曲線の折れ線近似の収束の速さ
熊田 皓介
(首都大学東京理工学研究科数理情報科学専攻 博士前期課程)
1 イントロダクション
Aを Euclid空間Em 内の有限の長さを持つ滑らかな曲線とし,f : [0, L]→Em をA の弧長パ ラメータ表示とする.曲線の定義域の分割∆を
∆ : 0 =s0< s1<· · ·< sn−1< sn=L
とする.分割∆に対応するA 上の点f(s0), f(s1), . . . , f(sn)の隣り合う頂点同士を結ぶ線分(一 般には最短の測地線)が成す曲線が定まる.この曲線をA のn 近似折れ線と呼ぶことにする.任 意の自然数n に対して,最も長いn近似折れ線Pn が存在する.Pn の存在は一意的ではないが、
その長さL(Pn) は一意的に定まる.n→ ∞ のとき,L(Pn) は極限値として曲線A の長さL を 持つ.A. M. GleasonはL(Pn) が、L に収束する速さに関して次の定理を示した[1].
定理1(Gleason [1], 1979) A をEuclid空間(次元は任意)の長さ Lの C2 級曲線とする.任意 の自然数nに対して,A の最長n近似折れ線をPn とする.このとき
nlim→∞n2(L−L(Pn)) = 1 24
(∫
A
κ2/3 ds )3
が成り立つ.ここで,κ はA の曲率である.
上の定理においてE2のとき右辺の被積分関数は|κ|2/3である.榎本先生はこの定理を拡張し,次 を得た.
定理2(Enomoto [2], 1986) A を有限の長さ L(A) を持つm 次元 Riemann 多様体内の滑らか な曲線とする.Pn をA のn 近似折れ線とし,Pn の長さL(Pn) がn→ ∞ のときL(A) に収束 するとする.このとき,
nlim→∞n2(L(A)−L(Pn))≥ 1 24
(∫
A
κg2/3 ds )3
が成り立つ.ここで,κg はA の測地的曲率である.また,任意の正の数η > 0 に対してある n∈N が存在して,
n2(L(A)−L(Pn))< 1 24
(∫
A
κg2/3
ds )3
+η を満たすn近似折れ線Pn が存在する.
定理2 においてPn は最長n近似折れ線ではないことに注意.また,本論文の結果のうち2つの 結果は定理2 の特別な場合である.
定理2 のほかに Gleasonの定理の拡張として確率論を用いたV. Drobot の結果がある [6].こ れは,曲線の定義域上に一様に分布する互いに独立な確率変数の列を,n近似折れ線の頂点とした ときの長さの収束の速さについての論文である.
近似と収束の速さに着目した研究も幾つか紹介する.Y. Gorai, H. Tasaki, M. Yamakawa ら は曲線を母線とする回転面を,母線のn 近似折れ線を回転させてできる円錐面で近似するときの 面積の収束の速さを調べた [7].H. Tasaki は様々な取り方をした Riemann 和が Riemann 積分 に収束する速さを研究した [8].K. Enomoto, M. Okura らは曲線の定義域の分割が定める各部 分区間の両端点および中点によって与えられた部分曲線内の3点を通る円の曲率の二乗について,
Riemann和が Riemann積分に収束する速さを研究した[9].
本論文では,Gleasonの定理を Minkowski 平面の空間的曲線に拡張し,球面Sm と双曲空間 Hm の場合について,より具体的に計算することにより定理2 の別証明を与える*1.Gleasonは定 理1 の証明にSchur の定理[3] の系を補題として用いたが,Minkowski 平面の空間的曲線への拡 張ではSchurの定理の代わりにL´opezの定理[4]を,双曲空間の場合ではEpsteinの定理[5]の系 を用いる.本論文の結果の証明はGleasonによる定理1 の証明とアナロジーに進むので,Euclid 空間の場合として定理1 の証明を後節で紹介する.
