800 n=2,308 0 10 20 n=1,194 0 10 20 n=1,411 0 10 20 n=2,464 0 10 20 n=749 0 10 20 n=669 0 10 20 n=174 0 10 20 n=967 0 10 20 n=1,659 0 10 20 n=1,277 0 10 20 n=3,100 0 10 20 n=2,884 0 10 20 n=2,786 0 10 20 300 400 500 600 700 800 n=1,845 0 10 20 n=1,691 0 10 20 n=1,200 0 10 20 n=2,253 0 10 20 n=2,161 0 10 20 n=893 0 10 20 n=1,715 0 10 20 n=2,245 0 10 20 n=2,941 0 10 20 n=2,375 0 10 20 n=2,064 0 10 20 300 400 500 600 700 800 n=1,885 0 10 20 n=2,319 0 10 20 n=1,402 0 10 20 n=2,144 0 10 20 n=988 0 10 20 n=2,251 0 10 20 n=2,044 0 10 20 n=2,984 0 10 20 n=1,589 0 10 20 n=1,408 0 10 20 300 400 500 600 700 800 n=2,021 0 10 20 n=2,810 0 10 20 n=1,670 0 10 20 n=937
Fig. 3 Monthly changes in the fork length frequency of S. niphonius caught by set nets in Kyoto
Prefecture from 2005 to 2009.
Broken lines show the boundary of size categories (520 ㎜> Sagoshi, 520 ㎜≦ Sawara).
られ(t-test,p < 0.01),1 ~ 4 月に漁獲されるサワラの大 きさは,前年の11 月時点よりも約 50 ~ 100 ㎜小さくなっ ていた。 冬季の水温と漁獲量の関係 1999 年から 2010 年の 1 ~ 3 月における京都府沿岸の水深 25 m 層平均水温と, 同期間のサワラ(「さごし」+「さわら」)漁獲量の関係に ついてFig.5 に示した。1999 年から 2005 年の 1 ~ 3 月の 漁獲量は2003 年を除いて 100トン未満であり,平均水
であり,同時期の「さわら」は1 歳魚主体であると推定 できる。 2000 年から 2004 年の京都府沿岸におけるサワラの漁 獲は,魚体の大きさにかかわらず,そのピークが秋季の みに現れる状況であった。しかし2005 年以後は,秋季 には尾叉長400 ㎜前後の 0 歳魚を中心とした漁獲が多い ものの,冬季から春季にかけて尾叉長600 ~ 700 ㎜の 1 歳以上魚が多獲されるなど,サワラの漁獲状況に変化が 認められた。特に,2006 年以後は 1 ~ 3 月におよそ 200 ~400トンが毎年漁獲されており,冬季における漁獲増 が著しい。2004 年以前では,秋季に比較して冬季には漁 獲量が減少したことから,京都府沿岸で越冬する個体は 少ないとされた(井上,和田,2008)。しかし近年の冬季 における漁獲状況をみると,現在では京都府沿岸で多く のサワラが越冬していると考えて良いだろう。 サワラの漁場形成の一因に水温が関与していることは よく知られている(岸田,1989; 阿部,1994)。本研究で 示した京都府沿岸の1 ~ 3 月の平均水温をみると,1999 年から2005 年は概ね 12 ~ 13℃であり,冬季の漁獲量 が増加した2006 年から 2010 年は概ね 11 ~ 13℃であ った。冬季の漁獲量と水温には明瞭な関係は認められ ず,漁獲状況が変化した2005 年以前と 2006 年以後の 期間でも,水温に大きな違いは認められなかった。周防 灘では,サワラは秋漁期に10 m 層水温が 12 ~ 13℃に 低下すると越冬のため海域から移出するとされた(岸田ら, 1985)。また福岡県筑前海のサワラでは,1 ~ 2 月の平均 水温が12.5℃以上で海域内に滞留することが示唆された (上田,的場,2009)。しかし,近年の京都府沿岸では,1 ~3 月の平均水温が 12℃以下の年でも 200トン以上のサ ワラが漁獲されており,平均水温が11.2℃であった 2006 年には約400トンが漁獲されている。また,京都府沿岸 に比べて冬季の水温が高い九州沿岸などにおいて,1 ~ 3
Fig. 4 Comparison of the fork length composition in November and the period from January to
April in the subsequent year in Kyoto Prefecture from 2005 to 2010.
