九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
水生植物の密生度による水面熱境界の応答特性
井上, 寿人
九州大学農学部生物資源環境学科生物資源生産科学コース地域環境工学分野生産環境情報学研究室
http://hdl.handle.net/2324/1498263
出版情報:九州大学, 2007, 学士, 学士 バージョン:
権利関係:
卒業論文
水生植物の密生度による 水面熱境界の応答特性
九州大学農学部 生物資源環境学科 生物資源生産科学コース
地域環境工学分野 生産環境情報学研究室
井上 寿人
2008 年 3 月
目 次
第1章 序論
1.1 はじめに 1
1.2 研究背景 2
第2章 閉鎖性水域の水理特性
2.1 水温成層の形成と変動 3
2.2 水温成層の日変化 4
2.3 閉鎖性水域における水生植物の生態 4
2.3.1 水生植物群落の構造 4
2.3.2 水生植物の生活型 4
2.3.3 水生植物の生活型による湖沼の分類 6
2.3.4 水生植物による浄化利用 7
2.3.5 水生植物利用手法 8
第3章 水生植物の熱伝導率に関する実験
3.1 実験概要 10
3.1.1 実験目的 10
3.1.2 実験装置 10
3.1.3 測定機器 11
3.1.4 使用植物 11
3.1.5 実験方法 16
3.2 実験結果および考察 16
第4章 水生植物の密生度による水面熱境界の応答特性に関する実験
4.1 実験概要 18
4.1.1 実験目的 18
4.1.2 実験装置 18
4.1.3 測定機器 19
4.1.4 実験方法 21
4.1.5 実験条件 22
4.2 結果および考察
4.2.2 熱量・熱フラックスの時間変化 25
4.2.3 成層安定度 28
4.2.4 レーリー数 30
4.2.5 照度の時間変化・鉛直分布 31
4.2.6 水生植物による照度の減衰率 33
4.2.7 密生度による熱フラックス 35
4.2.8 混合層の発達速度の時間変化 37
第5章 結論 39
謝辞 40
参考文献 41
第1章 序論
1.1 はじめに
近年・自然環境保全への国民的意識の高まりを背景に,農業用貯水池や湖沼などの水域に おいても公益的かつ多面的な機能が求められている.本来の目的である潅漑用水の確保だ けでなく, 地域の歴史的文化遺産として,また豊かな親水空間を提供する潤い・憩いの場 としての機能も見直されている.
わが国の農村では,古来豊かな自然が育まれてきたが,戦後の農業生産技術の発展の過 程で,生産一辺倒の技術進歩と生活の都市化,混在化による生活雑排水や下水道処理水の 増加が農村の自然環境を悪化させてきたことが否めない事実として存在する.そのため,
湖沼や貯水池などといった水の出入りが少なく,さらに自浄作用が小さい閉鎖性水域では 汚濁物質が集積しやすく,富栄養化が深刻な問題となっている.このような水域では,植 物プランクトンの一次生産が極めて高いため,アオコや赤潮の大量発生がしばしば観測さ れており生態系の多様性に大きな影響を与えている.それに伴い水辺周辺地域の景観悪化,
悪臭といった水環境への悪化も懸念されており,その改善が極めて重要な課題となってい る.農林水産省の行った農薬用水源池等の調査では,大規模な農業用ダムや農業用ため池 の約40% が富栄養化の水域となっている.今後さらにその実態と果たすべき役割を検討 し,富栄養化に対する早急な改善・対応策を確立させ,これまで以上に適切な維持管理が 求められている.
1.2 研究背景
貯水池や湖沼といった閉鎖性水域では,河川に比べて水深が大きく,滞留時間が長いと いう特徴がある.また,外部との流入・流出が極端に少ないため物質が蓄積されやすく,
自浄作用も小さいため富栄養化が深刻化している.閉鎖性水域における水質悪化は,水温 差や水質濃度差に基づく密度成層化が顕在化し,物質の鉛直輸送・混合が抑制されること に起因する.この成層状態を解消する駆動力として,水面における風の作用による機械的 擾乱(吹送流)および日中の日射・夜間の放射冷却に基づく熱的擾乱(熱対流)があり,
この2つの擾乱に対する水域の応答である流動と水質物質の挙動との関係を解明すること が重要な問題である.本研究では特に熱的擾乱の卓越した場合の閉鎖性水域を対象とする.
閉鎖性水域における熱対流について,とくに比較的水深が浅い水域を考えたとき,季節 変動による水温躍層は一般に存在せず,日サイクルでの水温成層化および水温混合層の形 成が支配的となり,水質の悪化が問題となる夏期の水質変動に重要な影響を及ぼすことが 報告されている(森ら,2001).
一方,これら閉鎖性水域の水質浄化策として,水域に生息する水生植物を用いた水質浄
っとも生長した時期に刈り取り湖外へ除去することで,水域の栄養塩を抑制するというも のである.これまで水質浄化に水生植物を用いる手法は自然にやさしく,多量の環境水を 浄化するものとして多くの研究がなされており,水面に漂って生育する浮遊性植物につい てはオオサンショウモ(嶋田ら,1988)やホテイアオイ(石井・則直,2005a,b)などの 有用性が報告されている.
しかし,このような水面に繁茂する水生植物では,その規模により,水域内流動の駆動 力となる熱的擾乱を遮断し,水域内の流動が抑えられた結果,底層に集積している栄養塩 類が上層へ運ばれず,効率的な水質浄化能力が発揮できないことが考えられる.このよう な,水生植物が閉鎖性水域に繁茂した場合の内部循環流および物質輸送メカニズムに関す る研究例は少ない.
そこで本研究では,富栄養化の進行した浮葉性植物帯優先型の池を想定し,無風状態に おいて熱的擾乱が卓越した場合を考え,水生植物による被覆が,水域に付加される熱フラ ックスに与える影響を定量的に評価することを目的とする.まず,被覆部における熱境界 を考える上で必要な,各水生植物が持つ固有の物性値を調べるため,葉の熱伝導率に関す る実験を行う.次に,水生植物の種類およびその密生度に対応した被覆部での熱境界を定 義するため,水槽実験を通じて日中の日射および夜間の放射に対する各被覆条件での熱遮 蔽率を明らかにする.そして,これらの結果を基に,数値シミュレーションにおける水面 熱境界を設定し,水域の流動規模とバランスする水生植物の繁茂量との関係を解明する研 究へと発展させることを目的とする.
