『Б.Г.プロシュコと統計利用研究』
浜砂敬郎
『Some Problems of the Use of Statistics
with Special regard to Б. Г. ПЛОШКО』
KEIRO HAMASUNA
目次 序
‖若干の予備的考察 仁)グループわけ論 田統計指標論
画統計利用研究におけるプロシュコの意義 結びにかえて
序
(1)
戦後ソビエト連邦の統計学論争(1948‑1954)において,わが国に紹介された統計学者の一人
(z)
にb.r.プロシュコ(nAoniKO)がいる.プロシュコは,近年[TPynnHPOBKA H GHCTE‑
Mbl CTATHCTHHEGKHX nOKA3ATEAE故』 (以下『本書』と略する)と適する著作をあら
(3)
わした.それは統計利用に関する研究であって,表題が示すように,グループわけと統計指標と
(4)
が考察の中心である.
プロシュコは,統計学論争のなかで,統計学および統計利用研究に関してつぎのように述べて いる.
「それ(統計学一引用者)は,統計計算の理論と規定すべきである.この規定は,あらかじめ
統計方法,統計的分析の方法と手読に関する理論的な研究を含む.しかし,規定は同時に,歴史
的に形成される統計組織・機構,統計労働の組織化等々の問題を包括する.ゆえに,統計学は他
のすべての社会科学の対象とは完全に区別でき,しかも厳密に規定できるそれ自身の研究対象を
もつ.それは統計計算であって,この概念は,広義には社会生活の統計的認識にかかわる複雑か
つ多様な人間活動を内包する.歴史的に展開する統計計算の組織および国家の統計調査にはじま
り,社会生活に関する個別的な科学研究における統計利用に終る統計的研究の実践,そしてこの 実践に通用される統計的分析の方法と手続‑,統計学は,これらをすべて考察する.それは, 統計機構を組織化して,統計的研究を推し進めて,統計的観察および分析の方法を基礎づける科 学的な原則を規定しなければならない.それは,統計的方法をもちいて社会生活を研究するすべ ての科学に対して,統計計算が与える資料の信頼性と科学的な確実性を保証しなければならない.
・‑‑ (中略) ‑・‑
われわれは,種々の社会部門において,いろいろな政治的,経済的かつ科学的な課題を解決す
(5)
るために統計計算に依存する.」
われわれはこの叙述から,統計利用研究に関して,立場が異なる二つの観点を読みとることが できる.
観点の第‑.統計計算は,理論的・技術的な活動であって,科学的な原則にもとづいて統計観 察と統計的研究(統計的分析)をおこなう.したがって,統計学は統計方法を理論的に考察する ことにより,統計資料の科学性を保証しなければならない.そして,統計利用研究が志向する課 題が,統計指標体系の構築である.この観点は,つぎの文章においていっそう明確にあらわれて
いる.
「統計学は,負わされた課題を解決することによって統計計算組織の科学的な基礎,すなわち 統計観察および分析の原則を確立する.研究すべき社会過程の具体的な性格に関する情報を他の 科学から獲得することによって,統計学は,客観的な実在,すなわち社会現象および社会過程が
(6)
発展する法則性を数量的に把握する統計指標体系を作成する.」
わが国におけるプロシュコの紹介者の一人,大橋隆憲教授は,統計学‑社会科学方法論説の立 場から,彼の統計計算論を統計方法論として考察されたが,それは,教授がこの観点を重視され
(?)
たからである.
観点の第二.統計計算は,統計方法行程として理論的・技術的な側面をもつとともに,歴史的 に形成された特殊な社会的労働過程である.それは,統計観察‑統計作成活動においては社会構 成体のなかに統計機構として定位するが,統計利用実践においては利用主体の社会的立場と活動 の方向に相応して, 「政治的・経済的および科学的」な実践に分岐する.統計利用研究は,統計 の政治的,経済的および科学的利用そのものを考察して,その歴史的社会的性格を明らかにする.
この観点は, 1954年3月『統計学の諸問題に関する科学会議』 (モスクワ)における彼の「発言」
においては,つぎにみるようによりに鮮明に示されている.
「統計は,理論的な活動ではなく,人間の社会的,政治的,経済的,生産的実践に組織的に関 係する,まずなによりも,人間の実践的な活動である.この活動の内容は,具体的な事実の,与 の全体における,その現実的な関係における調査である.こうした調査は,社会生活の効果的・
計画的指導のために,また,社会的認識の目的のために必要であり,決定的に重要な役割をはた
(8)
す」
b. r.プロシュコと統計利用研究
3
(註)なお付言すれば,広田純および山田耕之介の両教授はこの第二の観点に注目して,プロシュコの見解 を,統計学論争に登場した三つの学説(実質社会科学説,社会科学方法論説,普遍科学説)のいずれ
とも異なる「独自の見解」として紹介されている.
