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自閉性障害を伴う知的障害者の職場定着に向けた 環境整備に関する一考察 -株式会社Tの雇用前実習を事例に-

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(1)

自閉症を伴う知的障害者の職場定着に向けた

環境整備に関する一考察

― 株式会社Tの雇用前実習を事例に ―

A Consideration on the Environment Improvement in Establishing

a Workplace of Intellectual Disabilities with Autism:

Case study of pre-employment training at T Corporation

松 田 光 一 郎

1)

Koichiro Matsuda

抄録:本研究では自閉症を伴う知的障害者の職場定着に向けた環境整備のあり方について、雇用前実習を行う株式会 社Tとジョブコーチが連携した就労支援の事例をもとに検討した。その結果、職場定着に必要な環境整備の条件とし て、①就労支援機関との継続的連携、②本人中心計画の共有と更新、③職場定着支援に関する情報移行の 3 つが判明 した。よって、これらの条件を満たすためには、職場定着後も関係者が継続的に本人中心計画を確認し、当該個人の 最新情報に基づく支援を実施する仕組みの重要性が示唆された。

Abstract:In this study, we examined how to improve the environment for the establishment of workplaces for people with intellectual disabilities with autism, based on the case of working support in cooperation between a T corporation that conducts pre-employment training and a job coach. As a result, the following three conditions were found: 1) continuous cooperation with employment support organizations, 2) sharing and updating of person-centered plans, and 3) information transfer regarding workplace support. Therefore, in order to satisfy these conditions, the importance of a mechanism in which related parties continuously confirm the person-centered plan after the establishment of the workplace and support based on the latest personal information is suggested.

キーワード:職場定着支援、環境整備、本人中心計画、自閉症を伴う知的障害、ジョブコーチ

Keywords:Support for establishing a workplace, environmental adjustment, Personal-centered planning, Persons with intellectual disabilities with autism, job coach

Ⅰ.問題と目的

近年、就労支援機関が中心となり障害者雇用の促進に 向けた対策が実施されている。しかし、安倍(2003)は 様々な要因により離職を余儀なくされる障害者も少なく な く、雇 用 後 の 職 場 環 境 を 創 出 す る こ と が 企 業 の Corporate Social Responsibility(CSR;企業の社会的責 任)であると指摘している。また西口・斉藤・尾関(1993) は障害者の離職に対し、就労支援機関と雇用主側が連携 して職場定着を図っていくことの重要性を指摘してい る。小川(2001)は作業手順の習得に向けた指導・介入 方法として、課題分析を詳細に紹介している。これに対 して、若林(2009)は作業手順の習得以外の問題、例え ば、手順自体は正しくても作業結果の正確性が確保され ない、作業効率が向上しない、作業中に歩きまわる、自 傷やこだわりなどの問題行動にどのような指導・介入方 法が効果的なのか、また、環境整備にどのような配慮が 必要なのかについては具体的には触れられていないと指 摘している。 これらのことから、障害者雇用における職場の環境整 備のあり方についていまだ明らかにされていないことが わかる。 1)京都文教大学臨床心理学部教育福祉心理学科

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一方、古井(2009)は日常生活における自己決定の場 面で、自らの意思を表現することに困難が見られる自閉 症者の場合、本人の意思よりも支援者側の都合や価値判 断を押し付けられたり、家族の意思の方が優先され、本 人の意向が十分に確認されにくい傾向が見られると報告 している。 障害者就労支援の現場では、個別支援計画の作成が義 務化され、障害者の「できる・できない」に焦点を当て た、画一的な能力評価を中心としたアセスメントとなっ ている(沖倉2005)。 そうしたなか、障害者に適したよりよい環境に改善し ていくために、「本人中心」の考え方が取り入れられて きている(Holburn 1997)。O’Brien et al.(2002)によ り紹介されて以来、注目されるようになった具体的な方 法に Person-Centered Planning(以下、本人中心計画) がある。本人中心計画は、1960年代後半から1970年代に かけて米国で行われた知的障害者支援の脱施設化を背景 に体系化された方法論であり、それを用いることで、社 会的相互作用やコミュニケーションに困難を示す自閉症 者の問題行動の改善に寄与することが報告されている (Holburnet al. 2002)。 園山(2004)は問題行動と環境との機能的な関係を改 善し、適切な行動を高めることに重点を置く応用行動分 析的アプローチは、本人中心計画の特徴である障害者の 意思を尊重した個別的な支援を実践するうえで有効であ ると示唆している。 以上により本研究では、コミュニケーションに困難を 示す自閉症者の職場定着支援において、本人中心計画が 本人の好み、願い、特性に応じた環境の創出に果たした 役割と、障害者雇用において雇用主側とジョブコーチが 連携した事例から、職場の環境整備に必要な条件につい て考察する。

