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開発に伴う水文環境への影響とその評価 ―地下水位・河川流量の変化に着目して―

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生,セメント打設によるpHの変化,および自然由来の 重金属による水質の変化も含まれる。これら量的および 質的側面への影響を事前に把握するためには,工事の種 類や工法,対象地域の地形・地質特性によって評価手法 が異なるため,これらの諸条件を考慮して調査計画を立 案することが重要である。 本稿は,開発工事に伴う地下水・河川の水文環境への 影響について,とくに量的要素に関わる調査の基本手法 を現場に即した視点から確立することを目的とする。 2 .影響の検証と調査・解析の基本的考え方 工事に伴う地下水・河川への影響を明らかにするため に必要な調査の中で重要な点の一つに,地下水位の低下 や流量の減少が当該工事によるものか,あるいは降雨等 の自然要因によるものかを明確に判別することがある。 さらに,工事との因果関係を究明する以外にも,影響の 1 .はじめに 水資源としての地下水をその開発と利用の観点からみ れば,従来の研究の多くは適正揚水量の算定や解析に関 わる技術的な手法にあったと言えよう。一方,揚水に伴 う地下水位の低下,湧水の枯渇等に代表される所謂地下 水障害に関する調査手法に対する知見は比較的少なく, 因果関係についての明確な判断規準は未だ十分でないの が現状である。地下水障害に関する未然の調査は,工事 による水文環境への影響に対する補償のための基礎資料 としてのみならず,工法の選定や工期の短縮および環境 保全の面等の現実的な側面からも重要である。加えて, トンネル掘削工事においては,地下水位や湧出量に及ぼ す影響のみならず,河川流量への影響の調査や解析手法 も必要となる。地下水や河川に与えるこれら負の影響 は,水位低下や取水量減少に加え,掘削に伴う濁水の発

玉腰 幸士

・森 和紀

**

The process of hydrologic cycle has been substantially transformed with the increase of development. One of the notable numerical changes in water balance due to development is a decrease of groundwater recharge owing to the enlargement of impervious area. In the present paper, the effect of development on hydrological environment and its assessment has been investigated with special reference to the changes in groundwater level and river discharge. By com-paring the pre- and post-development state, the infiltration rate of precipitation, surface runoff, and groundwater level are comparatively assessed. As for a groundwater level, it is pointed out that the amount of leakage from tunnel construction is much larger than the infiltration of precipitation from land surface. The need of reevaluation of groundwater as a vital resource is on the rise from the view point of its indispensable role in sustainable water management in case of develop-ment.

Keywords: development, groundwater level, river discharge, environmental assessment

開発に伴う水文環境への影響とその評価

―地下水位・河川流量の変化に着目して―

The effect of Development on Hydrological Environment and Its Assessment

with Special Reference to the Changes in Groundwater Level and River Discharge

Koji Tamakoshi

and Kazuki Mori

** (Received November 16, 2013)

Section of Environmental Investigation, Division of Investigation,

Incorporated Foundation Mie Prefecture Environmental Conservation Agency, 3258 Ueno, Kawage, Tsu, Mie 510-0304

** Department of Geosystem Sciences, College of Humanities and Sciences,

Nihon University, 3-25-40, Sakura-josui, Setagaya, Tokyo 156-8550

一般財団法人 三重県環境保全事業団調査部環境調査課

〒510-0304 三重県津市河芸町上野3258

** 日本大学文理学部地球システム科学科

(2)

程度,影響が及ぶ時間の長さ,および回復・改善が確認 できる調査手法の採用が必要となる。 2.1. 調査の区分と指標 影響もしくは障害を明らかにするための調査は,期間 を以下の3 期に区分し,各期の解析結果を比較検討する ことで確認する(例えば,日本補償コンサルタント協 会,2008)。 ⅰ)事前調査(工事開始前の調査) ⅱ)中間調査(工事期間中の調査) ⅲ)事後調査(工事終了後の調査) 上記の3 期に分けた調査の流れと概要を整理して示せ ば表1 のとおりである。調査項目については,地下水へ の影響の把握と回復の検証には地下水位,湧水および河 川への影響については湧出量・流量とする。ここで,当 該工事との因果関係が認められた上で,地下水位の低下 と取水量の減少が受忍の範囲を超えた場合には地下水障 害の発生となり,地下水位が工事前の変動幅に戻り,同 一の揚水設備によって工事前の取水量が確保される時点 で影響は回復されたと考える。障害発生の指標となる地 下水位の測定については,気圧補正が可能な水圧式自記 水位計を用いることにより,1×100cmの精度で 1 時間 単位に6ヶ月以上にわたる連続記録が得られることか ら,高い精度での工事の影響の程度が観測できる。河川 の流量に関しても,三角堰・四角堰を越流する水位高に ついて,測定高が1m程度までであれば 1×10-1cmの精 度で1 時間単位に同じく 6ヶ月以上の連続測定が可能な 自記水位計が開発されており,信頼に足る観測値を経済 的に観測することが可能である。 地下水位をもって地下水障害を判断するための指標と する場合,特に当該工事が振動を伴う条件下では,工事 周辺地域における液状化の有無を確認する必要がある。 杭や矢板工等の打設による振動に起因して液状化が発生 した場合,地下水位が原状に回復したとしても帯水層の 有効間隙率が低下することによって透水性が低下し,工 事前の取水量を確保することができない怖れがあるから である。したがって,このような場合には,工事の影響 に対する評価の指標として地下水位を採用することはで きない。工事に伴う液状化は工事施工場所の周辺におい て発生する振動により地下水位が急激に上昇することか ら,工事箇所の近傍に観測井を設け,得られる地下水位 変化の記録を工事工程と比較することにより,液状化発 生の有無を確認することができる。液状化に伴う地下水 位変動の確認については,観測井に設置した自記水位計 表1  調査の流れと概要 時期 期間 調 査 目 的 調 査 項 目 調査結果の検討および解析 事前調査 工事 開始前 1年間 以上 工事開始前における自然条件の下で の地下水位・湧出量・流量の変動, 水質の季節変化・変動幅,水利用現 況の把握 ・既存井戸・湧水の台帳作成 ・地下水位・湧出量・流量観測地点 の選定 ・地下水位・湧出量・流量のモニタ リング ・採水と水質分析 ・降水量 ・用排水の確認,減水深 ・水文地質 ・調査範囲・影響範囲の設定 ・利水状況に応じた優先順位の決定 ・地下水流向・流速の解析 ・降雨に伴う地下水位変化の解析 ・水質変化とその要因 ・既存資料,応急対策の検討 中間調査 工事開始から終了まで 工事に伴う地下水位・湧出量・流 量,水質への影響の有無の確認,応 急対策の必要の有無 ・既存井戸・湧水台帳の内容変更の 有無 ・地下水位・湧出量・流量のモニタ リング(継続) ・水質(継続) ・降水量(継続) ・減水深(継続) ・調査範囲の妥当性 ・工事開始前と工事期間中における 地下水位・湧出量・流量,水質変 化の確認(影響の有無の解析) ・障害台帳の作成(工事工程と障害 時期との対比) ・応急対策必要性の解析 ・恒久対策の検討 事後調査 工事 終了後 1年間 工事終了後における影響の有無と回 復状態の確認,および恒久対策必要 の有無 ・地下水位・湧出量・流量のモニタ リング(継続) ・水質(継続) ・降水量(継続) ・減水深(継続) ・工事開始前と終了後における地下 水位・湧出量・流量,水質変化の 確認(工事後の影響の有無の解析) ・影響が認められた場合,補償基礎 資料としての障害確認書の作成 ・恒久対策必要性の解析