定理 A Aを長さL をもつMinkowski平面の滑らかな空間的曲線とする.任意の自然数nに対
して,A のn近似折れ線のうち最も短いものを Pn とする.このとき
nlim→∞n2(L(Pn)−L) = 1 24
(∫
A
|κ|2/3 ds )3
が成り立つ.ここで,κ はA の曲率である.
定理 B A を長さL を持つSm の滑らかな曲線とする.任意の自然数 n に対して,A の最長n 近似折れ線をPn とする.このとき
nlim→∞n2(L−L(Pn)) = 1 24
(∫
A
κg2/3ds )3
が成り立つ.ここで,κg は A の測地的曲率である.
定理 C A を長さLを持つHm の滑らかな曲線とする.任意の自然数nに対して,A の最長n 近似折れ線をPn とする.このとき
nlim→∞n2(L−L(Pn)) = 1 24
(∫
A
κg2/3ds )3
が成り立つ.ここで,κg は A の測地的曲率である.
この論文は次のような構成である.2節では定理1の証明を紹介する.3節では定理Aを証明す る.4, 5節では 定理2 の特別な場合としてそれぞれ球面,双曲空間の場合の別証明を与えている.
*1球面と双曲空間への拡張について考えた後に定理2の存在を知った.
2 Gleason による E
mの場合
Em 上の内積を⟨,⟩ で,ノルムを∥ · ∥ で表す.また,曲線 A の長さをL(A) で,両端点を結ぶ 測地線すなわち弦の長さをC(A) と表す.弧長sによる弧長パラメータ表示α(s) を用いて曲率を κ(s) =∥α′′(s)∥とし,この節では曲率は常に正値をとるものとする.
定理1の中で最も重要な補題は以下で紹介する Schurの定理から導かれる.Schurの定理は,2 曲線の弦の長さと曲率の間の大小関係を示したものである.
Schur の定理 (Schur [3], 1921)α1, α2: [0, L]→Em を弧長sでパラメータ表示された長さLの 曲線とする.とくにα1 は平面曲線であり,その両端点を結ぶ弦と共に,ある凸集合の境界となる とする.κi(s), di をαi の曲率および両端点を結ぶ弦の長さとする.このとき,
κ1(s)≥κ2(s), s∈[0, L] =⇒ d1≤d2. d1=d2 となるのはα1≡α2 (合同)のときのみ.
次の補題はSchurの定理においてα1 を円弧として得られる系である.
補題3(Gleason [1], Lemma 1) A は長さL を持ち任意の点の曲率が定数κ0 以下である滑らか な曲線とし,B は曲率 κ0,長さL の円弧であるとする.このとき,
κ0L <2π =⇒ C(A)≥C(B) = 2 κ0
sin (1
2κ0L )
. C(A) =C(B) となるのはA≡B (合同)のときのみである.
次に分割と近似和について特に重要な補題を示す.
補題4(Gleason [1], Lemma 2) φ を[a, b] 上で定義された非負値連続関数とする.自然数n に 対して,つぎの条件を満たす[a, b]の分割∆がとれる:i= 1,2, . . . , n に対して
Ji= (si−si−1) max
t∈[si−1,si]φ(t)とおくとき,J1=J2=· · ·=Jn.
さらに,任意のn∈N に対してこのようなs1, . . . , sn−1 をとれば,i= 1,2, . . . , nに対して
nlim→∞nJi=
∫ b a
φ(s) ds.
証明:この補題の証明は,求める分割の存在を示す前半部と,nJiがφのRiemann積分に収束す ることを示す後半部に分かれる.以下ti∈[si−1, si], φ(ti) = max{φ(t) :t∈[si−1, si]} とする.
(前半部):φ≡0のとき,Ji= 0 (i= 1, . . . , n) より,
nlim→∞nJi=
∫ b a
φ(s) ds= 0.
以下,φは少なくとも1点で正値をとるものとする.(n−1)単体σ は,ui≥0, ∑n
k=1uk = 1 をみたすRn の点(u1, u2, . . . , un) 全体で表される.(u1, u2, . . . , un) を
si=a+ (b−a)(u1+u2+· · ·+ui)
で与えられる[a, b]の分割と対応させる.また、写像ψ:σ→σ をつぎで定義する.
