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要 約 目 次

研究ノート

水道事業の持続的な経営を目指して

~官民連携(コンセッション方式)による

水道事業経営のあり方~

長岡 宏樹  大熊 修司 現在、我が国の水道事業は、水道技術の継承や老朽化施設の計画的更新などに関する 困難に直面している。これらの課題に対応するための方策の一つとして、官民連携によ る、民間事業者のノウハウを活用した事業遂行能力の強化と水道事業の再構築が期待さ れている。 水道事業は、国民の健康を守るために不可欠な公共性の高い事業であるとともに、水 道料金を原資とした独立採算での事業運営が前提となっている事業である。このような 特性を有する水道事業に適した官民連携方式として、2011 年 6 月の PFI 法改正により成 立した「公共施設等運営事業(いわゆるコンセッション方式)」の活用が考えられる。公 共は施設を所有するとともに、事業体への出資を行って事業の公共性を担保し、民間事 業者は、自ら資金を調達し、公共施設等の維持管理・運営を行い、利用者からの利用料 金を直接自らの収入として事業を経営することが適当と考えられる。 従来では、公的な観点から公共主導による水道事業運営が一般的であったが、民間に よる創意工夫が発揮されやすい実務面や経営面では民間が責任を負いつつ、水道事業に おける公共性を確保すべき部分についてのみ公共が責任を負うという、それぞれの得意 分野に基づき役割を分担するものであり、官民連携の理念に合致するスキームである。 地方公共団体としては、一定の公的関与を残した上で民間に運営を委ね、公共は公共 でしか実施できない領域に集中的に資源を配分していくことができる。PFI 法改正によ るコンセッション方式の導入は、まさにその端緒となる重要な節目であり、地方公共団 体においてもこれを新たなチャンスと捉え、公共サービスをより適切に供給できる新た な枠組みの導入を目指すべきである。 はじめに 1.公営水道事業の抱える課題  1.1 技術者の減少による運営基盤の脆弱化  1.2 施設更新需要の増大への対応  1.3 高水準にある公的債務残高 2.水道事業における官民連携の考え方  2.1 官民連携水道事業における公共の役割  2.2 水道事業に適した官民連携方式 3.水道事業等におけるコンセッション方式の適用  3.1 公共水道事業者とコンセッション方式  3.2 上下水道一体化による、さらなる効率化 4.コンセッション方式導入により期待される効果  4.1 水道事業を担う技術基盤の維持・継承  4.2 民間主導による事業効率化  4.3 公的債務負担の抑制(オフバランス化) おわりに

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Summary

Contents

Research Note

Toward Sustainable Water Services

Management

Concept of Water Service Management by

Public-Private Partnership

− Hiroki Nagaoka, Shuji Okuma

The public water service in Japan currently faces difficulties of succession of water supply technology, planned renewal of old facilities, etc. As one of the actions to achieve these tasks, it is expected that the public water service will be restructured and that the capability to implement the project will be strengthened, by public-private partnerships (PPP).

The water service is a very important public service in order to keep the health of the people, and it is the financially independent business in the water charges. Considering such characteristics of the water service, the scheme of PPP suitable for water service is the “Concession scheme”, which was established by the revision of the PFI Act in June 2011.

In order to ensure the public nature of the water service, the local government owns the facility, invests to the concessionaire and becomes a stockholder. The concessionaire raises its business fund, maintains a public facility etc., and manages the project for water charges as its an income.

In the past, water supply led by the local government was generally from the perspective of the public. However, in the concession scheme, the concessionaire is responsible for the operation and management by exhibiting own ingenuity, the public sector is responsible for only the portion of the public nature of the business to ensure a water supply. It is a scheme intended to share the role based on the areas of expertise of the public and private sectors, meets the principles of PPP.

It is desirable for local government to entrust the management to the private sector while maintaining some involvement of the public sector, and concentrate resources on fields manageable only by the public sector. Introduction of concession after amendment of the PFI Act is an extremely important milestone as its beginning, and local public entities should regard this as new opportunity to introduce a new framework that will enable the better provision of public services.

