金沢市東山ひがし重要伝統的建造物群保存地区における修理・修景事業のための調査資料の活用4
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(2) 24. 石川工業高等専門学校紀要 第 52 号 令和元年. 景事例が含まれるため,金沢市による修繕に対す る補助事業との関係確認を行なう。. 表1. 目視調査およびアンケートの実施と回収. 当初,旧二番丁通りを対象に調査を行なった際, 変化している雨戸が,特定の形式に集中している ことが判明した。また,回答者の複数が,言葉を 濁しながらも,同じ通りにある伝建物の中でも文 化的に価値が高いとされる建物 3)を参照してい る様子がヒアリングで感じられた。そこで,同じ. アンケート調査は,いずれも直接建物に伺い,. 重伝建地区内の別の通りにおいても,類似の事態. 趣旨説明のうえ家主/使用者による回答を依頼. が生じているのかを確認するため,2019年に旧三. し,後日訪問回収した。2017年は,アンケート回. 番丁通りを対象に調査を実施した。. 収後,記入漏れや確認を要する記載内容を補うた. 旧三番丁通りを調査対象とした主な理由は,旧. め,同年12月にヒアリング及び追加アンケート実. 二番丁通りと並行に,ほぼ同じ長さを有し,通り. 施した。2019年は同様の内容のアンケートを1度. の両側に茶屋形式の建物が建ち並ぶ点にある。旧. 実施し,回収時にヒアリングを行った。. 三番丁通りには金沢市指定有形文化財の建物が. 旧二番丁のアンケートは対象が27件,回収は21. 2件(蔵1件、茶屋建築1件)存在するが,茶屋建. 件(78%),未回収6件の内訳は,未配布が4件. 築が指定を受けたのは2018年であり,指定後に雨. (空き家3件,所有者が遠方地1件),残り2件. 戸を修理した例を含まないため,比較上の影響は. は事情により協力できないとの回答であった。回. 無いものと判断した。また参照資料として用いる. 答者属性は,住人(家主)が7件(35%),店舗. 4). 「平井調査資料1971-1972」 に,旧二番丁通り. 従事者が13件(65%)であった。また旧三番丁の. と同サイズの写真として,旧三番丁通り(76枚). アンケートは対象が17件,回収は15件(88%),. が含まれ,各建物外観2〜3枚が残されており,. 未回収2件は,事情により協力できないとの回答. 旧二番丁通りとほぼ同条件で2階表の雨戸の状. であった。回答者属性は,住人(家主)が5件. 5). 態が確認可能である。以下,図1は同資料 に含. (33%),店舗従事者が10件(67%)であった。. まれる「ひがし」の町割「明治以降の丁名」であ る。本稿で用いる旧二番丁通り,旧三番丁通りは, この丁名と対応している. 2). 。. 3.2. 「旧東のくるわ報告書」および調査資料写. 真にみる2階雨戸の形式 「平井調査資料1971-1972」に含まれる旧二番 丁通りおよび三番丁通りの写真および1975年に 発行された「旧東のくるわ–伝統的建造物群保存 地区保存対策事業報告書–」 (以下,旧東のくるわ 報告書)の内容から,1970年代の雨戸の形式を整 理しておく。 平井は「旧東のくるわ報告書」p24「2階の雨 戸」において,雨戸の形式を3種に大別している。 最も古い第1の形式は,最上部を紙ばりとするも. 図1. 東山ひがしの町割(明治以降の丁名)の図. 5). の,次に継ぐと考えられる第2の形式は,中央よ りやや高い位置にガラスを入れたもの,比較的新. 3.目視調査およびアンケート調査. しい第3の形式は,腰付ガラス戸とするもの,の 3種である。その他「中敷居を入れ,雨戸のかわ. 3.1. 調査対象の概要. りに上下共ガラス戸を入れたものやアルミサッ. 調査対象は,東山ひがし重伝建地区の旧二番丁. シュも用いられる」ものが出現している。しかし. 通りに面する34件の建物のうち,非伝統的建造物. 2019年の調査時点において,最も古い第一の形式. を除く27件,および旧三番丁通りに面する26件の. を保持した雨戸は,旧三番丁通りにかろうじて1. 建物のうち,非伝統的建造物を除く17件を対象と. 件(写真1)その形式を残す 6)のみである。変化. した。目視調査およびアンケートの実施期間およ. の実態をより具体的に把握するため,本研究では. び回収数を表1にまとめる。. 平井の分類した形式に加え,2001年に発行された.
