四六黄銅の応力腐食割れの発生及び
進行に関する研究(第一報)
応力による割れの進行過程について
↓\
﹂ノ一 俊 介
On the lnitiation and the Propagation of Stress−Corrosion
Cracking in 6g Cu−40 Zn Brass. (Part 1)Observation on the Propagation of Cracking by Means of Stress Changes
Sh孤豆s ke Fuj量ki
To measure the propagatlon of stress−corrosion cracklng continuously is important to study its mecha−
nism. The apparatus was design.ed to contlnuous!y measure stress changes due to stress−corrosi on cracking.
It wa$ hound that stress−time curves obtained fronn stressed specime,ns ln NH,, Vapour had good correlatlon to the crack depth observed by optical microscopy, Based en the curveg., the proceg. s of initiation and the grouth of stress−corrosion cracking w・ere discttssed, but any discontlnuous crack propagation step as not found.
1. 緒
言応力腐食割れは工業の発展に伴って種々の金属材料に現 われ,その閾題となる分野がますます拡がってぎた。この 応力腐食割れの破壊の様式は明らかに脆性破壊であって,
この意味においては低温脆性などと同じ立場において脆化 の原因が追求されなくてはならない。しかしそのあらわれ る形態はさまざまであって,その原因もそれぞれ異った過 程によってもたらされると考えられろ。しかもその進行速 度も一般の脆性破壊に比べてあまりに遅すぎる。一方応力 腐食割れの進行は陰極的電気防食法によって完全に制御で
きることから1)2)3),割れの進行過程において腐食が必須条
件であることがわかる。しかし全過程を腐食によるとする には応力腐食割れの進行速度はあまりに速すぎる。しかも 腐力腐食割れでは引張応力と腐食が必ず共存する,この内 のいずれか一方が欠けると,応力腐食割れは進行を停止す る。焼なましされた黄銅が応力腐食割れを起さないことは よく知られている4)。この為腐食割れの機構についてさまざまな説が提唱されで,・るが5),応力の影響について,全 過程を応力によって加速された腐食によるものと考える
Hoar3), Priest6)等の一段階説と, Dix7)Keat三ng8)等の
腐食とそれに伴う応力集中による機械的破壊作業が交番に 発生して割れが進展するという二段階説がなお対立してい ろ。応力腐食割れの原因を追求するに当っては以上の如く 固体の腐食媒による脆化と応力の影響が明らかにされなければならない。
そのために先ず応力腐食割れの進行過程を連続的に調 べ,これに伴って割れが合金内部でどのような幾何学的形 状をもって発展しているかを知ることが重要である。割れ の進行過程を調べる機械的方法として従来伸びの測定によ る方法があるが3)9)10),応力腐食割れは脆性破壊であるか ら,伸びの測定よりも応力変化を測定する方がより適切で ある。そこで著者は四点支持力式により試験片に歪ゲージ を貼付したOリングを通じて均一曲げモーメントを負荷 し,その応力解放状態を連続的に検出した。それと同時に
.適当な過程で試験片を取り出し,割れの状態を観察したっ
一王29一一
津山高専紀要(第2巻第1号)
2. 試 験 方 法 2・1試 験 片
実験に用いた材料は厚さ5mmの60 Cu−40 Zn黄銅板 で,試験片はこれを圧延方向に切出し,加工の影響を除く ため,表面を200μ研削した後,04番エメリー紙で研摩し 4.6×10×70mmに仕上げた。これをさらに500。C 1時閥 焼鈍し炉中冷却後リン酸クロム酸液により電解研摩して実 験に供した。Table Iに熱処理後の材料の機械的性質,
Tabユe IIに化学成分を示す。
Tab!e 1 Mechanical properties
of test specimens
Elongation
(%)
なお,Oリングにはあらかじめ応力を加えて,応カー歪 ゲージ出力の関係を求めておいた。
試験片は応力負荷装置にセットして,所定の応力を負荷 した後腐食媒中に入れた。腐食媒ぱアンモニア蒸気を用い た。内径15cmのデシケーターにアンモニア水(18%)
を250cc入れ負荷装置の試験片のみがアンモニア蒸気に ふれるようにして密閉した。
経過途中での割れの進行状態およびその形態を調べるた め,試験途中の適当な過程で試験を中止し,試験片を取り 出し,表面の状態および切断面をエメリー紙で研摩後電解 研摩をほどこし顕微鏡観察を行なった。
Tensile strength (kg/mm2)
39. 1 60. 4
Table II Chemica/ composition
of test specimens (%)
Pb Fe
3. 試験結果および考察
Cu Zn
60. 2
R0.005 i o.006
2・2試験装置
試験に使用〔、た応力負荷装置は四点支持の均一曲げモー メント方式のもので,歪ゲージを貼付した0リングを通し て試験片に応力を負荷でぎる
ように作成した。このため試 験片 に負荷した応力を連続的 に測定できる利点をもってい る。Fig.1にその応力負荷装 置を示す。なお0リングは幅
9mm厚さ2mmのニッケ
ルクロム鋼で,試験片に10 kg/mm2の曲げ応力がかかる
状態でε ・一 560×10−6であ
る。
2・3 試 験 力 法
\
Test specimen Fig. 1 Four−point
method of looding.