Introduction

1.Tasks Facing the Public Water Service  1.1 Decreasing Numbers of Engineers

 1.2 Response to the Increase in Demand for Renewal of Facilities  1.3 High Level of the Local Debts

2. Concept of PPP in the Water Service

 2.1  Role of the Public Sector in the Water Service  2.2  Scheme of PPP Suitable for the Water Service

3.Application of Concession to the Water Service and Other Projects  3.1 Relationship of the Local Government and the Concessionaire

 3.2 Increase in Efficiency by Unification of Water Supply and Sewerage Systems 4.Expected Effect of Introduction of Concession

 4.1  Maintenance/Succession of Technological Foundations for the Water Supply Project

 4.2 Operational Efficiency by Private Initiative  4.3 Reduction of Public Debts(off-balance-sheet) Conclusion

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はじめに

現在、我が国の水道事業は、水道技術の継承や老朽化施設の計画的更新などに関する困難 に直面している。特に、水道事業者としての技術力の維持・継承については、中核を担う技 術職員の高齢化が進む一方で、市職員全体の定数管理に伴って技術者の確保が難しくなって きており、今後も水道事業を担う技術者の減少が続くことが想定される。これらの課題に対 応するための方策の一つとして、民間事業者のノウハウを活用した事業遂行能力の強化と水 道事業の再構築が期待されている。 このような状況の中、2011 年 6 月に PFI 法が改正され、公共が所有する公共施設の運営 を民間に委ねる公共施設等運営事業(いわゆるコンセッション方式)の導入が可能となっ た。これを契機として、水道事業をはじめとするさまざまな公共事業へのコンセッション方 式の導入が期待されるところであるが、「新たな枠組みをどのように活用していくべきか」 という点については、国・地方とも手探りの状況にある。 そこで、本稿では、水道事業におけるコンセッション方式の具体的イメージを示すととも に、コンセッション方式導入による今後の水道事業のあり方について提言する。

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1.公営水道事業の抱える課題

1.1 技術者の減少による運営基盤の脆弱化

水道事業を支える技術職員の数は、1980(昭和 55)年度から 2009(平成 21)年度までの 29 年間で、27,723 人から 21,286 人へと 23%も減少している(図 1)。地方公共団体の定数管 理の中で、今後も新規採用が抑制されると仮定すると、水道事業者として必要な技術基盤が 脆弱化し、水道事業者としての技術力が低下していくことが危惧される。 各水道事業者では、退職した技術職員を嘱託職員として再雇用し、技術力の維持を図って いるところではある。しかし、技術継承の枠組みが整備されていない現状では、長期的な事 業運営の中で安定的に技術を継承していくことは難しい状況となっている。 図 1.水道事業(簡易水道含む)における技術職員数の推移 0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000 S55 … S60 … H2 … H7 … H12 … H17 … H21 水道技術職員数 ︵技能員除く︶ ︵人︶ 年度 27,723 26,215 25,858 26,178 25,432 22,939 21,286 23%減 作成:参考文献[1]をもとに三菱総合研究所

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1.2 施設更新需要の増大への対応

水道施設への投資額は、1975(昭和 50)年頃に 1 度目のピークを迎え、水道普及率は 90%を超えた。投資額は、1998(平成 10)年頃に 2 度目のピークを迎えたが、最近では水 道事業者の予算の制約等により投資額が抑制される傾向が続き、年間 1 兆円程度まで減少し ている(図 2)。 図 2.水道への投資額の推移(平成 20 年度価格換算) 0 200,000 400,000 600,000 800,000 1,000,000 1,200,000 1,400,000 1,600,000 1,800,000 2,000,000 S 2 8 S 3 3 S 3 8 S 4 3 S 4 8 S 5 3 S 5 8 S 6 3 H 5 H 1 0 H 1 5 H 2 0 年度 投資額︵百万円︶ 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 水道普及率︵ % ︶ 上水道及び用水供給 水道普及率(%) 用水供給 上水道 出所:厚生労働省:「第 2 回新水道ビジョン策定検討会資料」(2012 年 3 月 9 日) 一方、現在の水道施設を維持するために必要な今後の更新需要は、法定耐用年数の 1.25 倍での施設更新を想定して推計すると、2050(平成 62)年度までに総額 46.2 兆円が必要で あり、人口減少等により給水収益が低下する将来において、現在の投資額である毎年 1 兆円 を超える更新需要が発生することが予想されている(図 3)。