図1-1 熱的擾乱による循環流
第2章 閉鎖性水域の水理特性
2.1 水温成層の形成と変動
空間的に閉じた閉鎖性水域において,水温,浮葉性物質による濁度,溶解性物質などの 空間的量の差により鉛直方向に密度差を生じ,外乱がない状態では安定に成層化している.
このような密度の差により形成される成層を密度成層と呼び,特に温度によるものを水温 成層という.春から夏の受熱期においては,大気との熱交換や風の擾乱が水面に作用して 水温成層が生成される.表層は暖かく,一様に混合されているので混合層ともいう.表層 の乱れは水温躍層と称する密度の急変層である水温急変部までしか到達せず,深水層では 乱れや水質混合が小さく,躍層で隔てられた上下層の密度差は大きいため鉛直混合が生じ にくい.このように水面熱交換や風など気象要因によって形成される躍層を一次躍層とい う.密度勾配が大きく明瞭な躍層は界面的に挙動し,躍層界面もしくは密度界面と呼ばれ る.
図2-1 水温成層
湖沼や貯水池ではわずかな水温さが流れや乱れを発生させる.放熱期や夜間に水面が冷 却されると,自然対流によって鉛直混合が生じ,結果として水温躍層は低下する.
図2-2 水表面が冷却された場合に生ずる自然対流と混合層
2.2 水温成層の日変化
1 日の間にも季節変化と同様な水温変化が生じる.ただし,季節変化よりもそのスケー ルは小さい.季節スケールで変化する水温構造を季節成層,1 日スケールで変化するもの を日成層と呼ぶ.ここでは日成層について論じる.日中には受熱によって水温成層が発達 し,夜間には水面が冷却され自然対流が生じることによって鉛直混合が促進され成層は弱 くなる.閉鎖性水域における水環境物質の挙動の主因は,風の作用によって起こる吹送流
(機械的擾乱)および太陽熱によって起こる日中の成層化と夜間の熱対流(熱的擾乱)で ある.水域に風の作用がなく熱的擾乱のみが作用する場合,水面は日中加熱され水温成層 ができ,夜間,冷却されて水温は一様化する.この水温日成層・日混合層の発達・消滅過 程が水環境物質の輸送に果たす役割は大きい.
2.3 閉鎖性水域における水生植物の生態 2.3.1 水生植物群落の構造
水生植物の群落の研究は歴史が深く 19 世紀後半から現在に至るまで様々な学者が研 究を行っている.これらの研究の主な内容は各々の植生をどのように分類し位置づける かというものであるが,これらの研究に共通して言えることは,湖沼,ため池の水生植 物群落は周辺部から中心に向かい相関的に明瞭な同心円的帯状に分布がなされていると いうことが挙げられる.
2.3.2水生植物の生活型
環境に結びついた植物の生活様式,生態的特徴(適応性)が生活型である.生活型に は,有名なラウンケアの生活型がある.これは,植物が生活に不利な時期をどのように 過ごすかによって分類したものである.休眠芽を地表からどの位置に作るかにより,地 上植物・地表植物・半地中植物・地中植物に分けられる.さらに,一年生・越年生・二
年生植物を一年生植物にまとめ,休眠芽の位置が水中または水で満ちた土中にあるもの を水生植物とする.これには湿性植物も含まれる.以上の分類と生育期の生活様式など を考慮して,水生植物の生活型は次のように分類することができる.
・ 水生一年植物・・・・・・種子を作り,一年で生活環境を完了する.
・ 水生地中植物・・・・・・休眠芽が水底の泥の中にある.
・ 水生半地中植物・・・・休眠芽水底の地表近くにある.
この3つを大きく区分した上で,さらに生育期に水中でどのように生活しているかによ り,
・ 着生植物・・・・・・・・・・急流の岩の表面に固着しているもの(カワゴケ・ソウ・カワゴロ モなど)
・ 浮葉生植物・・・・・・・・水面に浮揺しているもの(ウキクサ・サンショウモなど)
・ 根生植物・・・・・・・・・・根は水底の土中にあるもの(ヒツジクサ・ヒシなど)
に分類される.
また,おもな葉が水面に対してどのような位置にあるかにより
・ 抽水植物帯・・・・・・・・水面上に葉がつき出ている.
・ 浮葉植物帯・・・・・・・・水面上に葉が浮かんでいる.
・ 沈水植物帯・・・・・・・・葉は全て水中にある.
に分類される.
抽水植物 浮葉植物 沈水植物 浮標植物 全体が浮標 ヨシ
ヒメガマ
ヒシ オニバス
エビモ クロモ
ウキクサ アオウキクサ
ホテイアオイ 水底に根,一部の
茎や葉が水面上に
水底に根 水面に葉
水底に根 茎や葉は水 水辺林 湿生植物
抽水植物 浮葉植物 沈水植物 浮標植物 全体が浮標 ヨシ
ヒメガマ
ヒシ オニバス
エビモ クロモ
ウキクサ アオウキクサ
ホテイアオイ 水底に根,一部の
茎や葉が水面上に
水底に根 水面に葉
水底に根 茎や葉は水 水辺林 湿生植物
図2-3 水辺のエコトーン
水生植物の群落には多くの藻類や細菌が生息しており,水生植物とともに水域浄 化の役割を担っている.また,水生植物の群落は,魚介類や昆虫・鳥類といった様々 な生物にとっての産卵場,営巣場であり,貴重な生活空間を提供している.
2.3.3 水生植物の生活型による湖沼の分類
湖沼にはそれぞれの生い立ち,形,水質,集水域など湖沼をとりまく環境条件の 違いがあり,それがそこに生育する植生の違いとして現れてくるのは当然である.
池ごとに生育する水生植物の優先生活型をもとに湖沼の分類が行われている.浮葉 植物帯,沈水植物帯は抽水植物帯などに比べ強く環境要因の影響を受けると考えら れるので,これらの優占度を重視して次のように分類されている.
○浮葉・沈水植物帯優占型
浮葉,沈水,抽水植物帯が調和を保ち生育する安定した湖沼である.富栄養化の 進行していない比較的きれいな湖沼で,丘陵地の人為的影響の少ない地域の湖沼に 多い.富栄養化が現在のように進行していなかった時代には,この型の湖沼がごく
普通であったと思われる.水生植物の種類,量ともに豊富であり,ごくまれには,
浮葉植物帯を欠き沈水植物帯のみ優占する沈水植物帯優占型というべき湖沼もある.