ψ(u1, u2, . . . , un) = (w1, w2, . . . , wn) ここで,
wi= ∑nvi k=1vk
, vi=uiφ(ti) とする.このとき,si−si−1= (b−a)ui より,
vi= Ji
b−a, wi= ∑nJi k=1Jk
である.このことから(w1, w2, . . . , wn)∈σ であることがわかる.
ある区間上の連続関数の最大値は,その区間の端点の連続性に依存するので,各 vi, wi は (u1, u2, . . . , un) の連続関数であり,ψ は連続写像である.∑n
k=1vi は∫b
aφ(s) ds の Riemann upper sumであり,φの仮定から正値である.
ψの定義よりui= 0のときwi= 0である.それゆえ,ψ はσ のすべての面をその面自身に写 す.これは,ψ が全射であることを意味している.したがって,とくに
ψ(u1, u2, . . . , un) = (1
n,1 n, . . . ,1
n )
であるような(u1, u2, . . . , un)∈σ が存在する.この点に対応する分割は,J1=J2=· · ·=Jn を 満たす.
(後半部):前半部で示したJ1=J2=· · ·=Jn を満たす分割について考える.任意のε >0 に対 して,E ={s∈[a, b] :φ(s)< ε} とする.また,|s−s′|< δ⇒ |φ(s)−φ(s′)|< ε であるような δ をとる.M をφの上界とすると,
nJi=J1+J2+· · ·+Jn ≤M(b−a).
いま,n > M(b−a)/(δε) とする.任意のiに対して,部分区間[si−1, si]はつぎのうちどちらか を満たす.
(1) [si−1, si]⊆E.
(2)φ(ti)≥ε.
(1) のとき,[si−1, si] 上での φ の振幅は ε より小さい.(2) のとき,ε(si −si−1) ≤ Ji ≤ M(b−a)/n < δε であるから,si−si−1 < δ .したがって,任意のs, s′ ∈ [si−1, si] に対して
|φ(s)−φ(s′)|< ε. よって,nJi =∑n
k=1Jk と∫b
aφ ds の Riemann sumとの差は以下のように なる.ci∈[si−1, si]とすると,
∑n i=1
Ji−
∑n i=1
φ(ci)(si−si−1) =
∑n i=1
(si−si−1)φ(ti)−
∑n i=1
φ(ci)(si−si−1)
≤
∑n i=1
|φ(ti)−φ(ci)|(si−si−1)< ε(b−a).
したがって,n→ ∞のときnJi→∫b
a φ(s)ds.
次にこれらの補題から定理1 の片側の不等式を得る.
補題5(Gleason [1], Lemma 3) AをEmの有限の長さを持つ滑らかな曲線とし,A の最長n近 似折れ線をPn とする.このとき,
lim sup
n→∞ n2(L(A)−L(Pn))≤ 1 24
(∫
A
κ2/3 ds )3
. ここでκ はA の曲率である.
証明:α(s), s∈[0, L]をA の弧長パラメータ表示とする.主張を証明するためには,A のn近 似折れ線Qn に対して
lim sup
n→∞ n2(L−L(Qn))≤ 1 24
(∫
A
κ2/3 ds )3
を示せばよい.
ここで,φ(t) =κ2/3 として補題4を適用すると,任意のn∈Nに対して,
∆ :s0= 0< s1< s2<· · ·< sn−1< sn=L s.t.
J1=J2=· · ·=Jn, Ji= (si−si−1) max
t∈[si−1,si]κ(t)2/3 となる分割∆ が存在する.Kn をこの分割∆に対する∫
Aκ2/3 ds のRiemann upper sumとす ると,Ji=Kn/n である.分割∆ に対応するA のn 近似折れ線をQn とする.また,
Ai=A|[si−1,si], κi= max
t∈[si−1,si]κ(t), κ0= max
t∈[0,L]κ(t) とするとJi=L(Ai)κi2/3である.