(3) 金沢市東山ひがし重要伝統的建造物群保存地区における修理・修景事業のための調査資料の活用4. 「金沢市東山ひがし伝統的建造物群保存対策調. 表2. 25. 平井調査資料1971-1972との比較結果. 査報告書」において用いられた分類(平井が第3 の形式とした腰付ガラス戸を,腰板のみを有する 桟ガラス雨戸と,腰板に加えて窓ガラスの上側に も板部分を有するガラス窓雨戸として分ける)を 採用する。加えて,平井がその他とした中敷居を 入れた2段式とアルミサッシを別分類とする。以 下6種類の雨戸形式を図2に,代表的な高窓付き. 料を元に,比較的資料の多い旧二番丁通りの伝建. 雨戸と最上部紙ばり雨戸の様子を写真1示す。. 物を調べた。高窓付き雨戸の数を追うと,重伝建 認定前の約30年の間に7件,認定後の約16年の間 に4件と偏りはみられなかった。ただし,重伝建 認定以前に,雨戸を対象としていた修繕事業/助 成制度 7)は,1989年の「茶屋街まちなみ修繕事業 (外観修繕)」であることを踏まえると,2000年 までの約10年間に集中していたと考えることが できる。 次に両通りを高窓付雨戸の割合で比較すると, 旧二番丁通りは,27件中11件(41%)から22件. 図2. 雨戸の形式. (81%)へ,旧三番丁通りは,17件中7件(41%) から12件(71%)へと,同等の割合で変化してい ることがわかる。しかし全ての雨戸が,高窓付き 雨戸という形式であった期間を有するという資 料はない。平井らの調査以前の様子を知ることが できる数少ない明治後期から大正初期の写真 8) を参照すると,たしかに高窓付き雨戸と同じ形式 が多く採用されているようにみえる。しかし少な くとも,1970年代に平井が調査した際,最上部を 紙ばりにした状態の雨戸が少数とはいえ残って いたことを考えると,ガラスが未使用の雨戸が存 在したことはわかる。新たな材料や構法が採用さ. 写真1. 高窓付き雨戸と最上部紙ばり雨戸(左端). れる過程においても,高窓付き雨戸という形式を 経由しているとは言えない。本稿では, 雨戸に. 3.3. 平井調査資料1971-1972との比較. 目視調査および写真の比較により確認できた 雨戸の形式上の変化を表2に示す。. 関する実態把握および,家主の修理に際しての 判断や情報源に焦点を絞るため,雨戸の復元に 関する言及は機会を改めたい。. 変化割合では,旧二番丁の27件中13件(48%), 旧三番町の17件中8件(47%)が変化している。 また変化のあった21件のうち18件(86%)は高窓. 3.4. アンケート結果:室用途と雨戸の開閉. 2階表の雨戸背面室の用途を確認した。旧二番. 付き雨戸への変更である。平井によってその他に. 丁は21件中,住居が5件(23%),店舗が13件. 分類された形式の雨戸は1件を残すのみであり,. (62%),旧三番丁は住居が5件(33%),店舗が. 45年ほどの間に,伝統的な形式の雨戸へ修理が進. 8件(53%),いずれの通りも残り13〜14%が展. められた結果といえるだろう。上記変化の時期に. 示閲覧もしくは未使用である。住居が3件(15%),. ついて,前稿. 1). 同様2000〜2001年に発行された資. 店舗が17件(81%)であった旧二番丁通りの1階 格子背面室と比較すれば,階が異なるため店舗利 用の割合が低く,居住空間として利用される割合 が高い結果となった。.
