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大豆種子の品質に関する分子遺伝学的研究

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Academic year: 2021

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Nippon Shokuhin Kagaku Kogaku Kaishi, 68(5),219-224, 2021 Copyright© 2021, Japanese Society for Food Science and Technology

doi : 10.3136/nskkk.68.219 https://jsfst.smoosy.atlas.jp シリーズ─研究小集会(第 46 回)大豆部会

解 説

大豆種子の品質に関する分子遺伝学的研究

山 田 哲 也

北海道大学大学院農学研究院

Molecular Genetic Study of Soybean Seed Quality

Tetsuya Yamada

Graduate School of Agriculture, Hokkaido University, Kita9, Hishi9, Kita-ku, Sapporo, Hokkaido 060-8589

Soybean seeds contain high-quality proteins that are used as a source of food, and also abundant lipids that are used as a vegetable oil. Many functional ingredients are also included in soybean seeds. We have identified qualitative and/or quantitative genetic variations in several components, such as protein, α-tocopherol, chlorophyll, and isoflavone, among soybean genetic resources. These genetic variations are available to improve the processing properties and to add some values for soy foods. We also demonstrated that a high and low temperature during seed filling enhanced the biosynthetic pathways of α-tocopherol and isoflavone, respectively. These suggest that it is possible to increase the amounts of functional components, such as α-tocopherol and isoflavones, by improving the cultivation environment of soybean in addition to the development of new soybean varieties by using genetic variations. The successful use of genetic variations and physiological properties related to soybean quality will not only enable differentiation from conventional soy products, but also create new uses for soybean.

(Accepted Sep. 15, 2020)

Keywords : soybean, protein, α-tocopherol, chlorophyll, isoflavone

キーワード : 大豆,タンパク質,α-トコフェロール,クロロフィル,イソフラボン 大豆は,古くから私たちに馴染みのある食材の一つであ る.大豆は中国を起源として 3 000 年以上にわたって栽培 の歴史を持つと考えられている.また,日本を含む東アジ アには大豆の祖先野生種となるツルマメが自生している. そのため,我が国を含め近隣の諸国には大豆の遺伝資源が 豊富に存在する.これらの遺伝資源は新品種を育成するた めの素材として今も利用され続けている.これらの遺伝資 源の中にある品質に関する変異は加工特性や生理機能性の 改良に利用できる.我々はこれまで品質に関わる様々な遺 伝変異を見出してきた.本論では,これら一連の研究事例 としてタンパク質,トコフェロール(Toc),クロロフィル (Chl)およびイソフラボンに関する研究成果について紹介 する. 1. 大豆タンパク質の量的および質的変異について 一般的に大豆の祖先野生種であるツルマメは大豆に比 べ,高タンパク質,低脂質の特徴を持っていることが知ら れている.本研究において北海道の日高地方で採種された ツルマメのタンパク質および脂質含量を解析したところ, それぞれ 54 % と 10 % であった(図 1).一方,北海道の大 豆系統の一つにおけるタンパク質および脂質含量はそれぞ れ 38 % と 21 % であった(図 1).さらに,このツルマメと 大豆系統の交雑に由来する分離集団におけるタンパク質含 量は両親間に分布した(図 1).また,分離系統においてタ ンパク質含量と脂質含量の間に高い負の相関関係(r= −0.79)を認めた(図 1).加えて,これらの成分はいくつ もの遺伝子の効果が積み重なって含量が制御されているこ とも分かってきた.これらのことから,ツルマメから大豆 が成立するまでの栽培化過程において,多収形質等の農業 形質を中心に選抜と栽培が繰り返されてきた結果,現在の タンパク質含量に達したことが考えられた.言い換える と,脂質含量や農業形質の一部を犠牲にすることでこれま でにない高タンパク質な大豆を育成することも可能になる ことを示唆している.従来のものより高いタンパク質含量 を有する大豆の育成は新しい大豆の利用形態を生み出し, 大豆製品の市場拡大が期待できる. 大豆の主な貯蔵タンパク質は,7S グロブリンならびに 11S グロブリンから成る.これらのタンパク質は全タンパ 〒060-8589 北海道札幌市北区北 9 条西 9 連絡先(Corresponding author),[email protected]

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ク質の 50 % 以上を占めている1).タンパク質の質的改良は 大豆タンパク質の加工特性に大きく影響を及ぼす.本研究 において人工マイクロ RNA(amiRNA)を介して人為的に 7S グロブリンの 3 つのサブユニット(α,αおよび β)遺伝 子を全て発現抑制したところ,7S グロブリンのタンパク 質は著しく減少するものの相補的に 11S グロブリンのサ ブユニットタンパク質の増加が認められた(図 2A).さら に,タンパク質の定量解析を行ったところ,amiRNA 大豆 におけるタンパク質含量は野生型と比べ大きな変化は認め られなかった(図 2B).このことから,大豆種子には遺伝 的にタンパク質含量を一定に保つ機構が存在することが考 えられた2).大豆タンパク質の質的な改変は,タンパク質の 図 2 7S グロブリンタンパク質に関する amiRNA 大豆の SDS-PAGE(A)とタンパク質含量(B)2) AmiR-1∼AmiR-3 はいずれも 3 つのサブユニットをコードする遺伝子を全て発現抑制した個体を示す. 野生型は amiRNA を行う前の大豆品種を示す. 図 1 ツルマメと大豆およびそれらの交雑に由来する系統のタンパク質と脂質含量 白丸と黒丸はそれぞれツルマメと大豆の値を示す.

