アジア途上国における都市・農村間消費支出格差と教育の役割
―インドネシア,フィリピン,インドのデータを用いて―
林 光 洋
1 .は じ め に
2 .家計調査データと分析方法
3 . 3 か国における都市・農村間の格差:概観
4 . 3 か国における都市・農村間消費支出格差の要因分析:Blinder-Oaxaca分解手法を用いて 5 .おわりに: 3 か国における都市・農村間消費支出格差の要因
1 .は じ め に
途上国の格差に関する研究は,世界銀行,アジア開発銀行(ADB),国連大学世界開発経済研究 所(UNU-WIDER)で積極的に進められ,WorldBank(2005年),Ravallion(2016年),ADB
(2012年),Zhuanged.(2010年),KanburandVenableseds.(2005年)等がある.しかし,これ らのほとんどは取扱いの容易なクロスカントリー・データや集計されたデータにもとづいて格差を 分析している.
データの入手や処理に手間を要する時系列の家計調査データにもとづき,特定の国全体を対象に し,都市・農村等の空間的側面を強く意識した研究,そのようにして研究された複数の国を比較分 析したものは少ない.Gustafssonet al.eds.(2008年)等中国の格差研究は多いが,家計調査原 データではなく,集計・加工したデータを使用しているか,一部の地域のみを対象にしたものがほ とんどである.家計調査原データを用い,地域の区分や世帯の特性の区分で格差を要因分解したも のには,Yusuf et al.(2014年),BalisacanandFuwa(2004年),Cainet al.(2008年)等があるも のの,クロスカントリー・データの分析が多いため,一国内の空間的格差とその要因の詳細な研究 は限られている.
Lewis(1954年),HarrisandTodaro(1970年),Kuznets(1955年)といった開発経済学者が強 く意識したように,またWorldBank(2005年)が指摘するように,都市・農村間でみられるよう な地域間の社会・経済的格差は著しく,公正の観点からすれば,この格差の是正は途上国にとって 喫緊かつ重要な課題である.ADB(2012年)は,アジア途上国でも都市・農村間等の地域間所得格 差が近年拡大傾向にあり,速やかに解決すべき問題であると強調している.しかし,地域間の格差 の問題は,そのように重要でありながら,前述のように,データの規模や種類,要因分解手法等の
点で,これまで必ずしも十分に研究されてきたわけではない.
本研究では,アジア途上国の中で,研究結果の効果と活用の点で人口規模の大きい国,空間的分 析をするという点で国土に広がりのある国,実行可能性の点で家計調査データを比較的容易に入 手できる国という基準で選定した結果,インドネシア,フィリピン,インドを研究対象国とした.
それら 3 か国の全国規模で時系列の家計調査データを用い,すでに発表しているHayashi et al.(2014年),Hayashiet al.(2015年),HayashiandKalirajan(2018年)等を参考にしなが ら,都市・農村間の格差に焦点を当て,それに影響を与えるであろう教育のインパクトを明らかに する.
インドネシア,フィリピン,インドは,2000年から2010年にかけての10年間,リーマンショック という世界的な経済ショックをはさみながら,それぞれ,GDP(国内総生産)は年平均5.2%,
4.8%,6.7%, 1 人当たりGDPは,3.8%,2.8%,5.1%の成長率を記録し,順調に経済発展を遂 げている.人口規模は,2010年時点で,それぞれ, 2 億4,000万人,9,400万人,12億3,000万人を擁 し,アジア途上国の中でも大国である.経済成長の速度がアップすれば,中国が経験しているよう に,空間的な経済格差の問題が顕在化してくる.
本稿では,インドネシア,フィリピン,インドの 3 か国における都市・農村間家計消費支出の格 差発生要因として,教育といった世帯特性がどの程度の影響力をもっているのか明らかにしたい.
具体的には, 3 か国の 2 時点における全国規模の家計調査データを使用し,消費支出の地域格差を タイル尺度により測定する.それぞれの国の都市・農村間の世帯 1 人当たり消費支出格差に対し て,教育をはじめとする世帯特性がどの程度影響しているのかについて,Blinder-Oaxacaの手法 を用いて分析を行なう.
本稿は,以下のように構成されている.「はじめに」に続く第 2 節では本研究で使用する家計調 査データと分析手法を紹介し,第 3 節では 3 か国の都市・農村間格差の実態や特徴を概観する.第 4 節では,Blinder-Oaxaca手法を使って, 3 か国の都市・農村間の家計消費支出格差を,教育に 焦点を当てて要因分解し,そのインパクトを確認する.最終節では,本稿の分析結果を要約し,そ こから得られたインプリケーションを述べる.
2 .家計調査データと分析方法
本研究では,インドネシア,フィリピン,インドを対象にして,それぞれの都市・農村間の消費 支出格差の発生要因を明らかにした後,それら 3 か国の要因比較を行なう.そのために,表 1 にま とめた通り,それぞれの国の家計調査データを用い,消費支出データを要因分解し,比較する.
インドネシアは,インドネシア中央統計庁(StatisticsIndonesia:BPS,以下BPS)が作成してい る社会経済調査(NationalSocio-EconomicSurvey:Susenas,以下Susenas)の2008年と2010年の
2 時点のパネルデータを使用する.このパネルデータは,約61,000世帯を調査対象としているが,
そのうちの23,700世帯,約39%は都市部のサンプル,残りの37,300世帯,約61%は農村部のサンプ ルである.サンプリング・ウェイトを使用すると,都市部と農村部の世帯割合は,47%対53%と推 計される1).BPSの州別,都市・農村別貧困ラインを使用して, 1 人当たり消費支出を2008年価格 に実質化することで,時間と場所の違いによる物価の違いを調整している.
フィリピンは,フィリピン統計局(PhilippineStatisticsAuthority2):PSA,以下PSA)が発表し ている家計所得支出調査(FamilyIncomeandExpenditureSurvey:FIES,以下FIES)のデータを 用いる.1997年は約39,500世帯,2006年は約38,500世帯を調査対象としている.サンプルの都市部 と農村部の世帯割合は,1997年が59%対41%,2006年が45%対55%である.サンプリング・ウェイ トを使用して都市・農村の世帯割合を計算すると,1997年は48%対52%,2006年はそれぞれ50%に なる.PSAのCPI(消費者物価指数)を使用して, 1 人当たり消費支出を2000年価格に実質化して いる.
