線形代数学第一 N組
小島 定吉
最新更新日 June 24, 2010
0 準備(復習をかねて)
0.1 論理
• 命題:
P, Qを単純な命題(論理式).
やや複雑な命題:P ならばQ (P →Q で表す)に対し,
逆命題:Q ならばP(Q→P),
裏命題:P でなければ Qでない(¬P → ¬Q),
対偶命題:Q でなければ P でない(¬Q→ ¬P).
• 必要条件,十分条件,同値:
P →Q が正しいとき,P は Qであるための十分条件,Q は P であるための必要 条件.
さらに Q→P が正しいとき,P は Q であるための必要十分条件.
P と Qは同値ともいう.
• 背理法の原理:
命題(P →Q)とその対偶命題 (¬Q→ ¬P) は同値.
0.2 記号の約束
• R は実数の集合.
C={z =x+i y : x y∈R}を複素数の集合とする.
R, C 共通の記号としてK を用いる.
• ベクトルは
a = (a1, a2,· · ·, an)
のように,単独では太字で,あるいは成分を並べて表す.縦ベクトル
a=
a1 a2
... an
も,紛れがなければ同様の記号を使う.
0.3 空間における直線と平面
• 空間における直線の方程式:
p0 = (x0, y0, z0) を通り,v = (a, b, c) 方向に進む直線(図示)は
p=p0+tv →
x=x0+a t y=y0+b t z =z0+c t abc6= 0 のとき
x−x0
a = y−y0
b = z−z0
c (=t) ab6= 0, c= 0 のとき
x−x0
a = y−y0
b (= t), z =z0 a6= 0, b=c= 0 のとき
y=y0, z =z0
で表せる.
• 空間における平面の方程式:
平面Π に垂直なベクトクを h= (a, b, c) とする(図示).
h の始点を q= (x0, y0, z0) とおけば,Π は
(p−q)·h= 0 → a(x−x0) +b(y−y0) +c(z−z0) = 0
→ ax+by+cz+d= 0 で表せる.
• 練習問題:
1. (1,2,3)を通り,x+y+z = 0 で定義される平面に直交する直線の方程式を求 めよ.
2. (1,2,3)を含み,ベクトル (1,1,1) に直交する平面の方程式を求めよ.
0.4 複素数
• 虚数単位:
i=√
−1:自乗して −1 になる数の一方.
• 複素数平面:
C={z =x+i y : x, y ∈R}をxy-平面と思う.
x:実部,y:虚部,r=√
x2+y2:大きさ,θ = arctan y
x:偏角(図解する).
• 共役と絶対値:
z =x+i y の共役は z¯=x−i y.
|z|=√
zz¯=√
x2+y2.
• 極形式:
z =x+i y=r(cosθ+isinθ)
• 積の幾何学的解釈:
zj =xj +i yj =rj(cosθj +isinθj) (j = 1,2)とすると,
z1z2 = (x1y1−x2y2) +i(x1y2+x2y1)
=r1r2(cos(θ1+θ2) +i sin(θ1+θ2)) および
z1
z2 = x1y1+x2y2
x22+y22 +i−x1y2+x2y1 x22+y22
= r1
r2(cos(θ1−θ2) +i sin(θ1−θ2))
と計算できる(図解する).極形式は大きさと偏角の変化を分かりやすく示している.
• 練習問題:
1. sinnθ, cosnθ を sinθ, cosθ で表すn 倍角の公式を求めよ.
2. zn = 1 の解を求めよ.
3. z2 =i を解け.
4. z2 + 2iz+ 1 = 0 を解け.
1 行列と行列式
1.1 群と写像
• 群は言葉だけで,深入りしない.
• 集合:
これも深入りしないが基本的.
総じて大文字A, B,· · · 等で表し,たとえば要素を中括弧を使って明示的に記し,
A={1,3,8,−28,∞}
とか,変数を使って
Z={x : xは整数}
などと表示する.いずれの表記においても,数学的にちゃんと定義されていること が必要.
• 写像:
集合A から集合 B への写像 f :A→B のとは?
f, g:A→B が等しいとは? 等しいとき f =g で表す.
単射(一対一)とは?
全射(上への)とは?
全単射とは?
逆写像 f−1 :B →A とは?
f :A→B, g :B →C の合成写像 g◦f :A→C.
恒等写像 id :A→A.
• 定理 1.1.6:
Aを集合,SA={f : f :A→Aは全単射}とする.このとき,任意の f, g, h∈SA およびid∈SA に対してつぎがなりたつ.
