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民主主義と「テロ」との戦い : 愛国法延長の政治 的意味

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(1)

民主主義と「テロ」との戦い : 愛国法延長の政治 的意味

その他のタイトル Democracy and the War on "Terror" : Political Meaning of the Extension of the USA PATRIOT Act

著者 大津留(北川) 智恵子

雑誌名 關西大學法學論集

56

2‑3

ページ 409‑438

発行年 2006‑11‑30

URL http://hdl.handle.net/10112/12355

(2)

民主主義と﹁テロ﹂との戦い

愛国法延長の政治的意床│ー

t

大津留︵北川︶智恵

(3)

1 0 0 (1 )

制定をめぐる議論

(2)愛国法制定後の議論

2.

1

00

五年愛国改善・再授権法

(1 )

国際環境

(2)国内政治環境および世論の動向

(3)議会審議

おわりに

i

ブッシュ政権の秘密主義とアメリカ民主政治

(4)

民王主義と﹁テロ﹂との戦い

0

六年三月九日︑愛国法

0

( U S A P A T R I O T   A c t   P

L

 

10七—五六)

定めた二00

五年愛国改善•再授権法

(PL

1 0

I一七七︶が︑ジョージ.

w

.ブッシュ大統領の署名により成立

した︒これにより︑二

0

0

五年末でいったん効力を失うはずの︑テロ対策のために拡張されていた行政府のいくつか

そもそも︑二

0 0

一年の愛国法においてなにゆえに時限立法の部分が存在したのか︒その延長ないしは恒久化は︑

アメリカの民主主義にとってどのような意味を持つのか︒二

0

0

一年以来問い続けられていた安全と市民的自由のバ

ランスの問題は︑愛国法の再授権にあたって再び議論の的となった︒それだけではなく︑愛国法はテロ戦争を名目と するブッシュ政権の秘密主義と権限拡大の象徴とみなされ︑三権の抑制と均衡の上にあるアメリカの民主主義そのも

イラク政策の行き詰まりの中︑

アメリカ国内でテロが再発していないことが︑

とされている︒そして︑そのテロ対策を可能としているものとして︑愛国法は正当化されてきた︒しかし︑愛国法の

再授権の審議のさなかに︑

ブッシュ政権高官のイラク開戦理由をめぐる情報操作のスキャンダル︑テロ容疑者の同盟 国等の軍事基地への秘密裡の輸送︑さらには国家安全保障局

(N

SA

) 件が相次いで生じ︑安全が市民的自由の犠牲の上にあるというブッシュ政権の主張には疑問が持たれた︒そうした疑

問はいずれも政府権限の拡張が民主社会アメリカにとって何を意味するかを問うものであった︒愛国法の具体的な条 のを揺らがす危険性も論じられた︒ の権限が︑その後も継続して行使されることになった︒

は じ め に

の時限立法部分の延長ないしは恒久化を プッシュ政権にとっての唯一の功績

による一般市民の電話盗聴の表面化などの事

(5)

れていた フト司法長官により反テロ法の草案が作られ︑

︵ 民

I I

︵四

︱二

により

1 0

 

項の延長•恒久化は最終的に可決されたものの、危機における行政府の絶対性へのアメリカ社会の抵抗は、今日さら

本稿では︑二

0 0

一年にさかのぼって愛国法の制定過程を考察した上で︑その延長をめぐる審議を︑国内的︑国際 的な状況も合わせながら分析する︒そして愛国法とは何であり︑それが象徴するアメリカの民主主義の問題とは何で

0 0

一年の愛国法の制定は︑九・︱一事件の直接の影響を受けた︑異常な社会的状況下で行なわれたも のであった︒九.︱‑から五日後の九月一六日に︑テロとの戦いには新しい権限が必要だとするジョン・アシュクロ

一週間以内に議会がその法案を可決すべきだとの公言もあった

( A s h c r o f t   2

00 1)

︒ブッシュ政権側が新しい権限として望むものとして︑法執行︑移民︑情報に関する権限が挙げら

( H o u s e   J u d i c i a r y   C om mi tt ee   2

00 5,

P  

a r   t 2

,  4 84

)

ブッシュ政権の反テロ法案は九月二四日に上下両院に示され︑同日以降︑司法委員会公聴会においてアシュクロフ ト司法長官を始めとする政権側と︑市民的自由に懸念を示すアメリカ市民自由連合︵以下︑

