【原 著】
外国語学習の領域別に見た価値づけ・先延ばし・意欲の関連
―課題価値による違いの検討―
森 恵子* 武蔵 由佳**
大学入試における4技能テストの導入などの教育改革に伴い,外国語教育の制度と教育内容は近年大きく変わ りつつある。この変化への対応を迫られる学生・生徒が今後の外国語学習内容にどのような動機づけを持つかは 注目に値する。特に入試で能力を問われる領域・技能数が増加することから,それに合わせて多様化する学習の 領域ごとの動機づけを詳しく見ることは,個別学習者の支援にあたり有益と考えられる。本研究は外国語を履修 中(または履修後)の大学生350名を対象とし,入試で問われる「話す」「書く」「聞く」「読む」に加えて「単語」
「文法」の計6領域の外国語学習に対する動機づけを明らかにするため,各領域課題遂行に対する価値づけ,先 延ばし度と意欲を問う質問紙調査を実施した。その結果各領域の課題遂行に対する価値づけによって,その領域 の学習意欲と先延ばし度合に違いが表れた。以上のことから領域により異なる価値づけ傾向があること,学習者 の各領域に対する価値づけによりその領域の学習意欲と先延ばしの特徴が異なること,の2点の理解に基づく教 育実践の有用性が考察された。
キーワード:課題価値,外国語学習(6領域),学習先延ばし,学習意欲
【問題と目的】
近年異文化理解教育を含めた外国語(主に英語)教 育はますます話題となっており,文部科学省が進める 教育改革においても盛んに議論されている。「グロー バル化に対応した英語教育改革実施計画」(文部科学省,
2013)は2020年にオリンピック・パラリンピックを 開催する「国際社会に生きる日本人」のあり方を述べ るとともに,英語の意思疎通力を高めるため,小・中・
高等学校まで一貫した教育目標の設定と評価を各学校 段階で行う必要性に言及している。また「グローバル 化に対応した英語教育改革の五つの提言」(文部科学省,
2014)には,上記計画を受けて審議された小・中・高 等学校の現状と課題とともに,高大接続改革と教員研 修の現状と課題についても述べられている。中等教育 と高等教育が連携するための課題のうち,大学入試改 革における英語試験の変更については,新聞・メディ
アが複数回取り上げるなど,広く注目されている。ま た以下に述べるように,新しい英語試験の受検対象者 となる生徒・児童が属する中等教育においても,すで に改革が始まっている。
2017年現在大学入試における総合的学力評価を行 うための枠組みがすでに明らかになり,英語について は聞く・読む・書く・話すの4領域・技能を測る民間 の資格検定試験を入試に導入することが決定されてい る。これまで聞く・読むの2技能を測ってきた大学入 試の英語が4技能テストに変更されることは,当然初 等・中等教育における英語教育のあり方に影響を与え る。教師が「英語で英語を教える」ことに加え,ALT の雇用やICT機器の活用が進み,さらに教員向けに 話す・書く技能を教えるための研修が盛んに行われて いることが,文部科学省(2015)による公立小学校・
中学校・高等学校の英語教育実施調査結果からも明ら かである。
学習の主体である学生・生徒の視点から見ると,改 革による影響はどのように現れると予想できるだろう か。もともと学習者間で英語学習に対する態度と動機
* 東京基督教大学
** 盛岡大学
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づけの差異はあるとしても,4技能テストの開始に向 けた中等教育の英語教育改革は,そのような差異をさ らに大きくする可能性があろう。2技能ではなく4技 能の力をつける意欲を保持し,英語を用いた意思疎通 を主目的とする学習を続けるよう促す改革に対し,前 向きな反応ばかりではないことは予想ができる。特に 英語の各技能学習の動機づけと実際の学習行動につい ては,今後学習者間にどのような変化が表れるのか,
注目する必要があろう。
さらに付け加えるならば,「話す」「書く」技能を問 う入試にはその基盤となる技能,つまり単語と文法の より深い知識が求められるはずである。会話やEメ ールであっても,場面に応じた意思疎通をするために は言葉の意味とその適切な使い方,ニュアンスなどを 知っている必要があるため,和訳や文の書き換えとい った浅いレベルでない「単語」「文法」技能を他の4 技能と結びつけた指導も必要となってくると思われる。
このように入試改革に端緒をなす英語の初等・中等教 育改革は,4技能プラス単語・文法の6技能習得を求 める結果となる可能性が高い。学生・生徒の英語学習 がどのように動機づけられるかを知るためには,全体 的な傾向だけでなく,個々の技能による差異にも注意 する必要が出てくると考えられる。
学生・生徒の学習動機づけは教育心理学分野で研究 対象となり,その知見は教育実践者により学ばれ活用 されている。しかし「英語」など科目や科目内の領域 によって動機づけや意欲がどのように異なるか,それ が学習行為にどのように影響するかを調査した研究は 比較的少数である。
高校生の英語学習動機に関する研究において,堀野・
市川(1997)は質的研究により言語化された学習動機 を整理し,2要因モデルを提示した。1次元上で捉え られてきた内発・外発動機づけを,学習内容を重視す るかどうかの軸(充実志向・訓練志向・実用志向)と,
学習による効用が直接的に賞罰につながるかどうかの 軸(関係志向・賞賛志向・報酬志向)にし,そこに6 つの動機づけ志向を配置したモデルである。質問紙に よる調査の結果,学習内容を重視する動機づけグルー プは様々な学習方略を用い,それが学業成績にも寄与