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ゲル化特性に大きな影響を与えるため加工特性が大きく変 わることが期待される.上述の研究成果はタンパク質含量 を一定に保ちながら新たな加工特性を有する大豆品種の育 成が可能であることを示唆している. 2. α-Toc 含量の変異について Toc には α-,β-,γ- と δ- の 4 種の同族体が存在する.人 の体内ではビタミン E 特異的輸送タンパク質との親和性 から α-Toc が最も高いビタミン E 活性を示すことが知ら れている3).Toc は脂溶性成分であることから,種子に貯蔵 脂質を多く含む大豆では代表的な機能性成分の一つである といえる.大豆に含まれる α-Toc の含量は一般的に全 Toc 含量の数 % 程度である.しかしながら,大豆遺伝資源の 中には α-Toc の含量が 20 % 以上に達するものが存在する (図 3)4).この変異体と通常の大豆を交雑した後代の遺伝解 析から,高 α-Toc の含量をもたらす原因遺伝子を特定した ところ γ-Toc メチルトランスフェラーゼ(E.C.2.1.1.95)ア イソザイムの一つ(γ-TMT3)の遺伝子の発現量が高 α-Toc 変異体では一般的な大豆よりも高くなっていることが 明らかになった5).この酵素は γ-Toc から α-Toc を生合成 する反応を触媒する.つまり,この変異体では α-Toc の生 合成が通常の大豆に比べ活性化されていることが示唆され た.また,高 α-Toc 含量形質を持つ変異体がツルマメの遺 伝資源内にも存在した6).それらのツルマメを大豆と交雑 し分離集団を用いて遺伝解析を行ったところいくつかの領 域に α-Toc 含量に関係する量的形質遺伝子座(QTLs)を 検出した7).これらの QTLs と先述の γ-TMT3 遺伝子の変 異を組み合わせることでより α-Toc 含量を高めることが 期待できる.さらに,α-Toc 含量は種子が登熟する期間の 温度に大きく影響を受けることも明らかになっている.人 工気象器を用い登熟時の温度を 3 段階に分け α-Toc 含量 との関係性を精査したところ,供試したいくつかの品種に おいて高温区(35 ℃)で α-Toc 含量が標準区(25 ℃)に比 べ高くなることが明らかになった(図 4)8).一方,登熟時の 温度と α-Toc 含量の増加量には品種間差異が存在し,標準 区に対し高温区で α-Toc 含量が 1.5 倍から 5 倍程度にまで 変化する品種が存在した(図 4)8).これらのことから,高ビ タミン E 大豆の作出は遺伝的な改良に加え,栽培環境の側 面からもアプローチが可能であることが分かる.高ビタミ ン E 大豆はこれまでに加工利用されている豆腐,納豆およ び大豆油の機能性を強化することに繋がり,従来の製品と 差別化をはかることが期待できる. 3. Chl 含量の変異について 大豆の遺伝資源の中には完熟した種子において種皮や子 葉に Chl を蓄積するいわゆる青大豆と呼ばれるものが存在 する.特に,在来種の中に多数存在することから古くから 青大豆はその色味や風味を生かして活用されてきたことが 分かる.青大豆は Chl 分解が抑制される stay-green 変異 体に属する.大豆における stay-green 変異体には二つの種 類が存在する.一つは,核ゲノムに存在する二つの SGR 遺 伝子の変異(d1 および d2)に由来する核型 stay-green 変 異体である9).もう一つは,葉緑体ゲノムに存在する PsbM 遺伝子の変異(cytG)に由来する細胞質型 stay-green 変異 体である10).いずれも完熟種子において種皮や子葉に Chl を蓄積するため,その色味を活かして豆腐や豆乳などに加 シリーズ─研究小集会(第 46 回)大豆部会 山田:大豆の品質に関する遺伝変異 221 ( 25 ) 図 3 大豆遺伝資源内に存在する高 α-Toc 大豆品種4)

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工されて利用されることが多い.また,エダマメ風味を有 する大豆として利用されることもある.図 5 に示すよう核 型 stay-green 変異体と細胞質型 stay-green 変異体の間で は Chla と Chlb の存在比が大きく異なる.また,一般的に 核型 stay-green 変異体の方が総 Chl 含量は高い傾向にあ る.高 Chl 含量大豆を育成するためには核型 stay-green 変異を利用することが望ましいと考えるが,国内における 在来種のほとんどが細胞質型 stay-green 変異を有してい る.そのため,国内在来種と核型 stay-green 変異を組み合 わせることでより高い Chl 含量を持つ大豆を育成できる可 能性がある.高い Chl 含量は単に色味を強調することに加 え機能性の強化も期待できる.一般的に stay-green 変異 図 4 登熟時に異なる温度で養成した大豆の α-Toc 含量8) 異なるアルファベットは品種内において α-Toc 含量に有意差があることを示す. 図 5 青大豆品種・系統における Chla と Chlb 含量

