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映画フィルムの保存に関する研究の動向

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映画フィルムの保存に関する研究の動向

著者 園田 直子

雑誌名 国立民族学博物館研究報告

巻 26

号 2

ページ 259‑280

発行年 2001‑10‑22

URL http://doi.org/10.15021/00004063

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園 田  映画 フイルムの保存 に関す る研究の動向

      映 画 フ ィル ム の 保 存 に 関 す る研 究 の動 向        園  田  直  子*

Conservation of Motion Picture Films

Naoko Sonoda

  映 像 資料 の 保 存 に は,記 録 され た 映 像 情 報(内 容)の 保 存,そ して,映 像 の 記 録 媒 体(材 料)の 保 存,こ の ふ た つ の側 面 が あ る。 こ こで は後 者 に 焦 点 を あ て,映 像媒 体 と して の 映 画 フ ィル ムの 劣 化 に つ い て,フ ィル ムベ ース(ニ トロ セ ル ロー ス,ア セ チ ル セ ル ロ ース,ポ リエ ス テ ル)と 写 真 乳 剤 層(ゼ ラチ ン, ハ ロゲ ソ化 銀,色 素)に 分 け,そ れ ぞ れ の特 性 と劣 化 に関 す る知 見 を ま とめ る。

次 に,映 画 フ ィル ム の保 存 環 境 に つ い て,と くに低 温 保 存 と保 管 容 器 を 中心 に 最 近 の研 究 の動 向 を追 い,映 画 フ ィル ム の保 存 問 題 に取 り組 む上 で の基 礎 的 な 考 え方 を導 き出 す 。

When dealing with the conservation of motion picture films, we have to consider two aspects, conservation of information (contents), and that of the film itself. In this article, we deal with the latter. At first, the problem of degradation is discussed for film bases (cellulose nitrate, cellulose acetate, PET) and for the emulsion layer (gelatin, silver halide, dyes). Then, recent researches on the conservation environment are surveyed, focussing on cold storage and on film containers, so as to draw basic and practical conclusions for the conservation of motion picture films.

*国 立民族学博物館博 物館民族学研究部

Key Words : motion picture films, degradation, conservation environment, cold storage, film container

キ ー ワ ー ド:映 画 フ ィ ル ム,劣 化,保 存 環 境,低 温 保 存,保 管 容 器

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国立民族学博物館研究報告  26巻2号

は じ め に

1映 画 フ ィ ル ム の 劣 化   1.1  フ ィ ル ム ベ ー ス の 劣 化

    1.1.1  ニ ト ロ セ ル ロ ー ス の フ ィ ル ム       (a)ニ ト ロ セ ル ロ ー ス の 特 性       (b)  ニ ト ロ セ ル ロ ー ス の 劣 化     1.1.2  ア セ チ ル セ ル ロ ー ス の フ ィ ル ム       (a)ア セ チ ル セ ル ロ ー ス の 特 性       (b)ア セ チ ル セ ル ロ ー ス の 劣 化     1.1.3  ポ リエ ス テ ル の フ ィル ム       (a)ポ リエ ス テ ル の 特 性       (b)ポ リエ ス テ ル の 劣 化   1.2  フ ィ ル ム の 写 真 乳 剤 層 の 劣 化     1.2.1  ゼ ラ チ ソ 層

    1.2.2    ノ\ロ ゲ ソイヒ銀     1.2.3  カ ラ ー フ ィ ル ム の 色 素 2  映 画 フ ィ ル ム の 保 存

  2.1保 存 環 境

    2.1.1  フ ィ ル ム の 保 存 環 境 の 範 囲     2,1.2  フ ィ ル ム の 保 存 環 境 の 具 体 例   2.2低 温 保 存

    2.2.1  低 温 保 存 と相 対 湿 度     2.2.2  低 温 保 存 と 「収 蔵 庫 外 時 間 」   2.3保 管 容 器

    2.3.1温 湿 度 の 変 動 の 緩 和     2.3。2  有 害 物 質 の 除 去 お わ り に

は じ め に

  映 画 が 発 明 され て1世 紀 以上 が経 ち,映 画 フ ィル ムの な か に は,製 作 当時 の画 像 と はほ ど遠 くな った もの,あ るい は,燃>xて 消 滅 して しま った もの も少 な くな い。

  一 般 に 映 像 資料 の保 存 は,映 像 と して記 録 され た 情 報 内 容 の保 存,そ して,映 像 の 記 録 媒 体 の 保 存,と い うふ た つ の 側 面 を も って い る。前者 の場 合,オ リジナ ル 映像 を, 同 じ素 材 あ るい は 異 な った素 材 の媒 体 に 順 次 転 写 して い くこ とで,情 報 を残 す の が 通 常 で あ る。 た とえ ぽ,1998年,東 京 大 学 総 合 研 究 博物 館 に お い て,小 津 安 二 郎 の 映 画

東 京 物 語 」 が,コ ン ピ ュー タ の画 像 処 理 技 術 を 使 って デ ジ タル修 復 され た(坂 村 ・ 蓮 實1998)が,こ の よ うに 最 新 技 術 を積 極 的 に 導 入 し,よ りよい映 像 の安 定 性 を も

とめ る こ と も可能 で あ る。

  映 像 の記 録 媒 体 と して の フ ィル ムの 保 存 を 考 え るに あ た って は,と くに 保 存環 境 を 重 視 す る。 とい うの も,保 存 環 境 を 整 備 す る こ とで,も の の劣 化 の始 ま りを な るべ く 遅 らせ る こ とが で きる し,劣 化 が 始 ま って し ま った もの に対 して は そ の 進 行 を遅 くす る こ とが で きるか らであ る。 なお,こ こで は 劣化 とい う こ とぽ を,も の が 化学 的 あ る い は物 理 的 に変 化 し,当 初 も って い た 品 質 や物 性 が損 なわ れ,よ り劣悪 な状 態 に な る

こ とを総 称 して用 い る こ とに す る。

  フ ィル ム の保 存 問 題 に 関 す る研 究 は,と くに1990年 前 後 か ら欧 米 諸 国 に お い て盛 ん に お こなわ れ る よ うに な って きた 。 しか しな が ら,こ れ ら先 行 研 究 の 成 果 や新 しい知

Zso

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園田  映画 フイルムの保存に関す る研究の動向

見 を は じめ と す る 最 新 の 研 究 動 向 は,と く に 映 画 フ ィル ム に 関 し て は ま と ま っ た 形 で 日 本 に 紹 介 さ れ て い な い の が 現 状 で あ る 。 そ こ で,本 稿 で は,1999年3月 お よ び 11〜12月 に ス ウ ェ ー デ ン,ド イ ツ,フ ラ ン ス で お こ な っ た 映 画 フ ィ ル ム の 保 存 環 境 に 関 す る 現 地 調 査1)の 結 果 を ま じ え な が ら,映 画 フ ィル ム の 劣 化 と 保 存 に 関 す る 専 門 家 の 研 究 成 果 を ま と め,映 画 フ ィ ル ム の 保 存 に 取 り組 む 上 で の 基 礎 的 な 考 え 方 を 導 き 出

し て い く。

1映 画 フ ィ ル ム の 劣 化

  フ ィル ム は,支 持 体 と な る ベ ー ス の 上 に 写 真 乳 剤 層 が 塗 布 され て で き て い る 。   フ ィル ム の ベ ー ス に は,映 画 用 の フ ィ ル ム に 限 ら ず,写 真 フ ィ ル ム や マ イ ク ロ フ ィ ル ム に も 同 様 の 素 材 が 使 用 さ れ て い る 。 映 画 用 の フ ィ ル ム が 他 の フ ィ ル ム と異 な る の は,非 常 に 長 い と い う こ と と,フ ィル ム の 両 側(あ る い は 片 側)に 一 定 間 隔 で パ ー フ ォ

レ ー シ ョ ソ と よ ぼ れ る 小 さ な 穴 が 設 け ら れ て い る こ と で あ る。 素 材 と して は,火 災 の 危 険 度 が 高 い ニ トロ セ ル ロ ー ス と,比 較 的 安 全 な ア セ チ ル セ ルmス,ポ リエ ス テ ル な どが 使 わ れ て き た 。 後 者 ふ た つ は,「 セ ー フ テ ィ ー フ ィ ル ム 」 と一 括 し て よ ぼ れ る

