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北原晴夫太田秀樹八重澤美知子

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留学生用教育カリキュラムの模索

北原晴夫太田秀樹八重澤美知子

1.はじめに

10年前までは,五月雨式にポツポツと来ていた海外からの留学生が,今では全学にわたって絶え 間なく続く本降り状態となってしまった。留学生の数は,今なおうなぎ昇りであり,近い将来集中

豪雨型の土砂降りに変ってゆきそうな勢いである。

日本の大学での教育や研究の内容が世界の中できわだって優れたレベルに達するようになったか ら,外国からの留学生が激増するに至った。これがごくすなおな解釈であるとするのがたてまえ論 というものだろう。しかし事実は必ずしもそうではなさそうである。たてまえ通りに解釈すれば事 実を見誤まるとすれば,留学生激増に対する本学での対応策も通り一遍の考え方ではうまく行くま い。たてまえを振り廻すだけの留学生対策では,真に有効な対応策とはなり得ないだろう。という

より,却って害を及ぼしかねない。

激増箸い、留学生に対する教育カリキュラムを,どのような考え方で作り上げてゆくか。本学留 学生教育センターとして,どのような教育体制を組織してゆくか。各学部での留学生教育と留学生 教育センターでの留学生教育とを,どのように補完的に組承合せるか。こういった問題について,

著者らの考えを示し,各位の批判をあおぎたい。今後の議論のたたき台となれば幸である。

国際化時代といえば,日本への留学生が増える時代ともいえるが,同時に日本人が海外に働きに 出る時代でもある。このため,日本人学生に対する外国語教育も再考する必要がある。異文化を理 解するために必要な外国語教育だけでなく,外国人との交渉に必要な実用外国語教育も強く要望さ

れてきている。

本稿では主として留学生に対する教育について述べる。しかし,同時にその背景には日本人学生 に対して実用外国語教育を実施すべきであるとする時代の要請が強くなってきているという事実が あることを指摘しておきたい。つまり,留学生が日本の大学で効果的な教育をうけるために必要と される留学生教育のためのカリキュラムが,単に留学生の教育に関係するだけでなく,日本人学生 の教育とも密接に関係せざるを得ない時代になってきたといえよう。

留学生に対する特別教育・曰本人学生に対する実用外国語教育(多くの場合,専門分野に関係し た教材を用いた外国語教育)は,これまで,各学部で小規模に実施されてきた。しかし,前述の通 り,留学生・曰本人学生に対する特別教育の本格的な実施が切迫した急務となりつつある現在,全 学的なレベルで(各学部からの教官の応援を得て)効果的な対策を模索すべき時期に来ていると思 われる。国際化時代の到来とともに,日本の大学がかかえることになり始めたのは,このような新 たな教育上の問題である。これに対処するにあたって,全学共通の教育部門である留学生教育セン

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ターの役割がいかにあるべきか,また留学生教育センターがどの程度の役割を現実に果しうるの

か,ここで考えてふたい。

2.学部正規学生としての留学生

日本の大学(学部)に入学するものはすぺて,ある一定水準の基礎学力と,授業について行ける 程度の日本語能力を保持していなければならない。日本の大学の多くが一般の入学希望者に要求す る事項がこれである。この要求を満たさないものは,大学での教育を充分にこなすことができない とされている。学問には王道がないから,外国からの留学生といえども例外であるべきでない。こ れが建前であって,高等学校のときから日本に留学させるかたちの奨学金制度の創設理由であった と思われる。実際,高等学校から来日し,大学・大学院まで進んだ留学生達の多くが,満足すべき

成果を上げてきたようである。

現在来日し,大学学部に入学してくる留学生の大部分が,しかしながら,高等学校教育を海外で 受けている。したがって,基礎学力が日本での大学入学試験レベルと異なり,また日本語能力も充 分でない場合が少なくない。加えて,最近の留学生の急増の結果,日本語だけでなく,英語の能力 が不充分な留学生が目立ってきた。このような現実のなかで留学生が増加の一途をたどっている現 在,建前論だけで問題に対処することが教育的にゑて妥当とはいいにくい。建前論ではなく,現実 論で対処するのであれば次のような方策をとらざるを得ないであろう。

