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(1)

3 章 運動と心肺機能の変化

はじめに

千住 秀明

わが国の死因は,1987年以降1位悪性新生物,2位心疾患,3位脳血管疾患 などで,悪性新生物を除けば中年以降の身体活動の減少やエネルギー摂取過多 に関する疾患が多 く,健康管理の重要性が指摘 されている。 このような背景を 基に,1978年厚生省は国民健康対策として 「アクティブ80ヘルスプラン」を唱 え,健康獲得のために運動 ・栄養 ・休養の三者が一体となった国民のライフス

タイルを提示 した1)。

厚生省は健康づ くりのための運動所要量を年齢階級別に,1週間の合計運動 量 と目標心拍数を提示 し,最大酸素摂取量で全身持久性の評価を行い,各年代

の維持 目標値を定めている (1)

1 最 大酸素摂取量 の維持 目標値 (厚生省)1)

20 30 40 50代 60

41 40 39 38 37

35 34 33 32 31

われわれ も長崎県鳥峡において中高年者を対象とした健康教室を開催 し,本 教室が呼吸機能 ・循環器機能に与える影響を検討 したので,運動が心肺機能に 与える影響 も含めて報告する。

(2)

肺は生命を維持するために必要な大気中の酸素を取 り込み,生体活動のため に生 じた二酸化炭素を排出する,すなわちガス交換を司る重要な臓器である。

この酸素は身体活動の レベルによってその必要量が決定 され,生体維持に最少 限必要な量を基礎代謝量 (BMR),安静座位時の必要量を安静時代謝量 (1 MET)などとして広 く臨床の分野に活用 されている。 また酸素を1分間に取

り入 られ る量を酸素摂取量 (VO 2) といい,安静時代謝量に対す る倍率 (M ETS)とともに運動強度の指標 として用いられ,その最大値は最大酸素摂取 (VO 2maX)といい体力の指標 となる。 この最大酸素摂取量を一定値以上 に維持すれば,成人病の寝癖率が極 めて低 くな ることが明 らかにされてい 2) 3) 4)

1)連動 と換気量 ・最大酸素摂取量

酸素摂取量 と換気機能の関係は,軽度や中等度の運動強度では酸素摂取量 と 分時換気量は比例 して増加するが,最大運動強度に近づ くにつれ,徐々に分時 換気量の増加率が高 まり,やがて換気量の上限に達す る (最大分時換気量 ; VEmaX)。成人の安静時換気量は7‑lop/minであるが,最大運動時では最 大分時換気量 は50‑loop/minとなる。その最大値 は健常者の場合,最大換 気量 (maximalvoluntaryventilation;MVV)の約70‑80%で, これ以上 換気量を増加で きない上限の指標 (VEmaX/MVV;dyspniaindex)として 活用 されている5)。 分時換気量 (VE)1回換気量(VT)と呼吸数(RR)の積 (vE‑VTXRR)で表 される。安静時で は1回換気量約300‑500m1,呼吸 12‑18fであるか ら分時換気量 はおよそ3.6‑ 9A/minである。運動時で は,最大呼吸数が約40‑50f,最大 1回換気量が肺活量の約 1/21500‑2000 mlで,最大呼吸数 に個人差が少ないことか ら最大分時換気量は,主に最大1 回換気量によって決定されると考え られている6)。

2)運動による最大酸素摂取量の変容

一般的に運動が呼吸器に与える効果は,最大酸素摂取量 ・最大換気量の増加 および呼吸効率の改善 (同 じ負荷に対する換気量,酸素消費量の減少)である

(3)

3章 運動 と心肺機能の変化

2 長崎県内優秀女子 スポーツ選手の最大酸素摂取量

人数 最大酸素摂取量

VEmaX VO2max

D/min ml/kg/min 陸 上 ・短 距 離

陸 上 ・長 距 離

バ スケ ッ トボール

42662

88.3(10.8) 53.3(3.6) 100.4(9.7) 57.3(4.0) 85.5(18.3) 55.5(8.1)

106.3(10.9) 45.7(7.9) 112.6(ll.9) 51.1(5.1)

AVG(SD)

といわれている。またその効果は,運動の方法によって異なることが知 られて いる。表2は長崎県下女子優秀スポーツ選手の最大酸素摂取量である。これ ら の値は,同年代の一般成人よりも有意に高い。また運動種目においては,持久 力を必要とされる陸上長距離選手は,同短距離選手より最大分時換気量や最大 酸素摂取量が優れている7)。 このように換気機能を改善するためには筋持久力 訓練が筋力増強訓練よりも効果的であることを示 している。