今,nを
κiL(Ai)≤κ01/3Ji=κ01/3Kn/n <2π
となるよう十分大きくとる.このとき,各部分曲線Ai に対して補題3が適用することができて,
C(Ai)≥ 2 κi
sin (1
2κiL(Ai) )
.
sinx≥x−x3/3!より,
C(Ai)≥ 2 κi
{ 1
2κiL(Ai)− 1 3!
(1
2κiL(Ai) )3}
=L(Ai)− 1 24κi2
L(Ai)3. よって,
L(Ai)−C(Ai)≤ 1 24κi2
L(Ai)3= 1 24Ji3
= 1 24
(Kn
n )3
. 各iについて総和をとり,
左辺=
∑n i=1
L(Ai)−C(Ai) =L−L(Qn) 右辺= 1
24
∑n i=1
(Kn
n )3
= 1 24
Kn3
n2 . n→ ∞ のときKn→∫
Aκ2/3 ds であるから主張を得る.
補題6(Gleason [1], Lemma 4) A をEm の有限の長さを持つ滑らかな曲線とする. A の部分曲 線B について,L(B)→0 のとき,
L(B)−C(B)− 1 24κB2
L(B)3
=o(L(B)3).
ここで,κB はB 上の任意の点における A の曲率である.
注7 この補題の証明において Gleasonは Cauchy-Schwarz の不等式を使っている.しかし,後
に Minkowski平面への拡張をスムーズに行うために,ここでは Taylor 展開を使う別証明を与え
ている.それに伴って,定理1 のC2 級曲線であるという条件を強めている.
証明:B の弧長パラメータ表示をα(s), s∈[0, L]とする.Emの合同変換によってα(0) =O と してよい.Taylor 展開を用いて,
C(B)2=∥α(L)−α(0)∥2
=
α′(0)L+ 1
2!α′′(0)L2+ 1
3!α′′′(0)L3+O(L4) 2. 内積を計算するとつぎを得る.以後α(0) をα と略記する.
C(B)2=L2 {
⟨α′, α′⟩+L⟨α′, α′′⟩+L2 (1
4⟨α′′, α′′⟩+ 1
3⟨α′, α′′′⟩ )
+O(L3) }
α は弧長パラメータ表示されているので,
∥α′∥ ≡1
⟨α′, α′′⟩= 0
⟨α′′, α′′⟩=− ⟨α′, α′′′⟩
である.よって,
C(B)2=L2 (
1− 1
12⟨α′′, α′′⟩L2+O(L3) )
. (1 +x)1/2,|x|<1の Taylor展開を用いて両辺の平方根をとると,
C(B) =L (
1− 1
24⟨α′′, α′′⟩L2+O(L3) )
(1) を得るが,⟨α′′, α′′⟩ はs= 0 におけるB の曲率を表しているだけなので主張は得られていない.
そこで⟨α′′(s), α′′(s)⟩, s∈[0, L]について調べる.
κB2=⟨α′′(s), α′′(s)⟩=⟨
α′′+sα′′′+O(s2), α′′+sα′′′+O(s2)⟩
=⟨α′′, α′′⟩+ 2s⟨α′′, α′′′⟩+s2⟨α′′′, α′′′⟩+O(s3)
⟨α′′, α′′⟩=κB2−s(2⟨α′′, α′′′⟩+s⟨α′′′, α′′′⟩+O(s2)) より,
L−C(B)− 1 24κB2
L3= 1
24L3s(2⟨α′′, α′′′⟩+s⟨α′′′, α′′′⟩+O(s2)) +O(L4).
s≤L であるから主張を得る.
次の補題は証明に補題6 を用いる.補題6 の代わりに,その Minkowski 平面版(補題12)や 球面版(補題16),双曲空間版(補題20)を用いることで,定理A-Cにおける補題8 に当たるも のを証明できる.