○浮葉植物帯優占型
浮葉植物帯が優占し,沈水植物帯は存在しないか,ごくわずかに見られるだけで ある.岸辺にはヨシ・マコモなど抽水植物帯が生育する.富栄養化に伴う水質汚濁 で,浮葉・沈水植物帯優占型からこの型へ移行するものと考えられる.汚濁により 透明度が低下し,水植物帯の生育を阻害するためと考えられる.
○浮揺植物帯優占型
岸辺にはヨシ・マコモなど抽水植物帯が生育するが,浮葉・沈水植物帯は見られ ない.富栄養化のかなり進行した湖沼がこの型である.優占群落は,ウキクサ群落,
ホテイアオイ群落である.家庭排水による汚濁の激しい住宅周辺の湖沼で,しばし ばホテイアオイが水面全域を埋め尽くすほど繁茂しているのが観察される.
○抽水植物帯優占型
浮葉,沈水植物帯は生育せず,岸辺にヨシ,マコモ,フトイ,カンガレイ,クロ グワイなどが生育する湖沼である.水の華を生ずるほど富栄養化した湖沼にこの型 が多い.この型の湖沼は,富栄養化による水質汚濁を原因とする場合と,水位変動 が激しく,毎年湖底部の多くが露出することが原因となる場合がある.いずれの場 合も,それらを原因として浮葉,沈水植物帯が絶滅したものと考えられる.
このように,湖沼における水生植物の生育環境と水質変動は密接に関わりあってい る.また,水生植物が多量に繁茂する夏季には富栄養化が進行している湖沼になる ほど,より多量に水生植物が繁茂するため,水生植物の存在が湖沼の水質変動の妨 げになっていると考えられる.
2.3.4 水生植物による浄化作用
河川を始め一般の水域では,自然の自浄作用が認められている.自浄作用は,希 釈・拡散・沈殿などによる物理的作用,酸化・還元・凝集・吸着などの化学的作用,
微生物などによる吸収・分解などの生物的作用の3つの作用の集合した結果起こっ ている.自浄作用では物質の除去は基本的にはなく,有機物が無機物に,あるいは 生物体へ取り込まれ,形を変えるものである.したがって,水生植物に取り込まれ る物質も限界があり,かつ微生物の役割が大きく関与していることも事実である.
一般に水生植物による浄化作用には次の4 つがある.
①浮揺物質(SS)の沈殿除去作用
水生植物の繁茂により,水の流れが穏やかな場所あるいは水中の茎葉部に接触して 沈殿しやすくなる.
②窒素やリンの吸収除去作用
水生植物による窒素,リンなどの栄養塩類の吸収は直接的な浄化作用である.また,
水中の茎葉部に付着する付着藻類からも吸収される.
③有機物の分解作用
水生植物に付着する付着微生物が水中の酸素を利用してアンモニア態窒素を硝化す る.また,根の表面は地上部より送られた酸素の薄膜が存在し,硝化が生じており,
さらに根部付近には沈殿堆積した有機物が多量に存在し,脱窒菌による脱窒作用が 期待できる.(沖ら 2003)
2.3.5 水生植物利用手法
水生植物を利用する水質保全手法の選定に当たっては,地域の特性に応じて,手 法の特徴を生かす方向で考えなければならない.現在行われている水生植物を利用 した水質保全システムの培地別分類について,その特徴を以下に示す.
①水耕法(浮葉植物利用,浮きいかだなど)
水耕法とは土を用いず,砂などの不活性な支持体と養分を溶かした水で植物を生育 させる耕法である.長所としては,除去率が高い,植物体の収穫は容易で機械化の 可能性もある,汚染の甚だしい場所に移動可能,アオコの制圧,水面利用のため新 たな用地を必要としないなどである.
問題点としては次が挙げられる.浮葉植物では利用できる植物種が少ない.T-N や SS 除去率からはホテイアオイが最も有効であるが,収穫物の含水比が高く,後の 利用が難しい.浮きいかだ方式では利用できる植物に制限は少ないが,大型の植物 では支持体に工夫が必要である.
②土耕法(wetland など)
長所としては,利用できる植物種が多い,導水すれば休耕田など既存の土地利用上 での計画が可能,土壌微生物による脱窒が期待できる,黒ボク土のリン吸収能を利 用できる,易分解性であれば有機系排水も受け入れ可能,などである.
問題点としては,植物栄養の主体は土壌養分に依存するので自らの植物への吸収効 率は低い,短絡流による除去率の低下,ろ過速度が小さい,目詰まりが生じやすい,
などである.
③土以外のろ材による方法(バイオジオフィルターなど)
自然水質浄化機能活用浄化法(バイオジオフィルター浄化法)とは,ろ材による吸
着,植物による吸着,微生物による吸着の3つを組み合わせて処理水中の窒素及び リン等の物質を浄化する方法である.長所としては,上記①及び②の欠点をある程 度カバーしており,さらにろ材による物理化学的除去を取り組むことができる,面 積当たりの除去率は高い,食用植物向き,維持管理作業が容易などである.
問題点は,栽培施設のイニシャルコストがかかることである.また,各手法に共通 する問題点として以下のようなことが挙げられる.
(ⅰ)処理過程での問題としては,植物が吸収除去する物質は原則として無機物,除去 能は気象条件・季節変動(温度・日照)に著しく左右される,施設型以外では冬期に 能力が落ちる,夜間の除去率は低いので日中を含む滞留時間とする必要があるなどで ある.
(ⅱ)システムの維持管理問題としては,比較的多くの維持管理作業をこなす人手の確 保,収穫した植物体の処理・利用体制の確立である.(増島ら 2003)
以上のように,水生植物を利用した水質浄化法は様々提案されている.しかし同時 に,水生植物は閉鎖性水域内の内部循環に影響を与えるため,施行にはこの影響の規 模を考慮する必要がある.
第3章 水生植物の熱伝導率に関する実験
3.1 実験概要 3.1.1 実験目的
外界温度に対する水生植物の反応には,しばしば時間的なずれが見られる.また,
同一植物でも生育段階あるいは種類によって温度反応も異なる.したがって,植物 の温度反応を考える上で,植物自身のもつ熱伝達能力に対する理解が必要である.
