1.緒
言
一般に土石流は崩壊,渓床堆積土砂の流動化,天然ダ ムの決壊などによって発生することが知られている。土 石流による下流域の災害を未然に防ぐためには土石流の ハイドログラフ(流量の時系列変化)を予測することが 重要である。このハイドログラフは土石流の発生条件や 発生過程の影響を受けていると考えられるが,実際にそ の発生過程が観察された事例はほとんどない。 池田ら(2007)はこの土石流の発生条件や発生過程を 推定するためには土石流の発生トリガー(多くの場合は 降雨)だけでなく,土砂の供給条件を考慮する必要があ るとしている。土砂の供給条件とは,トリガーが発生す る前に既に渓床に存在している場合や,そのトリガーが 発生している間に崩壊などによって供給される場合など を考えている。 土石流が頻発している一級水系木曽川左支川滑川右支 北股沢では,土石流の実態や発生条件を解明するために 国土交通省多治見砂防国道事務所が観測を実施している。 観測を開始した1982年以降,2004年までに10回の土 石流の流下が確認され,土石流の実態が報告されている (池田ら,1998;原ら,2000;後藤ら,2005)。北股沢に おける土石流の発生のトリガーは降雨,土砂の供給条件 は降雨中に崩壊等から供給される場合と渓床堆積土砂と して既に渓床に存在している場合とが推定されている (池田ら,1998)。しかし,1999年6月27日に発生した 土石流は,土石流発生前の1998年に標高1,800m 付近 の河道に天然ダムが形成されていたのが確認されており, この土石流は天然ダムの影響を受けていることが示唆さ れている(Ikeda and Hara,2002,2003)。一方,土石流の流動機構に関する研究として高濱ら (2000)は,土石流を含む集合流動状態の流れの支配方 程式が全層を対象とした一層流で与えられていることに 対し,集合流動の水流層と砂礫移動層との境界(interface) を想定して二層流モデルの各層の支配方程式(体積保存 則,運動量保存則)を誘導し,土石流から掃流状集合流 動への流れの遷移および堆積侵食を解析する一次元計算 モデル(二層流モデル)を提案している。 本研究では,まず滑川北股沢で1999年6月27日に発 生した土石流の発生・流下・堆積実態と流動機構(流速・波 高・ハイドログラフ)を分析し,土石流の発生過程を推 定した。次いで,高濱ら(2000)が提案した二層流モデ ルを用いて天然ダムが形成された場合とされない場合に ついて,土石流の流下実態の検証を行い,土砂の供給条 件が土石流の流動機構に及ぼす影響について考察した。
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7日に滑川北股沢で発生した土石流の発生過程に関する考察
*1Outbreak process of debris flow occurred at the Kitamata Valley of Name River on June 27, 1999
池 田 暁 彦
*2高 濱 淳一郎
*3吉 野 弘 祐
*4Akihiko IKEDA Jun’ichiro TAKAHAMA Kousuke YOSHINO
Abstract
To estimate debris flow peak discharge and hydrograph are important for effective disaster prevention. Ikeda et al. (2007) has presented occurrence criteria of debris flow must be evaluated not only rainfall condition but also supply process of materials. At the Kitamata Valley of Name River, three debris flows occurred in 1999 as the result of landslide dam that blocked the riverbed near an elevation 1800 m in 1998. The largest debris flow of these was occurred on June 27, forming a conspicuous peak with relatively high velocity. Analyzing the occurrence situation and flow property of this debris flow by field research, aerial photograph interpretation, and CCTV camera figures, we estimate the outbreak process and hydrograph of this debris flow. Using the two layer sediment transport model Takahama et al. (2000) have developed, shape of hydrograph and peak discharge was well explained with the exception of total volume and a duration of debris flow. Also the hydrograph shows that the supply process of materials will be an outburst of a landslide dam. Moreover, comparison the peak discharge and hydrograph between the case with landslide dam and without it, the peak discharge is larger than without landslide dam, also the total volume of debris flow.