①集中的な日本語学習(日常生活だけでなく,授業について行けるレベルを目標とする)

②日本語だけでなく,留学生が理解できる言語(英語,中国語,ロシア語など)による日本の高

校レベルの教科学習

③日本語だけでなく,留学生が理解できる言語(英語,中国語,ロシア語など)による大学初年

次における基礎教科の講義

(日本語による通常の初年次教育で行われる基礎的講義科目と内容的に同じもの。)

以上の①~③を半年または1年程度,留学生を対象として実施できれば,ある程度現実的な対処と なり得よう。すなわち,留学生には,通常の学部教育4年間に先立って,半年ないし1年の予備的 教育を施そうとする考え方である。こういった教育がはたして実施可能かどうか,具体案を後節で

検討して承よう。

3.大学院正規学生としての留学生

日本の大学の大学院に正規学生として入学を希望する留学生は,当然のことながら,すでに学部 レベルの教育を受けている。各国の大学学部での教育内容は,世界的にゑてある程度共通の水準に あるだろうと一般に考えられている。特に理科系の学部においてはほぼ万国共通のことを教えてい ると思われ勝ちである。事実,科目名などは国によって大きな差がないように見受けられる。しか し,内容や水準という点から見れば,一般に想像されているよりはるかに大きな差異が各国間,各

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大学間で実際に存在すると筆者らは感じる。恐らく文科系学部での較差は理科系学部に較べてもっ と大きいのではあるまいかと筆者らは思う。

大学院への留学生が,基本的に学部留学生と同じ問題をかかえていることが上の例からわかる。

つまり,大学院といえども,学部と同じく,

①集中的な日本語学習

②曰本語だけでなく,留学生が理解できる言語(英語,中国語,ロシア語など)による学部基礎

教科学習

③日本語だけでなく,留学生が理解できる言語(英語,中国語,ロシア語など)による大学院基

礎教科学習

の3つを実施せざるを得ない。大学院への留学生は,当然のことながら,学部留学生に較べて年令 が高い。家族をもった留学生の比率も低くない。したがって,日本語学習の効率が,学部留学生に 較べて平均的にゑて下廻る傾向にある。

大学院レベルでは,学生にとって,授業の負担もさることながら,自分の専門領域での修士論文

・博士論文の作成が大問題である。日本の大学では,伝統的に,大学院では授業に加えて,ゼミや 論文に研究指導の重点がおかれてきた。個々の学生の向き不向き,得手不得手を承ながら,指導教 官が学生の論文作成を指導してゆく。これが通常のやり方である。このプロセスのなかで,指導教 官と学生との間で個人的な師弟関係ともいうべき人間関係が生れる。

留学生の場合,よく発生するのが次のような状況である。指導教官は,自分に指導して欲しいと 希望してくる留学生の学問的バックグラウンドについてよく分らないままで,留学生の受入れに同 意する。その結果入学してきた留学生は,指導教官が常識にもとづいて,これこれの勉強をしてき た学生であろうと予想した学生とは全く別の知的背景しか持っていなかった。このため指導教官は 学生の基礎知識を高めるための個人的な努力を傾けるが,言葉の問題や,基礎の基礎が全く不足し ているといった事情でその努力がうまく実らない。ズルズルと時間が経過して,事態がどうにもな らない段階にまで進んでしまう。こういうかたちで指導教官と留学生との関係が好ましくない方向 に推移する例が少なくないのが,残念ながら実情であるといえようか。

大学院生の場合,専門の学問領域が細分化されているため,その分野の研究をするのに必要とさ れる基礎学力の分野もかなり限定されたものになる。指導教官が与えたテーマの研究を実施するた めに学生が知っておくぺぎ予備知識が,研究テーマごとに狭い範囲に限られてしまう。狭いけれど も奥深いものだから,大学院の授業でこのような予備知識を全部網羅することが事実上難しい。

