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京都府宇治市におけるアニメ『響け!ユーフォニアム』に関わる観光現象について

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- 23 - 【研究ノート】

京都府宇治市におけるアニメ『響け!ユーフォニアム』に

関わる観光現象について

A Case Study of Animation Tourism, “Sound Euphonium”, in Uji, Kyoto Prefecture

片山 明久、竹下龍之介、大中茉友子、片山ゼミ

Akihisa KATAYAMA, Ryunosuke TAKESHITA, Mayuko ONAKA, Katayama Seminar

京都文教大学総合社会学部准教授、3 回生、会学部 3 回生、片山ゼミ 要約 本稿は、京都府宇治市を舞台としたアニメ『響け!ユーフォニアム』に関わる観 光現象に対する研究ノートである。研究方法としては、資料調査並びに訪問調 査に加 え、学内プロジェクト等における参与観察の視点を織り込んだ。まず作品に関わるま ちおこしとして地元行政並びに鉄道会社の施策を調査し、今日の巡礼現象の実情を明 らかにした。そして交流ノート設置場所にてアンケートを実施し、回答を得た221 件 の集計を行った。その結果、舞台巡りに来た来訪者の多くが様々な宇治の観光資源に 魅力を感じていることが分かった。次に交流ノートを調査し、少なくとも通常よりは 多くの書き込みがなされていると考えられることが分かった。次にファン並びに関係 者に対するインタビュー調査を行った。その結果、①作品によって若い世代の観光客 が増えていること、②作品をきっかけに吹奏楽に興味を持ったファンが多いこと、③ ファンはアニメだけが前景化したまちおこしを望んでいないこと、という3点が分か った。更に参与観察として、京都文教大学内に発足した『響け!元気に応援プロジェ クト』について活動内容を調査し、その結果同団体は現在「ファンと地域の方々との 橋渡し」という役割を担いつつあることが分かった。 これらの調査に基づき、宇治の作品に関わる観光現象の特徴について考察を行った。 その結果、宇治市における『響け!ユーフォニアム』の観光現象では、吹奏楽という 地域文化を再評価しようという動きが見られることを指摘した。すなわち、宇治で 元々盛んであった吹奏楽に、作品をきっかけに注目が集まり、今後に期待される状況 が生まれつつあるということである。この構図は、吹奏楽のように現在の地域住民(特 に10 代の学生たち)が生み出した地域文化がコンテンツツーリズムによって再評価 され得る可能性を示しており、従来には無かった全く新しい展開であると言えるだろ う。 キーワード:アニメ、宇治、吹奏楽、地域文化 Ⅰ はじめに -本研究の背景と目的 近年、コンテンツツーリズムに対する研究が盛んである。研究の内容においては、社会