Key words:debris flow, outbreak process, supply of material, landslide dam, Kitamata Valley
報
文
*1 本稿の一部は平成12年度砂防学会研究発表会において発表した。
*2 正会員 砂防・地すべり技術センター Member, Sabo Techincal Center([email protected]) *3 正会員 京都府立大学大学院生命環 境科学研究科 Member, Graduate School of Life and Environmental Science, Kyoto Prefectural University *4 正会員 独立行政法人土木研究 所 Member, Incorporated Administrative Agency, Public Works Research Institute
2.滑川北股沢と土石流観測システムの概要
滑川北股沢は木曽駒ヶ岳(標高2,956m)を源流とす る流域面積6.2km2,流路延長5.2km,平均河床勾配1 /3.2の急勾配荒廃渓流である(図−1,図−2)。流域の 基盤地質は脆弱な花崗岩類であり,かつ高標高地である ために凍結融解作用による荒廃が著しく,非火山地域で ありながら過去から現在に至って頻繁に土石流が発生し ている。特に1999年には6月から9月までの3カ月の 間に3回の土石流が発生した(6月27日,9月15日,9 月24日)。 滑川北股沢における土石流観測施設の設置状況を図− 3に示す。本システムは滑川第一砂防ダムの上流550m ∼1,300m に位置する治山堰堤群と河道に設置された22 本のワイヤーセンサーが土石流の通過によって順次切断 され,センサー切断の検知とともに CCTV カメラが自 動的に起動する仕組みになっている。CCTV カメラは北 股沢第4号堰堤を正面から撮影するカメラ No.1,同堰 堤直下流の渓床を真上から撮影するカメラ No.2,北股 沢第1号堰堤∼2号堰堤間の河道を右岸渓岸から撮影す るカメラ No.3と滑川第一砂防ダムの堆砂域を撮影する カメラ No.4の合計4基が設置されている。なお,これ らのカメラには投光器とワイパーが併設されている。ま た,流域内には1箇所の雨量計が設置されている。3.1
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7日土石流の発生・流下状況
1999年6月27日土石流発生前の1998年11月2日と 発生後の1999年6月28日・9月9日・9月17日に撮影 された空中写真の比較判読と現地調査に基づく土石流の 発生状況,ならびに CCTV カメラの VTR 画像の分析に 基づく土石流の流下状況は以下のように推定される。 3.1 土石流の発生実態 空中写真の比較判読の結果,1999年6月27日の土石 流の発生源は,上流域右支渓の標高2,390m 付近の土砂 堆積地と,その下流の標高2,100∼2,300m 付近の河道 図−1 滑川北股沢流域の位置図Fig.1 Location of the KitamataValley
図−2 滑川北股沢流域の縦断図
Fig.2 Longitudinal profile of the KitamataValley
図−3 土石流観測地点・土石流発生源・天然ダムの位置図
Fig.3 Location of the observation system, source of debris flow and the landslide dam
部と推定された(図−3)。土石流は,右支渓の土砂堆積 地から土砂が流出して,その下流の河道部にあった渓床 堆積土砂を侵食して発生・流下したものと推定される。 3.2 天然ダムの概要 土石流発生前の1997年10月・1998年11月に撮影さ れた空中写真判読と現地調査の結果から,1997年10月 までに左岸崩壊地からの土砂が,翌1998年11月までに 右岸崩壊地からの土砂が河道に堆積して天然ダムを形成 していたことが確認できた。天然ダムの高さは20m, 長さ100m,上流の集水面積は0.267km2 である。この 天然ダムは土石流の流下によって破壊されている。両岸 には天然ダムの一部が残存しているが,中央部は流出し て明瞭な侵食崖が形成されている。