このような観点から,本章では水生植物が水域内の熱対流現象に与える影響を考え る上で重要となる各水生植物の持つ熱伝導率を,定常比較法を用いた室内実験によ り明らかとした.
3.1.2 実験装置
熱伝導率の測定にあたって,周囲の急激な温度の変化をできるだけ少なくするた め,発泡スチロールにより作成した側壁により外気との熱の移動を,また中板によ り上下空間での熱の移動を防いだ.測定部としては,中板に直径約 1cm の穴を 2 つ開け,そこに植物の葉および供試体を挟むように設置し,上部より加熱すること で2つの試料に同等の熱流速を与えた.試料の表面温度を計測するために表側・裏 側に熱電対を1本ずつ配置している.
図3-1 実験装置図
熱電対:上 熱電対:下
熱電対:上 熱電対:下
天然ゴム 葉
電 熱 板
熱電対:上 熱電対:下
熱電対:上 熱電対:下
天然ゴム 葉
電 熱 板
熱電対:上 熱電対:下
熱電対:上 熱電対:下
天然ゴム 葉
電 熱 板
電 熱 板
発泡スチロール
供試体 葉
電 熱 板
発泡スチロール
供試体 葉
(a) 断面図 (b) 全体図
3.1.3 測定機器
温度センサーには熱電対を用い,葉の表・裏,供試体の表・裏に1本ずつ計4点 設置し,記録にはサーモダックEFを使用した.また,水生植物の長径,短径の測 定にはものさしを,厚さの測定には,ノギス(分解能0.05mm)を用いた.
短径
長径
短径
長径
図3-2 測定写真
3.1.4 使用植物
本研究において使用した4種類の浮標性水生植物(アオウキクサ,アマゾンフロ ッグピット,オオサンショウモ,トチカガミ)の詳細を記す.アマゾンフロッグピ ットは,日本では湖沼などにあまり分布していないが,水質浄化能力が高く,繁殖 力も強いこと,また他の3種類の水生植物と形状が異なることから本実験において 採用した.
アオウキクサ (ウキクサ科)
(Lemna paucicostata Hegelm)
図3-3 アオウキクサ
全国各地の水田,池沼,溝および河川の岸などの水面に最も観察される浮標性の多年 草.近年,除草剤の普及でみられなくなったが,かつては水田の水面を覆うほどの大増 殖がしばしば見られ,水田の地温の低下を招く雑草とされてきた.水汚染のメカニズム やその生態影響を解明するための指標生物および実験材料として,また重金属などの汚 染物質除去回収の担い手になりうる素材として注目されている.
(特徴)
成長した葉状体は扁平,広長楕円形,先端は円頭または鈍頭で中央はややとがる.基 部は鈍頭,表面は緑色または淡黄緑色,裏面は淡緑色,長径 3-6mm,短径2-4mm.表 面は光沢があり平滑,葉脈 3,やや不明瞭であるがわずかに隆起,中央脈両端に微笑突 起が1個ずつある.根は白色糸状,長さ1-2cm,ときに4cmに達す.根帽があり,根端 は鋭尖頭.
アマゾンフロッグピット ( トチカガミ科 ) (Limnobium levigatm)
図3-4 アマゾンフロッグピット
観賞用水槽内で水質浄化植物として広く用いられている.長いひげ状の根を持つ多年 草の浮遊植物で,葉裏はスポンジ状になり浮力がある.根生基部から水面直下を横走す るランナーを伸ばして子株を作る.繁殖力が強く,短期間で水面一面に広がることもあ る.6~7月に白色の小さな花をつける.
オオサンショウモ ( サンショウモ科 ) (Salvinia molesta Mitchell)
図3-5 オオサンショウモ
オオサンショウモは,熱帯~亜熱帯地方に生育する熱帯アメリカ原産の水生シダ植物 で日本において帰化植物となっている.日本の在来種であるサンショウモ同様,浮標性 の1年草で,胞子で越冬する.一般に短期間で異常に繁茂する帰化植物は,水質浄化能 力が非常に高いが,オオサンショウモもその例外ではない.また,オオサンショウモは,
栄養塩類の吸収効率が高いだけでなくその後の収穫が容易であり処理コストが低いこと,
再利用の可能性が高いこと,固体が分解しやすく方法によっては有機肥料や家畜の飼料 として期待できることなどが特徴として挙げられる.
(特徴)
幼体の浮葉は長楕円形または卵円形で扁平,前後は心形,成葉になると軍配状となり,
内側にやや折りたたみ,波状に褶曲する.成長した茎は径約2mm,長さ5-8mm,まば らに分枝する.葉は3輪生,水面に浮上する2葉は対生し,水中に垂れる1葉は水根と なる.浮葉は草質で軟弱,淡黄緑色,長さ 5-10mm の葉柄がある.葉身は長さ 2-3cm, 幅 2-2.5cm,明瞭な中央脈があり,茎と同様に針状の毛を密生する.浮葉の表面に生え る毛は白色,長さ2-3mm,多細胞からなり,中央脈から左右に斜出した平行脈の間に密 に分布する.浮葉の裏面は淡緑色,密毛でおおわれるので,水滴をよくはじく.
ホテイアオイ ( ミズアオイ科 ) (Eichhornia crassipes Solms-Laub.)
図3-6 ホテイアオイ
ブラジル原産で大形の浮標性多年草の水生植物である.他の植物と比較して最大光合 成能力が高く,水質浄化能力に優れていることからこれまで多くの研究がなされている.
耐寒性は弱いが,現在では関東と北陸以西の池沼や水路などにも見られる.夏季には短 期間に大繁殖して広範囲にわたって水面を覆う.
(特徴)
全草無毛,潤沢,茎は水中にあり葉を叢生する.草高は水深が 1m以上のところでは 30-60cm,富栄養性の水湿地では1.5m以上にも達する.基部から紫黒色で,長さ5-50cm, 支根が多数あるひげ根が房状に水中へ垂れる.小さいうちは,葉も短く,葉柄の浮き袋 も球形で水面に接している.育つと浮き袋は楕円形になり水面から10cm 程度立ち上が る.浮葉の葉柄は円柱形,径3-5mm,内部は径5mmの中空でやや硬く,長さ5-15cm であるが,中央部が広倒卵形または球形,内部は多孔質で海綿状をなしよく浮水する.
