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レジ袋削減政策の経済分析

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(1)

論 文

はじめに

地球温暖化対策の具体策の一つとして,レジ 袋削減政策が全国的に急拡大している。現在で は,全国 47 都道府県のうち 38 道府県(全体の 81%)が,また市町村レベルでは 685 市町村(市 町村全体の 39%)が何らかの取り組みを実施 しているという状況にある。

これらの取り組みは,そのほとんどが「有料 化」(買い物時に無料で配布されているレジ袋 に 1 枚 5 円程度の料金設定をし,価格をシグナ ルとしてレジ袋使用量の削減を図るもの)と「自 主協定」(事業者が自主的にレジ袋削減運動に取 り組み,自治体や住民団体などがその取り組み をサポートする)との組み合わせで実施されて いる。また,2007 年に改正された容器包装リサ イクル法によって,レジ袋の大量使用事業者へ のサンクション機能が強化されたことも,有料 化政策の推進に少なくない影響を与えている(1)。 このように,わが国のレジ袋削減政策は有料 化を中心に自主協定や法規制といった複数の政 策手法を組み合わせたポリシーミックスを形成 し,高い実効性を確保していると理解すること ができる。

しかしながら,有料化手法は他の代替的手法 と比べ,より優れた手法と言えるのかどうか,

また,有料化による売上げの減少といった事業 者サイドのデメリットが,自主協定によって緩 和され得るのかどうかについては,理論的に明 らかになっていない部分も多い。

そこで本研究では,今後さらに拡大していく と予想されるレジ袋削減政策を題材に,公共経 済学の視点から以下の諸点について検討を行う。

第 1 に,有料化手法と他の代替的手法(課税,

配布禁止,値引き,ポイント付与など)につい て費用効率性の観点から比較分析を行い,どの 手法が最も優れているのかを明らかにする。

第 2 に,これらの手法を実施する際に現われ る政策実施上の短所は,どのような手法で補完 され得るのかについての整理を行い,政策的含 意を導出する。さらに,全国で初めてレジ袋有 料化の推進を条例で規定した「杉並区レジ袋有 料化等推進条例」を取り上げ,政策導入プロセ スの観点から条例制定の意義及びその効果につ いて評価を行う。

これらの分析によって,費用効率性を達成す る経済的手法の有効性を再確認するとともに,

その導入時に発生する費用負担や政治的摩擦と

*早稲田大学大学院社会科学研究科 博士後期課程4年

熊 捕 崇 将

レジ袋削減政策の経済分析

(2)

いった分配問題も同時に解決しなければならな いことが明らかとなる。そして最後に,今後の 環境政策の方向性として,経済的手法の隆盛と それを側面から支援する条例とのポリシーミッ クスの可能性について述べる。

1.世界での取組状況

現在,世界の多くの国や地域では,様々なレ ジ袋(plastic  shopping  bag)削減政策が実施 されており(図 1),今後もさらに拡大してい くものと予想される。以下,地域ごとにその特 色を概観する。

欧州

欧州各国は環境に対する国民意識の高い国々 が多く,2000 年代前半までに大部分の国で有 料化が実施されている。その主な理由は,野生 動物の保護(レジ袋の誤飲による)及びレジ袋 の散乱による景観の破壊,それに伴う観光産業 への被害などである。

とくに環境対策の進んでいる北欧諸国ではレ ジ袋有料化は従前から実施されており,日本円 で約 10 〜 40 円でレジ袋が販売されている。世 界で初めて課税方式を導入したアイルランドで は,2002 年の導入以降,およそ 90%以上の削 減率を達成し約 60 億円の税収を得ている。通 常,課税方式はその徴税コストがしばしば問題 となるが,アイルランドでは国全体で導入する ことによって,既存の付加価値税(VAT)の徴 収システムを活用し,レジ袋税のための新たな 制度構築を不要とした。また,アイルランドの VAT は非常に複雑であるため,レジ袋税とい う新しい税が加わっても小売店にとっての徴税 コストは低いと判断された [中村,中条,塩谷

2006:  18]。これらの制度的背景によって課税方 式の問題をクリアにしているところが特徴的で ある。

アフリカ

アフリカでは,近代化が著しい国々でレジ袋 対策が進んでいる。これらの国々では都市の近 代化が図られる一方,その近郊にスラム街を発 生させるようになった。そして,都市の消費活 動の活発化によって急増したレジ袋がそのスラ ム街の水路を堰き止め,溜まった汚水にマラリ アを媒介する蚊が大量に発生し,深刻な健康被 害をもたらしているのである。このことが,レ ジ袋削減対策実施の一因となっている。

ケニアの首都ナイロビでは毎年 12 万人以上 の患者があり,多くの子供たちがその犠牲と なっている[毎日新聞  2009.7.30 付]。このよう な事情から,簡単に廃棄される薄いレジ袋の製 造・輸入・販売が禁止されるに至った。

アジア

アジアでは,2002 年に韓国と台湾が有料化を 実施し,60 〜 70%台の高い削減率を達成して いる。両国とも法律によって配布禁止措置を実 施しているが,有料での販売は認めるという半 強制的な有料化を実施している。これらの国々 では,事業の形態として露天商や屋台などの小 規模事業者が多いため,その徴税コストとの兼 ね合いから,課税方式ではなくこのような方式 を採用している。

ただし,台湾のレジ袋配布禁止に関する法 律は,2006 年をもって廃止された[宮畑  2008: 

132]。当初はこの法律によってレジ袋の再利用 が見込まれ,厚さが以前の 3 倍以上の丈夫なレ

(3)

図1 レジ袋削減政策の実施及び実施予定国(2009 年現在)

・Associated Press(共同通信)「Plastic Bag Laws Worldwide」(世界のレジ袋規制法)