また,現地調査によ って天然ダムの上流右岸渓岸部には天然ダムの頂部とほ ぼ同じ標高に細粒土砂が水平に堆積し,一時的にダムア ップした痕跡が確認できた。 3.3 土石流の流下・堆積実態 上流域右支渓の流出土砂と標高2,100∼2,300m 付近 の渓床堆積土砂を侵食して流下した土石流は,土砂堆積 地の下流1,100m の標高1,800m 付近の天然ダム地点 (図−3中の△)で一旦ダムアップした後,天然ダムを 侵食しながら,さらに渓床堆積土砂を巻き込みつつ流下 ・発達したものと考えられる。土石流は土石流観測施設 が位置する治山堰堤群付近(図−3中の A∼I)で堆積 し始め,滑川第一砂防ダム堆砂域の上流端の緩勾配変化 点(図−3中の I)で停止・堆積している。 標高1,700∼2,000m 付近から標高1,550m 付近まで の河床は侵食傾向である一方で,両岸渓岸部には連続し て土石流段丘が形成されている。標高1,480m 付近の第 10号床固工(図−3中の A)の堆砂域より下流では河道 が屈曲していることと,河床勾配が1/5から1/12.9ま で急激に緩くなるために土石流は堆積傾向に転じている。 カメラ No.4の VTR 画像によると,土石流観測区間の 治山堰堤群では多量の土砂を堆積させつつ上流河道と同 様に河幅いっぱいに一気に流下し,後続流によって堆積 土砂が侵食されて段丘が形成されている。滑川第一砂防 ダム堆砂域の上流端では,巨礫が重なり合うように堆積 しており,明瞭なマウンドを形成している。 3.4 土石流の流動特性 北股沢では巨礫の混入割合や流れの状況によって土石 流は1)巨礫を多量に含む土石流本体部,2)本体部の 前に流下する先行流,3)本体部の直後に流下する後続 流の3相に区分されている(池田ら,1998)。カメラ No.1 の VTR 画像を分析した結果,過去に発生した土石流と は異なり,1999年6月27日土石流は,先行流が流下せ ずに突然明瞭な段波を形成した土石流の本体部が流下し ていることが確認できた。 カメラ No.1では流下断面積・波高・流下礫径を,カ メラ No.2,No.3では流速・波高・流下礫径について計 測した。また,土石流の流速はワイヤーセンサーの切断 記録の時間差,カメラ No.1と No.2での土石流先端部 の到達時間の差,カメラ No.2,No.3の画像内の礫等の 移動速度から計測した。ここで,カメラ No.2,No.3の 画像内で計測された流速は土石流の表面流速と考えられ るので,流速分布形が3/2乗則に従うと仮定して便宜的 に高橋(1977)による土石流の流速分布式に基づいて計 測値に0.6を乗じて平均流速を求めた。 図−4に流速(平均流速),波高,流量の時間変化を 示す。図中の△は前述した計測値である。過去に滑川北 股沢で発生した土石流の波高と平均流速の関係はマニン グ則と比較的良く適合している(池田ら,1998)。今回 の土石流の波高と平均流速の計測値の関係をみると,土 石流の本体部ではマニングの粗度係数 n が0.06,後続 流部では n が0.05とした流速分布とほぼ同様の傾向を 示していることがわかった(Ikeda and Hara,2002,2003)。 そこで,計測値以外の平均流速は,マニングの粗度係数 nを本体部 n=0.06,後続流 n=0.05と仮定して波高と の関係から算出した。また,土石流の流量は流下断面積 に平均流速を乗じて算出した。 流速は土石流の先端部で3.92m/s,本体部で8.42m/s, ピーク時には9.69m/s,後続流で8.44m/s となってい る。最大波高は5.8m,平均波高は本 体 部 で2.0∼4.0 m,後続流で1.0∼2.0m 程度である。土石流のピーク 流量は1,556m3/s,土石流の総流量は約91,000m3と推 定される。 図−4 流速(平均流速)・波高・流量の時間変化図
Fig.4 Changes in the mean velocity, flow depth,
discharge of debris flow
4.1
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7日土石流の発生・流下実態に
関する数値シミュレーション
