郭店楚簡 『老子』 と 「老子」 の祖型
著者 小池 一郎
雑誌名 言語文化
巻 2
号 3
ページ 291‑327
発行年 2000‑01‑15
権利 同志社大学言語文化学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000004328
郭 店 楚 簡
﹃ 老 子
﹄ と
﹁ 老 子
﹂ の 祖 型
小 池 一 郎
緒論 司 馬遷 の
﹃ 史 記
・ 老 子伝
﹄に よ れ ば
︑ 楚 国 苦県 の 人 老 子 は
﹁ 上 下か ら成 る 書
﹂ を 著 し
︑﹁ 道 徳 の意 五千 言
﹂ を 述 べ た
︒戦 国時 代 の 初
〜 中期
︵ 前 四
〇
〇 年 前 後
︶ の 頃 の人 か と 推測 さ れ る
︒か ね て 最古 の テ キ スト は 伝 わら ず
︑ 人 々は ご く 最近 に 至 るま で︑ 後 漢 以 降 に編 纂 さ れた 河 上 公本
︑ 王 弼本 な ど の注 釈付 き テ キス ト
︑ すな わ ち
﹁老 子 道 徳経
﹂ を
︑ さら に そ の宋 代 以 降に 翻刻 さ れ た 刊 本に よ っ て読 ま ざ るを 得 な かっ た
︒ 断片 的に は 戦 国諸 子 の 著作 の 中 に引 用 さ れた 箇 所 も 有る が
︑ それ も や はり 宋代 以 降 の 刊 本に 頼 る しか な い
︒こ の
﹃ 老子 道 徳 経﹄ 五千 余 言 をめ ぐ っ ては
︑ そ の文 章 の 晦渋 さ 故 に
︑古 来 多 くの 注 釈 が著 さ れ︑ 様 々 な論 議 が 戦わ さ れ てき た
︒ とこ ろ が
︑ 一九 七 三 年に 湖 南 省長 沙 の 馬王 堆 漢 墓よ り帛 書
は く しょ
﹃老 子
﹄ が出 土 す るに 及 び
︑我 々 二 十 世 紀の 人 間 は︑ 前 二
〇〇 年前 後 に 書か れ た テキ ス ト を︑ 写 真 版に よ り現 物 の 姿の ま ま に読 む こ とが 可 能 とな った
︒
︵ 1
︶
こ れ は
︑専 門 の研 究 者 はも と よ り︑ 数多 く の
﹁老 子
﹂ の愛 読 者 にと っ て も︑ 驚 くべ き 慶 事で あ っ た︒
﹁ 言 語 文 化
﹂ 2
︱
3.
291︱
327 ペ ー ジ 一 九 九 九 年.
同 志 社 大 学 言 語 文 化 学 会
©
小 池 一 郎帛 書
﹃ 老 子
﹄は 帛きぬ
に 書か れ た 写本 で
︑ 甲・ 乙 の 二本 が 出 土 した
︒ 甲 本は 前 二
〇 六年
〜 前 一九 五 年
︑ 乙本 は 前 一九 四 年
〜前 一八
〇 年 の間 の 筆 写と 推 定 され て い る ︵2︶
︒内 容 は 基本 的 に は現 行 諸 本に 一 致 して お り
︑総 字 数 も乙 本 で 五四 六 七 字で
︑ 現 行諸 本よ り 若 干 多 い程 度 で ある が
︑ 現行 本 で 八十 一 章 ある 各 章 の 順 序に お い ては
︑ 幾 つか の 相 異が あ る
︒ 大き な 相 異は
︑ 甲 乙本 とも に
︑﹁ 道 経
﹂
・﹁ 徳 経
﹂の 順 序 が 逆に な り
︑﹁ 徳
﹂
・﹁ 道
﹂ の順 に 並 んで い る こと で あ る︒ そ の 他
︑各 章 の 配列 に も 数箇 所現 行 本 と 違 う所 が あ る︒ 文 字 の異 同
︑ 脱落
︑ 追 加等 も少 な く はな い
︒ しか し な お︑ 帛 書 甲乙 本 は 基 本的 に は 現行 諸 本 の枠 組 みを は ず れて は お らず
︑ 帛 書が 現 行諸 本 の先 行 テ キス ト
︵ 少な く と もそ の 一 系統
︶ であ る こ とは 確 実 であ る
︒ 私は か つ て︑ こ の新 発 見 の 帛書 甲 乙 本に 基 づ いて
︑ 論 文﹁ 帛 書 老子 文 体 考
﹂︵
﹃中 国 文 学報
﹄ 第 二十 九 冊
︑京 都 大 学 文学 部 中 国 文学 会
︑ 一 九 七八 年
︶ を世 に 問 うた こ と があ る
︒ そ して
︑﹃ 帛 書 老子
﹄ の 出 土 か らち ょ う ど 二 十 年後
︑ 今 度 は 湖 北 省 荊 門 郭 店
け い も んか く て
のん
楚 墓中 よ り
︑ 大 量 の楚 国の 字 体 で 記さ れた 竹簡 が 発 見 さ れ︑ そ の 中に
﹁ 老 子﹂ の 竹 簡が 多 数 含ま れ て い た︒ そ の 保存 状 態 は極 め て 良好 で あ り
︑ 我々 は 写 真版 に よ って その 鮮 明 な字 体を 目 の 当た り に する こ と がで き る ︵3︶
︒ 楚簡
﹃ 老 子﹄ は 三 本 に 分か れ
︑ それ ぞ れ 竹簡 の 長 さが 異 な る︒ こ の 三本 を以 下
︑ 崔仁
著
︵ 科 学 出 版 社
︑ 北 京
︑ 一 九 九 八 年 十 月
︶ に 従 っ て︑ A
・ B・ C 本 と呼 ぶ こ とに する
︒ 楚 簡
﹃ 老子
﹄ 三 本は
︑ そ の内 容 が 完全 に 帛 書﹃ 老 子
﹄ 及び 現 行 本﹃ 老 子
﹄に 対 応 する
︒ 重 複 は 一箇 所 の みで あ る
︒た だ し
︑ 楚 簡
﹃ 老 子
﹄ の 段 落 の 分 け 方
︑ 配 列 の 仕 方 は 帛 書
・ 現 行 の 諸 テ キ ス ト と は ほ と ん ど 無 関 係 の 様 に 見 え
︑﹁ 道 経
﹂ と
﹁ 徳 経
﹂ の 区 別 も な く
︑ 両 者 は入 り交 じ っ て い る
︒ ま た
︑ 細 部 の 釈 文︵ 文 字 の 読 み 方 の 確 定
︶ に つ い て は
︑ こ こ一
︑二 年
︑ 中 国︑ 台 湾 で次 々 と 研究 成 果 が公 刊 さ れ始 め て いる ︵4 も︶
の の
︑ まだ 諸 説 紛々 の 状 態で あ る
︒さ ら に︑ 文 字 の確 定 と とも に 重 要か つ困 難 な 課 題 は︑ 楚 簡
﹃老 子
﹄ 三本 の 性 格を 見 き わめ る こ と であ る が
︑今 の と ころ
︑ C 本の 筆 写 時 期 が最 も 古 く︑ 続 い てB
本︑ A 本 の順 に 書 かれ た で あろ う ︵5 と︶
い うこ と 以 外は
︑ 何 も明 ら かに さ れ てい な い
︒饒 宗 頤 氏が
︑ 而老 子 則 僅注 重 校 勘方 法,
零星 意 見,
未 受 到深 入 措 意,
至 於 全面 整 理,
更 談 不 到︒
︵ 魏 啓 鵬 著
﹃ 楚 簡
︽ 老 子
︾ 柬 釋
﹄ 饒 序
︶ と指 摘 す る 状 態が い ま なお 続 い てい る
︒ また
︑ 楚 簡﹃ 老 子
﹄ が帛 書
﹃ 老 子﹄ と ど うい う 関 係に あ る の かも 重 要 な問 題 で ある が︑ 余 り にも 編 次 の相 異 が 大き い が ため に
︑仮 説 を 立て る こ とさ え 難 しい
︒ い ずれ に せ よ
︑ 今 回 出土 した 楚 簡
﹃ 老 子
﹄ は
︑合 計 で 一 八 七
〇 字程 度︑ 重 複 し た 部 分 を省 く と
︑ 一 七 九〇 字余 り で あ り
