一形態としての社会内労働を通じた対象者の就労
The Employment of Offenders through the Sentence of Community Work as a Community-Based Correction in New Zealand
千 手 正 治*
は じ め に
本稿は,ニュージーランドにおける社会内労働(community work)を 通じた対象者の就労の状況について論じるものである。
社会内労働とは,刑の一環として対象者に対して無報酬の労働作業を科 すといった社会内処遇制度の一形態であり,諸外国における社会奉仕命令 に類似するものである。現在ニュージーランドにおける社会内労働は,
2002年量刑法(Sentencing Act 2002)(以下「量刑法」とする)を根拠法と して実施されている1)。
またニュージーランドにおいては,数は決して多くないものの,社会内 労働の経験を通じて対象者が就労に至る例も存在するものである。このよ
* 嘱託研究所員・常磐大学准教授
1) 量刑法に基づく社会内労働については,拙稿「ニュージーランドにおける社 会内処遇制度の一形態としての社会内労働」川端博 = 椎橋隆幸 = 甲斐克則編『立 石二六先生古稀祝賀記念論文集』成文堂(2010年)893-912頁,同「ニュージー ランドにおける社会内処遇の新動向:2002年の量刑法における社会内量刑」
『JCCD』94号(2004年)20-33頁参照。
うな例は,「刑務所出所者等総合的就労支援対策」に代表されるような就 労支援策の重要性が指摘され2),また「刑法等の一部を改正する法律」が 2011年12月 4 日に参議院を通過し,諸外国における社会奉仕命令に類似し た「社会貢献活動」が導入される見通しである現在の我が国において,極 めて興味深いものであるといえよう3)。
I 社会内労働とは
前述のとおり,ニュージーランドにおける社会内労働の根拠法は量刑法 である。しかしながらニュージーランドにおいては,量刑法制定前より社 会内労働に類似した社会内処遇制度が存在していた。以下においては,量 刑法成立前のニュージーランドにおける社会内処遇制度について概説する。
2) 我が国における就労支援に関する文献は多数存在するが,刑務所出所者等総 合的就労支援対策の解説として,中條友裕「刑事施設における就労支援につい て:就労環境の調整に向けた関係機関との連携の在り方について」矯正研修所 紀要24(2010年)112-129頁,西村穣「刑務所出所者等に対する就労支援につ いて」『犯罪と非行』159号(2009年)31-47頁,法務省矯正局成人矯正課=法務 省矯正局少年矯正課「矯正施設における就労支援」『刑政』118巻 3 号(2007年)
22-32頁,法務省保護局更生保護振興課「刑務所出所者等総合的就労支援につ いて」『更生保護』57巻12号(2006年)
24-30頁,同「刑務所出所等に対する就
労支援について」『更生保護』60巻 5 号(2009年)6-12頁等参照。また刑務所出 所者等総合的就労支援対策の報道発表資料については,法務省=厚生労働省「刑 務所出所者等総合的就労支援対策」(http://www.mhlw.go.jp/houdou/2005/08/h0829-2.html)参照。
3) 我が国の社会貢献活動については,太田達也「刑の一部執行猶予と社会貢献 活動」『刑事法ジャーナル』23号(2010年)14-37頁,森本正彦「刑の一部執行 猶予制度・社会貢献活動の導入に向けて」立法と調査318号(2011年)59-76頁,
正木祐史「社会貢献活動:法制審の議論」龍谷法学43巻 1 号(2010年)104- 128頁,滝充「社会貢献活動と自己有用感:自発的な思いを育む」更生保護62 巻 1 号(2011年)30-33頁,調子康弘「社会貢献活動の先行実施について」更 生保護62巻 4 号(2011年)40-43頁,「特集:社会貢献活動」『更生保護』62巻12 号(2011年)12-45頁等参照。
量刑法が施行される以前のニュージーランドにおける社会内処遇制度の 根拠法は1985年刑事司法法(Criminal Justice Act 1985)(以下「1985年法」
とする)であった4)。1985年法においては,量刑法における社会内労働に 類似する社会内処遇制度として,周期的拘禁(periodic detention)ならび に社会奉仕命令(community service order)について規定されていた5)。以 下において,これらの制度について概説していくことにする。
周期的拘禁は, 1 日なら10時間(1993年の法改正前は 9 時間), 1 週間 なら18時間(1993年の法改正前は15時間)にわたって12ヶ月を限度に,周 期的拘禁対象者を周期的拘禁区に監禁するもので6),1954年刑事司法法
(Criminal Justice Act 1954)の改正により,1962年に導入された社会内処 遇制度であり,元来は15歳から21歳までの若年者を対象として週末に無償 の作業に従事させていた7)。実際には,対象者の多くは,週末に周期的拘
4) 1985年法については,G・グラハム・アームストロング「ニュージーランド 法務省プロベーション部局」『犯罪と刑罰』79号(1989年)152-162頁,河原田 徹「ニュージーランドの社会内処遇とコミュニティ」『犯罪と非行』98号(1993 年)168-197頁,佐藤繁實「ニュージーランド1985年刑事裁判法」『犯罪と非行』
72号(1987年)179-186頁,藤本哲也『諸外国の刑事政策』中央大学出版部(1996 年)35-61頁及び247-271頁,同『続・犯罪学のさんぽ道』日本加除出版(1998 年)169-175頁,藤本哲也 = 千手正治「ニュージーランドにおける修復的司法 の一制度としての賠償命令」『法学新報』109巻 3 号(2002年)47-77頁,拙稿
「ニュージーランドにおける社会内処遇の新動向:2002年の量刑法における社 会内量刑」,同「ニュージーランドにおける賠償命令と修復的司法:2002年の 量刑法(Sentencing Act 2002)を踏まえて」藤本哲也編『諸外国の修復的司法』
中央大学出版部 (2004年)81-116頁参照。
5) 周期的拘禁及び社会奉仕命令は,保護観察(supervision)及び社会内プログ ラ ム(community programme) と と も に,「 社 会 内 量 刑 」(community-based
sentences)と呼ばれていた。
6) 河原田・前掲論178頁以下,佐藤・前掲論文182頁,藤本哲也『諸外国の刑事 政策』39頁以下。