しているが,学習内容を重視しない動機づけグループ は方略使用が限定的であり,学業成績にも結びついて いなかった。よって異なる英語学習動機を持つことが,
使用する学習方略や成績の違いにつながることが示唆 されている。
意欲や学習行動に影響を与えるものの一つに感情・
情動がある。小学生から社会人までの,英語に対する 態度や感情を研究した荒木(2014)は,情動が英語の コミュニケーション能力(CEFRを指標に使用)に対 し与える影響に注目し,英語を学んでいる日本人学習 者と日本語を学んでいる留学生への調査を行った。結 果,8要素に分類された情動要素のうち,自尊心と不 安がコミュニケーション能力に最も大きな影響を与え,
自尊心はプラスに,不安はマイナスに作用することが,
留学生を含むすべての対象グループに共通していた。
また情動要素から最も多く影響を受けるコミュニケー ション能力の技能は,話す・聞く技能であった。そし て日本人は全体として留学生に比べ,不安が高く自尊 心が低かった。また発達段階による変化については,
コミュニケーション能力と相関を持つ情動要素の数は 年齢とともに減少した。ただし不安情動については思 春期を境に増加し,自尊心情動については小・中・高 と減少していた。一方大学生においては変化のない群,
英語圏への留学を経て不安が軽減した群,自尊心の変 化はなくても能力に負の相関がある他の情動(内向性・
抑制)の影響が軽減した群があった。以上のことから,
情動要素がコミュニケーション能力に影響を与えるこ とが示されている。
Eccles & Wigfield(1995)による課題価値(課題遂 行に対する個人の価値づけ)の研究を基に,英語に対 する高校生の課題価値を調査した伊田(2003a)は,
自律的な学習動機づけに含まれるものとして「興味価 値」「私的獲得価値」「実践的利用価値」があるとした。
伊田(2003a)による課題価値測定尺度内ではそれぞ
れ「学んでいて楽しいと感じられる内容」「学ぶと,
自分自身のことがよりよく理解できるようになる内 容」「将来,仕事における実践で生かすことができる 内容」と説明された内容である。また高校生が卒業後 進学する場合を念頭に置いた「学業的利用価値」(「進
学後の専門的な勉学において必要とされる内容」)と
「日常的利用価値」(「普段の生活における問題解決に 必要とされる内容」)が加えられ,利用価値の詳細な 弁別がされた。調査の結果,すべての課題価値におい て科目の能力認知,科目の重要性認知と正の相関が見 られた。以上のことから,課題価値は動機づけの一部 であり,学習者の能力や課題遂行の判断との相互作用 があると示されている。また伊田(2003b)は課題価 値を「領域特殊的な動機づけ変数」と定義し,Eccles
& Wigfield (1995)が「獲得価値」と呼ぶ課題遂行・成 功が望ましい自己像につながるとする概念を精緻化し た。すなわち,「ある内容を学習することが自分から 見て望ましいと考えている自己像の獲得に繋がる場合,
その内容には私的獲得価値があり…他者から見て望ま しいと(本人が)認知している場合…公的獲得価値が ある」(p.368)と2種類に区別している。同様に「利 用価値」については職業実践に役立つという価値づけ の「実戦的利用価値」と,就職・進学に益する試験に 役立つという価値づけの「制度的利用価値」を弁別し ている。
自律的な学習を阻害する要因は様々にあるが,自己 調整の失敗により課題遂行が阻害される行為の一つと して,先延ばし(行動開始や終了の意図的な延期)が あげられる。黒田・望月(2012)は先延ばしが起きる のは行動の選択肢から選ぶ段階であるとし,課題遂行
(長期的視点ではメリットがある)に対する否定的な 感情があるとその情動の処理に追われ,結果的に回避 的な気晴らしなど他の選択肢(短期的視点ではメリッ ト が あ る ) を 選 び や す い と 述 べ て い る。Pintrich, Smith, Garcia & McKeachie(1993) に よ るMotivated Strategies for Learning Questionnaire (MSLQ)を基に英 語に対する自己効力感尺度を作成した森(2004)は,
英語自己効力感が低い学生は課題の先延ばしが多く,
学習動機が内容分離的で,モニタリングなどの上位方 略を使わない傾向があることを明らかにした。植井・
高橋(2015)による質的研究は,大学生が課題遂行前 から遂行後までの先延ばしを含めたプロセスを説明し たその語りを分析した。課題遂行中には周囲の影響か ら「やる気の低迷」「余裕と焦りの同居」「他者に対す
る申し訳なさ」など複雑な思考と感情が生まれること,
回避的な先延ばしから課題遂行行動へと至るきっかけ には切迫感の自覚と肯定的捉え(先延ばしの事実を受 け入れ気持ちを切り替える)などの感情要因があるこ と,学習者は課題遂行の妨げとなる先延ばしをしてい るとき,課題に対する否定的感情,低い自己効力感,
切迫感などを持つことを示唆している。
上記の先行研究は先延ばしに関するものを除き,英 語学習のみを対象としているが,韓国の中学生・高校 生を調査したBong(2001)は,学習動機づけの領域 間の相違と関連を調査し,言語科目(韓国語・英語)
と数量科目(数学・理科)の計4領域を対象とした。
その結果,学習者は領域により異なる自己効力感,課 題価値,目標志向性を持つことが示され,課題価値に ついては特に中学生よりも高校生の方が領域による差 異が大きいことも示唆している。