︑ 例え ば
︑ 帛書 乙 本 五 四六 七 字 ︵6︶ の 三 分 の一 弱に し か すぎ な い
︒楚 簡
﹃ 老子
﹄ が 帛 書﹃ 老 子
﹄へ と 如何 に 増殖 し た のか
︒ あ るい はま た
︑ 今 回 発見 の 三 本以 外 に も楚 簡
﹃ 老子
﹄ が 存在 し た の か
︒そ も そ も三 本 は
﹁老 子
﹂ 原本 に ど れ だけ 近 い テキ ス ト なの か︒ 疑 問 は次 か ら 次へ と 湧 いて く る
︒
氏 の
︑
⁝
⁝ とい う 推 定 ︵7︶ も 根拠 無 し とは し な いで あ ろう
︒ 本 稿に お い て︑ 現 段 階で 可 能 な限 り
︑楚 簡
﹃ 老子
﹄ の 本質 に 迫 り︑ そ し てま た︑ 楚簡
﹃ 老 子﹄ と 帛 書﹃ 老 子
﹄の 関 係 を明 ら かに し た いと 思 う
︒ 第
一 章 楚 簡
﹃ 老 子
﹄ 三 本 の 出 土 状況 と そ の 性 格 こ こ で 私は 具 体 的︑ 詳 細 な出 土 状 況を 述 べる つ も りは な い
︒前 掲
・ 崔仁
著
に 依拠 し つ つ︑ 以下 の 論 を進 め る に当 た っ て必 要 な こと の みを 記 す に止 め る
︒ 一 九九 三 年 三 月
︑ 湖 北省 荊門 市 郭 店 一 号 楚 墓 から
︑ 他 の 埋 葬 品 とと もに
︑ 大 量 の 先 秦 典籍 の 竹 簡 が 出 土し た︒ そ の 中 に
︑
﹃ 老 子
﹄ の竹 簡 三 本 が混 じ っ てい た
︒﹃ 老 子﹄ A 本 は 長 さ二 六
・ 三セ ン チ
︑幅
〇
・ 五セ ン チ で︑ 毎 簡 二 十二
〜 二 十三 字 が 書か
れて い る
︒ B 本は 長 さ 三十
・ 五 セン チ
︑ 幅〇
・ 六 セン チ
︑ 毎 簡 十九
〜 二 十六 字
︑ そし て C 本は 長 さ 三 十二
〜 三 十二
・ 三 セン チ︑ 幅
〇
・ 五 セン チ
︑ 毎簡 二 十 六〜 三 十 二字
︑ A BC 三本 と も に一 冊 に なっ て お り︑ 各 冊 は更 に 数 組 に分 か れ るが
︑ 各 本と も 組 の 元 の 順 序 は 不 明 に な っ て し ま っ て い る ︵8︶
︒﹃ 老 子
﹄ A 本 は 竹 簡 二 十 八 枚
︑ 全 約 六 百 十 字 で
︑ 七 組 に 分 か れ る
︒ た だ し
︑ 七 組 の中 三 組 は
﹁ 老 子
﹂以 外の 文 章 な の で
︑ 本稿 の 直 接 の 対 象 と はし な い
︒ A 本 の 中
︑﹃ 老 子
﹄ に属 する の は 四 組
︑ 約 二百 九十 字 で あ る
︒B 本 は 竹簡 十 八 枚︑ 全 約 四百 十 字 で︑ 三 組 に 分 かれ る
︒ C本 は 竹 簡四 十 枚
︑全 約 千 百 七十 字 で
︑六 組 に 分か れ る
︒荊 門 市 博 物館 編﹃ 郭 店 楚 墓竹 簡﹄ 他 の 釈 文 は全 て C 本
︵ 甲 本
︶ を 五 組 と す る が︑ 私 は
︑ 崔 仁 氏 に従 い
︑ 六 組 と 考え る︒ こ の 点 に つい て は
︑後 で 詳 しく 触 れ よう
︒ 竹 簡の 文 章 中 には
︑ 段 落 を区 切 る 記号
﹁
■
﹂や
︑ 繰 り 返し 記 号
﹁‖
﹂ そ の他 が 有 る︒ こ れ ら に つ い ても
︑後 に 必 要 に 応 じて 触 れ る こ と に す る
︒三 本 と も
︑﹁ 老 子
﹂﹁ 道経
﹂﹁ 徳経
﹂と い っ た 文 字 は 見あ たら ず
︑﹁ 第 一 章﹂ な ど の章 名 も 一切 記 され て い ない
︒ 楚 簡
﹃ 老子
﹄ は 何時 書 か れ たの か
︒ 崔仁
氏 が 明 解で
︑説 得 力 のあ る 説 を出 さ れ てい る の で︑ こ こ で紹 介 し てお こ う
︒私 自身 も 今 の と ころ
︑ 氏 の説 に 従 いた い と 思う
︒ 楚 簡﹃ 老 子
﹄ は
︑楚 簡 の 字体 の 発 展過 程 か らみ る と
︑﹁ 包 山 楚簡
﹂ よ り晩おそ
い
︒ 従 って
︑楚 簡﹃ 老 子
﹄ の 筆 写 推 定 時 期 は
︑ 包山 二号 墓 の 下 葬 年 代
︵ 前 三 一 六 年
︶ より も晩 い こ と に な る ︵9︶
︒ 一 方︑ 荊門 の 地 域 史 と﹃ 史 記
﹄ の 記 載 を 対照 し て み て
︑ 郭店 楚墓 の 墓 主 の 入 葬年 代 は
︑ 秦 の 将 軍白 起 が 楚 の 都
・郢 を陥 落 さ せ た 時 期︵ 前 二 七 八 年
︑ 頃 襄 王 二 一 年
︶ より も 早 いと 考 え ら れ る︒ 郭 店 楚墓 は こ の 都・ 郢 の 墓 域 内に 位 置 した の で あ る︒ こ れ らの こ と か ら
︑楚 簡﹃ 老 子
﹄ の 筆写 年 代 の上 限 は 前三 一 六 年︑ 下 限 は前 二 七 八 年と 推 定 され る
︒ おお ざ っ ぱに 言 っ て
︑ 前三
〇
〇 年前 後
︑ 帛書
﹃ 老 子﹄ の 筆写 時 期よ り も 約一
〇
〇年 古 いこ と にな る
︒墓 主 が誰 か は不 明 であ る が︑ そ の身 分 は 大 夫 級 に 達 す る で あ ろ う
︒ 一家 に 偏 ら ず 多く の 典 籍を 収 集 して い る こと
︑ ま た︑
﹁ 東 宮の 杯
﹂ が出 土 し てい る こ とか ら
︑﹁ 太 子 の 師﹂ で あ った 可 能 性が
〔図1〕楚簡老子・帛書老子対照表
ある
︒ 楚 簡
﹃ 老子
﹄ は
︑楚 国 の 重要 典 籍 の一 で あ った こ と に 間 違い は な い︒ 後 漢
・王 充 の
﹁論 衡
﹂ 量 知篇 に
﹁ 二尺 四 寸
︑聖 人之 語
﹂ と あ る︒ こ れ は︑ 推 算 五四
・ 五
〜五 五
・ 四セ ンチ に 当 たる
︒ 竹 簡の 長 さ から 判 断 して
︑ 楚 簡
﹃老 子
﹄ はそ れ に 次ぐ 重要 文 献 と して
︑ C
・B
・ A 本の 順 に重 視 され た と 考え て よ いで あ ろ う︒︵ 以 上
︑ 崔 氏 前 掲 書 九 頁
〜 一 六 頁
︶ 次 に
︑ 楚簡
﹃ 老 子﹄ 三 本 と帛 書
﹃ 老子
﹄ の章 と の 対比 を し てお こ う
︵ 図 1 参 照
︒︶ 図 中︑ 左 に 現 行 本 の 章番 号 を 用 い て 帛書 の章 次
︵ 甲 乙 本 同 じ
︒ 現 行 諸 本 と は 若 干 の 異 同 が 有 る
︶ を 記 し
︑右 に
︑ そ れ に 対 応す る楚 簡A B C 本の 組 数
︵ 崔 仁 氏 の 区 分 に 従 う
︒ 組 数 は 可 変
︶ と 各 組内 で の 段落
︵ 基 本 的 に 現 行 本 の 章 分 け に 一 致
︶ の順 序
︵ こ れ は 固 定 の も の
︶ を 示 す
︒例 えば
︑ C 3 3 とあ れ ば
︑ 楚 簡
﹃ 老 子
﹄ C本 の第 三 組 第 三 段 落 を 指 す
︒﹁ 徳 経
﹂ 四 五 章
