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草津白根山・四阿山における高山気象の推定とボラ局地風の特性 -2015年10月25~26日の事例-

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草津白根山・四阿山における高山気象の推定と

ボラ局地風の特性

- 2015 年 10 月 25 ~ 26 日の事例-

真木太一

九州大学名誉教授 〒819-0395 福岡市西区元岡744 北海道大学大学院農学研究院研究員 〒060-8589 札幌市北区北9条西9丁目

Estimation of high mountain weather and characteristics of local wind bora at Mounts Kusatsu-Shirane and

Azumaya on 25-26 October, 2015

Taichi MAKI

Prof. Emeritus of Kyushu University, 744 Motooka, Nishi-ku, Fukuoka 819-0395, Japan.

Research Faculty of Agriculture, Hokkaido University, Kita 9 Nishi 9, Kita-ku, Sapporo 060-8589, Japan.

Abstract

 The weather and climate of two mountains were estimated using the AMeDAS, aerological data, etc. A cold front passed over on the Sea of Japan on October 24, 2015, bringing fog with severe wind and soft rime on trees to Mount Kusatsu-Shirane (Mt. K) at 2171 m on October 25 and fine soft rime with strong winds to Mount Azumaya (Mt. A) at 2354 m on October 26. The minimum and maximum air temperatures were estimated to be -5.1°C and 1.9°C, respectively,

on Mt. K on October 25 and -4.7°C and 8.3°C on Mt. A on October 26. The minimum relative humidity was estimated to be 18% at both locations, and was observed to be 3% on Mt. Fuji on October 25 and 26. The maximum wind speed and maximum instantaneous wind speed were estimated to be 16.5 m/s and 35.2 m/s, respectively, with northern winds on Mt. K on October 25, and 10.1 m/s and 21.9 m/s with north-western winds at Mt. A on October 26. On October 25 and 26, it was estimated that the airstream from the Sea of Japan converged at the Mikuni Mountains and that the wind primarily descended from mountain passes on the east side of the Mikuni Mountains, arriving as an isthmus wind in the Minakami-Numata valley, then passed through Maebashi to the Kanto Plains, arriving as a local wind Karrakaze. A higher-speed wind with the opposite south direction blew at Minakami, and a high-speed wind of the original north direction passed over the Mikuni Mountains. The air temperature of the wide stream from the Sea of Japan decreased with elevation at the Mikuni Mountains and, after the airstream passed over the mountains, it blew into the Kanto Plains as a typical bora wind with low air temperature.

 This paper introduces a simple estimation procedure based on an analysis of the alpine weather and climate at Mounts Kusatsu-Shirane and Azumaya.

 Key words: Alpine weather, Beaufort Wind Scale, Local wind bora, Mikuni Mountains, Soft rime  キーワード:高山気象,ビューフォート風力階級,ボラ局地風,三国山脈,樹氷・霧氷

 2020 年 4 月 23 日 受付,2021 年 1 月 12 日 受理  †Corresponding author: makitm@kra.biglobe.ne.jp  DOI: 10.2480/cib.J-21-061

















1.はじめに

日本(北・中央・南)アルプスの山岳では高標高のため, 強風・高低温・豪雨・乾燥等の厳しい気象が頻繁に発生す る。森林限界以上の高地・山岳では大雨が降り暴風が吹く 一方,岩石地では急激に乾燥し,砂漠のような環境も発生 する。このような山岳,特に複雑地形内においては数値予 報では評価できない局地的な強風や風向の激変,盆地での 低温,大雨や乾燥が発生することがあり,天候の予測が難 しいため時に遭難の危険に遭遇することがある。 高山のみに雲が掛かる場合,逆に高山が晴天で下層に雲 海の雲が掛かる場合は,天気予報が当たらない場合が多い。 著者は日本百名山(深田久弥選定)・日本百高山(国土地 理院認定の標高順)を単独踏破した(真木,2019a)。 本研究では,百名山の草津白根山(本白根山)と四あずまやさん阿山 で経験した,暴風を伴う高山気象の発生要因について,気 圧配置や地形等に基づいて検討する。さらには,高山気象 の成因を理解する上で,日本海から関東平野に至る広域の 気象現象の把握が不可欠と考え,広域複数地点の風向・風 速,気温・相対湿度の経時変化を基に低温・暴風現象の気 象・気候学的な解析を試みた。これらの解析により山岳や 高山林地・高原の局地気象の推測が可能となり,高山気象 の予測精度が高くなることを期待している。