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- 24 - 学、歴史学、政策学など様々な学問分野に根差した視点からの考察が行われている。例え ば岡本(2013)では、アニメ聖地巡礼を事例に情報社会における他者との関係について観 光社会学的なアプローチがなされている。玉井(2010)では、コンテンツツーリズムの旅 行者が無意識的に土地の歴史性に触れてゆくことが歴史学的裏付けから指摘されている。 また片山(2014)は、コンテンツツーリズムの旅行者が地域文化において役割を担いうる 可能性を文化政策的視点から論じている。 このように、コンテンツツーリズムは近年多様な方向から研究されるようになったと言 えるが、研究方法としては総じて資料調査、訪問調査、並びに文献研究が中心であり、参 与観察的な研究は管見の限りでは発見できない。そこで本稿では、従来の調査、研究方法 に加えて、参与観察的な視点も織り込んで研究を行ってみたいと考える。 研究対象としては、本学が位置する京都府宇治市におけるアニメ『響け!ユーフォニア ム』に関わる観光現象を題材とする。同作品に関しては、執筆者の内の一部が、現在地元 行政や鉄道会社等とまちおこしの施策検討において 協働している立場にある。また後述す るが、京都文教大学内に地域連携学生プロジェクト「響け!元気に応援プロジェクト(以 下、響けPJ)」が発足しており、作品の放映以来積極的に活動を行っているという状況も ある。これらの環境を受けて、本稿では従来の調査、研究方法に加えて、参与観察的な視 点も織り込んだ研究を行うことにする。その上で、 宇治市におけるアニメ『響け!ユーフ ォニアム』に関わる観光現象の現時点における特徴を提起することを目的とする。 Ⅱ『響け!ユーフォニアム』に関わるまちおこしの経緯と現状 1.『響け!ユーフォニアム』とその展開 『響け!ユーフォニアム』は、2015 年 4 月から 6 月まで、全国の地方局、BS、TOKYO MX などで放映されたアニメ作品である。内容としては宇治市にある北宇治高等学校の低 迷していた吹奏楽部が、新しい顧問の着任を機に全国大会を目指すというストーリーであ り、作品の公式ホームページでは「吹奏楽部での活動を通して見つけてゆく、かけがえの ないものたち。これは、本気でぶつかる少女たちの、青春の物語。」と紹介されている1) 原作は宇治市に在住する大学生の小説であり、アニメを制作した株式会社京都アニメー シ ョンも宇治市の企業であったことから、舞台や背景として宇治の風景がふんだんに描かれ ている。 作品の公式サイトも2件立ち上がっている。アニメの公式サイトは2014 年 12 月 28 日 に、原作の公式サイト2)もほぼ同時期に開設された。いずれのサイトも開設以来頻繁に更 新されており、作品や関連するイベントの情報を細かく伝えている。またキャラクター設 定の詳細な情報やコミック版も掲載されている。更にアニメの公式ツイッターも開設され ており、こちらも頻繁に情報発信が行われている。 1) TVアニメ『響け!ユー フォニアム』公式サイト、 最終閲覧日2015 年 11 月 11 日、 http://anime-eupho.com/ 2) 『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ』公式サイト、最終閲覧日 2015 年 11 月 11 日、http://tkj.jp/info/euphonium/

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雑 誌 メ デ ィ ア で も 様 々 な 分 野 で 特 集 が 行 わ れ て い る 。 管 楽 器 の 専 門 雑 誌 「BRASS TRiBE」では、2015 年の vol.35(4 月発行)と vol.36(7 月発行)に各 20 ページ以上にわたっ て重点的な特集が組まれた。また管楽器雑誌『poco a poco』(9 月発行)、『CD ジャーナル』 (4 月発行)にも特集記事が組まれている。吹奏楽というテーマによって、作品がアニメファ ン以外からも大きな注目を集めた事が分かる。作品のファンイベントも複数回開かれてい る。2015 年 6 月 6 日(土)には、「『響け!ユーフォニアム』スペシャルトークイベント ~宇治でお祭りフェスティバル~ 」が宇治市文化センターにて開催された。更に同年 10 月 24 日(土)には、神奈川県川崎市にある洗足学園音楽大学前田ホールで「『響け!ユー フォニアム』スペシャルイベント」が、同年 10 月 31 日(土)には、京都府東山区の南座 で「感謝イベント京都でお祭りフェスティバル~南座へようこそ~」が行われている。い ずれのイベントにおいても、メインキャスト 4 人の声優が出演し、満員の観客を集めてい る。 2.地元行政・商店街の施策 地元行政の施策としては、まずアニメの放映直後の2015 年 4 月 15 日から、作品の舞台 に近い宇治市観光センターにファン交流ノート「響け!みんなの交流楽譜(スコア)」が設 置された。7 月 3 日には、アニメキャラクターのパネルの設置が始まり、メインキャラク ター4 人のパネルが宇治市観光センターに、黄前久美子のパネルが JR 宇治駅前観光案内 所に設置された。9 月には「『響け!ユーフォニアム』宇治探訪マップ」が作成され、宇治 市観光センターと JR 宇治駅前観光案内所で現在も配布されている。 地元の商店街でも作品に関わる施策が行われている。宇治橋通り商店街では、後述する 響けPJ主催の作品関連展示会並びにキャラクターの誕生会が、商店街内 の京都文教大学 サテライトキャンパスにて、5 月からほぼ毎月1回のペースで開催されている。また 10 月 24 日には「宇治橋通りわんさかフェスタ」が開催され、オープニングイベントとして、 アニメのイラストが描かれた横断幕を北宇治高校の制服を着た響けPJの学生が持ち、そ の後をモデルとなった地元高校の吹奏楽部のマーチングが続くという場面が演出された。 3.京阪電鉄の施策 『響け!ユーフォニアム』の舞台となる北宇治高校は、京阪電車六地蔵駅が最寄り駅と の設定になっている。そのため作品には京阪電車の駅や車内風景などが頻繁に登 場し、各 所が舞台探訪箇所になっている。そのような理由もあって、京阪電鉄は当初からまちおこ しに積極的な姿勢を見せていた。施策としては現在京阪宇治線、交野線と大津線において 4 つの企画が行われている。第1に電車へのヘッドマークの掲出、第2に宇治線の 5 つの 駅でのキャラクターパネルの設置、第3に京阪大津線でのラッピング電車の運行、第4に 特製乗車券の販売である。ヘッドマークの掲出は、2015 年 7 月 25 日から宇治線と交野線、 大津線で行われ、初日から多くのファンを集めた。また同日から、「宇治駅」「黄檗駅」「六 地蔵駅」「伏見稲荷駅」の 4 つの駅にキャラクターパネルが設置されている。ラッピング 電車も同日から大津線の石山寺-坂本間で運行されており、更に同日から特製乗車券の販