Ⅱ.方法

1 .株式会社Tの概要 株式会社Tは、1969年に設立されて以来、ビルメンテ ナンスで40年以上の実績があった。常用労働者が50人以 下であり、障害者雇用納付金制度の対象外であった。 株式会社Tが障害者雇用を開始したのは、2008年に就 労移行支援事業所から 1 名の知的障害者の実習を受け入 れてからである。同社は、自治体から市営浴場の清掃の 委託を受けており、現在、週 5 日(月曜日から金曜日、 ただし祝日は除く)、10時から14時までの 4 時間、玄関 とロビーおよび男女更衣室の清掃を行っている。 2 .Aの概要 1 )障害程度 Aは中度の知的障害と自閉症を併せもつ20代の男性で あった。Aは特定のものに強い興味やこだわりをみせ、 予定の変更や初めての場所が苦痛で、腕をかむなどの自 傷が見られた。また、対人コミュニケーションでは、冗 談や皮肉が分からず、言葉を字義通りに理解したり、一 方的に話し続けるなどの特徴がみられた。田中ビネー 知能検査では精神発達年齢 6 歳 5 ヵ月、知能指数45で あった。 2 )生育歴 Aは、 1 歳 6 ヵ月検診時より、多動、独り遊び、視線 回避などが見られ、自分の要求が通らないと激しいパ ニックを起こした。 3 歳の時、医療機関で自閉スペクト ラム症と診断された。新版K式発達検査結果は、 3 歳 0 ヵ月でDQ68、CARS40、3 歳 6 ヵ月でDQ78、CARS39、 4 歳 0 ヵ 月 で DQ87、CARS34、4 歳 6 ヵ 月 で DQ100、 CARS27であった。 3 )教育歴 Aは、 3 歳の時に医療機関から、自閉症療育センター を勧められて利用に至る。言語発達は 5 歳頃から反響言 語が見られた。特別支援学校小学部 3 年頃から片言の会 話ができるようになった。特別支援学校中学部に進学し た頃から固執傾向が見られ、トイレを使用する際、トイ レット・ペーパーを 1 回ごとにすべて使い切り、それを 全て流すためにトイレを詰まらせた。特別支援学校高等 部では、教室の扉の開け閉めに固執し、勢いよく開閉し て大きな音を立てる等の問題行動が頻発した。 4 )臨床像 Aは会話において言葉を字義通りに理解するため、対 人面でトラブルが絶え間なく起こった。また、比喩や冗 談がわからない、抽象的な概念、仮定のことが理解でき ないなどの特徴が見られた。さらに、気持ちや感情がう まく表現できないことなどが見られた。 5 )職歴 Aは、特別支援学校高等部卒業後、母親が務めるスー パーに雇用されるが、同僚との対人関係が悪化し、 3 ヵ 月で退職となった。 6 )支援経過 Aは退職後、就業・生活支援センターの紹介により、 地域の就労移行支援サービスの利用を開始した。そこで は、朝のミーティング時に一日のスケジュールを立てる ことで見通しをもって仕事を行えていた。また、他者と のコミュニケーションにおいては、気持ちを言葉で伝え ることは難しかった。 3 .本人中心計画作成会議 就労移行支援事業所では、サービス利用契約が交わさ れると、 2 ヵ月間のアセスメント期間が設けられた。そ こでは、職業的な関心、仕事の好み、適性等について聞 き取りが行われたのち、本人中心計画作成会議が開か れた。 本会議では、就労移行支援事業所のサービス管理責任 者の呼びかけにより、A、保護者、就業・生活支援セン