(9)ここに,プロシュコの見解を摘要したのは,そこに社会統計学における統計利用研究を二分す る観点があらわれているからである.換言すれば,それは主体的な活動目的に適合する統計方法 を理論的,技術的に確立せんとする統計利用方法論と,社会経済的主体の統計利用そのものを研
SB
究対象と措定して,その社会的形態と歴史的性格を解明せんとする統計利用論との出合いである.
こんにち,国家独占資本主義の段階に達した資本主義社会においては,国家をはじめとする社 会経済的主体がそれぞれの社会的活動に即して末曽有の統計利用実践を展開し,他方,社会主義 社会においても,国民経済の計画と管理とが統計の体系的な利用を不可欠なものにしている.こ のような事情から,わが国でも,統計利用の歴史的階級的性格を全面的に明らかにする社会科学
Ot)
としての統計利用研究が問題意識にのぼっている.
ところで,ソビエト統計学論争よりはぼ二十年の歳月が流れた.その間,実質科学説のコズロ
鯛
フは,統計的研究方法論に転じ,社会科学方法論説のドルジーニンは,普遍学説(数理派)に傾
BE
むき,さらに数理派のネムチーノフは,経済サイバネテックス論や経済バランス論に進出してい
帥
る.このようなソビエト統計学の動向のなかで,プロシュコは,その後いかなる統計学を確立し えたのであろうか.興味ある問題である.
(I)ソビエト統計学論争については多数の細介および研究があるが,そのうち主要なものはつぎのとおりで ある.
統計研究会訳編rソヴエトの統計理論J (農林統計協会, 1952年)
経済統計研究会訳編rソヴエトの統計理論(II) J (農林統計研究会, 1953年) 有沢広己編r統計学の対象と方法J (日本評論社, 1956年)
山田耕之介「ソ同盟統計学論争」 ( r現代社会主義講座J (東洋経済)第Ⅳ巻所収, 1956年) 広田純「ソヴエトにおける統計学論争」 ( r統計学辞典j増補版(東洋経済)所収, 1957年) 内海庫一郎「ソヴェート統計論争」 ( F社会統計学の基本問題j (北海道大図書刊行会, 1975年)所収, 1963年)
大橋隆憲「ソヴェト統計理論の方法論的性格‑N. K.ドゥルジーニン批判の吟味‑」 ( r現代統計 思想論J (有斐閣, 1961年)所収, 1957年)
(幻プロシュコの紹介者はつぎのとおりである.
山田耕之介「「統計学の諸問題に関する科学会議」の検討‑その‑議事録を中心に」 (上掲r統計学 の対象と方法J所収) p.87‑p.
同,上掲「ソ同盟統計学論争」 p.267‑P‑268‑
広田純「「統計学の諸問題に関する科学会議」の検討‑その二決議を中心に」 (上掲『統計学の対象 と方法J所収) p. 'P.i
大橋隆憲上掲p. 57‑p.63‑
(3) 1971年, mOCKBA, CTATHCTHKA,
(4)ソビエト連邦におけるグル‑プ分け研究の動向については.杉森洗‑ 「グループわけと平均」 ( r統計 学J第30号, 1976年)参照
し5) 「O npe^Mexe cTaTHCTHHecKio員HayKH」 (FBeCTHWK CTaTHCTHKHj 1953年M 2) c 61‑c62
(6)同上注ち) c (7)大橋上掲
(8) 「0630p HaynHoro coBemaHH兄no BonpocaM craTHCTKH」 (FBeTHHK CTaTHTHKH』 1954年, M. 5) 邦訳上掲r統計学の対象と方法J p. 152,
(9)広田,山田上掲注(2)参照
00)わが国の統計利用研究については拙稿「統計利用」 (『統計学』 30号所収, 1976年),西ドイツにおいて は,例えば『UMRISSE EINER WIRTSCHAFTSSTATISTIK・‑Festgabe fur PAUL FLA‑
SKAMPER Zur 80, Wiederkehrseines Geburtstages』 (1966年)参照
(IDこの点については,大屋祐雪「反映‑模写論の立場と統計学」 (『統計学』第13号, 1964年) 「批判統計学 の前進のために‑近会員の疑問に答える‑」 (『統計学』 1973年)以下一連の論文参照.