(4) 26. 石川工業高等専門学校紀要 第 52 号 令和元年. 雨戸の開閉,動かす頻度やタイミングについて. ト回答の中では「お茶屋街として本来金沢ではす. 確認した。様々なタイミングを複数選択式で回答. だれを使っていない」 という意見が寄せられて. 頂いた結果,いずれの通りも常に閉めているが1 「天候に応じて」「営業時間に合わせて」など,. いる。未使用ではあるが建物に留め具が確認で きるケースは,幅員の狭い旧三番丁通りより, 旧二番丁通りに多い。本稿3.3で参照 8)した写. 雨戸が開閉されている実態が確認できた。なお,. 真2をみると,明治38年時点では旧二番丁通りの. 常に閉めていると回答した中には,旧二番丁では. 中央に植えられていた植栽(柳と桜が交互)が,. 割,残り9割の方は頻度には差はあるが, 「 清掃時」. 9). 「あまり開けないように言われている」 ,旧三. 大正元年時点では取り除かれており,同時に,多. 番丁では「向かい側が住居だから」という理由で. くの軒先にすだれが設置されている様子がわか. 開けにくい事情があることが確認できた。用途は. る。植栽が無くなったことで,視線や日照の条件. いずれも店舗(飲食)であった。幅員や用途が少. が変わり,一時すだれが広く使用されたと考える. なからず影響していることが伺える。. ことは可能である。. 3.5. アンケート結果:2階表の建具構成. 雨戸に加えて「すだれ」 「ガラス戸」 「障子戸」 「カーテン」,さらに「てすり」を含めた2階表 の建具構成およびガラスの種類を確認した。図や 図面により補足説明を行ったが,質問が専門的な 印象を与えたためか回答率は旧二番丁が95%,旧 三番丁が80%であり,未記入も多く含まれた。目. 写真2. 左:明治38年 8) 右:大正元年 8). 視調査では確認できない部分も多く,充分なデー タとはいえない。その上で整理できた内容を説明. なお室内側のガラス戸にアルミサッシが使用. する。基本的な構成は,外部側から雨戸,ガラス. されているケースがある。前稿 1)で触れた1階格. 戸,手すり,通路,障子戸となるが,背面室用途. 子背面のアルミサッシ同様,重伝建地区制定時か. が居室の場合は,カーテンや網戸が追加されてい. ら平成25年度までの期間(2001〜2013年)に,防. る。比較的情報の揃った項目を表3に示す。. 火性能向上のために設置された可能性は高い。そ の後平成26年の内規改正により,伝統的建造物の. 表3. 2階表の建具構成. 1階格子戸背面に分離型のアルミサッシ設置が 不可になった経緯同様に,2階の雨戸内側のガラ ス戸に関しても,基本的にはアルミサッシは採用 できなくなったという。基本的としたのは,雨戸 内側,どの程度の距離の位置にサッシを設置する かが関係しているためだ。今後は雨戸の断熱性や 止水性を高めるか,内側の建具での工夫となるか, 背面室の用途が大きく関わってくるだろう。. 2階表の雨戸に使用されているガラスは,1件 を除いて単板ガラスである。温熱環境の境界性は, 背面の建具に依存しているケースが多い。しかし,. 3.6. アンケート結果:雨戸の汚れや痛み. 旧二番丁および旧三番丁いずれも気になる汚. 背面にガラス戸を有していないケースが12件確. れや痛み,不具合をあげる回答は少なかった。少. 認でき,雨戸の精度,止水性が重要となる。また. 数回答の内容は,ツバメの糞による汚れ,すきま. ガラス戸が無い場合は,通路を挟んで建て込まれ. 風,強風時のガタツキ,スムーズな開け閉めに力. ている障子戸が境界面を形成するが,ガラス戸も. が必要などである。日常的なメンテナンス,開閉. 障子戸も有さない物件も存在する。すだれに関し. の操作は,外注する回答はほぼ無く,清掃に関し. ては,約半数で使用あるいは設置可能な状態であ. ても家主や店舗の従業員が週2〜3回の程度と. ることが確認できた。すだれの使用理由は,視線. の回答が多数であった。ただし年1回程度の大掛. よりも日照対策との回答が多く,特に通りの北側. かりな清掃実施の項目は,旧二番丁通りは50%が. は南からの日差しが強いという。しかしアンケー. 実施,旧三番丁通りは25%が実施と差があった。.