インドは,インド統計・計画実施省(MinistryofStatisticsandProgrammeImplementation:
MOSPI)のもとにある全国標本調査局(NationalSampleSurveyOffice:NSSO,以下NSSO)に 表 1 インドネシア,フィリピン,インドの家計調査データ
インドネシア フィリピン インド
家計調査データの名称 社会経済調査
(NationalSocio-Econom- icSurvey:Susenas)のパ ネルデータ
家計所得支出調査
(FamilyIncomeand ExpenditureSurvey:
FIES)
全国標本調査
(NationalSampleSurvey:
NSS)
データ作成機関 インドネシア中央統計庁
(StatisticsIndonesia:
BPS)
フィリピン統計局
(PhilippineStatistics Authority:PSA(旧 NSO))
インド標本調査局
(NationalSampleSurvey Office:NSSO)
使用データの年次 2008年,2010年 1997年,2006年 1999/2000年,2011/12年 調査対象世帯数 約61,000世帯 約39,500世帯(1997年)
約38,500世帯(2006年)
約120,000世帯(1999/2000年)
約102,000世帯(2011/12年)
都市・農村間サンプル 割合(都市:農村,%)
約39:61(2008年,2010 年)
約59:41(1997年)
約45:55(2006年)
約41:59(1999/2000年,
2011/12年)
デフレーター,基準年 州別,都市・農村別貧困 ライン
2008年価格
州別消費者物価指数 2000年価格
州別,都市・農村別貧困ライ ン
2011/12年価格 資料:筆者作成.
1 ) 抽出確率の違いを調整するためのウェイト.
2 ) 旧NationalStatisticsOffice(NSO)をはじめ,NationalStatisticalCoordinationBoard,Bureau ofAgriculturalStatistics,BureauofLaborandEmploymentStatisticsを統合して,2013年に設置さ れた.
よって収集・編集された全国標本調査(NationalSampleSurvey:NSS,以下NSS)の家計消費支 出データを使用している3).1999/2000年に実施された第55回NSSと2011/12年に実施された第68 回NSSのデータを用いている.前者は約120,000世帯を,後者は約102,000世帯を調査対象とし,
ともに,そのうちの約41%が都市部のサンプルであり,59%が農村部のサンプルである.サンプリ ング・ウェイトを使って都市部と農村部の世帯割合を計算すると,1999/2000年は27%対73%に,
2011/12年は31%対69%になる.インド政府の計画委員会(PlanningCommission,2014年)が発表 している1999/2000年と2011/12年の州別,都市・農村別の貧困ラインを用い,時間の経過による物 価変動の影響と地域間の物価水準の差を調整して,名目の消費支出を実質化している.2011/12年 のデリー(連邦直轄地)都市部の貧困ラインを基準にして,地域差を考慮した2011/12年価格の世 帯 1 人当たり消費支出を算出し,使用している4).
本稿は,上記 3 か国の家計調査データを用い,以下で説明するように,世帯 1 人当たり平均消費 支出の都市・農村間格差の決定要因を明らかにするために,Blinder(1973年)とOaxaca(1973 年)によって広められたBlinder-Oaxaca分解手法を使用する5).
YUとYRを,それぞれ,都市部と農村部の世帯 1 人当たり消費支出(自然対数値)であるとし,
線形回帰モデル
Yk=Xkβk+ek E(e)k=0 k=U,R
を仮定する.Xkは説明変数ベクトル,βkはXkの係数,ekは誤差項であり,都市部および農村部 のサンプルから別々に得られたβ(k=U,k R)の最小 2 乗推定値のベクトルをβˆkとし,E(Xk)の推 定値をX
―
kとする.都市部と農村部の推計された 1 人当たり平均消費支出の差は,
Dˆ=Y
―
U-Y
―
R=(X
―
U-X
―
R)βˆ*+(X
―
U(βˆU-βˆ*)+X
―
R(βˆ*-βˆR)) ( 1 ) のように表現できる.βˆ*は,傾きと切片の最小 2 乗推定値のベクトルであり,それは都市部の家 計と農村部の家計のプールされたサンプルから求めることができる(Neumark,1988年).上記の 式の第 1 項は,説明変数の都市・農村間の違いによって説明される, 1 人当たり平均消費支出の都 市・農村間の格差(「属性格差」あるいは「要素量の違いによる格差」)を,第 2 項は説明されない格 差(「非属性格差」)を表わしている.本研究は,( 1 )式にもとづき,世帯 1 人当たり平均消費支出
3 ) NSSの歴史,実施方法,問題点等については,Mukhopadhayaet al.(2011年)や辻田(2006年)が 詳しい.
4 ) 2011/12年はTendulkar方式で,1999/2000年はLakdawala方式で算出された貧困ラインしか存在し ないが,2004/05年は両方の方式で算出されているものがあるため,2011/12年を基準にし,2004/05年で 接続して,1999/2000年の貧困ラインを調整している.
5 ) Blinder-Oaxaca分解手法の包括的な検討と使用方法については,Jann(2008年)を参照のこと.
の都市・農村間格差を,教育水準,就業部門等の世帯の属性に関係するいくつかの要因に分解し,
インパクトの大きい要因の検証を試みる.
3 . 3 か国における都市・農村間の格差:概観
インドネシア,フィリピン,インドの 3 か国それぞれの 2 時点における,都市・農村別および都 市・農村それぞれの世帯主の教育水準別の世帯 1 人当たり平均消費支出,世帯数割合,そして消費 支出割合を,表 2 ,表 4 ,表 6 に示している.また,それら 3 か国それぞれの 2 時点における 1 人 当たり消費支出の格差を,タイル尺度(TheilT)を用いて都市と農村に要因分解し,その結果を 表 3 ,表 5 ,表 7 に示している.