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図 3.法定耐用年数の 1.25 倍で施設の更新を実施した場合の 2050(平成 62)年度までの更新需要 法定耐用年数×1.25倍で更新した場合 0 200,000 400,000 600,000 800,000 1,000,000 1,200,000 1,400,000 1,600,000 H21∼ H22 H23∼H27 H28∼H32 H33∼H37 H38∼H42 H43∼H47 H48∼H52 H53∼H57 H58∼H62 設備 建築 土木 管路 投資余力(給水収益)が下がる 将来において負担が増える 14,143億円/年 1 年 当 た り の 更 新 需 要 ︵ 百 万 円 ︶ 出所:厚生労働省:「第 2 回新水道ビジョン策定検討会資料」(2012 年 3 月 9 日) 必要な水道施設の更新ができない状況は、施設の運転管理に支障を及ぼすばかりではな く、管の破裂や漏水量の増加にも繋がる。需要者へ清浄な水を安定的に供給するという水道 の最も重要な使命が果たせなくなることが懸念され、まさに重大な局面を迎えているといえ る。

1.3 高水準にある公的債務残高

地方公共団体の一般会計及び地方公共団体が運営する公営企業の債務残高は、近年の財政 健全化の流れを受けて減少傾向にはあるが、総額では 230 兆円になっている(図 4)。さら に今後、水道事業をはじめとするインフラ基盤を維持していくためには継続的な投資が不可 欠であることを鑑みれば、債務残高の総額はさらに拡大する可能性もある。 このような状況が続くとすれば、将来的に地方公共団体の信用力の低下や、それに伴う資 金調達の制限が発生し、真に必要な事業が実施できないというケースが発生することが危惧 される。

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図 4.地方財政の債務残高の推移 93 103111120 126 128 131 134138 141 140 139 138 137 140 142 12 14 15 18 22 26 29 31 32 33 34 34 34 34 34 34 20 21 23 25 26 27 28 28 28 28 28 27 27 26 25 24 26 28 29 30 31 32 33 33 33 33 32 32 31 31 30 29 151 167179 193 205214 221 226231 234 234 232 230 228 228 229 0 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 25 50 75 100 125 150 175 200 225 250 企業債現在高(企業会計負担分) 企業債現在高(普通会計負担分) 交付税特別会計借入残高 地方債現在高 (兆円) 企業債残高は、今後の更新 需要の高まりにより増加 する可能性あり。 全体としての債務残高が 増加すると、本来公費で まかなうべき一般会計部分 への影響が懸念される。 作成:地方財政白書等をもとに三菱総合研究所

2.水道事業における官民連携の考え方

公営水道事業が抱える「技術者の減少による運営基盤の脆弱化」「施設更新需要の増大へ の対応」「高水準による公的債務残高」といった課題の解決方策の一つとして、民間を活用 した官民連携が考えられる。水道事業における官民連携の留意点と水道事業の特性を考慮し た官民連携方式について、以下に述べる。  

2.1 官民連携水道事業における公共の役割

官民連携の理念は、従来公共が提供していた公共サービスを官民が適切な役割分担と責任 分担のもとで実施することにより、よりよいサービスを、より低廉な負担で、国民に提供す ることにある。 水道法では、水道を国民に供給することは公共の責務とされており、これは民間が水道事 業者となった場合であっても変わらない。国民の日常生活に直結し、国民の健康を守るため に不可欠な水道事業の特性を考慮すると、水道事業においては公共が事業に一定程度関与す ることが必要である。また、水道管路といった広い地域に張り巡らせたインフラ施設として の特性を考慮すると、大規模地震などの災害時には大きな損害を被る可能性があり、民間事 業者だけで事業を再建することは非常に困難なことが想定される。 このような水道事業の特性に配慮した官民連携を具現化する方法として、事業主体を第三 セクターとすることが考えられる。公共も事業体の一員となることにより、一定の事業責任