佃野村良樹「ソヴエト統計学会議以後の統計学著作について」 (『経営研究』第29号, 1957年)および「現 代統計学の諸問題(2)」 (内海,木村,三瀬編『統計学J第20講, 1966年)参照
03)是永純弘「統計的合法則性についての一考察N. K.ドルジ‑ニンの見解について」 (『経済志林』 3 巻4号, 1962年),近昭夫「大数法則をめぐる諸問題」 (『統計学』第17号, 1967年)参照
84)森博美「経済サイバネテックスに関する一考察‑ネムチーノフの経済管理論について」 (『経済論究』
32号, 1974年)および「統計数理派の‑原型‑B. Cネムチ‑ノフの統計学‑」 (『経済学研究』第 41巻, 1976年)参照
(‑)若干の予備的考察
1970年代におけるプロシュコの統計利用に関する研究は統計的研究過程論として展開する.
統計的研究過程とは,プロシュコによれば「現代の統計を特徴づける性格は,機能の多様性で ある.統計は社会認識の武器として,行政・管理的,経営的活動,すなわち企業,生産コンビナ ート,経済部門および国民経済総体の管理,そして国民経済を計画化する実践,さらには科学研 究等々において広範に利用される.
ゆえに,認識すべき現象や事象を考慮すれば,統計は記述に止どまることはできない.それは, 固有の法則性を把握して数量的に記述するため一に,研究すべき(対象)過程にとって典型的かつ 本質的な特徴を把握する」ものである(CTP 4).換言すれば,統計的研究過程とは,いろいろ な社会経済的主体がおこなう統計利用実践の基本的一般行程のことである.
統計的研究過程は,統計データーの収集,加工および分析の三つの行程から構成される.そし て, 『本書』においては,考察は,もっぱら第二の統計加工行程に向けられている.なぜなら, 統計加工の方法が,グル‑プわけと統計的総括(cTaTKGT的eacaa CBO,4Ka)とからなり,その操 作が,理論的な基礎づけを最も必要とする局面だからである( 『本書』はしがき).
研究領域の措定につづいて,プロシュコは統計論さらには集団論をふまえて,グループわけお よび統計的総括の必要性に言及する.そこでは,統計が,つぎのような一面的,形式的性格をも
っていることが指摘されている.
1)統計は,社会現象を,バラバラに分解された単位の集合体‑統計集団として反映すること.
(CTP5).
2)社会現象は,調査標識となる単位の属性についてのみ,一面的,横断的に記述されること
6. ド.プロシュコと統計利用研究
5
(CTP 12‑CTP 13, CTP 66).
現象の世界においては,統計単位は社会的,自然的属性を担う個別事象として社会集団の構成 要素である.これに対して,統計集団は,一面的形式的に規定された調査標識をもつ個の集合体 である.プロシュコは,統計集団が社会集団から「帝離」することに,統計加工行程の存在理由 を求める.そして,グループわけと統計的総括の課題は,可能なかぎり統計集団を社会集団に近 似させることにより,社会構造を模写する集団構成を形作ることである.社会科学的認識と統計 的認識の関係という観点からみれば,これは,統計の一面的,形式的性格を克服せんとして,両 者の「間隙」を埋めようとする試みである.
もとより,プロシュコにおいても,社会集団は,偶然的な変動を運動様式とする同質集団では ない(CTP 7).社会集団は,文字通り,労働者集団,企業集団,農民集団等々であって,社会 経済過程から受ける多様な被規定性をもつ.さらに,それは,社会過程内部の対立的性格を反映 して,生成,発展する集団現象である.換言するならば,社会集団は個別事象の複合体であって, 社会現象の内部矛盾は,集団次元においては,個別事象の発展の不均等性となってあらわれる.
それを,統計集団は,単位標識の質的ないしは量的差異性として反映する(CTP H‑CTP 14).
したがって,彼にあっては統計集団を社会集団に近似させるために,つぎのような二つの方法 操作が必要となる.
(∋統計単位を,単位標識の差異性にもとづいて区分けする方法操作.この方法操作の通用に よって統計集団は,いくつかの部分集団(qacT王壬a兄GOBoKyra壬OCTb)に分割された全体集団
(06唱a兄GOBOKynHOGTb)に再編成される.
⑧単位標識値の類別集計と解析演算によって,部分集団内の同一性と部分集団問の差異性を 記述する方法操作.
この二つの方法操作のうち,前者がグループわけであり,後者が彼のいう統計的総括である.
それゆえに,調査標識も,分類標識と統計指標(cTaTHCT式jiecK旺丘noKa3aTeAb) (総括指標)とに 分けられる.
(註)本節において,私は,プロシュコがあたかも統計集団と社会集団を明確に区別しているかのように論 述しているが,それはプロシュコの用語法をわが国の社会統計学の慣用法になおすことによって,
r本書』の論旨をより鮮明にすることができると考えたからである.
