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1939 年の稠密な降水観測網を利用したフィリピンにおける月降水量の空間分布特性

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Academic year: 2021

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1939 年の稠密な降水観測網を利用した

フィリピンにおける月降水量の空間分布特性

1 赤坂 郁美 専修大学 環境地理学科2 要 旨 フィリピンにおける降水量の空間分布特性をより詳細に明らかにするために、1939 年 のフィリピン気象月報(紙資料)に収載された 300 地点前後の 5 月、8 月、11 月の日降水量の 観測値を電子化し、データセットを作成した。結果として、緯度・経度を特定できた 260 地点 前後の月降水量データから作成した 5 月と 8 月の月降水量分布において、山脈を境に東西で 降水量が大きく異なる様子が示された。この特徴は、夏季もしくは冬季のモンスーンと地形効 果の影響によるもので、とくにルソン島北部で明瞭にみられた。30 地点ほどの降水データを 用いても大まかに同様の空間パターンが得られるものの、新たに作成したデータセットに基 づく月降水量分布では、山脈を境に狭い範囲で急激に降水量が変化する様子や、地形効果の影 響範囲をより詳細に捉えることが可能であることがわかった。 1. はじめに 気候のより長期的な変動を観測値に基づいて明らかにするために、紙資料のまま眠っている気象観測記録 を収集し電子化する「データレスキュー」が、近年、世界中の研究者により進められている(財城,2011)。 筆者は、1940 年代以前の気象観測記録を得ることが難しい東南アジアの中でも(Page et al. 2004)、宗主国の 影響により比較的早くから気象観測を行っていたフィリピンに着目し、19 世紀後半から 20 世紀前半の気象 観測資料(紙資料)のデータレスキューを行ってきた(赤坂,2014;赤坂,2020 ほか)。これらの気象観測 記録は、現在のフィリピン気象庁(PAGASA)が設立される以前のものであるため、米国、英国、オランダ、 スペイン、日本の各地の気象庁等に散逸している。そのため、それらを収集し、電子化を進めている。 その過程で、20 世紀前半のアメリカ統治期のフィリピンでは、現在よりも多くの降水観測点が設けられて いたことがわかってきた。これまでは、データの連続性を重視し、長期に渡って観測が継続されている地点 で、かつ PAGASA の観測点近くに位置する約 40 地点の気象データを優先して電子化を行ってきたが、1920 年以降の日降水量に限れば、フィリピン気象月報には、150 地点以上の観測値が収載されている(赤坂,2014)。 降水量変動は局地性が高いため、出来るだけ多くの地点データを利用することで、降水量の地域特性をより 詳細に明らかにできる可能性がある。そこで手始めに、250 地点以上の日降水量データが得られる 1939 年の フィリピン気象月報を対象に、収載されている全地点の日降水量データを電子化し、月降水量分布の作成を 試みた。本稿ではその結果について報告する。

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4. まとめ 本稿では、1939 年のフィリピン気象月報を対象に、5 月、8 月、11 月の全地点の日降水量を電子化し、各 月の降水量分布の特徴を報告した。260 地点前後のデータから月降水量分布を作成した結果、8 月と 11 月の 月降水量分布には、山脈の東西を境にした降水量の東西コントラストが明瞭にみられることがわかった。と くにルソン島ではその特徴が顕著で、標高の高い中央山岳地域の東西では降水量が大きく異なることや、こ れまで示されていた降水量分布よりも、狭い範囲で急激に降水量が変化することが明らかとなった。地形や 標高の差異が降水量の地域特性に大きく影響しているといえる。今後は地点が密集する中央山岳地域に範囲 を絞って、降水の地域特性とその季節性をさらに解析したい。 1939 年の全地点日降水量データが完成して間もないため、まずは異常値の有無や大まかな降水分布特性 を把握するために、月降水量を算出してその分布を示したが、地点分布に偏りがあるため、降水量分布の描 画方法については検討が必要であることもわかった。また、地点分布に偏りが生じている点や、1920 年以降 に地点数が急激に増加した点については、その理由について社会的・歴史的背景も含めて探っていきたい。 謝辞 本研究の一部は、令和2 年度専修大学研究助成・個別研究「アメリカ統治期末期の降水データレスキュー に基づくフィリピンにおける降水量の空間分布特性の解明」と、JSPS 科研費(19H00562、19H01322、19K01158) の支援を受けて実施されたものである。 引用文献 赤坂郁美.2014.フィリピンにおける 19 世紀後半から 20 世紀前半の気象観測記録.専修大学人文科学研究 所月報 272:1-15. 赤坂郁美.2020.1890 年代のマニラにおける風と降水量の季節進行.専修自然科学紀要 51:21-26. 財城 真寿美.2011.新用語解説 データレスキュー.天気 58:173-175.

Akasaka I., Morishima W. and Mikami T. 2007. Seasonal march of rainfall in the Philippines. Int. J. Climatol. 27: 715-725.

Climate Research Unit. Southern Oscillation Index (SOI).

https://crudata.uea.ac.uk/cru/data/soi/ (最終閲覧日:2021 年 1 月 19 日).

Page CM, Nicholls N, Plummer N, Trewin B, Manton M, Alexander L, Chambers LE, Choi Y, Collins DA, Gosai A, Marta PD, Haylock MR, Inepe K, Laurent V, Maitrepierre L, Makmur EEP, Nakamigawa H, Ouprasitwong N, Mcgree S, Pahalad J, Salinger MJ, Tibig L, Tran TD, Vediapan K, Zhai P. 2004. Data rescue in the Southeast Asia and South Pacific region-Challenges and Opportunities. Bull. Amer. Meteor. Soc. 78: 1069–1079.

図 4 . 1939 年の a) 5 月、   b) 8 月、 c) 11 月の月降水量分布( 34 地点) 等値線の間隔は図 3 と同じ。グレーは標高 500m 以上の領域を示す。丸は観測地点を意味する。 200 以上地点数が増えると、上述したような特徴がどのように変化するのかを図 5 から読み取る。各月で 地点数は若干異なるものの、どの月も 260 前後の地点を用いて作成されている。観測地点の分布に着目する と、地点の分布には偏りがあることがわかる。とくに地点数が多いのはルソン島で、その中でも観測地点の

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