こ と も 多 い 。

  写 真 乳 剤 層 は 感 光 膜 層 と し て は た ら き,こ こ に 画 像 が 形 成 され る 。 構 造 と して は, 光 を 受 け る と 化 学 的 変 化 を お こ し 画 像 を 形 成 す る 性 質 を も つ ハ ロ ゲ ソ化 銀 の 結 晶2) が,ゼ ラ チ ン の 膜 層 の 中 に 細 か く分 散 し て い る 。カ ラ ー フ ィ ル ム の 場 合 は,3色 光(赤, 緑,青)に 感 光 す る乳 剤 が 重 ね ら れ て お り,赤 感 性 の 乳 剤 か らは シ ア ン画 像,緑 感 性 の 乳 剤 か ら は マ ゼ ン タ 画 像,青 感 性 の 乳 剤 か ら は イ エm画 像 が 得 ら れ,そ れ ぞ れ の 混 色 で 最 終 の 色 画 像 が 構i成 さ れ る(白 井 ほ か1978)。

1.1  フ ィ ル ム ベ ー ス の 劣 化

1.1.1  ニ ト ロ セ ル ロ ー ス の フ ィ ル ム

(a)  ニ ト ロ セ ルmス の 特 性

  ニ ト ロ セ ルu一 ス は,1846年 に ス イ ス のCh.シ ュ ー ン パ イ ン に よ っ て 発 明 さ れ た 。 ニ ト ロセ ル ロ ー ス は,セ ル ロ ー ス を 硫 酸,硝 酸,水 の 混 合 物 で 処 理 し,セ ル ロ ー ス の 水 酸 基 を ニ トロ 基 で 置 換 さ せ て 得 ら れ る 。 理 論 的 に は 全 て の 水 酸 基 を ニ ト ロ基 で 置 換 で き,そ の 場 合 の ニ トロ 基 の 置 換 度 は14。4%と な る が,こ の よ うな 物 質 は 非 常 に 不 安

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       国立民族学博物館研究報告  26巻2号 定 で あ る 。 通 常,窒 素 含 量 の パ ー セ ン ト(硝 化 度)を 変 え て,さ ま ざ ま な 性 質 や 用 途 に 適 した 各 種 の ニ ト ロ セ ル ロ ー ス に し て い る 。 た と>xぽ,硝 化 度10.7〜11.7%で ラ ッ カ ー や セ ル ロイ ド3),11.8〜12.5%で フ ィ ル ム や レザ ー,12.5〜135%で 火 薬 と な る(三 羽1975)。 あ る い は,硝 化 度11.5〜12.3%で ラ ッ カ ー,12.3〜13.5%で 爆 発 物 とす る 研 究 者 も い る(Derrick  et aL  1994)。 硝 化 度11.5〜12%の も の は,接 着 剤 と し て 使 用

さ れ る(Shashaua  et al.1992)。

  ニ ト ロ セ ル ロ ー ス は 無 色 の 高 分 子 で,丈 夫 だ が 脆 く,通 常 は,可 塑 剤 を 加 え る こ と で 柔 軟 性 を 高 め て い る。 熱 可 塑 性 樹 脂 の 仲 間 で あ り,お お よ そ80〜900Cで 軟 ら か く な り,1500Cで 流 れ だ す 。 非 常 に 引 火 性 の 高 い 物 質 で,約1800Cで 発 火 す る。 不 純 な も の は,100。C内 外 で も 発 火 す る(三 羽1975)。

  ニ ト ロセ ル ロ ー ス の フ ィ ル ム は,1880年 代 の 終 わ りか ら 製 造 さ れ て い る。35ミ リ フ ィ ル ム と して の 需 要 は,1950年 初 頭 に ト リ ア セ チ ル セ ル ロ ー ス に お き か わ る ま で 続 く。

ニ ト ロ セ ル ロ ー ス は16ミ リや8ミ リ フ ィ ル ム に 使 用 され た こ と は な い(Reilly  1993) と さ れ る 一 方 で,稀 に35ミ リ フ ィ ル ム を 縦2本 に 分 け て16ミ リ フ ィ ル ム と し て 使 用 し た(Macleish  et al.1996)と い う見 方 も あ る。

(b)  ニ ト ロ セ ル ロ ー ス の 劣 化

  温 度 や 相 対 湿 度 が 上 が る と,ニ ト ロ セ ル ロ ー ス の 劣 化 は 促 進 さ れ る 。 ま た,ニ トロ セ ル ロ ー ス は360〜400nmの 波 長 の 光 に 弱 く,紫 外 線 の 照 射 は 劣 化 を 早 め る 要 因 と な る 。 製 造 過 程 で 使 わ れ た 硫 酸 や 硝 酸 が 残 留 して い る と,劣 化 が 早 ま る こ と も指 摘 さ れ て い る(Shashoua  et aL 1992)。

  ニ ト ロセ ル ロ ー ス が 劣 化 す る 過 程 で 形 成 さ れ る 各 種 の 酸 化 窒 素 は,水 分 と反 応 し, 亜 硝 酸,硝 酸 な ど の 酸 を つ く る(Edge  et al.1990)。 こ れ ら の 物 質 の 存 在 に よ り劣 化 が さ ら に 促 進 し,そ の 結 果,よ り多 くの 酸 化 窒 素 や 酸 が 形 成 さ れ る と い う悪 循 環 が お

き る 。

  劣 化 した ニ トロ セ ル ロ ー ス の フ ィル ム に は,刺 激 臭 の ほ か 次 の よ うな 兆 候 が あ らわ れ る 。 フ ィル ム ベ ー ス は 黄 化 し,脆 くな る 。 ハ ロ ゲ ン 化 銀 は 酸 化 し,像 は セ ピ ア 色 に な る 。 ゼ ラ チ ン は 軟 化 し,べ とつ い て く る 。 フ ィ ル ム 自体 が 収 縮 し変 形 した り,フ ル ム の 巻 全 体 が く っ つ い て か た ま っ た り,粉 状 に な っ た りす る(図1)。 こ の よ う な 劣 化 は 必 ず し も均 一 に あ らわ れ る とは 限 ら ず,と き に は 一 部 は 完 全 に 崩 壊 し て い な が

ら,ほ か の 部 分 は 比 較 的 よ い 状 態 を 保 っ て い る こ と も あ る(Edge  et al.1990;Edge 1994)a

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園 田  映画 フ イル ムの 保 存 に 関 す る研 究 の 動 向

a

b

図1劣 化 し た ニ ト ロ セ ル ロ ー ス の フ イ ル ム       a巻 全 体 が く っ つ い て か た ま っ た フ イ ル ム       b粉 状 に な っ た フ イ ル ム

      フ ラ ン ス 国 立 映 画 技 術 セ ン タ ー ・フ イ ル ム ァ ー ヵ イ ブ

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国立民族学博物館研究報告  26巻2号

1.1.2  ア セ チ ル セ ル ロ ー ス の フ ィ ル ム

(a)ア セ チ ル セ ル ロ ー ス の 特 性

  セ ル ロ ー ス に 無 水 酢 酸 を 作 用 さ せ る と,セ ル ロ ー ス の 水 酸 基 が 全 部 ア セ チ ル 化 さ れ た ト リ ア セ チ ル セ ル ロ ー ス(酢 酸 含 量62.5%)が 得 ら れ る が,通 常 は,溶 解 性 を 高 め る た め に 酢 酸 含 量 を52〜60%く ら い に 下 げ て 使 用 し て い る 。 酢 酸 含 量 と 分 子 の 長 さ に よ っ て 性 質 や 用 途 の 異 な る ア セ チ ル セ ル ロ ー ス が 得 られ る(久 保 ほ か1987)。

  一 般 に,ア セ チ ル セ ル ロ ー ス は 無 色 透 明 の 光 沢 の あ る 樹 脂 で,耐 衝 撃 性 が あ る 。 可 塑 剤 の 量 に よ っ て 異 な る が,お お よ そ80。Cで 軟 化 し,200。Cで 溶 解 す る。 難 燃 性 だ が 火 の 中 で は 燃 え,日 光 に あ て る と 長 時 間 で 徐 々 に 変 色 す る(三 羽1975)。