︑ 六 四 章 は楚 簡で は 二 つの 段 落 に分 け ら れる
︒ ま た︑ 六 四章 後 半 のC 5 6 と A7
︵ 全 一 段 落
︶ は 唯 一の 重 複 箇所 であ る
︒ 楚簡
﹃ 老 子﹄ は
︑ 帛書
﹃ 老 子﹄ 全 八 十一 章 中 の三 十 一 章に 分 散し て い る︒ こ こ で 各 本 の分 布 状 況を 検 討 して み よ う︒ C 本 は帛 書 の
﹁ 徳﹂ 経
︑﹁ 道
﹂ 経の 双 方 に均 等 に 分布 し て い る
︒こ れ に 対し て
︑ B本 は
﹁ 道
﹂ 経に も 少 し入 っ て いる が
︑ 大部 分 が
﹁徳
﹂ 経 に 集 中し て い るの が 認 めら れ る
︒A 本 は 分 量自 体 が それ ほ ど 多く はな い が
︑﹁ 道
﹂経 に 偏 在し て い る︒ 次に
︑ 唯 一 の重 複 箇 所で あ る 現行 本 第 六十 四章 後 半 のC 5 6 と A7 と の 対比 を 通 して
︑ A
・ C 本 の 時 間 的 前 後関 係 を吟 味 して みよ う
︒ま ず C 5 6 の 全 文 を 挙 げ る
︒ テ キ ス ト は 基本 的 に崔 仁 氏 前 掲 書 に 依 り
︑ 手 を 加 え る 時 は 注 記 す る
︒ 文 字 は 釈 文 に 従 って
︑ で き る だ け 現 行 の 漢 字 に 置 き 換 え て 記 す
︒︵ テ キ ス ト の 引 用 に つ い て は 以 下 同
︶ 為之 者 敗 之︑ 執 之 者遠 之
︑ 是以 聖 人 亡為
︑ 故 亡敗
︑ 亡 執︑ 故 亡 失︑ 臨 事 之紀
︑ 慎終 如 始
︑此 亡 敗 事矣
︑ 聖 人谷
︵ 欲
︶不 谷︵ 欲
︑︶ 不貴 難 得 之貨
︑
︵ 教
︶ 不
︵ 教
︑︶ 復 衆 之 所過
︑ 是 故聖 人 能 輔万 物 之自 然 而 弗 敢為
︑
︵ C 5 6 七 十 一 字
︶
線で 囲 ん だ 敢 為 は
︑テ キ ス トが 判 読 でき ず︑ 他 本 で文 字 を 補 った 部 分 であ る
︵ 以下 同︶
︒ 次に A 7 を同 様 に 示す
︒ 為之 者敗 之
︑ 執之 者 失 之︑ 聖 人 無 為
︑故 無 敗 也︑ 無 執
︑ 故 無 失
︑ 慎 終 若始
︑ 則 無 敗 事矣
︑ 人 之敗 也
︑ 恒 於其 且 成 也敗 之︑ 是 以 聖 人欲 不 欲︑ 不 貴 難得 之 貨
︑学 不学
︑ 復 衆 之 所過
︑ 是 以能 輔 万物 之 自 然而 弗 敢 為︑
︵ A 7 七 十 八 字
︶ 最後 に
︑ 帛書 甲 乙 本に よ る 筆者 自 身 の校 定 本と そ の 訳を 示 そ う ︵10
︒︶
為者 敗之
︑ 執 者失 之
︑ 是以 聖 人 無 為也
︑
︑故 無 失 也︑ 民 之 従 事也
︑ 恒 於其 成 事 而敗 之︑ 故
︵ 曰 ︵11
︶︶
慎 終若 始
︑ 則無 敗 事 矣︑ 是 以 聖人 欲 不 欲︑ 而 不貴 難 得 之貨
︑ 学 不学
︑ 而 復衆 人 之 所過
︑能 輔 万 物之 自 然 而弗 敢 為
︑
︵ 第 六 十 四 章 後 半 八 十 四 字
︶
︵ 働 き か け る 者 は ぶ ち 壊 し
︑ 執 着 す る 者 は 取 り 逃 が す
︒ そ れ で 聖 人 は 働 き か け な い の で あ る
︒ だ か ら ぶ ち 壊 す こ と が な い
︒ 執 着 し な い
︒ だ か ら 取 り 逃 が す こ と が な い
︒ 民 衆 が 仕 事 を す る 場 合
︑ そ れ を 完 成 す る 間 際 に ぶ ち 壊 す の が 恒 で あ る
︒ だ か ら
﹁ 終 わ り に 臨 ん で も 始 め と 同 じ よ う に 慎 重 に す れ ば
︑ 仕 事 を 失 敗 す る こ と が な い
﹂ と い う
︒ そ れ で 聖 人 は
︑ 欲 望 に 囚 わ れ な い こ と を 望 み
︑ 得 難 い 財 貨 を 貴 ば な い
︒ 学 問 の 無 用 さ を 学 ん で
︑ 多 く の 人 々 の 行 き 過 ぎ た 所 を 元 に 戻 す
︒ 万 物 が 本 来 の 姿 に な る の を 助 け る こ と は で き る が
︑ 自 ら 進 ん で 働 き か け よ う と は し な い
︒︶ 右 引用 例 に お い て︑ C 本 の
﹁亡 為﹂ か ら A 本 の﹁ 無 為
﹂ へ︑ C本 の
﹁ 谷 不谷
﹂ か ら A 本の
﹁ 欲 不 欲
﹂ へ
︑C 本 の
﹁ 不
﹂ から A 本 の
﹁学 不 学
﹂へ の 変 化を 見 る と
︑C 本 が A本 よ り も 古く
︑ そ の逆 で は 決し て あ り得 な い こ と が分 か る
︒ま た
︑ C本 の﹁ 臨 事 之 紀
﹂と い う 簡潔 な 表 現が A 本 では 消 え て︑ そ の 代 わり に
﹁ 人之 敗 也
︑恒 於 其 且成 也 敗 之
﹂ とい う い かに も 注 釈的 な言 葉 が 入っ て い る︒ 次 に
︑ A 本 と帛 書 を 比較 す る に︑
﹁無 為
﹂﹁ 若 始
﹂﹁ 欲 不 欲﹂
﹁学 不 学
﹂な ど の 表現 の 一 致は 両 者 の 親 近性 を 語 って い る
︒た
故 無敗 也︑ 無執
だ し
︑A 本 の
﹁ 為 之 者 敗之
︑執 之 者 失 之
﹂﹁ 復 衆 之 所 過﹂ など は A 本 が C 本 の面 影 を 残 し て い る 部分 で あ る
︒ A 本 は C 本と 帛 書 の中 間 的 な 位 置 を 占め るも の と 考 え ら れ る︒ 更 に 注 目 す べ き は︑
﹁ 是 以
﹂や
﹁ 也
﹂ と い っ た 助字 が A 本
・ 帛 書 で 増 加し て い るこ と で あ る
︒﹁ 也
﹂ に 絞 っ て 調 べる に
︑ C 本 は 用例 ゼロ
︑ A 本 は 3
︑ 帛書 は 5
︵ 一 部 推 定 を含 む︶ で あ り
︑ こ の 点で もA 本 は 中間 の 位 置に あ る
︒ さ て
︑ もう 一 つ
︑A 本 の
﹁人 之 敗 也︑ 恒 於其 且 成 也敗 之
﹂ は︑ 帛 書 では
﹁ 民 之従 事 也︑ 恒 於 其成 事 而 敗之
﹂ と なっ て い て︑ こ れ は 明ら か に 帛 書 が A 本 を 襲っ て い る
︒ た だ し
︑ 帛 書で は
﹁ 其 且 成
﹂ の
﹁ 且﹂
︵ ま さ ニ
〜 セ ン ト ス
︶ を落 し た が 為 に
︑ 意 味 する と こ ろが 不 明 瞭に な っ た︒
︵ 現 行 諸 本 は
﹁ 且
﹂ の 代 わ り に
﹁ 幾
﹂︵ ほ と ん ド
︶ を 入 れ て い る
︶ 以 上 ま と め れば
︑ 少 なく と も 六十 四 章 後半 に あ って は
︑ 楚 簡C 本 楚簡 A 本 帛 書 と いう テ キ ス ト の時 間 的 方向 性 が 確認 さ れ る︒ な お ま た︑ こ こ で C 本の
﹁ 臨 事 之紀
﹂ に 戻 れ ば︵
﹁ 臨 事
﹂ の 語 は
﹃ 論 語
・ 述 而 篇
﹄ の
﹁ 必 也 臨 事 而 懼
