十分な放射線防護を行っても、なお高い 被ばく線量を眼の水晶体に受ける可能性 のある労働者に関する実態調査について
本調査に係る結果
産業医科大学 産業保健学部 欅田 尚樹
(前所属:国立保健医療科学院 生活環境研究部)
第6回 眼の水晶体の被ばく
限度の見直し等に関する検討会 資料 令和元年8月1日 4
1
報告事項
1. 各学会(日本放射線医学会・日本IVR学会、整形外科学会、日 本循環器学会、日本消化器病学会、日本脳神経血管内治療学 会)に推薦された十分な放射線防護を行っても、なお高い被ば く線量を眼の水晶体に受ける可能性のある労働者に関する実 態調査の実施可能性調査の結果(本調査2019年5月-7月)
2
推薦学会 調査施設数 医師
日本循環器学会 3 循環器内科
日本脳神経血管内治療学会 2 脳神経外科
日本医学放射線学会
日本IVR学会 2 放射線科
日本整形外科学会 3 整形外科
日本消化器病学会 5 消化器内科
本調査:調査方法
使用装置
•
血管造影装置:10台
•
透視装置:5台 防護方法
•
防護眼鏡:4種類
• 天吊型防護板:3種類•
寝台下防護カーテン
• RADPADⓇ
•
透視の際の正面側面同時照射の低減
•
透視モードの適切な選択/切り替え(15→7.5fpsに変更)
•
撮影時の室外退避
•
透視視野絞り
線量計:蛍光ガラス線量計(GD-352M、千代田テクノル
; 図1)線量計発送・回収:50本(10回分)をワンセットとしケースに入れて郵送
測定部位:防護眼鏡左/右両側の内/外両面(計4カ所)に線量計を貼付して測定(図2,図3)
図1 図2 図3
3
解析例1: 循環器領域IVR 循環器内科医師
[mSv]
*
頭・頚部個人線量計による算定
**
冠動脈カテーテル検査(Coronary angiography: CAG)
***
経皮的冠動脈形成術(Percutaneous coronary intervention: PCI)
****
末梢血管治療(EndoVascular Treatment: EVT)
循環器領域IVR内訳 2018年度(件)
CAG
**166
PCI
***161
EVT
****(下肢血管治療、鎖骨下動脈治療、腎動脈治療など) 94
合計 421
4
医師 水晶体等価線量
2016年度 2017年度 2018年度
循環器内科医 49.8 * 51.7 * 42.3 *
防護方法の詳細 循環器領域IVR
天吊型遮蔽板 0.5mmPb Kenex
防護眼鏡 0.07mmPb
パノラマシールド HF-400S 保科製作所
5
防護方法の詳細 循環器領域IVR
介入前 介入後
①遮蔽板の不適切な使用 以下を追加
①遮蔽板の適切な使用
②透視モードの適切な選択/切り替え(15→7.5fps)
6
右水晶体等価線量率 (注1) [μSv/min] 左水晶体等価線量率 (注1) [μSv/min]
防護方法 平均±SD 中央値 低減率(%) (注2) 平均±SD 中央値 低減率(%) (注2) 介
入 前 a)
遮蔽板 * 3.7±4.4 1.8 19.9±19.4 12.0 遮蔽板 *
+防護眼鏡 **** 5.8±4.7 3.8 -105 8.6±8.7 5.2 57
介 入 後 b)
遮蔽板 **
+透視法変更 *** 3.1±3.1 1.8 0 10.2±7.8 7.1 41 遮蔽板 **
+透視法変更 ***
+防護眼鏡 **** 3.7±1.7 4.3 -137 5.0±3.1 5.0 58
(注1)水晶体等価線量(3mm線量当量)[Sv]=1.597†[Sv/Gy]×水晶体線量(蛍光ガラス線量計読み値)[Gy] †EURADOS Report 2012-02 水晶体等価線量率=(水晶体等価線量)/(透視時間)[μSv/min]
(注2)低減率={1-(各防護方法での線量率中央値)/(介入前遮蔽板のみでの線量率中央値)}×100[%]
* 天吊型遮蔽板 Kenex:0.5 mmPbの通常使用(不適切位置)
** 天吊型遮蔽板 Kenex:0.5 mmPbの適切な使用
***透視モードの適切な選択/切り替え(15→7.5fpsに変更)
****パノラマシールド HF-400:0.07 mmPb
a)CAG+下肢造影 1例、CAG 2例、PCI+下肢造影 1例、CAG+EVT(R-EIA,L-EIA) 1例、一時ペーシング 1例、EVT(L-SFA) 1例、CAG+下肢造影+PTRA(L-RA) 1例、PTRA(R-RA) 1例 (n=9):透視時間:14m37s±6m53s(mean±SD), 中央値:15m15s;DAP :3.968±3.261 mGy・m2, 中央値: 3.055 mGy・m2
b)CAG+下肢造影 1例、PCI 5例、EVT+L-SFA(POBA) 1例、CAG(+FFR) 1例、CAG(+LVG) 1例 (n=9):透視時間:18m6s±9m12s(mean±SD), 中央値:14m28s;DAP:6.306±4.631 mGy・m2, 中央値: 4.403 mGy・m2