(3)

の意味において,工事の影響が及ぶ前における精度の高 い連続観測データの取得は不可欠である。事前調査の測 定期間については,水文気象条件,特に降水量の季節的 差異を加味し,1年以上とすることが望ましい。 3.1. 調査項目と内容 3.1.1. 水文地質調査 工事開始前における調査計画を立案するため,現地調 査と既存資料・文献に基づき,調査対象地域の地形・地 質,帯水層の分布,および河川の流況等を確認する。 ⅰ)地形・地質 沖積低地・扇央部等の比較的平坦な地域では,流下に 伴う流量変化に基づく伏没浸透,地質柱状試料の入手と 露頭の観察による帯水層の分布・透水性,および地下水 位の変動特性を把握し,基礎資料とする。 一方,山間部においては,亀裂・破砕帯の確認に加 え,特に地形・地質情報が重要となる。例えば,急峻な 地形で亀裂の多い岩盤地域においては,トンネル工事に 伴う掘削によりトンネル内の湧水が多量となり,周辺地 域の地下水・河川に大きな影響を及ぼす場合がある。現 地踏査では,岩種や岩盤の亀裂,破砕帯等の他,次に述 べる植生と河谷の特性を把握することにより,工事に伴 う影響範囲を決定するための裏づけ資料とする。 ⅱ)植生 針葉樹に比して広葉樹の地域では,腐植層の分布が厚 いために保水機能が高く,基底比流量の大きいことが知 られている。断層や破砕帯の厚い地区には竹藪が,水は けのよい砂礫層で地下水位が一般に低い地区には茶畑な ど,植生から地域の地質情報をある程度推定することが できる場合もある。 ⅲ)河谷 河床勾配が大きいほど降雨に対する直接流出の比率が 一般に高いため,地下水涵養量は小さく,谷密度が高い ほど不透水性地層であることから,同じく地下水涵養量 は小さい (大島・西村,1979)。工事の影響が及ぶ範囲の 河川流量は,岩質や亀裂の特徴,植生,河川の流況に大 きな差が認められない場合には類似の流出特性を示すと 考えられることから,比流量は重要な指標である。 3.1.2. 調査範囲の設定 調査範囲の決定は,工事の影響が及ぶと考えられる範 囲を以下の手法によって求め,得られる範囲よりさらに 広く設定する必要がある。 ⅰ)沖積平野 沖積平野のように比較的平坦な地形を示す地域の影響 範囲の調査は,工事に伴う地下水位の低下によって生じ によって,地下水位を10分単位に 1ヶ月程度連続測定す ることも可能となる。 地下水位を指標とすることに加え,揚水試験を実施 し,適正揚水量・透水量係数・貯留係数等の水理定数を 指標とすることも重要であり,上水道の水源井や液状化 発生の可能性が高い地域では,工事開始前に揚水試験を 実施し水理定数を確認しておく必要がある。一方,水理 定数の連続測定は経済的側面から困難であること,揚水 量については,特に灌漑期には地下水位が高いことで比 較的大量の取水が可能となり,調査する時期や条件に よって変動の幅が大きくなる難点も否定できない。例え ば,山間部に位置する直径1m程度のコンクリート製の 側井戸 (湛水深約2.5m) において,工事開始前に地下水 位を確認し2 回の揚水試験を実施した結果,水理定数の 値が1 回目よりも 2 回目に明らかに低下した例がある。 この事実は,透水性の低い重力井戸において,揚水試験 による過剰な揚水が急激な地下水位の低下を引き起こし たことが原因であると推定される。その結果,工事期間 中,および工事終了後においても,当該井戸で揚水試験 を実施することができなかった。このように,経済性の 観点に加え,地下水の涵養源や日常の取水状況を十分検 討した上で揚水試験を実施する必要がある。 2.2. 解析および対策 事前調査により得られた結果の解析は,地下水位およ び流量の測定値について,工事開始前の自然状態におけ る変動特性を明らかにすると共に,工事期間中および工 事終了後の測定値と比較検討し,工事による影響が及ぶ 期間と影響の程度を定量的に評価する。言うまでもなく これらの解析は,水文学的手法に裏づけされた結果であ ることが重要である。 当該工事との因果関係が立証された影響に対しては, 工事期間中に発生した障害であれば応急対策を,さらに 工事終了後においても障害が回復しない場合には恒久対 策を実施する必要がある。ただし,後述するように,対 象地域における地下水・河川水の利用目的の優先順位が 高い事例,例えば水道水源として利用されている場合に は,影響を未然に防ぐ上で工事開始前に応急対策を実施 しておくことも考えなければならない。 3 .工事開始前の事前調査 事前調査は,工事開始前の自然的要因による地下水 位・流量の変動を把握することにより,工事に伴う地下 水位と流量の人為的変化を判断する基礎資料とすること を目的としており,重要度の極めて高い調査である。こ

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調査地域が市街地である場合,影響半径に基づく距離 によって単純に調査範囲を決定しない点も肝要である。 調査範囲の外縁を地図上で距離のみを根拠に線引きした 場合,例えば,隣家の井戸では調査が行われているにも 拘らず当該井戸はなぜ調査対象にならないのか等の苦情 が生じることがある。この意味において,特に市街地での 調査範囲の決定に際しては,影響範囲に近接する道路や 水路などを境界とすることが適切な手法と考えられる。 ⅱ)山地部 山地斜面の地表を改変する造成工事の際には,腐植層 が消失することによる保水機能の低下に伴い,降雨が引 き起こす直接流出の短時間の増加と基底流量の減少が予 想される。加えて,造成工事による地下水位の低下や湧 出量の減少の他にも,山地斜面の改変に起因する浸透能 の低下が引き起こす土砂災害,あるいは流出水の濁度上 昇の障害も想定される。一般に,トンネル工事において は山体の深層を掘削する場合が多く,岩盤の裂罅・亀裂 等に賦存する地下水がトンネルの坑道に流出する可能性 があり,これに伴う河川流量の減少や下流域の地下水位 低下の障害が発生する事例が報告されている。 トンネル掘削による影響範囲の決定に際しては,水文 地質調査の項で記したとおり,河川勾配・谷密度・谷幅 や分水界を応用し,現地の地形から解析する水文学的手 法を用いることが多い (高橋,1965)。この手法は,旧国 鉄のトンネル掘削深度,地形,井戸枯渇の発生等に関す る数多くの資料に基づき1963 (昭和38) 年に発表された 手法であり,多くの実績による裏付けがなされており, 解析が比較的容易であることから現在でも使用されてい る。 一方,平野部および山間部についても影響が及ぶ調査 対象範囲として,有限要素法によるシミュレーションに よる手法が適用される場合がある。有限要素法は,精度 の高い水理定数が数多く得られる場合には正確な結論が 導き出される。ただし,山岳地の岩盤においては,風化 や亀裂の状態が一般に不規則であることから,透水性が 場所や深度によって異なる場合がある。岩盤の亀裂の連 続性や亀裂内の充填物によっては異なる地下水位が示さ れ,特に宙水の地下水位は本水を主体とする地点との間 に連続性を持たない。 さらに,透水係数の値は,粒径に基づき算出する方 法,ボーリング孔を利用する現場透水試験,あるいは揚 水試験等によって得られるが,求め方によっては値が一 桁異なる場合もある。水理定数のデータについては,前 記のように異なる透水係数が混在すること,地下水位に 調査時と現状との差が生じること,および地下水涵養量 る影響圏半径 (R) が指標となる。影響圏半径Rは,帯水 層の水理特性から推定する方法,経験式に基づき推定す る方法があり,透水係数が判明している場合には,透水 係数と地下水位低下量から求めるSiechardtの経験式が よく用いられる (土質工学会,1991)。 R=3,000 s  K