外国語学習にかかわる要因が複数示唆される一方,
個人の学習動機づけの要因は領域により異なっている,
という先行研究から推論できることの一つは,より細 かい領域・技能レベルでも同様の要因があり,領域差 が見られるという可能性である。また英語を中心とす る外国語科目の動機づけに注目した研究は多いが,課 題価値や意欲といった要因と結果として表れる先延ば しを,技能により異なるものとして注目した研究はほ とんど見られない。そのため本研究は外国語(主に英 語)の4技能に単語・文法学習を加えた6技能に対す る,先延ばし傾向,意欲,価値づけに対する学習者の 意識を明らかにすることを目的とする。また外国語の 技能によって学習者の価値づけ・意欲・先延ばし度合 が異なるという仮説の検証により,動機づけや学習行 動に課題を持つ学習者への介入を試みる上での示唆を 得ることも目的とする。
なお本研究は大学生を対象とするが,その主な目的 は「入試のために外国語(英語)を学ぶ」という環境 的な要因の影響が少ない層に調査を行うことである。
中学生・高校生の大多数が読む・聞く2技能の力を問 う入試に向け勉強をする現状では,そのことが技能へ の価値づけや意欲に影響を与えることが予想される。
一方前述の教育改革実施計画は「話す・書く・意思疎
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通」を加えたコミュニケーション能力に注目しており,
全技能の向上を謳い文句にしている。外国語教育に関 する文献を見る限り,この改革がすでに最も広く行わ れているのは大学であり,大学生は「コミュニケーシ ョン能力重視」を名実共に体験している可能性が高い 層だと言える。つまり現時点で初等・中等教育改革の 目指す外国語学習に近い環境にいるのは大学生であり,
この層の各技能学習への意識と行動がどのようである かを見ることが,今後の初等・中等教育における学習 者の課題を予想する上で有用であると思われる。
【方 法】
1 .調査対象
東北・関東・関西・九州にある私立大学で外国語科 目を履修中(または履修後)の大学生350名(男性 151名,女性199名)を調査の対象とした(Table 1)。
2 .調査時期・実施方法
2016年度後期(10月から1月まで)に調査を行った。
計5大学における調査協力者の教員が,質問票を配布 し集団で実施した。記入を始める前に持ち帰り用の別 紙も配布し,そこに本調査の目的と協力依頼の記載,
および質問票実施が任意であり成績評価に無関係であ ることを記載した。
3 .調査内容
無記名式の個別回答方式質問紙調査を行った。本調 査の目的に適合する,すでに妥当性が検証されている 先行研究を見つけることができなかったため,質問紙 はSolomon & Rothblum (1984)による「学生の先延ば し度尺度(PASS : Procrastination Assessment Scale-
Students)」を和訳し,外国語学習の文脈に変えたもの
を使用した。外国語学習領域としては,「話す」「書く」
「単語」「文法」「聞く」「読む」 の計6領域の技能を 想定した。つまり,外国語の学習活動(6領域)に対 する“先延ばし”を問う尺度を作成し,「外国語学習 領域別先延ばし尺度」として実施した。評定は「5: いつも先延ばしする」から「1:決して先延ばししない」
の5件法で,得点が高いほど先延ばし傾向があると捉 えるものである。さらにPASSにならい,外国語の学 習活動(6領域)に対する“やる気”を問う尺度も作 成し,「外国語学習領域別活動意欲尺度」として実施 した。評定は「5:いつもある」から「1:まったくな い」の5件法で,得点が高いほど活動意欲が高いと捉 えるものである。
さらに,外国語の学習活動(6領域)に対する価値 づけについても尋ねた。項目に関しては伊田(2003a,
2003b)を参照した。外国語の学習活動(6領域)に
対する学習理由を,「5:学ぶと楽しく満足する(興味 価値)」「4:日常又は将来に役立つ(利用価値)」「3:
できると賢く思われる(公的獲得価値)」「2:勉強す るよう言われる(価値づけなし)」「1:自己理解が深 まる(私的獲得価値)」の5つより選択させるもので ある。課題価値の理論的枠組みに加えて「2:価値づ けなし」を加えた理由は,価値づけという概念に馴染 みがなく回答を躊躇する場合,あるいは回答者が意識 しうる価値づけを持たない領域がある場合を考慮した 結果である。また「4:利用価値」の種類を弁別しな い理由は,質問紙予備調査実施時にこの弁別を困難と するコメントがあったためである。なおこの質問紙の 完成までには,PASSを和訳した部分については心理 学研究者で英語に堪能な者による妥当性のチェック,
また内容妥当性については心理学研究者複数名による チェックを受けた後,予備調査を行った。
【結 果】
1 .外国語の学習活動(6 領域)に対する先延ばしの 度合および活動意欲の記述統計
外国語の学習活動(6領域)に対する先延ばしの度 合および活動意欲の平均値と標準偏差をTable 2に示 Table 1 調査対象者
男子 女子 合計
1年生 50 100 150
2年生 53 40 93
3年生 32 51 83
4年生 16 8 24
151 199 350
した。
2 .外国語の学習活動(6 領域)に対する価値づけタ イプの出現率
外国語の学習活動(6領域)ごとに, 外国語の学習 活動(6領域)に対する学習理由の選択により,回答 者を「A:興味価値タイプ」「B:利用価値タイプ」「C: 公的獲得価値タイプ」「D:価値づけ無しタイプ」「E:
私的獲得価値タイプ」に分類した。外国語学習活動(6 領域)ごとのA~Eタイプの出現率を算出し,人数 に偏りがあるのかを検討するために,x二乗検定を行 った(「話す」(x2(4)= 308.89, p <.01),「書く」(x2
(4)= 172.77 , p <.01),「単語」(x(2 4)= 128.83, p <.01),
「文法」(x2(4)= 102.51, p <.01),「聞く」(x2(4)
= 339.71, p <.01),「読む」(x2(4)= 143.23, p <.01))。 すべての領域において有意であったため,ライアンの 名義尺度を用いた多重比較を行った。結果をTable 3 に示す。結果から,外国語の学習活動(6領域)を問 わず“日常または将来に役立つ”という「B:利用価 値タイプ」が他のタイプと比較して最も多かった。6 領域別には,「話す」「聞く」が「B:利用価値タイプ」
の次に“学ぶと楽しく満足する”という「A:興味価 値タイプ」の出現率が高かった。「単語」「文法」は“勉 強するよう言われる”という「D:価値づけ無しタイプ」
の出現率も多かった。「書く」は“自己理解が深まる”
という「E:私的獲得価値タイプ」が少なかった。「読 む」は「B:利用価値タイプ」以外のタイプの出現率 に差異が見られなかった。これらのことから,外国語 の学習活動(6領域)に対して,学生は領域ごとに異 なる価値を抱いていることが明らかになった。
3 .外国語の学習活動(6 領域)に対する価値づけタ イプにおける先延ばしの度合と活動意欲との相関
外国語の学習活動(6領域)に対する価値づけタイ プ(A~E)ごとに,先延ばしの度合と活動意欲の相 関を算出した(Table 4)。結果,「E:私的獲得価値タ イプ」において,書く領域と読む領域で先延ばしの度 合と活動意欲の間に中程度の負の相関が見られ,文法 で弱い負の相関が見られた。よって,“自己理解が深 まる”という理由で書く,読む,文法の学習をする場 合,先延ばし度合と活動意欲の関連が強いことが示さ れた。さらに,「B:利用価値タイプ」においては,6 領域のすべてにおいて,先延ばしの度合と活動意欲の 間に弱い負の相関が見られた。さらに「A:興味価値 タイプ」においては文法と読むことに,弱い負の相関 が見られた。よって,“日常または将来に役に立つ”
という理由で外国語の学習活動をする場合においては 6領域すべてにおいて,また“学ぶと楽しく満足する”
という理由で外国語の学習活動をする場合には文法と 読む活動で,先延ばし度合と活動意欲の関連があるこ とが示された。一方,“できると賢く思われる”とい う「C:公的獲得価値タイプ」や“勉強するよう言わ れる”という「D:価値づけ無しタイプ」では先延ば し度合と活動意欲の関連が見られなかった。
4 .価値づけタイプごとの外国語の学習活動(6 領域)
に対する先延ばしの度合および活動意欲の得点 A~Eタイプにより,外国語の学習活動(6領域)
に対する先延ばしの度合得点と活動意欲得点に差異が 見 ら れ る の か を 検 討 す る た め に, 分 散 分 析 お よ び Tukey法による多重比較を行った(Table 5, Figure 1,
Table 2 外国語の学習活動(6領域)の先延ばしの度合および活動意欲の平均値と標準偏差
先延ばしの度合 活動意欲
平均値 標準偏差 平均値 標準偏差
外国語の各領域
話す 3.24 1.17 3.75 1.20 書く 3.21 1.15 3.49 1.11 単語 3.13 1.20 3.38 1.12 文法 3.16 1.20 3.42 1.10 聞く 3.16 1.18 3.74 1.16 読む 3.49 1.17 3.37 1.15
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Table 3 外国語の学習活動(6領域)に対する価値づけタイプの出現率
興味価値A タイプ
利用価値B タイプ
公的獲得価値C タイプ
価値づけ無しD タイプ
私的獲得価値E
タイプ 多重比較
外国語の各領域
話す n 83 192 42 22 11 A,B>C>D,E
% 23.71 54.86 12.00 6.29 3.14 B>A
書く n 39 166 59 56 30 B>A,C,D,E
% 11.14 47.43 16.86 16.00 8.57 C,D>E
単語 n 37 152 47 70 44 B>A,C,D,E
% 10.57 43.43 13.43 20.00 12.57 D>A
文法 n 44 142 50 74 40 B>A,C,D,E
% 12.57 40.57 14.29 21.14 11.43 D>A,E
聞く n 78 201 29 27 15 B>A>C,D,E
% 22.29 57.43 8.29 7.71 4.29
読む n 53 158 59 46 34 B>A,C,D,E
% 15.14 45.14 16.86 13.14 9.71
出現総数 n 334 1011 286 295 174
% 15.90 48.14 13.62 14.05 8.29
Table 4 外国語の学習活動(6領域)に対する価値づけタイプにおける先延ばしの度合と活動意欲との相関
興味価値A タイプ
利用価値B タイプ
公的獲得価値C タイプ
価値づけ無しD タイプ
私的獲得価値E タイプ
-.04 -.27 .25 -.13 -.33
話す n.s. *** n.s. n.s. n.s.