・Reuters「環境特集:世界各国のレジ袋規制一覧」2008.7.10

・AFP BB NEWS http://www.afpbb.com/

・ENVIROASIA http://www.enviroasia.info/others/J/about.html

・EIC ネット http://www.eic.or.jp/

地域 国   名 制定年 内        容 地域 国   名 制定年 内        容

欧州

英イングランド 2007 2009

デボン州など、いくつかの州で使用禁止 有料化予定:5 ペンス(約 10 円)

アジ

韓国 2002 有料:50 ウォン(約 5 円)

台湾 2002 有料:1元(約 3.5 円)

フランス 2005 2010 年までに非分解性のレジ袋を禁止 中国 2008 有料:5 角(0.5 元 = 約 7 円)

ドイツ 1991 容器材料法(レジ袋だけではない)

有料:0.15 ユーロ(約 20 円)

香港 2009 有料:0.5 香港ドル(約 6 円)

インド 2005 使用禁止(マハトラ州)

アイルランド 2002 課税:0.15 ユーロ(約 20 円)、90%削減 バングラデシュ 2002 使用禁止 イタリア 2010 全面禁止予定

オーストラリア 2003 使用禁止 (ゴールズベイ市:「レジ袋のな い街」として有名)

ノルウェー 1994 有料:0.12 ユーロ(約 16 円)

スウェーデン 有料:0.1 〜 0.2 ユーロ(13 〜 26 円)

アメリ

カリフォルニア州 2008 配布禁止(大型スーパーのみ)

サンフランシスコ市、オークランド市 デンマーク 1994 有料:2 クローネ(30 〜 40 円)

フィンランド 有料:0.09 〜 0.15 ユーロ(12 〜 20 円) オレゴン州 2009 配布禁止予定 スイス 1994 有料:0.1 ユーロ(13 円) マサチューセッツ州 2009   〃

アフ

ルワンダ 2007 使用禁止 メリーランド州 2009   〃

エリトリア   〃 アラスカ州 2009   〃

ソマリランド   〃 ニュージャージー州 2010   〃

南アフリカ 2003 有料:0.2 〜 0.3 ランド(約 4 〜 6 円) ニューヨーク州 2010 課税:5 セント(5 円)

ウガンダ 2007 レジ袋の厚さに関する最低基準を設定 北カリフォルニア州 2000 返還:5 〜 10 セント(5 〜 10 円)

エチオピア   〃 ロードアイランド州 キャッシュバック(一部店舗で実施)

ガーナ   〃 ミネソタ州   〃

レソト   〃 オレゴン州   〃

タンザニア 2007   〃 ミシガン州   〃

ケニア 2007 基準値以上の厚さのレジ袋には課税 ブータン 2007 使用禁止

(4)

ジ袋が流通するようになった。しかしながら,

台湾ではテイクアウトが日常的であり,油を多 く使う台湾料理を持ち運んだレジ袋には油が漏 れてしまうという実態がある。漏れた油が入っ ているレジ袋を洗って再利用する人はほとんど いないため,厚いレジ袋が大量に廃棄され,逆 にごみ量が増えてしまい,結局この政策は失敗 と判断されたのである。

インドやバングラデシュなどの南アジアで は,レジ袋がモンスーン期に排水溝を詰まらせ,

洪水を発生させるとして製造,販売,使用を禁 止している。とくにインドでは環境汚染の改善 とともに,ヒンズー教徒にとって神聖な存在で ある牛がレジ袋を食べて死亡するのを防ぐた め,非常に薄いレジ袋の使用を禁止するといっ た宗教的な背景も存在する。

経済発展が著しい中国では,増加するプラス チック系のごみによる環境破壊を「白色汚染」

として問題視するようになり,北京オリンピッ クを契機として 2008 年より有料化され,北京 市を中心に拡大中である。レジ袋消費が拡大中 である中国の今後の動向が注目される。

アメリカ

年間 1 千億枚上のレジ袋を消費すると言われ ている世界最大のレジ袋消費大国アメリカで は,国全体としてレジ袋削減政策は実施されて いないが,2000 年代より各州において事業者 が自主的に取り組みを実施している。

2007 年にはカリフォルニア州サンフランシス コで全米初の「レジ袋配布禁止条例」が制定さ れ,周辺諸州へと拡大しつつある。また,ニュー ヨーク市では,2010 年からのレジ袋課税が市 議会で可決されている。

このように,レジ袋削減の取り組みは全世界 的に拡大してきていることがわかる。その背景 には,温暖化対策に端を発する地球環境問題へ の意識の高まりとその具体的実践の要求がある と思われる。レジ袋削減は誰にでもわかりやす く,すぐに実践できるというその取り組みやす さから,環境政策のターゲットとして全世界に 拡がっていったものと考えられる。

2.日本での取組状況

2.1 レジ袋の現状

現在,わが国では 1 年間に約 300 〜 500 億枚 のレジ袋が出回っていると言われている[安田 , 丸茂  2008:  115]。その供給量をみると,国内出 荷量は減少しているものの,輸入量が増加して いることがわかる(図 2)。主な輸入先としては,

中国,タイ,インドネシアなどの国々が占めて おり,海外から価格の安いレジ袋が大量に輸入 されていることがわかる(図 3)。

一方の廃棄面に目を転ずると,2008 年度か ら 5 年間の各市町村のごみ分別収集集計見込で は,レジ袋を含むプラスチック製容器包装の収 集量は今後も大幅に増加することが見込まれて

0 10 20 30 40 50 60

2004年 14.5

42.0

14.4 44.3

13.9 48.0

12.4 47.2

10.9 48.1

2005年

万トン レジ袋の国内出荷量

ポリエチレン製袋の輸入量

2006年 2007年 2008年 図2 レジ袋・ポリエチレン製袋の供給量

出所:日本ポリオレフィンフィルム工業組合

(5)