︑ 好 謀 而 成 者 也
﹂ と い う 孔 子 の 言 葉 の 中 に 見 え て い る
︶︑ C 本
﹁ 臨 事
﹂の 主 体 は明 ら か に
﹁聖 人
﹂ で あ るの に 対 して
︑ A 本 で﹁ 臨 事 之紀
﹂ に 代 わ って 挿入 さ れ た部 分 で は︑ 主 体 は﹁ 人
﹂ と一 般 化さ れ
︑ これ が 更 に帛 書 で は﹁ 民
﹂ とい う被 統 治 者に 変 化 して い る
︒こ の よ う な︑ 各本 間 に おけ る 主 体の 移 行
・移 動 と いう こ とに つ い ても
︑ 十 分な 注 意 を払 う べ きで あろ う
︒ 楚 簡 B 本に つ い ても 二 例 を挙 げ て 検討 し てお こ う
︒ま ず B 3 1の 例
︒ 現行 本 第五 十 二 章の 中 間 部分 で あ る︒ 其 門︑ 塞 其
︑ 終 身 不
︑ 啓 其
︑ 塞其 事
︑ 終身 不
︑■
︵ B 3 1
︶ 次に こ れ に続 く B 3 2 を挙 げ る
︒こ ちら は 現 行本 第 四 十五 章 前 半で あ る
︒ 大成 若 缺
︑其 用 不 弊︑ 大 盈 若
︑ 其 用 不窮
︑ 大 巧若 拙
︑ 大成 若
︑ 大直 若 屈
︑■
︵ B 3 2
︶ 字 釈を 加え る
︒﹁
﹂ は
﹁ 説 文
﹂ に﹁ 閉門 也
﹂︑
﹁
﹂は
﹁穴
﹂ の 意 で
﹁ 目 耳 鼻 口
﹂を 指す
︒﹁
﹂ は
﹁ 広 韻
﹂ に
﹁ 丘前 高後
下︑ 通作 旄
﹂ とあ り
︑﹁ 衰 え る
﹂意 か
︒﹁
﹂ は
﹁
﹂に 通 じ
︑﹁ 説 文
﹂ に﹁
︑ 労 也
︑亦 作
﹂ と ある
︒ 文 中 では
﹁ 労 われ る﹂ と 受 け身 に 読 むべ き で あろ う
︒ 次に 帛 書﹃ 老 子
﹄の 当 該 部分 を 挙 げよ う
︒ 塞其
︑ 閉 其 門︑ 終 身不 勤
︑ 啓其
︑ 済 其事
︑ 終 身不 救
︑
︵ 第 五 十 二 章
︶ 大成 若 缺
︑其 用 不 弊︑ 大 盈 若冲
︑ 其 用不 窘
︑大 直 如
︑ 大巧 如 拙︑ 大 贏 如
︑
︵ 第 四 十 五 章
︶
︵ 12
︶
第 五十 二 章 と 第 四 十 五 章は 本来 繋 が っ て お り
︑内 容 的 に も 連 続 し てい た こ と が 分 か る︒ どち ら も
﹁ 徳
﹂ 経に 属 し
︑﹁ 道
﹂を 体得 す れ ば
︑ その 徳 に よっ て 身 体が い つ まで も 安 全で あ る こ とを 主 張 して い る
︒文 字 に つい て は
︑ 楚 簡の 方 が
︑帛 書 と 比較 し て
︑﹁ 勤﹂
﹁
﹂︑
﹁ 済﹂
﹁ 塞﹂
︑﹁ 救
﹂
﹁
﹂の よ う に
︑意 味 が より 具 体 的 で あり
︑ 身 体 に関 係 の あ る語 を 用 い てい る点 に 特 徴 が ある
︒ ま た︑ 両 段 落と も 末 尾に 段 落 区切 り の
■ マー ク を 持ち
︑ 楚 簡﹃ 老 子
﹄ の段 落 分 け が︑ 必 ず しも 現 行 本の 章分 け と 一致 し な いこ と を 示し て い る︒ B 本に つ い ては
︑ C 本と 関 連 づけ て
︑ 後に さ らに 論 じ たい
︒ 第
二 章 楚 簡
﹃ 老 子
﹄ C 本 の 言 語 的特 性 楚 簡﹃ 老 子
﹄ の中 で 最 も 古 層と 考 え ら れる C 本 に つ いて
︑ こ こ で更 に 深 く 考 えて み よ う
︒ま ず C 2
︵ 現 行 本 十 六 章 前 半
︒ こ の 組 は 段 落 が 一 つ し か な い
︶ か ら 始め よう
︒ 至虚
︑ 恒 也︑ 守 中
︑篤 也
︑ 万物 方 作
︑居 以 須復 也
︑ 天道 員 員
︑各 復 其 根︑
︵ C 2
︶ 帛書 校 定 本で は
︑ 次の よ う にな る
︒ 至虚
︑ 極 也︑ 守 静
︑篤 也
︑ 万物 並 作
︑吾 以 観其 復 也
︑夫 物 芸 芸︑ 各 復 帰於 其 根
︑
︵ 第 十 六 章 前 半
︶
︵ 虚 を 十 分 に 招 き
︑ 静 を 篤 く 守 る
︒ 万 物 が 並 び 起 こ り
︑ 私 は そ れ ら が 戻 っ て 行 く の を 観 察 す る
︒ そ れ ら の 物 は 盛 ん に う ご め き
︑ そ れ ぞ
ね ぎ ら
れ の 根 源 に 復 帰 し て ゆ く
︒︶ 両本 は 基 本的 に よ く一 致 し てい る と 言っ て よい で あ ろう
︒ す なわ ち
︑ C本 か ら 帛書 へ とテ キ ス トが 移 行 した
︒ し かし な が ら︑ 仔細 に 検 討 し てみ る と
︑両 者 に は見 過 ご すこ と の でき ない 相 異 が存 在 す るこ と が 分か る
︒ それ ら の 一 つ一 つ に つい て
︑ 検討 して ゆ こ う︒ 先 ず 両 者の 相 異 点を 列 挙し て みる
︒
︿ 楚 簡 C 本
﹀
︿ 帛 書 校 定 本
﹀
(1)
﹁至 虚
︑ 恒也
﹂
﹁至 虚
︑ 極也
﹂
(2)
﹁守 中
︑ 篤也
﹂
﹁守 静
︑ 篤也
﹂
(3)
﹁居 以 須 復也
﹂
﹁吾 以 観 其復 也
﹂
(4)
﹁天 道 員 員﹂
﹁夫 物 芸 芸﹂
(5)
﹁各 復 其 根﹂
﹁各 復 帰 於其 根
﹂
(1)
は﹁ 恒﹂ は 神 秘 主 義的 修 行 の持 続 性 をい う が
︑﹁ 極﹂ は 単 に 程度 を い うに す ぎ ない
︒ C 本の 言 語 では
︑﹁ 恒
﹂ が他 の 箇 所で も 神 秘 主義 的 な 意 味 を 持 つ
︒ 例え ば︑ C 3 1に
﹁ 能 為 道
︑ 恒 亡 為 也﹂
︵ 三 十 七 章
︶︑ ま た C 3 4 に
﹁ 道 恒 亡 名﹂
︵ 三 十 二 章
︶︒ やは り こ こは
︑﹁ 極
﹂ で は なく て
︑﹁ 恒
﹂ でな く て はな ら な い︒
(2)
の﹁ 守 中﹂も 神 秘 主義 的 修 行に お け る︑ 具 体 的な 身 体 修練 をい う で あろ う
︒ 元は
﹁ 静
﹂と い っ た静 止 状態 を 言 った の で はな く て
︑お そ ら く︑ C4 2︵ 五 十 六 章
︶ の
﹁ 閉其
︑ 塞其 門
﹂ と 関 連す る 言 葉 で あ ろ う︒
(3)
は と り わけ 両 本 で 大 き な違 いが あ る︒ C 本 では
︑﹁ 居り 続 け て
︑ 万 物 の 復かえ
る の を 須ま つ
﹂の であ る︒ こ れ に 対 して
︑ 帛 書で は
︑﹁ 居
﹂が 字 体 の混 同 に 起 因 する の で あろ う か
︑﹁ 吾﹂ に 変 わっ て し ま っ てい る
︒ それ に 従 って とい う べ き か
︑﹁ 須復
﹂ が
﹁観 其 復
﹂に 変 化 して い る
︒﹁ 吾
﹂ が入 っ た こと に よ り︑ 先 行 する
﹁ 万 物
﹂ の影 が 薄 れた の で
︑再
度
﹁ 其﹂ で 指 示 し な お す必 要が 生 じ た の で あ ろう
︒ ま た
︑﹁ 吾
﹂ と い う 一 人 称 の代 名 詞 を 受 け る 動詞 とし て