(二)グループわけ諭
プロシュコは,グループわけについて,考察の論点を二つに絞る.それは, (1)統計的研究過程 におけるグル‑プわけの意義(CTP 19‑CTP 26)と(2)グル‑プわけの理論的過程(TeopeTil‑
^eGKM丘npo顎ecc)とである. (CTP26‑CTP58).ここでは,第二の論点からみていくことにしよ う.プロシュコは,グル‑プわけの方法操作を理論的過程と技術的組織的過程(opra王壬H3ajjHOHHO‑
TexH的eCKH丘npoijecc)の二側面から捉える.理論的過程は, (i)類型(T即)規定とそれにもと
づく部分集団の規定. (ii)分類標識の決定,および(iii)分類間隔の確定の三つの行程から構成 される.それを受けて技術的組織的過程は, (i)統計デークーの整理. (ii)分類作業および(iii) 製表の手続をとって進行する.
さて,プロシュコは,考察の焦点を理論的過程に定めている.それは,理論的過程が技術的組 織的過程を規整することから,理論的過程の考察によって,研究対象に方法操作を通用する論理 的規定を明らかにすることができるからである.
プロシュコによると,理論的過程の決定的な局面は,類型および部分集団の規定である.プロ シュコの言うところを聞こう.
「部分集団およびそれに対応する類型概念は,経済理論の重要なカテゴリーである.同一性を もつ統一的な現象体である部分集団を,質的・量的な関連において措定しなければ,統計的な認 識の本質,特にその重要な地位を占める統計的総括の本質を理解することはできない.
B. H.レ‑ニンは極めて広範に≪類型≫の概念を利用した・・‑・ (中略)一一.癖計学の課題は, 何よりも社会生活に認められる類型の研究にもとづく.」 (CTP 12)
さらに, 「運動する発展過程においては,どこでも具体的な形態の多様性,種々の外的な条件 によって規定される特殊性が見受けられる.それゆえに,研究対象の特質を把握する理論的な一 般規定は,調査活動のデ‑メ‑,他の統計的研究,体験的経験的な活動,統計の一般化と分析, さらには類型を措定するために予備的, 『実験的』,連続的,不連続的におこなう統計加工によっ て補完かつ具体化されねばならない」と(CTP35‑CTP36).
こうして,グループわけの理論的過程は,経済学の概念規定にみちびかれて,階層,階級およ び部門等を類型として捉える.つづいて,類型は,その理論的抽象的規定から,直接的間接的経 験を素材とする経済分析と予備的な資料分析によって,部分集団の特殊具体的規定に転位する.
̲措定された類型‑部分集団は,統計表に,分類標識によって統計単位を類別する分類カテゴリ ーとして設定される.したがって,類型一部分集団の規定が,理論的過程を規制し,さらには技 術的組織的過程を規整するためには,類型規定に適合する分類標識が,既に統計調査によって獲 取されていることが不可欠の要件である.しかし,それは,プロシュコにおいては所与のものと して前提されている.
(註) 「類型化の課題は,研究すべき全体集団を周囲の現象から切離して,発展を規定する特質を把握する ことである!課題は,すでに統計活動の第一段階,すなわち対象を規定する観察の段階において.義 本的には解決されている.しかし,必要な具体化と実質化は,類型規定において解決される」 (CTP
33).
したがって,プロシュコは,分類標識の決定過程においては,関心を,統計的認識の一面性を 補正する方法によせる.方法は, (1)複数の分類標識を組合せてもちいること(分類標識の結合利 用)と(2)条件標識をあわせて利用することである.第一の結合利用法は,類型を多面的に記述す ることによって,標識のつぎのような制約をとりのぞこうとするものである.
①集団現象の存在条件が異なれば,それを反映する標識の実質的な意義も変移すること(C
b. r.プロシュコと統計利用研究
7
TP 37‑CTP 39)
⑧集団現象の本質的側面を捉える分類標識でも,一面性を免れえないこと(CTP39)
⑨単一の分類標識では表示しえない部分集団問の差異性が存在すること(CTP39‑CTP41).
他方,条件標識は,集団現象の存在条件を表示することにより,分類標識の類別効果を高める.
プロシュコは,例として,産業部門ごとに異なる階層分解の程度・条件を浮き彫りにするために 階層分類標識を補正する部門分類をあげている.とくに,存在条件(この例では部門)によって, 分類標識が異なるときには,条件標識を欠くことはできない.
(註)プロシュコは,その例として,レーニンのF発展』の挿入付表(p. 636‑p. 637)をあげている.
分類間隔の確定過程は,分類標識の質的ないしは量的差異にもとづいて,類型‑部分集団の外 延的範囲を境界づける(CTP46‑CTP58).
こうして,理論的過程のおわりには,類型カテゴリーを統計表の表側に設定することが可能に なる.