いる(図 4)。容器包装ごみの分別収集量全体で は,2008 年度の 335 万トンから 2012 年度には 364 万トンへと 8.6%増加すると予想されてい る。とくに,プラスチック製容器包装は 80 万 4.1 千トンから 100 万 4 千トンへと 24.9%もの増加 が見込まれている。

このように,供給・廃棄の両面から見ても,

レジ袋を中心としたプラスチック製容器包装の 使用は増加傾向にあり,その削減は急務である と考えられる。ただ一方で,レジ袋はその利便 性の高さから生活必需品と言ってもよいほど私

達の生活に密着した存在となっていることも事 実である。これらを総合的に勘案し,社会的に 最適なレジ袋使用量を達成していくための政策 が求められているのである。

2.2 自治体での実施状況

わが国の各自治体におけるレジ袋削減政策実 施の伸び率は驚異的である。事業者のレジ袋 削減への取り組みに関与している自治体数は,

2008 年 4 月時点では全国 45 自治体(都道府県 含む)であったが,半年後の 2008 年 11 月には 都道府県レベルでは 38 道府県(全体の 81%)が,

また,市町村レベルでは 685 市町村(市町村全

2008 年度

2012

0 100 200 300 400 万トン プラスチック製容器包装

ペットボトル 茶色のガラス製容器 スチール製容器 段ボール製容器

紙製容器包装 無色のガラス製容器 その他の色のガラス製容器 アルミ製容器

飲料用紙製容器

図4 ごみ分別収集集計見込(2008 〜 12 年度)

出所:環境省(対象人口増加率:0.3 〜 5.8%で推計)

取り組み実施中 81%

未実施だが 計画中 6%

未実施だが検討中 11%

未実施だが予定なし 2%

取組実施中 39%

未実施だが計画中 6%

未実施だが検討中 13%

未実施で 予定なし 42%

図5 レジ袋削減政策実施自治体数

―都道府県レベル―

―市町村レベル―

*2008.11.1 現在,回答 1754 市区町村 *2009.1.30 現在の全国 の市区町村数は 1804(回答率 97.2%)

出所:環境省 2009 をもとに筆者作成 0%

20%

40%

60%

80%

100%

2004年 9%

8%

17%

17%

45%

5%

8%

7%

15%

16%

49%

4%

7%

8%

14%

15%

53%

4% 7%

7%

13%

14%

55%

4%

2005年 2006年 2007年 中国

マレーシア タイ フィリピン

インドネシア その他

図3 ポリエチレン袋輸入量の年別推移

出所:財務省統計局

(6)

体の 39%)で何らかの取り組みが実施されて いるという状況にあり,未実施だが計画中や検 討中を入れると全市町村の過半数を超えること がわかる(図 5)。

レジ袋削減の具体的な取組手法としては,(a)

有料化手法,(b)有料化以外の手法(2),(c)有 料化・有料化以外を問わず事業者に削減手法の 選択を委ねる手法,あるいは全廃方式(レジ袋 配布を廃止する)に分類することができる。

なかでも(a)有料化手法が急拡大しており,

有料化実施自治体数は 2008 年 4 月時点では全 国 28 の自治体での実施に過ぎなかったが,半年 後の 11 月には 3 都道府県を含む 248 自治体へ と急拡大した。そして 2010 年 4 月までには都道 府県レベルでは 8 道府県で,また 23 道府県下 の 395 市町村での実施が予定されている(図 6)。

実際に,有料化の効果は多くの自治体で実証 されている。図 7 は 2008 年 4 月現在で他の自 治体に先駆けて有料化を実施した自治体の削減 率を示しており,どの自治体も軒並み高い削減 率を達成していることが見てとれる。ただし,

有料化を単独で実施している自治体は皆無に等 しく,その多くが地域事業者と何らかの形で自

主協定を締結している。その数は 242 自治体に のぼり,割合では有料化実施自治体全体の 98%

を占めているという状況にある(図 8)。

有料化は費用効率性を達成する経済的手法と して知られているが,政策の利害関係者である 事業者はその実施を躊躇する。その最大の理由 は「客離れ」であり,それに伴う売上げの減少 である。

図 9 及び 10 は容器包装リサイクル法の改正 に伴い,事業者を対象に実施されたアンケート の結果である。レジ袋有料化を実施している事

28

248

395

2008.4.1 現在

2008.11.1 現在

2010.3月末 まで 0

100 200 300 400 500 自治体数

図6 有料化手法による実施自治体数の推移

出所:環境省[2008]及び[2009]より筆者作成

京都市 掛川市 仙台市 生市 神戸市 徳島県海部郡 那覇市 伊勢市 敦賀市 名古屋市 川崎市 岐阜県輪之内町 ひたちなか市 大垣市 各務原市 佐渡市

0 20 40 60 80 100

20 38

93

30 92

17 89

71 89

34 96

10 53

23 90

57 92

12 88

13 80

30 86

15 84

20 80

10 82

42 85 70

実施前 実施後

図7 レジ袋有料化に伴うマイバッグ持参率

(レジ袋辞退率)の推移

出所:環境省[2008]

自主協定+

一部市町村で実施 242

 98%

自治体からの 協力要請 2 1%

自治体による条例化 1

0%

自主協定+

県内全域で実施 3

1%

図8 地方自治体における有料化取組み内訳

出所:環境省[2009]より筆者作成

*%の前の数字は,自治体数を表している。

(7)

業者のうち,約 3 割の事業者が「売上げが減少 した」と回答している。また,レジ袋はお客様 へのサービスの一環として考えている事業者が 過半数を占め,有料化による他店への顧客流出 や売上げ減少といった懸念をなかなか払しょく できないという状況が見てとれる。

このような事業者のリスク緩和を図るため に,自主協定がその補完的機能を果たしている のである。つまり,自主協定締結によって地域 環境保全に取り組んでいる事業者であることが 周知され,自治体および環境団体の協力体制が 確保されるとともに,今後の地域環境政策形成