表 2 をみると,インドネシアの都市部の 1 人当たり平均消費支出は,農村部に比べて, 2 時点と
表 2 インドネシアの2008年と2010年における,都市・農村別,都市・農村それぞれの 教育水準別 1 人当たり平均消費支出,世帯数割合および消費支出割合
2008年 2010年
1 人当たり
消費支出1) 世帯数
割合% 消費支出
割合% 1 人当たり
消費支出1) 世帯数
割合% 消費支出 割合%
都市・農村
都市 510,191 47.1 60.3 571,949 47.1 60.5 農村 298,795 52.9 39.7 331,722 52.9 39.5 全国 398,390 100.0 100.0 444,802 100.0 100.0 都市・農村/教育水準2)
都市
初等教育なし 330,823 20.5 13.3 372,462 20.5 13.4 初等教育 384,322 22.8 17.2 428,090 23.5 17.6 前期中等教育 462,898 15.2 13.7 501,139 15.1 13.2 後期中等教育 585,135 30.3 34.8 663,559 29.9 34.6 高等教育 956,729 11.2 21.0 1,097,547 11.0 21.2 都市(全体) 510,191 100.0 100.0 571,949 100.0 100.0 農村
初等教育なし 258,143 41.6 36.0 286,206 40.4 34.8 初等教育 284,482 33.3 31.7 312,083 34.5 32.5 前期中等教育 328,159 11.5 12.6 365,641 11.5 12.7 後期中等教育 402,351 10.9 14.6 448,411 10.8 14.5 高等教育 557,075 2.7 5.1 637,377 2.8 5.5 農村(全体) 298,795 100.0 100.0 331,722 100.0 100.0
注: 1 ) 1 か月間の世帯 1 人当たり平均消費支出(2008年価格,インドネシア・ルピア).
2 )ここでは,世帯主の学歴にもとづいて分類.
資料:2008年および2010年のSusenas(National Socio-Economic Survey)にもとづき筆者が計算.
も約1.7倍高い.人口の過半は農村部に住んでいる一方,消費支出の 6 割程度は都市部で行なわれ ている.都市部,農村部ともに,世帯主の教育水準があがるにしたがって,例外なく, 1 人当たり の平均消費支出額も上昇している.ただし,都市部と農村部の間に,学歴の水準の著しい違いが存 在している.都市部の高学歴を有する世帯主の割合および高学歴世帯の 1 人当たり平均消費支出の 水準は,農村部のそれらに比べて,圧倒的に高い.農村部では,世帯主が初等教育を受けていな い,あるいは終えていない割合が 4 割を超えている.
表 3 は,インドネシアにおける 1 人当たり消費支出の格差と都市・農村による要因分解の結果を 示している.インドネシア全体の格差は, 2 年間と短期間ではあるが,拡大傾向にあることが読み とれる.その格差を要因分解すると,都市・農村内格差は,タイル値からみても,総格差に対する 寄与度からみても,都市・農村間格差よりも目立っている.都市部は農村部に比べて,タイル値で 計測した格差の水準も高く,総格差に対する寄与度も大きい.
確かに,都市・農村間格差は,都市・農村内格差に比べて目立たない.しかし,Elberset al.
(2008年)の新手法で計測した2008年および2010年の都市・農村間の格差(表 3 の中の都市・農村間 格差(B))は,与えられたグループの数,グループの相対的大きさのもとで得られるグループ間 格差の最大値(maximumbetween-groupinequality)の 3 割弱を説明している6).これは,タイル の従来の要因分解手法を用いた場合に測定される数字よりも,都市・農村間格差の実際の寄与度は
6 ) Elberset al.(2008年)は,グループ間格差を構成する要因の寄与度について,新たな計測方法を考案 した.タイル尺度でグループ間格差を計測する場合,グループの数,グループの相対的な大きさ, 1 人 当たり消費支出のグループ間の平均の違いに依存している.したがって,異なった空間的グルーピング
表 3 インドネシアにおける 1 人当たり消費支出の格差と都市・農村による要因分解
2008年 2010年
タイル尺度T(TheilT)
ジニ係数 タイル尺度T(TheilT)
タイル値 寄与度%1) タイル値 寄与度%1) ジニ係数 都市・農村
都市 0.242 57.8 0.361 0.264 60.0 0.377
農村 0.180 28.3 0.300 0.177 26.3 0.313 都市・農村内格差(A) 0.218 86.1 0.230 86.3
都市・農村間格差(B)2) 0.035 13.9 0.036 13.7
総格差(C)=(A)+(B) 0.253 100.0 0.362 0.266 100.0 0.376 都市・農村間格差(B)3) 0.035 28.5 0.036 26.8
グループ間格差の最大値4) 0.123 100.0 0.136 100.0 注: 1 )全体の格差に対する各格差要因の寄与度.
2 )通常の方法で計測したグループ間格差の寄与度.
3 )Elberset al.(2008年)の方法で計測したグループ間格差の寄与度.
4 )与えられたグループの数と相対的大きさのもとで得られるグループ間格差の最大値.
資料:2008年および2010年のSusenas(National Socio-Economic Survey)にもとづき筆者が計算.
大きい可能性があることを示唆している.
表 4 のフィリピンでも,1997年と2006年の 2 時点において, 1 人当たり平均消費支出は,農村部 よりも都市部で大きい.この10年間で,都市部と農村部の 1 人当たり平均消費支出の格差は縮小す る傾向を示したが,2006年時点でも都市部のそれが農村部の 2 倍を超えている.過半の人口が農村 部で生活しているのにもかかわらず,消費支出の約 3 分の 2 は都市部で行なわれている.都市部で
表 4 フィリピンの1997年と2006年における,都市・農村別,都市・農村それぞれの 教育水準別 1 人当たり平均消費支出,世帯数割合および消費支出割合
1997年 2006年
1 人当たり
消費支出1) 世帯数
割合% 消費支出
割合% 1 人当たり
消費支出1) 世帯数
割合% 消費支出 割合%
都市・農村
都市 31,248 47.6 67.9 48,535 49.6 67.8 農村 13,417 52.4 32.1 22,633 50.4 32.2 全国 21,898 100.0 100.0 35,477 100.0 100.0 都市・農村/教育水準2)
都市
初等教育なし 17,167 15.6 8.6 27,607 14.2 8.0 初等教育 19,602 18.5 11.6 30,676 14.1 8.9 前期中等教育 21,170 11.3 7.6 33,836 12.2 8.5 後期中等教育 30,844 39.8 39.3 47,764 43.4 42.8 高等教育 69,510 14.8 32.9 95,837 16.1 31.8 都市(全体) 31,248 100.0 100.0 48,535 100.0 100.0 農村
初等教育なし 10,736 38.3 30.7 16,510 35.1 25.6 初等教育 12,140 27.9 25.2 19,271 23.5 20.1 前期中等教育 12,729 10.8 10.2 20,817 12.5 11.5 後期中等教育 17,243 19.5 25.1 28,079 23.9 29.6 高等教育 33,620 3.5 8.8 60,158 5.0 13.2 農村(全体) 13,417 100.0 100.0 22,633 100.0 100.0
注: 1 ) 1 か月間の世帯 1 人当たり平均消費支出(2000年価格,フィリピン・ペソ).