土石流から掃流状集合流動への遷移過程を解析するた めに,高濱ら(2000)は水流層と砂礫移動層とでは構成 則が本質的に異なることに注目して,各層毎の支配方程 式に基づいて解析する二層流モデルを提案している。本 研究では,1999年6月27日土石流が天然ダムの影響を 受けていたと推定されることから,天然ダムがない場合 とある場合について,土石流の流下実態を反映するとと もに以下に示すような北股沢の土質特性等を考慮した解 析条件を設定して数値シミュレーションによって検証した。 4.1 支配方程式と解析条件 4.1.1 支配方程式 支配方程式には二層流の支配方程式を幅の変化する矩 形流路に拡張したものを用いるものとし,側壁に作用す るせん断応力を無視して側壁に作用する圧力の流れ方向 成分を考慮した次式のとおりとした。 水流層の連続式 hw t + 1 B (vwBhw) x =sI……… 砂礫移動層の連続式 hs t + 1 B (vsBhs) x =sT−sI ……… 砂礫部分の連続式 (cshs) t + 1 B (csvsBhs) x =c*sT ……… 河床高の時間変化 zb t =− sT cosθ ……… 水流層の運動方程式 1 B ∼ Mw t + ∼ vwMw x −sIuI =ghwsinθ−ghwcosθ hw x −ghwcosθ hs x− τw ρw … 砂礫移動層の運動方程式 1 B ∼ Ms t + ∼ vsMs x + ρ s* ρs −1 sT+ 1−ρw ρs sI vs+ρ w ρs sIuI =ghssinθ−ρ w ρs ghscosθ hw x −ghscosθ hs x− 1 2ρs ghs2cosθ ρ s x + 1 ρs (τw−τb) ……… ここに,添え字の s,w はそれぞれ砂礫移動層と水流 ∼ ∼ 層の量 を 表 す。Mw=vwBhw,Ms=vsBhsと し,h は 各 層 の流動層厚,v は各層の平均流速,csは砂礫移動層内の 平均体積濃度であり,c*は堆積層濃度である。sTは侵食 速度,sIは水流層が interface を通して単位時間あたり単 位面積あたりに獲得する体積量である。θ は河床勾配, zbは河床位,ρ は各層の平均密度である。uIは interface における x 方向の流速であり,砂礫移動層の流速分布形 を用いて平均流速との比から計算している。g は重力加 速度,τwは interface に作用するせん断応力,τbは河床 面せん断応力であり,以下で説明する。なお,本研究で は河床面の曲率に伴って発生する項は省略している。 せん断応力,侵食堆積速度式は次式のような江頭ら (1988)のモデルを用いる。 河床面せん断応力 τb=τy+ρwfsvs|vs| ……… ここに, τy= c s c* 1/5 (σ−ρw)csghscosθtanφs ……… Gyk=τ ext(z=zb)−τyk(z=zb) ρwghs ={(σ/ρw−1)cs+1}sinθ−(σ/ρw−1)cscosθ c s c* 1/5 tanφs ……… ・Gyk0の時 fs= 225 16f(cs)Gyk 4 (W +Gyk) W5/2 − W +Gyk 3/2 W −3 2Gyk −2 hs d −2 ……… ・Gyk=0の時 fs=4f(cs) h s d −2 ……… interface に作用するせん断応力 W = τw ρwghs =fw|vw−uI|(vw−uI) ghs ……… ここに, fw= 1 κ 1+η0 hw ln 1+hw η0 −1 −2 ………… η0= kf 1−c s cs 1/3 d ……… 侵食速度式 sT=vtan(θ−θe) ……… tanθe= (σ−ρw)c (σ−ρw)c+ρw tanφs ……… ここに,σ は砂礫密度,C は全層平均濃度,v は全層 ―34―の平均流速,θeは全層平均濃度に対応する平衡勾配,φs は 砂 礫 の 内 部 摩 擦 角,kf=0.25,kg=0.0828,e は 反 発 係数(0.85),κ はカルマン定数,d は平均粒径である。 τext(z=zb)は河床面での外力としてのせん断応力で,τyk(z=zb) は河床面直上面における降伏応力である。 4.1.2 微細砂の影響評価について 実際の土石流では微細な土砂と間隙水とは乱れによっ て浮遊し水と混合し一体とみなせるため,土石流を構成 する固体粒子相は粗い砂礫のみにより構成されているこ と考えることができる。