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ターの職員、ジョブコーチが徴集され、就労移行支援事 業所の会議室で話し合われた。そこでは、本人中心計画 の特徴である①計画書作成へのAの参画、②Aの可能性 への着目、③Aを中心にした支援体制という 3 つの観点 から話し合われた。会議の結果、①静かで落ち着いた環 境、②見通しのある単独作業、③作業成果が明確、④経 験のある仕事、⑤他者との関わりが少ないことが望まし い職場環境として挙げられた。これらの環境要因と個体 要因をふまえ、本人中心の個別支援計画が立案された。 4 .職場定着支援の準備 1 )雇用前実習計画 本人中心の個別支援画に基づき、20XX 年10月中旬か ら11月中旬まで、市営浴場で15日間の雇用前実習が計画 された。株式会社Tの担当社員は、通常 9 時までに市営 浴場に出勤し、 1 時間半で男女 2 つの更衣室の清掃を担 当していた。そこで、ジョブコーチは、雇用前実習の開 始に先立ち、担当社員に付いて一通りの業務を体験し、 実習に向けて課題分析を作成した。 2 )作業内容 男女更衣室の全体整理、タオルの整理(タオル入れか ら青色のバスタオルを 1 枚取り出して広げて床に敷く、 10時までにリネン室にタオルを持っていく)、鏡を拭く (洗面台に設置されている鏡の埃や指紋や洗剤などの汚 れを拭きとる)、洗面台を拭く(髪の毛や水の飛び散り、 水滴跡などの汚れを拭きとる、蛇口の水滴を拭き取り磨 く)、脱衣棚を拭く(籠の中のゴミを払い、棚の中を拭く)、 ロッカーを拭く(ロッカーの扉を開けて白色のタオルで 中を拭き、忘れ物がある場合は棚の上に置く)、床掃除 (掃除機をフローリング全体とマットにかけて、髪の毛 や埃等のゴミを取り除く)を時間内に終了させることが 主な業務であった。 5 .職場定着支援の経過 1 )前半の雇用前実習の状況 雇用前実習では、 2 時間かけて男女 2 つの更衣室を清 掃するよう、担当社員から指示を受けていた。そこで、 担当社員からAにインストラクションが行われた初日を 除いて、ジョブコーチ(筆者)が観察記録を行った。ま た、全実習期間中13日間付き添い、直接支援を行った。 直接支援におけるプロンプトレベルは、介入度の低い順 から「言語指示」「モデリング」「身体補助」「代行」と した。具体的なプロンプトの与え方として、言語指示は、 Aが次の作業を行う前に立ち止まる行動や、「どうした らいいですか」と質問した時に、「次はタオルを持って きてください」などのプロンプトを与えた。モデリング は、ドライヤーの巻き方などが正しい方法ではなかった 時に、間違いを指摘してから、Aの目前でジョブコーチ が実演を行った。代行は時間内に作業が終わらなかった 場合、Aの代わりにジョブコーチが作業を行うこととし た(身体補助は行わなかった為、省略する)。 1 週間の雇用前実習が終了した時点で中間報告会が実 施された。それによると、Aの対人関係、職業適性、作 業能力などについて評価が行われた。その結果、担当社 員との関係は良好で、対人関係面で問題がないこと、ジョ ブコーチの指示に従って、まじめに仕事に取り組んでい る点が評価され、引き続き雇用前実習を継続することに なった。 2 )後半の雇用前実習の状況 後半の雇用前実習では、男女 2 つの更衣室清掃を90分 以内で終了するよう担当社員から作業に関する要求が示 された。Aは指示された時間内に更衣室清掃が終わる と、ジョブコーチに報告した。ジョブコーチが確認する と、作業結果は完全ではない状態であった。つまり、作 業完了報告と作業評価が一致せず、不完全な状態が見ら れた。このことから、Aは指示内容を理解しているにも 関わらず、指示に合わせて行動に移せないという問題が 判明した。そこでジョブコーチは、Aの不適切な報告・ 確認行動を変容させるため、ABC 分析を用いて不適切 な報告・確認行動を査定した結果、Aは自立的に作業を 遂行しているのではなく、ジョブコーチからの作業評価 を次の作業を遂行するための手がかりにしていることが 推察された(表 1 )。 表 1 .不適切な報告・確認行動の随伴性ダイアグラム A:先行刺激 B:行 動 C:結果事象 指示された作業 が終了する ジョブコ-チに 報告する ジョブコーチか ら作業評価を受 ける 以上の点を踏まえ、ジョブコーチは、一つの作業が終 わった後にA自身の弁別刺激で次の作業に移行すること ができること、Aがゴミや埃が取り除かれた状態に対し て、「できました」という完了報告を行えるように作業 チェック表とトークンエコノミー法を導入することを考 案した(表 2 )。 表 2 .作業チェック表とトークンエコノミー法を導入し た報告行動の随伴性ダイアグラム A:先行刺激 B:行 動 C:結果事象 指示された作業 が終了する 作業チェック表 を確認し、作業 が 完 了 す れ ば ジョブコーチに 報告する ジョブコーチの 評価と一致すれ ば、作業報告書 の評価欄に好き なキャラクター シールを貼れる