防護方法の違いによる
水晶体等価線量率及びその低減効果
7
循環器領域IVR年間実施可能件数
循環器領域IVR内訳
2018年度循環 器領域IVR件
数(a)
介入前
*の防護方法下で、水 晶体等価線量限度(20mSv)を
超過しない最大の件数(b)
介入後
**の防護方法下で、水晶 体等価線量限度(20mSv)を超過
しない最大の件数(c)
算定:頭・頚部個人線量計 算定:水晶体線量計(内/外比)
CAG 166 78 186
PCI 161 76 181
EVT(下肢血管治療、鎖 骨下動脈治療、腎動脈
治療など)
94 44 105
合計 421 199 473
(a):a=2018年度循環器領域IVR件数
(b):b=a×20[mSv]/42.3[mSv](2018年度水晶体等価線量),小数点以下切り捨て
(c):c=b/{(100[%]-58***[%])/100[%]},頭頚部個人線量計=水晶体線量計(外側)と仮定し防護眼鏡の低減率(58%***)を考慮,小数点以下切り捨て
*天吊型遮蔽板の不適切な使用
**天吊型遮蔽板の適切な使用,透視モードの適切な選択/切り替え(15→7.5fpsに変更),防護眼鏡の使用
***水晶体等価線量率の高い左眼での低減率(58%)
8
解析例2: ERCP 消化器内科医師
[mSv]
*
頭・頚部個人線量計による算定
**内視鏡的逆行性胆管膵管造影
透視検査内訳 2018年度(件)
ERCP
**397
9
医師 水晶体等価線量
2016年度 2017年度 2018年度
消化器内科 22.1 * 21.4 * 75.3 *
防護方法の詳細 ERCP
防護クロス 0.125mmPb 株式会社 マエダ
防護メガネ 0.07mmPb パノラマシールド HF-400
保科製作所
10
防護方法の詳細 ERCP
介入前 介入後
①防護クロスを使用
②防護眼鏡を使用
以下を追加
①透視モードを適切に選 択/切り替えた
(15→7.5fps)
11右水晶体等価線量率 (注1) [μSv/min] 左水晶体等価線量率 (注1) [μSv/min]
防護方法 平均±SD 中央値 低減率(%) (注2) 平均±SD 中央値 低減率(%) (注2) 介
入 前 a)
防護クロス * 0.8±0.3 1.0 7.7±3.6 6.6
防護クロス *
+防護眼鏡 ** 1.5±0.6 1.4 -40 4.1±1.9 3.8 42
介 入 後 b)
防護クロス *
+透視法変更 *** 0.4±0.3 0.3 70 4.3±2.4 2.9 56
防護クロス * +透視法変更 ***
+防護眼鏡 **
1.1±0.6 1.1 -10 2.3±1.6 1.4 79
(注1)水晶体等価線量(3mm線量当量)[Sv]=1.597†[Sv/Gy]×水晶体線量(蛍光ガラス線量計読み値)[Gy] †EURADOS Report 2012-02 水晶体等価線量率=(水晶体等価線量)/(透視時間)[μSv/min]
(注2)低減率={1-(各防護方法での線量率中央値)/(介入前防護クロスのみでの線量率中央値)}×100[%]
*防護クロス:0.125 mmPb
**パノラマシールド HF-400:0.07 mmPb
***透視モードの適切な選択/切り替えを促した(15→7.5fpsに変更)
a)ERCP (n=5):透視時間:24m00s±20m12s(mean±SD), 中央値:13m48s;DAP:13268.8±15038.8 mGy・m2,中央値:5673.7 mGy・m2 b)ERCP (n=5):透視時間:15m59s±8m12s(mean±SD),中央値:15m3s;DAP:7667.5±7525.7 mGy・m2,中央値:2305.7 mGy・m2
ERCP
防護方法の違いによる
水晶体等価線量率と線量低減効果
12
ERCP年間実施可能件数
透視手技 2018年度 ERCP件数
介入前
*の防護方法下で、水晶 体等価線量限度(20mSv)を超過
しない最大の件数(注1)
介入後
**の防護方法下で、水晶 体等価線量限度(20mSv)を超過
しない最大の件数(注1)
算定:水晶体線量計(外側)
(≒頭・頚部個人線量計) 算定:水晶体線量計(内側)
ERCP 397 219 *** 949 ***
(注1)年間実施可能件数= 年間水晶体等価線量限度(20 mSv)/(水晶体等価線量率中央値×透視時間中央値)
*
防護クロスの使用
**
防護クロスの使用、防護眼鏡の使用、透視モードの適切な選択/切り替えを促した(15→7.5fpsに変更)
***
水晶体等価線量率の高い左眼で算出
13
まとめ(1)
整形外科学会推薦施設
調査病院 A大学病院 B大学病院 C総合病院
医師 整形外科医 整形外科医 整形外科医
個人被ばく線量計[mSv] 0.8 N/A
*0.0
**総実施件数(2018年) 97 不明
***不明
***線量率
[μSv/min]