これまで,理論的過程の特徴を素描してきたが,そのことから,グループわけの意義もおのず から明らかになる.それは,分類カテゴリーの設定によって,全体集団に社会類型を模写する構 図をあたえることである.したがって,プロシュコによると,グループわけの回避は,そのまま 統計指標の分析概能のまひを意味する.なぜなら,回避によって, 1)統計指標は,類型‑部分 集団の存在を表示できないし, 2)統計指標の種類も,部分集団のすべてに皮相にかかわる標識 に限定され,さらには, 3)同一の統計指標でも,その実質的意義が部分集団によって異なるこ とが看過されるからである(CTP30‑CTP31).
レーニンが,グループわけの軽視を「統計的クレチン病」と霞称していらい,多くの統計学者 や経済学者が,そのことを総平均の「虚構性」とか「無概念性」と批判してきている.われわれ は,プロシュコが,統計(集団)論および統計指標論の観点から,グループわけの積極的な意義 を捉えなおしている点に注目したい.
(三)統計指棟論
プロシュコにおいては,グループわけが統計的認識の対象措定であるのにたいして,統計的総 括は対象の統計的記述である∴統計的総括は,統計指標によって部分集団内の同一性と部分集団 問の差異性を表示する.これを統計表においてみれば,分類カテゴリーが表側に「行」として配 されるのにたいして,統計指標は,表頭に「列」として配列される.したがって,統計的総括は, 論理的にも形式的にも,類型‑部分集団の統計表示である.
(註) 「統計デrクーの総括は,全体集団,部分集団,集団単位,標識とともに,統計学の概念のなかに, もう一つの重要な概念として指標(‑統計指標)を加える・ (統計)指標は,集団現象の全般的な傾 向を捉えるために,集団現象に関するデータ一にもとづいて集団のいろいろな特徴を計数的に表徴し
たものである」 (CTP 62‑CTP 63).
統計指標論において,プロシュコは,つぎの三つの論点をもっぱら考察の中心においている.
(1)統計指標の一面性と形式性(CTP63‑CTP67) (2)統計指標の種類および機能(CTP74‑CTP 104) (3)統計指標体系(CTP67‑CTP73, CTP 105‑CTP 153).
そこで,われわれもまた,この順序にしたがって,プロシュコの統計指標論に関する所説をみ ていくことにしよう.
統計指標の⊥面性・形式性は,統計集団論およびグループわけ論において考察した単位標識の 一面的形式的性格に基因する.いうまでもなく,統計指標は単位標識値の集計・解析によって得
られるから,それは社会集団の横断的構造を側面から記述する.ゆえに,統計指標においては, 単位標識の一面的形式的性格が,さらに集団標識の一面性・形式性として強められる.プロシュ コによれば,統計的研究過程は,こうした統計指標の限界を, (1)先述のように,グループわけ を統計的総括の土台に据えることと(2)統計指標の体系化によってとりはらわんとする過程に はかならない.
つぎに,プロシュコは統計指標を,対象記述機能の観点から考察する.それによると,統計指 標は, 1)集団の大いさを記述する指標, 2)集団単位の典型的水準を表示する指標,さらに,
3)集団内の構成変動を分析する指標にわかれる.
1)の大いさ指標は,類型問の対立性を計数的に明示するために,単位および単位標識値の類 別集計と解析(構成比が主)により,部分集団の絶対的相対的規模を表示する.また, 2)の水 準指標は,平均値や密度比率をもちいて,部分集団に属する単位の典型的水準(集団水準)をと らえる.それによって,類型問の発展の不均等性が部分集団間における集団水準の量的差異性と して計測される.
3)の変動指標の機能は,二つである.一つは,さきの水準指標(平均値や密度比率など)に 関して,その実質性を,換言すれば指標の実像性を吟味することであり,二つには,集団水準の 変化の様相を記述することである.したがって,変動指標は,部分集団の単位を細分類すること によって部分集団内の同一性と集団水準の変化の方向を表示することにより,類型の相対的安定 性を「計量」する.
ところで,こうした対象記述機能をもちながらも,統計指標は,先述したように(集団)標識 の一面性,形式性に制約される.しかも,その制約が,分類標識におけると同様に,標識の性質 に起因するので,統計指標の一面的形式的性格は,指標標識の結合利用‑統計指標の体系化によ
らて補繕されねばならない.これが統計指標体系である.
プロシュコは,統計指標体系を,一般指標体系(06i道He cHGTeMH noKa3aTe入e丘)と特殊指標体 系(laCTHble G瑛GTeMbi noita3aTe入e員)とに分かつ.
一般指標体系は,社会過程の発展の一般的特徴と傾向を捉えるために,類型の基本的な政治経
済的徴表を多面的に記述する.他方,特殊指標体系は特定の政治経済的徴表を,さらにいくつか
の統計指標に分解・記述することにより,社会過程の特殊的性格をえぐり出す.こうして,プロ
b. r.プロシュコと統計利用研究
9
シュコにおいては,一般体系と特殊体系は,社会現象の類型的構成を,全側面から照射せんとす る統計指標体系の双眼として位置づけられる.