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ジョブコーチは、作業チェック表を導入する対象作業 として、課題分析の順に「化粧水の移動」「鏡拭き」「洗 面台」「化粧水を並べる」「棚を拭く」「ロッカーを拭く」 「床に掃除機をかける」「床にワイパーをかける」の 8 つ の作業を選んだ。 次に、トークンエコノミー法を導入して、作業結果が ジョブコーチの評価と一致すれば、作業報告書の評価欄 にマーキングの指示を与え、マークが 8 つ以上になれば、 実習最終日に終了証を与えることとした。しかし、作業 結果が不完全な状態であれば、評価欄へのマーキングは できず、作業のやり直しを指示した。 6 .ターゲット行動 ジョブコーチによる直接支援と作業チェック表およ び、トークンエコノミー法の導入による作業パフォーマ ンスの向上、A自身の自己観察・自己評価・自己強化に よって次の作業に移行する自立的な行動をターゲットと した。 7 .研究デザイン 研究デザインは、BL(ベースライン)、介入 1 、介入 2 から構成されたチェインジング・コンディション・デ ザイン(ABC デザイン)で行われた。 1 )BL(ベースライン) 実習初日である17日間は、担当社員からAに対して全 課題プロンプト付きのインストラクションが行われた。 ジョブコーチからAに対しての直接支援が始まった18日 から24日までの 3 日間を BL 期として、Aの自立反応、 プロンプトの記録などを行った。 2 )介入 1 作業チェック表を導入する前を完了報告に対する言行 一致の BL 期として記録を行った。BL 期では、Aから の報告行動に対して、ジョブコーチが反応しないように し、A自身の作業評価と弁別刺激で次の作業に移行する ことができること、Aがゴミや埃を取り除いた状態に対 して、「できました」という完了報告を随伴させること を目的とした。 3 )介入 2 Aの完了報告を受け、作業結果がジョブコーチの評価 と一致したら、作業報告書の評価欄のマーキングから、 好きなキャラクターシールを選択できることに強化子を 変更し、A自身が評価欄に貼ることとした。しかし、ジョ ブコーチの評価と不一致の場合は、シールは貼れず、作 業のやり直しを指示した。 8 .従属変数 Aの清掃作業に対する課題達成率、報告・確認行動の 回数、完了報告に対しての言行一致率(Aとジョブコー チの作業評価一致率)を従属変数とした。また、各作業 遂行における達成基準として、鏡を拭く作業は、「洗面 台に設置されている鏡の埃や指紋や洗剤などの汚れを拭 きとること」、洗面台を拭く作業は、「髪の毛や水の飛び 散り、水滴跡などの汚れを拭きとる、蛇口の水滴や指紋 を拭きとり磨くこと」、脱衣棚を拭く作業は、「籠の中の ゴミを払い、棚の中を拭くこと」、ロッカーを拭く作業は、 「ロッカーの扉を開けて白いタオルで中を拭き、忘れ物 がある場合棚の上に置くこと」、床掃除は「掃除機をフ ローリング全体とマットにかけて、全ての髪の毛や埃な どのゴミを取り除くこと」とした。 9 .倫理的配慮 本研究の実施にあたり、調査協力者には、研究趣旨を 説明し、目的や方法等の内容に対して同意書への署名を 得た。また、個人情報については、地域・団体・支援機 関等に関して匿名性を考慮し、固有名詞の使用を控えた。 さらに、研究成果については個人を特定できる情報は公 表されないことを約束するなど、十分に配慮を行った。

