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(1)

キーワード:方言,共通語,意識調査,

webアンケート,全国調査

要 旨

本稿では,2016年

12月に実施した全国47

都道府県に居住する

20歳以上の2

万人を対 象とした

web

アンケート調査に基づき,方言・共通語意識の最新動向の報告と分析を 行った。その結果,伝統的な方言区画を念頭においた12の生育地ブロックは,「首都圏」

対「その他」に大区分された。その下位区分において,「沖縄」が東日本方言分布域と同 じ群に分類されたことは従来の調査結果に基づく地域分類とは大きく異なる。年代に注 目した検討からは,高年層は共通語に価値を見出す世代,中年層は方言に価値を見出す 世代,若年層は方言と共通語の区別があいまい化しているものの共通語には価値を見出 さない世代と大きくまとめられる。本稿は,元々の調査企画の趣旨である,類似項目を 用いた調査方法の異なる大規模調査間対照のための基礎的報告という意味ももち,分析 に用いた7つの設問の結果を詳しく示した。

1

.はじめに

本稿は,2016年12月に実施した全国47都道府県に居住する約

2

万人から得た最新の 方言・共通語意識についての

webアンケート調査に基づく報告である。本報告は,調査

結果の基本報告に加え,地域・年代に注目した分析と方言と共通語についての言語意識 に基づく地域のタイプ分類を行うことを主たる目的とする。

2016年全国方言意識 web調査(以下,2016年web

調査)の背景には,二つの問題意識

がある。一つ目は,方言・共通語意識についての最新の状態を把握したいということで ある。加えて

2016年web

調査ではより大規模な調査を目指した。生育地ブロックや生 育地ブロックごとの年代差の分析を可能にし,より深い分析を行うためである。二つ目 は,類似項目を用いた調査方法の異なる調査結果を対照することによって,調査方法の 特性を検討したいという目的をもつことである1)。これらの問題意識に基づき筆者らは

全国 2 万人 web アンケート調査に基づく 方言・共通語意識の最新動向

田 中 ゆかり

(2)

2010年以来,同様項目を用いた方言・共通語意識についての大規模調査を共同研究の

一環として繰り返し行っている。報告済みの2010年全国方言意識調査(以下,

2010年調

査)と

2015年全国方言意識 web調査

(以下,2015年web調査)の結果との比較も本稿で

は適宜行う2)。各調査の詳細については,田中ゆかり(2011 pp97-114;2012),田中ゆかり・

前田忠彦(2012;2013),田中ゆかり・林直樹・前田忠彦・相澤正夫(2016)を参照。

なお,狭い地域や地点に限定した単発的な方言・共通語意識についての調査報告は少 なからず存在する一方で,全国を網羅し,継続性を視野に入れた方言・共通語意識調 査は,1978年と1996年に実施されたNHK全国県民意識調査の方言についての三項目3)

(NHK放送文化研究所編

1997)を除くと見当たらない。本稿は,方言・共通語を中心と

した言語意識について,全国を網羅した大規模な継続的調査を目指す研究の一環と位置 付けられる。言語意識と言語実態は一致する場合もあるが,齟齬することも多い。意識 が実態に先行することもあるし,実態の後追いとなることもある。その齟齬が,実態を 牽引あるいは抑制する働きをもつことはこれまでの研究からも明らかである。意識と実 態の把握を言語動態研究の両輪と捉え,両者を継続的に調査していくことは,言語変化 研究推進の一翼を担うものと考える。

2

2016

web

調査概要

調査概要は,以下の通り。

2016年 web調査の設計・調査票作成は,筆者の他,付記に示した共同研究メンバー

の相澤正夫・前田忠彦・林直樹とともに行った。調査の実施は,調査会社(クロス・マー ケティング株式会社)に委託した。

調査方法は,web上に設置した調査サイトにアクセスして回答を求めるwebアンケー ト方式を採用した。

web

アンケートは回答者の代表性についての疑念はありながらも,

同数サンプル回収を目指す場合は相対的に安価で,短期間で大きなサンプル回収が見込 める調査方法であるため,近年各種マーケティング調査や一部社会調査などにおける採 用が拡大している4)。本調査は,先述の通り,言語研究のための調査としての適切性を 探るために,その調査方法やそれに由来するデータ特性の検証事例とする目的も兼ねて いる。

2016年 web調査の具体的な調査依頼と回答方法は,次の通りである。委託した調査

会社がモニター登録している全国に居住する20歳以上の登録者に回答を呼びかけ,そ れに従い各人がweb環境に応じてアンケートが設置されたサーバーにアクセスし回答を 行った。

事前に設定したすべてのセルにおいて回収目標数を充足した時点で調査を終了した。

調査期間・サンプル回収過程等については2.1で,回収目標設定・配信数・回収数につ

いては

2.2,分析対象数等については 2.3,調査項目については 2.4で詳述する。

(3)

2.1. 

調査期間・サンプル回収過程

調査期間は2016年

12月 19日〜26日までの 8

日間。

ただし,回収不足セルを補うために

21日に追加配信を行った。一方で,大幅に回収

目標を超えるセルを抑制するために

23日にアンケートをいったん終了,24日に不足セ

ルに督促配信をすると同時にアンケートを再開した。さらに26日にはその時点での不 足セルに追加配信または督促を行った。

26日時点における不足セルは,北陸居住男性20

代,中国居住男性20代,四国居住男性

60代以上,沖縄居住男性 20代,沖縄居住女性60

代以上の5セル。沖縄居住女性60代はモニター登録者全数に配信済みであったため,督 促のみ行った。

2.2. 

回収目標設定・配信数・回収数

事前のサンプル回収目標総数は20,000に設定した。

2010年調査以来踏襲している方言

区画等を意識した地域12ブロック(北海道・東北・北関東・首都圏[東京都・埼玉県・

千葉県・神奈川県]・甲信越・北陸・東海・近畿・中国・四国・九州・沖縄)別に性2層

(男性・女性)・年代5層(20代・30代・40代・50代・60代以上)の120セルに,平成27

(2015)年国勢調査データの人口比に基づき,回収目標数の

20,000を割り振った(表 1)。

直近の国勢調査人口比に基づく割り付けを行ったのは,調査時点における全国の縮図 を得たいという目的に基づくものである。モニター登録者を回答候補者とする

webアン

ケート調査では,全国居住者から回答候補者を無作為抽出することはできない。回答候 補者はモニター登録者であるというバイアス5)は回避できないが,できる限り地域・性・ 年代が現実に近いものとしたいと考えての選択である。ただし,インターネット普及率 は都道府県ならびに年代等による差が大きい。このことが回収データに影響を与えてい る可能性は否定できない6)