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- 26 - 売も行われている。これらの施策はファンの間でも大きな話題となり、9 月京阪電車はラ ッピング電車の運行並びに記念乗車券の販売を 2016 年 3 月末まで延長すると発表してい る。 Ⅲ アンケート調査、交流ノート調査 1. アンケートの調査結果 宇治市観光協会の許可を得て、以下の期間と手法でアンケートを実施した。実施期間は 2015 年 7 月 25 日~2015 年 9 月 30 日であり、場所は宇治市観光センター内作品コーナー にて実施した。形式は調査紙の据え置き型で、対象は作品コーナーに来訪する、主には作 品ファンの方である。回収した有効回答枚数は、221 件であった。以下、アンケートのう ち主な調査結果を抜粋して記す。 問1 宇治には何度目のご来訪ですか? 回答数 割合 94 43% 54 25% 24 11% 5 2% 40 18% 1 218 100% (筆者作成) 5回以上 無効 合計 表1 来訪回数 1回 2回 3回 4回 問3 今日宇治にいらっしゃった主な理由を教えてください。(複数選択可) 回答数 割合 1,平等院を観るために 48 22% 2,まちの歴史と文化を楽しむために 46 21% 3,アニメ「響け!ユーフォニアムの舞台だから 209 95% 4,お茶を楽しむために 34 15% 5,その他 21 10% 合計 220 100% 表2 来訪の目的 (筆者作成) 問4 あなたが宇治で魅力を感じるものを教えてください。(複数選択可) 回答数 割合 1,平等院 105 48% 2,宇治茶 127 58% 3,アニメの舞台となった場所 193 89% 4,古い町並み 98 45% 5,チャチャ王国のおうじちゃま 12 6% 6,その他 9 4% 合計 544 ※回答者数221名 (筆者作成) 表3 宇治で魅力を感じるもの 問9 問3で「3」と答えた方にお伺いします。 (1)作品の舞台のうち、どこに行かれますか?(複数選択可) アニメの舞台以外にも平等院、宇治茶、古 い町並みの 3 項目が半数近い支持を得てい る。舞台巡りに来た来訪者の多くが、アニ メの舞台だけではなく、様々な宇治の観光 資源に魅力を感じていることがわかる。 動 機 と し て は ア ニ メ の 舞 台 巡 り が 中 心 で は あ る が 、 同 時 に 宇 治 が 観 光 名 所 と い う 事 も あ り 、 観 光 を 楽 し み た い と い う 人 も 少 な くない。 4 月から放映された作品のため、1 回目という 回答が最も多かったが、複数回の訪問者が56% と半数を超え、5 回以上という来訪者も 18%と なった。繰り返し訪れるファンが多く、ヘビー リピーターも発生していると考えられる。