……… (1) ここに,R:影響圏範囲(m) s :地下水位低下量(m) K:透水係数(m/s) である。 河川の改修工事において河道に沿う方向に調査範囲を 決定する場合には,河川水と地下水との交流関係が重要 な前提条件となるため,河川水位と地下水位の比較,お よび地下水面図から判断される地下水の流向が重要な課 題となる。例えば,河道が地下水嶺に相当し,河川水が 地下水を涵養する失水河流と,対照的に河道が地下水谷 となって地下水が河川を涵養する得水河流では,調査対 象地域の設定に大きな差が生じることとなる。得水河流 では,河川改修によって河道近傍の地下水位を低下させ た場合でも,地下水が河川水を涵養するため工事の影響 が及ぶ範囲は比較的狭い地域に止まる。これに対し失水 河流では,河川水位を低下させた影響は,地下水の涵養 源が減少することにより影響範囲が大きくなる。両者の 判別には,現地における水文地質調査の結果に基づき, 流下に伴う流量の変化,河川水位と既設井戸における地 下水位の観測を実施する事前の対応が大きな意味を持 つ。 井戸を所有する民家が河道に隣接して密集する得水河 流の特性を示す河川の改修工事において,河床の掘削に 伴う河川水位の低下が予測される事例が過去にあった。 当該地区は旧市街地に位置し道路の幅員が狭い一方,駅 に近く交通の利便性が良いため増改築が繰り返されてき た経緯があり,新たな鑿井に必要とされる敷地がほとん ど得られない条件を伴っていた。加えて,地下水の水質 が比較的良好なことから上水道が敷設されてない世帯も 多く,応急対策や恒久対策の対応が困難な地域でもあっ た。現地における上記のような制限の下で,地下水が河 川水を涵養する得水河流であることを勘案し,工事施工 前に矢板を堤防に沿って打設することで河床低下による 河川水位の低下が地下水に影響を及ぼさないような配慮 を行った。その結果,矢板が打設されなかった地域では 地下水位の低下障害が生じた一方,矢板の打設地域にお いては,堤内地の矢板中央部で若干の水位上昇が確認さ れたものの,地下水位の低下は皆無であった。

(5)

の本数が少ない場合,井戸の分布が点在する場合には, 3 地点を上回る本数の観測井を配置することは経済的に 困難である。このような事例では,設置される1 地点の 観測井において,工事の影響が及ぶ地下水位低下量を求 め,影響半径 (R) に基づき障害発生地点の水位低下量を 算出する。当然ながら,1 地点のみの観測井を対象とす るため,工事掘削面の中心からの距離が同じ地点におい ては地下水位の低下量が全て同一であると仮定して求め る。これに対し,観測井の本数が複数ある条件の下で は,地下水位低下量の等値線図に加え,掘削面から観測 井の方向への影響半径の確認ができるため,工事に伴う 地下水位の低下をより高い精度で求めることが可能とな る。 図1 に示すとおり,揚水試験による任意の距離 (X) に ある地点の地下水位低下量 (s) は,次の (2) 式より求め ることができる (玉腰,2008)。 s= sw log (R/rw) ・log (R/x) ……… (2) ここに, s:井戸 (掘削面) 中心から任意の距離X地点 (m) の水位低下量 (m) R :影響半径 (m) sw :井内 (掘削内) 地下水位低下量 (m) rw :井戸 (掘削面) 半径(m) である。 (2) 式に基づき,Jacobの非平衡式 (非定常式) を平衡 式 (定常式) にすることにより,影響半径 (R),井内水 位,および井戸半径から任意の距離X 地点における地下 水位低下量を求めることができる。 さらに (2) 式から,影響半径 (R) は,井戸 (掘削面) 中 心から任意の距離xi地点において工事の影響を受ける地 下水位低下量siの値を得ることで,以下の (3) 式から求 めることもできる。

log R= sw log xisi log rw

swsi ……… (3) 任意の距離xi地点における工事に伴う地下水位低下量 siが観測井から判明すれば,(3) 式から影響半径 (R) を 算出し,その値を(2)式に代入することにより障害の 及ぶ地点 (X) の地下水位低下量を得ることができる。 また上記のように2 式に分けて算出する他に,下記の (4)式から値を直接求めることも可能である。 s=swswsilog (x irw) ・log (X/rw) ……… (4) が明確に得られない場合が多いことから,シミュレー ションは結果的に数値の精度に大きく依存し,実施する 経済的価値が見出せない場合がある。 3.1.3. 地下水位の連続測定および測定地点の選定 既設井戸に与える障害調査において,障害の対象とな る井戸の箇所数が極端に少ない場合を除けば,全ての井 戸の地下水位を連続的に測定し,各井戸について工事の 影響の有無を解析することは経済的に困難である。この ような場合には,調査対象地域を代表する観測井を選定 し,自記水位計から得られる地下水位の連続記録を解析 することで地域全域の既設井戸への工事の影響を求め ることが経済的である(全国地質調査業協会連合会, 1978)。 地下水位の連続測定に当たっては,すでに述べたよう に,精度1cmの水圧式の自記水位計が用いられる (日本 河川協会,1997)。自記水位計の設置には観測井や既設 井戸を利用することとなるが,既設井戸が用いられる場 合には観測井を新たに設ける必要がなく,経済的であ る。この場合でも,既設井戸が日常的に使用されている 場合は,揚水に伴う地下水位の変動が示されることか ら,測定精度に問題が残る。使用されていない既設井戸 においても井戸の湛水深が浅い場合には,障害が発生し 地下水位が低下を継続する途中で水位の測定が不可能と なり,以後,当該工事の影響による地下水位の低下を定 量的に確認することができない事態が生じる。このよう に,既設井戸を観測井として利用する場合には,使用さ れていないこと,および井戸の湛水深に十分な余裕のあ ることが条件である。したがって,これらの条件に合致 する既設井戸がない場合には,新たに観測井を設けるこ とが必要である。 工事の影響に伴う地下水位の低下は,当然の帰結とし て施行現場に近いほど大きく,距離が大きくなるほど影 響の程度は小さくなる。この点から,地下水位の観測地 点は工事の影響が明確に確認される工事現場近くに設置 することが一般的である。工事による障害の調査対象と なる既設井戸が数多くある場合は,3 地点以上の観測井 における地下水位の観測が有効である。すなわち,各観 測井において得られる地下水位を解析し,工事の影響に よる地下水位の低下量を求める上において,観測井を可 能な限り等距離 (3 地点の場合は正三角形に近い位置) に配置して工事の影響に伴う地下水位の低下量に基づく 等値線図を描くことで,観測井間および観測井付近の井 戸に対しても工事による水位低下量を推定することが可 能となる。 しかしながら,地下水への障害が予想される対象井戸

(6)