7) Missen, E. A., Periodic Detention in New Zealand. 1975, p.99; Barnett, P.A.,
“Periodic Detention in New Zealand: Its History and Underlying Philosophy,”
LLM Research Paper, Victoria University of Wellington, 1971, p.1. なお,1966年
禁作業所に出頭し,周期的拘禁の監視員に伴われ,およそ10人が一団とな り,雑木林を伐採したり,ゴミを拾ったり,政府の建物を掃除するといっ た作業に無償で従事していた8)。
他方社会奉仕命令とは,犯罪で有罪とされた対象者に対して,指定され た慈善労働作業を,地域社会内で,200時間を限度として裁判所が命じる ものであった9)。具体的な作業内容としては,①教会・養護施設・老人ホー ム・その他福祉施設における庭の手入れや塗装・清掃作業,②老人家庭の 庭の手入れ,③チャリティのための古着の再生販売所における各種作業,
④その他各人の特技をいかした水泳指導コーチ等が挙げられる10)。社会奉 仕命令は,加害者を無償の作業に従事させるといった点においては周期的 拘禁と共通性のあるものであった。しかしながら社会奉仕命令は,対象者 の同意を必要とする点や,周期的拘禁が周期的拘禁センターのスタッフが 直接監督するのに対し,社会奉仕命令は対象者の行う作業について,外部 に委託されている点で周期的拘禁とは異なるものであった11)。
このように,量刑法成立前のニュージーランドにおいては,対象者に対 して無償による作業に従事させる社会内処遇制度として,周期的拘禁及び 社会奉仕命令の双方が存在していたのである。しかしながらこれらの制度 は,双方ともに独立した社会内処遇制度であったため,裁判官による量刑
には21歳以下とする年齢制限が廃止され,幅広い年齢層に適用可能となった。
8) 河原田・前掲論文179頁,佐藤・前掲論文182頁,藤本哲也『諸外国の刑事政 策』39頁以下。なお,周期的拘禁について説明したビデオテープとして,
Periodic Detention [Videorecording]: Induction Video,1994. Wellington: New
Zealand, Execam, 1994.
このビデオでは,周期的拘禁対象者たちが,集団で森林の草刈作業を行う場面を紹介していた。
9) 河原田・前掲論文176頁以下,佐藤・前掲論文181頁以下,藤本哲也『諸外国 の刑事政策』40頁以下。
10) 河原田・前掲論文177頁,佐藤・前掲論文181頁,藤本哲也『諸外国の刑事政 策』41頁。
11) Department of Corrections, Community Service: Sentencing Information.
Wellington: New Zealand;
河原田・前掲論文177頁。宣告の時点において対象者に対してどちらが科せられるかが決定されてい た。いいかえれば,量刑宣告時点において決定された処分内容について,
その後の経過状況を踏まえた変更の余地がなかったものであり,状況に応 じた柔軟な対処が困難であったとも考えられる。
前述のとおり,現在ニュージーランドにおいては,量刑法を根拠法とし て犯罪者に対する社会内処遇の一環として社会内労働が実施されている。
以下において量刑法の下での社会内労働について概説する。
社会内労働の対象となる者としては,社内内労働の対象となる犯罪につ いては,①拘禁刑(custodial sentence)の対象となる犯罪,②在宅拘禁(home
detention) の 対 象 と な る 犯 罪, ③ 社 会 内 量 刑(Community-based Sentencing)の対象となる犯罪が挙げられる(量刑法55条 1 項)。裁判所は,
対象者に対して40時間から400時間の労働を言渡すが(量刑法第55条 2 項),
その判断基準としては,第一に犯罪の重大性が挙げられ,それに加えて過 去の犯罪歴等についても考慮される12)。
裁判所は社会内労働を言渡す際には,①犯罪の性質及び情状において,
特定の個人に対する賠償に加え,もしくはそのような賠償に代えて,犯罪 者が労働の形で地域社会に対して埋め合わせを行うことで責任を取らせる ことが適切であるか,②犯罪者の性格,経歴その他関連するあらゆる事情 に鑑み,社会内労働が適切であるかについて考慮した上で,社会内労働を 言渡すことがふさわしいかどうかを決定する(量刑法第56条 1 項)。社会 内労働の対象となる典型的な罪種としては,交通事犯が挙げられ,その他 にも窃盗や薬物事犯に対して言渡される場合もある13)。
社 会 内 労 働 の 執 行 は, ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド 矯 正 省(Department of
Corrections)が所管するコミュニティ・プロベーションサービスに所属す
るプロベーション・オフィサー,上級社会内労働監督官(senior communitywork supervisor)さらには社会内労働監督官(community work supervisor)
12) 筆者は,2009年 3 月25日にウェリントンにある矯正省の本省を訪問する機会 に恵まれたが,その際の筆者の質問に対するフッド(G. Hood)の説明による。
13) 前述したフッドの説明による。
等の職員により監督されている。
社会内労働を言渡された対象者の配置場所については,プロベーショ ン・オフィサーによって決定される(量刑法第61条)。具体的には,プロ ベーション・オフィサーは,社会内労働の対象者ついて,①社会内労働セ ンターへの配置14),②その他の代理人(agency)への配置,③その双方へ の配置のいずれかを決定する。
このように,現在社会内労働は,実務上 2 つの形態で実施されている。
1 つがプロベーション・オフィサー等のコミュニティ・プロベーション サービスに所属する職員により直接的に監督され,通常 8 人から10人の集 団で対象者に作業を行わせるもので,1985年法における周期的拘禁に類似 するものである15)。もう 1 つが,代理人と呼ばれる地域社会内の団体 ・ 個 人に委ねられるもので,1985年法における社会奉仕命令と類似するもので ある16)。代理人については,あらかじめ対象者の受入れについて社会内労 働センターとの間での合意の上で代理人として登録される。