個々の範囲は狭いのだが,全体として見れば相当多岐にわたっており,全部網羅するのが難しい。

したがって,指導教官が与える論文や文献を個々の学生が読んでゆくことが,修士論文や博士論文 のための研究に着手する第一歩となる。

多くの場合,1人の指導教官が1つの研究テーマを長期にわたって継続する。そのテーマで研究 する大学院生が多数名存在し,研究成果が次々と下級生に伝えられ,研究が進展してゆく。これか ら研究をはじめる学生は,論文や文献,そして上級生達の修士論文・博士論文を読まなければなら ない。来曰して曰が浅い留学生にとって,これがきわめて大きな負担となる。多くの留学生がこの

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プロセスを事実上回避するかたちで研究に着手するものだから,自分の研究の位置付けや目標がよ

く分らないままで研究を進めることになる。

こういった問題を合理的に解決するためには,個々の教官が自分の研究テーマを紹介するための 留学生がよく理解できる言語(英語・中国語・ロシア語など)による教材(論文,本,ビデオな ど)をあらかじめ作成しておかなければならない。研究が年とともに進展すれば,その進展をとり こふつつ,常にこの教材を更新してゆかねばならない。個々の教官にとって,これがいかに大変な ことかは容易に想像できることである。研究テーマに直接関連した教材を留学生のために用意する ことが現実的かどうか議論の余地があるが,現在留学生を指導している教官は例外なく大なり小な

りこのような努力を払っている。

大学院レベルでの留学生教育にとって,前述の①②③に加えて,さらにもう1つの課題が出てき

たわけである。それは,

④修士論文・博士論文のための研究テーマに直接関連した教材を日本語と共に留学生がよく理解

できる言語(英語・中国語・ロシア語など)で作成

留学生の大部分が大学院レベルであることを考えると,①~④の項目に対する現実的な施策が急務

であるといえよう。

4.留学生の出身国からの要請

曰本の大学に来ている留学生の相当数がアジア各国からの留学生である。アジア各国の教育関係 機関から,日本の大学に対して次のような希望が出されている。日本の大学の教育方法について注 文をつける立場にないから,各国教育関係機関の担当官達のいいかたはきわめて控え目であるが,

彼等にとって切実な希望であると思われる。

③論文や資料を読解し,また作成することがキチッとできる程度の曰本語能力を留学生につけて

欲しい。

⑥日本の大学や大学院の講義レベルについてゆける程度の基礎学力を曰本の大学で留学生につけ

て欲しい。

、日本に留学していたことがある各国の大学教官の研究指導を,もとの日本の大学での指導教官

に継続してやって欲しい。

④日本の大学の若手教官を派遣して授業を助けて欲しい。

、各国の大学院の学生をたとえば1年だけ日本の大学院であずかるなどの方法で,各国の大学院

の育成のための援助をして欲しい。

優秀な学生を選りすぐって曰本に留学させているが,日本語能力が日常会話や授業についてゆく 程度にとどまっていることが多い。これでは,留学を終えて帰国しても,日本の最新の情報を手に 入れる能力がない。また帰国後の成果を日本の社会にアピールするための手段にこと欠く。なんと か,もう-段高度な日本語能力(漢字の読糸書き)を留学生につけて,彼等が帰国後も日本と継続 的に交流してゆける状態にして欲しい。それでないと,折角の人材が有効に活かされない。これが

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@の希望である。長期間にわたって在日すればこのような高度な日本語能力をつけることができる が,留学生の出身国の国内事情で(例えば10年といった)長期の留学が現実的でない場合もあるこ

とを留意しておきたい。

留学生が日本に来ても,基礎学力が足りないために授業の内容を消化できないことが多い。これ は各国の担当官達がよく知っている現状である。各国の高等学校や大学において事態の改善をはか るべく鋭意努力中ではあるが〆広大な底辺を全体として上げるということに多大の時間と予算が必 要である。現実には一朝一夕に事がはこびそうもないので,なんとか日本の大学で留学生向けの特 別カリキュラムを組んでもらうことができないだろうか。これが⑥の希望である.