  酢 酸 含 量 の 違 い に よ る 各 種 の ア セ チ ル セ ル ロ ー ス の う ち,酢 酸 含 量 の 低 い ジ ア セ チ ル セ ル ロ ー ス は1940年 代 か ら,ト リ ア セ チ ル セ ル ロ ー ス は1950年 か ら フ ィル ム と し て 使 わ れ て い る(Edge  l994)。 ト リ ア セ チ ル セ ル ロ ー ス の フ ィル ム と し て の 使 用 開 始 年 に は 諸 説 が あ り,1948年 か ら(Bigourdan  and  Reilly l998),あ る い は1951年 か ら (Reilly 1993)と も され て い る 。 ト リ ア セ チ ル セ ル ロ ー ス は 加 工 しに く く,当 初,用 は 少 な か っ た が,溶 剤 と な る メ チ レ ン ク ロ ラ イ ドが 量 産 化 さ れ る よ うに な っ て か ら, フ ィル ム の 製 造 に 大 量 に 使 わ れ る よ うに な り(三 羽1975),今 で は フ ィル ム用 と し て 最 も 一 般 的 に 使 用 さ れ る よ うに な っ て い る(Adelstein  et al.1994)。

  現 在 市 販 さ れ て い る フ ィ ル ム は,ア セ チ ル セ ル ロ ー ス,あ る い は,後 述 の ポ リエ ス テ ル の い ず れ か で あ る 。 ど ち ら も 無 色 透 明 で,裂 け に く く,ひ ず み が 少 な い 。 ま た, 写 真 的 に 不 活 性 で あ り,水 分 あ る い は 現 像 処 理 に 用 い られ る 薬 品 に 反 応 し な い と い う 特 徴 を も つ(白 井 ほ か1978)。 今 日 「セ ー フ テ ィ ー フ ィ ル ム 」 と よ ば れ る フ ィ ル ム の

うち,少 な く と も1955年 以 前 の も の は ア セ チ ル セ ル ロ ー ス で あ る(Reilly  l 993)。

(b)  ア セ チ ル セ ル ロ ー ス の 劣 化

  ア セ チ ル セ ル ロ ー ス の 最 大 の 問 題 は 「ビ ネ ガ ー シ ソ ド ロ ー ム 」 と よ ば れ る 現 象 で あ る 。 こ れ は,ア セ チ ル セ ル ロ ー ス が 空 気 中 の 水 分 に よ り加 水 分 解 さ れ,酢 酸 が 生 成 さ れ て お き る 。 こ の 劣 化 は 急 に 始 ま る の で は な く,最 初 は 非 常 に ゆ っ く り と進 行 し,あ る 時 点 に な る と,劣 化 生 成 物 で あ る 酢 酸 の 存 在 で 劣 化 が 急 激 に 進 ん で い く と い う特 徴 が あ る 。 ま た,こ の 劣 化 は,熱 や 水 分 が 加 わ る こ と で 促 進 さ れ る(Reilly  1993)。

  生 成 し た 酢 酸 が 徐 々 に フ ィ ル ム の 表 面 に 出 て く る た め,酢 酸 特 有 の に お い が す る 。 劣 化 が 進 ん だ 場 合,長 さ4フ ィ ー トの35ミ リ フ ィ ル ム か ら テ ィ ー ス プ ー ン9杯 分,あ

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園田  映画 フイル ムの保存に関する研究の動 向

る い は,そ れ 以 上 の 酢 酸 が 生 成 さ れ る と い う。1000フ ィ ー トの35ミ リ フ ィ ル ム に 換 算 す る と,テ ィ ー ス プ ー ソ250杯 分 の 酢 酸 が 生 成 され る こ と に な る(Reilly  1993)。

「ビ ネ ガ ー シ ン ド ロ ー ム 」 が お き た フ ィル ム に は 特 徴 の あ る 酢 酸 臭 の ほ か,次 の よ うな 劣 化 が あ ら わ れ る(図2)。 フ ィ ル ム に は 通 常,柔 軟 性 を 与 え る た め に 重 量 に し て 約12〜15%の 可 塑 剤 を 混 ぜ て あ る4)が,可 塑 剤 は 年 月 が 経 つ と フ ィル ム ベ ー ス か ら 移 行 し,表 面 に 針 状 の 結 晶 と して あ ら わ れ る こ と が あ る 。 こ の 結 晶 は 熱 で 容 易 に 溶 け る が,冷 め る と ま た 出 て く る 。あ る い は,フ ィ ル ム の 中 央 部 に 多 くみ ら れ る こ と だ が, 可 塑 剤 が 液 体 状 に しみ 出 て,乳 剤 層 の 下 に 小 さ な 泡 状 の ふ く ら み と な っ た りす る 。 可 塑 剤 が 流 出 し て し ま う と,フ ィル ム の ベ ー ス は 物 理 的 に 脆 くな り,少 し 曲 げ た だ け で 折 れ た り,収 縮 が お き,ひ ど い 場 合 に は10%程 度 縮 む 。 フ ィル ム ベ ー ス が 収 縮 し て も, そ の 上 の ゼ ラ チ ソ層 に は そ れ ほ ど 収 縮 は お こ ら な い 。 そ の た め,両 者 の 収 縮 率 の 差 か ら,写 真 乳 剤 層 は ね じれ,部 分 的 に フ ィ ル ム ベ ー ス か ら は が れ る か,あ る い は,ひ さ か れ る 。 こ の ほ か,酢 酸 の 影 響 で ゼ ラ チ ン が 軟 化 し た り,カ ラ ー フ ィ ル ム の 色 素 が 槌 色 し た りす る(Reilly  1993;Edge  1994)。

1.1.3  ポ リ エ ス テ ル の フ ィ ル ム

(a)ポ リエ ス テ ル の 特 性

  一 般 に ポ リエ ス テ ル フ ィル ム と よ ぼ れ て い る の は,ポ リエ チ レ ン テ レ フ タ レ ー ト樹 脂 を フ ィ ル ム 状 に 成 形 した も の で あ る。 強 靱 性,耐 熱 性,耐 光 性,耐 水 性,耐 薬 品 性, 絶 縁 性 に す ぐれ,一 般 の 有 機i溶剤 に 不 溶 と い う性 質 を も つ(三 羽1975)。

  ポ リエ チ レ ン テ レ フ タ レ ー トを 映 画 用 フ ィ ル ム に 使 用 す る 試 み は1950年 代 半 ぽ に あ らわ れ,そ の 使 用 は1980年 代 に 急 激 に の び た(Reilly  1993)。

  ポ リエ ス テ ル フ ィル ム は,ア セ チ ル セ ル ロ ー ス の フ ィ ル ム に 比 べ る と よ り強 靱 で あ り,刃 物 を 用 い な い 限 り切 断 で き な い 。 強 靭 で あ る と い う こ とは,厚 み が 薄 くて も 使 え る と い う こ とで あ り,そ の 結 果,フ ィ ル ム が か さ ば ら な い と い う利 点 が あ る 。 ポ リ エ ス テ ル フ ィル ム は 簡 単 に 接 合 で き な い た め,カ ッ ト数 の 多 い 編 集 な ど の 利 用 に は 不 向 き で,実 際 の 利 用 は 限 ら れ て し ま う(白 井 ほ か1978)。 フ ィ ル ム の 編 集 作 業 が 必 要 な 場 合,主 流 に な る の は,前 述 の ア セ チ ル セ ル ロ ー ス の フ ィ ル ム で あ る 。

(b)  ポ リエ ス テ ル の 劣 化

  こ こ50年 あ ま りの 使 用 の 実 例 か ら判 断 す る と,ポ リエ ス テ ル フ ィル ム の 保 存 性 は, か な り よ い 。 温 度20。Cで 保 管 し た 場 合,予 想 寿 命 は1000年 と い う実 験 結 果 も あ る

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国立民族学博物館研究報告  26巻2号

a

b

図2  劣 化 した ア セ チ ル セ ル ロ ー ス の フ イ ル ム       aか た ま っ て 粉 状 に な っ た フ イ ル ム       b変 形 し て 波 打 っ て い る フ イ ル ム

      フ ラ ン ス 国 立 映 画 技 術 セ ン タ ー ・フ イ ル ム ア ー カ イ ブ

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園 田  映画 フイルムの保存に関す る研究の動向 {Adelstein  et al.1994)o

  ポ リ エ チ レ ン テ レ フ タ レ ー トは,ニ トロ セ ル ロ ー ス や ア セ チ ル セ ル ロ ー ス と 異 な り, 可 塑 剤 を 含 ん で い な い 。 そ の た め 表 面 に 油 性 の 斑 点 が 出 た り,白 い 結 晶 が あ ら わ れ た