Ⅲ.結果

1 .更衣室清掃の全課題達成率 図 1 によると、更衣室清掃におけるAの全課題達成率 は BL が始まった18日で34%、21日には27%に低下した。 24日には55%に上昇した。これは男女 2 つの更衣室では なく、 1 つのみの全課題達成率を示しているので、24日 の全課題達成率は、パフォーマンスの向上を示すもので はない。また、18日から24日までの BL の全課題達成率 の平均は39%であった。作業チェック表とトークンエコ ノミー法を用いた介入 1 では、25日に全課題達成率が81% に上昇した。28日には70%に低下したが、BL と比較し て全課題達成率は高い傾向を示し、介入 1 における全課 題達成率の平均は74%まで上昇した。しかしながら、31 日に全課題達成率が82%を記録してから、 1 日が73%、 4 日が72%、 7 日が68%と全課題達成率は低下し続けて おり、自立的な作業遂行とは言えない状況であった。 図 1.更衣室清掃の全課題達成率 BL(ベースライン)の中で、24日の全課題達成率が上昇した 理由は、男女どちらかの更衣室の清掃作業に変更されたためで ある(破線は各条件の平均値を表す)。

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ジョブコーチの評価と一致したら、作業報告書に好き なキャラクターシールを貼る条件に変更した介入 2 で は、 8 日の全課題達成率は89%、11日には81%、14日に は88%、15日には91%、18には92%を示し、全課題達成 率の平均は88%まで上昇した。介入 1 と比較しても安定 して高い全課題達成率を示し、作業チェック表とトーク ンエコノミー法がAの望ましい報告・確認行動を促した。 2 .自立反応とプロンプトの割合の経過 図 2 によると、BL である18日には言語指示が49%、 代行が16%であった。21日には言語指示が17%、代行が 47%になり、ジョブコーチによる作業代行が30%以上増 加した。男女 2 つの更衣室ではなく、 1 つのみの業務に 変更された24日においても言語指示33%、代行11%とプ ロンプトが50%近くに達した。介入 1 になると25日には 言語指示が15%、代行が 4 %、28日には代行がなくなり、 プロンプトは言語指示のみで30%となった。31日には言 語指示が11%、代行が 7 %、自立反応率が82%と高い数 値を示した。しかし、 1 日から 7 日にかけてジョブコー チの作業代行のプロンプトが抜けなかった為、Aがジョ ブコーチに依存する傾向は続いた。作業報告書に好きな キャラクターシールを貼る条件に変更した介入 2 では、 8 日には言語指示が11%、11日には19%、14日には12%、 15日には 9 %まで減少した。また、 8 日から18日にかけ て代行がなくなり、Aがジョブコーチに作業を依存せず に、時間内に全ての作業に取り組むことが出来るように なったことを示した。 図 2 .自立反応とプロンプトの割合の経過 BL(ベースライン)では、言語指示と代行がプロンプトの大 半を占めていたが、介入 1 では 3 割程度に減少した。介入 2 に おいては代行がなくなり、Aが全ての作業に取り組むことが出 来るようになった。 3 .報告・確認行動数の推移と完了報告の言行一致率 図 3 によると、報告数に関しては作業チェック表を導 入することで平均18回から平均 4 回に減少した。介入 2 の 8 日には 4 回、11日には報告回数が10回に上昇したが、 14日には 3 回、15日には 1 回、18日には 2 回とそれぞれ BL と比較して大幅に減少した。 図 4 によると、BL の言行一致率は 4 日には25%、 7 日には33%を示し、言行一致率の平均は29%だった。作 業報告書に好きなキャラクターシールを貼る条件に変更 した介入 2 の言行一致率は 8 日には75%、11日には57%、 14日には43%と介入 3 日目まで漸次低下するという結果 となった。しかし、15日には83%、18日には86%の言行 一致率を示した。これは一致していなかったAとジョブ コーチの作業評価の基準が徐々にではあるが一致してき たことを示している。安定した傾向は示していないが、 BL と比較して介入 2 の効果はあったといえる。 図 3 .報告・確認行動数の推移 Aの報告・確認行動は、BL(ベースライン)では平均18回であっ たが、作業チェック表を導入した 8 日以降、平均 4 回に減少し た(破線は介入 2 の平均回数を表す)。 図 4 .完了報告の言行一致率 ジョブコーチとAの作業評価一致率は、実習終了前の 2 日間に おいて、一致率が上昇する結果となった(破線は各条件の言行 一致率の平均)。 4 .雇用前実習後の状況 2 週間の雇用前実習が終了し、雇用主は報告会を催し た。そこで作業チェック表やトークンエコノミー法など の環境整備によって自立的な作業遂行が可能と評価され、 Aの雇用が決まった。これによりジョブコーチは担当社 員に職場定着支援に関する具体的な引き継ぎを行った。 それはジョブコーチによる支援が終了しても変わること なくAへの支援が継続されるよう、本人中心の個別支援 計画が引き継がれていくことを意図して進められた。