-.18 -.25 -.08 -.03 -.43
書く n.s. ** n.s. n.s. *
-.20 -.26 .05 -.01 -.21
単語 n.s. ** n.s. n.s. n.s.
-.33 -.27 -.11 -.11 -.34
文法 * ** n.s. n.s. *
聞く -.10 -.16 .04 -.12 -.08
n.s. * n.s. n.s. n.s.
-.37 -.24 -.20 .05 -.44
読む ** ** n.s. n.s. **
( )内は標準偏差.*p<.05,**p<.01,***p<.001
Table 5 価値づけタイプごとの外国語の学習活動(6領域)に対する先延ばしの度合および活動意欲の得点 各領域
興味価値A タイプ
利用価値B タイプ
公的獲得価値C タイプ
価値づけ無しD タイプ
私的獲得価値E タイプ
F値 (4,345) 話す
先延ばしの度合 2.87 3.30 3.36 3.86 3.27 4.08 *** D,B>A
(1.24) (1.12) (.98) (.94) (1.74)
活動意欲 4.48 3.81 2.79 2.82 2.64 26.43 *** B,A>E, D,C
(.94) (1.09) (.92) (1.01) (1.57)
書く
先延ばしの度合 2.64 3.23 3.14 3.82 2.90 7.42 *** D>E,C,B,A
(1.31) (1.08) (1.02) (1.01) (1.37) B>A
活動意欲 4.49 3.55 3.25 2.91 3.43 14.26 *** A>E,D,C,B
(.68) (1.06) (1.04) (1.00) (1.33) B>D
単語
先延ばしの度合 2.59 3.13 3.15 3.44 3.09 3.09 * D>A
(1.19) (1.15) (1.10) (1.20) (1.38)
活動意欲 4.38 3.51 3.04 2.74 3.48 17.34 *** A>E,D,C,B
(.86) (1.08) (1.00) (.93) (1.17) B>D,C
文法
先延ばしの度合 2.32 3.25 3.30 3.45 3.05 7.38 *** E,D,C,B>A
(1.31) (1.09) (1.05) (1.21) (1.26)
活動意欲 4.32 3.46 3.06 3.03 3.45 12.61 *** A>E,D,C,B
(.93) (1.02) (1.06) (1.02) (1.18) B>D
聞く
先延ばしの度合 2.68 3.25 3.07 4.04 2.93 8.13 *** D>E,C,B,A
(1.25) (1.10) (.84) (1.06) (1.49) B>A
活動意欲 4.33 3.83 3.07 2.70 2.73 19.53 *** A>B>
E,D,C
(1.03) (1.03) (1.03) (1.10) (1.33)
読む
先延ばしの度合 2.89 3.43 3.64 3.96 3.76 6.63 *** E,D,C,B>A
(1.33) (1.07) (1.05) (1.13) (1.18) D>B
活動意欲 4.21 3.50 3.12 2.70 2.85 16.13 *** A>E,D,C,B
(1.09) (1.05) (1.04) (.94) (1.28) B>E,D
( )内は標準偏差.*p<.05,**p<.01,***p<.001
)LJ 価値づけタイプごとの外国語の学習活動( 領域)に対する先延ばしの度合の得点
)LJ 価値づけタイプごとの外国語の学習活動( 領域)に対する活動意欲の得点
2.87
2.64 2.59
2.32
2.68 2.89
3.30 3.23
3.13 3.25 3.25 3.43
3.36
3.14 3.15 3.30
3.07 3.86 3.82 3.64
3.44 3.45
4.04 3.96
3.27
2.90 3.09 3.05 2.93
3.76
2.00 2.50 3.00 3.50 4.00 4.50
話す 書く 単語 文法 聞く 読む
先延ばし度合
A 興味価値 B 利用価値 C 公的獲得価値 D 価値づけ無し E 私的獲得価値
4.48 4.49 4.38 4.32 4.33 4.21
3.81 3.55
3.51 3.46 3.83
3.50 2.79
3.25 3.04 3.06
3.07 3.12
2.82 2.91
2.74 3.03
2.70 2.70
2.64
3.43 3.48 3.45
2.73 2.85
2.00 2.50 3.00 3.50 4.00 4.50 5.00
話す 書く 単語 文法 聞く 読む
活動意欲
A 興味価値 B 利用価値 C 公的獲得価値 D 価値づけ無し E 私的獲得価値
Figure 1 価値づけタイプごとの外国語の学習活動(6領域)に対する先延ばしの度合の得点
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138
Figure 2)。結果,話すことに関しては,先延ばしの度
合は,D=B>Aであった(これ以降,多重比較の 結果,群間に見られた有意差は不等号(<)で,有意 差がないことは等号(=)を用いて表す)。活動意欲 はB=A>E=D=Cであった。書くことは, 先延 ばしの度合は, D>E=C=B=AおよびB>Aで あり,活動意欲はA>E=D=C=BおよびB>D であった。単語は,先延ばしの度合は,D>Aであり,
活動意欲はA>E=D=C=BおよびB>D=C であった。文法は,先延ばしの度合は,E=D=C
=B>Aであり,活動意欲はA>E=D=C=B およびB>Dであった。聞くことは,先延ばしの度 合は, D>E=C=B=AおよびB>Aであり,活 動意欲はA>B>E=D=Cであった。読むことは,