水が浅いところで根が泥に着いた場合には,泥の中に根を深く下ろし,泥の中の肥料分 を吸収する.
3.1.5 実験方法
実験は室内で行い,外気の条件は制御していない.あらかじめ実験に使用する水 生植物の葉の長径,短径および厚さを測定した.供試体には,厚さ2mmの天然ゴ ム(熱伝導率
λ
=0.13(W/m・K))を用いた.電熱板を用いて上方50cmから加熱を 行い,葉および天然ゴムの表裏の温度差が定常状態に達したところで5分間測定を 行った.測定周波数は0.5Hzである.以上の実験を,水生植物の種類を変え,それぞれ10サンプルずつ実験を行った.
3.2 実験結果および考察
定常比較法
熱伝導率既知の試料と未知の試料とを隣接して置き,両試料に付加される熱量が 等しいとして
λ
を求める方法を,定常比較法という.これは多孔質材料のように不 均質な試料や断熱材といった熱伝導率の小さな試料に適用される例が多い.熱伝導による個体内部の熱の伝わる量を図 3-7のように 1次元の場で,定常熱伝 導として考えると,フーリエの法則から
dx
Q=−
λ
dT (3-1)として表される.ここでQは熱流密度,
λ
は熱伝導率である.定常状態において,今試料の厚さを
X
(mm),試料の表面温度をT
1, T
2とすると熱 伝導率λは2
1 T
T X Q
= ・−
λ
(3-2)で表される.本実験においては供試体として厚さ2mmの天然ゴム(
λ
=0.13(W/m・K)) を用い,これと比較することで各植物の熱伝導率を算出する.Q X
T
1T
2⊿T
⊿x
表側
裏側
Q X
T
1T
2⊿T
⊿x
表側
裏側
図3-7 熱伝導の模式図
表3-1に各水生植物の形状および熱伝導率を示す.熱伝導率としては,アオウキクサ が最も低く,アマゾンフロッグピットが最も高かった.これは,アマゾンフロッグピッ トの葉の裏側がスポンジ状になっており,熱伝導率の小さい空気を多く含んでいるため と考えられる.
図3-8に熱貫流率を示す.これはK値と呼ばれ,この値が小さいほど熱を伝えにくく,
断熱性が高いことを示す.図3-8より熱貫流率が最も低いのはホテイアオイであるが,
他の水生植物との大きな差異はみられない.これは今回の実験ではホテイアオイの葉の みで計測を行っていることに起因している.しかし,実際に繁茂するホテイアオイは草 丈が非常に高く,水面に被覆している部位は主に茎および根であり,それらが折り重な っているため,水面上での熱貫流率は,さらに小さくなると予想される.
表.3-1水生植物の形状および熱伝導率
アオウキクサ アマゾンフロッグピット
No. 長径(cm) 短径(cm) 厚み(mm) 熱伝導率(W/m・K) No. 長径(cm) 短径(cm) 厚み(mm) 熱伝導率(W/m・K)
1 - - 0.2 0.0194 1 1.81 1.64 2.35 0.1092
2 - - 0.2 0.0175 2 1.60 1.30 2.65 0.1273
3 - - 0.2 0.0163 3 1.41 1.28 2.00 0.1385
4 - - 0.2 0.0197 4 2.00 1.66 1.60 0.0973
5 - - 0.2 0.0208 5 1.91 1.58 3.45 0.1334
6 - - 0.2 0.0177 6 1.28 1.06 2.30 0.1441
7 - - 0.2 0.0198 7 1.59 1.14 2.10 0.1445
8 - - 0.2 0.0194 8 1.63 1.30 2.00 0.1138
9 - - 0.2 0.0179 9 2.18 1.96 1.95 0.1159
10 - - 0.2 0.0256 10 1.59 1.27 1.95 0.1096
オオサンショウモ ホテイアオイ
No. 長径(cm) 短径(cm) 厚み(mm) 熱伝導率(W/m・K) No. 長径(cm) 短径(cm) 厚み(mm) 熱伝導率(W/m・K)
1 1.56 1.62 0.45 0.0586 1 3.40 3.78 0.65 0.0384
2 1.39 1.59 0.50 0.0467 2 3.40 3.78 0.55 0.0391
3 2.09 2.27 0.40 0.0305 3 3.40 3.78 0.40 0.0317
4 1.67 1.81 0.43 0.0303 4 2.70 3.13 0.50 0.0325
5 1.62 1.62 0.45 0.0275 5 2.70 3.13 0.50 0.0288
6 1.58 1.67 0.35 0.0371 6 2.70 3.13 0.40 0.0300
7 1.67 1.73 0.40 0.0305 7 2.70 3.13 0.50 0.0389
8 2.55 2.45 0.35 0.0486 8 4.26 4.36 0.50 0.0357
9 1.58 1.77 0.40 0.0365 9 4.26 4.36 0.55 0.0460
10 1.57 1.70 0.45 0.0437 10 4.26 4.36 0.40 0.0353
97.1100
77.1028
92.1480
73.2689
0 20 40 60 80 100 120
アオウキクサ アマゾンフロッグピット オオサンショウモ ホテイアオイ
熱貫流率 (W/m2 ・K)
第4章 水生植物の密生度による水面熱境界の応答特性に関する実験
4.1 実験概要 4.1.1 実験目的
水温成層場の水温鉛直対流現象を解明にするにあたり,水生植物の被覆による影 響として水面熱境界を把握する必要がある.3 章において,水面に水生植物が繁茂 したとき,その植生の持つ物性値に応じて熱輸送が遮蔽されることを示した.これ らの遮蔽効果について実水域レベルでの適用を試みるために,各植生の物性値に加 え,それらの繁茂形態を考える必要がある.すなわち植生がどの程度密集して繁茂 しているかを考慮する.
本実験では,水生植物の種類・密生度に対応した被覆部での熱境界を定義するた め,水面における水生植物の密生度を変化させ,水温鉛直分布の時間変化および水 面直下における照度を測定し,その結果を通じて日中の日射および夜間の放射に対 する遮蔽率を明らかにした.