表明された︒また︑上院の同委員会憲法小委員会でもファインゴールド議員 月三日に公聴会が開かれている︒上院ではいったん九月三

0

日に政権側との合意案ができたものの︑政権により撤回

( 1

)  

制定をめぐる議論

1

0 0

あるかについて検討してみたい︒ に力を増しているといえる︒

︱四 八

A C L u )

などの見解が

(6)

午前八時に一八七ページの新たな法案が提出され︑ だった

ウィスコンシン什 ︶

によって提案されると︑司法委員会を始めとし︑特別情報委員会︑外交委員会︑資源委員会︑歳 入委員会など︑関連する複数委員会に付された︒司法委員会では︑全委員が合意できる超党派の修正が加わり︑三六

0

の全員一致の法案として本会議へ上程されることとなった︒これが一

0

月︱一日であったが︑同じ日に既に上院

は別の内容で法案を可決しており︑当然両院協議会において文言の詰めがおこなわれると思われていた︒

ところが︑翌︱二日の本会議の始まる直前に︑下院議事運営委員会は他の委員会から出ている修正を盛り込むとい う理由で︑法案の内容を別の内容とそっくり入れ替えるという審議規則を提案した︒その内容とは上院の法案に即し たもので︑前日の夜に上下両院の幹部の間で作成された︒

ことで︑両院協議会の時間を省略し︑直接大統領の署名へと持っていこうとしたものだった︒これは︑目の前のテロ に対抗するため︑両院協議会を行なう時間の余裕もないという

11

C R

,

Oc to be r  1

2,  2 00 1,

  H6706)

0

月一一日に下院法案二九七五

るために委員会に回されることなく上程され︑

政権の意向を反映したものだった

(S .  15 10 )

が提案された︒これは︑

アシュクロフトの提案から違憲部 分を削除したり︑四

0

以上挙げられたテロ犯罪を重要なものに絞ったりという作業をおこなっているが︑基本的には

11

C R

,

c t o b e r  

1 1 ,  

20 01 ,  S 10548

50

)︒審議を早め

10

月四日に上院法案一五一〇

1 0

月︱一日の本会議でも修正されることなく九六対一で可決された︒

反対票を投じたのは︑修正案を出し続けたファインゴールド議員のみであった︒

(H . 

R .  

29 75 ) 

として︑司法委員長のセンセンブルナー議員︵共

I I

つまり下院があらかじめ上院と同じ内容の法案を可決する

ブッシュ政権からの強い働きかけを受け入れたもの

︱一時過ぎに本会議の審議が始まったため︑民主党議員からは

︵四 一三

(7)

法案内容を十分に吟味する時間がないという批判が出た︒これに対し︑共和党の賛成派議員からは︑﹁これは基本的 には数週間前に大統領が送付してきた要請内容と同じである﹂︵ウェルドン︑共

1 1

C R

,

Oc to be r  1

2,   20 01

,  H6708) 

権の要請がそのまま議会に受け入れられたということになる︒

から︑中身がわからないという反論はおかしいとの意見が述ぺられている︒すなわち︑司法委員会で

超党派の合意を形成するために三週間にわたって行なった議論および可決した修正案は反故にされ︑九月段階での政 こうした異例の差し替えに反対した︑司法委員会の民主党側の首席委員であるコニャーズ議員︵ミシガン州︶

︱つの法案は下院常任委員会で丹念に吟味されたものである︒もう︱つの法案は司法長官と大統領によって作成 されたものである︒片方は範囲を限定し︑この危機が去った後は満了する︒もう︱つはテロだけでなく麻薬や銃 などにも適用したい検事による権力強奪である︒政権の法案は︑爆撃が終了し︑テロリストが処罰を受けた後に なっても︑大統領の任期中継続される︒現在のような危機下では︑旗の下に結集する必要があるが︑良識を忘れ てはならない︒ベンジャミン・フランクリンの次のような言葉がある︒﹁短期的なわずかな安全のために根本的 な自由を放棄するものは︑自由と安全のいずれをも手にすることができない﹂

( C

R ,

c

t o b e r   1

2,  2 00 1,

  H6707)

市民的自由の犠牲において安全を確保することに反対するように読めるこの内容は︑しかしながら︑その大前提と して危機にあっては例外を許すというものであった︒テロリストがつかまるまでは時限立法が有効であってもよいと