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を担うとともに、非常時の事業再建の円滑化や、第三セクターへの公共職員出向による公共 側での技術の継承などが可能となる。ただし、過去の第三セクターの事例では官民の責任分 担が曖昧となって破綻した例が多く見られた。事業実施に関しては、あくまで民間事業者が 主体的に意思決定し責任を負うこととし、公共の過度な関与は避けるようにしなければ、民 間事業者が有するノウハウを最大限に発揮することはできない。

2.2 水道事業に適した官民連携方式

水道事業は、水道料金を原資とした独立採算での事業運営を前提としている。「官民の適 切な役割分担」という方針にもとづけば、水道管路などのインフラ資産は公共が所有し、経 営主体となる民間事業者が水道料金を収受して運営する官民連携方式が適当である。そのよ うな水道事業での官民連携の形態としてコンセッション方式が考えられる。 PFI 法の改正で規定された「公共施設等運営事業」とは、公共施設等の管理者等から公共 施設等運営権を設定された民間事業者が、公共施設等運営権者として自ら資金を調達し、維 持管理等を行い、利用料金を直接自らの収入として事業を経営することをいう。 従来も利用料金を収入として経営を行う官民連携事業は実施されてきたが、公共施設等運 営事業とすることで、事業運営上のメリットが得られる。例えば、公共施設等運営権は、運 営権自体に物権としての抵当権を設定することが可能であること、民間事業者は運営権の取 得に係る費用を減価償却できること、公共は民間から運営権設定の対価を徴収することがで きること(公共施設等運営権の対価の徴収方法は、事業初期に一括して徴収する方法と、毎 年度徴収する方法の両方が可能)等が特徴としてあげられる(表 1)。 なお、公共施設等運営権は、あくまでも水道法などの個別法で定められた各事業の枠組み とは別に設定されるものである。したがって、水道事業であれば、水道法の規定や趣旨に合 致する範囲の中で運用されることに留意が必要である。 表 1.従来型 PFI と公共施設等運営事業(コンセッション方式)の違い 従来型 PFI 公共施設等運営事業(コンセッション方式) 対象 公共施設等の管理者が所管する公共施設等を対象 (新設、既設両方を対象) 左記のうち、利用料金を徴収する事業のみが対象 (公共施設等運営権の対象は既設のみ。新規施設の整備は従来型 PFI で実施) 官民の関係 事業契約にもとづく事業実施 法律にて規定された公共施設等運営権の付与(行政処分) 事業類型 (発注者の意向による)特に制約なし 独立採算型、または混合型(利用料金を直接収受するもののみ) 特徴(メリット等) 設計、建設、維持管理、運営 を一体的に民間事業者に実施 させることにより、事業効率 化が可能 従来型 PFI のメリットに加え、下記のメリットがある ・公共施設等運営権自体に物権として抵当権を設定可能 ・民間事業者は、自らが支出した運営権の取得に係る費用を減価 償却可能 ・発注者は運営権設定の対価を民間から徴収可能 作成:三菱総合研究所

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3.水道事業等におけるコンセッション方式の適用

3.1 公共水道事業者とコンセッション方式

水道事業においてコンセッション方式を適用する場合にはいくつかのケースが考えられる が、官民による協働と責任分担を考慮した場合には、水道事業者は公共のままとし、民間事 業者と公共が共同で設立する官民共同事業体を実質的な水道サービスを提供する公共施設等 運営権者とするスキームが考えられる(図 5)。 この場合、公共は、事業認可を取得して水道法上の水道事業者としての法的な責任を負う とともに、事業体へ出資を行い、事業運営上公共性の高い施策判断のみについて、公的な観 点からコントロールを行う。一方、民間事業者は、施設の更新や維持管理などの技術的な部 分について責任を負うだけではなく、公共施設等運営権と指定管理者制度による利用料金制 を適用することにより、水道料金を直接収受して水道サービスの経営責任も負うこととな る。 従来スキームでは、公的な観点から公共主導による水道事業運営が一般的であったが、本 稿で述べたスキームは、民間による創意工夫が発揮されやすい実務面や経営面では民間が責 任を負いつつ、水道事業における公共性を確保すべき部分についてのみ公共が責任を負うと いう、それぞれの得意分野にもとづき役割を分担するものであり、官民連携の理念に合致す るスキームである。 なお、本スキームは、あくまでも想定される一形態を示したものであり、具体的な事業ス キームの構築に際しては、実際の案件をベースに厚生労働省、総務省、内閣府等、関係各省 との調整を経ながら、各地方公共団体において望ましい方法を検討していくことが必要であ る。