温は11.9 ~ 12.9℃の範囲であった。2006 年 1 ~ 3 月の漁 獲量は393トンでそれ以前に比較して増加し,平均水温 は11.2℃であった。2007 年から 2010 年の 1 ~ 3 月の漁 獲量は171 ~ 444トンで,平均水温は 11.9 ~ 13.2℃であ った。1999 年から 2010 年の 1 ~ 3 月の平均水温は 11.2 ~13.2℃の範囲であり,同時期の漁獲量との間に明瞭な 関係はみられなかった。 考 察 京都府沿岸で漁獲されるサワラの月別尾叉長組成にみ られた2 峰型の組成群は,単峰型となる 6 ~ 7 月を除くと, それぞれ「さごし」と「さわら」の銘柄に概ね分かれる (Fig.3)。耳石による年齢査定結果によると,尾叉長 520 ㎜未満の個体では0 歳魚が,それ以上の個体では 1 歳 魚が多くを占めるとされた(井上ら,2007)。これらのこと から,8 月から翌年 5 月に漁獲される「さごし」は 0 歳魚 Fr eq ue nc y (%) Fork length (mm) 0 5 10 15 300 400 500 600 700 800 2008 Jan.-Apr. 2007 Nov. 0 5 10 15 300 400 500 600 700 800 2009 Jan.-Apr. 2008 Nov. 0 5 10 15 300 400 500 600 700 800 2010 Jan.-Apr. 2009 Nov. 0 5 10 15 2005 Jan.-Apr. 2004 Nov. 0 5 10 15 2006 Jan.-Apr. 2005 Nov. 0 5 10 15 2007 Jan.-Apr. 2006 Nov. 16.3
Fig. 5 Relationship between the water temperature
at a depth of 25 m and catch of S. niphonius from January to March in Kyoto Prefecture from 1999 to 2010. '99 '00 '01 '02 '03 '04 '05 '06 '07 '08 '09 '10 0 100 200 300 400 500 11 11.5 12 12.5 13 13.5 Water temperature (㷄) Q ua nt ity o f c at ch es 䋨t on s䋩
月に京都府沿岸よりも多くのサワラを漁獲する海域は確 認されていない(未発表)。このような漁獲状況から考え ると,サワラは少なくとも11 ~ 13℃の水温範囲では越冬 が可能であると判断される。 冬季の漁獲量が少なかった2005 年以前に京都府沿岸 でサワラが越冬していたかは不明であるが,冬季の漁獲 が増加し始めた2006 年以後に京都府沿岸の水温がサワ ラの生息に適した環境になったとは言い難い。サワラの 漁期や漁場形成の変化は,瀬戸内海や福岡県筑前海で もみられている(武田,1996; 上田,的場,2009)。これ らの海域でみられる現象は,サワラの資源量あるいは来 遊量の増減に伴って,分布・回遊域の拡大・縮小などの 変化が起こった結果であるとされている。京都府沿岸で 冬季にサワラが多獲されるようになった2006 年以後には, 若狭湾および日本海北部の漁獲量がさらに増加し始めて おり*4,サワラの日本海での分布域は拡大している。こ れらのことから,京都府沿岸における近年の漁獲状況の 変化は,井上,和田(2008)が指摘するように,日本海 へのサワラ来遊量の増加と,それに伴う移動・分布様式 の変化が影響していると考える。 冬季における尾叉長組成(Fig.3,Fig.4)をみると,尾 叉長400 ~ 450 ㎜の 0 歳魚では若干の成長がみられた。 1 歳魚では 11 月に漁獲されていた尾叉長 700 ㎜前後の 個体は12 月以降に少なくなり,代わって尾叉長 600 ~ 650 ㎜の個体が出現した。