(2) 式より,

log (R/x)= s log (R/rw)

sw ……… (5)

log x=log R- s log (R/rw)

sw ……… (6) (s≦sw) 工事中や工事後においては,観測井から得られる地下 水位低下量の値に基づく等値線図を描くことにより,事 前計画時との対比ができることに加え,観測井が位置す る他の地点における地下水位低下量を推定することも可 能となる。 図2 は,(6) 式に基づき,工事の影響による地下水位 低下量 (s) が1.0・0.5・0.25・0.1mとなる距離を均質な 条件の下で図示したものである (玉腰,2012)。 3.1.4. 井戸・湧水・地表水の台帳作成 現地調査ならびに観測値の解析により調査対象範囲と 観測井の掘削位置が決定したことを受け(前記:3.1.2., 3.1.3.),調査地域における井戸・湧水・地表水の利用現 況を確認し,台帳を作成した上で事前の管理資料とす る。 1 )井戸台帳の記載事例 一般項目: 所在地,所有者(使用者)氏名,所有者住所・電話番 号,利用人数,井戸の設置場所(略図),用途(飲料 水・生活補助用水・養魚・業務等),上水道の有無,井 戸現状の写真等。 ここに,si: 井戸 (掘削面) 中心からの距離xi (m) 地点 の水位低下量 (m) である。 (2) 式および (3) 式は,掘削 (井戸) 半径,および掘削 (井戸) 内における地下水位低下量に基づき値を算出す るものであり,掘削面を円形に近似して半径を求めるた め,誤差が発生する。掘削内の地下水位低下量について も,掘削内の水位と地盤内の地下水位に差が生じる可能 性があるが,この問題に対しては,工事に伴う地下水位 低下量について,xi地点の水位降下量sixii地点の水位 降下量siiの2 地点のデータを得ることにより,(2) 式・ (3) 式・(4) 式において, rwxii swsii とすることで影響半径 (R) と地下水位低下量をより高 い精度で求めることができる。 前述の3.1.2. においては調査対象範囲としての影響半 径 (R) を推定する手法を記したが,実際に即して考え れば,工事の影響により生じた地下水位低下量に基づき (3) 式から影響範囲 (R) を求める方がより正確であると 言えよう。両者を比較し,(3) 式から得られた影響半径 が大きい時には,調査対象範囲を変更する必要がある。 さらに,事前計画として工事に伴う地下水位低下量の 等値線図を作成しておくことにより,影響が及ぶ既設井 戸の状況を事前に把握することができる。以下に示す (6) 式のとおり,任意の地下水位低下量を掘削面中心か らの距離から求めることができる (玉腰,2012)。

影響半径 R

自然水位

井戸半径 γw

水位低下量

sw

s

揚水量 Q

図1  揚水に伴う地下水位低下の模式図

(7)

2 )湧水台帳・地表水台帳の記載事例 湧水および地表水が地下水と同じように利用されてい る場合は,前記の井戸台帳と同じ項目について,井戸位 置を取水場所に,井戸の形状を取水管径等に変更した上 で湧水台帳・地表水台帳を作成する (日本補償コンサル タント協会,2008)。湧水および地表水の用途が生活用 水や敷地内の池である場合は,各世帯について台帳を作 成する。ただし,地表水が田畑や果樹園等に複数で利用 されている場合には,取水地点の位置,および用排水路 の系統をまとめて作成する (3.1.8.)。 3.1.5. 湧出量・河川流量のモニタリング地点の選定と 測定 湧水および河川水の湧出量・流量の測定地点について は,伏没や取水による流量の減少が認められない地点を 選ぶことが基本である。特に,山間部の渓流において流 量を測定する際の堰の設置では,河床が不透水層もしく は岩盤であることに加え,堰の設置に伴う水位上昇に よって生じる横方向への流出の有無も考慮しなければな らない。河川が断層や破砕帯を横切って流下する場合 や,上流の流量に比べ下流の流量に明らかに変化のある 場合には,上流側と下流側の2 か所を選定して流量を測 定する必要がある。 河川水の流量測定には,三角堰等を設置し,越流する 高さを1mmの精度で測定可能な自記水位計を用いるこ とにより,流量を連続かつ正確に実測することができ 個別項目: 井戸種別(手掘り・打込み・ボーリング等),井戸形 状(深度,地下水位,湛水深,口径,材質),揚水設備 の有無,形態(手動ポンプ,つるべ,電動ポンプの場合 はメーカー・形状・仕様・購入年月日),地下水位測定 基準点の標高。 現地調査の際,打込み井戸のように井戸とポンプが直 結されており,地下水位の測定が困難な場合には,天端 や配管を無理に外してまで実測を試みることは極力避け ることが望ましい。配管が腐食し,外しても元に戻すこ とのできない例が多く,最悪の場合,井戸の新設や全て の配管を取り替える事態が生じることがある。 井戸台帳作成のための調査では,既設の揚水設備を利 用し,15分間程度の連続揚水を行った後の揚水量を測定 する。この際,水温・pH・電気伝導度・気温を現地で測 定し井戸台帳に記載すると共に (日本補償コンサルタン ト協会,2008),3.1.6.で後述する水質分析用の検水を採 水する。この場合の揚水は,井戸の揚水ポンプが停止し ていることを一旦確認した後,蛇口1ヶ所を全開しポン プの稼働を再度確認して実施する。揚水が開始される当 初は井戸の実際の揚水能力が示されず,井戸内の溜り水 を揚水しており,地下水が井戸に直接流入してくる水量 を測定するのに時間を要するため,15分間の揚水を行う 必要がある。水質分析の目的からしても,井戸内の溜り 水ではなく,地下水を実際に採水することは重要である。 0 100m 掘 削 面 0.5m 1.0m 0.25m 0.1m 図2  掘削工事に伴う地下水位低下予想等値線図の例