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- 27 - 回答数 割合 1,京阪宇治駅 191 93% 2,宇治橋周辺 191 93% 3,あじろぎの道~久美子ベンチ 181 88% 4,宇治神社 164 80% 5,大吉山 139 67% 6,宇治市観光センター 186 90% 7,その他 53 26% 合計 1105 ※回答者数221名 表4 作品の舞台のうち訪れる場所は? (筆者作成) (2)作品の舞台以外に宇治の観光スポットにはどこに行かれますか?(複数選択可) 回答数 割合 1,平等院 110 58% 2,宇治上神社 119 62% 3,源氏物語ミュージアム 21 11% 4,お茶屋 67 35% 5,鵜飼 12 6% 6,その他 13 7% 合計 342 ※回答者数221名 表5 作品の舞台以外で訪れる場所は? (筆者作成) 2.ファン交流ノートについて 次に、宇治市観光センター内に設置されているファン交流ノートに対する調査結果を報 告する。ファン交流ノートは 2015 年 4 月の設置以来 5 冊を数える。各冊子別の書き込み 数は、1 冊目 294 件、2 冊目 283 件、3 冊目 254 件、4 冊目 325 件、5 冊目(現在も使用 中)110 件(2015 年 11 月 8 日現在)である。アニメ聖地の交流ノートにおける書き込み 数の調査については、原ら(2011)が兵庫県西宮市で、片山(2013)が富山県南砺市城端 で、各々ファン交流ノートの書き込み数の調査を行っているので、それらと比較を行った。 その結果、宇治の交流ノートの書き込み数は約半年間で 1266 件であるのに対し、西宮は 約 2 年間で 904 件、城端は 2 年 10 ヶ月で 3351 件(最初の半年では 431 件)であった。 この比較だけでは断定はできないが、宇治の交流ノートは少なくとも通常の聖地よりは多 くの書き込みがなされていると考えられるだろう。また書き込みの内に記された出身地を 見ると、海外からの旅行者による書き込みが目立った。内訳は、中国が 12 件、台湾 20 件、 香港 3 件、韓国 5 件、アメリカ 2 件、その他海外 2 件の計 44 件であり、特にアジアから の旅行者が多く認められた。 書き込み期間 書き込み数 1冊目 2015.4.11~2015.8.3 294 2冊目 2015.6.6~2015.9.22 283 3冊目 2015.6.27~2015.10.29 254 4冊目 2015.9.11~2015.10.29 325 5冊目 2015.10.29~2015.11.8 110 1,266 (筆者作成) 表6 ファン交流ノート書き込み数 合計 予定訪 問個 所の件 数を 平均す ると 一人当 た り 1.5箇所である。これを問3~5の結果 と合わ せて 考えて みる と、多 くの 来訪者 が 宇 治 の 様 々 な 観 光 資 源 に 魅 力 は 感 じ つ つ も、実際には 1-2 箇所程度しか訪問できて いないという現状がわかる。 質問に上げた6 箇所のうち、「行く予定」が 8 割を超えた箇所が 5 箇所であった。予定 訪 問 個 所 の 件 数 を 平 均 す る と 一 人 当 た り 5.0 箇所であり、多くの来訪者が舞台を周遊 的に探訪していることがわかる。