2 )ここでは,世帯主の学歴にもとづいて分類.
資料:1997年および2006年のFIES(Family Income and Expenditure Survey)にもとづき筆者が計算.
にもとづいて行なった要因分解の結果を比較する場合,注意を要する(ShorrocksandWan,2005年).
たとえ同じ空間的なグルーピングで要因分解を行なったとしても,グループの相対的大きさが異なれ ば,その結果を単純に比較することはできない.その問題を是正するために,Elberset al.(2008年)
は,グループ間格差の寄与度を,従来の「全体の格差(overallinequality)」を分母にして計算するので はなく,与えられたグループの数,グループの相対的大きさのもとで得られる「グループ間格差の最大 値(maximumbetween-groupinequality)」を分母にして計算することを提案している.
も農村部でも,世帯主の学歴が高くなるにつれて, 1 人当たり平均消費支出も高くなっている.た だし,都市部における教育水準の高い世帯主の割合とそれら世帯の 1 人当たり平均消費支出額は,
農村部におけるそれらに比べて,はるかに高い.
表 5 によれば,フィリピンの 1 人当たり消費支出格差は,1997年から2006年にかけて縮小傾向に あるが,非常に高水準にある.タイル値および総格差に対する寄与度から判断して,都市・農村間 格差よりも都市・農村内格差によって生じている部分が大きいといえる.同様に,タイル値および 総格差に対する寄与度をみると,都市の内部で発生している格差は農村の内部で発生している格差 よりも大きい.
しかし,格差全体に対する都市・農村間格差の寄与度は 2 割弱の大きさを占めている.さらに,
Elbersの新手法を用いると,都市・農村間の格差は,グループ間格差最大値の 4 割前後を説明し
ている.フィリピンでは,都市・農村間格差が深刻なレベルにあることを容易に想像できよう.
表 6 は,インドの1999/2000年と2011/12年の 2 時点における状況を示している. 1 人当たり平均 消費支出は都市部のほうが農村部よりも高い一方,世帯数の比率は農村部のほうが都市部よりも大 きい.もちろん,人口の数や割合でみれば,まだまだ農村部に重心がある.しかし,1999/2000年 から2011/12年にかけて,農村部から都市部へ人口や消費支出がシフトしている.インドで進展し ているダイナミックな都市化,そして都市・農村間の格差拡大がうかがえる.都市部でも農村部で も,世帯主の学歴があがるにしたがって,世帯 1 人当たりの平均消費支出も上昇している.ただ し,都市部のほうが農村部よりも,同じ学歴でも平均消費支出が高く,その傾向は高学歴者グルー プでよりはっきりと表われ,また,都市部は農村部に比べて,高学歴者の割合も大きい.
表 5 フィリピンにおける 1 人当たり消費支出の格差と都市・農村による要因分解
1997年 2006年
タイル尺度T(TheilT)
ジニ係数 タイル尺度T(TheilT)
タイル値 寄与度%1) タイル値 寄与度%1) ジニ係数 都市・農村
都市 0.453 65.0 0.456 0.343 59.5 0.427 農村 0.253 17.2 0.368 0.281 23.1 0.387 都市・農村内格差(A) 0.389 82.2 0.323 82.6
都市・農村間格差(B)2) 0.084 17.8 0.068 17.4
総格差(C)=(A)+(B) 0.473 100.0 0.470 0.391 100.0 0.455 都市・農村間格差(B)3) 0.084 40.2 0.068 37.5
グループ間格差の最大値4) 0.209 100.0 0.182 100.0 注: 1 )全体の格差に対する各格差要因の寄与度.
2 )通常の方法で計測したグループ間格差の寄与度.
3 )Elberset al.(2008年)の方法で計測したグループ間格差の寄与度.
4 )与えられたグループの数と相対的大きさのもとで得られるグループ間格差の最大値.
資料:1997年および2006年のFIES(Family Income and Expenditure Survey)にもとづき筆者が計算.
表 7 のインドの結果をみると,1999/2000年から2011/12年にかけて,国全体の格差は拡大してい る.インドにおいても,他 2 国と同様,都市・農村間格差よりも都市・農村内格差のほうが目立っ ている.また,都市・農村内格差の中では,都市部の格差が農村部の格差に比べて大きい.
一方, 2 時点の間に,タイル値で計測した都市・農村間格差は0.035まで増加し,全体の格差に 対するその寄与度も14%へと拡大した.Elbersの新手法で計測した2011/12年の都市・農村間の格 差は,グループ間格差最大値の 4 分の 1 を説明するにいたっている.インドでも,都市・農村間格 差の解決に真剣に取り組む必要があるといえよう.