り,な ど と い う可 塑 剤 の 移 行 に よ る 不 都 合 は お き な い(Edge  1994)。

  ポ リ エ チ レ ン テ レ フ タ レ ー トな ど直 鎖 の 高 分 子 化 合 物 は,融 点 よ り下 に ガ ラ ス 転 移 点 と よ ば れ る 点 が あ り,こ の 点 を 境 に 物 性 が 大 き く変 化 す る 。 高 分 子 化 合 物 は,ガ ス 転 移 点 よ り低 い 温 度 で は 硬 く 固 化 し て い る が,こ の 点 よ り高 い 温 度 で は ゴ ム 状 半 固 体 と な る(三 羽1975)。 ポ リエ チ レ ン テ レ フ タ レ ー トの ガ ラ ス 転 移 点(80〜90。C)よ

り高 い 温 度 に 数 秒 で も お か れ る と,フ ィ ル ム が 不 可 逆 的 に5%ほ ど収 縮 す る こ と が 指 摘 さ れ て お り,保 存 の 際 の 温 度 は60。Cを 超>xな い な い よ う に 注 意 す る(Mailinson

1994)0

  ポ リ エ ス テ ル フ ィ ル ム の 弱 点 は,ゼ ラ チ ン層 の 下 塗 りつ ま り感 光 剤 を 固 着 さ せ る た め に 塗 る 部 分 で あ り,こ こ か ら フ ィ ル ム ベ ー ス と乳 剤 層 が は が れ る お そ れ が あ る と さ れ て い る(Edge  l994)。

1.2  フ ィ ル ム の 写 真 乳 剤 層 の 劣 化

1.2.1ゼ ラ チ ソ 層

  フ ィル ム の 写 真 乳 剤 層 に は,ゼ ラ チ ンが 使 用 さ れ て い る 。 こ の 層 の 中 に,黒 白 フ ィ ル ム で は ハ ロ ゲ ソ 化 銀 の 結 晶 が 分 散 し て い る 。 カ ラ ー フ ィ ル ム の 場 合 は,シ ア ン 画 像, マ ゼ ン タ 画 像,イ エ ロ ー 画 像 そ れ ぞ れ の 混 色 に よ っ て 最 終 色 画 像 が 構 成 さ れ る た め, ハ ロ ゲ ン 化 銀 の ほ か に も,そ れ ぞ れ の 発 色 剤 が 含 ま れ て い る(白 井 ほ か1978)。

  ゼ ラ チ ン はS酸,ア ル カ リ,空 気 中 の 汚 染 物 質 の 影 響 を 受 け る と,ゆ っ く りと 化 学 変 化 す る 。 と くに ベ ー ス が ニ トロ セ ル ロ ー ス の 場 合,ニ ト ロセ ル ロ ー ス の 劣 化 生 成 物

で あ る 強 酸 の 存 在 に よ り,ゼ ラ チ ン の 劣 化 が 早 ま る こ とが 指 摘 さ れ て い る 。

  保 存 環 境 を 整 え る上 で の 重 要 な 因 子 で あ る 温 度 と相 対 湿 度 の うち,ゼ ラ チ ンは と く に 相 対 湿 度 の 影 響 を 受 け や す い 。 相 対 湿 度 と は,あ る 気 温5)に お い て,そ の と き 空 気 中 に 含 ま れ て い る 水 蒸 気 の 質 量 を,そ の 空 気 が 飽 和 した と き に 含 有 で き る 水 蒸 気 の 質 量 と 比 べ て,ど の く ら い 空 気 が 湿 っ て い る の か(あ る い は 乾 燥 し て い る の か)を 示 す も の で,パ ー セ ン トで あ ら わ され る 。 相 対 湿 度 が 高 い と,ゼ ラ チ ソ に カ ビ が 生>xや す く な る 。 カ ビ は,ゼ ラ チ ン層 を 軟 化 させ る 酵 素 を 出 し,斑 点 状 に しみ を つ け る 。 ゼ ラ チ ソ層 は 高 湿 度 下 で は 膨 潤 し,空 気 中 の 汚 染 物 質 を 自 由 に 通 過 さ せ て し ま うが,逆

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      国立 民族学博物館研究報告  26巻2号 相 対 湿 度50%以 下 で は,汚 染 物 質 か ら ハ ロ ゲ ン化 銀 や 色 素 を 保 護 す る働 き を す る 。 相 対 湿 度 が 低 す ぎ る(15%以 下)と,ゼ ラ チ ン層 は 脆 くな っ て し ま うの で,極 端 な 低 湿 度 の 環 境 は 避 け た い 。 低 湿 度 下 で は,フ ィル ム が カ ー ル して し ま う こ と も あ る(Reilly

1993)0

1.2.2   ノ、 ロ ゲ ン イヒ銀

  ハ ロ ゲ ン 化 銀 を 相 対 湿 度 の 高 い 環 境 に お く と,銀 が 酸 化 す る。 こ の 現 象 は,空 気 中 の 汚 染 物 質 の 存 在 で,よ り促 進 さ れ る(Reilly  l 993;Adelstein  1998)。 酸 化 し て イ オ ソ化 した 銀 は,移 行 し,再 び 還 元 さ れ て,別 の 場 所 に 付 着 す る 。 こ の よ う な 現 象 が 一・

部 に 集 中 す る と,赤 み が か っ た ス ポ ッ トや 汚 点 と し て 残 る 。 フ ィ ル ム 全 体 が 槌 色 し た り,変 色 す る こ と も あ る 。

1.2.3  カ ラ ー フ ィ ル ム の 色 素

  室 温 で も,色 素 の 槌 色 は 進 行 す る 。 カ ラ ー フ ィ ル ム に は,シ ア ソ,マ ゼ ン タ,イ ロ ー の3種 の 色 素 が 使 わ れ て い る が,こ の う ち マ ゼ ン タ が 一 番 槌 色 に 強 い た め ,古 い カ ラ ー フ ィ ル ム は 特 徴 的 な 紫 が か っ た 色 に な る 。1980年 以 前 の,比 較 的 古 い カ ラ ー フ ィ ル ム に 使 用 さ れ て い た 色 素 は 現 在 の も の に 比 べ 安 定 性 が な く,室 温 で 保 存 し た 場 合, 20年 か ら30年 く ら い の 色 調 の 寿 命 し か 期 待 で き な い(Reilly  1993)。

  色 素 の 劣 化 は,湿 度 が 高 い と よ り進 行 す る 。 空 気 中 の 汚 染 物 質 も,劣 化 を 促 進 さ せ る 要 因 と な る(Reilly  1993)。 高 湿 度 下 で 一 番 槌 色 が ひ ど か っ た の は イ エ ロ ー で あ っ た と い う実 験 結 果 が あ る(Ram,  Pytlak  et al.1994)。 こ の と き の 槌 色 の 原 因 と して は,色 素 が 加 水 分 解 し た 可 能 性 と,高 湿 度 下 で ト リ ア セ チ ル セ ル ロ ー ス の 劣 化 が お こ り,そ の と き 生 成 し た 酸 が 色 素 の 槌 色 を 促 進 さ せ た 可 能 性,こ の ふ た つ が あ げ ら れ て い るQ

2映 画 フ ィル ムの保 存

  映 画 フ ィル ムの保 存 の問 題 を,保 存環 境 と保 管 容器 のふ た つ の視 点 か らみ て い く。

  保 存 環境 に 関 して は,と くに 温 度 と相対 湿 度 を いか に設 定 す べ きか に つ い て の べ た 後,調 査 した 各 国 の フ ィル ム ア ー カイ ブで の保 存 環 境 を紹 介 す る。 そ の 後,フ ィル ム の 寿 命 を の ぼす 上 で と くに 効 果 的 と され る低 温 保 存 につ いて の論 考 を ま とめ る。

  映 画 フ ィル ム は容 器 の 中 に 保 管 され て い る こ とが 多 いが,容 器 の 役 目は,単 に 中 の

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園田  映画フイルムの保存に関する研究の動向

もの を物 理 的 に守 る とい うこ とに とど ま らな い 。 ミク ロ環 境 をつ くる手 だ て で あ り, 外 部 の 急激 な環 境(マ ク ロ環 境)の 変 化 を 緩和 す る働 きが要 求 され る。 また,容 器 内 の 環 境 を い か に清 浄 に保 つ か,言 い 換 え れ ば フ ィル ムの経 年 劣 化 で 生 成 され る有害 物 質 を い か に 除 去す るか,と い う問 題 も取 り上 げ る。