﹁ 須ま つ
﹂で は余 りに も 受 動 的 であ る が 故に
︑ お そら く
﹁ 観﹂ と い う主 体 的 な 能動 動 詞 が取 っ て 代わ っ た ので あ ろ う
︒ 楚簡 C 2 では
︑ 未 だ一 人称 意 識 の兆 さ ぬ 段階 だ っ たの で あ る︒ 次 に
︑
(4)
の﹁ 天 道員 員﹂か ら
﹁夫 物 芸芸
﹂へ の 変化 に つい て は︑ 楚 簡で は
﹁天 道
﹂が 主 体で ある の に対 し て︑ 帛 書で は
﹁ 物
﹂ が 主 体 的 に動 く と い う こ とで ある
︒ 最 後 の
(5)
﹁ 復 帰﹂ と い う熟 語 化 し た 連 動詞 は
︑ 楚 簡
﹃ 老 子﹄ で は 見 ら れ な い もの であ り
︑ ここ に も 楚簡 と 帛 書で 用 い られ て いる 言 語 の差 異 を 窺う こ と がで き る
︒ 右 引 用 文 に 見え て い た﹁ 万 物
﹂と 近 い 概念 の 語 に﹁ 民
﹂ が ある
︒﹁ 民
﹂ は 楚簡
﹃ 老 子﹄ 中 に 全一 五 例 を 見る が
︑ この
﹁ 民
﹂ はC 本 に し か 見え な い
︒C 本 の 中で も
︑ 四組 に 六 例︑ 五 組 に 八例 と 極 めて 集 中 した 現 れ 方を し て い る
︒そ の 中 から 二 例 を挙 げる
︒ 民 莫 之命
︑ 而 自均 焉
︑
︵ C 3 4
︶ 我 亡 為︑ 而 民 自化
︑
︵ C 4 3
︶ 上 に立 つ 者 が 何 も し な くて も︑
﹁ 民
﹂は 自 発 的 に 身 を 律す るの で あ る
︒﹁ 民
﹂ と の 関 連で C本 で 注 目 さ れ るの が
︑﹁ 弗﹂ であ る
︒﹁ 弗
﹂ に つ いて は
︑ 私 は 前 論 文
﹁帛 書 老 子 文 体 考
﹂︵ 以 下
﹁ 前 論 文
﹂ と 略 す
︶ で﹁ 意志 を 伴 っ た 否 定の 語
﹂ と 定 義 し た︵ 一 五 頁
︶︒ そ の考 え は 今も 訂正 す る 必 要を 認 め ない
︒ さ て︑
﹁弗
﹂ は楚 簡
﹃ 老子
﹄ 中
︑全 部 で 二〇 例 が 見ら れ︑ そ の 分布 は
︑ A 本
⁝2 例 B本
⁝ 0 例 C 本
⁝18 例 であ る
︒ やは り C 本に 集 中 して い る
︒C 本 の内 訳 は 次の 通 り であ る
︒ C 3 組⁝ 6 例 C 4 組
⁝2 例 C5 組
⁝7 例 C6 組
⁝ 3例
C3 組 と C5 組 に 比重 が か かっ て い るの が 認め ら れ る︒ こ の 二組 か ら 例を 引 い てみ よ う︒ 聖 人 居亡 為 之 事︑
⁝
⁝ 為而 弗 恃 也︑ 成 而弗 居
︑ 夫唯 弗 居 也︑ 是 以 弗去 也
︑
︵ C 3 3
︶ 右文 の
﹁ 弗﹂ は
︑﹁ 亡 為
﹂に 由 来 する
﹁聖 人
﹂ の否 定 意 志を 示 す
︒ 其
︵ 聖 人
︶ 在 民 上 也︑ 民 弗 厚也
︑其 在 民 前也
︑ 民 弗害 也
︑ 天下 楽 進 而弗 厭
︑
︵ C 5 2
︶ こち ら は
︑﹁ 民
﹂の 受 動 的な 否 定 意志 であ る
︒ ただ し
︑ 五組 に は 道の 体 得 者の 否 定意 志 を 言う も の もあ る
︒
﹁ 民﹂
﹁ 聖 人
﹂と 扱っ た 関 連 で
︑ 次に
﹁ 侯 王
﹂ に つ いて 見て み よ う
︒﹁ 侯 王
﹂ は 楚 簡で はC 本 に 二 例 が 見え る だ け で あ る
︒ しか し
︑ この 二 例 の﹁ 侯 王
﹂は 重 い 意味 を 持つ
︒ 能 為 道
︑恒 亡為 也
︑ 侯 王 能 守 之
︑ 而 万 物 将 自化
︑化 而 欲 作
︑ 将 鎮 之 以 亡 名之 樸︑ 夫 亦 将 知 足
︑ 知 足 以 朿
︵ 静
︶︑ 万 物将 自定
︑
︵ C 3 1 三 十 七 章
︶
﹁ 朿
﹂ は
︑ 崔 氏 は
﹁ 刺
﹂︑ 劉 信 芳 氏 は
﹁
﹂ を 当 て る
︒ な お
︑﹁ 知 足
︑ 知 足
﹂ の 部 分
︑竹 簡 で は
﹁ 知
二
足
﹂ と な っ て い る が
︑
﹁ 足
﹂の 繰 り 返 し記 号
﹁二
﹂ が脱 落 し てい る もの と し て処 理 し た︒ 道恒 亡 名
︑僕
︵ 樸
︶ 唯 妻
︵ 小
︶︑ 天地 弗 敢 臣︑ 侯 王如 能 守 之︑ 万 物 将自 賓
︑
⁝⁝ 夫 亦 将知 止
︑知 止 所以 不 殆
︑
︵ C 3 4 三 十 二 章
︶ 次に
︑ 右 二例 に 相 当す る 帛 書校 定 本 を引 く
︒ 道恒 無 名
︑侯 王 若 能守 之
︑ 万物 将 自 化︑ 化 而 欲作
︑ 吾 将鎮 之 以 無名 之 樸
︑鎮 之 以無 名 之 樸︑ 夫 将 不辱
︑ 不 辱以 静
︑ 天地 将自 正
︑
︵ 三 十 七 章
︶ 道恒 無 名
︑樸 雖 小
︑而 天 下 弗敢 臣
︑ 侯王 若 能守 之
︑ 万物 将 自 賓︑
⁝
⁝ 夫亦 将 知 止︑ 知止 所 以 不殆
︑
︵ 三 十 二 章
︶
︵ 13
︶
私 は
︑前 論 文 で
︑ 三 十 七・ 三十 二 章 に 共 通 する
︑ 次 の 三 つ の 文 体 の特 徴 を 指 摘 し た
︒ 一︑
﹁ 道 恒 無名
﹂﹁ 侯王 若能 守 之
﹂﹁ 万 物将 自
〇
﹂﹁ 天 地
﹂の 表 現 を含 む
︒ 二︑
﹁ 樸﹂ を
﹁ 道
﹂ の比 喩 と して 用 い る︒ 三
︑ 散文 体 で ある
︒ 楚 簡 C本 に も この 文 体 の特 徴を 当 て は め るこ と が でき る
︒ ただ し
︑ 若干 の 調 整が 必 要 で あ る︒
﹁道 恒 無 名﹂ は
﹁ 道恒 無
〇
﹂に 改 め
︑﹁ 天 地
﹂は 共 通 項か ら はず さ な け れば な ら ない
︒ 逆 に︑
﹁ 知足
﹂﹁ 知 止
﹂ が 共通 項 に なる
︒ 楚 簡で は
︑ 三十 七 章 相当 部 が 先 行し
︑ 三 十二 章 相 当部 は それ を 受 け る形 で 書 かれ て い ると 考 え るべ き で あろ う
︒ C 3 1 の﹁ 能 為 道︑ 恒 亡 為也
﹂ は その こ と を 如実 に 語 って い る
︒ C3 4の
﹁ 道 恒亡 名
﹂ は当 然
﹁ 道︑ 亡為 也
﹂ と﹁ 以 亡 名之 樸
﹂ を 受け て い る︒ こ こで
︑ 本 筋か ら は 離 れる が
︑ C3 1 はC 5 6
︵ 本 稿 二 九 六 頁 既 出
︶ の 後 には 接 続 しな い こ と を論 証 し たい
︒ 荊 門 市 博物 館 編
﹃郭 店 楚 墓 竹簡
﹄︵ 文 物 出 版 社
︑ 一 九 九 八 年
︶ に 始 ま って
︑ 先 に 挙 げた 崔 仁 氏 以 外の 釈文 は
︑ 全 てC 5 6の す ぐ 後 に C 3 1 を 接続 さ せ
︑ そ の結 果
︑ そ こに 組 の 分断 を認 め て いな い
︒︵ し た が っ て C 本 の 組 数 が 一 つ 少 な く な る
︶ 私 は
︑ こ れは 認 め 難 い誤 り だ と考 え る
︒そ の 理 由を 次 に 記そ う
︒ 1.