1. (結合法則) (h◦g)◦f =h◦(g◦f).
2. (単位元の存在) id◦f =f =f ◦id. 3. (逆元の存在) f◦f−1 = id =f−1◦f.
(一般にこのような性質をみたす代数系を群という).
• 証明:
講義中に説明!
• 練習問題:
1. 教科書p.5 演習問題 1.1.7 2. 教科書p.40 章末問題 1.1
1.2 行列
• 各種の定義:
1 0 3 2 2 4 1 0 0 2 0 1
A=
a11 a12 · · · a1n
a21 a22 · · · a2n ... ... . .. ... am1 am2 · · · amn
m 行 n 列の行列,(m, n) 型行列,または m×n 行列.
行列は大文字を使ってA, B,· · · 等で表す.
行列A の i 行 j 列の成分は (i, j)成分といい aij 等で表す.
行列を A= (aij) と略記.
行ベクトル,列ベクトル.
n 次正方行列.
正方行列の対角成分.
• 各種の演算:
A= (aij), B = (bij) とする.
1. 相等A=B:任意の i, j について aij =bij のとき.
2. 和 A+B = (xij):xij =aij +bij で定義.
和は交換可能:A+B =B+A.
零行列O は A+O =A=O+A をみたす.
3. 定数倍λA = (xij):λ∈K に対し xij =λaij で定義.
4. 積 AB= (xij):xij =∑
kaikbkj で定義.
積は交換可能とは限らない.
「AB=O ならばA=O またはB =O」とは限らない.
• 命題 1.2.1:
(AB)C =A(BC).
• 証明:
講義中に説明!
• 単位行列:
En= (δij),ここで δij はクロネッカーのデルタ.
A を (m, n)型行列とすると AEn=A, EmA=A.
• 行列の区分け:
行列をいくつかの行及び列の隙間にスリットを入れて分割すること.
縦ベクトルによる区分け例:A= (a1,a2,· · · ,a).
単位行列は単位ベクトルによりEn = (e1,e2,· · · ,en) と表せる.
積が定義できるような区分け A= (Aij), B = (Bij) に対し
AB= (∑
k
AikBkj
)
たとえば
AB=A(b1,b2,· · · ,bn) = (Ab1, Ab2,· · · , Abn)
• 転置行列:
A = (
1 2 3 4 5 6
)
のとき tA=
1 4 2 5 3 6
A= (aij)であれば,その転置行列 tA は tA= (xij) とおくと xij =aji.
• 命題 1.2.5:
t(tA) =A および t(AB) =tBtA が成り立つ.
• 証明:
前者は定義より明らか.後者は計算する.
• 随伴行列:
複素行列 A = (aij) の共役は A¯= (aij), A の随伴行列とは A∗ =tA¯= (aji) = tA.
• 定義:
対称行列:tA=A をみたす行列,
交代(歪対称)行列:tA=A をみたす行列,
エルミート行列:A∗ =A をみたす行列,
歪エルミート行列:A∗ =−A をみたす行列.
• 例題 1.2.9:
1. 歪対称行列の対角成分はすべてゼロ.
2. エルミート行列の対角成分はすべて実数.
• 練習問題:
1. 教科書p.9 演習問題 1.2.2.
2. 教科書p.14 例題 1.2.9. 3. 教科書p.40 章末問題 1.2.
1.3 正則行列
• 定義:
n 次正方行列 A が正則とは,AB=En=BA をみたす行列が存在するとき(この 性質をみたすB を A の逆行列とよぶ).
• 補題 1.3.2:
逆行列は,存在すれば一意的(そこで以降 A−1 で表す).
• 証明:
講義で説明!
• 定理 1.3.3:
1. A が正則ならばA−1 も正則で,(A−1)−1 =A. 2. A, B が同じサイズの正則行列なら AB も正則.
• 証明:
講義で説明!
•
A=
A1 0 · · · 0 0 A2 · · · 0 ... ... . .. ... 0 0 · · · An
で,各 Aj が正則であれば,A は正則で
A−1 =
A−11 0 · · · 0 0 A−21 · · · 0 ... ... . .. ... 0 0 · · · A−n1
とくに対角行列 A の各対角成分aii がゼロでなければ,A は正則.
• 練習問題:
1. 教科書p.16 演習問題 1.3.6 2. 教科書p.40 章末問題 1.5 3. 教科書p.40 章末問題 1.6
1.4 置換
• 置換の定義:
N¯ ={1,2,· · · , n} とし,Sn ={σ : ¯N →N¯ : σ は全単射}とする.