このような 2 つの形態での実施について,1985年法において 2 つに分離 されていた社会内量刑が 1 つに統合され,結果としてよりシンプルな構造 となり,また柔軟な対応が可能になったとの指摘がある17)。すなわち,か 14) 実務上は,コミュニティ・プロベーションサービスにおける各地のサービス センターに配置され,プロベーション・オフィサーや上級社会内労働監督官,
さらには社会内労働監督官等の職員により直接監督される。
15) 筆者が2009年 3 月26日にコミュニティ・プロベーションサービスのウェリン トン・サービスセンターを訪問した際には,同センターでは毎週火曜日,水曜 日,木曜日,土曜日の 4 日間において朝 8 時から16時まで,最大 9 名の対象者
(及び 1 名の監督者)を 1 つの集団として社会内労働に従事させているとの説 明を受けた。
16) ウェリントン・サービスセンターのスマヌファガイ(S. Seumanufagai)によ れば,主な代理人としては,サルベーション・アーミー,教会,スポーツグルー プ,高齢者施設,シティ・カウンセル,地方公共団体などが挙げられ,基本的 に 1 つの個人・団体に 1 名の対象者が受入れられているという (2009年 3 月26 日の訪問の際のインタビューによる)。
17) 前述したフッドの説明による(2009年 3 月26日)。
つては裁判所が周期的拘禁か社会奉仕命令のいずれかを言渡していたが,
量刑法の成立に伴い社会内労働に統合されたことにより,プロベーショ ン・オフィサーが社会内労働の作業形態について決定することができるよ うになったため,より柔軟な対応が可能となったということである。例え ば,対象者の事情等に応じて,裁判所において言渡された社会内労働の期 間のうち,一定の期間は周期的拘禁の内容に類似した形態で行い,残りの 期間は社会奉仕命令の内容に類似した形態で行うなどの運用が可能となっ たのである。また,代理人への委託中に問題があった場合には,プロベー ション・オフィサーの権限で,代理人への委託からプロベーション・オ フィサー等による直接監督による集団での社会内労働への配置転換の対応 も可能である18)。
プロベーション・オフィサーは,加害者が社会内労働を行うための配置 先を決定する場合,①犯罪の状況,②社会内労働の判決を通じて,加害者 が労働の習慣や技能を学ぶことからどれだけの利益を得ることができる か,③加害者の性格や経歴,④加害者の身体的・精神的な適性,⑤当該事 例において行われているあらゆる修復的司法プロセスの結果,⑥加害者の 居住地から相応の距離内に,社会内労働センターが存在するかどうか,⑦ 加害者の居住地から相応の距離内に,加害者に対して十分に適切な労働を 役立てうる代理人が存在するかどうか,⑧その他のあらゆる関連状況を考 慮しなければならない(量刑法第62条)。一般に,比較的重大な罪を犯し た者は,プロベーション・オフィサー等により直接監督され,比較的軽微 な罪を犯した者は,代理人への委託による作業に従事する傾向にある19)。
18) ウェリントン・サービスセンターのグッディング(L. Gooding)によれば,
定期的に配置先の適切性や遵守事項の遵守状況等に対するレビューが行われて いるという(2009年 3 月26日)。
19) 前述したグッディングによれば,一般に暴力犯や常習犯等の対象者に対して は,プロベーション・オフィサー等の直接監督下による社会内労働に従事させ る傾向にあり,若年犯罪者,初犯,リスクが少ないと考えられる犯罪者等につ いては代理人に委託される傾向にあるという(2009年 3 月26日)。
社会内労働における作業内容については,①病院,教会,その他の慈善 事業,教育,文化及びレクリエーションに関連する施設もしくは組織(マ ラエを含む20))における作業またはそれらの施設・組織のための作業,② 傷病者,高齢者もしくは身体障害者のための施設もしくは組織における作 業,それらの施設・組織のための作業,または傷病者,高齢者もしくは身 体障害者が生活する住居における作業,③国もしくは公共団体が所有者,
賃借人もしくは占有者となっている土地または,国もしくは公共団体が管 理する土地における作業,④地方当局における作業,または地方当局のた めの作業が挙げられている(量刑法第63条 1 項)。これらの施設や組織は,
地域社会内において公共性・公益性の高い施設・組織であるといえ,罪を 犯した対象者が地域社会に対する埋め合わせもしくはペイ・バックとして 社会内労働に従事するといった考えがその背景の 1 つにあるといえよう。
具体的な作業としては,公共施設等の清掃,庭の手入れ,歩道の整備,ペ ンキ塗り,農作業,ボーイスカウトとしての活動等がある21)。
社会内労働の対象者が遵守事項に違反した場合には,罰則が科せられる
(第71条)。すなわち,対象者が,①正当な理由なく,定められた期間内に 住所変更などの報告すべき事項についてプロベーション・オフィサーに報 告しなかった場合,②正当な理由なく,作業を行わなかった場合,あるい
20) マラエ(marae)とは,ニュージーランド先住民マオリの集会所として用い られている囲い地のことであり,マオリにとって神聖な場所である。
21) 筆者が,2009年 3 月26日にウェリントン・サービスセンターを訪問した際に は,集団による社会内労働として,公営住宅における農園の整備及び墓地の清 掃の現場を見学する機会に恵まれた。また,社会内労働の成果として,小学校 における整備されたグラウンド,ならびに公営住宅における整備された庭を見 学する機会にも恵まれた。また2011年 8 月23日に同センターを訪問した際に は,代理人として社会内労働の対象者を受け入れている機関として,小学校,
動物虐待防止協会(Society for the Prevention of Cruelty to Animals)(一般に
SPCA
と呼ばれる),動物園,サルベーション・アーミー,公立のスイミングプー ル,私立の高齢者福祉施設,マラエ,児童ケアセンター,原生林に囲まれた野 生鳥類保護地域を管理する団体を見学する機会に恵まれた。はプロベーション・オフィサーと代理人との間における合意事項に従わな かった場合,③社会内労働に対する報酬を受け取った場合,④正当な理由 なく,社会内労働センターの規則に従わなかった場合等に対しては, 3 月 以下の拘禁刑もしくは1000ニュージーランド・ドル以下の罰金が科せられ る。また,正当な理由なく,社会内労働センター等の周りをうろついたり,
警察官もしくはプロベーション・オフィサーの警告を受けたにもかかわら ず,退去を拒否あるいは無視した場合には,500ドル以下の罰金が科せら れる。
このように,社会内労働対象者が遵守事項に従わない場合には,罰則の 対象となる。この点について社会内労働対象者は,社会内労働に従事する 前に,社会内労働に関するDVDを通じて遵守事項について説明され,そ の後職員に対して質問する機会が与えられる。DVD視聴及び質疑応答の 後,対象者は遵守事項について説明を受けた旨の書類にサインする22)。