これが,発展過程を一般性と特殊性において捉えようとするプロシュコの統計指標体系の構想 である.
05)
プロシュコは,レーニンの統計表(つぎの上表と下表)杏,一般体系と特殊体系を例示する好 個の資料として掲げている(CTPU2, CTP113).この統計表をみることによって,これまで抽 象的に論じたことが,具体性をもって理解できるのではなかろうか.
(上表)
両表は,同一の原資料を加工したものである.また,分類標識の役畜も共通しており,分類カ テゴリーとして「貧農」, 「中農」および「富農」の三類型が措定されている(表中の点線は,そ れを示す).
さて,上表の七つの統計指標が,一般体系を構成する.それは,類型の規模の不均等性( 「戸 数」, 「人口」, 「総作付面積」, 「家畜総頭数」の構成比),と典型的水準の差異( 「平均作付規模」,
「一戸あたりの家畜頭数」),さらには類型内の( 「非作付農家」の構成比)を計測することによ り,農民層分解の一般性と分解の程度を明示する.
他方,下表の七つの統計指標は,すべて「土地利用」にかかわる経済徴表であって, 「分与地」,
「借地」および「貸出地」について,類型問の典型的水準の差異性と相対的規模の不均等性を表 示することにより,対象地域の農業における資本主義発展の特殊性‑ 「借地の意義」を捉えてい
る.これが,特殊指標体系である.
最後に,プロシュコは,統計的研究過程が,グループわけと統計指標体系によって,統計のも つ一面的形式的性格を克服できると考えているのであろうか.それに対する彼の回答は,否であ
る.それは,これまでの考察から明らかなように,グループわけ,さらには統計的総括の通用が, 社会科学の理論にもとづくとはいえ,統計方法操作の次元においては, 「集団」のなかだちを基 本的要件とするからである.すなわち,両方法の操作によって,部分集団の措定がおこなわれ, それによって統計的総括が社会現象の類型的構成を模写することではできても,社会過程の内奥 を構造的に把握することはできないからである.
(後註)なお,プロシュコは,特殊体系として,相関指標体系(相関分析と要因分析)と動態指標体系(物 価指数など)をもあげている.しかし, ①両者が『本書』においては補足的にとりあげられてい ること.また二①一般的な説明の域を出ないことから,本稿では,その考察を省略した.
(15)レーニン『ロシアにおける資本主義の発展』全集第三巻14表(邦訳P. 74), 16表(同p. 77) (四)統計利用研究におけるプロシュコ理論の意義
これまでの考察において,われわれはプロシュコの統計的研究過程論の特徴を,統計(集団) 請,グループわけ論および統計指標論として,ある程度まで明確にすることができたと思う.そ
こで,私は統計利用研究の現段階におけるその意義を考えてみたい.
評価の手がかりとして,統計学論争におけるプロシュコ自身の見解に照らして彼の統計的研究 過程論をみると,それが第‑の観点に立つ統計利用研究の具体的な展開であることは明らかであ
る.
なぜならば,すでにみたように, F本書』の研究課題は,統計的研究過程におけるグループわ
けと統計指標の役割を解明することであった.そして,プロシュコは,対象反映性の観点から,
社会現象と統計対象の関係,統計対象にたいするグループわけおよび統計的総括の通用論理,さ
b. r.プロシュコと統計利用研究
Ill
らには社会科学的認識と統計的認識の関係を考察し,それにもとづく統計的研究過程論の帰結が 統計指標体系の構想だったからである.したがって,われわれの評価も,まずこの点に向けられ
ねばならない.
プロシュコ理論の第‑の意義は,統計対象論の観点から,システマテイツクな統計利用方法の 操作系列を確立せんと試みていることである.
プロシュコは,考察の対象をグループわけと統計指標との理論的過程に限定していた.すなわ ち,グループわけ論においては,社会経済分析‑類型規定一部分集団の規定‑分類標識の決定‑
分類間隔の確定という方法操作の規定系列が,そして,統計的総括論においては,類型規定一部 分集団規定‑統計指標の機能と,発展過程の一般性・特殊性‑統計指標の一般体系・特殊体系と の二つの対応系列が理論的過程の問題として確立されている.さらに,グループわけの規定系列 と統計的総括の対応系列は,類型規定‑部分集団規定を基軸として結びつく.グループわけと統 計的総括との連結によって,プロシュコ理論は,対象措定‑類型規定から対象記述‑統計指標体 系に至る統計方法の操作系列について,社会の類型的構成に照応する論理一貫性を得る.