いう見解は︑二

0 0

一年の時点では制約的なものであったかもしれない︒が︑再授権を審議していた二

0 0

五年にお

いて︑九・︱一の首班とされるビン・ラディンが処罰を受けるどころか︑拘束すらされていないという状態では︑こ 本会議前に次のような声明を読み上げている︒

(8)

の見解はむしろ愛国法の延長•恒久化を正当化する根拠として使われうるものだった。

下院司法委員会が修正を加えた法案は︑ブッシュ政権案をほぼ踏襲した上院の法案に比べ︑反故にせざるを得ない ほど政権にとって受け入れがたいもであったのか︒司法委員会での審議過程については︑民主党議員から次のように 私自身︑司法委員会の共和党︑民主党のスタッフとともに︑司法省︑

一 五

( U n i

t i n g

n   a

d   S

t r e n

g t h e

n   , 

FBI

︑情報機関と一緒に法案を一行ずつ 検討した︒司法省が反対することは何もしなかった︒実際︑憲法違反のために削除しなくてはならない部分がか なりあったが︑削除する代わりに調整をしたくらいだ︒そして︑このとても竪固な法案に全員一致で賛成した︒

専門的なスタッフと意見の相違があったと思うかもしれないが︑そんなことはなかった︒この法案はよくできた

ものだった

11

カリフォルニア州︑

C R

,

c t o b

e r  

12

,  20 

1 , 

H6710)

委員会での審議もなく提案され︑内容を十分に検討する機会もないまま可決されようとする法案に対し︑これが市 民的自由にとってのトンキン湾決議になるのではないかという懸念︵デファジオ︑民

11

CR

H6708)

下院での審議は︑結局︑議事運営委員会の用意した法案︵修正三七九︶

ルナー議員は新法案の審議に先立ち︑九・︱一によりアメリカは戦争に巻き込まれ︑この戦争は敵が誰で︑どこにい て︑次にいつ何をしかけてくるかわからない不安をアメリカに抱かせている︒こうした新しい状況のものでは︑安全 を守るために新しい手段が必要で︑この法案はそのためのものである︑という政権と同一の見解を述べた

( C

R ,

O c

t o

b e

r  

12 ,  20 01

,  H6762)

︒新しい法案は︑その頭文字を取ると

U S A

まとめられている︒

に差し替えられて進められた︒センセンブ PATRIOT 

(9)

︵ 共

1 0

月二六日︑大統領の署名をもって愛国法は成立した︒

1 ,

1︑民一四五対六二︑独立

0

で可決︑さらに二五日に上院では九八対

0

︑民四八対

政策決定のパロディーである﹂と非難している

(C A  T O  Ins t i t u t

e   2

00 4, 0  2 0)

こうしたブッシュ政権側の概念操作の恣意性に対し︑

11)

もなされている。また、超党派の法案が反故にされた経緯をめぐり、九•一 なって対応してきたのに︑

アシュクロフト長官が超党派法案を壊し︑党派的攻撃の第一弾を加えた

1 1

カリフォルニア州︑

CR , t c o b e r   1

2, 0  2 01 ,  H

67 62 ) 

H6711) 

の数人によって秘密裏に作成された法案を︑修正案を許さない手続きのもとで議決しなくてはならないほど︑共和党

C R ,   O c t o b e r   1

2,  2 00 1,  

という皮肉も投げかけられた︒共和党系のカトー研究所ですら︑二法案審議の]過程の全てが︑熟議による 上下両院を通過した法案は︑別途可決されていたテロ集団への資金規制をめぐる法案

(H

R .  

.

30 04 ) 

込んで書き直された後︑

一︑独立一対

0 )

10

月二三日に再提案

(H

R .  

.

31 62 ) 

で可決となった︒

の内容を盛り

された︒翌日の下院の最終的な表決は一二五七対六六

側はアメリカの民主主義を倫威に感じているのか

︵フランク︑民

1 1

マサチューセッツ州︑

代えても自由を守ろうとしたのだという反論 独立

0

にて下院で可決された︒

恐れた議員の多くは︑この法案に反対することを避けた︒その結果︑三三七対七九

との非難もあった︒また︑どの委員会でも審議されず︑ほん

一以降︑党派を抜きに国が一っと

アメリカの建国時に真に愛国的であった人々は︑自らの命と

1 1 リー︑民

1 1

CR , c t o b e r   1

2,  2 00 1,   H6710‑

0

七対

1 ,

1︑民︱二九対七五︑

i n g   A m e r i c a   by   Pr o v i d i n g   A p p r o p r i a t e o   T o l s   R e q u i r e d   t o   I n t e r c e p t   a n d   O b s r t u c t   T e r r o r i s m )  