2.1保 存 環 境

2.1.1  フ ィル ム の 保 存 環 境 の 範 囲

  一 般 に 化 学 反 応 は,温 度 が 上 が る ほ ど,あ る い は,湿 度 が 高 い ほ ど,早 ま る こ と が 知 ら れ て い る が,劣 化 の 反 応 も ま た,同 様 の 傾 向 を も つ 。 映 画 フ ィ ル ム の 保 存 環 境 を 設 定 す る に あ た っ て 何 よ り考 慮 しな け れ ば な ら な い の が,温 度 と 相 対 湿 度 と い う こ と に な る 。

  温 度 や 相 対 湿 度 が 変 わ れ ば,も の の 含 水 率 が 変 わ り,も の の 大 き さ が 変 化 す る が, 膨 張 あ る い は 収 縮 す る 率 は 材 質 に よ っ て 異 な る 。さ ま ざ ま な 材 質 で で き て い る も の は, 温 度 や 相 対 湿 度 の 急 激 な 変 化 が お こ れ ば,伸 縮 の 差 か ら 内 部 に ス ト レス が 生 じ る た め, も の 全 体 が 破 壊 され て し ま う こ と も あ る 。 映 画 フ ィ ル ム の 場 合 は,フ ィル ム ベ ー ス の 素 材 に は 吸 水 性 は な い が,写 真 乳 剤 層 の ゼ ラ チ ン は 吸 水 性 が 高 く,温 度 や 相 対 湿 度 の 変 化 の 影 響 を 一 番 受 け や す い 。

  た と え ば,ゼ ラ チ ン は,温 度220C,相 対 湿 度50%で は,重 量 に し て14%の 水 分 を 含 ん で い る 。 温 度 は そ の ま ま で 相 対 湿 度 が80%に な る と,含 ま れ る 水 分 は20%に 達 す る 。 す な わ ち,温 度 が 一 定 の と き は,相 対 湿 度 が 上 が る ほ ど,ゼ ラ チ ン の 含 水 率 は 増 え る と い う こ と に な る 。 一 方,相 対 湿 度 を 一 定 に 保 ち な が ら温 度 を 下 げ る と,ゼ ラ チ ンの 含 水 率 は 増>xる 。 そ の た め,温 度 が10。C下 が る ご と に 相 対 湿 度 も3〜4%下 な い と,ゼ ラ チ ン 層 の 含 水 率 を 一 定 に 保 つ こ と が で き な い(McCormick‑Goodhart 1996)0

  ゼ ラ チ ン に と っ て 安 全 な 温 度 お よび 湿 度 圏 内 は,横 軸 に 相 対 湿 度,縦 軸 に 温 度 を と っ た 場 合,温 度25。C・ 相 対 湿 度35%,温 度25。C・ 相 対 湿 度60%,温 度 マ イ ナ ス 25。C・ 相 対 湿 度20%,温 度 マ イ ナ ス25。C・ 相 対 湿 度40%,こ れ ら4点 で 囲 ま れ た 四 方 形 の 内 側 と さ れ て い る 。 こ の 範 囲 内 で あ れ ぽ,カ ビ が 繁 殖 す る 心 配 は な い 。 ま た,

ゼ ラ チ ソ の よ うに 吸 水 性 に と む も の は 含 水 率 に よ っ て ガ ラ ス 転 移 点 が 変 わ る6)特 徴 を も つ が,こ の 範 囲 内 で あ れ ば ゼ ラ チ ンの ガ ラ ス 転 移 点 も そ れ ほ ど 低 くな ら な い の で, 軟 化 した り く っ つ い た りす る こ と も な い(McCormick‑Goodhart  1996)。

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国立民族学博物館研究報告  26巻2号   ア セ チ ル セ ル ロ ー ス フ ィル ム の 「ビ ネ ガ ー シ ン ド ロ ー ム 」 の 問 題 が 深 刻 に な っ た こ

と を 受 け,近 年,保 存 環 境 に つ い て の 研 究 が 進 ん で お り(Adelstein  et a1.1994;Adel‑

stein 1998),新 し い フ ィ ル ム を 長 期 保 存(500年 間 く ら い の 寿 命 を 想 定)す る と き に は,次 の よ うな 条 件 が 推 奨 され て い る(Adelstein  l 998)。

・白 黒 フ ィル ム(ト リア セ チ ル セ ル ロ ー ス)=温 度7。Cで 相 対 湿 度20〜30% ,温 5。Cで 相 対 湿 度20〜40%,温 度2。Cで 相 対 湿 度20〜50%

・ 白 黒 フ ィ ル ム(ポ リ エ ス テ ル):温 度21。Cで 相 対 湿 度20〜50%

・ カ ラ ー フ ィ ル ム:温 度2。Cで 相 対 湿 度20〜30% ,温 度 マ イ ナ ス3◎Cで 相 対 湿 度 20〜40%,温 度 マ イ ナ ス10。Cで 相 対 湿 度20〜50%

  相 対 湿 度 の 下 限 が20%と な っ て い る の は,実 際 に は 映 画 フ ィル ム が,ほ か の 写 真 資 料 な ど と 同 じ収 蔵 庫 で 保 管 さ れ て い る 場 合 が 多 い こ と を 考 慮 し た た め で あ る 。 た と>x ば 古 い ガ ラ ス 板 の 写 真 な ど は,相 対 湿 度 が 低 す ぎ る と,ゼ ラ チ ン層 の 剥 離 が お き る 恐 れ が あ る 。

  ロチ ェ ス タ ー の イ メ ー ジ ・パ ー マ ネ ン ス ・イ ン ス テ ィ チ ュ ー ト(IPI)は,ア セ チ ル セ ル ロ ー ス フ ィ ル ム の 保 管 に 関 す る 詳 し い ガ イ ド ラ イ ン を 作 成 し て い る(Reilly 1993)。 そ の な か に,保 存 環 境(温 度,相 対 湿 度)か ら ト リア セ チ ル セ ル ロ ー ス の フ ィ ル ム の 寿 命 を 簡 便 に 予 想 す る グ ラ フ が あ る 。 横 軸 は 相 対 湿 度,縦 軸 は 温 度 と な っ て お り,そ れ ぞ れ の 保 存 環 境 下 に お い て,ど の く ら い の 年 月 で,ト リ ア セ チ ル セ ル ロ ー ス の フ ィ ル ム の 遊 離 酸 度 が0.5に な る か が グ ラ フ か ら読 み と れ る仕 組 み で あ る 。 遊 離 酸 度 とは,フ ィル ム ベ ー ス の 酸 性 度 を 中 和 す る の に 必 要 な ア ル カ リの 量 か ら計 算 され る 値 で,遊 離 酸 度 が0.5の フ ィ ル ム に は 酢 酸 臭 以 外 の 劣 化 の 兆 候 は あ らわ れ ず,使 用 に は な ん ら 差 し支 え な い 状 態 に あ る 。 しか し,遊 離 酸 度 が0.5を 超 した 時 点 か ら,劣 の 進 む 速 度 が 急 激 に 早 ま る た め,こ の 値 を 超 す か 超 さ な い か が,劣 化 の 状 態 を 推 測 す る ひ と つ の 指 標 と な る 。 予 想 寿 命 の グ ラ フ を み る と,温 度 と相 対 湿 度 が 低 け れ ば 低 い ほ ど 予 想 寿 命 が 長 く な る こ とが 分 か る 。 ま た,温 度 や 相 対 湿 度 の い ず れ か が 多 少 高 く て も,片 一 方 を 低 くす る こ と で 予 想 寿 命 を の ぼ す こ と が で き る こ と も 読 み と れ る 。

2.1.2  フ ィ ル ム の 保 存 環 境 の 具 体 例

  具 体 的 な 保 存 環 境 の 事 例 を あ げ て み よ う。

  ス ウ ェ ー デ ソ ・フ ィ ル ム ・イ ン ス テ ィ チ ュ ー トの フ ィル ム セ ソ タ ー で は,ス ト ッ ク ホ ル ム の 研 究 所 の 地 下 に 収 蔵 庫 が あ る。 収 蔵 庫 内 の 温 度 は マ イ ナ ス50C ,相 対 湿 度 は

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園田  映画 フイルムの保存 に関す る研究 の動 向

35%で あ る 。 収 蔵 庫 か ら 出 す フ ィル ム は,温 度10。C,相 対 湿 度35%以 下 の 前 室 で24 時 間 お い て か ら 外 に 持 ち 出 す よ うに し て い る 。