配 信 総 数は

144,728。 2.1

の過 程を経て回 収さ れ た回 答 総 数は

24,929

で,回 収 率は

表1.目標割り付け数内訳(平成272015)年国勢調査人口比に基づく割り付け)

居住地ブロック

北海道 東北 北関東 首都圏 甲信越 北陸 東海 近畿 中国 四国 九州 沖縄 合計 男性 年代 20代 46 76 62 374 44 26 144 192 64 30 110 14 1182

30代 60 100 82 476 58 34 182 230 82 40 144 18 1506

40代 70 114 98 572 70 40 218 290 96 48 156 20 1792

50代 64 116 84 428 64 34 176 228 84 44 152 18 1492

60代以上 166 282 208 944 168 92 424 582 228 124 384 34 3636

女性 年代 20代 46 72 56 356 42 24 132 194 62 30 114 14 1142

30代 62 96 76 450 54 32 168 238 80 40 150 18 1464

40代 74 110 90 536 66 40 206 300 96 48 166 20 1752

50代 70 116 80 404 64 36 172 240 86 48 164 18 1498

60代以上 220 364 246 1128 210 118 512 732 294 162 510 40 4536 合計 878 1446 1082 5668 840 476 2334 3226 1172 614 2050 214 20000

(4)

17.2%である

7)。無効回答8)を除いた有効回答は

24,654

で,総配信数における回収率

17.0%である。回収目標を超えたセルについては調査会社が有効回答を無作為抽出し

9)

回収目標として設定した20,000サンプルの回答が納品された(配信総数の13.8%)。こ の際,沖縄居住女性60代以上のセルは回収目標数に14不足したため,回収目標数を超 えた沖縄居住男性

60

代以上のセルに有効回答を

14上乗せして補った。納品サンプル数

のセルごとの内訳は,表2の通り。

配信総数に対する回収率を従前の同様調査と比較すると,無作為抽出対面調査の

2010年調査(n=1,347,回収率 32.1%),本調査と同じモニター登録者へのweb

アンケー ト調査である2015年

web調査

(n=10,689,回収率

28.4%)のいずれと比較してもかなり

低い。

回収サンプル

24,654における回答所要時間の平均は18.3

分,10時間(600分)以上要 したサンプル107を除くと5.8分,設問ごとの離脱率は0〜0.6%の範囲に収まっており,

回答負担や設問・選択肢が回収率の低さに影響を与えたとは思えない。調査時期が年末 ということが影響したかと想像し,調査会社に問い合わせたところ,本調査の無効回 答を含む回収率は17.2%であるため,当該委託会社における

web

アンケートの平均的回 収率16.9%と大差なかった。生育地ブロック別の回収率をみると,東北がもっとも高く

(20.9%),沖縄がもっとも低い(11.5%)。性・年代別では,

20

代男女がいずれも6.5%と もっとも低く,年代が高くなるほど高い。

60代以上では男性35.0%,女性30.1%である。

沖縄の回収率は2015年

web調査でももっとも低く(17.7%),共通する傾向を示す

10)

2.3. 

分析対象

結果の報告に際しては,生育地方言に対する意識を尋ねる設問が中心となるため,回 答者の居住地ではなく生育地に基づく分析結果を示す。本稿では,居住地とは別に尋ね た「中学校卒業までに一番長く生活した都道府県」における回答を生育地とみなす。言 語形成期については諸説あるが11),本調査では5〜

15歳の範囲とみなし,その上限が

表2.納品数内訳

居住地ブロック

北海道 東北 北関東 首都圏 甲信越 北陸 東海 近畿 中国 四国 九州 沖縄 合計 男性 年代 20代 46 76 62 374 44 26 144 192 64 30 110 14 1182

30代 60 100 82 476 58 34 182 230 82 40 144 18 1506

40代 70 114 98 572 70 40 218 290 96 48 156 20 1792

50代 64 116 84 428 64 34 176 228 84 44 152 18 1492

60代以上 166 282 208 944 168 92 424 582 228 124 384 48 3650

女性 年代 20代 46 72 56 356 42 24 132 194 62 30 114 14 1142

30代 62 96 76 450 54 32 168 238 80 40 150 18 1464

40代 74 110 90 536 66 40 206 300 96 48 166 20 1752

50代 70 116 80 404 64 36 172 240 86 48 164 18 1498

60代以上 220 364 246 1128 210 118 512 732 294 162 510 26 4522 合計 878 1446 1082 5668 840 476 2334 3226 1172 614 2050 214 20000

(5)

中学卒業と重なるため,わかりやすさを優先し,このような問い方を採用した。

納品サンプル数のうち,上述のように生育地を尋ねた設問に対して「海外(44)」「わ からない(268)」と回答したサンプルを除いた19,688を以下の分析対象とする。そのセ ルごとの内訳は表3の通り。

分析対象者の平均年齢は51.4歳(SD=15.3),もっとも若い回答者は20歳で,最高 齢の回答者は99歳である。

99歳の回答者が本当の回答者であるかは確かめようがな

い。これはどのような非対面調査にも共通する問題で,web調査固有の問題とはいえな

12)

90代以上の高齢な回答者を除くことも可能だが,本当の回答者も含む可能性は否

定できないので,今回はこのまま分析を進める。ちなみに

90

代の回答者は

17人と分析

対象者数の

0.1%に満たない。 80代は166

人で分析対象者数の0.8%で,併せても

1%に満

たない。

60代以上の平均年齢は 66.4

歳(SD=5.2)である。

本調査における年代を,日本語社会における方言・共通語に対する意識の変化に基 づく大括りな世代区分と対照すると,60歳以上の高年層が

1970年代までの方言スティ

グマの時代に言語形成期を過ごした世代,50代以下が共通語化完了を受けての方言プ レスティージ黎明期からこんにちにかけての時代に言語形成期を過ごした世代といえ

る。

40・50代はテレビ世代でもあり,1980年代の「地方の時代」

「個性の時代」に青年期

を過ごし,方言に新たな価値を見出す世代,20・30代の若年層はインターネット普及 以降のデジタルネイティヴで,ヴァーチャル方言世代とみることもできる(田中ゆかり

2011;2016)。よって,本調査の回答傾向には,生育地ブロックによる地域差以外に,こ

60代以上の高年層・中年層(40・50代)・若年層(20・30代)という大きく3

つの年

層区分による違いも予想される。

生育地を尋ねる設問とは別に「中学校卒業までに一番長く生活した場所」が調査時居 住地と一致しているかどうかを尋ねた。この結果,

12の居住地ブロックごとの一致率は,

北から順に北海道(82.1%),東北(86.3%),北関東(65.8%),首都圏(64.4%),甲信 越(76.9%),北陸(87.5%),東海(80.5%),近畿(81.1%),中国(82.1%),四国(83.5%),