# 1

ために自らの自由を犠牲にすることが﹁愛国的﹂であるという含みを持たせ︑逆に﹁非愛国的﹂と非難されることを

関 法 第 五 六 巻 ニ

・ 三 号

一 五

︵四 一六

(10)

民主主義と﹁テロ﹂との戦い 二︱五

愛国法の成立は︑その内容に関わる問題はもとより︑成立の過程においてブッシュ政権の掲げた行政府の絶対性に 議会が屈したという意味で︑その後のアメリカ政治の展開の土台を作った大きな転換点となっていた︒

愛国法制定後の議論

攻撃を受けたアメリカ社会が異常事態にあると認め︑それに対応する上で行政府が必要とする権限は与えようとした︒

と同時に︑新たな権限が濫用されること︑特に憲法により保障される人権が侵害されることがないように︑その権限

を恒久的に付与するのではなく二

0

0

五年末までという期限を設けた︒

限部分の延長を求めるであろう行政府は︑法が適正に施行されるよう自主的に行動を規制し︑議会への報告も誠実に 行なうであろうから︑結果的に監視の実効性を高めることがでぎると期待されていた︒

0

( b

)

d

)

~

0

FISA

のもとでの業務記録の提出および絨口令 礼状執行の通知の遅滞

( s n e a k a n d   p e e k )  

法執行機関が犯罪捜査情報を情報機関と共有 下のような内容が議論の対象とされる

プッシュ大統領の言う﹁戦争﹂であるかどうかについては議論が分かれるものの︑議会の大勢はテロ

(C AT O  I n s t i t u t e   2 00 5,   20 0)

つまり︑近い将来におそらく時

アシュクロフト司法長官が提案した時点から問題を含み︑結局時限となった一六の項目のうち︑以

( C f . B   a k e r   an d  K av an ag h 

2005

S   ; 

c h u l h o f e r   2

005

  ; +令沢•小ん山

外国諜報監視法

(F

IS

A)

のもとでの移動傍受

0

0

六 ︶

時限という措置は﹁保護観察﹂期間とみなされた ( 2

)  

(11)

こった 論理で行なわれたものであるが︑ ACLu

だけでなく︑

な っ

た ︒

また︑恒久的に認められた部分に関しても︑ニ︱六︵通信記録︶︑

s e c u r i t y   l e t t e r , N  SL s)

 

の問題点が指摘されている︒ 五 五 0

︵四 一八

愛国法が新たに付与した権限が︑行政府によって果たして適正に執行されたのかどうかをめぐっては︑後述するよ

うに愛国法延長の議論の中で異なる意見が戦わされることになる︒しかし︑愛国法がテロと戦うために行政府に与え

たとされる権限の多くは︑これまでも行政府が犯罪捜査のために議会に要求しては︑市民的自由の保護を理由に拒絶

されてきたもので︑九.︱‑後の状況に便乗する形で獲得したものだとも言える︒

ブッシュ政権は愛国法の審議過程で︑危機にあっては︑民主主義の根幹である十分な議論は不要であり︑行政府の

手足を縛らないように動くことが肝要であるという姿勢を示した︒こうした行政府絶対主義は︑愛国法の実施におい

てのみでなく︑関連するその他の政策の実施においても引き続いて示されたため︑大きな議論を巻き起こすことに

中でも︑最も早く問題とされたのが外国人の人権であった︒司法省は︑テロと関連すると疑われる外国人︵多くは

イスラム教徒︶

非 難

し ︑

の身柄を秘密裏に一方的に無期限で拘束した︒これは︑情報が外に出るとテロリストを利するという

(A

CL

U 

2001)。九•一―直後から、

二︱八

マイノリティの人権に関する団体からも大きな批判が巻き起

アメリカではイスラム教徒・アラブ系を対象としたヘイトクライムが急

増している︒ブッシュ政権は︑建前としては﹁イスラム教徒はテロリストである﹂という︑人種的なレッテル貼りを

アラブ系の人権を保護する姿勢を唱えた︒しかし︑実際に行なわれた政策としては︑まさに人種的なレッテ ︵裁判所命令の不要な召喚状

n a t i o n a l

外国諜報が捜査の主たる目的でなく︑目的の︱つでも可

一五 四

(12)