(5) 金沢市東山ひがし重要伝統的建造物群保存地区における修理・修景事業のための調査資料の活用4. 3.7. アンケート結果:修理に伴う情報. 27. 4.考察. 質問が答えにくいためか回答率は本稿3.5同様 で旧二番丁が95%,旧三番丁が80%であり,未記 入が多く含まれた。結果を表4に示す。. 4.1. 旧二番丁と旧三番丁の利用形態の差. 3.1および3.4で得られた結果を,通り別に整理 したのが表5である。. 表4−1. 雨戸の修理に伴う情報 表5. 表4−2. 通り別の回答者属性と背面室用途. 雨戸の修理に伴う情報. 旧三番丁通りは,住居として使用している家主 が回答しており,その他の利用は展示施設とギャ ラリーである。しかし旧二番丁通りでは,住居と して使用していない場合においても,家主が回答 修理時期は分からない,所有資料は無い,いず. しているケースが含まれている。この差はヒアリ. れも回答不明が含まれるが,修理時期,特に資料. ング結果を踏まえると,旧二番丁通りでは建物規. 所有に対する回答数の少なさから,情報不足は否. 模が比較的大きいこともあり,1階のみ,あるい. めないであろう。修理時の相談相手は「いない」. は一部のみを店舗として貸しているケースや,家. という回答の他,「今までお願いしてきた工務店. 主自身が経営参画しているケースが含まれてお. が無くなり,変りを探している」という回答もあ. り,旧三番丁通りでは建物規模が比較的し小さい. った。この他,アンケートでは助成制度そのもの,. こともあり,建物を丸まる一棟を店舗として貸し. および一度助成を受けた場合でも15年経過すれ. ているケースの多いことが原因と考えられる。つ. ば再度助成申請できること等の認知度を確認し. まり旧二番丁通りでは,家主が居住として,ある. た。結果,両通りとも「助成制度を知らない」が. いは店舗経営に関わっていない場合においても,. 3件ずつ,「15年後の再申請可能」については,. 比較的頻繁に建物へ足を運ぶ機会が多い。そのた. 旧二番丁は20件中8件(40%),旧三番丁は15件. めアンケートは短期間に家主へ手渡り回答が得. 中6件(40%)が知らないと答えた。「助成制度. られている。一方,旧三番丁通りには連絡先を知. を知らない」と回答したのは,2013年以降の店舗. らないという回答もある。アンケート回答率の低. 従事者であったが,15年後の再申請可を知らない. さや,3.6大掛かりな清掃実施が半数といった結. と回答した中には住人も含まれていた。また,そ. 果は,家主の日常的利用の頻度,家主と建物の距. もそも助成そのものを受けていないと回答した. 離感によると考えられる。そのことは修理時の相. 割合は,旧二番丁は8件(40%),旧三番丁は6. 談先にもかすかに現れている。なお上記用途は,. 件(40%)であった。回答者はほぼ店舗従事者で. あくまでも2階表の雨戸背面室の用途であって,. あり,外観ではなく,内装に関する費用と誤解し. 建物自体の用途を示しているわけではない。次に,. たか,もしくは修理後の建物を店舗として借り受. 通りの物理的環境差と背景について報告する。. けたとも考えられる。 一方,資料を所有していると回答している方は, 設計士とは密に連絡を取りあうことができる間. 4.2. 旧二番丁と旧三番丁の物理的環境の差. 両通りは平成5年に融雪装置が設置され,路. 柄で,修理の度に関連資料を受け取り,不都合. 面中央は白御影石貼り,両端側溝部は豆砂利洗. が生じた際にはすぐに連絡を取り合えるとい う事例もみられた。その他,旧二番丁通りで感. い出しによる舗装になっている。調査時点の差. じられた,同じ通りの中でも文化的に価値が高い. る。幅員は,旧二番丁通りが約 5400 ミリ,旧. とされる伝建物を参照している様子は,旧三番丁. 三番丁通りが約 3400 ミリと約2m の差がある。. 通りにおいては感じることはなかった。. 現在の通りの様子を写真3に示す。. は,伝建物数,幅員および無電柱化の有無であ.