江頭ら(1998)および宮本ら (2000)は1996年12月に姫川支川蒲原沢で発生した土 石流に対して,間隙流体に微細砂を考慮して解析を行っ ている。 北股沢においても,河床にマサ土のような微細砂が多 量に含まれるため,土石流の構成則に係わる固体粒子径 (代表粒径,粗粒)と微細砂(細粒)は流動中には粗粒 分のみを固相として取り扱い,間隙流体(液相)は水と 微細砂とから構成されるものとした。また,侵食により 取り込まれた土砂が再堆積する場合には,侵食源となっ た堆積層と同じ粒度構成で堆積するのではなく,土石流 の固相である粗粒分が骨格を形成して堆積すると考え, 土石流の構成則に係わる粗粒分を濃度 c*で堆積させる ことにした。 このようにして,初期河床土砂中の微細砂を間隙流体 成分に取り込ませると,その密度ρwは次式で与えられる。 ρw=σ cF*+ρ(1−c*) 1−cL* ……… 4.1.3 解析条件 a)地形条件と治山堰堤群,滑川第一砂防ダムの取り扱 い計算に使用する地形条件は,1999年6月27日の土石 流発生前後の地形データを基に50m 間隔の最深河床高 と流動幅データを作成した。治山堰堤群はダム軸地点を 固定床とした。堰堤部での流路幅は水通し幅とした。 解析には,土砂の供給条件が土石流の流動形態に及ぼ す違いを明確にするため,天然ダムが形成されていなか った場合と形成されていた場合の2ケースを想定した。 なお,天然ダムがある場合は初期条件として天然ダム上 流側を満水位まで湛水させておいた。図−5に河床高と 流路幅の縦断変化を,図−6には想定した天然ダムの縦 断形状を示した。天然ダムの体積は約83,000m3であり, 上流での湛水量は約24,000m3である。 b)元河床の侵食条件と初期堆積土層内の土砂濃度およ び物性値 最大侵食可能深は,北股沢における過去の土石流発生 後の河床縦横断測量に基づいて推定した平均侵食深であ る2m を与えた。ただし,天然ダムを設定する場合は, この2m に天然ダムの高さを加えて侵食可能深とした。 治山堰堤群区間から下流は土石流の堆積区間であるた め,堆積区間での代表粒径の堆積濃度を c*とした。こ の区間より上流側の微細土砂の相対濃度は江頭ら(1998) および宮本ら(2000)を参考に cF*/c*=0.3,すなわち, 粗粒分の相対濃度は cL*/c*=0.7とし,微細砂を含めた 堆積層の土砂濃度を c*=0.6とした。過去の土石流の移 動実態に基づき,x=2,500∼2,550m の区間に滝より下 流側を堆積区間とした。この堆積区間内の堆積土層中の 間隙流体密度については,これより上流側の堆積層にお ける間隙流体密度と同じ値を与えている。間隙流体層密 度は,cF*/c*=0.3,c*=0.6,σ=2.65g/cm3,およびρ =1.0g/cm3を式 に代入することで,ρ w=1.512g/cm3 が得られる。この密度は,濃度30% の微細砂を含む泥 水の密度とほぼ等しい。砂礫の内部摩擦角はφ=33°と した。また,石礫の代表粒径は巨石分が卓越することか ら d =40cm とした。 c)水の供給条件 北股沢における土石流の継続時間は VTR 画像による と数分のオーダーであるため,供給ハイドログラフは矩 形で与えた。これに発生時の10分間雨量11.0mm(原 ら,2000)に対して源頭部の崩壊地に対応する集水面積 0.267km2を乗じた4.9m3/s を10分間定常供給した。 d)上流端境界条件の設定 ここでは上流端境界条件として,上流端から20m の 区間に最大侵食可能深と同じ深さ2m の崩壊深を与え, この崩壊層を速度ゼロの流動層と見なし,支配方程式に 基づいてその運動を解析した。 e)差分条件 差分条件は計算区間の延長が4,050m であり,地形変 化と構造物のあることを考慮してΔx=10.0m とし,計 算の安定性からΔt=0.001s とした。 4.2 計算結果 図−7に天然ダムがない場合とある場合における20 分後の河床変動量と河道断面積変動量の縦断変化を示し た。また,図−8に計算結果において治山堰堤群区間の 図−5 河床縦断形状と流動幅
Fig.5 Longitudinal profile and flow width
図−6 天然ダムの形状
Fig.6 Longitudinal profile of landslide dam