民 王

主 義

と ﹁

テ ロ

﹂ と

の 戦

ル貼りに基づいての拘束がなされていった︒しかも︑

1 0

月七日にアフガン攻撃が始まると︑

アシュクロフト司法長官は︑司法省の内規を変えることで︑そ うした人権侵害の危険性の高い捜杏が︑司法省の規定に触れることなく行なえるようにした

アフガニスタンで拘束した捕虜を︑テロリストであるという理由 でジュネーブ条約の外に置いた︒そして議会や国民の目が届かないように︑

アンタナモ基地に拘留し︑そこで拷問による情報の聞き出しがおこなわれた︒拘留された﹁テロリスト﹂の中には︑

アメリカ市民も混ざっており︑憲法で人権が保障されるべきアメリカ人が﹁敵性兵士﹂としてその権利を奪われる是

542 

u .  

s .  

42 6)

︒これらの裁判では︑二

0

0 四年に大統領の拘束権限を認めながらも︑

保護請求権を﹁テロリスト﹂にも認めるという判断が最高裁判所によって下されている

七 ー

一 九

︶ ︒

こうした︑テロとの戦いの名のもとに行なわれる人権侵害に対して︑

で あ

っ た

非が裁判で問われることとなった

︵ 大

津 留

二 0

0 四 ︶

︒ アメリカ国内ではなくキューバにあるグ

ブッシュ政権が否定する人身 アメリカの世論の反応は大きく二つに分かれ

ていたと言えよう︒すなわち︑テロリストがイスラム教徒やアラブ系︑南アジア系と同一視される中で︑ほとんど当 事者になる可能性のない白人社会と︑こうした人権侵害を当事者として過去に︑また現在経験するマイノリティ社会 もちろん︑空港での身体・荷物検査のように︑全ての人びとがある程度の影響を被ることはあったし︑後日明らか

になるように︑自分が当事者であると意識しないうちに︑政府の無制限の諜報活動の対象に含まれてしまっていた白 人もいる︒しかし︑空港でより厳密な検査を受ける確率が高かったのはマイノリティであり︑特にアラブ系男性の場

︵ハムディ対ラムズフェルド事件

542

U .

S .

  507

︵四 一九

(大沢•小山

0 0 六 ︑

ラムズフェルド対パディラ事件

さ ら

に ︑

(13)

( 1

)  

国 際 環 境

2.二00五年愛国改善•再授権法

合︑根拠もなく搭乗拒否にあうことすらあった︒九・︱一が︑主として白人層を支持母体にする共和党のブッシュ政 権下で起こったことも︑

︵ 四 一

0 )

アメリカの世論が市民的自由の問題に敏感に反応しなかった背景にあると言える︒

こうした展開の中で︑自由と安全の議論の活性化に拍車をかけたのが︑テロとの戦争という特殊な事情を口実にし たブッシュ政権の権限拡大が︑それを監視することを不可能にするほど秘密裡に遂行されたという組み合わせだった

(H ou se f   o   R e p r e s e n t a t i v e s  

20 05 )

︒九・︱一を犯罪ではなく﹁戦争だ﹂と定義づけたのはブッシュ大統領であり︑そ のブッシュ大統領が戦時下の最高司令官として無制限に権限を拡大していく様子は︑

( s t e a l t h   a u t h o r i t a r i a n i s m )

B r e c h e r a dn m   S it

2

00 6, )  6  

愛国法に関しては市民的自由の侵害はない︑

関法第五六巻二•三号

という呼び方さえされている︒

﹁目に見えない権威主義

というのが司法省が議会の求めに応じて公聴会で示してきた主張であ る︒しかし︑それを監視する立場にある議会︑そして人権団体などの市民社会は︑

二 0

0

一年に愛国法が審議されていた時期は︑

ブッシュ政権が提供する情報があ

まりにも制限されているために︑憲法上の権利が本当に蹂躙されているのかどうかを判断することが難しい状況に置 かれた︒そして︑その秘密の裏で本来は違法行為であることが行なわれているのではないかという疑念は︑

政権の布いた厳重な絨口令の隙間から次々と漏れ出るスキャンダルによって大きくなった︒

ブッシュ政権がアフガニスタンヘの報復攻撃を︑

権﹂であるという正当化のもとに行なっていた︒当時は九・︱一でアメリカの被った被害の大きさから︑

ブッシュ

アメリカの﹁自衛

アメリカに

(14)