プロベーション・オフィサー及び社会労働監督者は,実務上軽微な違反 に対しては,口頭や書面による警告で済ませる場合もあり,違反に対する 対処法についても段階がある。すなわち,対象者が社会内労働に関する遵 守事項に従わない場合,違反の程度及び頻度に応じて,裁判所への提訴以 外にも,口頭による警告,手紙による警告の措置を取っている23)。
22) DVDでは,決められた時間・場所への出頭,作業の際の服装・態度,作業 に対する報酬等の受取りの禁止,疾病・怪我・葬式への出席等の法律上の免責 事由等が説明される。
23) 前述したグッディングによれば,無断怠業の場合,初回は電話等による口頭 での警告を行い,2 回目の怠業については,手紙による警告を行い,これによっ ても改善が見られない場合には,裁判所へ提訴する手続をとっているという
(2009年 3 月26日訪問時)。
II 社会内労働と対象者の就労
1
社会内労働における就労の位置づけ前述のとおり,ニュージーランドにおける社会内労働は刑の一環として 対象者に対して無報酬の労働作業を科すものであり,裁判所により社会内 労働の判決を言渡された者は社会内において何らかの無報酬の労働に従事 する義務を有するものである。そのような意味においては,社会内労働は 犯罪に対する責任として対象者に無報酬の労働を科すといった要素や,無 報酬の労働という形による地域社会への埋め合わせもしくはペイ・バック としての要素は否めないものである24)。
しかしながらその一方で,矯正省は,社会内労働の対象者は,実用的な スキルを習得もしくは行使する機会,あるいはその双方を行う機会を得る ものであり,また一部の対象者に対しては,善良な労働の習慣を習得する 機会を提供するものであるとも説明している25)。すなわち,社会内労働に おける作業を通じ,何らかのスキルを身につけ,また労働の習慣を修得す ることも社会内労働の目的の 1 つとして考えられるといえよう26)。このこ とは,前述のとおり,量刑法上も対象者の配置先を決定する際に,社会内 24) 矯正省の
HP
では,社会内労働について,「社会内労働の量刑は,無報酬の 労働により地域社会に対して,対象者が犯した罪への埋め合わせをすることを 求めるものである。社会内労働はまた,対象者に対して罪を犯したことへの責 任を取る機会,ならびに新たなスキル及び労働の習慣を学ぶ機会も提供するも の で あ る 」 と 説 明 し て い る。Department of Corrections, “Community WorkAgencies.”(http://www.corrections.govt.nz/community-assistance/community- work-agencies.html)
(最終確認日:2012年 4 月13日)25) Department of Corrections, “G. Considering Community Work.”(http://www.
corrections.govt.nz/policy-and-legislation/cpps-operations-manual/volume-1/ii.- pre-sentence-reports/2.-considering-sentencing-options/g.html)
( 最 終 確 認 日:2012年 4 月13日)
26) 前述したフッドも,社会内労働の結果として,対象者が手に職をつける効果 も期待できることも指摘している。
労働の判決を通じて加害者が労働の習慣や技能を学ぶことから得られる利 益についても考慮すべきであると規定していることとも合致するものであ る。
さらに2007年の量刑法の改正により,一部の社会内労働の対象者に対し ては,社会内労働に従事する時間の一部を,労働及び生活に関する基礎的 スキル(basic work and living skill)(一般に,“BWLS” と表記される)に充 てることも可能である(改正後の量刑法第44条 2 項,第66条の
A
乃至第 66条のC)
27)。この点について矯正省は,社会内労働が再統合の要素(とり わけ雇用を得ることに関連するスキルの上達の手助けとなるプログラムに アクセスする機会)を有するものであると説明している28)。また,量刑法第 7 条 1 項では,裁判所が言渡す刑の目的の 1 つとして,
加害者の社会復帰(rehabilitation)及び再統合(reintegration)を援助す ることが規定されている。ここでいう再統合に関する方策とは,遵法的な 生活様式を身につけ,あるいはこのような生活様式を維持するための加害 者の潜在的可能性を強化する保護的な要因(教育もしくは雇用の機会,住 宅の供給,その他地域社会のサポートなど)に向けられるものであると説 明されている29)。したがって,社会内労働を通じて対象者の就労の機会を 27) これに基づき裁判所は,80時間以上の社会内労働が科されている対象者に対 して,社会内労働に代えて労働及び生活に関する基礎的スキルを得るための訓 練に充てるようプロベーション・オフィサーに命じることができる。
28) Department of Corrections, supra note 25. 筆者が2011年 8 月23日にウェリン トン・サービスセンターを訪問した際に,同センター所属のプロベーション・
オフィサーであるジルクリスト(J. Gilchrist)から受けた説明によれば,
BWLS
の対象となる者としては,朝定時に起きて仕事に出かける習慣がない者 や,怠惰で仕事をする気がない者,さらには裁判所の判決等を理解するだけの 読み書きの能力がない者などが挙げられる。またBWLS
は,あくまでも基礎 的なスキルを身につけさせるものであり,BWLSを受けた経験があることがた だちに就労につながるものではないという。29) Adams on Criminal Law: Sentencing: Sentencing Act 2002. SA7.07 Subsection
(1)(h) (http://www.brookersonline.co.nz/databases/modus/criminal/cradmsnt/
ACT-NZL-PUB-Y.2002-9?si=57359&tid=330027)(最終確認:2011年 8 月25日)
提供することは,対象者の社会への再統合を促進するものであると考えら れ,量刑法第 7 条 1 項の趣旨にも合致するものであるといえる。