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比流量に基づき,工事の影響が無い場合の推定流量と比 較した上で影響の有無を確認する。この結果,工事の影 響があると認められる場合は,流量の測定回数をさらに 増加させることが必要である。 3.1.6. 検測と点検 地下水位の連続測定,および堰の越流高による流量の 連続測定には,前述したとおり自記水位計を用い,現地 におけるこれら測定データの収集と点検を1ヶ月に 1 度 の頻度で実施する (全国地質調査業協会連合会,1978)。 自記水位計は1 時間毎の測定で約 6ヶ月間のデータを記 録することが可能であるが,機器の故障や不測の事態等 による欠測を避けるために必要な作業である。合わせ て,自記水位計のデータ収集時には水位を水位計等に よって実測する手作業を行い,自記水位計の値と対比し て誤差の有無を検測する。ここで水位に誤差が確認され る場合は,自記水位計の現地での調整や修正を行い,修 正できないような機器の故障では自記水位計を直ちに取 り換える。これによって水位データの正確さが裏付けさ れ,データの欠測は最大でも1ヶ月間以内となる。 調査結果の報告時には上記の検測結果を一覧表にして 提出すると共に,工期が1 年毎である場合には,調査期 間が完了する直前に自記水位計の記録紙・電池等の容量 を確認し,自記水位計が期間完了後も数ヶ月間は連続し て正確に作動するよう,新しいものに取り換えるなどの 点検が必要である。 3.1.7. 水質分析 水質分析は,対象となる全ての井戸の地下水と地表水 を対象に実施することが原則である。使用目的によって 水質分析の項目は異なり,飲用,生活用水の補助,養魚 等の用途に使利用している場合では当然分けて考える必 要がある。飲料水として利用されている場合,水道法に 基づく全項目について水質分析を行うと極めて高額とな り,対象となる全ての地下水・地表水を実施することは 経済的な負担が大きくなる。しかし,水利用の用途が上 水道水源である場合,もしくは地下水が営業に利用され ている場合には,その重要度を加味し,水質基準省令の 全項目を実施する必要がある。ただしこの場合でも,工 事による水質への影響が考え難い分析項目もあることか ら,既設井戸で生活用水に使用されている地下水につい ても代表的な水質項目で対応することが経済的である。 具体的には,補償の調査資料として1960(昭和35)年 から用いられ,補償業務として裏づけされている以下の 項目が参考になる (日本補償コンサルタント協会,2008)。 本資料によれば,水質を [A] と [B] に区分し,[A] は掘 削に伴う濁度の変化を把握する目的で以下の14項目に る。河川水の流量測定には,上記の堰による方法に加 え,容器による直接法,浮子法,流速計を用いる手法が ある (全日本建設技術協会,2002)。ここで,粒径の大き い礫や玉石,転石が河床に点在する山間部の河川におい ては河川水が転石の隙間を流下し,精度の高い河床断面 を得ることが難しい,もしくは,転石等の障害がない場 合でも,河床の形状が複雑で流水断面を測定できない場 合は流量を正確に実測することが困難であり,このよう な山間部の乱流河川では,塩をトレーサーとする希釈法 による流量測定を行うことが適している (新井,2003)。 塩分希釈法によれば,乱流河川において行った容器法お よび流速計による流量の測定結果との比較,さらには現 場での実験結果でも,高い精度で流量を求めることがで きた。ただし,塩分希釈法による流量の実測は,容器 法,浮子・流速計を用いる方法と同様,連続測定するこ とは困難である。 しかしながら,山間部の河川においては,原則,工事 の影響が予測される全ての河川を対象に流量をモニタリ ングすることが望ましい。このため,出水によって玉石 や転石が移動することなく,河床断面に変化のない地点 を 選 定 し, 水 位 (H),水位測定時の流量 (Q) を実測 し,最小二乗法により下記に示すH - Q 曲線式を求め る (水村,2002)。 Q =γ(H +β)2 ……… (7) Q:水位 H の時の流量 γ,β:係数 水位H を自記水位計により連続測定し,(7) 式に値を 代入すれば連続した流量を求めることができる。H - Q 回帰式を作成するための測定回数については,月3 回 (年36回) 以上が必要とされる (日本河川協会,1997)。 ただし,山間部の小河川における年36回の測定は経済 的に困難であり,規定回数より若干少なくてもある程度 の精度は得られると考えられる。実測に際しては,豊水 期・低水期の流量が含まれるよう,偏らないデータが必 要である。 一方,水利用等の面で重要度が比較的低い河川におい ては,経済性を加味し,自記水位計が設置されない場合 もある。このような河川では,流量を月に数回の頻度で 測定し,他の河川の自記水位計によって測定した堰の越 流高から求めた流量や,H - Q 回帰式から得られた流量 と比較することで,工事に伴う流量への影響を確認す る。すなわち,同一の調査対象範囲について自記水位計 による連続測定結果の得られない河川の流量は,流量を 月数回の頻度で測定し,他の河川の連続測定で得られた

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の距離が得られれば濁水が到達することはほとんどない と試算される。言い換えるなら,工事場所に近接する地 点で大規模な揚水が行われない限り,濁水が揚水井戸に 影響を及ぼす蓋然性は低いと考えられる。 掘削土に火山灰層が介在する場合やトンネル工事の岩 盤掘削などの事例では,土層や岩盤に含まれる自然由来 の重金属等が溶出し,水質に影響を与えることがある。 さらに,掘削された土層や岩盤が降水による酸化を受 け,もしくは工事に伴うセメント等に接することで化学 変化により重金属等が溶出する場合も生じる。例えば, 黄鉄鉱が含まれる土質の場合には,降水との化学変化に より硫酸が生成され,酸性になることで地層起源の砒素 を溶出させる。また,セメントによるアルカリ水でも砒 素を溶出させ,細粒化することで,水や空気に接する面 が大きくなり自然由来の重金属等を溶出させる。この点 において,掘削の対象となる土層や岩盤の以下に掲げる 自然由来の重金属等の濃度を事前に確認することも必要 になる。 カドミウム,鉛,六価クロム,砒素,水銀,セレン, フッ素,ホウ素。 上記の可能性のある地層を対象とする工事では,事前 に実施する水質分析において,地下水や地表水の自然由 来の重金属等の有無を確認し,工事中や工事後に実施す る水質分析の結果と比較する必要がある (国土交通省: 建設工事における自然由来重金属等含有岩石・土壌への 対応マニュアル (暫定版) ほか)。 掘削に伴う水質への影響の他にも,薬液注入による水 質障害の発生することがあり,調査手法については建設 省 (1974) に詳しい。既設井戸の地下水と地表水に対す る採水と水質分析の結果は,井戸台帳,および湧水・地 表水台帳作成の調査と同時に記録する。事前調査として の水質分析は,濃度の季節変化を考慮し,台帳作成時を 含め年4 回以上実施することが望ましい。 3.1.8. 地表水の用排水の確認および減水深 前述したように,湧水や地表水が個別の敷地内で使用 されている場合には,世帯ごとに湧水台帳・地表水台帳 を作成することとなるが,水路によって複数の水田・ 畑,果樹園に水が利用されている場合には,用排水の経 路を図示する作業が伴う。ただし,水田では,用水を必 要とする灌漑期を除けば水路に水を流下させないことが 一般的であることから,水路の確認には水が流下してい る灌漑期に行うことが望ましい。 水田において明確に流入地点と排水地点が判明する場 合は,水田の湛水深および流入量と排水量を測定する。 この湛水深と流入量と排水量の差を基礎に,水収支に基 ついて実施するとされる。 pH,電気伝導度,カルシウム・マグネシウム (硬度), 塩素物イオン,亜硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素,鉄及び その化合物,マンガン及びその化合物,有機物(TOC), 濁度,色度,一般細菌,大腸菌群数,臭気,味。 近年では,上記にあげた項目中,味については水質分 析担当者に及ぼす影響を考え,良質の水質であることが 判れば実施するものの,それ以外では行わないことが多 くなっている。 これに対し [B] は,主として地下水の流動系を把握す るために実施するものであり,自然界の水に溶存する以 下の主要7 成分が該当する。 Na+・K・Ca2+・Mg2+・Cl-・SO 42-・HCO3 -工事に伴う掘削作業によって生じる濁水が周辺地域の 地下水に影響する範囲については,地下水が帯水層を流 下する過程で濾過作用を受けることにより,大きな値を とらないことが知られている。工事現場の周辺地域にお いて地下水の水質が変化する影響範囲の予測に関し,濁 水の発生地点から濁水が流出する影響半径 (R) は下記の (8) 式および (9) 式により求めることができる (伊藤・ 森,1991;国土開発技術研究センター,1993)。 R=c 2πVh Q ……… (8) ここに, R: 濁水が全円周に均等に広がる場合の影響 半径 (m) c :安全率(>1.0) Q :揚水量(m3/day) V :平均流速(m/day) h :帯水層の底面から揚水位までの高さ(m) である。 緩速濾過の手法を適用すれば,濾過速度は一般に4~ 5m/dayであるので,今,V=4m/dayを (8) 式に代入す れば次の (9) 式を得る。 R≒c Q25h ……… (9) 一例として,Q=1,000 m3/dayの条件下において,h= 5m,c=3.0とすれば, R≒3× 1,00025×5  =24 (m) となり,工事現場の近傍において仮に層厚5mの帯水層 から1,000 m3/dayの揚水が行われたとしても,24m以上