﹁ 万 物之 自 然 而弗 能 為
︑道 恒 亡 為也
﹂ の 結び つ き は 不 自然 で あ る︒ 楚 簡
﹃老 子
﹄ のみ な ら ず︑ 帛 書
﹃ 老 子﹄ に お いて も
︑
﹁ 弗 能﹂ と い う 結 合 は一 例 も 見 当 ら ない
︒︵ 楚 簡
﹃ 唐 虞 之 道
﹄ に は
﹁ 弗 能
﹂ の 用 例 が あ る が
︑ こ れ は
﹁ 老 子
﹂ と は 全 く 別 系 統 の テ キ ス ト で あ る
︶ C 5 6と 重 複 する 楚 簡 A 7 およ び 帛 書で も
﹁ 弗 敢為
﹂ で あ り
︑現 行
﹃ 老子
﹄ 諸 本 も すべ て
﹁ 不敢 為
﹂ と なっ て い て︑
﹁ 能﹂ を 使 った 例 を 見 ない
︒﹃ 韓 非 子
・喩 老 篇
﹄引 に も
﹁恃 万 物 之自 然 而 不敢 為
.
.
.
﹂ とあ る
︒ それ に 反 して
︑﹁ 能 為
﹂ の 言 い方 は
︑﹁ 能 為 百谷 下
﹂︵ C 5 2
︶ の よ う に楚 簡
﹃ 老子
﹄ の 中に 用 例 を見 出 す こと が で き る︒ 従 っ て︑ 崔 仁 氏 が 範 を 示 し たよ う に
︑こ こ は
﹁万 物 之 自然 而 弗﹂ で 一 旦切 り
︑ その 後 は 竹簡 が 一 枚散 逸 した と 取 り︵ す な わ ち こ こ で 五 組 が 終 わ る
︶︑
﹁ 能為 道
﹂ は当 該 の 竹簡 の 冒 頭か ら 筆 記さ れ て いる の で
︑新 し い 組︵ 三 組
︶ の 始 ま りと 取 る のが
︑ 唯 一の 合 理 的な 文 献 処理
方 法 であ る と
︑私 は 考 える
︒ 2.
他 の 各 組 の長 さ と 対照 し て みて も
︑ 五組 と 三 組が 連 続 し た一 つ の 組 だと す る と︑ こ の 組の み が 極 端に 長 く なり
︑ 全 体の 均 衡 を破 っ て しま う
︒ さ て︑ も う 一 度 拙 論 の本 筋に 戻 っ て
︑ こ こ で見 落 と せ な い の は
︑帛 書
﹃ 老 子
﹄ 三 十 七 章で
︑﹁ 吾﹂ が顔 を 見 せ て い る こと で あ る
︒楚 簡の 方 には
︑ こ れ は 見 え て い な か っ た
︒﹁ 道
﹂ の 体 得 者 と し て の
﹁ 吾
﹂︒ し か し
︑ そ れ で は な ぜ︑
﹁ 能 為 道
︵ 者
︶﹂ とし て の
﹁侯 王
﹂ が設 定 さ れ︑ 提 起 され た のか
︒ い ささ か
︑ おせ っ か いな 一 人 称﹁ 吾
﹂で は な いで あ ろ うか
︒ こ こ で
︑﹁ 侯 王
﹂と
﹁ 聖 人﹂ の 関 連性 に つ いて の 考 察 に 移ろ う
︒﹁ 侯 王﹂ は 右 に 述べ た よ うに
︑ C 三 組に 二 度 出て 来 る のみ であ る が
︑﹁ 聖 人﹂ は 楚 簡﹃ 老 子
﹄中 に八 回 出 てく る
︒ A
⁝ 1例 B⁝ 0 例 C
⁝ 7例 この 内
︑ Aの 一 例 はA 7 で あり
︑ C 5 6 に 重 複す る
︒ C本 中 の 分布 は
︑ 3 組
⁝2 例 4組
⁝ 1 例 5 組
⁝4 例 で
︑ 相 対 的 に み て
︑ や は り 3 組 と 5 組 に 多 い
︒ C 本 3 組 全 四 段 落 の な か で は
﹁ 侯 王
﹂ と
﹁ 聖 人
﹂ は
﹁ 侯 王
﹂
﹁ 聖 人
﹂
﹁ 聖 人
﹂
﹁ 侯 王﹂ の順 で 出 て 来 て いて
︑﹁ 侯 王﹂ に触 発 さ れ て
︑﹁ 聖 人
﹂ の 概 念 が導 入 さ れ た こ とを 示し て い る よ う に 思わ れる
︒ そ し て
︑﹁ 侯王
﹂ は
﹁道
﹂ と 結び つ く のに 対 し て
︑﹁ 聖 人﹂ は
︑ 少な く と も C本 3 組 にあ っ て は
︑直 接
﹁ 道﹂ に は 結び つか な い
︒C 本 5 組の 4 例 の﹁ 聖 人
﹂で は どう で あ ろう か
︒ 一例 を 取 り上 げ て 検討 し てみ よ う
︒ 聖人 之 在 民前 也
︑ 以身 後 之
︑其 在 民 上也
︑ 以言 下 之
︑其 在 民 上也
︑ 民 弗厚 也
︑ 其在 民 前也
︑ 其 在民 弗 害 也︑
︵ C 5 2 六 十 六 章
︶
合わ せ て
︑帛 書 校 定本 も 引 く︒ 是以 聖 人 之欲 上 民 也︑ 必 以 其言 下 之
︑其 欲 先民 也
︑ 必以 其 身 後之
︑ 故 居前 而 民 弗害 也︑ 居 上 而民 弗 重 也
︑
︵ 六 十 六 章 ︵14
︶︶
帛書 の 二 カ 所の 欲
︵ 傍 線 部
︶ が
︑ 楚簡 で は 見当 た ら ない の が 注 目さ れ る
︒C 5 2 で は
︑ 聖人 は 民 の前 に い る 時 には む し ろ自 ら身 を 引 く の であ る
︒ 民に 先 ん じよ う と して
︑ そ の目 的 の た めに 一 時 的に 身 を 引く の で はな い
︒ こ の よう な
﹁ 聖人
﹂ で あっ てこ そ
︑﹁ 民
﹂ の否 定 意 志﹁ 弗
﹂ が生 じ来 た る こと も 可 能な の で ある
︒ 帛 書で は
︑﹁ 欲﹂ が 入 るこ と に よっ て
︑ 本来 の 意 図が 歪 め られ て し まっ て い る︒ こ こ で も う 一度
︑ C 本の 全 体 を見 通 し て︑ そ の 言語 的 な 特 性に つ い て考 え て みよ う
︒ C本 の 言 語 は
︑リ ズ ム が四 言 の 場合 が 多 く︑ そ の 語 り口 は ゴ ツ ゴ ツし て い て
︑む し ろ 詩 的 でさ え あ る
︵ 例 え ば
︑ C 2 の 表 現 を 見 ら れ よ
︶︒ 内 容 的 にも
︑ よ り 本 質的 なこ と の みを 語 り
︑表 現 は 簡潔 で あ る︒ 次 にC 3 2
︵ 六 十 三 章
︶ の 例を 引 く
︒ 為亡 為
︑ 事亡 事
︑ 味亡 味
︑ 大小 之
︑ 多易 必 多難
︑ 是 以聖 人 猶 難之
︑ 故 終亡 難
︑
︵ C 3 2 二 十 八 字
︶ 同じ 箇 所 の帛 書 校 定本 を 引 く︒ 為 無 為︑ 事 無 事
︑ 味 無味
︑ 大 小 多 少
︑報 怨 以 徳
︑ 図 難 於其 易
︑ 為 大 於 其細 也
︑ 天 下 之 難︑ 作 於 易
︑ 天 下 之大
︑ 作 於 細
︑ 是以 聖 人 終不 為 大
︑故 能 成 其大
︑ 夫 軽諾 必 寡信
︑ 多 易必 多 難
︑是 以 聖 人猶 難 之
︑故 終於 無 難
︑
︵ 第 六 十 三 章 七 十 八 字 ︵15
︶︶
帛書 傍 線 部が 楚 簡 に有 る 部 分で あ る
︒帛 書 に比 し て C本 に は いわ ゆ る 説教 調 が ほと んど な く
︑む だ な 繰り 返 し も見 ら れ ない
︒ 帛書 の
﹁ 大小 多 少
﹂と い う 言い 方 が やや 饒 舌で あ る のに 対 し て︑ C 本 の﹁ 大 小 之﹂ は簡 潔 で
︑過 不 足 のな い 表 現で あ る
︒
第 三 章 文 体 分 析 を 通 し て 見 た 楚 簡﹃ 老 子
﹄ の 成 立事 情 本 稿 の 緒 論 で述 べ た よう に