処遇現場におけるプロベーション・オフィサーも,対象者が有するスキ ルや興味さらには社会内労働の判決の遵守可能性等を考慮した上で作業内 容を決定すると指摘しており30),対象者の特技を考え,社会内労働の経験 を通じた就労の可能性についても考慮されているといえる。
これらの点に鑑みれば,社会内労働を通じ,対象者が何らかのスキルを 身につけ,またそのようなスキルを活かすことが実務上考慮されていると いうことができ,対象者に対する職業訓練としての要素も存在するといえ よう。このような実務上の考慮は,量刑法の規定と相容れないものではな く,むしろその趣旨に合致するものであるといえよう。後述のとおり,実 際にニュージーランドにおいては,対象者が社会内労働の期間終了後に代 理人に雇用された例もあり,就労の機会となる場合もあるのである。
ニュージーランドにおいては,現在受刑者を対象として釈放された際に 職を得るための技術及び機会を与えるための措置として,矯正省受刑者雇 用(Corrections Inmate Employment)(一般に
CIE
と呼ばれる)と呼ばれ るプログラムが実施されている31)。この点に鑑みても,犯罪者処遇におけ る就労支援の重要性について認識されているものと思われる。一方,社会 内処においては,対象者の就労の機会を促進するための特別なプログラム は特に実施されている状況にはないが32),社会内労働の運用により,事実30) 前述したジルクリストの指摘による(2011年 8 月23日訪問時)。例えばボー ト・メーカーの家庭で育った者については,ヨット・クラブに代理人として受 け入れてもらい,電気に関する技術を有する者はサルベーション・アーミーに おける電気機器を扱う部門に代理人として受け入れてもらい,さらに動物に興 味がある者については前述した動物虐待防止協会に代理人として受け入れても らうなどの措置をとっているという。
31) Department of Corrections, “Corrections Inmate Employment (CIE).”(http://
www.cor rections.govt.nz/about-us/fact-sheets/managing-of fenders/
education%2c_training_and_employment/cie-information-booklet.html)
32) 前述したジルクリストによれば,現在矯正省は社会内労働に関するリサーチ
上就労支援としての機能を発揮しているということができよう。
2
社会内労働の経験を通じた就労の例次にニュージーランドにおける社会内労働を通じた対象者の就労の例に ついて見ていくことにする。社会内労働を通じた対象者の就労状況につい ては,現在のところニュージーランド矯正省やニュージーランド国内の研 究機関等による調査が実施されていない状況にあるので,筆者がウェリン トン・サービスセンターにおいて実施したインタビュー内容を中心に見て いくこととしたい。
前述のとおり,ニュージーランドにおける社会内労働の運用形態につい ては,プロベーション・サービスの職員による直接監視の下で行われる場 合と,代理人と呼ばれる地域社会内の団体・機関に委託される場合の 2 通 りが存在する。このうち,社会内労働の対象者がその経験を踏まえて就労 に結びついた例の大部分は,代理人に委託された場合である33)。以下にお いて,ウェリントン・サービスセンターのプロベーション・オフィサーが 指摘した,代理人に委託された場合における就労の例について挙げる34)。
①公立の小学校が代理人として,飲酒運転により社会内労働の判決を受 けた女性対象者(対象者の子どもが障害を有していた)を受け入れて障害 を有する児童のケアを行う作業に従事し,当該児童のケアに情熱をもって 取組んだ結果,社会内労働終了後に障害を有する児童のケアを行うための 教員補助者(teacher aid)として雇用された例。
を行っており,2012年に報告書が発行される予定であるとのことであり,これ らの調査結果を踏まえて新たな就労支援プログラムが実施される可能性はある という(2011年 8 月23日訪問時)。
33) 一般的に代理人は,シティ・カウンセルなどの公的機関が多いが,民間の福 祉施設等が代理人となる場合もある (2011年 8 月23日訪問時)。
34) これらの例はいずれも,筆者が2011年 8 月23日にウェリントン・サービスセ ンターを訪問した際に,前述したジルクリストが挙げたものである。
②ウェリントン郊外にある原生林に囲まれた野生鳥類保護地域を管理す る団体が代理人として,男性の対象者(植物に関する知識をある程度有し ていた)を受け入れ,保護地域内の清掃,整備,ベンチ作り等の作業に従 事し,社会内労働における遵守事項も遵守状況も良好であり,また同保護 地域内における作業も積極的に学んでいたこともあり,社会内労働終了後 に当該保護地域を管理する団体に庭師(landscaper)として雇用された例。
③ウェリントン郊外にある公立のスイミングプールが代理人として,比 較的軽微な薬物事犯により社会内労働の判決を受けた18歳の女性の対象者
(水泳が得意であった)を受け入れ,監視員補助,受付補助及びプールの 清掃等をしながらライフガードの資格をとり,社会内労働終了後に当該ス イミングプールにライフガードとして雇われた例。
④相談,助言及び調査に関する信託団体(Consultancy, Advocate and
Research Trust)と呼ばれる,地域社会内における調査活動や住民の相談
等の業務を行っている団体が代理人として,兄弟に対する暴行罪により社 会内労働の判決を受けた法学部の男子学生を受入れ,大学に通いながら法 的助言を行う作業に従事し,社会内労働終了後に当該団体の相談員として 雇われた例。⑤ウェリントン郊外にある動物園が代理人として,女性の対象者を受け 入れ,清掃や動物の餌付け等の作業に従事し,社会内労働終了後に当該動 物園に雇われ,獣医の資格をとった例。
⑥ヨット・クラブが代理人として,対象者(ボート・メーカーの家で育っ ており,船舶に関するある程度の知識があった)を受け入れ,社会内労働 終了後に当該クラブに雇われた例。
⑦サルベーション・アーミーが代理人として,対象者(電気屋の家で育っ ており,電気機器に関するある程度の知識があった)を受け入れ,社会内 労働終了後に当該団体に雇われた例35)。
35) 筆者が2011年 8 月23日にウェリントン・サービスセンターを訪れた際,サル ベーション・アーミーが活動資金捻出のために中古の電気機器等の雑貨類を販 売する場所を視察する機会に恵まれた。