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5 .フェイディングとフォローアップの状況 ジョブコーチは担当社員に本人中心の個別支援計画の 引き継ぎが完了した段階で、株式会社Tへの訪問を週 3 回から週 1 回のペースに切り替え、支援の頻度や量を意 図的に減らすフェイディングを行った。またフォロー アップで職場環境や作業内容等を確認し、本人中心の個 別支援計画を現状に即した内容に改めた。さらに雇用継 続に向け、環境整備に関する改善案を提出した。こうし た間接支援に主軸を移したことにより、職場定着を支援 する体制が構築されていった。 図 5 に雇用前実習後における株式会社Tとジョブコー チの関係図を示した。なお双方向の矢印は支援に関する 情報の流れを表している。 図 5 .雇用前実習後における株式会社Tと ジョブコーチの関係図 6 .継続支援の経過 Aの本採用が決まり、職場定着支援の主体がジョブ コーチから担当社員へと引き継がれることになった。雇 用主は雇用前実習からジョブコーチに頼っていたことも あり、「どこまでこちらの指示が理解できるのか」「勝手 に現場からいなくなったりしないか」「不適切な報告を しないか」などの不安を抱いていた。 そこでジョブコーチは職場定着支援のポイントとし て、Aが不適切な報告・確認行動を起こさないための環 境条件や本人中心の個別支援計画の更新に関する業務の 重要性について説明し、担当社員に対し引き継ぎを行っ た。その結果、「本人中心の個別支援計画の情報はAを 知る手助けになる」と雇用主が理解するようになった。 しかし担当社員がジョブコーチに代わって支援をする中 でさまざまな問題が発生している。 例えばAの能力と新しい作業とのマッチング、勤務時 間や通勤時間の変更、Aに対する理解不足、さらに他の 社員との軋轢などである。こうした問題が発生する度に 担当社員はジョブコーチと本人中心の個別支援計画を見 直し、プラス思考で手立てを検討した。その結果、「ミ スが出ても障害があるからしかたがないと諦めていたが そうでなかったことに気づいた」と、障害者雇用に対す る認識に変化がみられるようになった。また担当社員が 支援を担当してからもAに不適切な報告がなくなり、「障 害者に仕事を教えるということが少しわかりかけてきた ように思う」とジョブコーチに対する信頼感が芽生え、 不安は解消された。