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- 28 - Ⅳ インタビュー調査 2015 年 8 月 22 日、京都府宇治市の宇治市観光センター内及び宇治橋通り商店街におい て作品の舞台探訪に訪れたファン並びに地域関係者に下記日程でインタビューを実地した。 以下、注目すべき動きや意見を整理して挙げる。 日時 インタビュー対象者 備考 ファンの方7名 於:宇治市観光センター内 ファンの方8名 於:宇治橋通り商店街 K氏 ファン、舞台探訪サイト運営者 E氏 ファン、舞台探訪サイト運営者 S氏 商店街理事 (筆者作成) 表7 ファン交流ノート書き込み数 2015年 8月22日 1.作品放映後の宇治の観光者 「作品放映後、宇治を訪れる観光者に変化はみられるか」という質 問については、商店 街理事の S 氏からは「商店街を訪れる、響け!のファンの方が増えていると感じる」との 回答を得た。また 11 月 4 日放送の ABC テレビ「おはよう朝日です」の番組内では、宇治 市商工観光課の職員からも「若い世代の観光客が増えた。巡礼マップを手に訪れる人をよ く見かける」との発言が確認されている。また筆者が実際に現地調査を行っていた際にも、 宇治市観光センター、宇治橋通り商店街のいずれにおいても多数の若い観光客を確認する ことが出来た。これらのことから、作品の放映後宇治市には若い世代の観光客が増加して いると考えられる。 2.吹奏楽について 次に作品の魅力を問う質問に対しては、「京都アニメーションだからこそ吹奏楽のリアル さが再現できていた」「楽器が丁寧に描かれていた」「アニメを観るまで自分にとって吹奏 楽は縁がなかった分、新しい魅力になった」という声が聞かれた。すなわち多くのファン が作品の魅力を吹奏楽と重ね合わせており、その結果吹奏楽に興味を抱いていることが分 かった。実際に、アニメをきっかけに吹奏楽を始めたファンや、元々吹奏楽をやっていた ことから普段は見ないこのアニメ作品に興味を持ったという例も確認出来ている。ま た K 氏からは、「宇治の歴史やお茶という特色に加えて新たな要素として吹奏楽というイメージ が定着していって欲しい」との意見があった。インタビューにおいてこの意見と同様の回 答は複数あり、ファンが宇治の文化としての吹奏楽に期待していることが分かった。 3.作品と宇治のまちこしについて 「作品と宇治のまちおこしについてどう思うか」という質問について、K 氏は「イベン トが、ゆっくりと増えていっているのが良い」と語っている。また、E 氏も「今後もアニ メ作品と地域が交流するようなイベントは継続していって欲しい」と話している 。つまり、 これは、作品の世界観を活かしたまちおこしを無理なく継続していって欲しいというファ ンの意向であると考えられる。さらに、K 氏は、「訪れるファンが爆発的に増えていって いるのでは無く、観光客や地元の方など、様々な人が少しずつ結びついて、積み重なって

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- 29 - いるという印象がある」として、「他の観光客との共存が必要である」と述べている。こ れらの意見からは、作品のまちおこしが決して前景化せず、これまでの地域の文化や文脈 と共存する形で行われて欲しいこと、そしてその上でファン(旅行者)と地域の人との交 流を楽しみたいこと、というファンの意向を読み取ることが出来るだろう。 Ⅴ.「響け!元気に応援プロジェクト」について 本節では、宇治における作品に関わるまちおこし活動として、宇治市の京都文教大学に 組織された「響け!元気に応援プロジェクト(響け PJ)」を取りあげ、その活動を見てゆ く。尚、以下の記述は筆者の参与観察による記録が基になっているため、 特に必要な以外 はデータの出典の記述は割愛する。 1.プロジェクトの位置づけと目的 「響け!元気に応援プロジェクト」は、京都文教大学が公式な地域連携活動として認め ている「地域連携学生プロジェクト」のひとつであり、2015 年 5 月の選考会を経て承認 された団体である。現在は 23 名のメンバーで構成されており、学内並びに京都文教大学 が宇治橋通り商店街内に保有するサテライトキャンパスにて主に活動している。設立の目 的としては、アニメをきっかけに宇治に来訪したファンの方々に宇治の良さを知ってもら うため「ファンと地域の方々の橋渡しとなって作品の応援活動を展開し、それを通して宇 治の町を盛り上げるお手伝いをしたい」(響け PJ2015)となっている。 2. 活動内容 (1) イベントの主催・参加 響け PJ の活動としてまず確認できるのが、キャラクターの誕生会の開催である。本作 品の設定では、主人公の4名をはじめ計 9 名のキャラクターの誕生日が明らかになってい る。作品のキャラクターの誕生日にちなんでイベントを催す動きは、今日多くのアニメ聖 地において見ることができ3)、ファンが舞台の地域に来訪する大きな動機となっている。 響け PJ においても、プロジェクト発足直後の 5 月から 12 月までに5回の誕生会が実施・ 計画されている。その内容について、事例として 8 月に開催された「響け!みんなのお楽 しみ会 -久美子&滝先生お誕生会」(以下、「お楽しみ 会」)を見てみたい。 「お楽しみ会」は響け PJ が企画・主催したもので、宇治市、宇治市観光協会、宇治橋 通り商店街振興組合の協力を得て開催された。場所は作品の舞台にも近い宇治橋通り商店 街内の公園と施設を使用して行われた。プログラムは下記のような 3 部編成になっており、 参加者数は第 1 部から順に 40 名、80 名、60 名であり、合計 180 名であった。 第 1 部 響け!きみだけのメロディ!! ~楽器に触れてみよう~ 3) アニメ『けいおん!』の舞台である滋賀県犬上郡豊郷町の豊郷小学校旧校舎群では 毎年 6 回(現地イ ンタビュー調査による、2015 年 5 月 23 日実施)、アニメ『らき☆すた』の舞台である埼玉県久喜市鷲 宮並びに幸手市でも毎年複数回の誕生会が行われている。(鷲宮商工会ブログから。最終閲覧日2015 年 9 月 23 日、http://www.wasimiya.org/birthday/)