補題8(Gleason [1], Lemma 5) A を有限の長さを持つ滑らかな曲線とする.任意のε > 0 に対 して,次のようなN ∈Nが存在する:
n > N =⇒ A の任意のn 近似折れ線P に対して n2(L(A)−L(P))> 1
24 (∫
A
κ2/3 ds )3
−ε.
証明:求める補題は以下の主張から直ちに従うのでこれを示す.
任意のδ >0に対してあるr ∈N が存在して,任意のn とA の任意のn近似折れ線P に 対し
(n+r)2/3(L(A)−L(P))1/3>24−1/3
∫
A
κ2/3 ds−δL(A).
δ >0 が与えられているとする.f(x) =x1/3 について,
∀x >0,∀ρ >0, f(x+ρ)−f(ρ)< f(ρ)−f(0) =f(ρ) (2) であるから,補題6から次のことが言える.あるη >0が存在して,η > L(B) ならば
f(L(B)−C(B))−f(24−1κB2L(B)3)< f(o(L(B)3)
=⇒ (L(B)−C(B))1/3−24−1/3κB2/3L(B)< δL(B)
となる.L(A)/r < η となるr ∈Nをとる.Aの任意のn近似折れ線P に対して,si−si−1< η を満たすA の定義域[a, b]の分割a=s0< s1<· · ·< st =b, t≤n+r になるように,r 個以下 の頂点を加えて新たに得られるA のt近似折れ線をQ とする.中間値の定理を用いて,つぎを満 たす点si′∈[si−1, si]をとる:
∫ si
si−1
κ2/3 ds=κ(si′)2/3(si−si−1).
Ai を区間[si−1, si]に対応する部分曲線とする.そのとき,
24−1/3κ(si′)2/3(si−si−1)<(L(Ai)−C(Ai))1/3+δL(Ai).
iについて総和をとり,
24−1/3
∫
A
κ2/3ds <
∑t i=1
(L(Ai)−C(Ai))1/3+δL(A) を得る.p= 3/2, q= 3 として H¨olderの不等式を適用すると,
∑t i=1
12/3(L(Ai)−C(Ai))1/3≤t2/3 ( t
∑
i=1
(L(Ai)−C(Ai)) )1/3
. したがって,
24−1/3
∫
A
κ2/3 ds < t2/3(L(A)−L(Q))1/3+δL(A).
t≤n+r, L(P)≤L(Q) であるから,
(n+r)2/3(L(A)−L(P))1/3>24−1/3
∫
A
κ2/3 ds−δL(A)
となり,主張を得る.
補題5 と先の補題から定理1 を得る.
3 Minkowski 平面への拡張(定理Aの証明)
Rm+1 にその上の不定内積⟨,⟩
⟨(x1, . . . , xm+1),(y1, . . . , ym+1)⟩=
∑m i=1
xiyi−xm+1ym+1
を併せて考えたものをMinkowski 空間:Em+11 = (Rm+1,⟨,⟩) という.ベクトルv∈Em+11 が
⟨v, v⟩>0またはv= 0をみたすときvは空間的であるといい,⟨v, v⟩<0のとき時間的,⟨v, v⟩= 0 かつv̸= 0のとき光的であるという.v の長さを∥v∥L=√
| ⟨v, v⟩ |とし,2点p, q∈Em+11 の間 の距離を∥p−q∥L と定義する.Em+11 の変換T は,⟨T x, T y⟩=⟨x, y⟩ をみたすとき,(擬)合同 変換という.
曲線γ : [a, b]→Em+11 はγ(t) =˙ dγ/dt がt∈[a, b]で空間的であるとき空間的曲線という.曲 線γ が滑らかな空間的曲線であるとき,γ の長さを∫b
a ∥γ(t)˙ ∥Ldt で定義する.以下,γ(s) をγ の 弧長s=s(t) による弧長パラメータ表示とする.