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体では Chl に加え,キサントフィル類の化合物を蓄積する ことが知られている.大豆においてはルテインの蓄積が認 められている.ルテインは眼病予防効果を持つ機能性成分 として認識されており,ツルマメ遺伝資源においてその含 量が多い変異体が同定されている11).大豆 stay-green 変異 体のルテイン含量はこのツルマメ遺伝資源に認められる高 ルテイン含量よりも高くなる傾向にある.さらに,本研究 では Chl 含量とルテイン含量との間に極めて高い相関関係 (r=0.94)を認めている.これらのことから,Chl 含量の高 い大豆の育成は色味の特色を強調することに加え,機能性 の強化にも繋がることが分かる. 4. イソフラボン含量の変異について イソフラボンは,大豆の中の代表的な機能性成分の一つ として良く知られている.また,イソフラボンは栽培条件 によってその含量が大きく左右されることも報告されてい る12).本研究において人工気象器を用い登熟時の温度を 3 段階に分けいくつかの大豆品種を養成してみたところ,ほ とんどの品種において低温区(15 ℃)から採種した種子の イソフラボン含量が他の処理区に比べ高くなる傾向が認め られた(図 6).しなしながら,低温に対する反応性は品種 によって異なり,標準区(25 ℃)に比べ 3 倍程度イソフラ ボン含量が増加する品種が存在する一方,低温区と標準区 の間でイソフラボン含量にほとんど変化が生じない品種も 存在した(図 6).低温においてイソフラボンが増加する原 因は低温に応答してイソフラボンを含むフラボノイドの生 合成経路が活性化されることが予想された.実際,本研究 においてフラボノイド生合成経路を制御する MYB 転写因 子遺伝子を過剰発現した大豆においてイソフラボンやフラ ボノールが増大することを確認している13).これらのこと からも,大豆を生産する地域に応じてイソフラボンの含量 をある程度制御できることが本研究から明らかになった. また,先述の α-Toc は生合成経路の活性化に登熟時の高温 が寄与していることが明らかになっている.このことは, 遺伝的変異に加え栽培条件を考慮することで α-Toc やイ ソフラボンといった機能性成分を増大させることが可能で あり,栽培地域に応じた大豆成分の特色を活かした利用が 期待される. 大豆は人の健康,長寿を支える重要な食材として国内外 から注目を浴びている.これまでの伝統的な利用方法に加 え,植物由来のタンパク質素材としての新たな利用も盛ん に進められている.このような大豆の多様な利用に対して 高機能性大豆の遺伝的改良が大豆製品に付加価値与えるだ けでなく,さらに新たな用途を生み出す原動力となり,人々 の食生活を支える基盤になることを期待する.

1) Samoto, M., Maebuchi, M., Miyazaki, C., Kugitani, H., Kohno, M., Hirotsuka, M., and Kito, M. (2007). Abundant proteins associated with lecithin in soy protein isolate. Food Chem-istry, 102, 317‒322.

2) Yamada, T., Mori, Y., Yasue, K., Maruyama, N., Kitamura, K., and Abe, J. (2014). Knock-down of the 7S globulin subunits shifts distribution of nitrogen sources to the residual protein fraction in transgenic soybean seeds. Plant Cell Rep., 33, 1963‒1976.

3) Bramley, P.M., Elmadfa, I., Kafatos, A., Kelly, F.J., Manios, Y., Roxborough, H.E., Schuch, W., Sheehy, P.J.A., and Wagner, K. -H. (2000). Vitamin E - review. J. Sci. Food Agric., 80, 913‒938.

4) Ujiie, A., Yamada, T., Fujimoto, K., Endo, Y., and Kitamura, K. (2005). Identification of soybean varieties with high levels of α-tocopherol content. Breeding Science, 55, 123‒125. 5) Dwiyanti, M.S., Yamada, T., Sato, M., Abe, J., and Kitamura,

K. (2011). Genetic variation of γ -tocopherol methyltrans-ferase gene contributes to elevated α-tocopherol content in

シリーズ─研究小集会(第 46 回)大豆部会 山田:大豆の品質に関する遺伝変異 223

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図 6 登熟時に異なる温度で養成した大豆のイソフラボン含量

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the ancient whole-genome duplications in soybean. Plant Cell and Physiol., 55, 1763‒1771.

10) Kohzuma, K., Sato, Y., Ito, H., Okuzaki, A., Watanabe, M.,

the biosynthetic pathway for molecular breeding of soybean flavonoids. Soy Protein Res., 13, 37‒42.

図 6 登熟時に異なる温度で養成した大豆のイソフラボン含量

参照

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