︑ 私は か つ て帛 書 校 定本
﹃ 老 子
﹄ の文 体 分 析を 行 っ た︒ そ の 分析 の 結 果 を︑ 楚 簡
﹃老 子
﹄ AB C本 に 適 用 す れば
︑ い かな る 結 果が 導 き 出さ れ る か︒ 本 章 で は︑ こ の 主 旨に 沿 っ た文 体 分 析と
︑ 分 析 結果 の 読 み取 り 作 業を 行う
︒ そ の 前 に
︑ 私が 帛 書
﹃老 子
﹄ に基 づ い て行 っ た 文体 分 析 の 結果 を
︑ も っと も 重 要か つ 不 可欠 な 点 に しぼ っ て 紹介 し て おこ う︒ 詳 し くは
︑ 拙 論﹁ 帛 書 老 子 文体 考
﹂ をご 覧 い ただ き た い︒ 帛 書
﹃老 子
﹄ の文 体 の 核に は 神 秘思 想 に 彩ら れ た 文体 A 0 が来 る︒ こ の A 0 は更 に 修 行 の記 述 a
︑体 験 の 記 述 b︑ 定 義 付け c
︵ 例
﹁ 吾 強 為 之 名 曰 大
︑ 大 曰 逝
﹂︶ の 三 つ に 細分 さ れ る︒ A 0 の 文体 か ら A 1
・ A 2
・ A 3 の三 小文 体 が 派 生 し た
︒ A 1 は 神 秘 思 想 の 形 而 上 的 展開
︑ A 2 は
﹁ 道
﹂ の 比 喩 的表 現
︑ A 3 は
﹁ 二 の 否 定﹂ とい う形 で の 神 秘 思想 の 展 開の 文 体 であ る
︒ 以上 の 諸 文体 の 総 体 を文 体 A 層と 呼 ぼ う︒ こ の A層 か ら
︑ や がて
﹁ 聖 人の 無 為
﹂を 説 く文 体 B 層 が 生 ま れて く る
︒ た だ し︑ B 層 は 多 様 な形 態 を 取 る
︒ まず
︑ A 層 の A 0 か ら A 3 への 流れ の 延 長 線上 に︑
﹁聖 人の 無 為
﹂を 説 く 文 体 B 0 が 生 み 出 され る︒ B 0 は 聖人 の否 定 意 志 の強 弱に よ っ て
︑さ らに 前 期
・ 中期
・後 期 に 分 か た れる
︒ 一 方
︑ そ れ とは 別 系 統 で
︑ A 層か ら 直 接
﹁ 知 の反 省﹂ の 文 体
︹B
︺が 派 生 し
︑ 続 いて
︹ B
︺ と B 0 中 期 が 結 合 す る 形で
︑﹁ 反智
﹂の 文 体 B 3 が 生 ま れ る ︵︶16
︒ 他 方
︑文 体 B 0 の 最 終 局 面
︵ 後 期
︶ か ら は
︑﹁ 聖人
﹂ の 名 が 消 え た︑ より 受 動 的 な 姿 勢 の 文 体 B 1
︑ B 2
︑ B 3 が 生 じ る
︒ B 1 は
﹁ 知 足
﹂︑ B 2 は﹁ 長 生保 身
﹂︑ B 3 は
﹁天 道﹂ の 文 体 で あ る
︒ A 層 は 必 ず し も 完 全 に B 層 に 流 れ込 んだ ので は な い
︒ B層 の下 に は
︑ 伏 流 D 層の 存在 が 認 め ら れ る
︒ D 層 では
﹁道
﹂ の 体 得 者
︵ 神 秘 体 験 の 経 験 者
︶ の︑
﹁ 聖 人 の 無 為﹂ とし て は 昇華 し き れ なか っ た 暗 い 情念 が 渦 巻 い て いる
︒ D 層 では 当 然
﹁ 聖 人﹂ は 現 わ れ ず
︑﹁ 吾︵ 我
︶﹂ が 姿 をあ ら わ す
︒ D 層は
二つ の 文 体に 区 分 され る
︒ 一 つ は﹁ 独 白
﹂の 文 D 体1 で
︑ ここ で は
︑神 秘 体 験者 の 孤 独と 現 実 にお け る 絶望 が 表 白さ れ る
︒も う 一 つは
︑﹁ 負の 観 念
﹂ をも っぱ ら 唱 え る文 体 D 2 で ある
︒ A 層 の
﹁ 二の 否 定
﹂ の文 A 体3 か ら
﹁聖 人 の 無 為
﹂ B 0 へ 向 か う 過程 で︑
﹁ 一 の実 現
﹂ が強 調さ れ て ゆく が
︑ D 2 は 二 の うち の 負 の 観 念︵ 剛 に 対 す る 柔
︑ 雄 に 対 す る 雌
︑ 動 に 対 す る 静 な ど
︶ の み を 受容 する
︒ 現 実に お い ては
︑ お そら く 弱 者で あ り︑ 下 位 に在 っ た であ ろ う
﹁道 の 体 得者
﹂は
︑ 聖 人と い う 理想 者 を 創 出す る 裏 で︑ 独白 と し て︑ 負 の 観念 の 主 張と し て
︑隠 微 に己 を 語 って い る
︒ さ て
︑ A 層 はB 層 と D層 に 分 流し た 後
︑文 体 C 層に お い て 再び 合 流 する
︒ そ の時
︑ A 層は も と の ま まの 姿 で はな く
︑ より 高い 次 元 でで 再 統 一さ れ た
︒C 層も 多 様 な姿 を み 見せ る C︒i
﹁ 善 人﹂ の 文 体は
︑﹁ 道
﹂ を﹁ 善 人
﹂と い う 言葉 を 軸 に解 説 し
︑ Cii
﹁ 愛身
﹂は
︑﹁ 自 身 を 大 切に する
﹂ こ と を 説 き
︑ Ciii
﹁ 兵 家 言﹂ は︑ B 0
﹁ 聖 人 の 無 為
﹂ と D 2
﹁ 負 の 観 念
﹂ の 結 合 さ れ た 所
︑ あ る い は そ の 延 長 上 に来 る
︒ Civ
﹁ 非 戦
﹂ は
︑﹁ 道
﹂ を 平和 に 結び つけ
︑ 非戦 を 主 張 す る
︒ Ciii
﹁ 兵 家 言
﹂ と 近 い 関 係 に あ る
︒ 以 下
︑ Cv
﹁ 死 生﹂
︑ Cvi
﹁ 批 判
﹂︑ Cvii
﹁ ユ ート ピ ア
﹂ など の文 体 が 認 めら れ る
︒ C 層 は︑ 情 が 強 く 出︑ より 民 衆 の 立場 に 近 く
︑ それ ぞ れ が一 個 の 散文 体 を 形成 し つ つあ る
︒ 以 上の よ う な 文 体 分 析を 行っ た 後
︑ 実 際 に 帛書 に 当 た り 直 し て みて
︑ 私 は
︑﹁ 徳
﹂ 経 と
﹁ 道
﹂ 経で 文 体 上 明 ら か な 相 異の ある こ と に気 が つ いた
︒ 各 章の 文 体 の比 率 を図 に 示 そう
︒︵ 0.5 は 一 章 が 二 文 体 に 分 か れ る も の
︶
︵ 文 体
︶ A B D C 徳 経 4 16.5 10.5 13 道 経 14.5 11.5 1 10 徳経 は 文 体B D C に布 陣 し
︑道 経 は AB C に布 陣 し てい る
︒ 帛書 の 全 体を 見 渡 すと
︑ 道経 で は おお よ そ
︑
︵ 導 入
︶
︵ 比 喩
︶
︵ 本 論
︶
︵ 敷 衍
︶
︵ 展 開
︶ A 1 A 2 A 0
B
・ D C の順 を と り
︑ 徳経 で は やや 不 明 確で あ る が︑ お よ そ D B
・ C D の 順 に位 置 す る
︒ これ ら の 意図 的 と 思わ れ る 配列 は︑ 編 纂 者 の 存在 を 強 く感 じ さ せる が
︑ それ が 老 子自 身 で あ るか ど う か︑ 前 論 文で 用 い た私 の 方 法 で は︑ 明 ら かに し 得 なか った
︒ 今 回
︑ 私 は
︑こ の 帛 書﹃ 老 子
﹄の 文 体 分析 法 を 楚簡
﹃ 老 子
﹄に 適 用 する に 当 たっ て
︑ と くに 何 ら か の不 都 合 や方 法 の 修正 の必 要性 を 感 じな か っ た