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礎に,工事に伴う障害が発生した場合,利用状況によっ て想定される被害の大きさと障害の発生する可能性の大 きさから優先順位を決め,リスク管理を行う。ただし, 使用状況により,障害が発生してから応急対策を実施す るまでの時間的余裕がないものに対しては,例外的に事 前に応急対策や恒久対策を実施する場合もある。 1 )事前における例外的な対応例: 防火用水 病院において空調施設などに利用される地下水 上水道がなく障害者や高齢者が単身で暮らしている 場合 井戸や湧水が信仰の対象になっている場合 2 )使用状況による優先順位の例: [Aランク] 上水道がなく,井戸や湧水のみに依存して いる。 池で鯉・金魚・メダカ等を飼育している。 業務に使用している。 [Bランク] 上水道があるが,井戸や湧水を主体に生活 している。 上水道があるが,台所等に上水道設備(蛇 口)がない。 炊事は上水道を使用しているが,トイレや 洗面所に水道の配管がない。 [Cランク] 炊事は上水道を使用し,地下水は庭の水撒 きや洗車に使用している。 [Dランク] 井戸や湧水の利用施設があるが,現在使用 していない。 事前に実施した例外的な対策として実際に行った防火 用水対策について,利用水量と同じ水量を他の沢水から 確保した例,病院での地下水利用に対しては水道によっ て使用量を確保することができなかったために深井戸を 新たに掘削した例,上水道がなく障害者が単身で暮らし ている場合には上水道の配管を行うことで水道が常時利 用できる状態とした事例がある。 優先順位の上記Dランクについては,障害発生の際の 緊急性が低い。Cランクでは,障害が発生してからの時 間的余裕が多少あり,Bランクの場合には,水道の仮設 配管を対応することで時間的余裕が取れる。 一方,Aランクについては,障害の発生に対し時間的 な余裕がないため,応急対策の対応を事前に準備する必 要に迫られる。上水道の利用がない世帯では,水道契約 等に係る費用と手続き,仮設配管等の対応を考慮する。 池での養魚・飼育に関し,地下水・湧水に対する障害の 代替水源として水道水を供与する場合,滅菌用に水道水 に混入している次亜鉛酸ソーダが鯉等に影響を及ぼさな づく減水深の値を求めることができる。他に,減水深の 測定には,灌漑期の水田を利用して流入と排水を止め, 水田の4 隅の水位を 1 時間程度測定する方法,N型減水 深計等から算出する方法もある (山本,1983)。ただし, 減水深は日照条件等により変化する要素であり,天候を 加味した1ヶ月に数回の測定が必要である。減水深に関 する連続した記録を得る上では,湛水深および流入量・ 排水量の連続測定が条件となり,流入地点と排水地点に 堰を設置し,自記水位計によって湛水深を測定する。河 川流量の観測と同様,月1回の測定および検測を行う が,減水深の値は,同一日に同じ水田において測定する 場合でも,測定方法によって得られる結果が異なる場合 が多い。 一方,圃場整備がすでに行われた水田においては,圃 場整備事業の施行時に必要な流量としての減水深が求め られている場合がある。地権者が圃場整備事業施行時の 減水深を知っている場合も多く,この値と比較し減水深 調査の結果が小さく出た場合には,補償時に納得の得ら れない場合もある。逆に,減水深が大きく測定された場 合は,過剰補償となる可能性もある。すなわち,減水深 は日照条件等により一定の値を取らないため,既存資料 がある場合には,仮に工事に伴う障害が発生した時,圃 場整備事業施工時に求められた値に基づき補償を行う旨 を事前に伝え納得が得られれば,減水深に係る調査は不 要となり,経費の削減につながる。 3.2. 事前調査の検討および解析 前項までに記した各調査の結果に基づき,工事が開始 される前に,障害が発生した場合の応急対策の手順と手 法を計画する。応急対策および恒久対策の実施や障害に 対する補償の確証を得るに当たっては,工事の影響が及 ばない自然条件の下で変化する地下水位・流量,および 工事に伴う地下水位低下と流量減少を明確に区分できる 解析手法を確保しておくことが重要である。そのために は,地下水位や流量の測定に加え,降水量・河川水位の 資料も必要となる。臨海部での地下水調査において潮汐 の影響を受ける可能性がある場合には,潮位のデータも 把握する必要がある (中田,1989)。臨海部の地下水は, 塩水化が認められない帯水層においても,特に被圧地下 水では潮位の影響が水位に明瞭に及ぶ場合がある (森, 1981)。 3.2.1. 応急対策の優先順位 井戸台帳および湧水・地表水台帳を作成する時,用 途,利用現況,上水道敷設の有無については聴き取り調 査に基づき必ず記入する必要がある。これらの情報を基