表3.分析対象者内訳(納品数から生育地「海外」44、「わからない」268を差し引いたもの)

生育地ブロック

北海道 東北 北関東 首都圏 甲信越 北陸 東海 近畿 中国 四国 九州 沖縄 合計 男性 年代 20代 46 89 66 310 54 27 151 187 81 34 114 13 1172

30代 78 111 89 369 70 36 177 238 100 45 152 14 1479

40代 83 122 91 480 79 47 216 313 99 52 171 16 1769

50代 66 127 69 344 69 43 178 238 103 44 177 11 1469

60代以上 214 344 169 622 202 129 419 586 269 154 474 23 3605

女性 年代 20代 45 92 65 268 59 29 142 179 68 38 128 11 1124

30代 73 125 89 335 57 37 161 248 87 51 157 16 1436

40代 67 135 90 456 64 47 218 302 107 49 169 15 1719

50代 75 129 75 325 67 42 183 248 94 53 173 8 1472

60代以上 234 440 206 821 230 140 489 723 345 198 600 17 4443

合計 981 1714 1009 4330 951 577 2334 3262 1353 718 2315 144 19688

(6)

九州(86.5%),沖縄(60.3%)であった。居住地と「中学校卒業までに一番長く生活し た場所」が一致している回答者を当該地域ブロックの生え抜き(Native)群13),そうで ない回答者を非生え抜き(Non-Native)群とみると,生え抜き率は沖縄居住者でもっと も低く,北陸居住者でもっとも高い。

2.4. 

調査項目

調査の設問カテゴリと項目数は,表

4

の通り。

3

節以下では,生育地ならびに生育地方言・共通語意識の

7

項目(Q6は3つの場面別 に回答を求めたので実質質問は9つ)について分析・報告する。この

9

つについての具 体的な設問と選択肢を質問番号順に示す(選択肢は設問のあとの( )内)。いずれも複数 の選択肢を示し択一的な選択をラジオボタンによって求めた14)。これらの設問は,2015

web調査と同じ項目設定だが,Q4と Q8の選択肢の数については他の設問とあわせる

ために,程度差のある選択肢を設け,

3

から5に増やした15)

Q3_

生育地好悪(1=好き 2=どちらかというと好き 3=どちらでもない 4=どちら

かというと嫌い 5=嫌い 6=わからない)

Q4_

生育地方言有無(1=はっきりとある 2=どちらかというとある 3=どちらとも

いえない 4=どちらかというとない 5=全くない 6=わからない)

Q5_

生育地方言好悪(1=好き 2=どちらかというと好き 3=どちらでもない 4=ど

ちらかというと嫌い 5=嫌い 6=わからない)

Q6_1

生育地方言使用程度

_A=家族(1=よく使う 2=使うことがある 3=

使わない

4=わからない)

4

.設問カテゴリと項目数内訳

設問カテゴリ(項目数) 設   問

フェイス項目(7) 性/年齢/職業(定年等無職者への前職含む)/学歴/居住地

(都道府県)/居住地と生育地の異動/生育地(中学校卒業ま でに一番長く生活した都道府県) 

生育地ならびに生育地方言・

共通語意識項目(7)

Q3_

生育地好悪/Q4_ 生育地方言有無/Q5_ 生育地方言好悪

/Q6_ 生育地方言使用程度_A=家族・B=同郷友人・C=異郷 友人/Q7_ 方言と共通語の割合/Q8_ 方言と共通語の使い分 け/

Q9_ 共通語好悪

メディア接触・志向性項目(5)

新しいことば使用意識/文化資本への投資行動/インター ネットへのアクセス方法/インターネット利用頻度/各種メ ディア利用(A=インターネットのホームページ B=パソコン メール C=携帯メール D=SNS E=ブログ F=Twitter G=LINE などのメッセージアプリ H=ネット調査への参加

)

居住地居住期間・愛着・結び

つきの程度など(4) 現住所居住期間/現住所居住継続志向/近所づきあいの程度

/町内会・自治会所属の有無

(7)

Q6_2

生育地方言使用程度

_B=同郷友人(1=よく使う 2=使うことがある 3=

使わ ない 4=わからない)

Q6_ 3

生育地方言使用程度

_=C異郷友人(1=よく使う 2=使うことがある 3=

使わ

ない 4=わからない)

Q7_

方言と共通語の割合(1=方言のみ 2=どちらかというと方言が多い 3=方言と

共通語半々 4=どちらかというと共通語が多い 5=共通語のみ 6=その他 7=

わからない)

Q8_

方言と共通語の使い分け(1=使い分けていると思う 2=どちらかというと使い分

けていると思う 3=どちらともいえない 4=どちらかというと使い分けていない と思う 5=使い分けていないと思う 6=わからない)

Q9_

共通語好悪(1=好き 2=どちらかというと好き 3=どちらでもない 4=どちら

かというと嫌い 5=嫌い 6=わからない)

3

.報告・分析

3

節では,生育地ならびに生育地方言・共通語意識の計7項目についての分析結果の 報告を行う。

まず,3.1において単純集計に基づく結果を概観する。単純集計結果については,過 去に筆者らが実施した方言意識調査の結果と簡単に比較する。

その後,3.2で設問ごとに生育地ブロックと,3.3では生育地ブロックごとの年代のク ロス集計表に基づく分析を行う。

3.4でクロス集計に基づく分析を大まかな見取り図と

して示し,その背景についての簡潔な解釈を行う。

以下,小数点以下の数値については第二位を四捨五入し,第一位までを示す。 

3.1. 

