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21世紀型EPAが製造業企業にもたらすもの (途上国研究の最前線 第3回)

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(1)

21世紀型EPAが製造業企業にもたらすもの (途上国

研究の最前線 第3回)

著者

早川 和伸

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

246

ページ

54-55

発行年

2016-03

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00003000

(2)

アジ研ワールド・トレンド No.246(2016. 4)  

54

途上国研究の最前線

連載

第 3 回

21世紀型EPAが製造業企業にもたらすもの

早川 和伸

Arnold, J.M., B.S. Javorcik, and A. Mattoo,

“Does Services Liberalization Benefit Manufac

-turing Firms?: Evidence from the Czech Re -public, ” Journal of International Economics, 85 ( 1 ) , 2011, 136-146. ●二一世紀型EPA   現在、 日本では、 一四の経済連携協定 (EPA) が発効しており、一〇月には環太平洋戦略的経 済連携協定(TPP)も大筋合意した。さらに 現 在、 日 中 韓 自 由 貿 易 協 定( 日 中 韓 F T A )、 日・欧州連合(EU)EPA、東アジア地域包 括的経済連携 (RCEP) など、その他の重要な EPAの交渉が進行中である。このように、多 くのEPAが発効、交渉されているところであ り、もしこれらがすべて発効すると、日本にと って、量的に重要な貿易パートナーとのEPA 網が完成することになる。つまり、日本が物品 貿 易 を 行 う 際 に、 「 実 質 上 す べ て の 」 貿 易 に お いて、関税が撤廃・削減されることになる。こ れまで、多くの研究者が、関税率が低下したと きの経済効果を分析してきたが、このように実 質上すべての貿易で関税率が低下しきると、今 後は新しい論点へと関心が移っていくと考えら れる。そのひとつが、関税以外の障壁、つまり、 非物品分野における規制の緩和や除去の経済効 果であろう。非物品分野における規制緩和とは、 サービス・投資分野の自由化や、非関税措置の 除去、また貿易円滑化措置などを含む。TPP の真の目的がこの非物品分野におけるルール形 成であったことからも分かるとおり、二一世紀 におけるEPAでは、こうしたEPAによる非 物品分野の規制緩和がもたらす経済効果という ものが、重要な論点になっていくと考えられる。 ●非物品分野における規制緩和の効果   非物品分野の規制緩和がもたらす経済効果に は様々な種類が考えられるが、ここではその一 つ で あ る、 「 サ ー ビ ス・ 投 資 分 野 の 自 由 化 が 製 造業企業の経営パフォーマンスに与える影響」 に絞って議論したい。例えば、外資出資比率規 制等が緩和されると、外資サービス企業の参入 により、新しいサービス、もしくはより高い質 のサービスが提供されることが期待される。ま た、外資サービス企業との競争が激化すること により、地場のサービス企業の質も改善するか もしれない。これらの結果、現地におけるサー ビスの質が全体的に上がり、それを投入する製 造業企業の生産性も上がることが期待される。 果たしてこのような効果が現実に観察されてい るのであろうか?   残念ながら、EPAベース でのサービス・投資分野の自由化を対象とした 研究は未だ存在しない。そのため、ここではサ ー ビ ス・ 投 資 分 野 の「 一 般 的 自 由 化 」( つ ま り すべての外国を対象とした自由化)を対象とし た 研 究 を 紹 介 し た い。 そ の 先 駆 的 論 文 が Jens Arnold らによる二〇一一年の論文である。 ●先駆的研究   Arnold ら は、 チ ェ コ を 分 析 対 象 国 と し、 サ ービス分野の自由化が製造業企業の生産性に与 える影響を分析した。チェコは二〇〇四年にE Uに加盟したが、これに向けて様々な経済法制 度の改善を行った。その結果、二〇〇〇年前後 でチェコに対する直接投資は毎年倍々で増加し て い っ た。 そ し て、 Arnold ら は 一 九 九 八 年 か ら二〇〇三年までの製造業企業の生産性変化を 追跡することで、こうしたサービス分野におけ る自由化が製造業企業の生産性に与える影響を