このようなプロシュコ理論の特質は,例えば, 0.ランゲのグループわけ論および統計指標
(綿
(‑統計集団記述論)と対比するとき,いっそうきわだってくる. (つぎの図表参照)
技術的組織的過程
プロシュコのグループわけ論
理論的過程
ランゲのグループわけ論
(1)統計集団
(2)統計系列
(i)分布系列(一時点分類) (ii)動態系列(時系列化)
(31クラス標識の説明 i)可測な標識と不可測標識
I I
ii)量的標識と質的標識
二三
(41クラス間隔の注意 i)境界 ii)間隔数 iii)等間隔
(5)統計表形式の解説 i)図示法 ii)分布曲線など
プロシュコの統計指標論
(1)統計指標
①大いさ指標フ1)部分集団問の差異性
⑧水準指標乙̲ 2)部分集団内の同一性 /
⑨変動指標と̲ 3)部分集団の相対的安定性 (2)統計指標体系
I冨志芸芸,: ‑ 千;;芸展芸程芸 般性
ランゲの統計集団記述論
①平均値,最頻値および中史
㊤標準偏差 値の比較 (り変動係数
‑ 1)集団の非対称度 I ‑ 2)集団の変化度
④集中曲線(ローレンツ曲線)一‑ 3)集団の集中度 (り数学的分布‑ 4)集団分布
ランゲは,統計集団を同質集団と捉 えて,グループわけにおいては, 「時」
の観点からの統計系列の区別,可測性 と不可測性を基準とする分類標識の種 類,分類間隔の境界点,間隔数および 間隔の長さ,そして統計表の表示方法 について形式的技術的な解説をおこな う.それに,社会経済分析の必要性が 補足的に付言される.
また,統計指標論においても,同質 集団の分布について,分布の非対称度, 変化度および集中度を表示する数理解 析の手続が一般的に解説されているに すぎない.
それゆえに,ランゲにおいては,グ ループわけと統計的総括は,統計集団 を同質的な大量現象と捉えて,系統因 子の作用と偶然的な変動を記述する形 式的技術的な作業手続にすぎなくなっ ている.これに対して,プロシュコに おいては,両方法操作が,社会集団の 観点から統計集団を捉えなおすことに よって,社会の類型的構成を把握せん とする統計的認識の理論的過程にまで 高められている.
つぎに,プロシュコ理論の第二の意 義は,経済分析における統計利用実践 の従属的性格を明らかにしている点に ある.
先にみたように,グループわけ.と統 計的総括は,分類標識の結合利用と統 計指標の体系化によって,統計表に社 会現象の多側面的な統計量をもたらす.
しかし,両方法の操作が,統計集団の
b. r.プロシュコと統計利用研究
13
次元において適用されるために,統計的認識は,平面的な集団構成をフィルターとして社会現象 を模写する.したがって,統計的認識は,統計集団の再編成によって,.社会の類型的構成を捉え ることはできても,社会過程の内部構造を重層的に把握することはできない.レーニンは,統計 が,社会経済主体相互の複雑な絡み合いを十全に表示できないことを,マニュファクチュアの経 済構造樗よせてつぎのように指摘している.
ト・‑ひとことでいえば,商業資本と産業資本とのあいだのきわめて緊密で不可分な関連は, マニュファクチュアのもっとも特徴的な特殊性の一つである. 『買占人』は,ここではマニュフ
ァクチュア経営者(多少とも大きな仕事場ならどんなものでも「工場」にいれる,通俗的な,正 しくない用語によれば「工場主」 )とほとんどつねにからみあっている.だからたいていのばあ い,大企業経営の生産規模にかんする資料(‑統計資料一引用者)は,わが国の「クスターリ営 業」における大企業経営の真の意義については,なんらの観念も与えない.というのは,こうい
う企業経営主は,自分の企業経営内で働く労働者の労働をつかっているだけでなく,多くの家内 労働者の労働や,また彼らが「黄占人」として関係する多くのquasi (えせ)自立的な経営主の
帥
労働までも(de facto 〔事実上〕 )つかっているからである」
このように,統計資料に客観的な対象性を保証するためには,統計利用方法は,対象措定(類 型規定),方法操作の通用についてはもとより,適用結果の吟味甚ついても,社会科学の理論に 依拠せざるをえない.換言すれば,統計は,社会科学的な理論体系に包摂されることによっては じめて,社会現象を活写する研究資料となる.したがって,また統計利用方法論も,経済学研究 においては,経済分析論に包含される.これが,社会科学的認識と統計的認識の関係についての プロシュコ理論の帰結であって,それはレーニンのつぎのような統計利用に関する論述と,その 符節を一つにするものである.