2節 運動の循環器系に及ぼす影響

1)運動強度 と心拍数の関係

運動を始めようとすると,スター ト直前か ら心拍数が増加する。これは大脳 皮質や交感神経の緊張によるものと考え られている。実際に運動が開始される と,運動強度に応 じて心拍数が増加する 運動強度が軽度や中等度の場合は, その運動強度に比例 して心拍数が増加するが,最大運動強度に近づ くにつれ, 徐々に心拍数の増加率が高まり,やがて年齢別最大心拍数 (220‑年齢)を超 えるとそれ以上の運動には耐え られな くなり運動を中断することになる。

2)運動による心拍出量の変化

心臓は1回の収縮によって拍出できる血液の量を 1回拍出量(strokvolume)

とい う この拍 出量 は,安静時で背臥位 に58‑75m1,坐位で52‑72m1,

(4)

(ml/beats)

10 20 30 40 50

VO2/W

( ml / m

in/kg)

1 運動の強さ (VO 2/W)と酸素脈 (VO/HR)

平均で60mlの血液を拍出する。 これに1分間の心拍数を乗 じた ものを分時拍 出量 (minutevolume)と呼び,安静臥位3.10‑4.232/minといわれてい るが,一般的には60mlx70‑4.200ml前後である。

①運動による 1回拍出量 と心拍出量の変化

運動によって筋肉など末栴組織の酸素要求が増加することによって1回心拍 出量 も増加す る。われわれは1回拍出量の指標である酸素脈 (02puls)で運 動 と酸素脈の関係をみた。その結果,酸素脈は運動強度 と比例 して増加 し最大 酸素摂取量の約40%で最大値を示 し,その後は負荷量が増加 して も酸素脈は増 加せずプラ トーに達する5)(図 1)。以後心拍出量の増加は,心拍数の増加で補 なうことになる。

(9運動による心機能の変容

心拍出量は トレーニ ングによって増大す る。 この心拍出量の増大 は,心拍 敬, 1回拍出量,心室弛緩の程度,心室内残留血液量などによって決定 され る。心拍数は年齢に強い影響を受けることか ら分時拍出量の増加は主に1回拍 出量によって決定される。 この 1回拍出量の増大は心臓の収縮,拡張期におけ る予備量,すなわち心臓の収縮および拡張の両者が増加することにより 1回拍

(5)

3章 運動 と心肺機能の変化 出量が増加すると考え られている。

3節 伊王島健康教室

健康教室の有用性を呼吸循環機能により検討する目的で,肺機能検査,運動 負荷試験を教室開始前後で実施 した。本研究では,教室開始前後で自転車エル ゴメーターの多段階運動負荷試験を受 けた者,前29名,後33名,総計62名の 内,最大心拍数が年齢別最大予測心拍数の80%以上に遷 した女性14名,平均年 45.3歳を分析対象 とした。対象者に下記の身体計測,肺機能検査および運動 負荷試験を行 った。

(彰身体測定 :身長計,体重計により計測 し,BMIを算出 した。栄研式皮脂厚 計 によ って上腕,肩 甲骨下部の皮脂厚 を測定 し,身体密度 (Brozek 式),%FAT (長嶺の式),LBM を求めた。

(診肺機能検査 :ミナ ト医科学社製オー トスパ イロAS‑500を用 いて,肺活量 (VC),%肺活量 (%VC),努力性肺活量 (FVC), 1秒量 (FEV 1.0),1秒率 (FEV1.0%),最大分時換気量 (MVV)を測定 した。

③運動負荷試験 :自転車エルゴメーターにより多段階漸増負荷試験をexhaus tionに連す るまで行 った。その間, ミナ ト医科学社製 レス ピロモニターR M‑200を用いて,breathbybreath方式により換気量測定 と呼気ガス分析 を行い, フクダ ・エム ・イー社製心電図テ レメーターにて心拍数を測定 し た。なお上記測定値は,RM‑200か らPC‑9801VM20秒毎に取 り込み 記録 した。運動の中止基準は, 自覚症 ・年齢別予測心拍数 ・重篤な不整脈の いずれかの出現とした。

④解析方法 :統計処理は対応のあるt検定を用いて各項 目間の差の検定を行 い,危険率5%を もって有意 とした。

結果は以下の通 りであった。

(1) 体重 ・BM I・%FATの変化

体重,BM I,%FATはそれぞれ平均で58.1か ら56.8kg,24.6か ら24.0 kg/rrf,28.7か ら27.2%に減少 した (3)