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- 30 - ストローを使った楽器作り、楽器のぬり絵大会 などのこども向け企画。 第 2 部 響け!ジョイナス・ミニコンサート 京都文教大学吹奏楽部によるミニコンサート。作中 曲などを演奏。 第 3 部 響け!ハッピーバースデー ~久美子&滝先生お誕生会~ バースデーソング合唱・ケーキ披露/地元からの歓迎のごあいさつ/バース デーメッセージ一斉ツイート/吹奏楽部ミニ演奏/久美子&滝先生への“愛” を語ろう/お楽しみ抽選会 このプログラムでは、第 1 部が地域の子供、第 2 部が一般客・観光客、第 3 部が作品の ファンと幅広い層が対象となっている。これは作品のことを話題としては知っているもの の、アニメや吹奏楽のことはよく分からないといった地元住民に作品の世界観を共有して もらいつつ、同時にファンにお楽しみを提供する目的で企画された、とのことである。 また響け PJ は誕生会以外の地域イベントにも参画している。10 月に宇治橋通り商店街 で開催された「わんさかフェスタ」では、メンバーの女子2名が北宇治高校の制服を着用 し、作品のイラスト入りの横断幕を持ってパレードの先頭を行進した。またフェスタへの ブース参加として楽器を作る子供向けワークショップを開催し、200 名の参加者を集めて いる。このように響け PJ は、設立から短期間ではあるが、作品をテーマにファンと地元 をつなぐ活動を積極的に行っていると考えられる。 (2) SNS でのイベントや地元情報の発信 ブログ「響け!元気にファンファーレ」は、響け PJ が 6 月 18 日に開設したブログであ る。このブログのこれまでの更新回数は 36 回であり、閲覧者数は 2807 名(1 日平均 19.7 人)である。またツイッターは 6 月 24 日に始められており、これまでのツイート数は 592 回、フォロー数は 306、フォローワー数は 299 である(2015 年 11 月 7 日現在)。いずれ のメディアにおいても、イベントなど企画の情報を始め、宇治の観光情報や祭礼の情報な ども発信されている。またブログでは、作品の世界観を定点的に発信する「今日の久美子 ベンチ4)」という記事も定期的に連載している。 3.響け PJ の役割 以上に見た響けPJ の活動を整理してみると、響け PJ は現在、作品を媒介にファンと地 元民をつなぐ組織としての役割を担いつつあると考えることができるだろう。先に見た「お 楽しみ会」では、各3部が子供、一般客・観光客、作品ファンと各々異なる客層を対象と していた。もちろん各部のプログラムは、各々の対象客向けの内容になっているのだが、 実際には第 1 部から参加する作品のファンや、第 3 部に参加した地元住民や中高校生も多 くあった。「お楽しみ会」という場面が、そのような通常は発生しない混淆を生み出したの である。そこではアニメや吹奏楽を媒介にして、ファンと地元住民・地元学生が世界観を 共有し、それに対する共感が緩やかに形成されたものと考えられる。プロジェクトの目的 4) 主人公の黄前久美子が折 りに付け立ち寄るベンチのことで、宇治川西岸の井川用水機場前にある。フ ァンが舞台探訪として頻繁に訪れる場所である。