Ⅳ.考 察

1 .本人中心の個別支援計画の意義 雇用前実習について「ジョブコーチが付くことを条件 に実習生を受け入れたが、自閉症を伴う知的障害と聞か され、正直、面倒だと思った」という発言から、雇用主 はさまざまな不安を抱えていたと思われる。Aのように 離職経験があり、一般就労に再チャレンジする場合、自 分で働いて得た収入で余暇や貯蓄などを楽しむことがで きなければ、日々、何のために働いているのか、目的を 見失い、就労意欲が低下してしまうことが懸念される。 雇用主が支援者に求めることは障害者の意向に沿ってど のようなアプローチをしてきたのか、あるいは、どのよ うな環境があれば能力を発揮できるのか、そうした支援 に関する経過が記述された個別支援計画を指している。 沖倉(2005)が示唆しているように、個別支援計画の作 成については将来の夢や希望等を聞き取るだけでなく、 ひとりでも集中できる得意なことや、助けがあれば継続 して取り組める条件についてアセスメントし、就労の目 的を明確に意識づけていくことは重要である。 これらのことをふまえ、就労移行支援事業所では本人 中心計画作成会議が開かれた。ここで留意すべき点は当 該個人が達成感を得て、行動の選択肢が拡大するために 必要な条件が本人中心の個別支援計画に具体的に記述さ れていることである。ジョブコーチが本人中心の個別支 援計画に基づき職場の環境整備を実施した結果、Aは作 業のやり残しもなくなり、完了報告と作業結果が一致す るようになった。そして以前よりも仕事に前向きにな り、雇用主をはじめ周囲からも認められる存在へと成長 していった。ここで重要なことは、どのような条件があ ればできるようになったのか、そうした情報を関係者が 共有し、その情報を基に一貫した環境整備が図られたこ とである。 2 .株式会社Tの職場定着支援のプロセス 雇用前実習開始から正規雇用までの職場定着支援につ いてまとめると次のようになる。 就労支援機関との間で業務契約が交わされた。このこ とにより業務の一部が就労支援機関に委託された結果、 継続的な雇用前実習が可能となり、株式会社Tの担当社 員はジョブコーチと協働してAの特性に応じた環境整備 を行った。これによりAは自身の能力が発揮できるよう になり、周囲からも評価が得られ、褒められる機会が増 えていった。 次に株式会社TのメリットとAのメリットを勘案し、