  ドイ ツ の ゲ ッ テ ィ ン ゲ ン の 学 術 映 画 研 究 所 で は,今 ま で に 制 作 した 学 術 映 画 の マ ス タ ー ポ ジ を 温 度10。C,相 対 湿 度30〜40%の 収 蔵 庫 で 保 管 し て い る 。 永 久 保 存 と い う よ り も 中 期 保 存 と い う考 え 方 で あ る 。 と い う の も,フ ィ ル ム の プ リ ン トが 必 要 な 場 合 に は,こ の マ ス タ ー ポ ジ か ら つ く ら れ て お り,あ る 程 度 頻 繁 に フ ィル ム の 出 し 入 れ が お こ な わ れ る 。

  フ ラ ン ス 国 立 映 画 技 術 セ ン タ ー ・フ ィ ル ム ア ー カ イ ブ で は,フ ィル ム の 材 質 別 に 保 管 方 法 を 変 え て い る 。 ニ ト ロ セ ル ロ ー ス の フ ィ ル ム は 専 用 の 特 別 収 蔵 庫7)に 小 分 け し て 保 管 さ れ て お り,保 存 環 境 は 温 度12〜13。C,相 対 湿 度50%で あ る。 一 方,ア セ チ ル セ ル ロ ー ス の フ ィル ム は 温 度140C,相 対 湿 度 約45%の 収 蔵 庫 に 保 管 さ れ て い る 。   日 本 の 東 京 国 立 近 代 美 術 館 フ ィ ル ム セ ン タ ー 相 模 原 分 館 で は,地 下1階 の 白 黒 フ ィ ル ム収 蔵 庫 は 温 度10。C±2。C,相 対 湿 度40%±5%,地 下2階 の カ ラ ー フ ィ ル ム 収 蔵 庫 は 温 度5。C±2。C,相 対 湿 度40%±5%に 設 定 さ れ て い る 。「ビ ネ ガ ー シ ン ドロ ー ム 」 の 始 ま っ た フ ィ ル ム は,独 立 した 空 調 シ ス テ ム を 供 え た 一 室 に,温 度20C,相 対 湿 度 35%で 保 管 さ れ て い る 。

  国 立 民 族 学 博 物 館 に お い て は,試 写 用 フ ィ ル ム の 収 蔵 庫 は 温 度18。C,相 対 湿 度 45%で あ り,マ ス タ ー フ ィル ム の 収 蔵 庫 は 温 度12。C,相 対 湿 度40%に 保 た れ て い る 。   こ の よ う に,各 国 の フ ィル ム ア ー カ イ プ で は,フ ィ ル ム の 材 質,活 用 度,劣 化 の 程 度,さ ら に は,そ れ ぞ れ の 国 の 気 候 も考 慮 し な が ら,可 能 な 限 り低 温 低 湿 の 保 存 環 境 を 設 定 し て い る 。

2.2  低 温 保 存

2.2.1低 温 保 存 と 相 対 湿 度

  フ ィル ム の保 存 環 境 は 化学 反 応 の速 度 が 遅 くな る よ うに な るべ く低温 低 湿 の環 境 に 設 定 す る の が好 ま しい が,な か で も温 度 が フ ィル ムの 寿 命 に 与 え る影 響 は大 き い と さ れ,P.  Z.ア ーデ ル ス タイ ン らは,30年 前 に コ ダ ッ ク社 で研 究 員 を して い た と きか ら 低 温保 存 を推 奨 してい る(Adelstein et al.1970)。

  低温 保 存 の場 合,限 られ た 空 間 内 で単 に温 度 を 下 げ る と,相 対 湿度 は必 然 的 に上 が る。 除 湿機 能 のつ いた 低 温 収 蔵庫 で あれ ぽ よいが,経 費 が か か りす ぎる とい う問 題 が 生 じる。 そ こで,除 湿機 能 の な い 低温 収 蔵 庫 の場 合,フ ィル ムを 高 い湿 度 に さ ら さ な

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国立民族学 博物館研究報告  26巻2号 い た め に,さ ま ざ ま な方 法 が 考 え られ て きた。

① ス ウ ェ ー デ ン ・フ ィル ム ・イ ン ス テ ィ チ ュ ー トの 方 法

  フ ィ ル ム を 低 湿 度 に 慣 ら し て か ら真 空 パ ッ クす る 方 法 で あ り,そ の た め に 特 別 に   開 発 さ れ た フ ィ カ と よ ば れ る 装 置(FICA,  film conditioning  apparatus)を 用 い   る 。 こ の 装 置 内 で,フ ィ ル ム は 一 定 の 力 で 巻 き 直 さ れ た 後,目 的 の 相 対 湿 度 に な   る ま で コ ンデ ィ シ ョ ニ ン グ され る 。具 体 的 に は,相 対 湿 度 を20%ま で に 下 げ る が,   こ の 「慣 ら し 」 に 要 す る 時 間 は フ ィ ル ム の そ れ ま で の 保 存 環 境 に よ っ て 異 な っ て   く る 。 通 常 は4〜7日 間 か け て お こ な う。 低 い 相 対 湿 度 で 充 分 に 慣 ら した フ ィル   ム は,そ の 環 境 下 で 真 空 パ ッ ク さ れ る 。 用 い る の は3重 構 造(外 側 は ポ リエ ス テ   ル ま た は 紙,中 央 の 層 は ア ル ミホ イ ル,内 側 は ヒ ー トシ ー ル の た め の ポ リエ チ レ   ン)の 袋 で,こ れ に よ っ て パ ッ ク 内 に 低 湿 の 環 境 が 保 た れ る 。 フ ィル ム は,最   的 に は2重 に 真 空 パ ッ ク さ れ,マ イ ナ ス5。Cの 収 蔵 庫 に 保 管 さ れ る(Gooes  and   Bloman  1983)o

② ア メ リ カ,ス ミ ソ ニ ア ン ・イ ン ス テ ィ チ ュ ー シ ョ ン の 方 法

  フ ィ ル ム を2重 の 透 明 な ポ リエ チ レ ン(低 密 度)の 袋 に 入 れ て 保 管 す る方 法 で,   ふ た つ の 袋 の 間 に は,吸 湿 剤(紙,シ リ カ ゲ ル な ど)と 内 部 の 相 対 湿 度 を チ ェ ッ   クす る た め の 臨 界 湿 度 イ ン ジ ケ ー タ ー(CMI,  critical moisture  indicator)が 入 れ   て あ る 。 ス ウ ェ ー デ ン の 方 法 と は 異 な り,袋 は 水 蒸 気 を 通 して し ま うタ イ プ の も   の で あ る が,マ イ ナ ス18。Cと い う低 温 で 保 管 す る の で,水 蒸 気 が 拡 散 す る 速 度   は 遅 く,フ ィル ム が 高 湿 度 に さ ら され る こ と は な い とい う考 え 方 で あ る 。 湿 度 イ   ン ジ ケ ー タ ー は 濾 紙 に 塩 化 コ バ ル トを 含 ま せ た も の で,袋 内 の 相 対 湿 度 が60%を   大 幅 に 超 え る よ うで あ れ ぽ,湿 度 イ ン ジ ケ ー タ ー の 色 が 青 色 か ら ピ ン ク 色 に な る 。   袋 内 の 湿 度 が 高 い こ と が 判 明 し た ら,吸 湿 剤 を 新 しい も の と 入 れ 替 え て 対 処 す る   (McCormick‐Goodhart  1998)o

③ 低 湿 庫

  温 度 の 設 定 に よ り各 種 の タ イ プが あ る 。 室 温 な りゆ き の タ イ プ,周 囲 の 温 度 よ り   約10。C低 温 を 保 つ タ イ プ,そ し て 温 度5〜10。Cに 設 定 さ れ た 低 温 タ イ プ で あ   る 。 い ず れ の 場 合 も,相 対 湿 度 は30〜50%に 制 御 さ れ て い る 。 常 温 常 湿 に 放 置 し   た と き と 比 較 す る と,低 湿 を 保 つ こ と で,室 温 な りゆ き タ イ プ で は 約2〜3倍,   周 囲 よ り約10。C低 い タ イ プ で は 約3〜5倍,5〜10。C保 管 タ イ プ で は 約10倍 以   上,保 存 性 が 向 上 す る と期 待 さ れ て い る(瀬 岡1996)。