(2)肺機能検査

(6)

before after MEAN SD MEAN SD

167584895223 40066343 802064715224 81586333 oIoloーso.0.0.N

3‑4 肺機能検査

before after MEAN SD MEAN SD

VC(L)

%VC(%) FVC(L) FEVl0(L) FEY.。%(%) MVV(L/min)

2927023914..2..28312288 4547,7..3010083 412463726..2..13313289 5541.8..9010041 sso5o1ssNNo.0NN

肺活量 (VC)は, 1回の吸入または呼出で肺か ら出入 りしうる最大ガス量 であり, この検査は,吸気 と呼気をゆっくりと行わせる。 この肺活量を身長, 性別,年齢で補正 したものが%肺活量 (% V C),80%以下であれば拘束性 換気障害である。一方,努力性肺活量 (FV C)は最大吸気位か ら一気に呼気 を行 う検査で, この間の 1秒間に最大呼出できるガス量を 1秒量 (FEVl.0) といい,努力性肺活量の うち 1秒量の占める割合を 1秒率 (FEVl.0%)とい 1秒率が70%以下は気道の閉塞障害を示す。 1分間に最大出入 りしうる換 気量を最大分時換気量 (MVV)とい 換気機能を総合的に反映 し,呼吸筋 力や運動能力の指標 として用い られている。肺活量は平均で3.22Lか ら3.34L へ,約120mlの増加傾向がみ られた。健常成人での肺活量の減少 は,1年 に 15‑ 29mlであるか ら4年以上若返 った ことにな る8) %肺活量 は, 同年 代,同姓,同 じ身長の人 (正常値100‑80%)に比べ,前の検査で123%,後で

(7)

3章 運動 と心肺機能の変化

128%と優れた肺活量を有 していた。努力性肺活量や 1秒量 はそれぞれ2.99 か ら3.21L,2.42か ら2.62Lへ有意に増加 した。1秒率は82.7か ら81.4へと 低下傾向を示 した。最大分時換気量は他の換気機能の増加 と同様に88.0か ら 93.6L/minと増加傾向を示 した (4)。以上のことか ら本教室は呼吸機能の 改善に有効であった。

(3)運動負荷試験

運動負荷試験は, 自転車エルゴメーターによる多段階負荷を行 った。 この負 荷試験は被験者に [これ以上 自転車をこぐことができな くなる(exhaustion)]

まで運動 させ,その間の心肺反応 より体力を評価 した。exhaustionの基準 は,年齢別予測最大心拍数の80%以上,VEmaX/MVV‑0.7以上,VTmaX/

VC‑0.5以上 とした。今回のexhaustion時の前後の年齢別予測最大心拍数, VEmaX/MVV,VTmaX/VCは,それぞれ104%105%,64.661.2,43.1 39.9で,換気機能 に十分な予備力を残 したまま運動負荷試験を終了 してい る,特に教室終了時ではその傾向が強かった。従 って本教室の運動制限因子は 循環器機能 と考え られる。

一般的な体力の指標は,体重当た りの最大酸素摂取量 (VO 2/W max) 表わされる。厚生省の 「健康づ くりのための運動所要量」では,各年齢別の最 大酸素摂取量の維持 目標値を表 1のように定め, この目標値を維持で きれば, 肥満症,高血圧症,虚血性心疾患などの羅患率が低 く,成人病におかされる危 険率が低いといわれている。 ここでは,最大酸素摂取量のみでな く,測定の結 果え られた,最大1回換気量 (VTmaX),最大換気量 (VEmaX),最大呼吸 (RRmax),最大心拍数 (HRmax)および酸素脈 (VO/HR)につい て も報告する。

体力の指標である体重当た りの最大酸素摂取量 は,平均で開始前21.4ml/

kg/minか ら24.1ml/kg/minと増加傾向を示 した。 しか し40歳代女性の 目標 33ml/kg/minと比べるとまだまだ低値で,いっそ うの努力が必要である。

この体重当たりの最大酸素摂取量の増加は,教室前後での換気機能 (最大 1回 換気量1403‑1384ml・最大換気量52.5‑54.9L・最大呼吸数38.1‑40.0f) の改善や最大酸素摂取量の改善 (1174m 1‑1160ml)が殆 どないことか ら, 体重当たりの最大酸素摂取量の増加は体重減少によってえ られた結果であ り,