しかしながら代理人に委託された場合であっても,常に就労に結びつい ているものではなく,筆者が面会したプロベーション・オフィサーの経験 によれば,代理人に委託された対象者のうちの概ね10%から15%程度が就 労に至っているという36)。また就労に至った対象者のほとんどは,社会内 労働の委託先である代理人により雇用されているという37)。
そのような意味においては,社会内労働の執行にあたり代理人に委託さ れる場合については,トライアル雇用としての要素も感じられるもの の38),就労に至った割合としては決して高いとはいえないものである。
対象者の就労が成功する要因として,筆者が面会したプロベーション・
オフィサーは,就労の成功に関わる要因として,①情熱(passion),②や る気(motivation),③関心(interest),④年齢39),⑤罪種40),⑥再犯等のリ スク,⑦基礎的な生活スキル41)などを指摘している。
なお,ウェリントン・サービスセンターのプロベーション・オフィサー 36) 前述したジルクリストの指摘による(2011年 8 月23日訪問時)。
37) なお筆者が我が国における協力雇用主制度について,前述したジルクリスト に説明したところ,社会内労働における代理人も,我が国における協力雇用主 に類似した要素があるとの指摘を受けた(2011年 8 月23日訪問時)
。
38) 前述したジルクリストも,この点を指摘している(2011年 8 月23日訪問時)。
39) ジルクリストによれば,社会内労働の対象者の大半が30歳以下の若年層であ り,年齢が高い対象者の場合,何らかの職業的なスキルがなければ就労が難し いという(2011年 8 月23日訪問時)。このような比較的年齢の高い対象者の就 労の困難性が,ニュージーランドにおける社会内労働の経験を通じた就労の促 進を考える上での課題であるといえよう。
40) ジルクリストによれば,社会内労働対象者の罪名が窃盗の場合,販売に係る 代理人に受入れてもらうことが難しく,また性犯罪の場合には職種にかかわら ず代理人として受入れてもらえない傾向にあるという(2011年 8 月23日訪問 時)。ウェリントン・サービスセンターにおける社会内労働対象で就労に至っ た者の大部分が代理人により雇用されている例である点に鑑みれば,代理人が 受入れに難色を示す罪種の場合,就労に至る可能性は低いといえるであろう。
41) ジルクリストは,識字等の能力がない場合には,就労が困難であると指摘す る。
が指摘した,代理人に委託された場合における就労の失敗例について挙げ る42)。
①社会内労働終了後に代理人に雇用されたものの,社会内労働終了によ り法的拘束力がなくなったため,対象者がやる気を見せなくなった例。
②サルベーション・アーミーが代理人として対象者を受入れたものの,
対象者が無断で団体所有のガソリンカードを使用したため,代理人への受 け入れを終了した例。
またこれら以外にも,代理人が対象者の雇用に興味を示さない場合もあ る。すなわち,社会内労働に従事していた場合は無償による労働であるが,
社会内労働終了後は賃金を支払って雇用することになるため,代理人が難 色を示した場合などがある。とりわけ家族など小規模で運営している施設 などが代理人として対象者を引き受けた場合,社会内労働終了後に有償に より雇用することが難しい場合も多々あり,対象者の雇用に至りにくいこ とが挙げられる43)。
このように失敗例については,対象者本人に問題がある場合と,代理人 側の都合により雇用にまでは至らなかった場合とが存在するといえよう。
また社会内労働の執行を代理人に委託せず,プロベーション・オフィ サー等による直接監督の下で行われる場合,就労に至った例はほとんどな いという44)。
42) これらの例はいずれも,筆者が2011年 8 月23日にウェリントン・サービスセ ンターを訪問した際に,前述したジルクリストが挙げたものである。
43) 前述したジルクリストの指摘による(2011年 8 月23日訪問時)。
44) 前述したジルクリストによれば,同氏が把握している例としては,社会内労 働として公園の整備作業に従事した者が公園の管理人として雇われた事例,な らびに同じく社会内労働として地域のローンボールズ(lawn bowls)場(ロー ンボールズとは,芝生の上で重心に偏りのある球を標的となる球にぶつけない ように近くまでころがすゲーム)の整備作業に従事した者が当該ローンボール ズ場の従業員として雇われた例のみであるという。
III 考 察
前述のとおり,ニュージーランドにおいては,社会内労働の経験を通じ て対象者の就労に至った例が存在するものの,就労に至った対象者の割合 は決して高いとはいえないものである。
しかしながら,このような現実を悲観的にとらえるだけなく,数的には 少ないながらも就労に至った例を検証し,これを促進するための条件につ いて考察することが刑事政策的に有用であると考える。このことは,前述 のとおり就労支援の重要性が指摘され,また「社会貢献活動」が導入され る見通しである我が国においても示唆に富むものであるといえよう。
以上の点に鑑み,前述した社会内労働の経験を通じて就労に結びついた 例を見ていくことにする。
①における教員補助者として雇用された例は,自らの経験から障害を有 する児童のケアに対してある程度の経験を有していたと考えられ,対象者 の経験を活かすための配属先を選定したものといえよう。②における庭師 として雇用された例は,前述のとおり,植物に関する知識をある程度有し ていたものであり,対象者の知識を考慮して配属先を選定したものである といえよう。③におけるライフガードとして雇用された例は,水泳が得意 であったものであり,スイミングプールが対象者の特技を活かせる場で あったことが垣間見られる。④における相談員として雇用された例は,法 学部の学生であるため,法律の知識をある程度有していたこと考えられる ものであり,対象者の知識を考慮して配属先を選定したものであると思わ れる。⑥におけるヨット・クラブに雇用された例は,対象者がボート・
メーカーの家で育っており,船舶に関するある程度の知識があったもので あり,対象者の知識を考慮して配属先を選定したものであるといえよう。
⑦におけるサルベーション・アーミーに雇用された例は,電気屋の家で 育っており,電気機器に関するある程度の知識があったため,サルベーショ ン・アーミーにおける電気機器の販売部門において社会内労働に従事する
ことが考えられたものであり,対象者の知識を考慮して配属先を選定した ものであるといえよう。
これら 6 つの例は,いずれも対象者の経験・知識・特技等に配慮して配 属先を選定したものであるといえよう。これらの点に鑑みれば,プロベー ション・オフィサーが対象者の経験・知識・特技等を正確に見極めた上で 配置先を決定することに加え,対象者の経験・知識・特技等を出来る限り 活かせる場所を確保した上で作業に従事させることが,社会内労働を通じ た対象者の就労を実現させるために極めて重要な要素の 1 つであるといえ る45)。