3.1 Minkowski
平面の曲線の曲率E21 の滑らかな空間的(または時間的)曲線γ : [0, L]→E21 に対し,接ベクトル場T(s) とT(s) に直交する法ベクトル場N(s) が定義できる.N(s) の取り方はdet(T(s) N(s)) = 1 となるよう にとる.ε=⟨T(s),T(s)⟩ とおくと,γ の曲率κ はκ(s) =−ε⟨T′(s),N(s)⟩ で定義される.した がって|κ(s)|=∥γ′′(s)∥L である.κ(s)>0, s∈[0, L]であるとき曲線γ は凸であるという.
通常のEuclid 平面と同様に,Minkowski平面にも一定の曲率を持つ空間的曲線が存在する.c
を零でない定数とする.c を曲率に持つE21 の空間的曲線は,
γ(s) = (rsinh(s/r), rcosh(s/r)), r = 1/c
と(擬)合同変換で移り合う曲線のみである.これを半径r= 1/|c|>0の空間的円という.
次の L´opez の定理は Schur の定理をMinkowski 平面へ拡張した定理である.Schurの定理か ら補題3 を導出したように,L´opez の定理からも補題を導出する.
定理9(L´opez [4], 2011) α1, α2 : [0, L]→ E21 を弧長sでパラメータ表示された長さL の滑ら かな空間的曲線とし,とくにα1 は凸であるとする.κi(s), di をαi の曲率および両端点を結ぶ弦 の長さとする.このとき,
κ1(s)≥ |κ2(s)|, s∈[0, L] =⇒ d1≥d2.
d1=d2 となるのはα1≡α2 (合同)のときのみ.同様の結果が,2 つの時間的曲線にも成り立つ.
L´opez の定理は Schur の定理とは不等号の向きが異なることに注意.また,この定理の条件だけ
ではMinkowski 空間へ拡張することはできない.以下に反例を挙げる.
L´opez の反例:Minkowski 空間内の次の2つの空間的曲線を考える.
α1(r;s) = (rcos(s/r), rsin(s/r),0), α2(r;s) = (0, rsinh(s/r), rcosh(s/r)) s∈[0, L], r >0 であるとする.曲率はκi(r) = 1/r, i= 1,2 である.このとき
d1(r) =∥α1(r;L)−α1(r; 0)∥L=r√
2(1−cos(L/r)) = 2rsin(L/2r) d2(r) =∥α2(r;L)−α2(r; 0)∥L=r√
2 cosh(L/r)−2 = 2rsinh(L/2r) である.
・0< L <2πr とするとκ1(1)> κ1(2)のとき,d1(2)> d1(1).
・0< L <2πr とするとκ1(r) =κ2(r) のとき,d1(r)< d2(r).
・任意のL >0に対して,κ2(1)> κ2(2) のときd2(1)> d2(2).
したがって,d2(1)> d2(2)> d1(2)> d1(1) .とくに0< L < π とするとκ1(1)> κ2(2) のとき,d1(1)< d2(2)であり,定理9 に反する.
次の補題はL´opez の定理においてα1 を空間的円の弧としたときに得られる.
補題10 A は長さL を持ち任意の点の曲率が定数|κ0| 以下であるE21 の滑らかな空間的曲線と し,B は曲率|κ0|,長さL のE21 内の空間的円弧であるとする.このとき,
C(A)≤C(B) = 2 κ0
sinh (1
2κ0L )
. C(A) =C(B) となるのはA≡B (合同)のときのみである.
3.2
定理A
の証明補題11 A をMinkowski 平面の有限の長さを持つ滑らかな空間的曲線とし,A の最短n 近似折
れ線をPn とする.このとき,
lim sup
n→∞ n2(L(Pn)−L(A))≤ 1 24
(∫
A
|κ|2/3 ds )3
. ここでκ はA の曲率である.
証明:補題5とアナロジーにA のあるn近似折れ線Qn に対し,
lim sup
n→∞ n2(L(Qn)−L(A))≤ 1 24
(∫
A
|κ|2/3 ds )3
となることを示し主張を得る.
