幸せな感覚
志水先生
長いお付き合いをさせていただいているのに、志水先生の生の授業を見せていただくのは初め てでした。本当に感動しました。これまでの「授業」に対する自分の考えが、ひっくり返ってしま ったような気分です。それは、「どうしよう」と頭を抱える状況ではなく「目の前が開けてくるよ うな、幸せな感覚」と言ったほうがピッタリの気分です。
「私は、こんな授業がしたかったんだなあ」と心から思いました。この嬉しい感覚が、志水先生の 授業のどこから生まれてきているのか、志水先生の授業の1時間をもう一度振り返りながら、自 分なりに考えてみたいという思いに駆られています。
★ まるで音楽のようだ
授業が終わった直後の感想です。
「リズム感のある授業」
私は、そのことをかなり勘違いしていたようです。「リズム感のある授業」というのを、全体にテ ンポの良い授業とイメージしている自分がいました。もちろん、テンポよく授業が進行すること はよいことですが、今日の志水先生の授業を観ていて、リズム感は、子供の分かりの中に生まれ てこそ意味があるということに気づかされたのです。それは、子供の分かりのリズムに合せると いうことでした。
授業の始まりまでは、ゆっくりゆっくり。子どもにエンジンがかかるのを待つ姿勢。
まずは、机の上の確認から。
「机の上にいるのは はさみ、ふでばこ」と良いテンポ。
子ども達は、「え~!」とびっくりの声を出しながら整とんし始めました。
「算数の好きな人」の声に、約半数の子が手を挙げ、「算数の嫌い、苦手な人」で残り半数の子が手 を挙げる。ちょっとびっくりです。志水先生は、ニコニコ笑顔で「大丈夫、大丈夫」のオーラ。一人 ひとりの目を見ながら、
「よくわからんなあと思ったとき、みんなで考えます。先生もヒントをあげます。」
「いいかい、みんな」
みんなの声が小さいのを受けて
「80点!」
「いいかい、みんな」
元気よく「はーい!」の声を聞いて
「よし、100点!」
そこで、始まりのチャイム。なんとも素敵な授業のスタートです。
授業が始まり、既習事項「三角形の定義」「四角形の定義」の確認で 5分間。
最初の算数的活動「プリントに書かれた三角形に直線を入れる」の説明に 2分間。
まだ、ゆっくりです。「例えばな、」「こうやって外側に・・」と具体的にやって見せながら、どの 子にも分かるようにゆっくり。
2つ目の算数的活動「4枚の三角形をプリントの三角形に合せて切るための線を入れる」の説明 は、 1分間。
少し、スピードが出てきました。志水先生の言葉も
「よい どん。やってみよ。」なんだか、やる気になってきます。
子ども達も、「レベルアップできそう!」「簡単そう!」と勢いが出てきています。
さらに、3つ目の算数的活動「ハサミで切る」になると間髪をおかずゴー!
「よし、あとは ハサミで切るんや!」
すぐにもやりたい子どもの気持ちを優先させるゴーサインの台詞は、子ども達のわくわく感を 一気に高めたのでした。
「ようい、スタート」「よい どん。やってみよ。」「ゴー!」志水先生の子供の気持ちに即した絶妙 の合図の言葉で、みんながさっと一斉に取りかかれたことの裏側には、このような緻密な言葉の コントロールがなされていたのでした。
3つの算数的活動への取り掛かりまでの時間の配分も、2分、1分、間髪をいれず、と3段階に分 かれています。しかも「ゆっくり、ゆっくり」から少しずつ早め、最後は「急展開のめちゃぶり」へ と盛り上がっていくのです。子どもの分かりのリズムを見据えた見事なリズム感、時間のコント ロール。リズム感のある授業とは、こういうことなんだと「目からうろこ」の展開でした。
★ 「○付け法」は、にこにこ笑顔で 命がけ
全員が4枚の三角形を切った段階で、ここまでが25分間。子ども達の周りを何度も回りながら
○をつけ、確認・支援をして見える志水先生の体から湯気が立ちそうです。
「はい、じゃあスットップして!」
なんと、ここで活動を止められたのです。「ふう~っ」緊張していた教室の空気が緩みます。音楽 でいえば「休符」
ひたすら活動してきた子ども達に、今、どんな状況にいるかと言うことを確認するための休符で した。
「いま、どこまでやっているかというと、・・・」3つの算数的活動の意味が子ども達の中で明確 になっていった瞬間でした。
なるほど、このまま急展開で走ると、子ども達は、「自分が今、何を、何のために 活動しているの
か」を見失ってしまうということなのです。すごいなあ。子ども達の息づかいが分かることの大 事さを教えてもらいました。
その都度「○付け法」で、子どもの思考の流れを把握していかれる志水先生だからこそできる「究 極の離れ業」です。