単純集計結果

「Q3_ 生育地好悪」についての結果は図

1

の通り。

44.2%

27.9%

20.8%

3.4%

1.8%

1.8%

ዲ䛝

䛹䛱䜙䛛䛸䛔䛖䛸ዲ䛝 䛹䛱䜙䛷䜒䛺䛔 䛹䛱䜙䛛䛸䛔䛖䛸᎘䛔

᎘䛔 䜟䛛䜙䛺䛔

1

Q3̲ 

生育地好悪(

n=19,688

(8)

「好き(好き+どちらかというと好き)」が

7

割を超え,「嫌い(嫌い+どちらかという と嫌))」は

1

割に満たない。「どちらでもない」「わからない」が2割強である。

「Q4_ 生育地方言有無」(図

2)は,「ある(はっきりとある+どちらかというとある)」

7

割を超え,「ない(全くない

+どちらかというとない)」は2

割弱,「どちらともいえ ない」「わからない」が

1

割強である。共通語化が完了したとされるこんにちではあるが,

生育地に方言があると意識する人が多数派ということになる。この結果は,2015年

web

調査の結果とほぼ同様である。

「Q5_ 生育地方言好悪」(図3)は,「好き(好き

+どちらかというと好き)」が4

割強,「嫌 い(嫌い+どちらかというと嫌い)」が

1割弱,「どちらでもない」が約4

割,「わからな い」が

1

割弱である。図

1

「Q3_ 生育地好悪」に比べ,「好き」が少なく,その分「どちら でもない」が多い。対面調査の

2010年調査では「好き」が6

割強,「どちらでもない」が

3

割弱であった。

2015年 web調査では「好き」が4

割弱,「どちらでもない」が

5

割強であっ

46.4%

26.0%

9.9%

7.4%

7.9%

2.5%

䛿䛳䛝䜚䛸䛒䜛 䛹䛱䜙䛛䛸䛔䛖䛸䛒䜛 䛹䛱䜙䛸䜒䛔䛘䛺䛔 䛹䛱䜙䛛䛸䛔䛖䛸䛺䛔

඲䛟䛺䛔 䜟䛛䜙䛺䛔

2

Q4̲ 

生育地方言有無(

n=19,688

22.5%

22.3%

40.2%

5.8%

2.5%

6.7%

ዲ䛝

䛹䛱䜙䛛䛸䛔䛖䛸ዲ䛝 䛹䛱䜙䛷䜒䛺䛔 䛹䛱䜙䛛䛸䛔䛖䛸᎘䛔

᎘䛔 䜟䛛䜙䛺䛔

3

Q5̲ 

生育地方言好悪(

n=19,688

(9)

た。今回の結果は,後者に近い。

次に「Q6_ 生育地方言場面別使用程度」(図4)をみる。

すべての場面は親しい相手で構成されており,従来の研究において方言使用に傾く場 面とされる。それぞれの場面の特徴として,家族・同郷友人は生育地方言を共有し,異 郷友人は共有しない。そのため,生育地方言を共有する前者に方言使用が傾くことが予 想される16)。一方,家族は一般的にはもっともリラックスした場面といえるが,二世代・

三世代同居家族では年代の異なるメンバー構成となる。同郷友人・異郷友人には幅広い 年代の「友人」が想定されるが,同世代が想定されることが多い場面といえよう。生育 地方言の共有・非共有と年代差が想定されやすいか否かによる三場面についての生育地 方言使用程度を尋ねた設問ということになる。

「家族」「同郷友人」が相手の場合は生育地方言を「使う(よく使う+使うことがある)」

6

割前後で,「異郷友人」が相手の場合は「使う」が

4

割弱である。この結果は,2010

年調査・

2015年 web調査いずれともほぼ一致する。一方,

「家族」と「同郷友人」では「同

郷友人」に使用程度が若干高いという点は,2015年

web調査と一致するが,「同郷友人」

より「家族」に使用程度が若干高い

2010年調査とは異なる。

「Q7_ 方言と共通語の割合」(図5)は,「方言より(方言のみ+どちらかというと方言 が多い)」が

2

割強,「共通語と方言半々」が

2

割弱,「共通語より(共通語のみ+どちら かというと共通語が多い)」が

5割強,「わからない」が 1

割を切る。同じ質問文・選択 肢で調査した2015年

web調査とほぼ同様である。

「Q8_ 方言と共通語の使い分け」(図6)は,「使い分けている(使い分けていると思う

+どちらかというと使い分けていると思う)」が約 4

割,「使い分けていない(使い分け

ていないと思う+どちらかというと使い分けていないと思う)」が3割強,「どちらとも いえない」が約

2

割,「わからない」が

1

割を切る。

2010年調査と 2015年web

調査では,

11.7 30.5

32.1

26.0

33.3 29.1

45.4 24.4 28.7

16.9 11.8

10.1

0% 20% 40% 60% 80% 100%

␗㒓཭ே

ྠ㒓཭ே

ᐙ᪘

䜘䛟౑䛖

౑䛖䛣䛸䛜䛒䜛

౑䜟䛺䛔 䜟䛛䜙䛺䛔

4

Q6̲ 

生育地方言場面別使用程度(

n=19,688

(10)

「どちらともいえない」という選択肢のないかたちで尋ねたため直接的な比較はできな いが,「使い分けている」はそれぞれ

4

割前後とほぼ同様である。一方,「使い分けてい ない」は

2010年調査では5

割強,

2015年 web調査では4

割強で,「わからない」は

2010年

調査で1割を切り,2015年web調査では1割強であった。いずれも「使い分けていない」

2016年web

調査に比べ1〜

2

割高い結果を示す。

「Q9_ 共通語好悪」(図7)は,「好き(好き

+どちらかというと好き)」が3

割強,「嫌 い(嫌い+どちらかというと嫌い)」が

1割を切り,「どちらでもない」が 5

割強である。

これも

2015年 web調査と類似した結果だが,2010

年調査とは異なる。

2010年調査では

「好き」が

5

割強,「嫌い」が5%未満,「どちらでもない」が4割強であった。

2010年調査

から2015・2016年web調査にかけて共通語に対する「好き」が

2

割程度減じ,その分「ど ちらでもない」が

2

割程度増加していることになる。

5.1%

17.4%

17.6%

34.1%

18.4%

0.3%

7.1%

᪉ゝ䛾䜏

䛹䛱䜙䛛䛸䛔䛖䛸᪉ゝ䛜ከ䛔 ᪉ゝ䛸ඹ㏻ㄒ༙䚻 䛹䛱䜙䛛䛸䛔䛖䛸ඹ㏻ㄒ䛜ከ䛔 ඹ㏻ㄒ䛾䜏

䛭䛾௚

䜟䛛䜙䛺䛔

5

Q7̲ 

方言と共通語の割合(

n=19,688

16.2%

24.0%

20.9%

9.9%

21.5%

7.6% ౑䛔ศ䛡䛶䛔䜛䛸ᛮ䛖

䛹䛱䜙䛛䛸䛔䛖䛸౑䛔ศ䛡䛶䛔 䜛䛸ᛮ䛖

䛹䛱䜙䛸䜒䛔䛘䛺䛔

䛹䛱䜙䛛䛸䛔䛖䛸౑䛔ศ䛡䛶䛔 䛺䛔䛸ᛮ䛖

౑䛔ศ䛡䛶䛔䛺䛔䛸ᛮ䛖

䜟䛛䜙䛺䛔

6

Q8̲ 

方言と共通語の使い分け意識(

n=19,688

(11)

単純集計結果を総合すると,

2016年 web調査の結果は2015年 web調査に近く, 2010年

調査とはいくつかの点で相違することがわかる。これは,三つの調査における調査実施 年の近さ・遠さ,あるいは調査方法の相違―無作為抽出による対面調査かモニター登録 者の人口比割り付け

webアンケート調査か―といったことに基づくと想像される。

3.2. 