(6) 28. 石川工業高等専門学校紀要 第 52 号 令和元年. 窓雨戸から高窓付き雨戸へ変更している事例 もある。金沢市が修景基準において,「(5)雨 戸は,上部障子窓,ガラス窓又は欄間付縦張り 板戸とする」と並列的に明記していても生じて いる事態である。こうした環境の中で,高窓付 き雨戸という形式が,茶屋建築の様式として理 解されている可能性は否定できない。 写真3. 左:旧三番丁通り. 右:旧二番丁通り. 家主と建物の距離感が離れると,同じ地域に 住む家主との関係も弱くなる。少ない回答数で. 次に「旧東のくるわ報告書」に記述された内. はあるが,旧三番丁通りの相談先に近所の人や. 容を整理する。「二番丁は「ひがし」の中心と. 守る会が含まれていないことは,その現れでも. なる通りで最も規模の大きいお茶屋が並んで. ある。また大掛かりな清掃,メンテナンスや日. いる」とあり,いずれの通りも間口は2間半〜. 常的操作の減少は,雨戸の不具合発見の遅れに. 3間半のものが多いが,4間以上の広めのもの. も繋がる。実際一階表の格子戸に比べると,二. は旧二番丁通りにある。また奥行きに関しては. 階表の雨戸に使用されている材料は新しい印. いずれの通りも 10 間前後ではあるが, 「二番丁. 象をうける。その点を金沢市に確認すると,茶. の西半分の北側と東半分の南側が最も深く」と. 屋建築の軒の出は浅く,雨戸はその位置と役割. ある。さらに 1970 年代調査当時の屋根の状態. から,風雨に曝され劣化しやすい。修理に際し. から,瓦屋根が旧二番丁通りに多かったことや,. ては,できるかぎり桟や敷居や鴨居などの古材. お茶屋の格が最も高いため,経済的な力があっ. は活かすようお願いするが工務店や職人から. たと推察している。現在の旧二番丁通りには3. は「板だけ取り替えてもみっともない」という. 階建ての建物が複数存在する。当初より旧二番. 意見も寄せられているという。不具合発見のタ. 丁通りがメインとして形成され,比較的大きな. イミングが修理方法にも影響を与えてしまう。. 建物が多く形成されたといえる。 5.まとめ 4.3. 修理への影響. 分析結果を踏まえると,旧二番丁通りと旧三. 2階表の雨戸が,特定の形式に集中している. 番丁通りのソフト面の差は,家主と建物の日常. と原因は,ハード/ソフト両面にあるが,利用. 的な距離感といえるものであり,端的には建物. 形態,所有形態は建物規模に関係深く,建物規. 規模の大小に起因すると考えられる。その建物. 模は,茶屋街成立時の町割に起因している。ま. 規模の差は,幅員,間口,奥行きにも現れてい. た町割が保持する通りの幅員や建物個々の間. る。加えて幅員は,建物の外観が様々な視線に. 口の差は,周囲からの視線および周囲への意識. さらされる上で大きな要因である。1階表の格. としても現れている。その影響は,当初懸念さ. 子が至近距離,近景の範囲で見られるのに対し,. れた周囲にある相対的に評価の高い建物を参. 2階表の雨戸は,両隣を含む視界の中で中景と. 照し,合わせればよいという意識以上に,回避. でもいうべき視界のなかで認知される。写真3. し難い遠因だと考えられる。また1階の格子戸. からも読み取れるように,幅員の広い旧二番丁. 以上に,2階表の雨戸は特定の形式に集中して. 通りでは隣接する雨戸と,幅員の狭い旧三番丁. いる原因の1つは,雨戸の形式分類が,目視で. 通りでは向かい合う雨戸が,同時に視界に入る。. 判断可能な構成レベルに基づいているためで. また幅員の差は,本稿 3.4 でも触れたように,. ある。「旧東のくるわ報告書」で平井が記述し. 雨戸を閉めておく理由となって現れている。. たように,同じ高窓付き雨戸であっても「ガラ. 本稿では取り上げていな非伝建物をみると, 2階表の雨戸は高窓付き雨戸の採用が多い。雨. スの丈が短いものほど古いようである」という 指摘の通り,同じ形式の中にも個々の特性が保. 戸を対象に含む最初の助成事業開始から既に. 持されていた可能性はある。修理に際しての形. 30 年が経過し,2度目の修理や修景を行ってい. 式レベルの変更はもちろんだが,同じ形式を保. る建物も出始めている。その中には,非伝建物. 持したうえでの修理に際しても,ガラスのサイ. の修景物件であっても,桟ガラス雨戸やガラス. ズや取り付け高さなど注意深くあるためにも,.