タナモ基地における人権侵害について︑ よる自衛権の主張に真っ向から反対する声は国際社会の中でも少数派であった︒

アメリカによる自衛権の解釈がさらに拡大し︑根拠が不明瞭なイラク侵攻が︑国連安全保障理事会の決議 が行われないままに遂行されると︑

論は︑国際社会の優先度がイラク復興に移ることで後退したものの︑イラクの復興が治安問題から遅滞すると︑

リカの占領政策そのものへの批判として再び浮上した︒また︑イラクだけでなく︑

は︑アメリカ国内でのテロ再発を防ぐ一方で︑世界的にテロを拡大していると認識されるようになった︒

ジュネーブ条約はテロリストに無関係であるという立場で人権侵害を行っていることが明らかになると︑さらに強 まった︒政権第二期に︑国際法は法律ではなく政治であるという見解をもつジョン・ボルトンが国連大使に就任した ことは︑国際社会にアメリカに対する不信感すら持たせた︒

0

0

アメリカのテロとの戦いへの批判は︑

アメリカを取り巻く国際環境は大きく変化した︒イラク侵攻の正統性をめぐる議 フセイン政権の人権侵害をイラク侵攻の︱つの理由と掲げたアメリカ自身が︑

アメリカが人権基準の低い地域に秘密裏にテロ容疑者を送り︑拷問によってテロ情報を聞き出し ているという漏洩もあり

( W a s h i n g t o n P o s t ,   No ve mb er   2

,  20 05

)︑該当する秘密監獄のある国だけでなく︑そこへの

移送のために空港施設が利用されたとされる日本を含む諸国との間にも︑

( B u l l e t i

E

n  

U  

12

20 05

H,

um an   ri g h t s  

(7

1 0 )

  ¥ 

)  

アメリカによる﹁テロとの戦い﹂

もっとも︑こうした国際的な場でのアメリカの対テロ政策に対して持たれている懸念や批判は︑

アメリカ国内で十

分に認識されているわけではない︒たとえば︑世界的に知られたイラクのアブ・グレイブ刑務所やキューバのグアン

アメリカでは七六パーセントが耳にしたに留まるのに対し︑

ドイツでは九八

)

アメリカは問題を引き起こしている

(15)

こうした国際環境の変化︑特にイラク情勢の悪化が︑

アメリカではイラク攻撃によって世界がより安全になったという見解が五一パーセントで︑逆により危険になったと

いう見解が六

o l

七六パーセントのヨーロッパ諸国と比べると︑感覚のずれが大きい

それでも︑イラクでのアメリカ兵の犠牲が留まることなく増加すると︑

強まった︒イラク問題を巧妙に争点からずらした二

0

0 四年の選挙で勝利を収めたブッシュ大統領は︑選挙によって

( 2

)  

こうした国際環境のもとにあった︒

(

H u g h e s   2 00 )5

︑大きな成果は見られていない︒

di pl om ac y)  

パーセント︑テロの犠牲を出したイギリスとスペインでは九 0

バ ー

セ ン

ト ︑

(P ew  2 00 6,   4)

アメリカが自ら掲げる理念に反する政策を遂行しているとの批判に対し︑

で対応しようとした︒

アメリカの本当の姿を知らないからアメリカを批判するのだと論じるブッシュ政

権は︑広告業界からシャーロット・ビアーズを抜擢してアメリカの売り込みを繰り広げたが︑建前としての理念と実

際の外交政策の乖離への国際社会の批判を受け︑当初の広報外交は無残な失敗に終わった︒二

0

0 五

年 に

は ︑

シュ大統領側近のカレン・ヒューズが国務省で広報外交担当の次官として就任し︑双方向的な広報外交を唱えたが

テロとの戦いを最優先とするブッシュ政権が︑愛国法の時限部分の延長を議会に求めた二

0

0 五

年 に

国内政治環境および世論の動向 ると答えている

アメリカは

アメリカの世論と直結しているかというと︑そうではない︒

(P ew  2 00 6,

 13)

アメリカ国内でもブッシュ政権への批判が

ブッシュ政権は広報外交

( p u b l i c  

フランスでは八八パーセントが知ってい

(16)