本節で概観した通り,インドネシア,フィリピン,インドの 3 か国とも, 1 人当たりの平均消費 支出は,農村部よりも都市部で大きい.農村部に人口の重心があるものの,都市部への人口移動が 目立っている.インドネシアとフィリピンにおいては,人口割合では下回わる都市部が,消費支出 の割合では農村部をすでに上回わっている.インドでは,人口割合でも消費支出割合でも農村部の
表 6 インドの1999/2000年と2011/12年における,都市・農村別,都市・農村それぞれの 教育水準別 1 人当たり平均消費支出,世帯数割合および消費支出割合
1999/2000年 2011/12年 1 人当たり
消費支出1) 世帯数
割合% 消費支出
割合% 1 人当たり
消費支出1) 世帯数
割合% 消費支出 割合%
都市・農村
都市 2,236 27.2 36.9 3,205 31.3 43.8 農村 1,430 72.8 63.1 1,873 68.7 56.2 全国 1,649 100.0 100.0 2,290 100.0 100.0 都市・農村/教育水準2)
都市
初等教育なし 1,524 31.6 21.6 1,890 23.7 14.0 初等教育 1,764 11.6 9.1 2,261 10.8 7.6 前期中等教育 1,897 14.2 12.0 2,469 14.5 11.1 後期中等教育 2,534 26.0 29.5 3,414 30.4 32.4 高等教育 3,740 16.6 27.8 5,421 20.6 34.9 都市(全体) 2,236 100.0 100.0 3,205 100.0 100.0 農村
初等教育なし 1,271 65.1 57.9 1,610 52.7 45.2 初等教育 1,486 11.4 11.8 1,802 13.2 12.7 前期中等教育 1,605 11.1 12.5 1,982 15.1 16.0 後期中等教育 1,946 9.9 13.5 2,390 15.4 19.7 高等教育 2,456 2.5 4.3 3,292 3.6 6.4 農村(全体) 1,430 100.0 100.0 1,873 100.0 100.0
注: 1 ) 1 か月間の世帯 1 人当たり平均消費支出(2011/12年価格,インド・ルピー).
2 )ここでは,世帯主の学歴にもとづいて分類.
資料:第55回(1999/2000年)および第68回(2011/12年)のNSS(National Sample Survey)にもとづき筆者が計算.
ほうがまだ大きいものの,人も消費も都市部へ大きくシフトしている.
3 か国とも共通して,世帯主の教育水準があがると,都市部でも農村部でも,世帯 1 人当たりの 平均消費支出もあがっている.ただし,農村部に比べて,都市部のほうが,同じ教育水準でも 1 人 当たり平均消費支出が高く,その傾向は高学歴者のグループでより明らかであり,高学歴者の世帯 割合も高い.
タイル尺度を用いて, 3 か国それぞれの 1 人当たり消費支出の格差を 2 時点で計測すると,イン ドネシアとインドは格差拡大傾向にある.フィリピンは格差縮小傾向にはあるものの,格差そのも のは非常に大きい.都市と農村で格差全体を要因分解すると,タイル尺度の性質もあり,都市・農 村内格差のほうが都市・農村間格差よりも大きいという結果になる.しかし,そのようなタイル尺 度の欠点を補正するElbersの新手法を用いると, 3 か国ともに都市・農村間格差の問題に直面し ているという状況がみえてきた.
このように,インドネシア,フィリピン,インドの 3 か国には,ともに,都市・農村間に大きな 消費支出格差が存在しており,その格差には教育水準の違いが関係しているであろうことが予想さ れる.
4 . 3 か国における都市・農村間消費支出格差の要因分析:
Blinder-Oaxaca 分解手法を用いて
アジア途上諸国の格差に関連した先行研究は,教育水準の違いが世帯間の所得や消費支出の格差 を生んでいると指摘している7).前節では,インドネシア,フィリピン,インドの 3 か国それぞれに
表 7 インドにおける 1 人当たり消費支出の格差と都市・農村による要因分解 1999/2000年 2011/12年 タイル尺度T(TheilT)
ジニ係数 タイル尺度T(TheilT)
タイル値 寄与度%1) タイル値 寄与度%1) ジニ係数 都市・農村
都市 0.258 46.4 0.354 0.275 49.0 0.385 農村 0.139 42.7 0.270 0.162 37.0 0.285 都市・農村内格差(A) 0.183 89.1 0.211 86.0
都市・農村間格差(B)2) 0.022 10.9 0.035 14.0
総格差(C)=(A)+(B) 0.205 100.0 0.317 0.246 100.0 0.351 都市・農村間格差(B)3) 0.022 19.2 0.035 24.0
グループ間格差の最大値4) 0.116 100.0 0.143 100.0 注: 1 )全体の格差に対する各格差要因の寄与度.
2 )通常の方法で計測したグループ間格差の寄与度.
3 )Elberset al.(2008年)の方法で計測したグループ間格差の寄与度.
4 )与えられたグループの数と相対的大きさのもとで得られるグループ間格差の最大値.
資料:第55回(1999/2000年)および第68回(2011/12年)のNSS(National Sample Survey)にもとづき筆者が計算.
おいて,都市部と農村部の間で,消費支出や教育水準に大きな格差が存在していることも概観し た.そこで本節では,教育水準をはじめとする世帯の特性が都市・農村間の消費支出格差に対して どの程度のインパクトを与えているのかについて,Blinder-Oaxaca分解手法を用いて分析していく.
具体的には, 3 か国それぞれについて,以下のような共通する世帯の特性に関連した変数を格差 要因として用い,都市・農村間の 1 人当たり平均消費支出の差を分解する.
( 1 )世帯規模
( 2 )世帯主の性別(女性= 0 ,男性= 1 )
( 3 )世帯主の年齢
( 4 )世帯主の年齢の 2 乗
( 5 )世帯主の学歴(教育年数)
( 6 )世帯主の就業部門( 1 次産業(鉱業を含む)= 0 ,非 1 次産業= 1 )
なお,上記の変数( 5 )の世帯主の学歴(教育年数)については, 3 か国それぞれで以下のような 計算方法を用いている.
インドネシアの教育年数は, 1 )初等教育非就学者(noschooling)は 0 年, 2 )初等教育未修了 者(primaryschoolsincomplete)は 3 年, 3 )普通あるいはイスラム小学校修了者(generalorIs- lamicprimaryschools)は 6 年, 4 )普通あるいはイスラム中学校修了者(generalorIslamicju- niorhighschools)は 9 年, 5 )普通,イスラム,あるいは職業訓練高校修了者(general,Islamic orvocationalseniorhighschools)は12年, 6 )ディプロマIあるいはディプロマII修了者(diplo- maIorII)は13年, 7 )ディプロマIII修了者(diplomaIII)は15年, 8 )ディプロマIV/ 学部修 了者(diplomaIV/bachelor’sdegree)は16年, 9 )大学院修士あるいは博士課程修了者(master’s ordoctor’sdegree)は18年,として計算している.