生育地ブロックによるクロス集計表に基づく比較

ここでは,

7

つの設問の生育地ブロックとのクロス集計表を用いて,

12の生育地ブロッ

クごとの特徴を把握する(表5-1〜表

5-3)。

クロス集計表を用いて,その多寡に言及する際は,次の手続きを踏んでいる。まず,

χ二乗検定を行い,

p

値が

0.05未満の場合を「差がある」とみなす。差があるものについ

ては,クロス集計表はすべて2×3以上であるため,さらに残差分析を行う。調整済み 残差が2以上のセルについて「多い」とする。調整済み残差が-2以下の場合は「少ない」

ということになるが,おおむね「多い」と表裏の関係にあるため,ここでは煩雑を避け るために「多い」セルに注目する。

各表において,設問タイトル右にχ二乗検定の結果を,表下にある凡例の通りアステ リスクの数で示す。調整済み残差が2以上のセルをボールドと下線で表し,そのうちの もっとも調整済み残差が大きなセルを白黒反転させ目立つようにした。以下では,それ らを中心に生育地ブロックの特徴をみていく。本文中「とくに多い」と言及する場合は,

調整済み残差が10以上のセルである。言及は百分比ではなく,調整済み残差の多い順 に行う。百分比と調整済み残差の大きさは並行しないケースもある。

表5-1は「Q3_ 生育地好悪」「Q4_ 生育地方言有無」「Q5_ 生育地方言好悪」,表5-2は

「Q6_ 場面別生育地方言使用程度」,表

5-3は「Q7_ 方言と共通語の割合」

「Q8_ 方言と共 通語の使い分け」「Q9_ 共通語好悪」についてのクロス集計表である。

14.6%

20.2%

55.0%

3.6%

1.0%

5.6%

ዲ䛝

䛹䛱䜙䛛䛸䛔䛖䛸ዲ䛝 䛹䛱䜙䛷䜒䛺䛔 䛹䛱䜙䛛䛸䛔䛖䛸᎘䛔

᎘䛔 䜟䛛䜙䛺䛔

7

Q9̲ 

共通語好悪(

n=19,688

(12)

3.2.1. 

Q3̲ 

生育地好悪」「

Q4̲ 

生育地方言有無」「

Q5̲ 

生育地方言好悪」

まず,表

5-1をみる。

「Q3_ 生育地好悪」では,「好き」が「北海道」「九州」「近畿」「沖縄」,「嫌い」が「東北」

「北関東」「北陸」に多い。「どちらでもない」は「東海」「北関東」「東北」「首都圏」に,「わ からない」は「東北」に多い。

「Q4_ 生育地方言有無」は「ある」は首都圏以外のすべての生育地ブロックに多く,と くに「九州」「中国」「東海」「近畿」「東北」「四国」に多い。「ない」は首都圏のみである。「ど ちらともいえない」は「首都圏」がとくに多く,「北海道」にも多い。「わからない」は「首 都圏」「東北」に多い。

「Q5_ 生育地方言好悪」では,「好き」が「九州」「近畿」に,「嫌い」は「北関東」にそれ ぞれとくに多い。「どちらでもない」「わからない」は「首都圏」にとくに多い。

表5-1を総合すると,現代の共通語基盤方言分布域である「首都圏」対「その他」とい う構造が明確である。方言があるとする生育地ブロックのうち,「九州」「北海道」「近畿」

が方言に対する肯定的態度が顕著で,「東北」「北関東」に否定的な傾向がうかがえる。

ただし,「東北」は生育地が「嫌い」で生育地方言は「好き」と「嫌い」が多く,「北関東」

は生育地が「どちらでもない」「嫌い」で生育地方言は「嫌い」「どちらでもない」が多い という違いがある。

3.2.2. 

Q6̲ 

生育地方言場面別使用程度」

次に,家族,同郷友人,異郷友人に対してどの程度方言を使用するか尋ねたものを生 育地ブロックごとに比較した表5-2をみる。

5-1

.生育地ブロックごとのクロス集計表

Q3̲生育地好悪・Q4̲生育地方言有無・Q5̲生育地方言好悪)

Q3_生育地好悪*** Q4_生育地方言有無*** Q5_生育地方言好悪***

好き どちらで

もない 嫌い わから

ない ある どちらとも

いえない ない わから

ない 好き どちらで

もない 嫌い わから ない

北海道(n=981) 80.7% 13.8% 4.1% 1.4% 77.7% 12.5% 8.1% 1.7% 51.2% 39.9% 6.3% 2.7%

東北(n=1714) 64.1% 23.3% 9.0% 3.6% 86.8% 6.3% 3.2% 3.7% 49.3% 34.9% 11.6% 4.3%

北関東(n=1009) 63.3% 24.9% 9.5% 2.3% 81.6% 10.5% 5.7% 2.2% 32.5% 43.2% 20.4% 3.9%

首都圏(n=4330) 71.9% 22.1% 3.8% 2.1% 21.8% 17.5% 56.6% 4.2% 20.3% 54.8% 4.1% 20.9%

甲信越(n=951) 71.3% 21.6% 6.1% 1.1% 83.8% 8.9% 5.6% 1.7% 46.4% 43.4% 7.6% 2.6%

北陸(n=577) 71.6% 18.2% 8.1% 2.1% 91.9% 3.8% 2.3% 2.1% 46.1% 38.1% 12.8% 2.9%

東海(n=2334) 70.4% 23.5% 4.6% 1.5% 85.4% 9.2% 3.3% 2.1% 39.5% 45.0% 12.8% 2.7%

近畿(n=3262) 74.1% 20.4% 4.0% 1.5% 82.9% 10.0% 5.0% 2.1% 60.4% 30.4% 6.2% 3.0%

中国(n=1353) 73.8% 20.2% 4.6% 1.5% 92.7% 5.1% 1.0% 1.3% 52.4% 35.6% 10.3% 1.8%

四国(n=718) 71.0% 22.4% 5.3% 1.3% 90.8% 5.2% 2.5% 1.5% 51.7% 38.9% 7.8% 1.7%

九州(n=2315) 77.1% 16.5% 5.0% 1.3% 94.0% 3.7% 1.2% 1.1% 64.0% 27.9% 6.5% 1.6%

沖縄(n=144) 79.9% 11.8% 6.3% 2.1% 91.7% 4.2% 1.4% 2.8% 63.9% 25.7% 7.6% 2.8%

72.2% 20.8% 5.2% 1.8% 72.4% 9.9% 15.3% 2.5% 44.7% 40.2% 8.4% 6.7%

※項目名右:***:p<0.001,**:p<0.01,*:p<0.5

※ボールド・下線:調整済み残差≧2のセル 白黒反転:ボールド・下線のうち調整済み残差が最大値のセル

(13)