民王主義と﹁テロ﹂との戦い

力は︑大きく二つに分けることができる︒ 面し︑四

0

パーセントの線をはさんで支持率が上下する状態から回復していない

﹁政治的資金を得た﹂のでそれを﹁使っていく﹂と公言した︒しかし︑二

0

0

五年に入ると早くも支持率の低迷に直

( G a l l u p  

20 06

)

0

0

五年夏には︑イラク侵攻の根拠とされたイラクによる大量破壊兵器獲得の動きが︑

操作であり︑それを指摘した政府関係者の妻である

C I

A工作員の身元を︑

として漏洩したというスキャンダルが発覚した︒イラク政策の誤りが︑

じる権限濫用によって引き起こされているのではないかという疑いが︑

ルイジアナ州を襲ったハリケーン・カトリーナヘのブッシュ政権の対応の悪さも︑

する中で︑国内マイノリティが切捨てられているという印象を強めた︒

ブッシュ政権による情報 チェイニー副大統領の補佐官が嫌がらせ プッシュ政権による権限拡大と︑そこから生 アメリカ人の間で持たれた︒また︑同時期に

ブッシュ政権がイラク政策を優先 こうした中で愛国法の延長審議が進められたわけだが︑愛国法ないしは政府の市民的自由の侵害に批判的な政治勢

︱つは︑イラク政策と市民的自由の問題を同根とみなす勢力で︑

がイラクを勢力下に置こうとする帝国主義的な政策が︑イラクの人びとからの反発を招き︑それを押さえるためにア メリカの理念に反する強制手段が取られていくという悪循環として両者が認識されている︒この勢力は︑イラク撤兵 を推進しながら人権の保障と政府の権限縮小を求めようとし︑主として民主党の支持母体と重なっている︒

もう一方は︑イラクでの政策とは切り離して︑

アメリカ国内での政府の権限拡大が︑商業活動も含め︑

アメリカ

アメリカ人

の自由に及んでいるという点を重く見るリバタリアンで︑多くは共和党の支持母体と重なっている︒リバタリアンの

︱つであるカトー研究所が︑愛国法の中で特に問題とするのは︑礼状捜査の通知の遅滞(︱二五︶︑裁判所命令の不 要な召喚状︵五

0

五︶︑外国諜報が主たる目的でなくても可とする点︵ニ︱八︶

で︑恒久的な部分である五

0

五項に

(17)

法に異議を唱えたことになる ペクター上院議員

︵ 共

I I

ペンシルヴァニア州︶

他にも︑インターネット上のプライバシー保護を重視する民主主義・技術センター

T e c h n o l o g y )  

では︑時限条項のうち︑二

0

O

が問題であるとし︑また恒久的な部分においても︑二

0 1

︱ ︱

愛国法を問題とする動きは︑これまで市民的自由にあまり関わりがあると思われていなかったアクターにまで広

がっている︒たとえば︑人権侵害にあたる部分が含まれる愛国法が︑連邦政府によって強要されることに自治体も反

対の声を上げた︒権利の章典防護委員会

( B i l l o f   R i g h t s   D e f e n s e   C o

m m i t t e e )  

た自治体は︑二

0

0

六年五月現在で︑八つの州︵アラスカ︑

と三九九の自治体となった︒反対票を投じた人口を合わせると︑総勢で八五

0

万人が愛国

0

(B OR DC  2 00 6)

異議を唱え続け︑二

0

0

に対して︑積極的に修正を加えることを求めている

関 法 第 五 六 巻 ニ

・ 三 号

(C AT O 

20 04

)

によって議会に提案もされている︒

( b

)

O

0

九︑ニ︱二︑ニ︱四︑ニ︱五︑ニ︱七︑ニ︱八︑

(C DT  2 00 5)

政権の権限濫用に問題があるという立場が表明されている︒ 関しても時限化するべきだという立場がとられているカトー研究所と同調する意見は︑後述するス

( C e n t e r   f o r   D e m o c r a c y n   a d  

( a )

︑ニ︱三︑ニ︱六︑三五八︑

あるいは︑愛国法の内容に影響を受ける職業団体からも︑職業倫理として愛国法には従えない︑あるいはブッシュ

アメリカ図書館協会

(A LA )

アメリカ弁

︵四 二四

0 0

五︑八

は︑愛国法のもとで提出

を義務づけられる業務報告が︑図書館利用者のプライバシーを侵害するため︑出版関係の他の団体と協調してこれに

FBI

が図書館を対象から外すという方針転換をするにいたった︒また︑

シュ政権が︑戦時の大統領特権を盾に︑就任以来議会が制定した七五

0

もの法律を無視してきたことに︑

の提唱で︑愛国法反対決議を可決し

一六

(18)