(7) 金沢市東山ひがし重要伝統的建造物群保存地区における修理・修景事業のための調査資料の活用4. 歴史への理解と個々の資料が重要である。また. て作成された図面,および写真多数のほか,1974. 家主の意見や意向の程度は別として,結果的に. 年に文化庁の補助を受けて行われた追加調査記. は,修理であっても修景であっても,特定の雨. 録および,金沢市教育委員会として 1975 年に発. 戸形式に集中している事態に変わりはない。そ. 刊した「旧東のくるわ報告書」)の原稿,版下を. の点,実際に工事を請け負い,相談を受け対応. 含み,資料総体は段ボール6箱である。. する設計士や工務店をはじめとする専門従事 者の責任は大きい。. 29. 5)図版は「旧東のくるわ報告書–」p18に掲載された 図と同じである。. 最後に2階雨戸の資料に触れておく。現在,. 6)実際2019年時点では,紙ばりの状態ではない。最. 2階表の雨戸を正面から撮影するには,向かい. 上部を紙ばりにしていた頃と同じ,最上部を間隔. 側の家主の理解と協力が必要である。過去の資. の細かい縦格子とする構成は保持されているが,. 料に関しても,2階雨戸は撮影も難しく,残さ. 背面にガラスが設えられている。その他,1971−. れた資料の多くは,地上から斜め上を見上げて. 1972年の記録写真と比較すると,雨戸の枚数自体. 撮影された写真である。今回の調査にあたって,. に変化は無いが,戸袋位置が移動し,雨戸板部分. 地上から2階表の撮影方法に着手できたこと. の割り付けは3枚から5枚へと変化している。こ. は副産物であった。機会を改めて報告したい。. の雨戸はガラス採用以前の姿として,現存する最 も古い形式ではあるが,浅い軒のもと雨水を避け,. 謝 辞. 雨戸上端に紙ばり部を設けており,縦格子も細か. 本研究 は科研費(15K06416)の助成を受け. いため採光面積が極端に少ない。そのため住居と. たものである。また調査に際しては,金沢市役. しての利用に限らず,店舗としての利用に際して. 所文化スポーツ局歴史都市推進課,「東山を守. も好まれない可能性が高い。実際現存する建物の. る会」会長,本校 2019 年度専攻科在学中の鍋. 雨戸背面用途は物販店の倉庫であった。また本稿. 本知江,吉田大起はじめ研究室学生,なにより. 3.3表2では1971−1972当時,旧二番丁通りに最上. も地域の皆様に多くの協力を得た。ここに記し. 部を紙ばりにした雨戸は存在しないことになるが,. て感謝の意とする。. あくまでも調査対象を現在の伝建物に限定してい るためである。記録写真の中には,旧二番丁通り. 注. 釈. 1)内田伸:「金沢市東山ひがし重要伝統的建造物群 保存地区における修理・修景事業のための調査資. に最上部を紙ばりとした雨戸が1件存在する。た だし現在は非伝統的な建物に建て替わっている。 7)宮川秀隆:「茶屋街まちなみ修景について」. 料の活用3 」石川工業高等専門学校紀要第51号. Esplanade,no56. pp.19-24(2019). 街 石川県・金沢市 pp10-12.Esplanade (2000. 2)旧二番丁通り,旧三番丁通りという呼称は,金沢. 特集 伝統が生き続ける新しい. 年)金沢市のまちなみ,景観保全,修景事業等が. 市による当該重伝建地区のパンフレットで使用さ. 特集されている。特に重伝建地区選定以前の助. れている表現である。. 成・修景事業の経緯が解説され,各事業における. 3)2019年末時点において旧二番丁通りには,国指定 文化財が1棟(2003年),金沢市指定有形文化財. 補助累計件数が記載されている。 8)写真2左:[明治38年頃の東新地]「写真でみる. が1棟(2012年),金沢市指定保存建物が2棟(1984. 石川の百年」編集委員会編「写真でみる石川の百. 年,1991年)ある。ヒアリングでは,端的にこれ. 年」石川県写真師会出版p28(1967)写真2右:. らと同じように直せば良いという認識を有する家. [大正初年の東ノ廓]本康宏史監修「20世紀の照. 主が確認できる。4棟のうち3棟の2階表の雨戸. 像. は高窓付き雨戸である。なかでも指定保存建物の. 部p99(2003年). 石川写真百年・図譜. 改編版」能登印刷出版. 1棟は,指定後に行われた修理において,桟ガラ. 9)旧二番丁通りに限定されたルールではなく,金. ス雨戸から高窓付き雨戸へ復元が行われている。. 沢市と地区住民との間で結ばれた東山ひがし地. 十分な資料を元に判断された結果であっても,周. 区まちづくり協定に記されている事項による指. 囲にどのように理解されたのか分からない。. 摘と考えられる。 [(9)2階以上にある雨戸を開け. 4)本稿で用いる「平井調査資料 1971-1972」とは,. る場合は、建物の内部が見えないよう窓際の使い. 平井聖らにより 1971 年8月から 1972 年暮れまで に実施された調査記録:調査メモ,調査に基づい. 方に十分配慮するものとする。].
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