社会内労働を通じた対象者の就労を実現させることを念頭に置き,対象 者の経験・知識・特技等に配慮して配属先を選定するのであれば,対象者 の配属先を前述したような地域社会内における公共性・公益性の高い機 関・団体に限定することなく,一般の企業等も代理人として配属先の対象 とすることが望ましいといえよう。配属先を地域社会内において公共性・
公益性の高い機関・団体に限定した場合,結果的に配属先及び作業内容が 限定されてしまい,対象者の経験・知識・特技等に合致する配属先及び作 業内容を選定することが困難になることも考えられるからである。
その一方で,一般の企業等も代理人として配属先の対象とした場合,地 域社会への埋め合わせもしくはペイ・バックとしての要素を後退させるも のであり,また前述のとおり量刑法第63条 1 項と符合しない可能性も指摘 されるであろう。このように,量刑法第63条 1 項等との関連により,一般 の企業等が代理人として社会内労働の対象者の配属先となることの困難性
45) 無論,前述したジルクリストが指摘するような社会内労働における作業に対 する対象者の情熱ややる気等に加え,対象者を受け入れる側である代理人の理 解・協力等も重要な要素であることはいうまでもない。さらに就労について は,その時々の社会における景気にも左右されるものである。しかしながら本 稿においては,潜在的な雇用主である代理人と社会内労働の対象者との間にお けるマッチングという観点から,対象者の経験・知識・特技等に合致した作業 内容及び配属先の決定に限定して論じることとしたい。
が,ニュージーランドにおける社会内労働の経験を通じて対象者の就労に 至った例が少ないことの理由の 1 つであるように思われる46)。
さらに,対象者の経験・知識・特技等に応じた作業内容が設定される場 合,社会内労働が有する犯罪に対する責任としての要素を後退させるもの であるとの指摘が考えられる。すなわち,対象者の経験・知識・特技等に 合致した作業内容が設定された場合においては,これらに合致しない作業 内容を設定した場合と比較して,対象者にとっては比較的容易に作業に従 事することができるものと考えられるが,この点が犯罪に対する責任の要 素を後退させるとの懸念が考えられる47)。
このように,ニュージーランドにおける社会内労働については,就労支 援の要素に加えて,地域社会への埋め合わせもしくはペイ・バック及び犯 罪に対する責任の要素も加味されており,就労支援の要素のみを強調する ことが制度上困難であるといえよう48)。
46) ただし,サルベーション・アーミー等の慈善団体が活動資金を得るために物 品の販売を行っている場合や,営利を目的としない地域社会の団体等が動物園 等のリクリエーションを目的とした施設を運営している場合もあり,これらの 施設における経験は営利を目的とした組織・団体への就労に有利となる可能性 はあるといえる。ニュージーランドにおいては一般にボランティア活動に対す る社会的評価が高く,ボランティアをベースとした活動を実施する組織・団体 も多数存在しており,代理人の登録資格を非営利にて地域社会に奉仕する活動 を行っている組織・団体に限定しても,運用次第である程度の業種の代理人を 確保することは可能であるとも考えられる。なお,ニュージーランドにおける ボランティア活動について紹介したものとして,峯良智子『ニュージーランド の休日』東京書籍(2006年)130-142頁。
47) もっとも社会内労働の対象者の場合,たとえ経験・知識・特技等に応じた作 業内容であっても,無報酬による作業に従事する義務があり,報酬等を受け取っ た場合には罰則が科せられるので,このような無報酬による作業に従事するこ とで責任としての要素は充足されているとも考えられる。なお筆者が2009年 3 月26日に公営住宅における農園の整備及び墓地の清掃の現場を見学した際に受 けた説明によれば,対象者に対して支給されるものは休憩時のお茶及びマフィ ン 1 個のみであるという。
48) 前述のとおり,社会内労働の主目的は,むしろ地域社会に対する埋め合わせ
しかしながら,たとえ就労支援の要素のみを強調することが制度上困難 であるとしても,就労支援の要素を高めるための運営は可能であると考え られる。その 1 つが,量刑法の枠組みの中でできる限り多種多様な代理人 を確保することであると考える。
前述のとおり,対象者の経験・知識・特技等を出来る限り活かせる場所 を確保した上で作業に従事させることが,社会内労働を通じた対象者の就 労を実現させるために重要な要素の 1 つであると考えられるのであれば,
出来る限り多種多様な代理人を確保した上で,プロベーション・オフィ サーが対象者の配属先を決定することが,結果的に対象者の経験・知識・
特技等を出来る限り活かせる場所を確保することに繫がると考えるからで ある。
プロベーション・オフィスが代理人を確保するための方策としては, 2 通りある。すなわち,①対象者が希望する団体・機関とプロベーション・
オフィスが協議し,双方が合意した場合に当該団体・機関に対象者を委託 する場合,ならびに,②プロベーション・オフィスが地域社会内の団体・
機関を訪ね,予め代理人としての登録を依頼する場合の 2 通りである49)。 また矯正省のホームページでも代理人としての登録を呼びかけている50)。
もしくはペイ・バックであり,これに加えて犯罪の責任や就労支援の要素も加 味したものであるといえよう。
49) 筆者がウェリントンのサービスセンターより入手した資料によれば,地域社 会の機関・団体が社会内労働の対象者を受け入れる代理人として登録する際に は,当該機関・団体の代理人としての適切性に関するアセスメントが行われ,
これにより適切性が認められた場合にプロベーション・オフィスと代理人との 間でサインが交わされ,代理人として登録されることになる。また代理人に対 しては,代理人に関する規則を纏めた文書が交付される。
50) Department of Corrections, supra note 25. ホームページにおいても,矯正省 が代理人を確保し,社会内労働の対象者の配属先数を増加したいと考えている ことが垣間見られる。なお,筆者が2009年 3 月26日にウェリントンのサービス センターを訪問した際には,約80の機関・団体が代理人として登録されている との説明を受けたが,2011年 8 月23日に同センターを訪問した際には,代理人 の登録数が約100であるとの説明を受けた。