民主主義と﹁テロ﹂との戦い 護士協会

( A B A )

が抗議の声を上げたり︑テロリストとして拘束された囚人の拷問に立ち合わせられることに︑

メリカ医師協会

( A M A )

が拒否の姿勢を示すなど︑

ブッシュ政権を取り囲む周囲からの反対網は徐々にではあるが

国内外での、人権•市民的自由に対する批判を受けて、議会でも愛国法の延長問題を待つことなく、

きがとられてきた︒例えば︑二

0

0

0

クレイグ上院議員︵共

I I

いくつかの動

による愛国法改正法

( S e c u r i t a y nd   Fr ee do m  E n s u r e d   A c t , l   S

  70

9)

0

0

五年四月には︑前述のスペクター上院議員による

S A F E

法案

( S e c u r i t a y nd   Fr ee do m  E nh an ce me nt   Ac t  o f  

20 05 , 

S .  

73 7)  

らは︑愛国法で拡大された行政府の権限のうち︑無期限に遅滞されている情報開示に期限を設け︑また捜査に裁判所

愛国法の延長そのものをめぐる法案は︑二

0

0

五年七月︱一日にまず下院に下院法案三一九九

( H .

R .  

31 99 ) 

て提案された︒管轄の司法委員会で二三対一四で可決された後︑特別情報委員会の審議を経て︑ニ︱日に本会議に上

程された︒委員会の審議に先立って︑合計︱二回︑三五名の証人を得て公聴会が行なわれたことが本会議の場で強調

委員会の議論で特に問題となったのは︑愛国法がアメリカ人の市民的自由・人権を侵害してきたかどうかの検証で

ACLU

は愛国法によって市民的自由や人権の侵害があったとの立場を取っているが︑司法省はそうした主 の判断を要するなどの修正を加えようとしたものであった︒

( 3

)  

広がりつつある

( N a t i o n

20 06 ,  3)

H . R .  

27 15 )

が提案されている︒これ

(19)

し か

し ︑

︵ 四

︱ ‑

( H o u s e   J u d i c i a r y   C om mi tt ee   2

00 5,

P  

a r t   2

,  44 1 44 4)

ロンドンでの二度目のテロと同日に開催された下院本会議では、議事運営委員会から、司法•特別情報委

員会から出された法案ではなく︑それに差し替えられた新たな法案を制約的手続き

( H .

R e s .

  3

69 ) 

があった 0 日︑場合によっては四 0 六日間であった 三回行なわれ︑うち一八件のみがテロ捜査で︑残りの九 0 パーセントは通常の犯罪捜査だった︒開示の遅れは九

︵ニ︱︱︱‑︶︑根拠もなくテロ支援者とされてビザが無効とされた事例 コンピュータ内の情報︑デジタル撮影などを持ち帰った ︵ニ︱八︶︑開示のない捜査が二

0

五年一月まで一五 0

た メイフィールド氏に関する

ACLu

の主張は︑彼の捜脊が愛国法ニ︱三項に基づくという誤解に基づいている︒

FISA

裁判所の指令のもとに捜査が行なわれ︑

FISA

を修正した︑あるいは含意した︑あるいは﹁使われ

た﹂情報調査に関連していたため︑そうした誤解が生じている︒しかし︑それは愛国法の条項が誤って使われた

( C o r n e y ,

  2005 

12

)

このように司法省は﹁愛国法の権限下では﹂人権侵害がおこなわれなかったという立場をとり︑議会に対する定期

的な報告においても同様の見解を示してきた︒それに対し︑下院司法委員会民主党スタッフからは︑司法省に対抗す

九•一―以来、図書館に二00件を越える情報提供の要請があり、そのうち四九件は連邦職員によるものであっ

︵ ニ

︱ 五

︶ ︑

FBI

が罪もないブランドン・メイフィールドの自宅を秘密裡に捜査し︑

で審議する提案 る主張として次のような侵害例が示されている︒ ことにはならない これは誤りである︒彼の捜査は外国諜報監視法

( F I S A )

張を次のような論理で否定している︒

DNA

鑑定用の証拠や︑ のもとに一九九五年から存在していた権限による︒

︵ 四

二 六

参照

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