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園田  映画フイルムの保存に関する研究の動向

  以上,い くつ か 例 を あ げ た。 ス ウ ェー デ ンの方 法 は,完 壁 な 低 湿度 の空 間 をつ くる 長 期 保 存 用 の袋 と理 解 で き る。 袋 を開 い て しまわ ない 限 り良 好 な環 境 が保 たれ,永 久 保 存 を 目的 と した 場 合 に は と くに有 効 な手 段 とな る。 た だ し,こ の方 法 で は,フ ィル ム を真 空 パ ックす る前 に低 湿 度 の環 境 に慣 らす 時 間 が 必 要 で あ り,活 用 を 目的 と した フ ィル ム の場 合 に は,後 で の べ る 「収 蔵 庫 外 時 間 」 との 兼 ね 合 い が で て くる。 相 対 湿 度 を低 くす る こ とで得 る効 果 は,低 湿 度 に慣 らす た め に 「収 蔵庫 外 時 間」 が 通 常 よ り 長 くな って しま う こ と で相 殺 され て し ま うと い う見 方 もで き る か らだ 。 ス ウ ェ ー デ ン ・フ ィル ム ・イ ンス テ ィチ ュー ト内 に あ る フ ィル ムセ ン タ ーの保 存 の責 任 者 で あ る ロル フ ・リン ドフ ォ ー ド氏 に よれ ぽ,経 費 上 の 都 合 か ら,1999年12月 現 在,長 期 保 存 目的 の ポ リエ ス テ ル ベ ー ス の ポ ジ フ ィル ムに の み,こ の 方 法 を用 い て い る とい うこ と で あ った 。

  ス ミソ ニ ア ソ ・イ ンス テ ィチ ュー シ ョ ンの 方 法 は,ス ウ ェー デ ン ・フ ィル ム ・イ ン ス テ ィチ ュ ー トの方 法 に比 べ る と,低 湿 度 へ 「慣 らす 」 時 間 が省 略 で き る。 包 装 袋 が 透 明で,中 の様 子 が見 え る とい うの も利 点 で あ る。 必 要 に応 じて吸 湿 剤 を 入 れ 替 え る こ と もあ る と した上 で,簡 便 に,開 け た り閉 じた りで き る保 存 袋 を 開発 した の で あ る。

活 用 頻 度 の 高 い フ ィル ム の保 存 に 適 して い る。 しか し,活 用 頻 度 が 高 い 場 合,は た し て マイ ナ ス180Cま で低 温 の収 蔵 庫 を つ くる必 要性 が あ る の か,と い う疑 問 は 残 る。

一 方 で は,こ れ ほ ど低 温 であ るか ら こそ,こ の よ うな簡 易 な袋 であ る程 度 の 低湿 度 が 保 た れ て い る事 実 も無 視 で きな い 。

  これ らふ た つ の方 法 は,フ ィル ムひ とつ ひ とつ を処 置 しな けれ ば な らず,煩 雑 さは 免 れ な い。 そ の意 味 にお いて は,低 湿 庫 の 方 法 が簡 略 と も考 え られ る。 収 蔵庫 全 体 に 除 湿機 能 をつ け る ほ どの 費 用 は か か らな い,と い うの も強 み であ ろ う。 さ ま ざ まな資 料 が 同 居 して い る収 蔵 庫 で は,効 果 的 な 方 法 で あ ろ う。

  い ず れ の方 法 を選 択 した と して も,結 露 の 問題 に は注 意 を要 す る。 冷 え て い る フ ィ ル ムを,急 に室 温 に 出 して は な らな い 。室 温 の暖 か い空 気 中 に含 まれ る水蒸 気 が,冷 た い フ ィル ム の表 面 に結 露 して しま うか らで あ る。密 閉 容 器 に 入 れ た ま まで 「慣 らす 」 た め の 時 間 と場 所 を設 け る配 慮 が 必 要 で あ る。

2.2.2  低 温 保 存 と 「収 蔵 庫 外 時 間 」

  低 温保 存 の場 合,資 料 の 相 対 的 な 安定 性 を大 い に左 右 す る のが 「収 蔵庫 外 時 間」 で あ る。 「収 蔵 庫 外 時 間 」 とは,そ の 資 料 を 「1年 の うち に何 日間使 用 す る(常 温 に 戻 す)か 」 とい うこ とで,使 用 頻 度 を考 慮 した上 で最 も実 現 可 能 な保 存 環 境 を設 定 し よ

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      国立民族学博物 館研 究報告  26巻2号 う とい う考 え 方 で あ る。ス ミ ソ ニ ア ン ・イ ン ス テ ィ チ ュ ー シ ョ ン のM.H.マ コ ー ミ ッ ク ・ グ ッ ドハ ー トら(McCormick‑Goodhart  and Mecklenburg  1993)は,温 度24。C, 相 対 湿 度40%,で 保 管 した 場 合 の 予 想 寿 命 を1と し た 。 そ の 上 で,フ ィ ル ム を 年 間

0日,1日,2日,5日,10日,収 蔵 庫 か ら 出 し た 場 合,ど の く ら い 寿 命 が 短 縮 さ れ る か(あ る い は の び る か)を 相 対 的 な 値 で 示 し て い る。 こ の と き 用 い ら れ た の は,色 素 の 槌 色 率 を 基 準 と して ア セ チ ル セ ル ロ ー ス の 予 想 寿 命 を 計 算 す る 方 法8)で あ る 。 具 体 的 な 例 を あ げ て み る 。

・年 間 を と お し て 収 蔵 庫 か ら 出 さ な か っ た 場 合,温 度 マ イ ナ ス26。Cで 保 管 す る と, プ ラ ス24。Cで 保 管 す る よ り,フ ィ ル ム の 寿 命 は1000倍 の び る 。 た だ し,1日   も 収 蔵 庫 か ら 外 に 出 す と,予 想 寿 命 は268倍 に し か の び な い 。 収 蔵 庫 外 時 間2日

で は154倍,5日 で は68倍,10日 で は35倍,と 予 想 寿 命 は 急 激 に 縮 ま る 。 つ ま り 1年 の う ち10日 間 以 上 活 用 す る フ ィル ム の 場 合,マ イ ナ ス26。Cで 保 管 す る 必 要 性 は ほ と ん ど な い こ と に な る 。 と い う の も,相 対 的 な 寿 命 は,マ イ ナ ス260C保 管 で は 上 述 の よ うに35倍 に な る の に 対 し て,マ イ ナ ス18。C保 管 で も33倍 で あ り, 大 差 が な い か ら で あ る 。 温 度 条 件 を 設 定 す る に あ た っ て は,年 間 の 使 用 頻 度 を 考 慮 し た 上 で 決 め な け れ ぽ,期 待 し た ほ ど の 効 果 が 上 が ら な い ば か りで な く,経

を 無 意 味 に か け る 結 果 と な る。

・同 じ低 温 保 存 で も ,常 温 よ り少 し低 い程 度(室 温 に 近 い範 囲)で は,相 対 湿 度 の 与 え る 影 響 の ほ うが 「収 蔵 庫 外 時 間 」 よ り大 き い 。 温 度15。C,相 対 湿 度50%の 保 存 環 境 の 例 を と る と,常 温 に 年 間10日 間 出 し た と き の 予 想 寿 命 は2.2倍,全

出 さ な い 場 合 は2.3倍 で あ り,ほ と ん ど 変 わ ら な い 。 相 対 湿 度 を40%に 下 げ る と,   「収 蔵 庫 外 時 間 」 に よ っ て 多 少 ち が うが,3.1倍 か ら3.3倍 に の び る 。30%ま で 下

げ る と,4倍 か ら4.3倍 と,予 想 寿 命 の 延 び は さ ら に 大 き く な る 。

2.3保 管 容 器

2.3.1温 湿 度 の 変 動 の 緩 和

  フ ィ ル ム を 入 れ る 容 器 の 材 質 は,厚 金 属,プ ラ ス チ ッ クに 大 別 で き る。 い ず れ の 場 合 も,フ ィ ル ム に 害 を 与 え る よ うな 物 質 を 含 ん で は な ら な い 。 紙 は 中 性,あ る い は,ご く弱 い ア ル カ リ性 の も の を 用 い る 。 金 属 は,さ び や す い も の で あ っ て は な ら な い 。 ス チ ー ル 製 の 場 合 は,表 面 加 工(塗 装,錫 メ ッキ な ど)を 施 し た も の が よ い 。 プ

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園 田  映画 フイルムの保存に関す る研究の動向

ラス チ ック と して は,ポ リエ ス テ ル,ポ リエ チ レ ソ,ポ リプ ロ ピ レンな どが よ く,塩 素 や 窒 素 を 含 ん で い る製 品 は避 け る よ うに す る(Adelstein  1998)。

  活 用 の た び に 出 し入れ され る映 画 フ ィル ムは,そ の 都 度,急 激 な温 湿 度 の変 化 を 受 け る。 また,た とえ容 器 内 に保 管 され た ま まで も,映 画 フ ィル ム は,周 囲 の 温 度 や相 対 温 度 の 変化 の影 響 を受 け る。

  さ ま ざ まな 容器 を対 象 に,周 囲(マ ク ロ環 境)の 相 対 湿度 の変 化 が ど の程 度,容 器 内(ミ ク ロ環 境)の 相 対 湿 度 を変 動 させ るか を調 べ た 実 験 が あ る(Bigourdan  et al.