α: [0, L]→E21 をA の弧長パラメータ表示とし,補題4 をφ(t) =|κ|2/3 として適用する.そ れにより補題5 と同じように,任意のn∈N に対して∆, Ji, Kn, Qn, Ai, κi, κ0が定まる.
部分曲線Aiに対して補題10 を適用し,
C(Ai)≤ 2 κi
sinh (1
2κiL(Ai) )
. sinhx=x+x3/3! +R5, R5=x5cosh(θx)/5! (0< θ <1)より,
C(Ai)≤ 2 κi
{ 1
2κiL(Ai) + 1 3!
(1
2κiL(Ai) )3
+R5
}
=L(Ai) + 1
24κi2L(Ai)3+R5. したがって,
C(Ai)−L(Ai)≤ 1 24
(Kn
n )3
+ 2 κi
R5. (3)
ここでR5 についてκiL(Ai) =κi1/3Ji=κi1/3Kn/n を使って,
2 κi
R5= 1 5!
2 κi
(1
2κiL(Ai) )5
cosh (θ
2κiL(Ai) )
= 1
5!·24κi2/3
(Kn
n )5
cosh (θ
2
κi1/3Kn
n )
≤ κ02/3
5!·24 (Kn
n )5
cosh (1
2
κ01/3Kn
n )
. 上の式3 において,各iについて総和をとり,
n2(L(Qn)−L)≤ 1
24Kn3+ κ02/3
5!·24 Kn5
n2 cosh (1
2
κ01/3Kn
n )
. n→ ∞ のときKn→∫
A|κ|2/3 ds であるから主張を得る.
補題12 A をMinkowski 平面の有限の長さを持つ滑らかな空間的曲線とする.Aの部分曲線 B
について,L(B)→0のとき,
C(B)−L(B)− 1 24κB2
L(B)3
=o(L(B)3).
ここで,κB はB 上の任意の点における A の曲率である.
証明:証明の方法は補題6 ほとんど同じである.B の弧長パラメータ表示をα : [0, L]→ E21 と する.平行移動によってα(0) =O としてよい.Taylor展開を用いて
C(B)2=∥α(L)−α(0)∥2L
=
α′(0)L+ 1
2!α′′(0)L2+ 1
3!α′′′(0)L3+O(L4) 2
L
. 内積を計算するとつぎを得る.以後α(0) をα と略記する.
C(B)2=L2 {
⟨α′, α′⟩+L⟨α′, α′′⟩+L2 (1
4⟨α′′, α′′⟩+1
3⟨α′, α′′′⟩ )
+O(L3) }
. α は空間的曲線で弧長パラメータ表示されているので,
∥α′∥L≡1
⟨α′, α′′⟩= 0
⟨α′′, α′′⟩=− ⟨α′, α′′′⟩<0 である.よって,
C(B)2=L2 (
1− 1
12⟨α′′, α′′⟩L2+O(L3) )
. (1 +x)1/2,|x|<1の Taylor展開を用いて両辺の平方根をとると,
C(B) =L (
1− 1
24⟨α′′, α′′⟩L2+O(L3) )
を得るが,⟨α′′, α′′⟩ はs= 0 におけるB の曲率を表しているだけなので主張は得られていない.
そこで⟨α′′(s), α′′(s)⟩, s∈[0, L]について調べ,補題6 同様に次を得る.
κB2
=− ⟨α′′(s), α′′(s)⟩=−{
⟨α′′, α′′⟩+ 2s⟨α′′, α′′′⟩+s2⟨α′′′, α′′′⟩+O(s3)} . 従って
C(B)−L− 1
24κB2L3= 1 24L3s(
2⟨α′′, α′′′⟩+s⟨α′′′, α′′′⟩+O(s2))
+O(L4).
s≤L であるから主張を得る.
補題13 A を Minkowski 平面の有限の長さを持つ滑らかな空間的曲線とする.任意のε >0 に 対して,次のようなN ∈Nが存在する:
n > N =⇒ A の任意のn 近似折れ線P に対して n2(L(P)−L(A))> 1
24 (∫
A
|κ|2/3 ds )3
−ε.