Sn の要素 σ を置換といい,対応を明示的に表す方法で σ =
( 1 2 · · · n
σ(1) σ(2) · · · σ(n) )
で表す.
• 縦の二つの数字の関係のみが重要で,横に 1 から順番に並べる必要はない.たと
えば (
1 2 3 2 3 1
)
= (
2 1 3 3 2 1
)
= (
3 2 1 1 3 2
)
• 積:
写像の合成で定まる.すなわちσ, τ ∈Sn に対して στ =σ◦τ たとえば
σ= (
1 2 3 2 3 1
) τ =
(
1 2 3 1 3 2
)
とすると στ = (
1 2 3 2 1 3
)
• 恒等置換:
e= (
1 2 · · · n 1 2 · · · n
)
これは任意のσ ∈Sn に対し σe=σ =eσ をみたす.
• 逆置換:
σ−1 =
(σ(1) σ(2) · · · σ(n)
1 2 · · · n
)
=
( 1 2 · · · n
σ−1(1) σ−1(2) · · · σ−1(n) )
このとき σσ−1 =e=σ−1σ.
• 命題 1.4.4:
1. σ を σ−1 に対応させるSn からSn への写像は全単射.
2. τ ∈Sn を固定したとき,σ を στ に対応させるSn からSn への写像は全単射.
• 証明:
講義中に説明!
• 互換:
二つの文字の入れ替えのみからなる置換.たとえば (
1 2 3 1 3 2
) (
1 2 3 4· · · n 2 1 3 4· · · n
)
など.
• 定理 1.4.6:
任意の置換はいくつかの互換の積として表せる(一意的ではない).
• 証明:
n≥2 に関する帰納法で証明する.
• 置換の符号:
置換σ ∈Sn の符号とは
sgn(σ) = Πi<jσ(i)−σ(j) i−j のこと.ただし sgn
( 1 1
)
= 1 と約束する.
• 補題 1.4.8: 1. sgn(e) = 1.
2. σ が互換のとき,sgn(σ) =−1. 3. sgn(στ) = sgn(σ) sgn(τ). 4. sgn(σ−1) = sgn(σ).
• 証明:
1と2は容易.3のヒントは στ(i)−στ(j)
i−j = στ(i)−στ(j)
τ(i)−τ(j) · τ(i)−τ(j) i−j . 4は1と3から容易に得られる.
• 定理と補題により sgn の値は ±1.sgnσ の値にしたがい,1 のときは偶置換,−1 のときは奇置換という.
• 定理 1.4.9:
偶(奇)置換である事と偶(奇)数個の互換の積で表されることは同値.
• 練習問題:
1. 教科書p.23 演習問題 1.4.11
1.5 行列式
• 行列式の定義:
A= (aij)とするとき
∑
σ∈Sn
sgn(σ)a1σ(1)a2σ(2)· · ·anσ(n)
を A の行列式といい,detA, |A|,
a11 · · · a1n ... . .. ... an1 · · · ann
などで表す.
【コメント】行列式は行列の集合から数の集合への写像 det :M(n,K)→K
とみなすのが現代的,ここで M(n,K) は K 係数のn 次正方行列のなす集合.
• n= 1,2,3 のときの具体的展開.
n≥4 の場合は複雑であることに注意!
• 例題 1.5.3:
A11 A12 O A22
=|A11||A22|. とくに上半三角行列に対しては
a11 ∗ ∗ · · · ∗
0 a22 ∗ · · · ∗ 0 0 a33 · · · ∗ ... ... ... . .. ∗ 0 0 0 · · · ann.
=a11a22· · ·ann
• 定理 1.5.4:
dettA= detA
• 証明:
講義中に説明!
• 系:
行列式について,行について成り立つことは列についても成り立つ.
• 定理 1.5.5(行列式の多重線形性):
1. |a1,· · · ,a0j+a00j,· · · ,an|=|a1,· · · ,a0j,· · · ,an|+|a1,· · · ,a00j,· · · ,an| 2. |a1,· · · , λaj,· · · ,an|=λ|a1,· · · ,aj,· · · ,an|
• 証明:
講義中に説明!
• 定理 1.5.6(行列式の交代性):
|aσ(1),aσ(2),· · · ,aσ(n)|= sgn(σ)|a1,a2,· · · ,an|
• 証明:
講義中に説明!
• 系 1.5.7 および 1.5.8:
1. 二つの行を入れ替えると,行列式の値は符号が変わる.
2. ある行が他の行の定数倍であれば,行列式の値はゼロ.