1 歳魚の大きさに変化がみられ た2006 年以後の冬季(1 ~ 3 月)における「さわら」の 漁獲量は,2007 年の 53トンを除けば 82 ~ 110トンであ り,1 歳魚の大きさに変化がなかった 2000 ~ 2005 年の 2 ~ 50トンに比較して非常に多かった。東シナ海系群の サワラは,2 歳以上になると雌雄で成長差がみられ,同 一年齢における個体の大きさは,雄が雌よりも約30 ~ 120 ㎜小さい(濱崎,1993)。京都府沿岸におけるサワラ の性比は,年間を通じて雌の割合が雄よりも高い(井上 ら,2007)。特に,尾叉長 500 ㎜以上のサワラでは雌の 割合は80%以上であり,性比は雌に偏っている(井上ら, 2007)。このことは,冬季にみられた 1 歳魚の尾叉長組 成の変化が,単に雌雄の成長差によるものではないこと を示している。これらのことから,年による違いはあるが, 近年の京都府沿岸では冬季に成長の異なる群れが移入し ている可能性がある。 瀬戸内海系群のサワラでは資源量の変動に伴い尾叉 長組成が変化し,漁獲量減少期における同一年齢での 魚体の大型化が報告されている(河野ら,1997; 竹森, 2006)。京都府沿岸で漁獲されるサワラ 0 歳魚の大きさ については,2002 年以降で年による大きな違いは認めら れなかったが,1 歳魚については近年の冬季における尾 叉長組成の変化から,大きさの異なる個体が存在するこ とが明らかになった。1998 年以降,東シナ海系群のサワ ラの分布域は日本海に拡大したが,日本海におけるサワ ラの漁獲は九州沿岸,日本海西部,日本海北部といった 広範囲に及んでいる。資源量の大きさに加えて,水温な どの環境が違う日本海各海域に生息するサワラの成長の 仕方は,瀬戸内海系群とは異なっていることが予想され る。日本海への来遊量の急増による本種の成長への影 響は不明であるが,本研究の結果から,日本海に分布す るサワラでは,来遊後に生息する海域によって成長差が 生じていることが示唆される。今後は,日本海の沿岸各 海域におけるサワラの漁獲状況や水温環境、生物測定資 料を収集・精査し,海域ごとに尾叉長組成の比較や耳石 などの年齢形質の解析を行い,日本海におけるサワラの 成長や来遊量の増大に伴う移動・分布生態を明らかにし ていきたい。 文 献 阿部 寧.1994.東シナ海のサワラの資源評価の問題点. 西海ブロック漁海況研報,3:37-45. 濱崎清一.1993.東シナ海・黄海に分布するサワラの年 齢と成長.西海水研報,71:101-110. 井上太郎,和田洋藏,戸嶋 孝,竹野功璽.2007.京 都府沿岸で漁獲されるサワラの年齢および移動につ いて.京都海洋セ研報,29:1-6. 井上太郎,和田洋藏.2008.対馬暖流域におけるサワラ の分布・回遊の変化について.水産海洋研究,72: 238-240. 岸田 達.1989.漁場の移動から見た瀬戸内海中西部 域におけるサワラの分布と回遊.南西水研報,22: 13-27. 岸田 達,上城義信,横松芳治,林 功,原 健一, 桧山節久,上田和夫.1985.周防灘におけるサワラ の分布と回遊.南西水研報,18:25-37. 河野悌昌,花村幸生,西山雄峰,福田雅明.1997.瀬戸 内海西部におけるサワラ資源の年齢組成の変化.南 西水研報,30:1-8. 武田保幸.1996.紀伊水道産サワラの近年における漁獲 低迷.水産海洋研究,60:28-25. 竹森弘征.2006.瀬戸内海東部海域で漁獲されたサワラ の成長と成熟.香川水試研報,7:1-11. 為石日出生,藤井誠二,前林 篤.2005.日本海水温の レジームシフトと漁況(サワラ・ブリ)との関係.沿 岸海洋研究,42:125-131. 上田 拓,的場達人.2009.サワラ漁獲量と水温との関係. 福岡水海技セ研報,19:69-74. 由上龍嗣,大下誠二.2009.平成 21 年度サワラ東シナ 海系群の資源評価.独立行政法人水産総合研究セ ンター西海区水産研究所,長崎.