証明:求める補題は以下の主張から直ちに従うのでこれを示す.
任意のδ >0に対してあるr ∈N が存在して,任意のn とA の任意のn近似折れ線P に 対し
(n+r)2/3(L(P)−L(A))1/3>24−1/3
∫
A
|κ|2/3 ds−δL(A).
δ >0 が与えられているとする.f(x) = x1/3 について式2 と補題12 から次のことが言える.
あるη >0 が存在して,η > L(B) ならば
f(C(B)−L(B))−f(24−1κB2
L(B)3)< f(o(L(B)3)
=⇒ (C(B)−L(B))1/3−24−1/3κB2/3L(B)< δL(B)
となる.L(A)/r < η となるr ∈Nをとる.Aの任意のn近似折れ線P に対して,si−si−1< η を満たすA の定義域[a, b]の分割a=s0< s1<· · ·< st =b, t≤n+r になるように,r 個以下 の頂点を加えて新たに得られるA のt近似折れ線をQ とする.中間値の定理を用いて,つぎを満 たす点si′∈[si−1, si]をとる:
∫ si
si−1
|κ|2/3 ds=|κ(si′)|2/3(si−si−1).
Ai を区間[si−1, si]に対応する部分曲線とする.そのとき,
24−1/3|κ(si′)|2/3(si−si−1)<(C(Ai)−L(Ai))1/3+δL(Ai).
iについて総和をとり,
24−1/3
∫
A
|κ|2/3 ds <
∑t i=1
(C(Ai)−L(Ai))1/3+δL(A)
を得る.p= 3/2, q= 3 として H¨olderの不等式を適用すると,
∑t i=1
12/3(C(Ai)−L(Ai))1/3≤t2/3 ( t
∑
i=1
(C(Ai)−L(Ai)) )1/3
. したがって,
24−1/3
∫
A
|κ|2/3 ds < t2/3(L(Q)−L(A))1/3+δL(A).
t≤n+r, L(Q)≤L(P) であるから,
(n+r)2/3(L(P)−L(A))1/3>24−1/3
∫
A
|κ|2/3 ds−δL(A)
となり,主張を得る.
補題11 と補題13 より定理A を得る.
Minkowski 空間の空間的曲線への拡張は,証明できていないが条件を強めることで成り立つと
思われる.曲線α の定義域全体で⟨α′′, α′′⟩ ≥ 0 を満たす空間的曲線は弦の長さが弧長より短い Euclid的な関係が成り立つと考えている.同様に⟨α′′, α′′⟩ ≤0を満たす空間的曲線は弦の長さが 弧長より長いMinkowski平面的な関係が成り立つと考えている.⟨α′′, α′′⟩ に制限を与えない場合 については全く予想ができていない.
4 S
mへの拡張(定理Bの証明)
この節と次節では,定理2の特別な場合の別証明を与えている.球面および双曲空間は計量が具 体的に書けるため,計量を用いている本論文の証明はEnomotoの証明より具体的になる.
SmをEm+1 内の単位球面とする.κ はEm+1の曲線としての曲率を表し,κg はSm の曲線と しての曲率(測地的曲率)を表すとするとκ2=κg2+ 1である.
次の補題はEm+1 内のSm の曲線に対するSchur の定理の系である.
補題14 A は長さL を持ち任意の点の測地的曲率が κ0 以下であるSm の滑らかな曲線とし,B は測地的曲率κ0,長さLのSm の平面曲線(つまり,Em+1内の平面とSmとの交わりの一部)で あるとする.このとき, √
κ02+ 1L <2π =⇒ C(A)≥C(B).
等号成立はA≡B (合同)のときのみである.
補題15 A をSm の有限の長さを持つ滑らかな曲線とし,A の最長n近似折れ線をPn とする.
このとき,
lim sup
n→∞ n2(L(A)−L(Pn))≤ 1 24
(∫
A
κg2/3
ds )3
. ここでκg はAの測地的曲率である.