︒た だ
︑ 帛書
︵ す な わ ち 現 行 諸 本
︶ の 章 分け
・ 章 次 と
︑楚 簡
﹃ 老子
﹄ の 段 落区 分
・ 段落 順 序 と は 必ず し も 一致 し て い な い の で︑ 一章 を さ ら に 細 か く分 割 し た り
︑ 或 い は︑ 他 の 章 と 合 わ せて 一段 落
・ 一 文 体 とし て 処 理 し た り
︑ とい っ た 若 干 の手 直 し は行 っ て いる
︒ そ して
︑ 楚 簡A B C 各 本の 組 毎
︑段 落 毎 の文 体 確 定を 行 っ て み たと こ ろ
︑非 常 に 興味 深い 結 果 を 得 るこ と が でき た
︒ それ を
︑ まず 表 示 して み よ う
︒な お
︑ もう 一 度 確 認し て お くと
︑ A B C各 本 は それ ぞ れ 独立 し て 冊 をな し て お り
︑ そ れ ぞれ が 数 組 に 分 か れる
︵ 拙 論 で は 各 本 の 組 番 号 は 崔 仁 氏 に よ る
︶︒ 組の 配列 は 現 在 で は 不 明に なっ て い る が
︑ 一 つの 組内 部 の 段 落 順 は 固 定 の も の で あ る
︒ ま ず
︑ 一番 古い 筆 写 と 考 え ら れ る C 本 か ら 始 め よ う
︵ 図 2
・ A 表 参 照
︶︒ こ の 図 2・ A 表 で︑ 相 互 の文 体 の 層が 並 行す る よ うに 各 組 の位 置 を 前後 に ず らし てみ る と
︑次 の 図 2・ B 表 のよ う に なる
︒ ここ で
︑ より 高 い 整合 性 を 得る た め に︑ 私 の判 断 で 一組 と 二 組の 順 序 を入 れ 換 えて みた
︒︵ 図 2
・ B表 参 照
︶ B 表で は
︑ 組 と組 の 繋 ぎ と なる 文 体
︵ 図 の
= で 結 ん だ 部 分
︶ が 存 在す るこ と が 分 かる
︒ ま た
︑ C本 の 六 つ の組 は
︑ 全 体 とし て 一 定 の 方 向 性 を 持 つ こ と が 明 ら か で あ る
︒ そ し て
︑ そ の 方 向 性 は
︑ 私 の 考 え る 文 体 の 発 展 方 向 に
︑ ほ ぼ 完 全 に 重 な る
︒
〔図2〕C 本の文体分析
〔図2〕C 本の文体分析
︵ そ れ に つ け て も
︑ こ の 順 序 は 崔 仁 氏 の 組 順 に ほ ぼ 一 致 す る
︒ 氏 の 組 順 決 定 の 方 法 が い か な る も の で あ っ た か
︑ 私 は 詳 ら か に し な い が
︑ 改 め て 氏 の 判 断 の 正 確 さ に 敬 服 す る 次 第 で あ る
︶ この B表 が 指 し 示 し てい るも の に
︑ 本 稿 の第 一
︑ 二 章 で 私が 述 べ て き た こ とを 合 わ せて
︑ そ れを 文字 に 書 き改 め れ ば
︑次 の よ うに な る であ ろう
︒ 二 組 神 秘 体験
︵ 修 行
・ 体 験
︶ 一 組 神秘 体 験
︵ 体 験
・ 定 義
・ 比 喩
︶ 三 組 神秘 思 想
︵ 比 喩
・ 二 の 否 定
︶
・ 侯 王 と 聖 人 の出 現
︵ 聖 人 の 無 為
︶ 四 組 二 の 否定
・ 知 の反 省
・ 反智
五 組 反 智
・ 負の 観 念
・知 足
・ 外縁 部
︵ 非 戦
︶
・ 比 喩
・聖 人
・ 民の 否 定 意 志 六 組 比 喩
・ 長 生 保 身
・ 知 足
・ 形 而 上 学
・ 知 足
︵ B 層 周 縁 部 の 形 成
︶ 以 上 の よ う な 様 々 な 分 析 結 果 の う ち
︑ C 本 の 主 軸 は 文 体 A か ら 文 体 B へ
︑ 同 時 に ま た 各 層 の 核 心 よ り 周 縁 に 向 か っ て 動 き
︑ 五 組 の 段 階 で
︑ D 層 と C 層 が 始 め て 顔 を 出 し た こ と が
︑ 特 に 注 目 さ れ る
︒ そ し て︑ C 本 はこ こ ま でで そ の 文体 の 発 展を 止 めて い る ︵︶17
︒ 次 に
︑ 楚 簡 B 本 の 文 体 分 析 に 移 ろ う
︒ 始 め に
︑ C 本 と 同 様 の 作 業 をす る
︒︵ 図 3 参 照
︶ B 本 の 文 体 は
︑ こ れ は 極 め て 明 瞭 な 傾 向 を 示 す
︒ 一 組 の D 2 は
︑ 二
︑ 三 組 の D 2 に 対 応 す る
︒ 二 組 と 三 組 は ほ ぼ 完 全 な 相 似 形 を な す
︒ 二 組 3 の A 3
﹁ 二 の 否 定
﹂ は帛 書 で は D 1 の直 前に あ り
︑ D 層 と 関係 が 深 い
︒ B 本 は
︑ C 本 と は 全 く 別 の 動 き を 見 せ
︑ B 2
﹁ 長 生 保 身
﹂ D 2
﹁負 の
〔図3〕B本の文体分析
観念
﹂
︵ A 3
﹁ 二 の 否 定
﹂︶ C 層 外縁 と い う動 き を 繰り 返 す
︒こ れ は︑ 帛 書 にお い て
︑ B 層 と D 層 が 合 流 し て
︑ C 層 が 生 ま れ た こ と に 一 致 す る
︒ そ し て︑ 文 体 C層 で B本 が終 止 す るの も 示 唆的 で あ る︒ 次 に
︑A 本 の文 体 分 析に 移 る
︒︵ 図 4 参 照
︶ A 本 で は一 応
︑ 二の 否 定
︵ 五 組
︶ 聖 人の 無 為
︵ 七 組
︶ 反智
︵ 四 組
︶ 非 戦
︵ 六 組
︶ の 方 向 性 が 窺 わ れ る
︒ 或 い は
︑ 文 体 A よ り 文 体 C が 発 生 す る メ カニ ズ ム を象 徴 的に 表現 し よ うと し た もの で あ ろう か
︒ さ て
︑ 楚 簡
﹃ 老 子
﹄ A B C 各 本 の 文 体 分 析 を 終 え て
︑ 次 に は AB C 各 本間 の 相互 の 関 連 性 を 問 う べ き 時 に 来 た
︒ ま ず
︑ 帛 書
﹃ 老 子
﹄ に な ら っ て
︑各 文 体 の出 現 頻度 を表 示 し よう 文 ︒ 体 A 文体 B 文体 D 文 体 C
︵ 楚 簡 C
︶ 8 9 1 2
︵ 楚 簡 B
︶ 0 3 4 2
︵ 楚 簡 A
︶ 1 3 0 1 楚簡 C 本 は 文 体A B が 中心 で
︑ そし て D とC が 若 干顔 を 見 せ てい る
︒ 楚簡 B 本 は文 体 B DC に わ た っ て位 置 し
︑楚 簡 A 本は 傾向 が 弱 い が
︑文 体 B を中 心 に
︑文 体 A Cが 寄 り そう
︒ こ れ らを す べ て勘 案 し て︑ 私 は
︑結 局 楚 簡
﹃ 老子
﹄ A BC 本 は
︑文 体に お い て︑ 左 図 のよ う な 相関 関 係 にあ る もの と 理 解す る
︒︵ 図 5 参 照
︶ 先 ずC 本 に お い て
︑ A 0
︱ A 3
︱ B 0
︱ B 1
︱ Cを 主軸 と す る 精神 の動 き が あ り
︑ それ を 補 完 す る 形で
︵ 伏 流 と し て
︶ B 本の B 2
︱ D 2
〔図4〕A 本の文体分析