先延ばしの度合はE=D=C=B>AおよびD>B であり,活動意欲はA>E=D=C=BおよびB> E=Dであった。したがって,全体的に外国語の学 習活動(6領域)に対する価値づけタイプが「A:興 味価値タイプ」であれば,先延ばし度合が低く,活動 意欲が高いことが明らかになった。また,「D:価値 づけ無しタイプ」であれば,先延ばし度合が高く,活 動意欲が低いことが明らかになった。
【考 察】
1 .価値づけごとの技能・意欲・先延ばしの関連と特 徴,および教育的な介入の可能性
(1)A:興味価値タイプ
学習内容への興味から学びの楽しさ・満足を得ると いう「興味価値」を持つ学習者は,「話す」「聞く」領 域で出現率が高かった。全領域の総出現率は15.90% であった。またこのタイプの学習者は6領域すべてに ついて意欲が高く先延ばしが少ないという傾向も明ら かになり,先行研究で「内発的動機づけ」を持つとさ れる学習者像に重なる部分が多いといえよう。ただ英 語学習全体に対し「興味価値タイプ」とされる学習者 であっても,領域によっては学習から楽しさや満足を 得られない,よって先延ばしをしやすい・意欲が低い 場合もあることが推論できる。「文法」「読む」領域で は先延ばし度合いと活動意欲に弱い負の相関が見られ ることから,この領域での意欲の減退や先延ばしの増 加には注意しつつ,自律的な学習を励ますことが有用 と考えられる。例えば英語で読むことに興味を失って いるケースであれば,ほとんどすべての単語と文法が 既知のものである易しい多読用の本から選ぶよう勧め,
教師も一緒になって読む行為そのものを楽しむ経験を 共有することが考えられる。
)LJ 価値づけタイプごとの外国語の学習活動( 領域)に対する先延ばしの度合の得点
)LJ 価値づけタイプごとの外国語の学習活動( 領域)に対する活動意欲の得点
2.87
2.64 2.59
2.32
2.68 2.89
3.30 3.23
3.13 3.25 3.25 3.43
3.36
3.14 3.15 3.30
3.07 3.86 3.82 3.64
3.44 3.45
4.04 3.96
3.27
2.90 3.09 3.05 2.93
3.76
2.00 2.50 3.00 3.50 4.00 4.50
話す 書く 単語 文法 聞く 読む
先延ばし度合
A 興味価値 B 利用価値 C 公的獲得価値 D 価値づけ無し E 私的獲得価値
4.48 4.49 4.38 4.32 4.33 4.21
3.81 3.55
3.51 3.46 3.83
3.50 2.79
3.25 3.04 3.06
3.07 3.12
2.82 2.91
2.74 3.03
2.70 2.70
2.64
3.43 3.48 3.45
2.73 2.85
2.00 2.50 3.00 3.50 4.00 4.50 5.00
話す 書く 単語 文法 聞く 読む
活動意欲
A 興味価値 B 利用価値 C 公的獲得価値 D 価値づけ無し E 私的獲得価値
Figure 2 価値づけタイプごとの外国語の学習活動(6領域)に対する活動意欲の得点
(2)B : 利用価値タイプ
学習内容を他の場面で実践できることに意義を見出 す「利用価値」を持つ学習者は,すべての領域で出現 率が高く,全領域の総出現率は48.14%であった。ま たこのタイプの学習者は6領域すべてについて相対的 に意欲が高いことも明らかになった。一方6領域すべ てにおいて先延ばし度合と活動意欲の間に弱い負の相 関が見られた。つまり意欲が高い場合先延ばしが少な く,先延ばしが多いと意欲が低いという傾向が見られ た。このタイプの学習者に活動の停滞が見られる場合 は,領域ごとの意欲と先延ばしに注目し,学習を阻害 する要因を絞り込むことから,介入につなげる可能性 がある。例えば単語学習に意欲を失っているケースで あれば,学習者の持つ理想の将来像を実現するのに有 益な英語表現について話し合い,関連する単語の習得 を促す,という方法が考えられる。
(3)C:公的獲得価値タイプ
他者から見て望ましいとされる自己像があり,その ために益となる学習に価値を置くこのタイプの学習者 は「話す」「書く」領域で「E:私的獲得価値タイプ」
よりも出現率が高いという結果であった。全領域の総
出現率は13.62%であった。先延ばしの度合および活
動意欲の得点から,相対的に意欲が低い傾向が見られ たほかは,最も特徴の少ないタイプであった。他者の 思惑を推し量って自己のあるべき姿を規定する,とい う可変性の大きい価値づけを持つゆえに,はっきりし た特徴を持たないという可能性はあるが,これを本研 究の結果から検証することはできない。先行研究にお ける「不安が高く自尊心が低く」「学習動機が内容分 離的」な外国語学習者との類似性を推察し,あえてご く一般的な学習の方法論を述べるとすれば,社会的ニ ーズへの貢献といった大きな課題達成から,周囲の尊 敬・注目を集めるといった個人的な承認感の充足まで,
学習者が望ましいと感じている自己像を話し合い,そ の実現に益する学習領域の成長を理想の自己像の中に 位置づけることであろう。
(4)D : 価値づけ無しタイプ
当該学習領域に対し価値づけを持たないという選択 肢は本研究のために加えられたカテゴリーであり,「単
語」「文法」領域で出現率が高く,「話す」「聞く」領 域で「E:私的獲得価値タイプ」と比較して出現率が 低いという結果であった。全領域の総出現率は14.05
%であった。多重比較の結果からは,全領域において 先延ばし度合が高く意欲が低い傾向が明らかになった。