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  アジ研ワールド・トレンド No.246(2016. 4) 対象とした分析も行われ、こうした正の効果は、 インドネシアやインドを分析対象とした場合で も 検 出 さ れ て い る。 イ ン ド を 分 析 対 象 と し た Arnold ら に よ る 近 刊 の 研 究 で は、 さ ら に 二 つ の新しい事実を発見している。第一に、サービ スの自由化は、現地地場製造業企業よりも、現 地外資系製造業企業に対してより大きな正の効 果 を も た ら し て い る 点 で あ る。 Arnold ら は、 外資系製造業企業は、現地地場のサービス企業 ではなく、外資系サービス企業とより取引する 傾向にあるため、サービス業の対外自由化の恩 恵をより受けやすいのであろうと述べている。 第二に、サービス業間においても効果に違いが あり、とくに運輸業における自由化がより大き な効果を生んでいる点を発見している。一方、 イ ン ド ネ シ ア を 分 析 対 象 と し た Victor Duggan らの研究では、OECDにより作成されている 「 Foreign Direct Investment Regulatory Re -strictiveness Index 」 を 用 い て「 サ ー ビ ス 自 由 化度」を測ることで、サービス・投資分野の対 外自由化に焦点を当てた分析となっている。結 果として、一九九七年から二〇〇九年における 製造業企業の生産性上昇の八%程度は、こうし たサービス・投資分野の自由化によるものであ ることを示した。 ●今後の課題   このように、サービス・投資分野の「一般的 自由化」が製造業企業の生産性に正の影響を与 えていることは明らかになった。今後は、こう した研究をEPAベースでの自由化を対象に進 めることが重要である。EPAベースの場合、 対象国を限定した形で自由化がなされる。例え ば、日タイEPAでは、日本の投資家を対象に、 ロジスティクス・コンサルティングにおいて五 一%までの出資が認められている。このような EPAベースでのサービス・投資の規制緩和が、 製造業企業の生産性を上昇させているか、そし てその上昇の程度が、EPAパートナー国であ る日系の製造業企業とそれ以外で異なるかを明 らかにすることは興味深い。とくに後者は、自 由化の恩恵がEPAパートナー国に限られると は必ずしもいえないという点から重要である。 例えば先の日タイEPAの場合、これにより日 本から質の高いサービス企業がタイに進出して くることが期待されるわけであるが、この日系 サービス企業と取引できる企業は、日系製造業 企業やタイの地場企業に限定されるわけではな く、現地の欧米系製造業企業なども含む。した がって、恩恵はメンバー国の製造業企業に限定 されるわけではない。EPAベースでの自由化 の効果を調べることで、日系現地法人、および タイの地場企業という、EPAメンバー国の製 造業企業が、他国の製造業企業に比べ、追加的 にどの程度の恩恵を享受できるのか、というこ とを明らかにすることができよう。 ( は や か わ   か ず の ぶ / ア ジ ア 経 済 研 究 所   経 済地理研究グループ) 《参考文献》 ① Arnold, J.M., B.S. Javorcik, M. Lipscomb, and A. Mattoo, “Services Reform and Manu

-facturing Performance: Evidence from India,

Economic Journal, forthcoming.

② Duggan, V., S. Rahardja, and G. Varela, “Service Sector Reform and Manufacturing

Productivity: Evidence from Indonesia,

” The World Bank, Policy Research Working Pa -per 6349, 2013. 分析した。   分 析 手 法 は 単 純 で あ る。 「 サ ー ビ ス 自 由 化 度」が「企業レベルの生産性」に与える影響を 計量経済学的に分析するのみである。ただし、 いくつか説明が必要であろう。とくに、直ちに 「 サ ー ビ ス 自 由 化 度 」 を ど う 測 る の か と い う 疑 問がわく。 Arnold らは、 欧州復興開発銀行(E BRD) が発行している 「 Transition Report 」 に掲載されている指数を用いた(実際にはその 他 の 指 数 も 試 し て い る )。 本 指 標 は、 銀 行 業、 情報通信業、電力業、運輸業、水道業における ( 国 内・ 対 外 の 両 ) 規 制 緩 和 の 程 度 を 示 し て い る。 Arnold ら は、 こ の 指 数 に よ り サ ー ビ ス 自 由化度を測っている。ただし、各製造業におい て、これら各サービス業の重要度は異なるであ ろう。そこで、投入・産出表を用いて、各サー ビス業から各製造業への投入比率を計算し、こ れをウェイトとした加重平均値を、分析に用い て い る。 一 方、 各 製 造 業 企 業 の 生 産 性 は Olley-Pakes 流 の 推 定 方 法 に よ り 推 計 し て い る。 た だ し、本トピックでは製造業企業がサービスを投 入していることを前提としているため、生産性 の推定時にサービス投入額を反映させる必要が あ る。 Arnold ら が 用 い て い る Amadeus デ ー タ・ベースにはこうしたサービス投入額が記載 されていないため、これを「付加価値額 −営業 利潤額」で代替している。 ●研究の発展   こうして構築された「サービス自由化度」が 「 企 業 レ ベ ル の 生 産 性 」 に 与 え る 影 響 を、 最 小 二乗法や操作変数法を用いて分析した結果、確 かに統計的に正に有意な影響が検出された。そ して、この研究を発端とし、その後、他の国を

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