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担当社員をAのキーパーソンに位置づけた。このことに より、ジョブコーチは担当社員に対し、Aに関する配慮 事項を口頭で伝達するのではなく、本人の得意や強みを 生かせるよう本人中心の個別支援計画を立案し、Aの意 向に沿った環境整備が行われた。さらに担当社員だけで 解決できない課題に対しジョブコーチを交えて話し合い の場が設けられ、ジョブコーチと協働して問題解決に取 り組む体制が見られるようになった。こうした有機的な 連携の結果、他の社員からも職場の環境整備に向けた改 善点や工夫、言語以外のコミュニケーション手段として コミュニケーション・ボードの使用が見られるように なった。 3 .職場定着に必要な環境整備の条件 職場定着をスムーズに進めるための環境整備の条件と して、①就労支援機関との継続的連携、②本人中心の個 別支援計画の共有と更新、③職場定着支援に関する情報 移行の 3 つが考えられる。 ①就労支援機関との継続的連携よりAの職業適性や能 力の把握だけでなく、コミュニケーションや対人関係に ついても評価することができるようになった。また自発 的な作業を促すための作業チェック表とトークンエコノ ミー法の導入により、障害特性に配慮した環境整備を実 施することができた。 本事例に限らず自閉症を伴う知的障害者が変化の多い 環境で仕事をする上で、手がかりを得て、自分の行動に 活かしていくためには、本人の特性に応じた合理的配慮 が前提となる。雇用主にとって支援機関との連携は、担 当社員の障害者理解を促進させただけでなく、職場定着 を阻害するバリアを無くすきっかけを作ったと考えら れる。 ②職場定着支援で重要なことは援助付きでも作業遂行 が可能になり、「働きがい」のある環境を維持することで ある。そのためには、本人中心の個別支援計画を関係者 が情報共有しその情報が伝達される中で消失したり、不 明瞭にならないよう、働く目的や将来の意向、その他の 事柄について変更があれば更新することが必要となる。 本事例ではAが環境適応したことで、担当社員は「ひ とりでもできることはAにもひとりでやってもらってい ます」「障害による配慮はしますが、特別扱いはしてい ません」と、これまでの保護的な接し方から同僚として の関わりへと変化していった。この意識の変化は、担当 社員がAと接する中で、障害があっても本人中心の個別 支援計画に基づいて環境調整することで、自立的な行動 が形成されるという自信に繋がったからだと考える。こ れまでAと距離をおいていた他の社員たちも「最初は、 どのように声をかければよいのかわからなかったが、今 ではどう接すればよいのか、少しわかるようになった」 と、徐々にAを理解しようとする意識が芽生えだした。 直接関わっていくことでこれまでの障害者観が変容した と考える。こうした他の社員の意識の変化はAを必要な 人材として認めた証しであり、会社の意向として障害者 雇用を積極的に実施していこうとする組織的関与の進展 と考えられる。 ③本人中心の個別支援計画に関する情報移行では、A の行動の原因を障害に帰属させるのではなく、行動の機 能を分析し、問題とされる行動が減少するためのアプ ローチとして作業チェック表を導入した。その結果、完 了報告と作業評価の一致が見られるようになり、同僚と の適切な関わりが増えていった。その後、ジョブコーチ によりAが働き続けるために必要な条件が本人中心の個 別支援計画にしたためられ、担当社員から他の社員に引 き継がれていく過程でナチュラルサポートが形成された と考える。 これまでの事例を振り返ると、自閉症を伴う知的障害 者の職場定着において、本人中心計画の観点からアセス メントを行い、本人中心の個別支援計画に基づいて職場 の環境整備を図っていくことが重要だということが分 かった。つまり株式会社Tが支援機関と継続的に連携す ることにより、ジョブコーチから担当社員に本人中心の 個別支援計画が引き継がれた。そのことにより、雇用主 や担当社員の障害者雇用に対する意識が保護的な対応か ら積極的な関与へと変化していった。そのことは本事例 の最も大きな成果だと考えられる。 したがって職場定着に向けた環境整備に必要なことは 当該個人に適した雇用環境の一義的な創出ではなく、そ れを恒常的に維持するために雇用後も関係者が継続的に 本人中心の個別支援計画の内容を確認し、必要に応じて 加筆・修正を行い、最新情報に基づく支援を実施する仕 組みを職場に作っていくこである。 謝 辞 本研究の執筆にあたり、ご協力いただいた関係者の皆 様には篤く御礼申し上げます。

引用文献

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2 )Holburn, S. and Vietze, P. M. : Person-centered planning: Research, practice, and future directions. Paul H.Brookes, Baltimore, Maryland. (2002) 3 )Holburn,S. : “A renaissance in residential behavior

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4 )古井克憲:重度知的障害者が求める地域生活支援の 視点とは:パーソン・センタード・プラニングにおけ るアセスメントの質的分析から.社会福祉学,49 (4),65-78.(2009)

(8)

5 )西口宏美・斉藤むら子・尾関守:障害者の職場定着 問題に関する研究(1)― 障害をもつ従業員の職場定 着を妨げる要因について.人間工学,29(4),231-238. (1993)

6 )O’Brien, J and O’Brien, C.L. : “The origins of Person-CenteredPlanning, A Community of Practice Perspective.” In. Holburn. S and P. M. Vietze (eds.), Person-Centered Planning.: Research, Practice, and Future Directions. Paul H.Brookes, Baltimore, Maryland, 1-27. (2002) 7 )小川浩:重度障害者の就労支援のためのジョブコー チ入門.東京:エンパワメント研究所,49-66.(2001) 8 )沖倉智美:当事者中心アプローチと記録:障害者福 祉施設における個別支援計画作成を通して考える. ソーシャルワーク研究,31(3),20-27.(2005) 9 )園山繁樹:激しい行動障害を示す発達障害者の人の 最適生活設計 ― 応用行動分析学的アプローチと本 人中心計画作成を通して.福祉心理学研究,1, 43-52.(2004) 10)若林功:応用行動分析学は発達障害者の就労支援に どのように貢献している?:米国文献を中心とした 概観.行動分析学研究,23,5-32.(2009)

参照

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