「第‑に,機械制大工業の発展にかんする問題を工場統計だけに帰着させるのは,おかしなこ とである.この問題は,統計の問題であるばかりでなく,ある国の工業における資本主義の発展 が経過するもろもろの形態と段階にかんする問題である・.これらの形態の本質やそれらの特徴的 な特殊性があきらかにされてはじめて,適当に加工された統計資料によってあれこれの形態の発
(坤、
展を説明するLとが意味をもつのである」
(註)プロシュコは,すでに1964年に経済学と統計学の関係について,つぎのように述べている.
r革命以前の統計学に関する概観は,統計学を経済学に不可分に関連づける,すなわち統計学を経 済学の要請に従属させる一定の傾向が存在することを確認する」
「周知のように,これらの研究の特徴は,経済学的な分析との有概的な関連胤すなわち当時の壷 .要な社会経済問題についての統計方法論上の解決が,経済学の命題にもとづいてなされていること,
叫
これである」
ところで,これまでプロシュコ理論の意義を,統計加工方法論と経済分析論の観点から評価し
てきたが,それでは,彼の統計方法論は全体として統計利用研究にどのようにかかわっているの
であろうか.
プロシiコの統計利用方法論の基底には,統計論が据えられ,そして,統計加工方法の必要性 についても,社会科学的認識‑の統計的認識の従属的性格についても,基本的な論拠が,統計の もつ一面的形式的性格に求められていた.
さて,統計の一面的形式的性格は,統計調査における調査標識の理論的技術的規定から受ける
軸
統計の経験批判論的性格に起因する.この統計に特有な性質が,統計靭査の技術的組織的規定に かかわるものである以上,プロシュコ理論は統計の歴史的社会的側面にではなく,統計の一般的 抽象的側面に規定された統計方法論の展開といわねばならない.
さらに,統計の経験批判論的性格を克服せんとする主体的,棟能的な観点から,統計対象と統 計方法のかかわりあいが考察されるとき,そこから形成される理論は,統計方法の理論的技師的 性格をふまえた操作手続にかんする統計利用方法論である.
こう考えてくると,プロシュコ理論は,対象反映性の観点から展開される主体的,操作的な統 計利用方法論の一般的特質の記述であるということができる.
O.ランゲr社会主義体制における統計学入門』 (1952年,邦訳1954年)第3章,第4章.
帥レ‑ニンF'発展』邦訳レ‑ニン全集第3巻p. 457.
0ゆr発展.I邦訳P.474.
0功B. nJIOIUKO 「H3 HCTOpHH B3IVIAOB Ha B3aHMOOTHOUieHH兄riOJIHTHHeCKO蕗3KOHOMHH H
craT打CTHKH」 (FBeCTHHK CTaT占cthkhJ, 1964年,必5 ) CTP32‑CTP33‑
eO大屋祐雪「標本論理の論理」 ( r統計学』第12号, 1964年)参照
結びにかえて
統計利用方法論として,統計論,統計加工論および経済分析論の観点から評価すべきプロシュ コの意義は高い.
しかしなお,私には,'プロシュコ理論が,統計利用研究の現代的な課題の半面にしか答えてい ないように思われる.すなわち,彼が統計学論争でもっとも強く主張し,またわが国で「独自の 立場」と評価されたところの第二の観点は, r本書』のなかにおいてはすでにその影をわそめ, 第‑の観点こそが,プロシュコ統計学の内実をなすとさえ思えるほどである.さらに, 1975年に プロシュコがおこなったつぎのような言明をみるとき,われわれは,プロシュコ理論の特質を再 検討せざるをえなくなる.
「将来において,数理統計学がより深く,より完全に認識対象の性質を規定し,また(社会経 済統計学の・‑引用者)一般理論が,対象の本質を把握する研究方法の形成過程において大鰐槙 に現代数学の装置をもちいることは十分に予想される.いずれも,数理鹿計学と社会経済統計学 の一般理論との接近をもたらすにちがいない.近い将来に,この接近は進行して, 「存在」を獲
帥
得するであろう」
ここでは,プロシュコが,統計学‑普通科学方法論説さらには統計学‑数理統計学へと変質し
ているようにさえ見受けられる.
6. rプロシュコと統計利用研究
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プロシュコばかりではなく,すでにわが国の識者によって紹介されているように,コズロフ, ドルジーニン,ネムチーノフらが,実質科学説‑社会科学方法論説‑普通科学方法論説‑数理派 に変転していくかのような徴候を,われわれは,どのように理解したらよいであろうか.これは 現代ソビエト統計学の発展とその性格を知るうえで追究されねばならない一つの課題である.
¢d r. njioiiiKO 「CoaI*aJIbH0‑3こくOHOMHHeCfくan h MaieMaTHHecKa兄CTaTHCTHKa」 (『BeCTHHK CTaTH‑
TI化Hj 1975年,.砿5) CTP42