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- 31 - である、作品の世界観を媒介にした「ファンと地域の方々の橋渡し」としての役割が機能 しつつあると考えることができるだろう。 Ⅵ 考察 本節では、ここまでの調査を基に宇治市における作品に関わる観 光現象の特徴について 考察を行う。本節において指摘したいのは、宇治の作品に関わる観光現象において、地域 文化を再評価しようという動きが見られるということである。この場合の地域文化が意味 するのは「吹奏楽」である。宇治は元来、吹奏楽が盛んな地域である。例えば 2001 年の 京都府吹奏楽コンクールに出場した校数を見てみると、宇治市からは小学校が 1 校、中学 校が 9 校、高校が 4 校の計 14 校が出場している。これを人口比で京都市と比較すると、 宇治市の小学校は 19 万人につき 1 校、中学校は 2111 人につき 1 校、高校は 4 万 7 千人に つき 1 校であるのに対して、京都市は小学校では 29 万人につき 1 校、中学校は 4323 人に つき 1 校、高校は 7 万人につき 1 校であり、宇治市からは人口あたりの出場校数が多いこ とが分かる。更に 2015 年の出場校数を見ても、宇治市から出場した校数は 2001 年と同数 であり、人口あたりの校数もほぼ 2001 年と同じである。この数値は、宇治市では以前か ら今日に至るまで、小・中・高いずれにおいても吹奏楽が盛んであることを示している。 更に、宇治市には「ママさんブラス Uji」や「宇治市民吹奏楽団」といった社会人の吹奏 楽団も存在しており、幅広い年齢層で吹奏楽という文化を継続してきたと言うことが出来 るだろう。 このように宇治には元々吹奏楽という文化が根付いていたと考えられるが、本稿で指摘 したいのは、今回の作品によってこの文化を再評価しようという動きが見られるという点 である。例えば、前掲の「わんさかフェスタ」を見てみたい。2015 年の「わんさかフェス タ」のテーマは「音を紡ごう」であった。商店街理事の S 氏によると、今回の作品で吹奏 楽が使われたことから宇治では元々吹奏楽が盛んであったということを思い出し、このテ ーマを設定したとのことである。そしてその テーマに沿い当日は作品のモデルとなった地 元高校によるマーチングが行われた。その結果、これまでは来場者が 2.5 万人程度だった のに対し、今年は約 3 万人の人が訪れたのである(城南新報 2015 年 10 月 25 日)。もちろ ん来場者増加の要因を吹奏楽の演奏だけに求めることは出来ないが、地元の高校生による 吹奏楽が多くの人の関心と注目を集め、大きな声援を受けたことは事実であった。また他 の例を見ると、宇治市では 1994 年より近郊市町村と合同で、中学校と高等学校の吹奏楽 部のジョイントコンサートが毎夏に行われている。2015 年は作品の放映直後ということか ら作品のイラスト入りのプログラムが製作され、話題になった。これも作品をきっかけに して、吹奏楽という地元文化を盛り上げようという意図によるものと考えられるだろう。 更には、前掲のインタビューにあったように、多くのフ ァンが作品の魅力を吹奏楽と重ね 合わせており、その結果吹奏楽に興味を抱いている事実も確認できる。放映以来、作品の 舞台でもある大吉山では、楽器を持参して山を登り、山頂で演奏するファンが多数確認さ