家族に対して,「使う」は「近畿」「九州」「中国」「東海」にとくに多い。「使わない」「わ からない」ともに「首都圏」はとくに多い。「使わない」は「北関東」にも多い。

同郷友人に対して,「使う」は「近畿」「九州」「中国」「東海」にとくに多い。「使わない」

「わからない」は「首都圏」にとくに多く,「北関東」に多い。

異郷友人に対して,「使う」は「近畿」のみとくに多い。「使わない」「わからない」は「首 都圏」のみとくに多い。

表5-2を総合すると,すべての場面で生育地方言を「使う」のとくに多い「近畿」と,

すべての場面で「使わない」「わからない」のとくに多い「首都圏」という対立が鮮明で ある。伝統的に都のあった圏域と現代の首都圏とのあいだの,方言と共通語に対する意 識における対立を読み取ることができる。「近畿」の他,「九州」「中国」「東海」「四国」

は生育地方言を「使う」ことが多く,「北関東」は「使わない」「わからない」が多く「首 都圏」に似たタイプといえる。「甲信越」「沖縄」は異郷友人場面のみ「使わない」が多い。

3.2.3. 

Q7̲

方言と共通語の割合」「

Q8̲

方言と共通語の使い分け」「

Q9̲

共通語好悪」

表5-3をみる。

「Q7_ 方言と共通語の割合」では,「方言より」に「近畿」「九州」「中国」,「共通語より」

に「首都圏」「北海道」,「わからない」に「首都圏」がとくに多い。「共通語より」は「北 関東」「甲信越」といった「首都圏」に隣接するブロックだけでなく,「沖縄」にも多い。

「Q8_ 方言と共通語の使い分け」では,「使い分けている」が「九州」「中国」「東北」「近 畿」に,「使い分けていない」「わからない」に「首都圏」がとくに多い。

「Q9_ 共通語好悪」では,「好き」「わからない」が「首都圏」に,「嫌い」が「近畿」にと くに多い。「好き」は他に「北海道」「甲信越」「沖縄」に多い。

表5-3を総合すると,現代の共通語基盤方言分布域である首都圏とその他という対立 表

5-2

.生育地ブロックごとのクロス集計表

Q6̲生育地方言場面別使用程度)

Q6_1 生育地方言使用_家族*** Q6_2 生育地方言使用_同郷友人*** Q6_3 生育地方言使用_異郷友人***

使う 使わない わからない 使う 使わない わからない 使う 使わない わからない 北海道(n=981) 65.3% 24.1% 10.6% 65.6% 21.3% 13.0% 38.9% 40.5% 20.6%

東北(n=1714) 68.9% 23.0% 8.1% 70.7% 19.5% 9.8% 32.9% 51.4% 15.7%

北関東(n=1009) 55.1% 33.0% 11.9% 57.1% 27.7% 15.3% 30.1% 49.9% 20.0% 首都圏(n=4330) 22.8% 57.7% 19.5% 23.4% 55.7% 20.9% 20.2% 57.6% 22.2% 甲信越(n=951) 62.8% 30.4% 6.8% 66.0% 24.8% 9.1% 29.5% 54.3% 16.2%

北陸(n=577) 76.1% 16.8% 7.1% 78.5% 13.5% 8.0% 36.7% 49.6% 13.7%

東海(n=2334) 71.0% 21.1% 7.9% 74.2% 16.0% 9.8% 43.0% 41.2% 15.8%

近畿(n=3262) 77.2% 14.7% 8.2% 80.7% 10.0% 9.3% 57.3% 27.5% 15.2%

中国(n=1353) 77.6% 16.9% 5.5% 82.0% 11.4% 6.7% 44.6% 42.6% 12.8%

四国(n=718) 74.7% 18.8% 6.5% 80.2% 12.0% 7.8% 43.0% 42.1% 14.9%

九州(n=2315) 77.1% 18.5% 4.4% 81.9% 11.9% 6.2% 42.5% 45.0% 12.5%

沖縄(n=144) 63.9% 31.3% 4.9% 66.7% 27.1% 6.3% 21.5% 62.5% 16.0%

61.1% 28.7% 10.1% 63.8% 24.4% 11.8% 37.7% 45.4% 16.9%

※項目名右:***:p<0.001,**:p<0.01,*:p<0.5

※ボールド・下線:調整済み残差≧2のセル 白黒反転:ボールド・下線のうち調整済み残差が最大値のセル

(14)

がここからも読み取れる。「Q7_方言と共通語の割合」「Q9_共通語好悪」において首都 圏との対比が顕著な伝統的都の「近畿」,さらに「Q8_方言と共通語の使い分け」におい て使い分け意識の高さが顕著な特徴を示す「九州」という対立軸が主要なものとして浮 かび上がる。多くの生育地ブロックはこの「首都圏」「近畿」「九州」との地理的距離に よっていずれかのタイプに類似する。ただし,「沖縄」は,「共通語より」「使い分けてい る」「(共通語)好き」が多く,いずれのタイプとも異なる。

3.3. 