詳細な変化を示した。天然ダムがある場合もない場合も 初期崩壊土層はすべて流下しており,天然ダムより上流 の区間では渓床堆積土砂もほぼすべて侵食されている。 天然ダムがない場合には治山堰堤群で土石流が堆積し, 第11号床固工の下流で侵食傾向に転じている。一方, 天然ダムがある場合では,天然ダムはほぼ全て侵食され, 第2号堰堤よりも上流には天然ダムがない場合と同じよ うに土砂堆積が生じている。さらに,天然ダムがある場 合はその下流区間でも土砂堆積が生じており,特に第 11号床固工の下流では大量のマウンド状の堆積が見ら れる。 図−9∼12にそれぞれ天然ダムがない場合とある場合 の天然ダム地点上下流区間のハイドログラフ,第4号堰 堤と第11号床固工区間のハイドログラフ,天然ダム地 点上下流区間の流動深,第4号堰堤と第11号床固工区 間の流動深を示す。天然ダムがない場合は,天然ダムの 図−8 治山堰堤群の河床変動量と河道断面積の縦断変化
Fig.8 Longitudinal changes in calculated results of
accumulated and yielded sediment volumes/cross section at series of check dams
図−7 河床変動量と河道断面積の縦断変化
Fig.7 Longitudinal changes in calculated results of
accumulated and yielded sediment volumes/cross section
図−9 天然ダム上下流区間のハイドログラフ
Fig.9 Hydrograph around the landslide dam
図−10 第4号堰堤∼第11号堰堤区間のハイドログラフ
Fig.10 Hydrograph between the section of Check Dam No. 4 and No. 11
下流に位置する x=2,300m 地点でピーク流量約6,000 m3/s,最大流動深は約9.5m となっている。そして,そ の下流の x=760m の第4号堰堤地点ではピーク流量は 約340m3/s,最大流動深は約2.0m にまで減少し,治山 堰堤群による土砂の捕捉によって第11号床固工より下 流へ流出する土砂も急激に減少している。一方,天然ダ ムがある場合には天然ダムの侵食によって下流の x= 2,300m 地点でピーク流量約10,000m3/s,最大流動深 約13.2m となっており,ない場合に比べて流量は約1.7 倍,最大流動深は約1.4倍となっている。そして,第4 号堰堤と第11号床固工地点においても,約1,500m3 /s のピーク流量となり,前述した VTR 画像からの計測値 である1,556m3/s と同程度の流量となった。 図−13は,土石流観測機器が設置されている第4号 堰堤地点における天然ダムがある場合の流速,流動深, ハイドログラフの計測値と計算結果を比較したものであ る。なお,比較しやすいように流動深の計算値が急激に 立ち上がる時刻と計測値の最初の立ち上がりとが揃うよ うに両者の結果を重ねあわせた。1999年6月27日の土 石流は,過去の土石流とは異なり,土石流の流下前には 流量の変化がなく,先端部に巨石の集中が明確な段波を 形成して流下しており,流出流量も先端部に突出したピ ークを持ち,漸次減少する傾向が見られた。この観測結 果と計算値を比べると,流速,流動深,ハイドログラフ のピーク値や継続時間や各物理量の低減部については概 ね一致した。しかしながら,総流量については計算値で は過大に評価されており,水の供給条件等の不確定要素 の設定に課題があると考えられる。
4.考
察
滑川北股沢で1999年6月27日に発生した土石流は, 標高2,390m 付近の右支渓の土砂堆積地からの土砂流出 によって発生し,土石流 は1998年 に 形 成 さ れ た 標 高 1,800m 付近の天然ダムで一旦ダムアップした後に天然 ダムを破壊しながら流下し,滑川第一砂防ダム堆砂域で 停止・堆積したと推定された。 過去の北股沢における土砂の供給条件としては,降雨 中に崩壊や土砂堆積地から供給される場合と,渓床堆積 土砂として既に渓床に存在している場合とが確認されて いたが,今回の土石流では,上記の土砂供給に加えて, 天然ダムとして多量の土砂が河道に供給される場合が確 認された。