1997)。 た とえ ば,相 対 湿 度 を20%変 化 させ た と き(50%±10%),厚 紙 の 箱 内 で は変 化 が15%以 上 あ る の に対 し,金 属 製 の 容 器 内 で は10%程 度,プ ラ ス チ ック製 の 容器 内 で は5%以 下 に抑 え られ て い る。 相 対 湿 度 を40%変 化 させ た実 験(60%±20%)で も, 同程 度 の結 果 が で て い る。 厚 紙 の 箱 で は,外 の湿 度 の変 化 が ほ ぼ そ の ま ま中 の環 境 を 変 化 させ るが,あ る程 度 密 閉 性 の あ る容器(金 属 製,プ ラス チ ッ ク製)で は,外 の環 境 の変 化 が 緩 和 され て 中 に 伝 わ る とい うこ とで あ る。 こ の結 果 か ら,マ ク ロ環 境(温 度 お よび 湿 度)が 制 御 され て い る と きは通 気 性 の あ る厚 紙 製 の容 器 の使 用 が 適 して お

り,マ ク ロ環 境 が1日 の うち に,あ る い は,季 節 毎 に変 動 す る場 合 は,金 属 製 や プ ラ ス チ ッ ク製 な ど密 閉 性 の 高 い 容器 の使 用 が 向 い て い る こ とが 導 か れ る。

2.3.2  有 害 物 質 の 除 去

  容 器 内 の 揮 発 性 物 質 と し て は,フ ィ ル ム 製 造 時 に 使 わ れ た 溶 剤(メ チ レ ン ク ロ ラ イ ド,ア セ ト ソ,N一 ブ タ ノ ー ル,シ ク ロ ヘ キ サ ソ な ど),フ ィル ム の 洗 浄 に 使 わ れ た 溶 剤(ト リ ク ロ ロ エ タ ン な ど),フ ィ ル ム の 劣 化 過 程 で 発 生 す る 物 質 な ど が あ げ ら れ る (Reilly 1993)。 こ の う ち 劣 化 の 過 程 で 生 成 す る物 質 は,経 年 劣 化 に 伴 い,量 が 増 え て い く。

  ト リア セ チ ル セ ル ロ ー ス の 劣 化 は 加 水 分 解 の 一 種 で あ り,劣 化 の 過 程 で 発 生 す る 酸 に よ っ て,反 応 が よ り促 進 さ れ る こ と が 知 ら れ て い る。 既 に 劣 化 の 始 ま っ て い る フ ィ ル ム を,密 閉 性 の 高 い 容 器(金 属 製 ま た は プ ラ ス チ ッ ク製 の 容 器)で 保 管 す る と,発 生 す る 酸 を 中 に こ も ら せ る 結 果 と な り,か え っ て フ ィ ル ム の 劣 化 が 促 進 さ れ る (Bigourdan  and Reilly 1998)。 こ の よ う な 汚 染 物 質 を 容 器 内 に と じ こ め な い よ うに す る に は,容 器 の 中 と外 で,あ る 程 度 の 空 気 の 流 通 が 必 要 と な る 。

  ま た,密 閉 性 の 高 い 容 器 に 保 管 した と き に 発 生 す る 有 害 物 質 を,モ レキ ュ ラ ー ・シ ー プ で 吸 収 さ せ る 方 法 が 提 唱 さ れ て い る(Ram,  Kopperl  et al.1994;Ram,  Pytlak et al.

1994)。 モ レ キ ュ ラ ー ・ シ ー プ は,特 殊 な 結 晶 構 造 を も つ ゼ オ ラ イ トで で き て お り,

(19)

      国立民族学博物館研 究報告  26巻2号 ス ポ ン ジ の よ うな 内 部 構 造 を も っ て い る 。 ス ポ ン ジ の 微 小 な 孔 の 大 き さ を 調 整 す る こ と で,吸 収 す る 分 子 の 大 き さ を 調 整 す る。 水 分 の み な らず,酸,溶 剤,あ る い は,そ れ 以 外 の 劣 化 生 成 物 も 吸 収 で き る 。 水 の 分 子 の 直 径 は2.8×10‑10m,酢 酸 の 分 子 の 直 径 は3.6×10‑10mで あ る 。 これ ら の 物 質 を 吸 収 す る に は,孔 の 大 き さ が4×1Q‐iam の モ レキ ュ ラ ー ・シ ー プ を 用 い る。 モ レ キ ュ ラ ー ・シ ー プ は,質 量 に し て22%も の 水 分 を 吸 収 で き る と い わ れ る 。

  室 温 あ る い は 低 温 収 蔵 庫 で は,重 量 に し て フ ィ ル ム の2%程 度 の モ レ キ ュ ラ ー ・ シ ー プ を 入 れ る と 効 果 が あ る と され て い る 。た だ し,フ ィ ル ム の 劣 化 の 程 度 に 応 じ て, 逐 次,新 し い モ レキ ュ ラ ー ・シ ー プ と交 換 して い く こ と が 前 提 で あ る(Ram,  Kop‑

perl et al.1994;Ram,  Pytlak et al.1994)o

  モ レ キ ュ ラ ー ・シ ー プ を フ ィ ル ム の 容 器 内 に 入 れ て か ら,350Cで 劣 化 促 進 させ た 実 験 が あ る(Bigourdan  and  Reilly 1998)。 遊 離 酸 度0.5の フ ィ ル ム を,温 度21。C, 相 対 湿 度50%で 慣 ら し て か ら 金 属 製 の 容 器 に 入 れ た 。 そ こ に,重 量 に し て25%と

5%の モ レキ ュ ラ ー ・シ ー プ を 加>xる と,何 も入 れ な か っ た 場 合 と比 べ て,予 想 寿 命 は,そ れ ぞ れ1.5倍 と3倍 に の び た 。 こ の と き の 予 想 寿 命 と は,遊 離 酸 度 が0.5か そ の 倍 の1に な る ま で の 期 間 を 比 較 し た も の で あ る 。 一 方,モ レキ ュ ラ ー ・シ ー プ を 入 れ ず に,温 度210C,相 対 湿 度20%と い う低 湿 度 の 環 境 に お い た 場 合 に は,フ ィル ム の 予 想 寿 命 の 延 び は35倍 で あ っ た 。 こ の こ とか ら ,モ レキ ュ ラ ー ・シ ー プ を使 用 す る こ と で,有 害 物 質 が 除 去 され 清 浄 な 環 境 が 保 た れ,結 果 的 に は 低 湿 度 の 環 境 下 に 保 管 す る の と 同 等 程 度 の 効 果 が 得 ら れ る こ と が 分 か る。 現 在,取 り扱 い に 便 利 な よ う に パ ッ ク詰 め さ れ た モ レ キ ュ ラ ー ・シ ー プ が,フ ィ ル ム の 専 門 業 者 か ら 酸 と 湿 気 の 吸 収 剤 と して 市 販 され て お り,日 本 で も 入 手 で き る。

お わ り に

  映 画 フ ィル ム の保 存 に は,低 温 低 湿 の環 境 が 適 して い る。 しか し,現 実 的 には,永 久 保 存 を 目指 す のか,あ るい は,保 存 と同時 に活 用 も考 え て い るのか,い ず れ か に よ っ て保 存環 境 の選 択 が 変 わ る。

・永 久保 存 を 目的 とす る フ ィル ム は ,な るべ く低温(で きれぽ0。C以 下)で 保管 す る のが 効 果 的 で あ る。た だ し,資 料 を収 蔵 庫 外 に お く時 間 を極 力短 縮 しない と, 低 温 の 効 果 は極 端 に うす れ る。

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参照

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