生育地ブロックごとの年代によるクロス集計表に基づく比較

7

つの設問についての12の生育地ブロックと年代(20代〜60代以上)のクロス集計表

が表

6-1〜6-3

である。

3.2でみた通り,生育地ブロックにより回答パターンはかなりの

程度異なる。よって,年代のみで多寡を論ずることはこの地域差を無視することになる ため,ここでは,年代差を生育地ブロックごとにみていく。クロス集計表に基づく分析 に際しての手続きは3.2冒頭で述べた内容に同じ。

表6-1(表6-1-1〜表

6-1-12)は「Q3_生育地好悪」

「Q4_生育地方言有無」「Q5_生育地 方言好悪」,表

6-2

(表6-2-1〜表

6-2-12)は「Q6_

場面別生育地方言使用程度」,表6-3(表

6-3-1〜表6-3-12)は「Q7_

方言と共通語の割合」「Q8_方言と共通語の使い分け」「Q9_共 通語好悪」をまとめた示したクロス集計表である。それぞれ北から順に「北海道」から

「沖縄」までの結果を配列しており,各12枚の表からなる。

各表において,設問タイトル右にχ二乗検定の結果を,表下に示した凡例の通りアス テリスクの数で示す。調整済み残差が2以上のセルについてはボールドと下線を付し,

調整済み残差が最大値をとるセルを白黒反転させ,目立つようにした。ここでは,もっ とも大きな特徴を示すセルである白黒反転セルの出現パターンに焦点を絞り,設問ごと

5-3

.生育地ブロックごとのクロス集計表

Q7̲方言と共通語の割合・Q8̲方言と共通語の使い分け意識・Q9̲共通語好悪)

Q7_方言と共通語の割合*** Q8_方言と共通語の使い分け意識*** Q9_共通語好悪***

方言 より 方言と共

通語半々 共通語

より その他 わから ない 使い分け

ている どちらとも いえない 使い分け

ていない わから

ない 好き どちらで

もない 嫌い わから ない 北海道(n=981) 8.0% 14.6% 71.0% 0.2% 6.2% 31.2% 25.9% 36.2% 6.7% 40.2% 53.9% 1.4% 4.5%

東北(n=1714) 25.1% 19.7% 47.4% 0.0% 7.7% 53.1% 18.2% 21.2% 7.5% 33.9% 55.0% 4.4% 6.7% 北関東(n=1009) 10.6% 16.6% 65.6% 0.0% 7.2% 33.3% 24.1% 35.3% 7.3% 37.3% 52.7% 3.6% 6.4%

首都圏(n=4330) 3.3% 4.3% 81.4% 0.4% 10.6% 11.6% 18.0% 56.1% 14.2% 43.6% 45.1% 2.3% 9.0% 甲信越(n=951) 10.2% 17.1% 65.6% 0.2% 6.8% 41.7% 22.8% 29.1% 6.3% 38.1% 56.0% 1.6% 4.3%

北陸(n=577) 32.9% 23.1% 36.7% 0.5% 6.8% 55.1% 17.5% 21.0% 6.4% 32.6% 57.9% 4.3% 5.2%

東海(n=2334) 16.7% 24.0% 52.2% 0.4% 6.6% 41.3% 25.8% 27.0% 5.9% 33.7% 58.5% 3.3% 4.5%

近畿(n=3262) 44.7% 21.4% 27.2% 0.3% 6.4% 48.1% 21.1% 25.0% 5.8% 23.9% 60.4% 10.4% 5.3%

中国(n=1353) 34.4% 23.6% 36.1% 1.0% 5.0% 56.0% 22.2% 18.0% 3.7% 32.5% 59.8% 5.1% 2.6%

四国(n=718) 35.5% 22.1% 36.8% 0.1% 5.4% 54.6% 19.9% 20.6% 4.9% 29.9% 59.9% 6.7% 3.5%

九州(n=2315) 34.9% 24.8% 36.0% 0.4% 4.0% 59.2% 19.4% 17.8% 3.7% 34.0% 58.5% 4.4% 3.0%

沖縄(n=144) 4.9% 18.1% 72.9% 0.0% 4.2% 58.3% 13.2% 22.9% 5.6% 45.8% 48.6% 1.4% 4.2%

22.5% 17.6% 52.5% 0.3% 7.1% 40.2% 20.9% 31.4% 7.6% 34.9% 55.0% 4.6% 5.6%

※項目名右:***:p<0.001,**:p<0.01,*:p<0.5

※ボールド・下線:調整済み残差≧2のセル 白黒反転:ボールド・下線のうち調整済み残差が最大値のセル

(15)

の大きな傾向をみる。生育地ブロックを示す際は,北から順に示す。

なお,以下で詳しくみていくが,「沖縄」に年代差の認められないパターンが多出する。

これは,「沖縄」を1つの県で1ブロックとしているため,他の生育地ブロックに比べサ ンプル数が極端に少ないことによる可能性を否定できない。北海道も同じ条件だが,沖 縄に比べサンプル数が多い。また,「沖縄」は

2.2

で示したように居住地と生育が一致す る生え抜き率ももっとも低い。さらに

60代以上女性のみ回収目標数に達せず,60代以

上男性で補充した経緯もある。

3.3.1. 

Q3̲

生育地好悪」「

Q4̲

生育地方言有無」「

Q5̲

生育地方言好悪」

表6-1からみていく(左16頁〜左

19頁)。

「Q3_生育地好悪」は,「甲信越」「北陸」「沖縄」を除く生育地ブロックにおいて共通し て「好き」が60代以上,「わからない」が

20

代または

30代に多い。これに「嫌い」が 30

代または

40代に多いという特徴が加わるのが「東北」

「北関東」「東海」「近畿」「四国」「九 州」である。「近畿」は「どちらでもない」が

40代に多いという特徴も示す。「沖縄」は年

代による特徴は認められない。

「Q4_生育地方言有無」では,「ある」が

60代以上,「どちらともいえない」

「ない」「わ からない」のいずれかあるいはすべてが

30代以下の年代に多いというパターンが主流

で,これに「北海道」「沖縄」以外のすべての生育地ブロックが該当する。「北海道」のみ

「ある」が40代に多い。「沖縄」は年代による特徴が認められない。

「Q5_生育地方言好悪」では,年代による特徴が認められない「北陸」「沖縄」を除き,

すべての生育地ブロックにおいて「わからない」が20代に多いことが共通する。これに

「好き」「嫌い」「どちらでもない」が特徴的に多い年代の有無を加味することによってさ らに細分化できる。「好き」が

60

代以上に多いのは「東北」「首都圏」,

50代に多いのが「近

畿」である。「嫌い」が50代に多いのが「甲信越」,

60代に多いのが「東海」である。

表6-1を総合すると,「Q3_生育地好悪」と「Q5_生育地方言好悪」は高年層ほど「好き」

で若いほど「わからない」という共通傾向を示し,中年層の好悪が生育地ブロックの特 徴を形成する背景となっていることがわかる。「Q4_生育地方言有無」についても高年 層ほど「ある」,若いほど「どちらともいえない」「ない」「わからない」に傾く傾向が共 通する。若いほどいずれの設問でも「わからない」が増加する背景には,共通語化によ り「方言」と「共通語」の区別があいまい化しているためと推測される。生育地・方言と もに「嫌い」の多い年代を含むのは「東海」で,生育地のみ「嫌い」の多い年代を含むの は「東北」「北関東」「近畿」「四国」「九州」,方言のみ「嫌い」の多い年代を含むのは「甲 信越」である。