また,VTR 画像解析の結果から,先行流が ないまま本体部が明瞭な段波を形成して一気に流下する, これまでと全く異なるタイプであることが確認された。 高濱ら(2000)が提案した二層流モデルを用いて天然 ダムがない場合とある場合の土石流の流下実態の検証を 行い,土砂の供給条件による流動機構の違いを考察した。 検証の結果,天然ダムがない場合は,治山堰堤群区間で ほぼ土石流は捕捉され,天然ダムがある場合は,天然ダ ムの全量が流出して治山堰堤群で土砂を堆積させつつ滑 川第一号砂防ダムの堆砂域の上流端でマウンド状に堆積 する結果を得た。また,天然ダムの下流では,天然ダム 図−11 天然ダム上下流区間の流動深Fig.11 Flow depth around the landslide dam
図−12 第4号堰堤∼第11号堰堤区間の流動深
Fig.12 Flow depth between the section of Check Dam No. 4 and No. 11
がある場合は,ない場合に比べて流量は約1.7倍,最大 流動深は約1.4倍となっている。第4号堰堤と第11号 床固工地点においても,天然ダムがある場合は,ない場 合に比べて流量は約4.4倍,最大流動深は約3.0倍とな っている。 検証結果から,同様な発生トリガー(降雨)であって も,天然ダムのように多量の土砂が既に渓床に供給され ていれば,土石流に取り込まれる土砂量が増大し,土石 流のハイドログラフとピーク流量が大きくなる可能性が あることが示唆された。したがって,土石流による下流 域の災害を未然に防ぐためには,土石流の発生トリガー となる降雨・流量といった水の供給状況に加えて,土石 流の発生過程やハイドログラフに影響を及ぼすような土 砂供給(分布)状況や変化についても定期的に把握する ことが極めて重要だと考えられる。 一方,第4号堰堤地点において観測された土石流の流 速,流動深およびハイドログラフと計算結果とを比較し た結果,計算値には若干振動がみられて課題が残るもの の,ピーク流量はほぼ同程度の流量となり,継続時間, 低減部の傾向についても計測値と概ね一致した。しかし, 土石流の総流量については計算値では過大に評価された。 これは,天然ダム地点での供給水量などの不明な要素が 多いために様々な仮定に基づく解析条件を設定したこと により,実現象が解析条件へ反映できていないためだと 考えられる。また,天然ダム下流側の水深には振動が見 られた。これらのことから,今後は精度の高いパラメー タの設定法や,現地データでの取得方法を検討するとと もに,モデルにおける差分法を一部見直す等の改善を図 ることを考えている。
謝
辞
本研究を実施するにあたり,国土交通省中部地方整備 局多治見砂防国道事務所から多くの資料・情報を提供し て頂いた。また,京都大学大学院農学研究科の水山高久 教授には多大なご指導を頂いた。ここに記して深謝の意 を表する。 引 用 文 献 池田暁彦・門馬直一・堀内成郎・山田利治(1998):滑川北 股沢で発生する土石流について,砂防学会誌,Vol.51, No.2,p.31−38 池田暁彦・水山高久・原口勝則(2007):土石流の発生を支 配する降雨量に関する考察,砂防学会誌,Vol.60,No.3, p.26−31Ikeda, A., Hara, Y. (2002) : Debris flow generated at Kitamata
Valley of the Name River. International Congress
INTERPRAEVENT 2002 in the Pacific Rim-MATSUMOTO / JAPAN : Congress publication, vol. 1, p. 101−112
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(Received 3 December 2008 ; Accepted 2 April 2010) 図−13 第4号堰堤地点における流速・波高・流量の時間変
化の計測値と計算値の比較
Fig.13 Comparisons of calculated results of changes in the
velocity, flow depth, discharge and analyzing data