4.1.2 実験装置
実験水槽の規模は,深さ100cm,直径64cmの透明アクリル板製の円柱形水槽で ある.水深を80cmとし,上部20cmを防風壁とする.水槽側面からの放熱を防ぐ ため,側壁を厚さ1cmの発泡スチロールで覆い,熱移動は最小限になるようにする.
また,水槽内には遮光シートを貼り,水槽内壁での光の乱反射を防止している.水 表面には,直径 0.125mm の透明な釣り糸を張り巡らせ,植物が等分布に繁茂する ようにする.実験水槽は5個作製した.
照度計
熱電対
図4-1 実験装置図
4.1.3 測定機器 (Ⅰ)温度センサー
気温および水温測定に用いた温度センサーの形状を図4-2(a)に示す.温度センサ ーは銅とコンスタンタンをハンダにより接合した熱電対である.これを水深 4cm から鉛直方向に8cm 間隔で各々の水槽に対して10点ずつ設置した.水温の記録に はサーモダックEFを用いた.
図4-2 実験装置図
(Ⅱ)照度計
水面近傍における光度測定に使用した照度計(直径 1.9cm)の形状を図 4-3 に示す.
照度計は,紫外~赤外精密測光用
Si
フォトダイオード(S1336-44BK,浜松ホトニクス 製)を用いて計5個製作した.水中での水圧に耐えるよう防水加工を施し,また太陽光 を効率的に受光するため,半球状の透明アクリル板でフォトダイオードを覆った.
図4-3 照度センサー
32cm
4 8 8 8 8 8 8 8 8 8 20
4 32cm
4 4 8 20
8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 100cm
約0.5cm コンスタンタン
4 銅
約0.5cm コンスタンタン 銅
(a) 熱電対 (b) 熱電対の配置
S1336-44BKに関する電気的および光学的特性を表4-1に,分光感度特性を図4-4に 示す.光-電圧応答が既知の日射計(IKS-X7)とのキャリブレーションにより高精度 での照度観測を行った.照度の記録にはサーモダックEFを用いた.照度センサーは ポイントゲージに取り付け,水深方向に可動式とした.
表.4-1 電気的および光学的特性
Min. Typ. Min.(GΩ) Typ.(GΩ)
S1336-44BK 320~1100 960 0.5 - - 0.33 8 10 50 1.15 0.5 150 0.2 0.6 1.0×10-14
暗電流の 温度係数 TCID
(倍/℃) 上昇時間
tr VR=0mV RL=1kΩ (μs)
端子間容 量Ct VR=0mV f=10kHz (pF)
NEP (W/Hz1/2) 並列抵抗Rsh
VR=10mV 短絡電流 Isc 100/x
Min.(μA) Typ.(μA) 暗電流ID
VR=10mV Max.(pA) 200 nm
受光感度S(A/W) He-Ne レーザー
633nm 型名
感度波長 範囲 λ(nm)
最大波長 感度 λp(nm) λp
図4-4 照度センサーの分光感度特性
本実験に使用した照度計の回路図を図4-5に示す.
10Ω
サーモダックEF
10Ω
サーモダックEF 図4-5 回路図
オームの法則より IR
E = (
E
:電圧(V),I:
電流(A),R
:抵抗(Ω)) (4-1)となる.
Si
フォトダイオードの特性として, R
が大きすぎると,この法則には従わない ことが知られている.そこで本実験では,R
=10Ωを採用して測定を行った.4.1.4 実験方法
実験は晴れた日の障害物のない屋外(人工圃場,図 4-6 参照)で行い,実験用流体と しては,水道水をそのまま使用している.4 つの水槽には,3 章で用いた水生植物を それぞれ繁茂させ,残る 1 つの水槽には水生植物を繁茂させず(水生植物なし),こ れを基準として比較を行う.実験に用いたホテイアオイは,貧栄養状態で育ったもの であったため,根が不均一で非常に長かったので30cmに統一した.朝9時前後から 実験を開始し,夜間,水温鉛直分布が一様となるまでを1サイクルとして観測を行っ た.水温計は各水槽に 10 点,照度計は水面直下に1点ずつ設置しており,水温計自 体の影が照度計に影響を与えないよう配置している.また熱電対により気温を測定し た.測定間隔は30秒周期とした.
サーモダック2
2 1 3 4 5
南 北
東 西
サーモダック1 日射計
(a)人工圃場 (b)実験風景
図4-6 実験装置の配置図
4.1.5 実験条件
本実験における密生度とは,「水生植物の密集度」である.すなわち,水域内に水 生植物が繁茂する割合を表すのではなく,水生植物が繁茂している水域内での水生 植物の水面占有率を表している.密生度に関する影響を評価するため,デジタルカ メラを用いて水槽の上空写真(図.4-8.(a))を撮影し,これに二階調化処理を施しピクセ ル数を数えることで,厳密に密生度を算出した(図4-7参照).ただし,ホテイアオ イに関しては固体別に番号を振り分けた上で写真を別途撮影し,水面を占有してい る植物部位の積算割合として算出している.表4-2に実験条件を示す.
(a)上空写真(処理前) (b)二 階 調 処 理 図4-7 画像解析処理
表4-2 実験条件
水槽1 水槽2 水槽3 水槽4 水槽5
アオウキクサ アマゾンフロッグピット オオサンショウモ ホテイアオイ 水生植物なし
Exp.1 - 12.1 3.2 91.22 62.10 74.69 77.86 -
Exp.2 1920 15.3 4.1 89.99 66.74 81.78 77.86 -
Exp.3 1341 14.2 5.3 91.18 66.08 65.10 77.86 -
Exp.4 1587 16.1 7.1 86.32 62.97 65.64 60.59 -
Exp.5 - 14.4 7.5 - - - 60.59 -
Exp.6 1892 15.4 4.5 78.02 61.49 65.26 59.07 -
Exp.7 1042 17.1 6.9 80.56 65.15 62.18 59.07 -
Exp.8 1283 15.9 7.5 77.36 53.03 61.65 54.17 -
Exp.9 1863 17.8 5.4 67.70 50.85 52.30 54.17 -
Exp.10 1569 19.6 9.1 50.29 45.20 54.60 45.83 -
密生度 (%) 最低気温
(℃) 最大気温
(℃) 積算日射量
(mV)
4.2 結果および考察
4.2.1 水温の時間変化
水温一様状態から,水温成層の形成,そして混合層の発達による全層循環に達す るまでの各水槽における水温変動の特徴を考察する.