3. ある行に他の行の定数倍を加えた行列の行列式の値は変わらない.
• 例題 1.5.9:
2 −1 3 5 1 2 −4 3 2 −5 4 −1 3 2 −3 2
= 247
• 定理 1.5.11:
detAB= detAdetB
• 証明:
(aij)
b1
... bn
=
a11b1+· · ·+a1nbn ...
an1b1+· · ·+annbn
をの両辺の行列式をとり,右辺を展開してまとめる.
• 系 1.5.12:
A が正則なら detA 6= 0.
• 練習問題:
1. 教科書p.41 章末問題 1.9 (1), (3) 2. 教科書p.42 章末問題 1.11 (1)
1.6 余因子展開
• 第1列に関する余因子展開:
|aij|=|(a11e1+a21e2+· · ·+an1en),a2,· · · ,an|
=a11|e1,a2,· · · ,an|+a21|e2,a2,· · · ,an|+· · ·+an1|en,a2,· · · ,an|
=a11
a22 a23 · · · a2n a32 a33 · · · a3n ... ... . .. ... an2 an3 · · · a2n
−a21
a12 a13 · · · a1n a32 a33 · · · a3n ... ... . .. ... an2 an3 · · · a2n
+· · ·
· · ·+ (−1)n+1an1
a12 a13 · · · a1(n−1) a22 a23 · · · a2(n−1)
... ... . .. ... a(n−1)2 a(n−1)3 · · · a(n−1)(n−1)
• 小行列式と余因子:
第 (i, j) 小行列式 ∆ij:A の第 i 行と第j 列を除いていられる行列の行列式.
第 (i, j) 余因子 :afij = (−1)i+j∆ij.
• 定理 1.6.2:
detA=a1jaf1j +· · ·+anjafnj (第j 列に対する余因子展開)
=ai1afi1+· · ·+ainafin (第i 行に対する余因子展開)
• 定理 1.6.3:
j 6=` のとき
a1jaf1`+· · ·+anjafn` = 0, aj1af`1+· · ·+ajnaf`n = 0.
• 証明:
上の式は ` 列をj 列に置き換えて ` 列で展開したした式.
• A の余因子行列:
Ae=t(afij)
• 系 1.6.4:
detA6= 0 であれば A は正則(逆はすでに示した).さらにこのとき A−1 = 1
detAA.e
• 証明:
a1jaf1`+· · ·+anjafn`=δj`detA, aj1af`1+· · ·+ajnaf`n=δj`detA よりAAe =|A|E =E|A|=AAe.
• 系 1.6.5:
A に対して AX =E をみたす X が存在すれば,A は正則で A−1 =X.
• 証明:
detAX = detE = 1 であり,一方1 = detAX = detAdetX なので detA6= 0.
• 練習問題:
1. 教科書p.39 例題 1.6.9 2. 教科書p.39 演習問題 1.6.10
2 連立1次方程式と行列の階数
2.1 基本変形
• 左(右)基本変形の定義:
1.第 i行(列)と第 j 行(列)を入れ替える.すなわち,左(右)から
P(i, j) =
1
. ..
0 · · · 1 ... . .. ...
1 · · · 0 . ..
1
をかける.
2.第 i行(列)に λ 6= 0 をかける.すなわち,左(右)から
Q(i, λ) =
1
. ..
λ . ..
1
をかける.
3.第 i行(列)に第 j 行(列)の λ 倍を加える.すなわち左(右)から
R(i, j, λ) =
1
. ..
1 · · · λ . .. ...
1 . ..
1
をかける.
• 補題:
基本行列 P(i, j), Q(i, λ), R(i, j, λ) は正則,また基本行列の逆行列も基本行列.
• ガウスの消去法(掃き出し): apq 6= 0 のとき,左基本変形のみで
A= (aij)の第 q 列 →
0
... 1 ... 0
とすることができる(連立1次方程式の消去法の類似).
また右基本変形のみで
A= (aij)の第p 行 → (
0 · · · 1 · · · 0 )
とすることができる
• 練習問題:
1. 教科書p.48 例 2.1.3
2.2 行列の階数
• 定理 2.2.1:
A= (aij)は,有限回の左右基本変形により (Er O
O O
)
(1) の形に変形できる.さらに r は変形の仕方にはよらない.
• 証明:
A=O の場合はすでに OK.
A6=O の場合は掃き出し法により変形可能なことは OK. r が変形の仕方に依らないことを示す.
P1AQ1 = (
Er O
O O
)
P2AQ2 = (
Es O O O
)