への関与などのメリットがもたらされる可能性 が高まる。そして事業者は,レジ袋仕入れ費用 や容リ法の再商品化委託料負担の減少といった コスト削減と,上記のような自主協定による 様々なメリットによって有料化による損失が小 さくなると判断しているため,全国で有料化が 実現していると考えられるのである。

3.レジ袋削減政策の比較分析

3.1 レジ袋削減政策の選択問題

レジ袋有料化では,今まで無料であると思わ れていたレジ袋に価格をつけることでレジ袋を 大量に使用・廃棄することによるによる外部不 経済を顕在化させ,レジ袋使用者にその外部費 用(環境コスト)を意識させるという効果を持 つ。このことによって,これまで使い放題であっ たレジ袋の使用を抑制し,廃棄物問題さらには 環境問題の解決へとつなげることがレジ袋削減 政策の最終的な政策目的である。

一般的に,外部不経済は社会全体にとって非 効率を発生させるため,何らかの政策によって 解決されることが望ましい。しかしながら,数 ある政策手段の中からどの手法を用いることが 最善なのかという政策の選択問題が発生するこ とになる。

前節でも見たように,現在全国で実施されて いるレジ袋削減政策は,そのほとんどが有料化 などの経済的手法である。経済的手法は,費用 効率的に外部不経済を内部化し,社会厚生の最 大化を図る有力な手段として知られており,そ の実施によってレジ袋は社会的に最適な水準に まで削減され,適正なレジ袋の使用が図られる ことになる。

ただ実際には有料化以外にもいくつかの手法

売上げが 減った 27.7%

影響なし 64.6%

売上げが増えた 7.7%

客のニーズ

客へのサービス

同業者が 取り組んでいない 売上げに 影響あり

その他

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70%

60.5%

52.9%

52.8%

38.4%

9.0%

図9 レジ袋有料化の売上げに対する影響

図 10 レジ袋を有料化しない理由

出所:環境省[2007]「レジ袋の利用実態及び容器包装リサ イクル制度に関するアンケート調査」及び「小売店におけ るレジ袋排出抑制に関するアンケート調査」

* 無作為抽出した小売店 3,000 店舗(回答率 33.6%)

(8)

によってレジ袋削減が図られている。そこで本 節では,有料化手法とそれ以外の手法との比較 を行うことで,どの手法が最も優れているのか を明らかにする。

具体的には,有料化以外の代替的手法として 課税,値引き,配布禁止,ポイント付与などが その対象として考えられる。ただし,配布禁止 については,消費者の選択の自由が担保されず,

レジ袋を使用することに対する便益がゼロとな るため,検討対象から除外することとする。各 手法の定義は表 1 のとおりである。

3.2 各取組手法の比較分析

図 11 〜 13 は,レジ袋削減政策として実施さ れている各取組手法を費用効率面で相互比較す るための図である。各図は縦軸に費用及び価格 をとり,横軸にレジ袋使用量をとっている。右 下がりの MB 曲線は,レジ袋使用者の限界便益 を表し,政策当局はこの曲線の形状を把握して いるものと仮定する。なお,個々のレジ袋使用

者は効用最大化を図るために費用最小化行動を とるものとする。また,レジ袋が無料配布され ている現在の状況は B 点であり,A 点まで使 用量を削減することが社会的に望ましいものと する。

課税及び有料化

図 11 は,課税及び有料化の効果を示したも のである。まず,レジ袋を受け取った際に OT の水準の課税を行うと,1 枚につき T 円の税金 が発生するため,レジ袋使用者は費用最小化行 動によって当初の B 点から A 点まで使用量を 減らすことになる。このとき,それまで得てい たレジ袋使用の便益が失われ,△ ABC の損失 が発生する。一方で,課税は四角形 OACT の 税収をもたらし,それらはすべて政府(自治体)

のもとに入ることになる。

有料化についても,OT の水準の価格が設定 されることにより,課税と同様に A 点までの 削減を達成することになる。しかしながら,有 料化によって発生した収入の四角形 OACT が 事業者のものとなる点が課税とは異なる。

値引き(キャッシュバック)

実は,値引きを実施した場合でも,課税や有

取組手法 定  義

課税

買い物時にレジ袋を受け取ると,1 枚につき 5 円程度が課税される。そ の際に発生する税収はすべて自治体 のものとなる。

有料化

レジ袋が 1 枚 5 円程度の有償品とな り,その収入は販売者である事業者 のものとなる。

配布禁止 レジ袋の配布を一切禁止し,有償で も販売しない。

値引き

買い物時にレジ袋の受け取りを辞退 すると,購入商品総額から 5 円程度 のキャッシュバックが受けられる。

ポイント付与

レジ袋の受取を辞退すると,事業者 よりポイントやシール等が提供さ れ,一定数をためると地域通貨や商 品券,割引券等と交換して,商品購 入に使用できる。

表1 各取組手法の定義

費用 価格

T

0 A

C MB

削除目標

B レジ袋使用量 図 11 課税及び有料化

(9)

料化と全く同一の結果を得ることができる。ま ず,レジ袋を 1 枚断るごとに発生する値引き価 格 OT を設定すると,B 点からレジ袋を 1 枚断 るごとに OT に等しい BD の値引きが発生し,

レジ袋使用者は BD ×レジ袋削減量の値引きを 受けることができる。MB 曲線との関係から,

A 点まではレジ袋を使用するより値引きを受け た方が得であるが,A 点を越えて使用量を減ら すと値引き価格よりも限界便益が上回ってしま うため,レジ袋使用者にとって最適な使用量は やはり A 点となる(図 12)。

このように,課税,有料化,値引きについては,

いずれも OT の水準に価格が設定され,いずれ の場合も実現されるレジ袋の使用量は A 点に なるという意味で全く等価であるということが できる[諸富 2000: 55-57; 後藤 2003: 21-24]。