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図 5.公共を水道事業者とするコンセッション方式スキーム案 供給規程(給水条例)の変更 (利用料金制、指定管理者) PFI 事業契約・ 公共施設等運営権実施契約 利用者 サービス 提供 利用料金制により、水道事業者ではない指定管理者 が、直接自らの収入として収受 融資 事業計画案の提出 民間事業者 (スポンサー) ・水道政策の策定、水道事業計画の策定 ・常時給水等の義務(水道法) ・厚生労働省、県、周辺市町村との調整 ・事業会社のモニタリング ・施設所有 ・緊急対応の指揮、災害復旧の指揮 ・料金決定(条例で規定) 所有(公営企業会計の行政財産) 水道施設 水道法上 の認可 厚生労働省 :契約関連 :認可・許可等 :資金の流れ :資産の所有 凡例 :その他 :届出・申請等 水道事業変更認可申請 (事業計画等の提出) 出資 A市(水道事業者(水道法) 公共施設等の管理者 (PFI 法) 金融機関 ・水道事業計画案の作成 ・水道技術管理者の設置(第三者委託) ・施設更新(設計、建設、大規模修繕) ・施設維持管理 ・水道事業経営 ・緊急対応の実施、災害復旧の実施 ・料金収受 ・資金調達 官民共同事業体(三セク) (公共施設等運営権者 (PFI 法 )、 第三者委託、指定管理者) 既存部の建設・改修に要し た費用に相当する金額の 全部または一部 株主間契約(定款) 出資 指定管理者の指定 第三者委託 職員の派遣等 (公益法人等への一般職の地方 公務員の派遣等に関する法律) 更新(設計・建設・譲渡)(BTO、RO) 維持管理、運営 モニタリング 公共施設等運営権対価 作成:三菱総合研究所

3.2 上下水道一体化による、さらなる効率化

近年、上下水道の部局を統合し、管路の更新工事や窓口業務を一体化する地方公共団体が 増加している。上水道事業と下水道事業では、制度上の仕組みが異なるものの、オペレー ションでの関連性が高いため、より効率的な事業遂行が可能になることが期待されている。 上水道事業でのコンセッション方式の適用にあたり、下水道事業も含めて一体的にコン セッション方式を導入することにより、上下水道一体でのさらなる効率化が期待できる。 下水道事業では、運営主体である下水道管理者は下水道法において地方公共団体に限定さ れているため、下水道法上の下水道管理者は公共のままとして、民間事業者を実質的な下水 道サービスを提供する公共施設等運営権者とするスキームが想定される(図 6)。また、水 道事業よりも、料金の強制徴収や下水排出者への命令権など公権力の行使にかかる範囲が広 く規定されていることから、このような公権力の行使にかかる業務については下水道管理者 である公共が実施し、実務的なサービス提供等を民間事業者が実施する役割分担が考えられ る。