測定はストレインメーターの出力にバイアス電圧をかけ 電圧の微少変動分も取り出せるようにして行った。Fig・2
に測定装置の概要を示すn
朧e
Dynamlc strain ampUfier
50K
IOOK
Recorder
Fig. 2 Block diagram of apparatus for
the continuous measurement of stresschange.
3・1応カー時間曲線
試験は負荷応力10kg/mm2で行った。応力負荷後しば らく放置し応力の変動のないことを確かめて,アンモニア 蒸気中に入れ,時間の経過とともに変化する応力を測定し
た。
応力の低下は試験片に応力が単独に作用した場合でも生 じる可能性があるので,大気中において10kg/mm2の応 力をかけた状態で40時聞の試験をした。これによると電 圧変動と思われるものが2.5%あったが、応力の低下は認 められなかった。Fig・3に5Vフルスケールレンジに.よる 60Cu−40 Zn黄銅のアンモニア蒸気中における応カー時間
曲線の一例を示す。
8 4 ︵鱈EE\2︸鴇︒盈ω
o
O 20 40 60 80 IOO
Tine {hr)
Fig. 3 Stress change vs time for stress corrosion cracking in NH, vapour.
①
② ③
④
⑤
③
この場合応力は3段階を経て低下していることがわか る。即応力が急激に減少する第1期,時間軸に対して応力 の減少が少く,ほとんど平行状態となる第2期,もっとも 応力低下が急激で破断に至る第3期である。試験の結果で は第1期,第2期の経過時間は一定値とならなかったが,
第3期目いずれもほぼ一定値を示した。
割れの進行の不連続性を報告した文献9)11)があるのでこ の確認のため,歪計の電源に電池を用い,バイアス電圧を かけ,記録計の測定レンジを5mVフルスケルとして,各 一ユ3Q一
藤木 俊介 四六黄銅り応力腐食割れの発生及び進行に関する研究(節一報)
(a) (c) (d)
Fig. 5 Stress corrosion crack of 60 Cu−40 Zn brass.
(a)=@ (b)一=@ (c)一@ (d)一@ (×125×1/2)
期の応力の低下を測定してみた。この結果応力の低下速度 の遅速はあるが,明瞭な不連続性は検出できなかった。こ の試験では,結晶粒段階の割れの進行を測定するのは無理
である。
3・2 割れの進行およびその形態 応カー涛間曲線は割れの 進行状態を示すものであ る、従ってその各時期にお ける割れの実際のようすを 知る必要がある。Fig.3の
①〜⑥は観察のため試験を 中止した応力t時間曲線上 の相対的時期を示すもので
ある。Fig. 4に各試験片の
表面およびその側面を示す。
試験中①ですでにひび状
の割れが多数認められる。
⑥は応力零に達した試験片
である。
(a)
・1
F1勇 , ,A
1 2 3 4 5 6
(b)
Fig. 4 Stress−corrosion
cracks.( a ) Surface of specimens.