ただし,課税・有料化と値引きとでは,分配 面及び所得効果の影響の 2 点において大きな相 違がある。まず,分配面について見てみると課 税及び有料化の場合,レジ袋使用者の負担は,

図 11 の四角形 OACT にあたる税負担あるい は有料化による費用負担と,B 点から A 点へ と使用量を削減することによって発生する損失

△ ABC の合計となる。ところが値引きの場合,

レジ袋使用者は図 12 の△ ABC の損失を被るも のの,その対価として ABDC の値引きを受け ることができる。結果として,レジ袋使用者は 他の政策手法の場合とは逆に,△ BCD に相当 する利得を得ることができるのである。

次に,所得効果の影響を図 13 に示す。課税 及び有料化が導入されるとレジ袋の相対価格が 上昇し,当初の予算線 AB が A'B へと回転シフ トする。その結果,均衡点は E から E1へと移 動し,レジ袋は大幅に削減される一方,所得効 果がマイナスに働くことで商品の売上げも減少 してしまうことになる。

一方,値引きが実施されると,商品の相対価 格は減少し,予算線が当初の AB から AB へ と回転シフトする。その結果,均衡点が当初の E から E2へと変化し,課税及び有料化ほどの レジ袋削減率は達成されないが,所得効果がプ ラスに働くことによって商品売り上げが増加す ることになる。

このように,商品本体とレジ袋の相対価格比 は変わらないが,所得効果がプラスとマイナス 方向のどちらに働くかによって政策の効果が大 きく異なってくると考えられるのである。

レジ袋

A A

a

0 B b

E1

E2

U2 U0 U1 E

当初の予算線

値引(キャッシュバック)

実施後の予算線

課税及び有料化 実施後の予算線

B 商品 図 13 所得効果による影響の相違 費用

価格

値引 価格 T

消費者 利得

0 A

C MB

削除目標

B D

レジ袋使用量 図 12 値引き(キャッシュバック)

(10)

ポイント(スタンプカード)付与

最後に,ポイント付与方式を示す(図 14)。

この方式のもとでは一定数のポイントやスタン プカードが貯まらないと商品購入に使用するこ とができないため,消費者にとっては換金時に 上乗せ分(3)がない限り,キャッシュバック方式 ほどには魅力を感じないであろう。また,スタ ンプカードを買い物の際に常時提示し,スタン プをもらわなければならないという手間(コス ト)やカードの紛失,さらに有効期限切れや制 度の廃止などのリスクもあるため,その分を割 引くと値引価格を示す T を下方にシフトさせ ることになる。その結果,レジ袋使用量はそれ ほど削減されず(Bʼ 点),上記の 3 手法ほどの 削減効果を得ることはできないと考えられる。

図 15 は有料化による実施効果と特典提供(ポ イント付与)等方式による効果を示したもので ある。現行の特典提供方式の多くは上乗せ分が ないため,その効果は低い。このように,ポイ ント付与方式では上乗せ分をどのくらい見積も るかが,政策の効果を大きく左右すると考えら れるのである。

4.経済的手法の短所と補完政策

4.1 分配問題緩和政策

レジ袋削減政策における経済的手法相互の比 較では,課税,有料化,値引きのいずれもが同 等の削減量を達成することができ,その政策効 果が等価であることが明らかとなった。しかし,

実際には値引きを実施しているのは僅かな事業 者にとどまり,課税にいたっては,わが国で実 施している自治体は皆無である。実際の政策選 択の場面では多くの自治体で有料化が選択され ており,しかも有料化は単独では実施されてお らず,ほとんどが自主協定との組み合わせで実 施されているのである。

このことは何を物語っているのであろうか。

確かに,経済的手法は費用効率性の観点から見 れば優れた手法であり,同一の政策目標を最小 費用で達成することができると理論上考えられ ている。しかしながら,経済的手法の導入過程

費用 価格

値引 価格 T

ポイント 消費者利得

0 A

C MB

削除目標

B B

D

レジ袋使用量 図 14 ポイント ( スタンプカード ) 付与

実施前平均値(%)

レジ袋辞退率

(27市町村平均値)

マイバッグ持参率

(35市町村平均値)

実施後平均値(%)

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 86.5 28.0

82.6 41.0

実施前平均値(%)

レジ袋辞退率

(8市町村平均値)

マイバッグ持参率

(13市町村平均値)

実施後平均値(%)

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 46.8

21.2

37.9 20.7

図 15  レジ袋辞退率,マイバッグ持参率からみた 有料化の実施による効果

特典提供(ポイント付与等)方式による効果

出所:環境省[2009]から筆者作成

(11)

では,各主体間の利害得失による分配問題が発 生し,とくに事業者側からは経済的負担による 競争力の低下を理由として,強い反対が沸き起 こるのである。

つまり,政策の実効性を考えた場合,費用効 率性の実現と分配問題の緩和は同時達成される ことが望ましく,その程度が政策の実現可能性 を左右することになる。以下では,単一の政策 手法にはそれぞれどのような短所があり,他の 手法によってどのように補完され得るのかにつ いて,レジ袋削減政策を対象に一定の整理を行 う。これらの整理によって,現実の政策選択で はなぜ課税ではなく有料化と自主協定の組み合 わせが選択されているのか,また消費者から一 番支持される値引き方式はなぜ実現しないのか が明らかとなるであろう。

ここでは効率性基準から見ると等価である課 税,有料化,値引きの 3 手法に絞って検討し,

政策的含意を得ることとしたい。

4.2 3政策手法の短所と補完すべき手法

課税

表 2 は 3 政策手法とその短所,および補完す べき手法を示したものである。まず,課税手法 の主な短所としては,a)行政(徴税)コスト の発生と,b)政治的受容性の低下が考えられる。

徴税や納税及びその監視には多額の行政コス トが発生し(4),これらのコストには行政による 直接的な事務コストのほかにも,事業者が負担 する政策実施上のコストも含まれる。レジ袋課 税では,実際には事業者に徴税事務を委託する ことになるため,消費者への対応や摩擦の解消 など,その事務負担がコストとして顕在化する