アジア各国,特に東南アジア各国は現在急速な経済発展を経験している。国民の生活水準を上 げ,各種の災害から国民を護り,活力ある国家にふさわしい社会基盤を整備することが急務である。

これに必要な人材を大量に育成するため,大学を大拡張し,また大学院の充実に力を入れている。

。④@の希望はこのような事情にもとづくものである。学生の大量増員で教官の教育業務がこなし 切れなくなっているから,。⑥@のような方法で助けて欲しいということであろう。こういった希 望に対して日本としてどのように対応するかは国の政策として決められるべきものである。しか し,全体としてアジア各国がこのような事情にあるのであれば,本学に来る留学生に対する教育 も,このことを認識したうえで実施した方がよいと筆者らは考える。。④@の希望にある程度対応 するためには,大学間協定などを結び,本学のできる範囲内でアジア各国の大学と協力態勢を作る

ことが望ましい。

5.諸外国の大学からの要請

これまで述べてきたのは,本学に留学し,勉強したうえで,学士・修士・博士といった学位を取 得しようとする留学生に対する教育についてである。彼等は,正規の学生として各学部に在籍し,

主として各学部の単位を取得する。特に自然科学系の留学生にとっては曰本語の勉強は,いわば余 分の仕事である。(例えば英語・中国語といった留学生がよく理解できる言語での講義が開催され るといった)何らかの便宜が供与されれば,日本語の習得は学位取得にとって必須の要件ではない。

大事なのは,学位取得に必要な単位であって,曰本語の勉強ではない。これが,特に自然科学系の 学位取得を目指す正規学生の立場であろう。ところがここ数年,こういった正規学生ではない留学 生が急増しているのである。

現在金沢大学に在籍する留学生の総数が200名を越えている。そのうち1割,2割といった数の 学生が,金沢大学の学位取得を目的としない非正規生なのである。彼等は(多くの場合)欧米の大 学の学生であって,半年とか1年とかいう期間来日し,例えば金沢大学のような大学に非正規生と して在籍しながら,日本語や曰本の社会の仕組承,日本の産業などといったことを勉強する。日本 の会社で一定期間実習しなければならないという制度にしている大学もある。

このようなタイプの留学生は,現在のところ,本学と協定を結んでいる大学から送られてくるこ とが多い。先方の大学で日本語と日本勉強を主体とする授業をうける。ある程度日本のことを知っ

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たうえで来日し,日本語を実際に使う練習をするとともに日本の社会を体験する。一定期間の曰本 体験を経て,再び先方の大学に戻り,学部を卒業するために必要な勉強をする。こういう形での学 部教育カリキュラムが最近欧米の各大学で発足しているらしく,本学へも学生の受入れ可否を問い 合せてくる大学が少なくない。現状では余り多くの学生を受け入れる余裕が本学にないため,本学

と協定を交している大学の学生を限られた人数だけ受入れている。

これらの学生達は,本学に来ると,多くの場合寮に日本人学生と同室のかたちで入り,留学生教 育センターの日本語補講を受けながら,曰本そのものを体験すべく思い思いのやり方を試ゑている。

日本の社会や産業を簡単に紹介するための一連の講義を各学部の教官の協力を得て目下実施してい る。まだまだ改善の余地があるであろうが,徐徐にあらためていこうと考えている。

曰本人学生と生活を共にする寮生活が日本語の勉強に著しく効果的であることは,客観的に疑問 の余地がないと思われる。半年程の滞在日程では普通の下宿やアパートが高くつきすぎるので,や むなく寮に混在のかたちで住んでもらっている例が多いが,日本語の習得という点ではよかったよ うである。日本語補講と日本紹介の一連の講義以外に彼等が受講せねばならない正規の講義が存在 しないから,いわばお客様といったかたちで本学に在籍しているのが実情である。各学部の正規の 授業とはほとんどかかわりがない留学生ではあるが,一応どこかの学部に所属する形式で在籍せざ るを得ない。このため受入れた学部にとっては,全くの迷惑以外の何物でもないといった恰好にな りかねない。受入れ態勢の整備が必要であろう。留学生教育センターが省令化されれば,センター としてこれらの留学生を正式に受け入れることが望ましいと筆者らは考えている。