介入前 12.8 2.9 解析不能
****介入後 3.1 2.4 解析不能
****介入効果 低減率 % 76 17 解析不能
****介入後の防護方法下で、水晶体 等価線量限度(20mSv)を超過し
ない最大の件数
10,104 1,818 解析不能
*****
病院から個人被ばく線量計を配布されていない(従事者登録されていない)
**
病院から個人被ばく線量計を配布されているが、使用していない(未着用)
***
調査施設より総実施件数の回答が得られなかった。
****
参加医療機関の線量計の保管場所・返却遅延等の関係でバックグラウンドが高くなり解析不能となった。
14まとめ(2)
日本消化器病学会推薦施設
調査病院 A大学病院 B大学病院 C大学病院 D大学病院 E総合病院
医師 消化器内科医 消化器内科医 消化器内科医 消化器内科医 消化器内科医
個人被ばく線量計[mSv] 27.1 75.3 9.9 3.6 0.3
総実施件数(2018年) 304 397 111 40 70
線量率
[μSv/min]
介入前 2.2 6.6 8.3 1.0 測定下限値
以下
介入後 1.2 1.4 5.1 0.6 測定下限値
以下
介入効果 低減率 % 45 79 39 40 -
介入後の防護方法下で、水晶 体等価線量限度(20mSv)を超
過しない最大の件数
3,126 949 1,307 1,479 13,333 *
*
線量計素子の測定下限値以下のため、1.6 μSvとして算出
15まとめ(3)
日本循環器学会推薦施設
調査病院 A大学病院 B総合病院 C総合病院
医師 循環器内科医 循環器内科医 循環器内科医
個人被ばく線量計[mSv] 31.0 0.0
*42.3
総実施件数(2018年) 26 154 421
線量率
[μSv/min]
介入前 7.6 23.5 12.0
介入後 3.9 1.5 5.0
介入効果 低減率 % 49 94 58
介入後の防護方法下で、水晶体 等価線量限度(20mSv)を超過し ない最大の件数
243 462 473
*
病院から個人被ばく線量計を配布されているが、使用していない(未着用)
16まとめ(4)
日本医学放射線学会・日本IVR学会推薦施設
調査病院 A大学病院 B総合病院 B総合病院 B総合病院
医師 放射線科医 放射線科医 放射線科医 放射線科医 個人被ばく線量計
[mSv] 3.1 3.9 9.0 0.6
総実施件数(2018年) 138 202 222 207
線量率
[μSv/min]
介入前 2.7 2.0 2.0 2.0
介入後 0.5 0.9 0.9 0.9
介入効果 低減率 % 81 55 55 55
介入後の防護方法下で、
水晶体等価線量限度 (20mSv)を超過しない最 大の件数
4,684 2,300 1,095 15,333
17
まとめ(5)
日本脳神経血管内治療学会推薦施設
調査病院 A総合病院 B総合病院
医師 脳神経外科医 脳神経外科医
個人被ばく線量計[mSv] 12.7 11.9 総実施件数(2018年) 120 120 線量率
[μSv/min]
介入前 5.0 7.8
介入後 0.5 0.8
介入効果 低減率 % 90 90
介入後の防護方法下で、水晶体 等価線量限度(20mSv)を超過し ない最大の件数
1,889 2,010
18
まとめ
•
日本放射線医学会・日本IVR学会,日本整形外科学会,日本循環器学会,日本消化器 病学会,日本脳神経血管内治療学会から推薦された15施設17名の医師を対象に,十分 な放射線防護措置を実施することにより,水晶体の等価線量限度を5年間の平均で20 mSv/年かついずれの1年においても50 mSvを超えないこととする新たな眼の水晶体の 等価線量限度を遵守することが可能か検証した。
•
介入前の現状の診療における放射線防護方法下では,頭・頚部に装着した個人線量 計により算定される水晶体等価線量が20 mSv/年を超えていた医師は,17名のうち4名 存在し,最大値が75.3 mSv/年であった。
•
通常の放射線防護方法に加え,防護クロスの使用,適切な位置での遮蔽板の使用,防 護眼鏡の着用,必要に応じて診療に影響を及ぼさない範囲で適切な透視モードの選択 などの追加の放射線防護方法による介入を行うことで,いずれの診療科領域において も水晶体等価線量を大幅に軽減できる余地があることが明らかになった。
•
適切な放射線防護方法などの介入を実施し,防護眼鏡内側で算定することで,解析済 みの17人全ての対象者において,現状の施術実績数を考慮して推計した1年間に受け る水晶体等価線量は20 mSv以下に保つことが可能であった。
•
医療機関における適切な放射線防護方法への対応が確保されると仮定すれば,水晶 体の等価線量限度を5年間の平均で20 mSv/年かついずれの1年においても50 mSv を超えないこととする新たな眼の水晶体の等価線量限度を遵守することは可能であると 考えられる。
19