図4-8はExp.9における水温の時間変化を示す.各水槽とも日中の日射による昇 温によって水温成層が形成され,夜間の放射冷却によって混合層が発達し,最後に は水温がほぼ一様化している.しかし,水生植物なし(図4-8 (e))と比較すると,
成層度が最も強くなる時間帯は,水生植物によってずれが生じており,混合層の発 達速度も遅れている.また,表層付近の水温分布については水生植物がある場合の 方が高くなっていることがわかる.このことはとくに,ホテイアオイ(図4-8 (d))
の場合に顕著であり,これはすなわち水面下においても水生植物の根が存在するた め,光が表層付近でほとんど吸収され,下層への熱輸送が行われていないためと考 えられる.このため,全層循環に達する時刻も遅れている.逆に,根が短く水面を 広く覆うアオウキクサ(図4-8 (a))に関しては,水生植物なし(図4-8 (e))の変化 に近くなっているが,これも下層においてわずかながら熱輸送の時間的ずれがある.
アマゾンフロッグピット(図4-8 (b))とオオサンショウモ(図4-8 (c))に関しては,
葉の長径,短径といった形状が近いため,水温変化は似た傾向を示している.
これらの図より,水生植物の存在が,下層へと伝わる熱輸送に大きな影響を与え ていることがわかる.
(a).水槽1 (アオウキクサ) 7.0
8.0 9.0 10.0 11.0 12.0 13.0 14.0 15.0
9:09 11:09 13:09 15:09 17:09 19:09 21:09 23:09 時刻
水温(℃)
水深 4cm 水深 12cm 水深 20cm 水深 28cm 水深 36cm 水深 44cm 水深 52cm 水深 60cm 水深 68cm 水深 76cm
(b).水槽2 (アマゾンフロッグピット) 7.0
8.0 9.0 10.0 11.0 12.0 13.0 14.0 15.0
9:09 11:09 13:09 15:09 17:09 19:09 21:09 23:09 時刻
水温(℃)
水深 4cm 水深 12cm 水深 20cm 水深 28cm 水深 36cm 水深 44cm 水深 52cm 水深 60cm 水深 68cm 水深 76cm
(c).水槽3 (オオサンショウモ) 7.0
8.0 9.0 10.0 11.0 12.0 13.0 14.0 15.0
9:09 11:09 13:09 15:09 17:09 19:09 21:09 23:09 時刻
水温(℃)
水深 4cm 水深 12cm 水深 20cm 水深 28cm 水深 36cm 水深 44cm 水深 52cm 水深 60cm 水深 68cm 水深 76cm
(d).水槽4 (ホテイアオイ) 7.0
8.0 9.0 10.0 11.0 12.0 13.0 14.0 15.0
9:09 11:09 13:09 15:09 17:09 19:09 21:09 23:09 時刻
水温(℃)
水深 4cm 水深 12cm 水深 20cm 水深 28cm 水深 36cm 水深 44cm 水深 52cm 水深 60cm 水深 68cm 水深 76cm
(e).水槽5 (水生植物なし) 7.0
8.0 9.0 10.0 11.0 12.0 13.0 14.0 15.0
9:09 11:09 13:09 15:09 17:09 19:09 21:09 23:09 時刻
水温(℃)
水深 4cm 水深 12cm 水深 20cm 水深 28cm 水深 36cm 水深 44cm 水深 52cm 水深 60cm 水深 68cm 水深 76cm (a).水槽1 (アオウキクサ)
7.0 8.0 9.0 10.0 11.0 12.0 13.0 14.0 15.0
9:09 11:09 13:09 15:09 17:09 19:09 21:09 23:09 時刻
水温(℃)
水深 4cm 水深 12cm 水深 20cm 水深 28cm 水深 36cm 水深 44cm 水深 52cm 水深 60cm 水深 68cm 水深 76cm
(b).水槽2 (アマゾンフロッグピット) 7.0
8.0 9.0 10.0 11.0 12.0 13.0 14.0 15.0
9:09 11:09 13:09 15:09 17:09 19:09 21:09 23:09 時刻
水温(℃)
水深 4cm 水深 12cm 水深 20cm 水深 28cm 水深 36cm 水深 44cm 水深 52cm 水深 60cm 水深 68cm 水深 76cm
(c).水槽3 (オオサンショウモ) 7.0
8.0 9.0 10.0 11.0 12.0 13.0 14.0 15.0
9:09 11:09 13:09 15:09 17:09 19:09 21:09 23:09 時刻
水温(℃)
水深 4cm 水深 12cm 水深 20cm 水深 28cm 水深 36cm 水深 44cm 水深 52cm 水深 60cm 水深 68cm 水深 76cm
(d).水槽4 (ホテイアオイ) 7.0
8.0 9.0 10.0 11.0 12.0 13.0 14.0 15.0
9:09 11:09 13:09 15:09 17:09 19:09 21:09 23:09 時刻
水温(℃)
水深 4cm 水深 12cm 水深 20cm 水深 28cm 水深 36cm 水深 44cm 水深 52cm 水深 60cm 水深 68cm 水深 76cm
(e).水槽5 (水生植物なし) 7.0
8.0 9.0 10.0 11.0 12.0 13.0 14.0 15.0
9:09 11:09 13:09 15:09 17:09 19:09 21:09 23:09 時刻
水温(℃)
水深 4cm 水深 12cm 水深 20cm 水深 28cm 水深 36cm 水深 44cm 水深 52cm 水深 60cm 水深 68cm 水深 76cm
図4-8 水温の経時変化
4.2.2 熱量・熱フラックスの時間変化
測定断面における単位面積の水柱が持つ熱流,および熱フラックスを以下に述べ る方法で算出した.
図4-9は,ある測定断面における水温鉛直分布の模式図である.水温がT(℃)の水 塊の有する熱量は
ρC
pT
(cal/cm3)である.(ρ
:水の密度,C
p:水の比熱)したがって,水深Hの単位面積の水柱が持つ熱量Q(cal/cm2)は次式のようになる.