先行研究において英語に対する「学習内容を重視しな い動機づけ」「低い自己効力感」を持つ学習者の傾向 と類似点が多く,「無動機づけ」の学習者像と重なる 部分があることが予想できる。一方で領域による出現 率の違いが見られたことから,個人内で領域ごとに価 値づけの有無が異なる可能性も考えられる。そのため このタイプの学習者とは個別に話し合い,例えば英語 を聞くことに相対的に意欲がある,あるいは活動の停 滞が少ないことがわかれば,聞く力を伸ばすメリット を自覚できるような気づきを促し,具体的な学習活動 の計画につなげていくことが可能であろう。
(5)E : 私的獲得価値タイプ
学習内容の熟達や達成度により自らの成長を自覚す るという「私的獲得価値タイプ」は,課題価値の枠組 みでは自律的な学習動機づけを持つ群に属している。
このタイプの学習者は全領域で出現率が低く,全領域 の総出現率は最も少なく8.29%であった。また「書く」
「文法」「読む」領域で先延ばし度合と活動意欲の間 に弱い負の相関が見られた。出現総数が少ないため本 研究の結果を一般化することは危険であるが,学習者 がこの価値づけを持つ領域に成長を自覚できるよう気 づきを促すことが有用である,と示唆することができ よう。例えば文法の理解に成長を感じられず活動が停 滞するケースであれば,以前と比較して理解が深まっ た文法項目があるかどうかを学習者と話し合い,小さ くても変化があることを確認しつつ,今後の学習目標 へとつなげる方法が考えられる。
2 .技能ごとの価値づけ・意欲・先延ばしの関連と特 徴,および教育的な介入の可能性
(1)「話す」技能
この技能に対する興味価値や利用価値を持っている という回答が多く,それに対し私的獲得価値を持つと いう回答は少なかった。興味価値を持つことは,近年 の教育改革により学習者が「話す」ニーズを強く自覚
学級経営心理学研究 第6巻 第2号 140
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していることの表れであると考えられるが,同時に日 本人学習者の多くに共通する「英会話を楽しみたい」
という傾向によるものである可能性もある。興味価値 を持つ学習者は先延ばしが有意に少ないという結果か らも,学習者の興味価値を保持することで,この技能 の学習先延ばしを抑制する効果が期待できると考えら れる。「学ぶのが楽しいから学ぶ」という学習者の増 加が理想形の一つであろう。
(2)「書く」技能
この技能に対する利用価値を持っているという回答 が多く,私的獲得価値を持つ回答者が少なかった。ま た利用価値,私的獲得価値ともに意欲の増減と先延ば しの増減が関連するという結果であった。また私的獲 得価値により「書く」学習をする場合,価値づけ無し タイプよりは先延ばしが少なく,興味価値タイプより は意欲が少ないことも明らかになった。書くことに私 的獲得価値を持つタイプは,興味価値タイプや価値づ け無しタイプとは異なる動機づけがあり,意欲と先延 ばしの関連が強いため,このような学習者に対しては 意欲の低下や先延ばしの増加による影響に注意するこ とが有用であると思われる。
(3)「単語」技能
この技能に対する利用価値を持っているという回答 が多く,価値づけが無いという回答も多かった。さら に,価値づけが無いと回答した者は興味価値を持つと 回答した者と比較して先延ばしが多く意欲が低いこと が明らかになった。このことから,単語学習に価値づ けを持たない学習者に対しては,学習への興味という 価値づけの方向へと働きかけることが,先延ばしの抑 制や意欲の喚起にとって有用であろう。
(4)「文法」技能
この技能に対する利用価値を持っているという回答 が多く,価値づけが無いという回答も多かった。さら に,価値づけが無いと回答した者は文法学習への意欲 が低く先延ばしをしやすいという結果も明らかになっ た。堀野・市川(1997)は学習動機を「学習内容の重 要性」と「賞罰の直接性」の二次元で捉えたが,その 概念を援用すると,このタイプの学生は文法学習を重 視しない(内容の重要性が低い)ため,成績や単位が
取れれば良い(報酬志向で直接性が高い)とし,文法 学習への意欲が低く学習行動が計画的でないことが予 想できる。このタイプの学習者に対しては,文法知識 の必要性や価値を見出すよう支援すること,同時に学 習意欲を喚起する提示方法を工夫することなど,教育 実践者が貢献できることが多くあると考えられる。
(5)「聞く」技能
この技能に対する興味価値や利用価値を持っている という回答が多かった。先延ばしについては価値づけ の無い者が最も先延ばししやすく,意欲も低い結果に なった。この技能に関する興味価値と利用価値を持つ 者を比較すると,興味価値タイプの方が先延ばしが少 なく意欲も高いことが明らかになった。これらは「話 す」技能の傾向と類似しているため,「聞く」技能の 学習についても興味価値の保持に益する指導が有用で あろう。
(6)「読む」技能
この技能に対し利用価値を持つ者と価値づけの無い 者を比較すると,前者はより先延ばしが少なく意欲が 高いという結果であった。一方興味価値を持つ者と私 的獲得価値を持つ者を比べた場合も,前者の先延ばし が少なく意欲が高い結果であった。しかし興味価値と 私的獲得価値のどちらを持つ場合も,意欲と先延ばし に関連があることも明らかになった。そのためこれら の価値づけを持つ学習者に対しては,先延ばしを低減 するか意欲を高めるための方策を実施することが有用 であると思われる。
【終わりに】
非母語(家族の共通言語や教育に使用される言語で ないもの)あるいは外国語としての英語学習者は,現 在進められている教育改革の影響を受け,これまでと 異なる動機づけや学習行動,またその相互関連を持つ 可能性があるため,英語学習領域に絞って動機づけを 調査することは,意義あることと思われる。その際に 課題価値の枠組みを用いて科目内の領域差,個人差を 見ることで,個人の学習意欲の差や単元ごとの取り組 みの結果の違いを理解する助けとなることが期待でき