フィリピンの場合は, 1 )初等教育非就学者(noschooling)は 0 年, 2 )初等教育未修了者(ele- mentaryeducationincomplete)は 3 年, 3 )初等教育修了者(elementaryeducation)は 6 年, 4 ) 前期中等教育修了者(secondaryeducationincomplete)は 8 年, 5 )後期中等教育修了者(second- aryeducation)は10年, 6 )高等教育未修了者(collegeincomplete)は12年, 7 )高等教育修了者
(collegeorpost-graduate)は14年として教育年数を計算している.
インドの教育年数については,Cainet al.(2008年)を参考にして, 1 )非識字者(notliterate)
は 0 年, 2 )ノンフォーマル教育受講者(literatethroughnon-formalschooling:NFEC(Non-For- malEducationCourses),AEC(AdultLiteracyCenters),EGS(EducationGuaranteeScheme), TLC(TotalLiteracyCampaign),andothers)は 1 年, 3 )初等教育未修了者(literatethroughfor-
7 ) 教育をはじめとする世帯の属性と格差を関係づけている研究として,ADB(2012年),OECD(2011 年)等がある.
malschooling,butbelowprimaryeducation)は2.5年, 4 )初等教育修了者(primaryeducation)
は 5 年, 5 )前期中等教育修了者(middleschool/lowersecondaryeducation)は 8 年, 6 )後期中等 教育(a)修了者(secondaryeducation)は10年, 7 )後期中等教育(b)修了者(highersecondary
education)は12年, 8 )専門学校修了者(diploma/certificatecourses)は12年, 9 )学部レベルの 高等教育修了者(undergraduateeducation)は15年,10)大学院レベルの高等教育修了者(post-
graduateeducation)は17年,というようにして求めている8).
表 8 ,表 9 ,表10は,インドネシア,フィリピン,インド 3 か国それぞれの 2 時点における都 市・農村間消費支出格差のBlinder-Oaxaca分解による推計結果を示している.
表 8 のインドネシアをみると,2008年の都市部における世帯 1 人当たり平均消費支出(対数値)
は12.973,農村部のそれは12.482,したがって両者の差は0.492である.2010年の数字は,2008年と ほぼ同水準である.Blinder-Oaxaca手法は,この都市・農村間の消費支出ギャップを 2 つの部分 に分解することができる.最初の部分は,「説明される格差(explainedpart)」あるいは「属性格 差」とよばれ,都市部の家計と農村部の家計の要素量の違いによって生じる消費支出格差を表わし ている.第 2 の部分は,残差部分であり,「説明されない格差(unexplainedpart)」あるいは「非 属性格差」とよばれ,このモデルで使用されていない変数の違いによって生じるであろう格差を表 わしている.
表の中で「説明される消費支出格差」の係数が,2008年は0.226に,2010年は0.239になってい る.これは,世帯規模,世帯主の性別,世帯主の年齢,世帯主の教育年数,世帯主の就業部門とい う世帯属性の差,あるいは要素量の違いを意味し,そのような属性格差は 2 時点それぞれの都市・
農村間の消費支出格差の46%と48%を説明している9).
Blinder-Oaxaca分解手法の結果によれば,「説明される消費支出格差」の中で,世帯あるいは 世帯主の規模,性別,年齢に関連する要素は,都市・農村間の 1 人当たり家計支出ギャップにほと んど影響を与えていないということになる.一方,都市・農村間の消費支出の格差にもっともイン パクトを与えている要因が教育であることは一目でわかる.世帯主の教育年数で計測した人的資本
8 ) インドの教育システムとその達成状況については,NSSO(2015年)が詳しい.
9 ) 都市・農村間の 1 人当たり平均消費支出の違いの推計は,以下のように 3 つの部分への分解も可能で ある.
Dˆ=Y
―
U-Y―
R=(X―
U-X―
R)βˆR+X―
R(βˆU-βˆR)+(X―
U-X―
R)(βˆU-βˆR)or Dˆ=Y―
U-Y―
R=(X―
U-X―
R)βˆU+X―
U(βˆU-βˆR)-(X―
U-X―
R)(βˆU-βˆR)第 1 項は都市部と農村部の家計の説明変数の水準(要素量の水準)の違いによる部分を,第 2 項は都市 部と農村部の家計の説明変数の係数の違いによる部分を,そして第 3 項はそれらの交絡要因の部分を表 わしている.この方法で2008年における都市・農村間の世帯 1 人当たり平均消費支出の差を要因分解し た場合,第 1 項は37%の差を,第 2 項は39%の差を説明している.本稿で使用している 2 つの部分に分 解した結果と同様,教育年数,就業部門は,都市・農村間の消費支出格差を十分に説明している.
表8 インドネシアにおける都市・農村間の1人当たりの平均消費支出格差とその要因:Blinder-Oaxaca分解の結果 2008年2010年 係 数標準誤差Z 値1)寄与度%2)係 数標準誤差Z 値1)寄与度%2) 都市部の1人当たり消費支出の推計値12.9730.0043,214.9313.0710.0043,072.85 農村部の1人当たり消費支出の推計値12.4820.0034,660.7012.5740.0034,413.63 都市・農村間の1人当たり消費支出格差0.4920.005 101.54100.00.4960.005 96.97100.0 説明される消費支出格差0.2260.003 68.04***46.00.2390.004 67.37***48.2 世帯規模-0.0080.001 -6.82***-1.7-0.0120.001 -8.80***-2.4 世帯主の性別0.0000.000 1.490.00.0000.000 1.81*0.0 世帯主の年齢-0.0170.003 -6.76***-3.5-0.0070.003 -2.31**-1.4 世帯主の年齢の2乗0.0150.002 6.94***3.00.0080.003 3.25***1.6 世帯主の学歴(教育年数)0.1750.003 65.12***35.50.1810.003 64.76***36.5 世帯の就業部門(1次産業,非1次産業)0.0620.002 27.38***12.70.0690.002 28.70***13.9 説明されない消費支出格差0.2650.005 55.79***54.00.2570.005 51.02***51.8 注:1)係数の統計的有意性の検定にはZ値を用い,***はその有意水準が1%,**は5%,*は10%であることを示している. 2)都市・農村間の1人当たり消費支出の総格差に対する寄与度. 資料:2008年および2010年のSusenas(National Socio-Economic Survey)にもとづき筆者が計算.