日本語・日本研究を目的とした非正規留学生に対して今後の実施を検討すべき課題として,前述

①集中的な日本語学習 だけでなく,

④英語による曰本の社会・産業・技術および文化の紹介

があげられよう。非正規の学生に対してどれだけの教育サービスを提供しなければならないかは議 論のあるところであろう。しかし,学部学生に対する日本研究のコース(JapaneseStudies Programs)を持つアメリカの大学は,1975年に31校,1983年に38校,1988年に53校と増加の一途を たどっている。恐らく現在では100校に近くなっていると思われる。これらの大学が,その学生の日 本での受け入れ先としてパートナー大学を求めている。首都圏・京阪神圏といった大都市の大学は すでに限界以上の留学生を受け入れてしまっている。半年や1年といった短期の留学生に対する宿 舎の供給がネックになって,これ以上の受け入れが難しい。となれば立地条件・文化的背景・大学 の伝統と規模といった点から,本学をパートナー大学として選びたい大学が今後益々増えてくるこ

とが予想される。

「アメリカと曰本が全世界の生産の約40%を生承出し,貿易の20%をしめているのが現状である。

1983年にはアメリカの対アジア貿易が対ヨーロッパ貿易を上廻り,今も成長し続けている。日本は アメリカの最大の海外貿易相手国であり,一次産品の糸ならず製品の最大輸出市場でもある。日本 の対米輸入は,英国とドイツの輸入合計を上廻り,韓国はフランスより,インドネシアは東ヨー

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ロッパ諸国より,多くのアメリカ製品を輸入している。」とJansen(1993)(MariusBJansen・エ ドウイン・ライシャワーの遺産,国際文化会館会報,voL4,NO2,p1-7,1993年4月)が述べて いるように,曰本やアジアの比重がヨーロッパより大きくなりつつあるのが現状である。こういっ た背景のもとで,アメリカで日本語を学ぶ学生が1980年代の中頃で2万3千人を越えていると Jansenはいう。恐らく現在は3万をはるかに超えているであろう。

アメリカだけでなく,ヨーロッパでも事情は似たようなものらしく,本学をパートナー大学とし て選びたいと申し入れてくる大学が少なくない。大学間協定を結び,具体的なとりきめを交して学 生を送り出し,また受け入れるわけである。個々の大学の事情がそれぞれ異なっており,すでにこ のような学生の交換を実施した場合でも,相手大学と詰めなければならない問題点が多数残されて いる。筆者らの1人は協定大学を順次歴訪し,こういった事務的な合意をとりつけるための話し合 いを重ねているが,事態はそう簡単ではない。勿論相手枝からも話し合いのために教官が本学に訪 問してきている。

このような,特に欧米の,大学からの要請にもとづき,既に何名かの受け入れに同意している現 在では,本学として今後この種の学生の受け入れ態勢を本格的に検討せざるを得ないであろう。日 本語・日本研究の学生数が欧米さらには世界中で増加するであろうと予想されるから,パートナー 大学としての本学に対する要望が益々強くなるであろう。昨今の欧米社会の曰本に対する論調のけ わしさから推してふると,「学生を受入れたからには責任をもって教育上のサービスを提供しろ」

と相手大学が申し入れてくるのは時間の問題であると思われる。前述の④英語による曰本紹介の授 業を本格的に用意せざるを得なくなる時期が遠くないと筆者らは考えている。

6.留学生に対する教育サービスの提供方法

これまでに紹介した事項を全部実現すべく対応しようとすれば,実に多大の努力が必要となろう。

どの程度の努力を払うことが妥当であるのかは,各学部・各学科・各教官および事務局それぞれの 事情をふまえたうえで決定されるべきものである。限られた側面での知識をもとに,筆者らが議論 したとしても,偏った結論しか得られないのではないかと思われる。ここでは,どのような方法で 留学生に対する教育を実施すれば比較的効率的かを考えてふたい。

検討すべき事項をもう一度整理すると次のようである。

①日常生活だけでなく,授業について行けるレベルを目標とした集中的な日本語学習

②曰本語での専門的な資料や論文を読ゑ,かつ書くことができる高度な日本語学習

③大学入試レベルを目標とした曰本語および留学生が理解できる言語(英語,中国語,ロシア語 など)での基礎教科の学習

④学部教育の基礎的教科の日本語および留学生が理解できる言語(英語,中国語,ロシア語な

ど)による学習

⑤大学院教育の基礎的教科の日本語および留学生が理解できる言語(英語,中国語,ロシア語な ど)による学習

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⑥日本語および留学生が理解できる言語(英語・中国語・ロシア語など)による教材を用いた,