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補償コンサルタント協会,2008)。 地表水の水温は,流下に伴う気温の影響を受けるた め,毎回,同じ地点において測定することが重要であ り,異種の水塊の混入や淀みによる水温変化の影響を考 慮し,流心部において測定する。地下水面と地表面との 接点にみられる湧水については,水温の年較差が比較的 小さい例が通則であるため,仮に水温に急激な変化が認 められる場合には,何らかの外的影響をうけている可能 性がある。河川水温は,水温を月1 度の頻度で測定する ことにより,水温の周年変化を把握することができるだ けでなく,河川水が水田の灌漑に利用されている場合に は,代替水源の水温と対比する意味を持つ。例えば,河 川流量の減少に伴う代替水源としてトンネル掘削の湧水 を利用する場合,湧水温が河川水温より明らかに低い地 域では,稲の成長に与える影響の観点から水路長を長く とり,加温を図る対策も合わせて必要となる。 地表水・地下水の電気伝導度は,滞留時間の増加に伴 う地層に由来する成分の溶出,ならびに異種の水塊の混 入により値が上昇する。したがって,地表水では,溶存 成分濃度の指標である電気伝導度が上昇すれば,流量に 差がない場合でも工事の影響を受けて水質に変化が生じ た可能性が考えられる。 地表水のみならず地下水のpH,特に融雪期における 河川水のpHには,近年の酸性雨の影響を受けて地域に よっては酸性化の傾向がみられ,加えて岩質や破砕帯の 影響により値が変化する。工事に伴い地下水位以下の深 度にセメントが打設される場合には,地下水が比較的短 い時間でアルカリ性になる現象が認められており,施行 規模が大きいケースでは飲用に供することが困難とな り,作物の生育や養魚に影響を与えることがあるため, 水質変化に対し十分に留意することが必要である。すで に3.1.7. で記したとおり,降水による酸性化,ならびに セメント打設によるアルカリ化に伴い,地層由来の成分 の溶出に新たな変化が生じた事例もあり,pHの測定は 重要な調査項目である。 上記のように,現地における測定結果に基づき,事前 調査の測定値と比較し有意な差が認められる場合には, 室内での水質分析の結果が出る前の時点で工事の影響を 加味し,地表水・地下水の使用を止める検討を行うこと ができる。 3.2.5. 降水量データの収集および選定 地表水および地下水の涵養源は,流域外からの導水等 がない条件の下では,降水が主たる部分を占める。すな わち,ひと雨の連続降雨に伴う河川流量の増加と地下水 位の上昇は,当該降雨の降雨量に大きく支配される。さ いよう留意する。このための方策として,水道水に浄水 器 (塩素除去器) を取り付け使用できるよう事前に準備 するが,水道水は地下水に比べて水温が夏季に高く冬季 は低いことを考慮し,工期を加味した対策を取る必要が ある。緊急時には錦鯉等を専門業者に預けることもかつ てはできたが,鯉ヘルペスのウイルス感染防止のため, この方法は難しくなった。したがって,あらゆる事態を 想定し,錦鯉等の値段を専門業者と飼育者の立会のもと で事前に確認し,写真を添付した書類を覚書とすること も必要となる。 3.2.2. 応急対策の検討 工事の影響による障害が発生した場合には応急対策を 検討する時間的な余裕がなく,この点からも,現場に適 応可能な応急対策の事例を事前に検討することが重要で ある。障害が発生した世帯に上水道がある場合は,障害 発生時に上水道を使用することが最も簡易な応急対策の 手法である。この際には,障害によって使用できなく なった地下水・地表水に相当する水量が今までの水道使 用量の増加量に等しいと考え,この増加分が補償の対象 となる。多くは上水道が整備されており,応急対策の代 替水源として上水道を利用することが多い。一方,山地 部においては,上水道が敷設されていない地域も多く, 代替水源として,井底深度の掘り下げ,障害の少ない地 点での井戸の新設,取水量に余裕のある井戸や他地域の 地表水からの導水により対応する。 3.2.3. 地下水面図に基づく地下水流向の検討 前述した井戸台帳の作成時に,地下水位の測定が可能 な開放井戸,および観測井における測定基準面の標高を 測量する。これにより地下水位を標高によって表わすこ とができ,測水時や採水時に使用していない井戸の水位 を測定し,地下水面図を作成する。地下水の流向は地下 水位等高線に直交する方向に得られ,動水勾配と透水係 数に応じた流速で流動する。このように,地下水面図を 事前に作成することで,対象地域における地下水の流動 を把握することが可能となる。地下水の流向と流速を前 もって確認しておけば,工事中および工事後における地 下水位等高線に基づき地下水の流動に関わる変化が確認 できる。 3.2.4. 現地での水温・水質測定および水質分析結果の 整理 事前調査としての既設井戸および湧水・地表流水の水 質試験の実施は,工事開始前における水質の変動幅を確 認することが目的である。すでに述べたように,台帳作 成時,地下水位および湧出量・流量の測定時に現地にお いて水温・電気伝導度・pH・気温の測定を行う(日本

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子であると言えるが,地下水位の上昇と直接の引き金と なった降雨量との相関が高くない例も指摘される。この 要因として,降雨により地下水位の上昇が起こるが,上 昇前の地下水位の値は対象とする期日以前における降雨 の影響を受けた水位であるため,当該降雨が地下水位の 上昇に直接関わるものではないことが考えられる。例え ば,20日間の無降雨期間の後に10mmの降雨があった 場合と,前日に50mmの先行降雨があった後の 1mmの 降雨では,同じ10mmの降雨量でも地下水位は大きく異 なることは当然の結果である。このように,降雨量に支 配されて変動する地下水位の解析には,無降雨期間の長 さと先行降雨の降雨量を考慮することが重要である。 河川近傍に位置する井戸において観測される地下水位 には,一般に河川水位との対応が認められることから, 河川水位が工事の影響を受けない前提の下で地下水位と 河川水位との一次回帰式を求めることができる。この 際,地下水位と河川水位の変化との間には時間の遅れが 生じるため,この点を考慮した回帰式を作成する。得ら れる一次回帰式の相関係数が高い場合には,工事開始前 における地下水位の変動特性として採用し,地下水位と 河川水位との一次回帰式においては融雪水および降雨以 外の要素を除外した条件下での地下水位の相関が得られ ることとなる。上記の一次回帰式に基づき工事に伴う影 響を確認するためには,工事開始前に得られた両者の回 帰式に工事中の河川水位を代入し,得られた計算水位と 実測水位とを対比することにより,地下水位の低下量と その期間を把握することが可能となる。ここで,観測井 を利用した地下水位の連続記録については得られるもの の,河川水位の連続データの入手は一般に困難な場合が 多く,河川水位のモニタリング,もしくは降雨量から地 下水位を算定する必要性が高い。なお,河川水位の観測 地点の選定に当たっては,洗掘・堆積による河道断面の 変化がない地点とすることが重要である。 積雪地域においては,無降雨期間が継続する場合でも 融雪による流量の増加が生じ,その結果,地下水位の上 昇が認められることから,地下水位と河川水との相関を 求める上では,融雪期を除く期間の降雨量を用いる。地 下水位と降雨量との関係については多くの先行研究があ り (例えば,中田 〔1989〕),降雨量を直接流出と基底流出 に区分して求めるタンクモデルによる解析 (菅原,1972), 降雨量を指標とするAPI (Antecedent Precipitation Index) 解析 (土木学会,1990) 等があげられる。両手法とも,地 下水位と降雨量,および流量との相関を得ることが特徴 である。 らに,降雪と融雪に伴う流出の場合には,河川流量の増 加および地下水位の上昇に時間の遅れが発生する。した がって,降水量の収集に際しては,現実的に困難に直面 することが多いが,降雪量が区分された値を用いること が河川流量・地下水位変化の解析に有効である。 降水量は,気象庁AMeDAS観測地点に加え,国土交 通省,都道府県,ならびに消防署を始めとする市町村の 各自治体から入手することが可能である。山地では,降 水量の時空間分布に偏在性の大きい事例が多く,トンネ ル工事などの限られた流域を調査する場合,距離のある 観測地点の降水量と流量との相関が低くなる可能性が高 い。特に,流下距離が短く河道規模が比較的小さな渓流 の流量と降水量との関係については,調査対象地域とそ の周辺における降水量の値が両要素の相関を左右する。 これに対し,下流域の沖積平野では,調査地点に近接す る地点の降水量に比し,むしろ上流域の降水量が河川流 量の上昇に影響を及ぼし,その結果,失水河流の河道周 辺における地下水位の上昇に寄与する場合もある。この 点からも,降水量の観測値が複数の地点で入手できる場 合には,河川流量と地下水位の変化に最も大きな影響を 与える地点の値を用いることが工事に伴う影響を解析す る上で重要となる。 このように調査地点の周辺において降水量データが数 多くの地点で入手可能な場合,全ての地点における値を 用いて河川流量・地下水位を解析し,最も相関の高い データを確認する手法に経済的かつ時間的な制約が伴う ことも事実である。このため,数多くの地点における降 水量データが入手できる場合は,簡易的に河川流量・地 下水位との相関を求め,相関係数が最も高く得られる地 点を抽出する手法が用いられる。この手法には複数あ り,一例として,毎月1日および15日の河川流量・地下 水位について対象とした期日以前7日間の先行降雨の総 計との間の一次回帰式を作成する方法が取られる。他に も,2~3ヶ月間の降水量積算値と河川流量増加量・地下 水位上昇量との間の一次回帰式を作成する方法があり, 得られる一次式の中で最も相関係数の高い観測地点の降 水量データが採用される。降水に対する応答としての河 川流量・地下水位には時間の遅れが生じることから,対 象とする当日あるいは前日等を除外し,相関係数を高め る試行錯誤が必要である。 3.2.6. 地下水位と降水量との相関 一般に地下水位は,ひと雨の連続降雨によって上昇す る。加えて,失水河流近傍に位置する井戸においては, 降雨による河川水位の上昇が地下水位に伝播する。すな わち,降雨は地下水位を直接的・間接的に上昇させる因