3

設問すべてにおいて年代による特徴の認められない生育地ブロックは

「沖縄」である。

(16)

6- 1

Q 3̲

生育地方言好悪、

Q 4̲

生育地方言有無、

Q 5̲

生育地方言好悪(生育地ブロック×年代クロス集計表) 表

6- 1- 1  

北海道×年代 Q3_生育地好悪*Q4_生育地方言有無***Q5_生育地方言好悪** どちらでも ないわからないあるどちらとも いえないないわからないどちらでも ないわからない 北海道20(n=91)72.518.74.4

4. 4

%63.717.611.0

7. 7

%44.039.67.7

8. 8

北海道30(n=151)72.818.55.33.3%74.813.28.63.351.736.46.65.3% 北海道40(n=150)82.712.74.00.7

84

.0%9.35.31.353.338.07.31.3 北海道50(n=141)78.713.56.41.482.312.85.00.056.735.57.10.7 北海道60代以上(n=448)

85

.0%11.62.90.477.912.39.20.750.043.15.41.6 北海道計(n=981)80.713.84.11.477.712.58.11.751.239.96.32.7 ※χ2検定有意水準5:*,1:**,0.1:*** χ2検定有意差有りの場合調整済残差2以上にボールド・下線、もっともきなセルは白黒反転

6- 1- 2  

東北×年代 Q3_生育地好悪***Q4_生育地方言有無***Q5_生育地方言好悪*** どちらでも ないわからないあるどちらとも いえないないわからないどちらでも ないわからない 東北20(n=181)56.422.710.5

10

.5%70.79.9%7.2%

12

.2%39.232.614.4

13

.8% 東北30(n=236)57.224.613.1%5.176.7

11

.4%

6. 8

%5.145.836.012.75.5 東北40(n=257)58.824.9

13

.6%2.786.87.03.92.346.737.412.83.1 東北50(n=256)64.824.67.43.190.6%5.51.22.752.033.211.73.1 東北60代以上(n=784)

69

.5%22.26.41.9

92

.2%4.01.72.2

52

.7%34.810.12.4 東北計(n=1714)64.123.39.03.686.86.33.23.749.334.911.64.3 ※χ2検定有意水準5:*,1:**,0.1:*** χ2検定有意差有りの場合調整済残差2以上にボールド・下線、もっともきなセルは白黒反転

6- 1- 3  

北関東×年代 Q3_生育地好悪**Q4_生育地方言有無***Q5_生育地方言好悪* どちらでも ないわからないあるどちらとも いえないないわからないどちらでも ないわからない 北関東20(n=131)61.122.110.7

6. 1

%64.1

19

.1%

10

.7%

6. 1

%32.144.315.3

8. 4

北関東30(n=178)58.427.010.14.5%74.214.08.43.432.643.818.55.1 北関東40(n=181)58.626.0

13

.8%1.783.49.45.51.730.938.125.45.5 北関東50(n=144)65.325.77.61.490.3%4.93.51.434.041.721.52.8 北関東60代以上(n=375)

68

.0%24.07.50.5

86

.9%8.53.70.832.845.620.31.3 北関東計(n=1009)63.324.99.52.381.610.55.72.232.543.220.43.9 ※χ2検定有意水準5:*,1:**,0.1:*** χ2検定有意差有りの場合調整済残差2以上にボールド・下線、もっともきなセルは白黒反転

(17)

6- 1- 4  

首都圏×年代 Q3_生育地好悪***Q4_生育地方言有無***Q5_生育地方言好悪*** どちらでも ないわからないあるどちらとも いえないないわからないどちらでも ないわからない 首都圏20(n=578)67.524.64.83.115.716.1

61

.9%6.2%18.749.74.3

27

.3% 首都圏30(n=704)67.823.65.0

3. 7

%17.618.856.8

6. 8

%17.255.14.323.4 首都圏40(n=936)69.323.04.92.818.819.057.74.517.854.34.723.2% 首都圏50(n=669)70.724.83.41.024.117.955.32.721.855.83.618.8 首都圏60代以上(n=1443)

78

.0%18.52.41.1

27

.2%16.154.22.5

23

.4%56.53.716.4 首都圏計(n=4330)71.922.13.82.121.817.556.64.220.354.84.120.9 ※χ2検定有意水準5:*,1:**,0.1:*** χ2検定有意差有りの場合調整済残差2以上にボールド・下線、もっともきなセルは白黒反転

6- 1- 5  

甲信越×年代 Q3_生育地好悪Q4_生育地方言有無***Q5_生育地方言好悪* どちらでも ないわからないあるどちらとも いえないないわからないどちらでも ないわからない 甲信越20(n=113)68.121.28.02.769.012.4

12

.4%

6. 2

%47.838.17.1

7. 1

甲信越30(n=127)69.324.43.92.475.6

14

.2%7.92.444.946.55.53.1 甲信越40(n=143)68.525.26.30.087.47.72.82.145.544.17.72.8 甲信越50(n=136)65.427.95.11.581.68.88.11.541.943.4

14

.0%0.7 甲信越60代以上(n=432)75.517.66.50.5

89

.6%6.93.20.248.143.86.31.9 甲信越計(n=951)71.321.66.11.183.88.95.61.746.443.47.62.6 ※χ2検定有意水準5:*,1:**,0.1:*** χ2検定有意差有りの場合調整済残差2以上にボールド・下線、もっともきなセルは白黒反転

6- 1- 6  

北陸×年代 Q3_生育地好悪Q4_生育地方言有無*Q5_生育地方言好悪 どちらでも ないわからないあるどちらとも いえないないわからないどちらでも ないわからない 北陸20(n=56)60.723.210.75.482.17.13.6

7. 1

%41.139.310.78.9 北陸30(n=73)69.920.58.21.487.75.5

5. 5

%1.450.737.09.62.7 北陸40(n=94)72.316.08.53.288.36.42.13.246.836.212.84.3 北陸50(n=85)65.920.010.63.594.13.50.02.447.134.115.33.5 北陸60代以上(n=269)75.816.76.70.7

95

.5%1.91.90.745.440.113.41.1 北陸計(n=577)71.618.28.12.191.93.82.32.146.138.112.82.9 ※χ2検定有意水準5:*,1:**,0.1:*** χ2検定有意差有りの場合調整済残差2以上にボールド・下線、もっともきなセルは白黒反転

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