修士論文・博士論文のための研究テーマに直接関連した分野の学習

⑦英語による日本紹介の授業

このうち①はほとんどすべての留学生に対して,程度の差こそあれ必要とされている。本学の留学 生教育センターにおいても①と⑦の業務を主としてとり行なっており,約20名の専任および非常勤 の教官が留学生の日本語教育にあたっている。①と⑦ほかなりの人数の受講者がいるわけであるか ら,いくつかのまとまったクラスを編成することが可能である。②の一部,③および④の一部も理 系・文系と大きく2グループにわけることにより,クラスを編成するに足る受講者が集まるものと 思われる。②④の一部および⑤⑥は個々の留学生により異なった,細分化された分野ごとの教科内 容とならざるを得ない。クラス編成する程の人数が集まるどころか,ほとんどの場合,教官が1対

1で留学生の教育にあたることになろう。

以上で明らかなように,本学の留学生教育センターが当面することになると思われる教育上の問 題点は大別して2つである。ひとつは,多人数の受講者を対象としたマスプロ教育の必要`性であ り,他のひとつは膨大な数の個人レッスン的教育の必要性である。本学は北陸地区の大学への留学 生の予備教育にあたることを目指している。これが実現すれば,近い将来500名程度の留学生をか かえることになると予想される。したがって,上記マスプロ教育と個人レッスン的教育を500名規

模の学生を対象に実施する必要にせまられるであろう。

純粋に教育技術上の観点から見て,このような教育を実施するには特別の工夫が必要であること は明らかである。500名規模の学生を教育するには,通常のやり方であれば,100名規模の教職員を 必要とする。しかし,実際にこのような教職員の予算化を期待することは現実的でないから,別の 工夫をする他あるまい。さいわい,AV(オーディオ・ビデオ)機器やAVコンピュータが大量に 市販されるようになりつつあるから,こういった機器類を組織的に使用したいと筆者らは考えてい る。ビデオやコンピュータを見て学生が勉強する。そして教官が筆記試験と口頭試問を実施する。

通常の「授業」にあたる部分で学生の前に登場するのは,生身の担当教官ではなく,ビデオに収 録された担当教官の講義もしくはビデオやAVコンピュータ用に作成された市販の各種教材である。

曰本語だけでなく,留学生に理解できる言語(英語,中国語,ロシア語など)の教材もそろえる必 要があるから,直ちに実施できるわけではないが,計画的に買いそろえ,また作成してゆけば遠く ない将来に実施できるようになるであろう。このようなAV機器を用いた「機械による講義」を100 分授業でたとえば12回受講する。受講する時間帯や受講場所は比較的柔軟に選ぶことができよう。

例えば夜間に自宅で受講することも不可能ではない。また分らないところを何度もくり返し受講す ることもできる。AV機器を全く使用せず,単に与えられた教科書を自習するだけという形態も考

えられなくはない。教官の役割は教材を与えるだけである。

「機械による講義」を所定の回数受講した後,学生は試験を受ける。試験の形態として,筆記試 験プラス口頭試験が適当であるというのが筆者らの考えである。筆記試験をおえたあと,口頭試験 を行なうのが合理的であろう。いろいろ異なる種類の筆記試験をうける学生を一堂に集めて,集団 受験させることは技術的に容易である。学生1人に教官1人といった個人レッスンに近い場合,試

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験の公正さを保つうえでも集団受験が好ましいと思われる。このために必要なことは,筆記試験の

日時を各科目で統一することである。

口頭試験も,試験の公正さを保障するため,何名かの学生を一堂に集めて行う方がよい。教官も 複数名出席し,それぞれの科目に対する試問を行なう。1名の教官に対し,最大10名の学生が受験 することとすれば,3名の教官と最大30名の学生をもって1試験場を構成することとなる。このよ

うに衆人監視のなかで口頭試験をとり行なえば,試験の公正さが保障され易い。

通常の科目と同じように,ひとつの学期中毎週きまった時間に授業をうけ,半年後に試験を課す という形式もあってよい。しかし,通常の正規の科目を受講しながら,同時に留学生教育センター の科目も受ける学生が多くいることを考えると,夏期休業中や,秋期・春期の正規授業のない時期 に-週間程度の集中講義方式にした方が現実的と思われる。たとえば表一lのようなかたちでの実