ことになるであろう。

また,課税に対する住民のアレルギーは政治 的受容性を低下させ,課税政策の骨抜きや実施 延期などが図られる可能性もある。レジ袋税が 検討された東京都杉並区では,導入議論に 1 年 半が費やされたものの,結局その実施は延期さ れたという経緯もある。もちろん,税負担を嫌 う顧客の流出やそれに伴う売上げの減少の発生 も想定される。このように,課税手法には多く の短所が現れるのである。

一方,課税政策を補完すべき手法としては減 免・非課税等の特例措置が考えられるが,環境 コストをレジ袋使用者が負担するという課税本 来の趣旨からかけ離れたものとなり問題がある と思われる。

有料化

有料化手法では,a)レジ袋代金の 2 重取り,

b)未実施事業者によるフリーライダー問題の 発生などが短所として考えられる。レジ袋は,

消費者に対するサービスの一環として無料で配 布されていると考えられているが,当然その費 用は必要経費として計上されており,商品代金 に含まれているのが通常である(図 16 右)。し たがって商品代金のほかにレジ袋代金を支払う

政策手法 短  所 補完すべき手法

課 税

・ 行政(徴税)コストの 発生

・政治的受容性の低下

・ 減免,非課税等の特例 措置

有料化

・レジ袋代金の 2 重取り

・ コンビニエンスストア の不参加(フリーライ ダー問題)

・ 自主協定による地域へ の還元

・ 条例による半強制参加

値引き

・ レジ袋代金を他の商品 に上乗せできる事業者 のみ実施可能

・ 値引きの原資を補てん するための補助金 表2 3 政策手法の短所と補完手法

(12)

ことは消費者にとっては 2 重支払いになると考 えられる(図 16 左)。しかもその利益が事業者 のものとなることに消費者は違和感を覚えるで あろう。このことは有料化に対する消費者の理 解や協力をマイナスの方向に働かせてしまうと 考えられる。

これに対しては,例えば自主協定の中でその 売上げを地域の小学校に環境教育のために寄付 することを約束するなど,目に見える形での地 域への還元を強調することで,ある程度解消さ れると考えられる。

次に,フリーライダーの発生について見てみ る。有料化は任意であるため,有料化未実施事 業者は実施事業者に比べ価格競争上優位に立つ。

とくにコンビニエンスストアは有料化には一貫 して反対しており,その実施は皆無である。こ のことは,汚染者負担原則に基づく適切な環境 コスト負担を逃れ,レジ袋の社会的な最適汚染 水準の達成を妨げていると考えることができる。

このような環境政策へのただ乗りは,企業に とっては合理的な行動であるが,持続可能な環 境を公共財と考えるならば,その最適供給は 達成されないであろう[後藤  2003:19; スティグ

リッツ 2003:  164]。このようなフリーライダー 問題の解消を図るため,レジ袋の有料化を条例 で促進させるという動きがある。この条例の詳 細については次節で述べる。

値引き

値引き(キャッシュバック)は,消費者に受 け入れられやすい手法である。レジ袋を断れば 商品価格から値引きが受けられるだけでなく,

もしレジ袋が必要で受け取ったとしても追加費 用は発生しないのである。実際にこの手法を実 施している大手スーパーマーケットでは,50%

以上の削減率を達成している(5)

このような値引き手法の分析には環境補助金 の理論を援用して考えることが可能である。環 境政策における課税政策はピグー税として知ら れているが,同様に汚染者が汚染排出を 1 単位 減らすことによりピグー税と同率の補助金が汚 染者に与えられても,ピグー税と同じような最 適汚染水準が実現されることになる。このよう な補助金は「ピグー補助金」と呼ばれている[奥 野 2008: 319]。

ただし,環境補助金では,必要となる財源を どのように調達するかが問題となる。もし仮に この値引き分が自治体の一般財源から賄われる となると,レジ袋を使用して環境を汚染してい る者の汚染削減費用を納税者である一般住民に 転嫁させてしまうことになる。このようなこと から,レジ袋削減政策に関して値引き方式に自 治体から資金が投入されているという例はない。

実際に,値引きの原資は事業者の負担となっ ているが,おそらく他の商品代金に上乗せされ ていると考えられる。したがって,安売りや特 売を頻繁に行っているスーパーマーケットのよ

レジ袋代金 5円

レジ袋代金 利  益 維持管理経費

人件費

商品仕入れ費用 100円

5円

95円 図 16 レジ袋代金の2重取り構造

(13)

うな事業形態では,値引分を薄く広く他の商品 に上乗せすることが可能であるが,コンビニエ ンスストアのような定価販売では,値引いた分 を他の商品に上乗せすることはできず,その実 施は難しいと考えられる。

このように見てくると,有料化とそれを補完す る自主協定との組み合わせが最も実現可能性の 高い政策であるということができ,実際の政策 選択の場面でも多くの自治体で採択されている。

しかしながら,有料化も自主協定もその実施に 強制力はなく,あくまでも事業者の任意となって いる。このような状況では,必然的に政策への フリーライダーを発生させてしまうであろう。

このような問題の解消を図るため,東京都杉 並区では有料化を条例で半ば強制的に実施させ るという試みがなされている。次節では,この 条例制定の意義及びその効果について政策導入 プロセスの観点から見ていくことにする。

5.レジ袋有料化等推進条例

5.1 条例による有料化推進の意義

2008 年 4 月,レジ袋削減政策では全国初と なる「レジ袋有料化等推進条例」が杉並区で制 定された。この条例は,レジ袋年間使用枚数が 20 万枚以上の区内事業者(以下「レジ袋多量 利用事業者」という)を対象に,2 年後のマイバッ グ持参率 60%以上の達成を図るため,毎年「レ ジ袋有料化等計画書」及び「レジ袋削減結果報 告書」の提出をレジ袋多量利用事業者に義務付 けるものである[杉並区 2007: 1-12]。