の違いが,都市と農村の間の 1 人当たり平均消費支出の格差を生んでいる最大の要因である.この 世帯主の教育年数の違いという教育面の属性の差が,2008年と2010年の 2 時点どちらにおいても,
都市・農村間の消費支出ギャップの36%前後を説明している.
教育に続いて都市と農村の間の格差に影響を与えている属性は,世帯主の就業部門である.農村 部における農業部門以外の就業機会の増加は,都市・農村間の格差縮小に効果がありそうである.
インドネシアでは,学歴と就業部門が,都市・農村間の格差に大きく関係しているといえよう.
表 9 は,フィリピンの 2 時点の結果を表わしている.1997年と2006年のそれぞれで,都市部の世 帯 1 人当たり平均消費支出(対数値)は9.896と10.445,農村部のそれは9.278と9.768,都市・農村 間の格差は0.617と0.676である.両者のギャップのうち,世帯属性(規模,性別,年齢,教育年数,
就業部門)の差で「説明される消費支出格差」の係数は,1997年が0.341に,2006年が0.322になっ ており,これは 2 時点それぞれの都市・農村間の 1 人当たり消費支出格差の55%と48%を説明して いる10).
フィリピンの場合も,「説明される消費支出格差」の中で,規模,性別,年齢といった要因は,
都市・農村間のギャップにほとんど影響を与えていない.都市・農村間の 1 人当たり平均消費支出 格差にもっとも大きな影響を与えている要因は教育であり,その次に影響を与えている要因は就業 部門である.学歴の違いは都市・農村間の消費支出格差の30-33%を,就業セクターの違いはそれ の16-21%を説明している.Blinder-Oaxaca分解手法の結果は,世帯属性の教育水準と就業部門 がフィリピンの都市・農村間格差に大きなインパクトを与えていることを示唆している.
表10によれば,インドの1999/2000年の都市部における 1 人当たり平均消費支出(対数値)は 7.535,農村部のそれは7.203,したがって両者の差は0.332であり,同じく2011/12年の都市部のそ れは7.748,農村部のそれは7.508,両者の差は0.240である.「説明される消費支出格差」の係数 が,1999/2000年は0.262に,2011/12年は0.164になっている.この規模,性別,年齢,教育年数,
就業部門という属性格差は, 2 時点それぞれの都市・農村間の 1 人当たり消費支出格差の79%と 68%を説明している11).
インドは,「説明される消費支出格差」の中で,性別,年齢は,都市・農村間の 1 人当たり消費 支出ギャップにインパクトをほとんど与えていないようにみえる一方,もっとも影響を与えている 要因は教育である.世帯主の教育年数の差が,都市・農村間の 1 人当たり消費支出の格差を生んで
10) 3 つの部分に分解する方法でフィリピンにおける2006年の都市・農村間の世帯 1 人当たり平均消費支 出の差を要因分解した場合,第 1 項は43%の差を,第 2 項は38%の差を説明している.本稿の 2 つの部 分に分解した計算とほぼ同様の結果を得ている.
11) 3 つの部分に分解する方法でインドにおける2011/12年の都市・農村間の世帯 1 人当たり平均消費支出 の差を要因分解した場合,第 1 項は55%の差を,第 2 項は 7 %の差を説明しており,本稿の 2 つの部分 に分解したものと大きく変わらない結果であった.
表9 フィリピンにおける都市・農村間の1人当たりの平均消費支出格差とその要因:Blinder-Oaxaca分解の結果 1997年2006年 係 数標準誤差Z 値1)寄与度%2)係 数標準誤差Z 値1)寄与度%2) 都市部の1人当たり消費支出の推計値9.8960.0051,992.1310.4450.0061,803.37 農村部の1人当たり消費支出の推計値9.2780.0051,890.189.7680.0042,211.66 都市・農村間の1人当たり消費支出格差0.6170.007 88.40100.00.6760.007 92.88100.0 説明される消費支出格差0.3410.005 63.17***55.20.3220.005 61.72***47.6 世帯規模0.0030.002 1.240.50.0080.003 3.12***1.2 世帯主の性別0.0030.001 5.01***0.40.0050.001 7.69***0.7 世帯主の年齢0.0000.005 0.040.0-0.0140.003 -4.49***-2.1 世帯主の年齢の2乗0.0020.003 0.620.30.0090.002 4.15***1.3 世帯主の学歴(教育年数)0.2010.004 53.92***32.60.2060.004 55.24***30.4 世帯の就業部門(1次産業,非1次産業)0.1320.003 38.45***21.40.1090.003 41.56***16.1 説明されない消費支出格差0.2760.007 42.44***44.80.3540.006 55.49***52.4 注:1)係数の統計的有意性の検定にはZ値を用い,***はその有意水準が1%であることを示している. 2)都市・農村間の1人当たり消費支出の総格差に対する寄与度. 資料:1997年および2006年のFIES(Family Income and Expenditure Survey)にもとづき筆者が計算.