施が合理的であろう。

表-1授業の日程別

☆担当教官10名で100名の学生を教育する。

☆授業時間は正規授業期間外に設定し,1科目当り約1週間とする。

さて,このような授業を実施するためには,そのための設備が必要である。正規の授業が行なわ れていない限られた期間内に500名の学生に対する各種異なった科目を授業する。このためには 5000㎡程度のAVラボが必要である。ひとつの教室用のAV施設を使って多数の学生に複数の科目 を同時に実施しなければならないから,個室化されたボックス(ブース)を多数備えた大教室をい くつか必要とする。正規授業期間中に通常の科目の講義にも使えれば教育効率が格段によくなるか ら,全学共通で使える施設であることが望ましい。500名収容の施設であれば,各学部や研究科での 教育にも定常的に使うことができよう。コンピュータを使った演習,ビデオを使った講義等利用方 法を工夫すればきわめてユニークな教育用施設になると思われる。

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科目I科目Ⅱ科目Ⅲ

担当教官A 受講学生① ヘジ ⑩ 1日目(例えば月曜)100分×4回のビデオによる授業(また

は教科書による自習も考えられる)

2日目(例えば火曜)100分×4回のビデオ 3日目(例えば水曜)100分×4回のビデオ 4日目(例えば木曜)試験準備

5日目(例えば金曜)筆記試験

担当教官B 受講学生⑪ 戸、ソ

〃〃

担当教官C 受講学生⑪ 戸~

〃〃

科目I 科目Ⅱ

科目Ⅲ

合同の口頭発表(OH Pなどを使用)及び口

頭試問

教官3名 (A,B

学生30名 (①~⑳)

C)

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7.単位の認定と学位の授与

これまでに述べてきた主として留学生に対する特別科目は,いずれにせよ通常の学位取得を目的 とした科目とは異なり,留学生にとっては余分の負担となるものである。つまり通常の入学試験を 受けて入ってくる学生達が取得すべき単位に加えて,留学生が勉強しなければならない特訓科目と でもいうべき科目である。このような科目を履修した学生に単位を与えることができる方策を工夫 すべきであると筆者らは考えている。留学生教育センターには単位認定権がないから,留学生が所 属する学部や研究科で別表外科目として認めてもらうなどといった工夫が必要である。折角勉強し ても単位にならないのでは,学生の勉学意欲をそぐことになろう。

ところで,このような特別科目の単位をいくらとったからといって,これが学位につながる道は 現在のところない。学部や研究科で課された正規科目を修得しなければ学位にむすびつかない。と すれば,上述の特別科目を一生懸命勉強したところで,学位を取るうえでのメリットにはならない わけである。これでは,また,留学生の勉学意欲をそぐことになろう。そこで学部や研究科が通常 出している学位以外の学位を与えることができないかと,筆者らは考えてふた。

修士課程を終了した学生を対象に学位授与機構に申請すると学士の学位をもらうことができる。

この方法で,3年から飛び級で大学院に入った学生にも学士の学位を与えることができるわけであ る。修士課程に入学した留学生が本稿で述べた特別科目をある単位数以上取得した場合,この制度 を利用して学士の学位を申請することが可能ではあるまいかと思われる。本学の修士の学位と共 に,学位授与機構からの学士の学位が取得できることになる。このように2つの学位に結びつくの であれば,留学生にとって余分の時間と労力を使って特別科目の単位を取得するメリットがあるの ではなかろうか。たとえばこのような方策で,留学生の勉学意欲を発掘する努力も必要であると筆 者らは思う。学位授与機構から準学士を受けるなどの方策も含めて,どのような方策が最も妥当で

あるかは,今後の検討課題であろう。

8.おわりに

留学生が激増中であるという時代の流れの中で,本学は北陸における留学生教育の拠点大学にな ろうとしている。このような動きのなかで留学生教育センターの将来像を具体的に作り上げてゆく 必要がある。本稿は,そのたたき台のひとつとして筆者らが作成した試案である。多くの方々の御 意見と御批判をあおぎながら,本学の留学生教育の方向を見定めてゆきたいと考えている。

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