★ 揺さぶりは、学びの質を高める
この後の展開がおもしろかった。子ども達への揺さぶり!!が始まったのです。
ハサミで切ってできた三角形には、「目に見える辺として黒いマジックで書いた直線は2本しか ない」ことを示し、
「黒い線は、1本、2本じゃん。」
「これ、ほんとに 三角形って言えるの?」
ぎょっとしたような子ども達のなかの一人がつぶやきます。
「ちがう」
一瞬、もしかしたら三角形ではないかもしれないという思いが生まれます。この瞬間の緊張が、
子ども達の学びの質を高めていくのですね。
「線じゃなくて、1,2,3になっていたらいい。」
一人の子が、ぱっと手を挙げ、指で辺をなぞるように説明しました。
発言した子供の言葉と指の動きを全員でなぞりながら、「直線が生まれた」と板書。子ども達の緊 張が安心へと転換された感動の瞬間でした。
その後の4つ目の線数的活動「判断して書く」は、すぐにスタート。4分間。
最後の自力解決の4分間。終わったときの子ども達へのねぎらいの言葉が温かい。
「先生、ほんまにびっくりしたことあるんや。みんな、さぁっと書けてんや。えら い!」
このとき、10時35分。残りの時間は10分間です。
★ 大波がやってきた
ここから、仲間学習が始まるのですが、リズム感の極みとも言うべき時間が流れていきました。
4つの算数的活動が、子ども達の学びのリズムに合せて展開されたことの意味の深さ、その真価 が、まざまざと実感された時間です。
三角形と三角形。三角形と四角形。これらの分け方の気づきの連鎖が続きます。まさに、大波がや ってきたという感じです。
「すごい」「ええことや」「こういうのがあったんや」志水先生の独特の関西弁に誘われ、次々と大 波に乗っていく子ども達。教室全体が大きなうねりの中で躍動しています。
「なにい、手を挙げて。まだあるの?」
「まだある」「まだある」
「すごい」
「もう、疲れたわ。なに、手、挙げてんの? あるの? あるの?」
「まだある」「まだある」
この10分間の仲間学習のために、この10分間の楽しさのために、前半の35分間が仕組まれて いたことが見事に実証されたということでしょう。
波打つリズム感。教師と子ども達の一体感。まさに圧巻でした。
★ 収束に向けた一手が、秘かに打たれている
ほとんどの子が手を挙げ、新しい発見に興奮している盛り上がりの中で、新たな一手は打たれて いました。
「○○さんが手を挙げていない。今手を上げている人でヒントが言える人」
Uさんが指名され、「直線」ではなく「丸い小さな磁石」が手渡されます。
「直線をどこから置くのか、これ(丸い小さな磁石)を置いてみて」
上村さんは前に進み出て、三角形の底辺の右端に、その丸くて赤い小さな磁石をそっと置きまし た。頂点への布石が「見える化」した瞬間です。
赤い小さな磁石を基準に、次の指名打者、岸さんが「直線」で二つの三角形に分ける作業をしてい きます。興奮の中にいる子ども達に向けて、静かに打たれたこの一手こそ、「ここ ここ」と連呼 するしかなかった場所、「辺」と「頂点」に名前を付けるための布石になっていたのでした。
これまで、「ここ ここ」と言うしかなかった状態が続いたそのこそが「名前が必要な環境を作 る」という志水先生の作戦だったのです。最後まで我慢が強いられるこの作戦は、志水先生の我 慢勝ち。最後の最後で見事に花を開かせたのでした。
授業の終わりに、
「この勉強、楽しかった人!」
という志水先生の問いかけに、31人中30人が勢いよく「はーい!」と手を挙げました。
「むずかしかった人!」の声かけに、残った1人の子が手を挙げました。
志水先生は、優しい眼差しで包み込むように問いかけられます。
「どこがむすかしかったんや?」
すると、隣の子が、
「ちゃうんだって!」
なんと、お茶目な子供のフェイントだったのです。そんな風景が自然に出てくるほど教室が和み、
温かい雰囲気に包まれていました。
参観者も、志水先生も、子ども達も爆笑。
「よかった!」「ほっとした。」
志水先生のお顔が、嬉しさでいっぱいになりました。
いいなあ。そんな志水先生だから、こんなにも熱い授業ができるんだなあ。憧れの先生。憧れの授 業。はるか遠いけれど、いつかは、私もこんな授業がしてみたい。
不可能に近いこんな気持ちが、自然に湧いてきたのが今でも不思議です。
今回は、岡山の会場で志水塾のたくさんの仲間の先生方と出会えました。それも、嬉しかったこ との一つです。志を同じとする仲間の先生方と一緒に学ぶことの楽しさを、あらためて深く味わ う機会を作っていただいた志水先生に感謝です。本当にありがとうございました。
そして、本当にお疲れ様でした。
落合康子