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図 6.上下水道事業を一体化した場合のコンセッション方式スキーム案 ・下水道事業計画 案の作成 ・施設更新(設計、 建設、大規模修繕) ・施設の維持管理 ・下水道事業経営 ・緊急対応の実施、 災害復旧の実施 ・使用料収受 ・資金調達 ・水道政策の策定、水道事業計画の 策定 ・常時給水等の義務(水道法) ・厚労省、県、周辺市町村との調整 ・事業会社のモニタリング ・施設所有 ・緊急対応の指揮、災害復旧の指揮 ・料金決定(条例で規定) ・水道事業計画案の 作成 ・水道技術管理者の 設置(第三者委託) ・施設更新(設計、建 設、大規模修繕) ・施設の維持管理 ・水道事業経営 ・緊急対応の実施、 災害復旧の実施 ・料金収受 ・資金調達 利用者 返済 融資 事業計画案の提出 所有 (公営企業会計 の行政財産) 下水道施設 国土交通省 :契約関連 :認可・許可等 :資金の流れ :資産の所有 凡例 :その他 :届出・申請等 (公共施設等の管理者) 金融機関 モニタリング 使用料(強制徴収の場合のみ)、負担金(下水道法) 使用料(強制徴収)、負担金 交付金 更新投資費の一部 雨水費部分、基準外繰乳 供給規程(給水条例)の変更(利用料金制、指定管理者) 上下水道 PFI 事業契約・ 公共施設等運営権実施契約 公共施設等運営権実施契約上下水道 PFI 事業契約・ 事業計画案の提出 所有 (公営企業会計 の行政財産) 厚生労働省 水道事業変更認可申請 (事業計画等の提出) 既存部の建設・改修に 要した費用に相当する 金額の全部または一部 既存部の建設・改修に 要した費用に相当する 金額の全部または一部 株主間契約(定款) 出資 指定管理者の指定 第三者委託 職員の派遣等 更新(設計、建設・改修、譲渡) (BTO、RO)、維持管理、運営 (BTO、RO)、維持管理、運営更新(設計、建設・改修、譲渡) モニタリング 公共施設等運営権対価 民間事業者 (スポンサー) 出資 サービス提供 サービス提供 使用料 官民共同事業体(三セク) (公共施設等運営権者) (指定管理者) (第三者委託) A市(水道事業者) (公共施設等の管理者) 水道施設 株主間契約(定款) 出資 職員の派遣等 指定管理者の指定 利用料金制によ り、水道事業者 ではない指定管理 者が、直接自らの 収入として収受 条例の変更(使用料収受の変更、指定管理者) 公共施設等運営権対価 下水道 事業計画 下水道法 上の認可 水道法上 の認可 ・下水道事業計画の策定 ・使用の開始の届出の受理 ・水洗便所への改善義務 ・除害施設の設置 ・特定事業場からの下水排除制限 ・計画変更命令、事故時の措置 ・排水設備等の検査、使用制限 ・損傷負担金、汚濁原因者負担金 ・工事負担金、使用料(強制徴収分) ・放流水の水質検査等 ・発生汚泥の処理、公共下水道台帳 ・行為の制限、監督処分 ・国交省、県、周辺市町村との調整 ・事業会社のモニタリング ・施設所有 ・緊急対応の指揮、災害復旧の指揮 ・料金決定(条例で規定) A市(公共下水道管理者) 一般財源 作成:三菱総合研究所

4.コンセッション方式導入により期待される効果

4.1 水道事業を担う技術基盤の維持・継承【1 章 1 節で示した課題に対応】

水道事業における技術継承という観点からは、「従来の地方公共団体主体の事業スキーム のままでは、行政改革や定数管理から受ける影響に左右され、水道事業者として必要なノウ ハウが蓄積されない」ということが課題として指摘されている。コンセッション方式によ り、このような制約のない民間事業者を中心としてノウハウを蓄積することで、水道事業を 担う技術基盤の維持・継承が可能となる。我が国における従来の PFI では、事業者である 特別目的会社(Special Purpose Company、以下 SPC)は実務を担わない場合が多く、実際 の業務は SPC の構成員が、SPC から業務を受託して実施する場合が多かった。しかしなが ら、本稿で述べた水道事業における官民共同事業体は、SPC が直接職員を雇用し、実務的 に出資者から独立し、安定的に事業を実施できる組織を確立するものである。

さらに、官民共同事業体とすることにより、公共側の職員が事業体に出向することが可能 となり、公共側の職員も少数とはいえ継続的に事業に従事し、その経験をモニタリング等に

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生かすことが可能となる。ただし、地方公共団体によっては、人的制約等により、公共職員 がモニタリングの一切を詳細に行うことが困難な場合も考えられ、その場合には第三者的な 外部コンサルタントを活用することも考慮すべきである。