る。伊田(2003b)が「学習者の生き方と学習意欲と の関係に注意を払った数少ない理論の一つ」と定義す る課題価値を問うことは,学習者が自らの学習動機づ けを詳細にわたり振り返る機会ともなるため,その結 果を個別の指導に活用することも有用であろう。英語 学習先延ばしへの授業内での介入方法として,坂田・
福田・ポープ(2013)が英語学習動機づけの向上のた め,学習行動(先延ばし)と否定的感情(不安・焦り)
が混在しないよう自己評価項目を分け,意欲の向上へ と導いた指導例があるが,この方法論に課題価値の自 己評価を加えることで,さらに先延ばし予防や意欲向 上の効果が高まると予想できる。
荒木(2014)が述べるように「外国語での意思疎通 に対し不安が高く自尊心が低い」のが日本人学習者一 般の特徴だとすると,学習内容によって意欲が上下し やすいタイプは情動の影響を受けやすく,結果的に意 欲と先延ばしに影響が表れやすいという可能性が考え られる。そのため意欲を低下させやすい領域がある学 習者を対象とする教育実践においては,彼らの特徴に 留意しつつ学習意欲の保持を支援することが肝要であ ると言えよう。
学習者の外国語学習を阻害する先延ばしに対しては,
学習者の個人差に注目し,先延ばしがどの学習領域で 起きているのか,またその領域に対する学習意欲や価 値づけがどのようであるかを明らかにした上で,介入 の計画を立てることが有用であると言える。例えば英 語全体に対し利用価値を持つ学習者は,どの領域にお いても学習の意欲と先延ばし傾向に相関を持つ可能性 があるため,先延ばしの多い領域を特定することから 始め,その後モニタリングなどの方略使用,将来の目 標達成と学習のゴールのすり合わせなどの指導を行う ことができよう。
最後になるが,本研究は大学生を対象とした調査で あったため,結果をそのまま初等・中等教育の文脈に 適用することはできない。しかしより若い児童・生徒 であっても,生活に必須でない言語を学ぶ際に動機づ けの違いや価値づけの差異,学習意欲と先延ばしの個 人差はあると予想できる。特に児童・生徒の非母語(外 国語,日本の場合ほとんどが英語)学習はChiesa(2012)
が述べるように,「親や学校から非母語を学ぶように 求められるというのが普通」であり「非母語の学習と 教育では,言語それ自体の教授内容…だけでなく,当 該人口集団の価値観,イデオロギー,歴史も扱うこと になる」ため,教育効果を測る上で環境要因と個人要 因の両方が重要な働きをすると考えられる。外国語教 育が改革の途上にある現在,児童・生徒を対象とした 外国語学習の研究において,この社会環境の影響を考 慮し,価値づけ・意欲・先延ばしの関連の検証がなさ れるべきことは言うまでもない。
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142
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Task Values, Procrastination, Motivation and Their Interrelations on Skills in Foreign Language Learning
Keiko Mori (Tokyo Christian University) Yuka Musashi (Morioka University)
Foreign language education policies have recently changed with planned implementation of four-skills (instead of two- skills) English commercial tests for university admissions purposes, which makes an impact on secondary school students who share a range of English language learner motivations. It seems of some value then to survey how different the learners’
motivations are according to English skills. We gave a questionnaire to 350 university students taking English or other foreign language courses, and asked about their task values and the degree of both study procrastination and study willingness for the following skills: speaking, writing, listening, reading, vocabulary and grammar. From the results, we concluded that the learners held different values for different skills, and those sharing a same value to a skill seemed to have common tendencies in terms of perceived motivation and procrastination regarding the target skill.
Keywords: task values, foreign language learning (6 skills), academic procrastination, learner motivation