(4-2)
dz T C Q = ∫
0Hρ
p各測点が等間隔に配置されていることを利用し,測点の前後の温度を一定とみな すことで,この熱量
Q
を図.4-9に示すように分割し,各測点間の熱量Q
1, Q
2・・・・・・
Q
n-1, Q
nの総和と考え,上式を展開すると,次式のように表せる.{ (
0 1− 0)
+ 1( 2 − 1)+ + ( − −1)}
= Cp T Z Z T Z Z Tn Zn Zn
Q
ρ
LLLL (4-3)( Z
1− Z
0= Z
2− Z
1= L L L = Z
n− Z
n−1= h )
ここでは,
ρ
≒1(g/cm3),C
p=1(cal/g・℃),h
=8(cm)とし,熱量を算出している.また,単位面積,単位時間あたりの熱フラックス
F
H(cal/cm2・s)は,t Q Q
t
F
HQ
t t tΔ
= − Δ
= Δ
+Δ (4-4)となる.本実験では, (s)とし,30(s)間隔でずらしていくことで熱フラッ クス
F
= 1800 Δt
H(cal/cm2・s)を算出した.
T0 T1 T2
Tn-1
Tn-1 Tn
水温 水深
Z0
Z1 Z2
Zn Zn-1 Zn-2
Q1 Q2 Q3
Qn-2 Qn-1 Qn
T0 T1 T2
Tn-1
Tn-1 Tn
水温 水深
Z0
Z1 Z2
Zn Zn-1 Zn-2
Q1 Q2 Q3
Qn-2 Qn-1 Qn
図4-9 水温の鉛直分布
図4-10 (a)にExp.9の熱量の経時変化を,図4-10 (b)にExp.9の熱フラックスの経 時変化を示す.時間の経過によって熱フラックスが正(下向きを正と定義しており,
すなわち受熱を表す)から負(放熱)に転じているのが確認できるが,本実験では これを受熱期,放熱期の境と定義した.
図4-10 (a)では,日中の日射(図4-10 (c))および気温(図4-10 (d))の増加に応 じて熱量は増加し,これらの減少により熱量も次第に減少していることがわかる.
水生植物なしの場合の熱量は全体を通じて高い値を示している.一方で,ホテイア オイに関しては,受熱期,放熱期ともに増加および減少の傾きが小さく,熱量の大 きさも小さい.これらの傾向は水生植物の葉の厚さに対応して変化していることが わかる.
図4-10 (b)では,熱フラックスが日中では正,夜間では負になっており,その値は 水生植物なしの場合が平均的に最も大きく,ホテイアオイの場合が小さいことがわ かる.放熱期に入ると,全ての水生植物において熱フラックスの値はほぼ安定して いるが,その平均値は水生植物毎に異なっている.日中,日射が最も強かった午後1 時40分頃に熱フラックスの値が大きくなっており,その後の減少傾向も日射量と対 応していることから,熱フラックスは日射量に大きく寄与していることがわかる.
熱フラックスが正から負に変わる時刻は,植物によって若干差異があり,水生植物 なしの場合が最も早く,ホテイアオイが最も遅かった.
-0.01 -0.005 0 0.005 0.01 0.015 0.02
9:24 10:24 11:24 12:24 13:24 14:24 15:24 16:24 17:24 18:24 19:24 20:24 21:24 22:24 23:24 時刻
熱フラックス(cal/cm2・s)
アオウキクサ アマゾンフロッグピット オオサンショウモ ホテイアオイ 水生植物なし
500 550 600 650 700 750 800 850 900
9:24 10:24 11:24 12:24 13:24 14:24 15:24 16:24 17:24 18:24 19:24 20:24 21:24 22:24 23:24 時刻
熱量(cal/cm2)
アオウキクサ アマゾンフロッグピット オオサンショウモ ホテイアオイ 水生植物なし
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18
9:24 10:24 11:24 12:24 13:24 14:24 15:24 16:24 17:24 18:24 19:24 20:24 21:24 22:24 23:24 時刻
気温 (℃)
0 100 200 300 400 500 600 700
9:24 10:24 11:24 12:24 13:24 14:24 15:24 16:24 17:24 18:24 19:24 20:24 21:24 22:24 23:24 時刻
日射計 (W/m2)
(a).熱量の経時変化
(b).熱フラックスの経時変化
(c).日射計の経時変化
(d).気温の経時変化
図4-10 熱量,熱フラックス,日射量,気温の経時変化
4.2.3 成層安定度
ブルント・バイサラ振動数とは,成層の安定度を示すパラメータであり,安定周 波数とも呼ばれる.安定成層の密度場をρ(z)と表し,水面を原点としてz 軸を鉛直 下方を正にとると,鉛直方向の密度勾配は >0
∂
∂ z
ρ
となる.いま,z
にあった単位体積の水粒子が,非圧縮性の為,密度一定で微小距離
ξ
だけ上方に動かされた場合を考 える.水粒子は周囲より重いので,元に戻ろうとして振動を開始する.水粒子の運 動が周囲を乱さないと仮定すると,浮力を考慮した運動の式は,g z g dt z
z)d = ( + )⋅ − ( )⋅
( 2
2
ξ ρ ξ ρ
ρ
(4-5)g z ⎟⋅ ⋅
⎠
⎜ ⎞
⎝
⎛
∂
= ∂
ρ ς
となる. ここで,
z N g
∂
− ∂
= ρ
ρ
2 (4-6)
と定義すると,
2 0
2 2
=
+
ξ
ξ
N dtd (4-7)
となる.これは単振動の式で,
N
は水粒子の上下振動の角周波数を表す.振動周期 は2π / N
である.また,水温T
(℃ )における水の密度ρ
(g/cm3)は次式により求める.) 4 ( 1
1
−
= +
α
Tρ
(4-8)ここに,
α
は熱伝導率であり,α
=2.1×10-4(W/m・K)を用いた.各水槽の成層化が最も進んだ時刻におけるバイサラ振動数N2の鉛直分布を図4-11 に示す.図4-11より,水面付近ほど成層安定度が大きいことがわかる.また,水生 植物が繁茂するほど,表層付近の安定度が大きくなる傾向がある.水生植物なしと アオウキクサの傾向が近いことから,水生植物の厚さに大きく左右されていると考 えられる.
0 10 20 30 40 50 60 70 80
-0.01 0.01 0.03 0.05 0.07 0.09 0.11
バイサラ振動数 N
2(1/s
2)
水深 h(cm )
アオウキクサ
アマゾンフロッグピット オオサンショウモ ホテイアオイ 水生植物なし
図4-11 Exp.9におけるバイサラ振動数