表10 インドにおける都市・農村間の1人当たりの平均消費支出格差とその要因:Blinder-Oaxaca分解の結果 1999/2000年2011/12年 係 数標準誤差Z 値1)寄与度%2)係 数標準誤差Z 値1)寄与度%2) 都市部の1人当たり消費支出の推計値7.5350.0032,789.057.7480.0032,418.94 農村部の1人当たり消費支出の推計値7.2030.0023,931.817.5080.0023,615.17 都市・農村間の1人当たり消費支出格差0.3320.003 101.70100.00.2400.004 62.79100.0 説明される消費支出格差0.2620.003 95.05***79.00.1640.002 67.43***68.4 世帯規模0.0420.001 38.75***12.50.0440.001 34.19***18.3 世帯主の性別0.0000.000 3.00***0.10.0010.000 5.84***0.3 世帯主の年齢-0.0100.001 -10.30***-3.1-0.0080.001 -7.75***-3.1 世帯主の年齢の2乗0.0010.001 1.130.30.0000.001 0.450.1 世帯主の学歴(教育年数)0.1950.002 105.39***58.60.1280.002 71.92***53.6 世帯の就業部門(1次産業,非1次産業)0.0350.002 17.71***10.6-0.0020.001 -1.62-0.8 説明されない消費支出格差0.0700.003 20.52***21.00.0760.003 22.41***31.6 注:1)係数の統計的有意性の検定にはZ値を用い,***はその有意水準が1%であることを示している. 2)都市・農村間の1人当たり消費支出の総格差に対する寄与度. 資料:第55回(1999/2000年)および第68回(2011/12年)のNSS(National Sample Survey)にもとづき筆者が計算.
いるもっとも大きな要因である.この世帯主の教育年数の違いという要素量の差が,1999/2000年 と2011/12年の 2 時点において,都市・農村間の消費支出格差の54-59%前後を説明している.
教育年数に次いで,都市・農村間の格差に影響を与えている世帯属性は,世帯の規模と就業部門 である.ただし,就業部門は,2011/12年になると,都市・農村間の 1 人当たり消費支出格差の説 明力をもたなくなってきている.1999/2000年には,所得水準が低いといわれている農業を生業に している家計の多い農村部と所得水準が相対的に高いといわれている非農業に依存する家計の多い 都市部の間で,支出格差が生じていたと考えられる.最近,都市・農村間の消費支出ギャップに対 する就業部門の寄与度がなくなってきたのは,農村部の兼業農家化や農外労働の機会が増えてきて いることに影響を受けているかもしれない.
Blinder-Oaxaca分解手法を用いて, 3 か国の都市・農村間消費支出格差の要因分析を行なった 本節の結果は,教育水準,就業セクターという世帯特性が大きな影響力をもっていることを示唆し ている.
5 .おわりに: 3 か国における都市・農村間消費支出格差の要因
本稿では,アジア途上国の中からインドネシア,フィリピン,インドを選び,それぞれにおける 2 時点の家計調査データにもとづき,Blinder-Oaxaca手法を用いて,教育に焦点を当てながら,
3 か国における都市・農村間の家計消費支出格差の要因分解を試みた.分析結果の要約およびイン プリケーションは以下の通りである.
今回の研究対象国,インドネシア,フィリピン,インドは,2000年から2010年にかけての10年 間,それぞれ,GDP(国内総生産)は年平均5.2%,4.8%,6.7%, 1 人当たりGDPは,3.8%,
2.8%,5.1%の成長率を記録し,順調に経済発展を遂げている.人口規模は,2010年時点で,それ ぞれ, 2 億4,000万人,9,400万人,12億3,000万人を擁し,アジア途上国の中でも大国である.
これらの 3 か国とも, 1 人当たりの平均消費支出は,農村部よりも都市部で高い.農村部から都 市部へ人口も経済も大きくシフトしている. 3 か国ともに,世帯主の学歴があがると,都市部でも 農村部でも,世帯 1 人当たりの平均消費支出もあがっている.ただし,都市部のほうが,農村部よ りも,同じ教育水準でも 1 人当たり平均消費支出が高く,その傾向は高学歴者のグループでより明 らかであり,高学歴者の世帯割合も高い.
タイル尺度を用いて, 1 人当たり消費支出の格差を計測すると,インドネシアとインドは格差が拡 大する傾向にある.フィリピンは格差縮小傾向にあるものの,格差は非常に大きい.都市と農村で 格差全体を要因分解すると,タイル尺度の性質もあり,都市・農村間格差に比べて,都市・農村内 格差のほうが大きいという結果になった.しかし,そのようなタイル尺度の欠点を補正するElbers の手法を用いると, 3 か国ともに都市・農村間に大きな格差が存在していることがみえてきた.
そこで,都市・農村間の 1 人当たり平均消費支出格差を,Blinder-Oaxaca手法を使い,教育を はじめとする世帯特性で要因分解を試みた.その結果,都市・農村間の消費支出格差に大きな影響 を与えている要因は,インドネシア,フィリピン,インドともに教育(世帯主の教育年数)であ り,それぞれ格差全体の30-60%前後を説明していることがわかった.また,就業部門も,都市・
農村間の家計消費支出格差に対してインパクトを有しているということを確認するができた.表 2 ,表 4 ,表 6 に示されている通り, 3 か国とも,都市部では高等教育を修了している世帯主の割 合が10-20%前後に達している一方,農村部ではその割合が2-5%程度でしかない.農村部は,生産 性やリスクの問題を抱える農業に従事している人口の割合も高い.都市・農村間には,教育へのア クセスの差,生産性や付加価値の高い産業で就業できる機会の差が存在しており,それらが都市・
農村間の消費支出格差を生む要因になっていると想像できる.
以上のように,教育の差,就業部門による生産性 / 付加価値の差が,家計消費支出の都市・農村 間格差の要因になっていることが明らかになった.それらへの対応策として,教育の量の拡大,農 業部門の生産性向上,非農業部門の就業機会の創出が, 3 か国における消費支出の都市・農村間格 差の是正につながるであろうと考えられる.初等教育を受けていない世帯主が,インドネシアと フィリピンの農村部では40%前後,インドでは50%以上存在すること,生産性の低い農業部門が農 村の主要産業であることを考えれば,まずは,農村部の人々に対して,教育サービスの提供を拡大 すると同時に,条件付き現金給付等を通じて教育を受ける機会を創出し,農業部門であれ,非農業 部門であれ,収入獲得能力を高くしていくことが重要な課題となってこよう.
付記 本研究は,日本学術振興会の科学研究費補助金(17K03714)および中央大学特定課題研究費により 実施した.ここに記して謝意を表したい.
参 考 文 献
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ADB(AsianDevelopmentBank),2012,Asian Development Outlook 2012: Confronting Rising Inequality in Asia,Manila:AsianDevelopmentBank.
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(中央大学経済学部教授)