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- 32 - れており5)、また宇治川沿いの通称「久美子ベンチ」でも演奏するファンが確認されてい る(ABC テレビ「おはよう朝日です」2015 年 11 月 4 日放映)。これらのことから、宇治 には元々吹奏楽という文化があり、今回の作品によってこの文化を再評価しようという動 きが見られると考えることが出来るだろう。 これまでのコンテンツツーリズムの研究では、アニメ聖地巡礼現象によって、伝統芸能 や伝統的祭礼が再評価される場合があることが明らかになっている。その事例としては、 埼玉県秩父の龍勢まつり、富山県城端のむぎや踊りなどが挙げられる(片山 2015)。しか し今日宇治で見られるのは、現在の地元住民(特に 10 代の学生たち)が生み出した地域 文化がコンテンツツーリズムによって再評価されつつあるという現象であり、従来には無 かった新しい展開である。地域文化とコンテンツの関係を改めて考えるきっかけになる事 例であると言うことが出来るだろう。 Ⅶ おわりに 本稿では、京都府宇治市におけるアニメ『響け!ユーフォニアム』に関わる観光現象に 対して、資料研究、アンケート調査、インタビュー調査、応援団体における参与観察を行 い、考察を行った。その結果、宇治市においては作品をきっかけに「吹奏楽」という地域 文化を再評価しようという動きが見られることが分かっ た。 しかし宇治市の同作品に関わる観光現象は始まったばかりであり、今後さらに継続した 研究が必要になるだろう。例えば宇治市を他のアニメ聖地との比較してみると、いくつか の特徴を発見することができる。論を閉じるにあたり、この点を 指摘しておきたい。 他のアニメ聖地との比較に見る宇治市の特徴の第 1 は、宇治市は観光地であるというこ とである。2014 年の年間入込観光客数を見ると、宇治市は 510 万人であり、大都市を除 いたアニメの舞台となった地域の中では、最大級の観光地であると言える。第 2 には、宇 治市の人口は 19 万人であり、一般的な地方都市のアニメ聖地として最大級の人口を持つ ということである。第 3 には、アニメ制作会社が地域内にあるということである。「響け! ユーフォニアム」の製作を行った京都アニメーションは、京阪宇治沿線の木幡駅近くにあ り、作品の舞台である宇治駅から 3 駅と至近な場所にある。そして、全国的に見ても同様 の事例は、富山県南砺市城端における PA works の存在だけである。 先日、前掲の南座のイベントにおいて『響け!ユーフォニアム』の劇場版と続編の製作 決定が発表された。宇治へのファンの来訪も、今後ますます増えてゆくこ とだろう。上に 指摘した宇治市のアニメの聖地としての特徴が、同地のコンテンツツーリズムにどのよう な影響を及ぼしてゆくのか。今後はこの点にも留意し、研究を進めてゆきたい。 (本論文は、京都文教大学片山3回生ゼミ<篠田真衣・竹下龍之介・大中茉友子・池田早弥 華・高橋佳甫・竹場美紀・尾瀬翼・薮井夏海・薮井南海 >によって調査・執筆された。) 5) 筆者の現地調査による。2015 年 6 月 7 日。

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- 33 - 謝辞 本研究に際しては、宇治市商工観光課、宇治市観光協会、宇治橋通り商店街振興組合の皆 様に大変ご協力いただきました。厚く御礼申し上げます。 【参考文献】 岡本健(2013)「情報社会における旅行者の特徴に関する観光社会学的研究」北海道大学 大学院国際広報メディア・観光学院博士学位論文 片山明久(2013)「アニメ聖地における巡礼者と地域の関係性に関する研究-富山県南砺 市城端を事例として」『観光学評論』(日本文化政策学会)Vol.1 No.2、p.203-226 片山明久(2014)「情報社会の旅行者が文化政策に果たす役割の研究-コンテンツツーリ ズムを事例に-」『文化政策研究』(日本文化政策学会)Vol.7、p.9-26 片山明久(2015)「地域の伝統的祭礼とアニメ聖地巡礼」『観光学事始め』井口貢編、法律 文化社、p.110-123 玉井建也(2010)「物語・地域・観光-「稲生物怪録」から『朝霧の巫女』、そして「聖地 巡礼」へ-」『コンテンツ文化史研究』(コンテンツ文化史学会)VOL.3、p.34-47 原一樹、大崎みなみ、永島愛子、本原世津子(2011)「「涼宮ハルヒ・聖地巡礼」に関する 現状調査報告」『日本観光研究学会第 26 回全国大会論文集』、p.9-26 響け!元気に応援プロジェクト(2015)「地域連携学生プロジェクト2015 申請書-事業計 画書」資料

参照

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