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を上回り,工事による影響範囲がさらに広いと判断され る場合には,調査範囲の拡大や観測井の追加が考慮され なければならない。 4.1. 中間調査の内容 中間調査は,事前調査によって得られたデータと対比 検討する必要性から,基本的に事前調査と同じ調査項 目・内容と手法に基づきデータの収集にあたる。した がって,地下水位,湧出量・河川流量の連続観測,測 水,および水質分析や降水量の収集の際は,事前調査と 同程度の精度が問われることとなる。 4.2. 中間調査における障害の検討および解析 中間調査の過程において水文要素に有意な変化が確認 された場合は,工事による障害の有無に関係なく,各事 象を正確に記録する。さらに,確認された障害が当該工 事に伴う影響であるか否かを迅速に解析し,応急対策を 実施する解析資料を作成する必要性に迫られる。当然な がら,判断材料としての解析資料は,第三者が客観的か つ水文学的にみて納得できるものでなくてはならない。 4.2.1. 工事の影響の有無の確認 地下水位および湧出量・河川流量に与える工事の影響 に関わる判断は,基本的に事前調査の際に解析されたタ ンクモデルやAPIによる手法を用いて検討する。この場 合,障害が発生した後に解析を開始するのでは応急対策 までに時間を要することとなり,障害を受けた水利用主 体にとっては支障をきたすため,可能な限り早い時点で 解析を進める必要性が高い。現実的には,地下水位・降 水量等の測定結果を収集した後に解析が開始されるの で,時間の損失が生じるが,その一方,地下水位の低下 現象は工事開始後に徐々に現れることから,工事開始前 におけるデータに基づき工事の影響による地下水位の低 下量を確認すること,あるいは無降雨期間の長期化に伴 う地下水位低下の傾向が明らかに大きく働いている場合 等,測定値を比較検討することで判断のつくことが多 い。また,トンネル工事によって掘削坑道内に相当量の 地下水が湧出する場合には,坑道より高位に位置する地 表水や地下水が岩盤の亀裂・裂罅を通して坑道に流出し ている可能性が否定できない。このような条件下では, トンネル掘削坑道への地下水湧出の増加量を確認すると 共に,坑道掘削の位置関係から障害が発生する河川に対 する判断が可能となる。 図3 は,地下水位変動と降水量との間に高い相関が得 られたAPIの解析事例である。工事開始前における降水 量に起因して変動する地下水位をAPI解析に基づき回帰 3.2.7. 湧出量・流量と降水量との相関 山地における特に渇水期の湧水および河川水の涵養源 は,降水と見做される。この意味において,湧出量・流 量と降水量との相関は高いと言えるが,山地の降雨は局 地的な現象であることが多いため,相関係数の最も高い 流域における降水量の既存データを入手するか,もしく は現地において降水量を観測することが両者の相関を高 める上で必要である。 流量と降水量との相関を求める上では,前述のタンク モデルおよびAPIによる解析が有効である。工事の開始 後,工事開始前に得られた流量と降水量との回帰式に工 事中の降水量を代入することにより,工事の影響が及ば ない条件の下での流量を推定することができ,工事開始 後に測定された流量と比較することで,工事の影響によ る流量減少や地下水位低下を把握する。 山地における河川流域では一般に,流量が降雨と共に 増加し,降雨後は徐々に減衰する。降雨後の流量減衰の 過程を工事開始前,工事中,および工事終了後について 比較することで工事に伴う影響の程度を見積もることが できる。降雨後における流量の減衰については,時間 (日) を対数,流量を整数とする片対数グラフにプロット し,流量減衰曲線の接線を直線で延長することで流量が ゼロとなる日数を求める。流量がゼロとなる時間が長い ほど,対象とした流域における降雨の貯留機能が大きい ことを示している。例えば,トンネル工事の事例では, 山体に貯留されている地下水が掘削によって坑道に流出 することで,河川水の涵養源としての地下水流出量が減 少し,流量がゼロとなるまでの日数が短くなることか ら,工事による影響を確認することができる。ただし, 過去に実施された調査事例によれば,流量の減衰経過が 片対数グラフ上で直線にのるが,工事の影響がない場合 でも同一の河川において流量がゼロとなる日数にバラツ キのあることが知られている。 4 .中間調査 (工事中) 工事期間中における調査の趣旨と目的は,事前調査に よって得られた工事の影響が及ばない条件下での河川流 量・地下水位と降水量との関係について,中間調査から 得られる関係を対比することにより,工事が原因で生じ る河川流量・地下水位の変化を明確に抽出することにあ る。合わせて,工事の影響により発生する可能性のある 水質変化についても,当該工事が原因であるか否かを明 確に判別することが求められる。 中間調査の期間中に観測井における地下水位に工事の 影響が確認され,得られた地下水位の低下量が予測範囲

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5 )障害確認日(障害を最初に確認した日時) 6 )工事の影響の有無(解析結果,水質分析結果) 7 ) 障害に対する回答日時,回答内容,回答担当者, 利用主体,連絡方法(電話・訪問等) 8 ) 応急対策の対応日時,対策内容,対応担当者(上 記の回答日時と同じ場合が多い) 9 )障害解消確認日,確認者,立会者,確認方法 これらの各項目が明記された障害発生台帳は,重要な 管理資料として障害調査の終了,および補償が完了する まで継続して使用する。なお,記載に当たっては,障害 の連絡日と確認日が必ずしも同じとは限らないことに注 意を要する。例えば,聴き取り調査の結果,「浴槽に水 を溜めるのに1 週間前から時間がかかるようになった」 の例では,障害を最初に確認した期日(障害確認日)は 障害連絡の1 週間前であり,障害確認日と工事の工程と の整合性において,解析の際に工事に伴う影響を考える 上で重要となる。 後述する5.2.2. において記載するように,6) 工事の影 響の有無に,障害の程度を定量的に明確にするための解 析に基づく障害の程度の規模,ならびに障害発生の期間 を追記する必要がある。 式を作成し,得られた回帰式に工事中および工事後の降 水量を代入して得られる地下水位の計算値と実測値をグ ラフに表したものである。図中には,工事開始前につい ても,回帰式に基づく地下水位の計算と実測値が図示さ れている。この図より,工事開始前のAPI解析から得ら れた地下水位の計算値と実測値との差が確認でき,工事 に伴う障害の程度,すなわち地下水位の低下量,および 障害の発生期間と回復状況を検証することができる。同 様の解析手法は,流量に対しても可能である。 4.2.2. 障害発生台帳 障害発生の確認がなされた時は直ちに現地で立会いを 行い,障害お現況を確認すると共に,工事による影響の 判断に拘らず全ての障害発生事例について以下の項目を 記載した障害発生台帳を作成し,管理する。 1 ) 障害が発生した地下水・地表水利用者の氏名・住 所・電話番号,調査番号等 2 )障害発生の連絡日時,連絡者,対応者 3 ) 障害発生の立会い日時,確認者,立会い者(地下 水・地表水利用主体) 4 ) 障害発生状況の確認(井戸枯渇,揚水量・流量減 少,水質変化等) 図3  API解析結果の例

参照

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