この条例の目的は,その名称からもわかるよ うに有料化を義務付けるものではなく,あくま でも削減効果の高い有料化の実施を促すという 点にある。また,レジ袋を使用したい消費者や

事業者は,相応の環境コストを負担しさえすれ ばその便益を享受することができるという受益 者負担の原則に基づいている。つまり,これま でのような単なる規制条例とは異なり,人々の インセンティブを活用した経済的手法を側面か ら支援する条例として位置づけることができる のである。

5.2 有料化実施店舗の拡大

効果の高い有料化を実施したいが,顧客流出 や売上げの減少といったリスクの前に有料化に 踏み切れなかった事業者にとって,この条例は 有料化を後押しするという効果を持つ。

実際,条例制定前は 15 店舗に過ぎなかった 有料化実施店舗は,制定後には 39 店舗へと広 がり,大幅な増加傾向が見てとれる。また,マ イバッグ持参率 60%を達成した店舗は,条例制 定前の 17 店舗から制定後には 44 店舗に達する など,条例制定の効果が出始めている(図 17)。

このように,徐々に有料化へと踏み切る事業

正式名称 杉並区レジ袋有料化等の取組の推進に関する 条例

実施時期 2008 年 4 月

対象 年間 20 万枚以上のレジ袋を使用,配布して いる事業者

・コンビニエンスストア

   198 店舗 ・・・ 平均 26 万枚 /1 店

・スーパー

   32 店舗 ・・・ 平均 158 万枚 /1 店 予算額 250 万円(20 年度決算ベース)

目標 2 年間でマイバッグ持参率 60%以上の達成を 目指す。

義務 削減計画書,報告書を年に 1 回提出。

収益金 使途は事業者の自主判断による。寄付等が行 われた場合は公表する。

罰則 なし

自主協定 条例導入後は,基本的には自主協定の締結は 行わない。

表3 杉並区レジ袋有料化等推進条例概要

(14)

者が増え過半数に近づいてくると,事業者はど のような行動をとることが合理的なのかを考え 始めるであろう。いわゆる臨界点を超えるまで に有料化を実施するのか,それとも他の効果的 な手法を考え出すのかという選択がなされるも のと考えられる。

これこそがレジ袋有料化等推進条例の期待さ れる効果であり,強権的ではない手法をとりな がらも,結果的には多くの事業者が有料化を実 施するか,もしくは代替的な新しい手法の開発 に着手するという,レジ袋削減にとっては望ま しい状況が作り出されるのである。

5.3 フリーライダー問題

レジ袋による環境への影響を負の外部性とと らえるならば,その外部費用の負担は汚染者負 担原則に基づき汚染者が負担することが公平性 に適うと考えられる。とくにレジ袋を過剰に配 布する事業者の責務は大きく,その費用負担は 公平に分担されるべきである。最終的な負担の 帰着は不確実であるが,レジ袋有料化を実施し,

環境コストを負担している事業者とそうでない 事業者がいるという状況は,政策実施上の公平

性の観点から問題がある。

現在,杉並区にはこの条例の対象となるレジ 袋多量利用事業者は 220 店舗存在し,うちコン ビニエンスストアが 198 店舗(1 店舗あたり平 均 26 万枚),スーパーマーケットが 32 店舗(同 158 万枚)存在する。これら二つの業態で区内 の年間レジ袋使用量総計の約 82%(約 1 億枚)

を占めているという状況にある(図 18)。これ を見ると,この条例は明らかにレジ袋有料化を 実施していないコンビニエンスストアを対象に したものであると考えられる。

つまり,この条例には環境政策へのただ乗り は許さず,事業者は環境コストを適切に負担す る責任があるという意図が含まれていると考え られる。区内のスーパーマーケットは徐々にで はあるが自主協定を締結した上での有料化を実 施し,高い削減率を達成している。一方で,レ ジ袋使用量の約 4 割を占めるコンビニエンスス トアは有料化を実施しておらず,2009 年 6 月 時点のマイバッグ持参率は 26.9%にとどまって おり,60%以上の目標達成には程遠いのが現状 である。

自主協定による有料化は,あくまでも任意で

有料化実施店舗数

店舗数

条例制定前 条例制定後

マイバッグ持参率が60%を超えた店舗 0

10 20 30 40 50

15 17

39 44

図 17  条例制定前後の有料化実施店舗数及びマイ バッグ持参率 60%を超えた店舗数の推移

出所:杉並区[2009]から筆者作成

コンビニエ ンスストア 41.7%

小売店 17.9%

スーパー マーケット 40.4%

図 18 レジ袋年間使用量の業態別割合

出所:杉並区[2007]から筆者作成

(15)

あり強制力は一切ない。自主協定には有料化の リスクを低下させ,分配問題を緩和するような メリットがいくつか存在するが,それでも有料 化に同意できない事業者は存在する。その結果,

上述したような政策へのフリーライドや,有料 化実施店舗ではレジ袋は断るが,有料化未実施 店舗では余計にレジ袋をもらうというリーケー ジ問題などが発生し,効率性が阻害されてしま うのである。

本条例は施行されたばかりであり,その成否 の判断にはいま少しの時間を要するが,自主協 定では解決できないこのような問題の解決を試 みるという政策的意義が,この条例には存在す ると考えられるのである。

おわりに

本稿では,レジ袋削減政策を題材に課税や有 料化,値引きといった経済的手法に焦点を当て,

費用効率性の観点からこれらの比較分析を行っ た。そして,費用効率性を達成するために現れ る政策上の短所を明らかにし,それらを補完す べき手法についての整理を行った。本稿を締め くくるにあたり,以下の 2 点を指摘したい。

