九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
超伝導転移端センサ型マイクロカロリメータにおけ る吸収体構造と超伝導薄膜の物理的特性に関する研 究
江﨑, 翔平
https://doi.org/10.15017/1500719
出版情報:Kyushu University, 2014, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
(様式2)
氏 名 :江﨑 翔平
論 文 名 :超伝導転移端センサ型マイクロカロリメータにおける吸収体構造と 超伝導薄膜の物理的特性に関する研究
区 分 : 甲
論 文 内 容 の 要 旨
マイクロカロリメータは、熱容量が十分小さくなる極低温に保持された物質に入射したX線光子 のエネルギーを温度上昇として精度良く計測する X線検出器であり、X線エネルギーを熱に変換す る吸収体、微小な温度上昇を計測する温度計およびX線エネルギー吸収による熱を冷熱浴に排熱す る熱結合から構成される。超伝導薄膜の超伝導転移領域における急激な電気抵抗変化を温度計とし て利用する超伝導転移端センサ(TES: superconducting transition edge sensor)型マイクロカロリメータ は、100 eVから数100 keVのエネルギー領域の光子に対して、半導体検出器より優れたエネルギー 分解能を実証している。現在、九州大学、物質・材料研究機構および宇宙航空研究開発機構を中心 とする研究グループにより、透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X 線分析(TEM-EDS)に使用する TES型マイクロカロリメータシステムの開発研究が進められている。作製装置の都合上、開発する TES 型マイクロカロリメータは Ti/Au2 層膜の TES 上に Au 吸収体を積層した構造を有する。
TEM-EDSでは、エネルギーが100 eVから20 keVのX 線を検出対象として最適化設計されたTES 型マイクロカロリメータが必要とされる。そのためには、積層された吸収体構造がTESの電気的熱 的特性に及ぼす影響やTESが示す2次元超伝導体と考えられる電気的輸送特性などを実験的に詳し く調べることが求められている。
本研究では、TEM-EDSに使用する TES型マイクロカロリメータの吸収体構造設計に必要な知見 を得るため、有感面積が広いマッシュルーム構造吸収体を有するTES型マイクロカロリメータにつ いて、TESの電気的熱的特性に対する吸収体膜厚の寄与を実験的に調べた。また、優れた分解能の エネルギースペクトル取得のための検出器動作と検出器信号記録の設定条件を求めた。さらに、TES 設計に必要な超伝導薄膜の転移領域における電気的輸送特性を実験的に評価した。
以下に本論文の構成を記す。
第1章では、本研究の背景と目的について述べた。
第2章では、TES型マイクロカロリメータの動作原理、検出信号の読み出しに使用する超伝導量 子干渉素子増幅器および検出器信号処理について説明し、検出器のインパルス応答とX線放射の自 然幅を考慮した特性X線ピーク解析方法について述べた。
第3章では、TESの母材である超伝導薄膜の転移領域における電気的輸送特性の物理的理解に必 要となる金属電気伝導理論および2次元超伝導理論について述べた。
第4章では、構造と幾何学的寸法が同じTESの上に、面積は等しく膜厚のみが0.5 μmと5 μmと 異なるマッシュルーム構造吸収体を積層した2種類のTES型マイクロカロリメータの特性評価実験 について述べた。まず、2種類のTES型マイクロカロリメータについて、TESの抵抗のバイアス電 流依存性およびX線検出信号パルス波形の測定値解析で得られた電気的熱的特性を比較した。この
特性比較により、TESの温度感度と電気伝導特性は吸収体膜厚に依存するが、X線検出信号生成の 重要な要素である TES 型マイクロカロリメータと冷熱浴との熱結合の熱伝導度特性は吸収体膜厚 に依存しないことを示し、TES上に積層する吸収体構造設計に必要な知見を得た。次に吸収体膜厚
0.5 μmのTES型マイクロカロリメータについて測定条件とX 線応答特性の関係を調べた。最も優
れたエネルギー分解能が得られる測定条件として、冷熱浴の温度とバイアス電流が、それぞれ超伝 導転移温度の3/4以下の温度およびTESの電気抵抗値が常伝導抵抗値の60%以下であることを求め た。さらに、最小誤差で検出パルス波形を解析するためには減衰時定数の70倍以上の長さで記録す る必要があることを示した。
第5章では、TESの材料であるTi薄膜の電気的輸送特性について述べた。本研究では、作製した 膜厚10、40、200 nmの3種類のTi薄膜の電気抵抗を室温から65 mKまでの温度領域で測定した。
測定で得られたTi薄膜の電気抵抗と温度の関係を詳細に解析し、膜厚40 nmのTi薄膜は2次元超 伝導体の特性を有することを確認し、超伝導転移温度近傍において、2 次元超伝導体特有の超伝導 ゆらぎとBerezinskii-Kosterlitz-Thouless(BKT)転移が存在することを示した。さらに、BKT転移に伴 う量子化された磁束流れにより誘導される電圧を雑音とするモデルを提案した。このモデルによる 計算は、宇宙航空研究開発機構によるTES型マイクロカロリメータの超過雑音の実験値を16%の誤 差で再現し、TES型マイクロカロリメータの性能向上に大きな障害である超過雑音発生機構の解明 に有効であることを示した。
第6章では、本論文のまとめと今後の課題,展望について示した。