4.2 民間主導による事業効率化【1 章 2 節で示した課題に対応】

従来の PFI 同様、公共施設等運営権者となった民間事業者が事業を一体的かつ主体的に 実施することにより、民間事業者のノウハウを最大限活用し、事業全体での効率化、最適化 を図ることが可能になる。PFI 法改正前の従来型 PFI での VFM(Value For Money)の実 績では、5 〜 15%の範囲を中心に VFM が発現しており(図 7)、水道事業においても同様 の効果が期待できる。 図 7.従来型 PFI での VFM の実績 VFMの率 出 現 率 15 10 0∼2.5 2.5∼5 5∼7.5 7.5∼10 10∼12.5 12.5∼15 15∼17.5 17.5∼20 20∼22.5 22.5∼25 25∼27.5 27.5∼30 5 0 (%) (%) 作成:参考文献[4]をもとに三菱総合研究所

4.3 公的債務負担の抑制(オフバランス化)

【1章3節で示した課題に対応】

公共施設等運営事業では、官民共同事業体は、施設を更新するための資金を自ら調達し、 利用料金を原資としてそれを返済していくことから、地方公共団体として新たな公的債務は 発生しなくなる(図 8)。また、地方公共団体の既存債務は、官民共同事業体から支払われ る公共施設等運営権の対価から返済していくことが可能である。 ただし、これらは適切な水準の料金を設定することが前提であり、利用料金を総括原価か ら求められる水準よりも割安に設定するなどの政策決定をした場合には、一般財源からの基 準外繰り入れ等の予算措置が必要になることを理解しなければならない。

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図 8.従来方式とコンセッション方式の債務の発生イメージ コンセッション期間 従来方式では定期的に発生する更新投資の 資金調達により公共の債務は継続 更新投資に必要な資金は民間事業者が 調達 公共の既存債務は、民間事業者が支払う 運営権の対価によって減少 (運営権の対価の支払いを毎年度とする場合) 更新投資 更新投資 公 共 債 務 公 共 債 務 民 間 債 務 更新投資 更新投資 作成:三菱総合研究所

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おわりに

水道事業をはじめとする、ネットワーク型インフラの公営事業をコンセッション方式とし て行う場合には、公営事業としての公共性・公平性の観点から利用者から収受する料金設定 に一定の配慮が必要だったり、利用者の増減による需要変動リスクが大きな影響を及ぼすな ど、民間事業者から見ると安定的な事業経営が難しいという側面が指摘されている。しか し、水道事業は、地域独占であり、利用料金を収受する公営事業の中でも需要の変化が小さ く収入が安定していることから、民間事業者が一定のリスクを負った上でも事業を実施しや すい特性を有しているといえる(表 2)。 表 2.利用料金を収受するネットワーク型インフラ事業の特性とコンセッション方式の実施のしやすさ 需要変動の大きさ 事業者利益の確保 (料金水準) 資金調達のしやすさ 評価 水道事業 ○(地域独占であり、需要変動が小さい。収入が安定) ○(一定の利潤が認められている) ○(既存事業の継承が想定され、資金調達額は少なく、 収入の見通しが容易) ◎ 下水道事業 ○(地域独占であり、需要変動が小さい。収入が安定) △(利潤を認める規定がない) ○(既存事業の継承が想定され、資金調達額は少なく、 収入の見通しが容易) ○ 新公共交通システム (LRT 等) ×(他の交通機関との競争が あり、需要が大きく変化 する可能性がある) ○(一定の利潤が認め られている) ×(新規事業が想定され、新 規調達額が多く、収入の 見通しも困難) △ ※個別の案件ごとの事業条件によって事業成立可能性が異なるため、あくまで一般論として整理をしたものである。  事業成立の可否は、リスク分担等の条件による。 出所:三菱総合研究所 地方公共団体としては、一定の公的関与を残した上で民間に運営を委ね、公共は公共でし か実施できない領域に集中的に資源を配分していくことが望ましい。PFI 法改正によるコン セッション方式の導入は、まさにその端緒となる重要な節目であり、地方公共団体において もこれを新たなチャンスと捉え、公共サービスをより適切に供給できる新たな枠組みの導入 を目指すべきである。

参考文献

[1] 社団法人日本水道協会:『水道統計』(2008-10). [2] 厚生労働省:『第 2 回新水道ビジョン策定検討会−資料 2 水道ビジョン改訂版のレビュー』 (2012). [3] 総務省:『地方財政白書(平成 24 年版)』(2012). [4] 総務省:『地方公共団体における PFI 実施状況調査報告書』(2011).

参照

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