第 1 に,有料化などの経済的手法は,資源配 分といった効率性には寄与するが,その衡平性 は市場に委ねることになる。そこでは,政策実 施によって損失を被る者が発生し,その損失者 から政策実施の合意を得ることは難しくなる。

そのような分配問題の解決を図る方法が現実の 環境政策では必要不可欠であり,政策の短所を 補完し,政策の受容性を高めるという意味から もポリシーミックスの考え方が要請されてくる と思われる。

第 2 に,従来の条例は遵守すべき削減基準を

設定し,それを政策客体に実行させるだけのも のが多かった。しかし,杉並区の条例からも明 らかなように,市場メカニズムを活用した経済 的手法を積極的に推進し,それを補完する形で の条例が制定されている。レジ袋削減政策は,

このような政策手法の転換点としても位置付け られ,わが国のポリシーミックスの蓄積として の意義があると考えられる。

ただし,いくつかの課題も浮き彫りとなった。

経済的手法では,限界便益や限界費用の各曲線 の推定が必要となるが,その測定は困難を極め る。とくに,レジ袋 1 枚あたりの限界削減費用 の妥当性について(レジ袋 1 枚あたり 5 円の妥 当性)は果たして適切な価格設定なのかどうか の精査が必要であろう。

また,自治体の環境政策は地域ごとに異なる ため,ある地域で成功した政策手法が他の地域 で成功するかどうかは不確実である。本稿で取 り上げたレジ袋削減政策においても,地域の実 情を踏まえた政策選択がなされる必要があろ う。政策の成功要因を説明するものとして,住 民の環境に対する意識やごみ有料化実施の有 無,ごみ分別数,焼却処分場の有無及び環境 NPO の数などを客観的なデータとして示すこ とは,レジ袋削減政策の導入予定自治体に対す る政策的含意を提供するであろう。これらは今 後に残された課題である。

〔投稿受理日 2009.9.26 /掲載決定日 2009.11.24〕

⑴  容器包装リサイクル法では,レジ袋削減目標の 設定を小売業者に義務付けるとともに,スーパー マーケットなどの一定規模以上の小売業者につい ては,毎年度の削減達成状況の国への報告,そし て減量が不十分な場合には国による改善の勧告,

(16)

社名の公表,改善の命令がなされ,従わない場合 には罰金を科すこともできるようになった。(「容 器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関 する法律」第 7 条の 4 〜 7,第 46 条の 2,第 47

〜 49 条。)

⑵  具体的には,地域通貨(エコマネー)や商品券・

割引券等の提供を受けて買い物に使用したり,市 町村が指定する商品や抽選券,景品等を提供する ことにより,レジ袋の受取辞退を促す。また,事 業者よりポイントやシール等が提供され,一定数 をためると地域通貨,商品券,割引券等と交換し て,商品購入に使用できる,または市町村の指定 商品,抽選券,記念品,景品等と交換できる仕組 み[環境省 2009]。

⑶  この上乗せ分は,無差別曲線理論を使って家計 の貯蓄決定を分析する「異時点間の最適消費」の 考え方を用いるとわかりやすい。ここでのポイン トは,現在消費の将来消費に対する相対価格が「1

+市場利子率」で表されることである。つまり,

現在の消費を 1 円あきらめることが将来の消費「1

+市場利子率」円の消費を可能にするということ を意味する(現在の所得を貯蓄すれば利子が付き,

将来の受取額は確実に大きくなる)。この考え方 によれば,キャッシュバック(現在消費を表す)

のスタンプカード(将来消費を表す)に対する相 対価格は「1 +上乗せ分」となり,現在,商品と の交換をあきらめる代わりに将来(スタンプカー ドがいっぱいになり,ようやく商品と交換できる 時期)に「1 +上乗せ分」との交換が可能となら なければならない。もし,上乗せ分が付与されな いのであれば,将来まで使用できないポイント方 式の魅力は減少することになる。

⑷  2002 年に東京都杉並区で検討されたレジ袋税 条例では約 7,000 万〜 8,000 万円の徴税コストが 必要であると算出されている(ただし,1 億 8,000 万円程度 / 年の税収見込があるとされた)。

⑸  西友ホームページ[http://www.seiyu.co.jp]。

参考文献

奥野正寛[2008]『ミクロ経済学』,東京大学出版会 環境省[2007]「改正容器包装リサイクル法の施行 に向けたレジ袋及びマイバッグ持参に係る実態調 査等の結果について」(2007.5.30 報道発表資料)

環境省[2008]「改正容器包装リサイクル法施行 1

年における全国でのレジ袋削減に係る取組状況に ついて」(2008.4.30 報道発表資料)

環境省[2009]「レジ袋削減に係る全国の地方自治体 での取組状況について」(2009.3.19 報道発表資料)

後藤則行[2003]「環境問題・環境政策の評価基準」

植田和弘・森田恒幸編『岩波講座 環境経済・政 策学第 3 巻 環境政策の基礎』,岩波書店 杉並区[2007]「(仮称)杉並区レジ袋有料化推進条

例検討会報告書」

杉並区[2009]「区政経営報告書」

スティグリッツ .J.E= 藪下史郎訳[2003]『公共経 済学(第 2 版)〈上〉公共部門・公共支出』,東洋 経済新報社

中村彰宏,中条潮,塩谷さやか[2006]「買物レジ 袋の有償規制制度のありかた」『公益事業研究』

第 58 巻,第 2 号,13 〜 21 ページ。

宮畑加奈子[2008]「台湾における環境政策―買い 物用レジ袋政策の分析を中心として―」『広島経 済 大 学 研 究 論 集 』 第 30 巻, 第 3・4 号,123 〜 140 ページ。

諸富徹[2000]『環境税の理論と実際』,有斐閣 安田八十五,丸茂信行[2008]「レジ袋有料化店舗

における消費者の買い物袋持参行動の測定と評 価」『関東学院大学経済経営研究所年報』第 30 集,

112 〜 132 ページ。

参照

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