(b) Side of specimens
次に試験片内部の割れの状態を観察するために,各試 験片の中央を長手方向に切断し割れの状態をしらべた。
Fig・5にその代表的な例を示す。
割ればFig.5の如く粒内割れである。割れの数は各試 験片ほぼ同数で均一モーメントのかかる20mm内に約30 箇が観察された。割れの長さは第1期ですでに1mmに達 するが,その幅は1μに達しない。第2期においては割れ の長さは第1期とあまり違わないが,幅はFig.5(c)の 如く相当の深さまで広くなっており,或は結節状に腐食さ れているのが認められる。Fig・6に2時間試験のものと5
時間試験のものを加えて,各試験片の割れの最大深さ,お よび深いものより10箇の平均深さを測定しグラフにした ものを示す。但し⑥の平均深さは破断に達した割れを除い た9箇の平均である。
40
讐3。 ;
2 20
:
.
D.to o6
一●一 Mo翼1㎜
SンMoon of d●●P解lo
● .
Fig. 6
20 40 60 80 tOO
TItne {hr}
Depth of stress corrosion cracks.
この割れ進行速度を示すグラフも応カー時間曲線と同様 の傾向を示すことから,応カー時間曲線が応力腐食割れの 進行状態を示すものとみてさしつかえないことがわかる。
以上のことから応カー侍聞曲線の第1期の応力の急激な 低下は,20〜30箇の割れの発生と進行によるものであり,
この間の応力低下は25〜35%程度であった。第2期の応 力低下のゆるやかな部分は,負荷応力の解放にもとずく割 れ進行速度の遅延によるものと考えられるが,割れ幅の増 大よりみて腐食速度は第1期より大きいと考えられる。第
3期は割れのうちの一つが材料の破断をもたらすに至るま で進行をつづけることがわかる。なお第3期の割れの急速 な進行は第2期後半の割れ幅の増大に原因するものと考え られる。割れの様式についてはFig.7の如く明らかに脆 性破壊であるが,その状態については発生初期のものと,
内部のものとでは多少異っている。即初期のものは(a)
の如く分岐が無く,内部の割れば(b)の如く分岐がはげ
一 131 一一
津lll高専紀要(第2巻 第lHf)
t 1, e
逡箋裏:藪
(a) (b)
Fig. 7 Stress−corrosion cracks of 60 Cu−40 Zn brass.
(a) 2hr test in NH, vapour.
(b) lnner cracks of Ot.
3・3 割れの発生時期
割れの発生時期についてしらべるため,同一・条件で2時 闇及び5時間試験し,試験片を取り出し,同じく中央を切 断して割れの発生状態をしらべた。この場合すでに2時間 て23箇,(5時間で27箇日割れを認めた。)割れの長さも2
1時間で300 ,ttに達していた.このことより割れの発生は試
験のごく初期に起り,応カー時聞曲線の初期の低下が,す でに割れ発生によるものであることがわかる。4. 結 言
アンモニア蒸気中で60Cu−40 Zn黄銅の応力腐食割れ試 験を行なうため,0リングを用いた応力負荷装置を作製し た。割れの進行過程を調べる機械的方法としては,従来伸 びの測定によっているが,作製したものは応力を連続的に 測定することがてきる。この装置を用いて応力の低下を連 続的に測定し,それに対応する割れの発生時期,進行過程 を調べた。得られた結果は次のとおりであろ。
(1)応カー時間曲線は割れの発生及び進行状態とよく
一致するため,これ等を知ることができる。
(2)割れの発生はごく初期に起る。
(3) 応力腐食割れ機構の不連続1生は確認できなかっ
た。
(4) 負荷応力の大小のみが割れ進行速度を律するもの
ではない。
し5) 応力腐食割れは脆性破壊の様式を示すが,その進
行速度 litt 通の脆性破壊と比べて非常におそいL
参 考 文 献
1) R. B. Mears, R. H. Brown and E. H. Dix:
Symposium on Stress−Corrosion Crocking of Metals. [ASTMj, (1944).
2) C. Edeleanu: J. lnst. Metals, 80 (1951), 187.
3) T. P. Hoar and J. G. Hines: J. lron Steel Inst., 177 (1954), 248 ; 182 (1956), 124 : 184
(1956), 166.
4) S. Beckinsale: J. lnst. Metals, 29 (1923), 285.
5)たとえば,大谷南海男「金属表面工加理論」楓書