(8)

berore after MEAN SD MEAN SD VTmaX

RRmax VEmaX VO 2maX

VO/Wt(ml/kg/min) HRmax

VO 2/HR(ml/beats)

%HR(%) VEmaX/MVV VTmaX/VC

31544610..7.515.482116.0431351217164 2369.7728.53.06.5..7.2711511627 40902298.,6.994.304146.0191451216163 7852.4613.86.17.8..6.1811311717 SSSSSSSSSSNNNNNNNNNN

本教室での運動時呼吸機能の改善は十分でなか ったと考え られる。

心機能の能力は心拍出量によって代表される。 この心拍出量は心拍数と1 拍出量の積 (心拍出量‑心拍数×1回拍出量)である。 この1回拍出量は,酸 素脈 [1拍当た りの酸素摂取量 (VO/HR)]を指標 として用いる。教室前 後の酸素脈は,7.1か ら6.9ml/beatsと低下を示 していることか ら,今回の教 室では心拍出量の増加に影響を与えていない。すなわち本教室では心機能を向 上 させ られなかったことを意味 している (5)

本研究において運動負荷試験を受けた者は前29名,後33名であったが,測定 条件を満た した対象者は14名であった。 これは,運動負荷試験に自転車エルゴ メーターを使用 したために自転車をこげない者が多かったこと,対象者に有職 者が含まれ評価 日に参加できなかったことが原因 として考え られる。地域で こ のような測定を実施する場合は,事前に自転車 こぎの練習や測定 日の設定を充 分考慮する必要があるが,測定機器の準備や検者のマンパ ワーなど困難な問題

も多い。

本健康教室参加者は,同年代の肺機能標準値に比べ高い機能 レベルの者が多 か ったが,教室に参加す ることでさらに高い肺機能を得 ることができた。 さら に体力の指標である体重当たりの酸素摂取量 も増加を得 ることができた。 しか

(9)

3 運動 と心肺機能の変化

しこの体重当たりの最大酸素摂取量は,主に体重減少によって得 られたもので 最大酸素摂取量の増加によるものではなかった。運動時の換気機能である最大 分時換気量は54.22/minか ら56.22/minへ増加 しているが, この増加 は1 回換気量の増加ではな く呼吸数の増加であった。以上の ことか ら本教室は,呼 吸機能の向上や体重減少のためには有効であったが,最大酸素摂取量の向上に は有効でなか った。その原因は最大 1回換気量や酸素脈の向上が得 られなかっ たためと考え られる。体力の構成要素である持久力の向上には,最大筋力の 1/3‑2/3の運動強度で,頻度 は2日に1回,少な くとも20分以上の運動時間 が必要 とされている。本教室では他章で述べているいるように,週に 1回の教 室 と毎 日1万歩以上のウォーキ ングの奨励を行 った。ウオーキ ングの奨励は, 充分な監視下で行われてないために,検者個々に差があ り運動量の特定ができ なかった。 このような健康教室では,週に 1回程度の開催が限度であ り,教室 での運動量を確保す るためには,島での生活の中に運動習慣をつけさせるよう な住民教育が不可欠 と考え られる。

参考文献

1)財団法人厚生統計会 :国民衛生 の動 向 ・厚生 の指針,臨時増刊40(9),1993.

2)今村裕行 ・他 :体脂肪率 と医学 的検査値 との関係 に基づ いた肥 満の判定基準,体 力科学,1992,41:70‑73.

3)RalphSP,etal:Theassociationofchangesinphysical‑activityleveland otherlifestylecharacteristicswithmortalityamongmen,TheNew lngland Journalofmedicine 1993,328:538545.

4)進 藤宗洋 ・他 :厚生省の 「健康づ くりのための運動所要量」 について ‑ 「身か ら 錆 を出 さない, 出 させ ない」暮 らし方 の原 理の提案 ‑,保健 の科学,1990,32:

139‑156.

5)千住秀明 ・他 :呼吸不全患者 におけ る運動 制限因子 に関す る研究,長大医技短紀 1991, 5:5969.

6)栗原 直嗣 ・他 :慢性肺疾患 と運動時の換気 ,呼吸,1990,9:267‑292.

7)田原靖昭 ・.他 :長崎県 内優秀女子 スポー ツ選手 の身体組成 ,最大酸素摂取量,最 大酸素負債量及 び血液値 ,長 崎大学教養部紀要(自然科学編)1990,31:45‑77. 8)谷本普一編 :臨床老年 医学大系,5呼吸器,情報 科学研究所,1983,pp41‑58.

参照

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