我が国においても,前述した刑務所出所者等総合的就労支援対策の中で 協力雇用主の拡大が盛り込まれるなど,協力雇用主の拡大に努めているが,
ニュージーランドにおける社会内労働を通じた対象者の効果的な就労の実 現のためには,代理人の登録数のみならず,できるだけ多種多様な機関・
団体に代理人として登録してもらうことが必要であるといえよう51)。これ を実現することが,ニュージーランドにおける社会内労働を通じた対象者 の就労を促進する要因の 1 つとなり得るように思われる。
現在ニュージーランドにおいて,代理人を確保するための方策の 1 つと して,社会内労働代理人基金(Community Work Agencies Funding)と呼 ばれる制度が存在する52)。この社会内労働代理人基金とは,対象者の配属 先の拡大及び対象者によって行われる作業計画の援助という考え方に基づ き,配属先となる代理人の下での作業計画に従事する対象者の保証人と なっている代理人を支援するための基金である。この基金への申請ができ るものとしては,作業用胸当てズボン,清掃用品,道具,備品,その他対 象者が代理人のための作業を行う際に用いられる品目が挙げられる。代理 人は同様に,特別な作業計画のための費用や,作業の配属先で対象者が用 いる備品のレンタル費用についても申請できる場合がある。また対象者の 輸送を行っている代理人や,代理人に受入れられた対象者を監督するため の交通費を負担しているスタッフがいるような代理人は,この費用を援助 するためのガソリン券を申請することができる。
このように社会内労働代理人基金は,地域社会における代理人に対して,
51) 我が国の協力雇用主における幅広い業種への就労先の確保の必要性について 指摘したものとして,西村穣「刑務所出所者等に対する就労支援について」『犯 罪と非行』159号(2009年)
42-44頁,法務省保護局更生保護振興課「刑務所出
所等に対する就労支援について」11-12頁等参照。我が国における協力雇用主 もニュージーランドにおける社会内労働の代理人も,過去に罪を犯した者を受 入れる可能性のある潜在的な就職先であるという面においては類似性が見られ るものであり,出来る限り多種多様な個人・団体・機関から協力を得ることが 望ましい点においては共通性が見られるものであると考える。52) Department of Corrections, supra note 24.
社会内労働の対象者を受入れる際の必要経費の一部を負担するものであ り,地域社会内の組織・機関の代理人登録への 1 つのインセンティブと なっていると評価できよう53)。
今後とも,社会内労働代理人基金の効果的な運用等により,これまで以 上の団体・機関が代理人として登録され,量刑法の枠内において対象者の 経験・知識・特技等を最大限に活かせる場所を確保し,依って対象者の就 労に至る例が増加することを期待するものである。
お わ り に
以上において,ニュージーランドにおける社会内労働の経験を通じた対 象者の就労について見てきたが,前述のとおり社会内労働の経験を通じた 対象者が就労に至った例は決して多いものではない。
無論,対象者の就労支援については,代理人側の経営状況や社会の景気 状況など,プロベーション・オフィス等の更生保護機関の努力のみでは解 決しえない面も多々あることは事実である。したがって,更生保護機関が 取組むべき就労支援とは,地域社会内における潜在的な雇用主を開拓し,
一方で対象者の経験・知識・特技等を見極め,雇用主と対象者との間にお けるマッチングを図るとともに,対象者に対して就労を含めた社会復帰・
社会への再統合の必要性について理解させ,対象者が熱意ややる気をもっ て活動に従事するようサポートすることに尽きると思われる。そして,出 来る限り多種多様な代理人を確保することが,対象者と対象者を受入れる 側とのミスマッチを避けるための 1 つの手段となり得るものであると考え る。
残念ながら今回は,社会内労働の対象者の情熱ややる気等を維持させる ための方策や,対象者を受け入れる側である代理人側の意識等については 調査することができなかったが,2012年度においてはこれらについても調 53) 前述したジルクリストも,社会内労働代理人基金が代理人登録の契機となっ
ていることを指摘している(2011年 8 月23日訪問時)。
査したいと考えるものであり,このことがニュージーランドにおける社会 内労働を通じた対象者の就労に関する全体像を知ることに繫がると考える ものである。
我が国における社会貢献活動について,法務省が作成したリーフレット によれば,「社会の役に立つことの体験」,「活動を通じた人とのかかわり」
等の文言が見られ,就労支援についての特段の言及はない54)。前述のとお り「刑法等の一部を改正する法律」が2011年12月 4 日に参議院を通過し,
また2011年度に社会貢献活動に関する先行実施に着手したばかりである現 在の我が国においては,社会貢献活動に就労支援の要素を含ませることは 時期尚早であるとも考えられる。
しかしながらいまさらいうまでもなく,我が国においては,再犯リスク 等の観点から犯罪者への就労支援の重要性が以前より指摘され,前述した 刑務所出所者等総合的就労支援対策以外にも,犯罪者処遇の様々な局面に おいて様々な就労支援策が図られている。これらの点に鑑みれば,社会貢 献活動においても,出来る限り対象者の就労に繫がるための運用が求めら れ,このことが我が国における犯罪者等に対する新たな就労支援策となる 可能性も考えられよう。
これらの点に鑑みれば,ニュージーランドにおいて社会内労働の経験を 通じて対象者が就労に結びついた例が存在することは,刑事政策上極めて 興味深い事実であり,今後我が国の社会貢献活動対象者の再犯防止・社会 復帰効果を発展させる可能性を有すると考えられる。
これらの点も意識しながら,2012年度も引き続きニュージーランドにお ける社会内労働を通じた対象者の就労に関する調査を継続させていきたい と考える次第である。
54) 法務省保護局『立ち直りを助ける社会のチカラ:社会貢献活動』(http://
www.moj.go.jp/content/000072002.pdf)。もっとも,社会貢献活動に対する法制
審議会における議事録(http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi_shuyou_index.html)において見られるように,審議過程において就労支援についての若干の
言及はあったようである。* なお本稿は,科研費の助成(課題番号:22730060)に基づく2011年度の研究成 果,ならびに研究最終年度である2012年度における研究の足掛かりとして,筆 者自身の研究状況を纏めたものである。