2.研究対象地

2015 年 10 月 25 ~ 26 日に草津白根山(2171 m)・四阿 山(2354 m)を登山した(真木,2019a)。草津白根山は群

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馬県西部の草津町に,四阿山は草津白根山の南西で群馬県 (嬬恋村)と長野県(須坂市・上田市)の県境にある(図 1)。 2015 年 10 月 25 日つくば-渋川伊香保-草津白根-志賀 草津道路で白根火山(2012 m)近くに車で行ったが,火山 ガスのため駐車・下車禁止で草津白根山に登れず,白根火 山ロープウェイは 26 m/s(草津観光公社発表風速)の強風 で運行停止となった。徒歩で登ろうとしたがロープウェイ 橋桁下で 40 m/s に近い猛烈な突風を受け登山を断念した。 なお,白根山(2160 m)直下では見事な樹氷が発生してい た(図 2)。 10 月 26 日草津-四阿山登山口・菅平牧場(1591 m)か ら登った(図 3)。草津は無風だったがやがて寒乾風の強 風になった。小四阿(1917 m)-中四阿(2106 m)-四阿山・ 根子岳分岐では積雪 10 cm,四阿山(2354 m)では強風で 樹氷があった(図 2)。帰路はシラビソ・ダケカンバの樹 林帯,笹原,シラビソ林を通り大スキマ-根子岳(2207 m) で,北アルプスの白馬岳・穂高岳連山を一望した。快晴の 下,低温強風で非常に乾燥していた。 草津白根山・四阿山では気象データが得られず,また低 平地の気象データからの気象推定は難しいことが多いが, 2 日間の風速,気温,湿度,積雪(樹氷)等をアメダス・ 高層気象データ等より推測した。

3.解析方法

気 象 庁 の 天 気 図 で 天 気 概 況 を 把 握 し た。 長 野・ 群 馬・新潟・栃木・山梨・静岡県のアメダスデータ(風 向・ 風 速・ 気 温・ 相 対 湿 度 ), 高 山 で は 公 表 さ れ て い る 富 士 山 と 北 ア ル プ ス の 南 岳 小 屋 の 気 象 デ ー タ (https://www.yarigatake.co.jp/minamidake/)および気象庁の 輪島・潮岬・館野の高層気象(風向・風速・気温・相対湿 度)を利用して高山・山岳の風向・風速・気温・相対湿度 および局地風・樹氷特性を推定・考察した。なお,主に利 用した長野・群馬県内のアメダス観測地点を図 4 に示す。 高山の気温はアメダス観測点の気温の直線回帰の傾きか ら推定した。風速については同地点の風速(V)と標高(H) を用いて,V2/V1=(H2/H1)nより推定した(吉野,1986;真 木,2019b)。なお,ここで観測地点間の設置高度や周辺環 境の違いは考慮しなかった。 登山地域の地図(図 1,図 3)を用い,地形や植生の変 化等を考慮して風向・風速(ビューフォート風力階級)を 推測し,草津白根山(2171 m)と四阿山(2354 m)の相 当高度での気象解析・評価の参考とした。 図 1.草津白根山(2171 m),四阿山(2354 m)を中心とする地図(谷川岳を通る白線は三国山脈) 図 2.草津白根山(左 1 枚)と四阿山(右 3 枚)の樹氷

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4.高山気象の解析結果と考察

4.1 2015 年 10 月 24 ~ 26 日の天気概況 気象庁の地上天気図(図 5)によると,10 月 24 日 9 時 に前線を伴った 1000 hPa の低気圧が南下してロシア極東 に達している。日本付近は帯状の高気圧に覆われ,太平洋 上には 25 号台風が東に進んでいる。25 日 9 時にロシア沿 海州の低気圧は千島付近で 972 hPa に急発達する一方,西 の中国ハルピン付近の 1034 hPa の高気圧とで西高東低の 気圧配置になり,高気圧の張り出しは朝鮮半島から西・東 日本に及んでいる。26 日 9 時には日本海上に中心を持つ 1026 hPa の移動性高気圧が日本付近を広く覆っている。千 図 4.新潟・栃木・群馬・長野・埼玉県内の主要アメダス・高層気象観測点と主要山岳 図 3.四阿山の登山コースを示す等高線地図

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島の低気圧は 956 hPa に猛烈に発達している。よって 25 ~ 26 日は西日本~東日本は広い範囲で高気圧に覆われ晴 天となった。26 日には北からの寒冷高気圧の張り出しで 低温と乾燥気流を送り込み,北海道・白糠で- 6.4℃(10 月の日最低気温で観測史上 1 位),長野・野辺山(1350 m) で-6.3℃(10 位)を記録した。なお,700 hPa(高度 2800 ~ 3000 m)の高層天気図の高・低気圧は地上天気図とほ ぼ同じ位置にあった(図 6)。 4.2 草津白根山直近のアメダス草津の気温と風速の日変化 草津白根山(2171 m)東方のアメダス草津(1223 m)(図4) の風速と気温の 10 月 25 日・26 日の日変化を図 7 に示す。 25 日の最大風速は 8.8 m/s,最大瞬間風速は 19.2 m/s であっ た。この強風により白根火山ロープウェイが運休した。一 方 26 日の最大風速は 2.3 m/s,最大瞬間風速は 5.0 m/s で 小さかった。 10 月 25 日 6 時には 2.2℃の低温であったが,最低気温 の 0.4℃は夜 24 時に記録した。最高気温は 7.2℃であり, 北風の影響で終日低温であった。山地では霧が出て,草津 でも低温の曇天であった。一方 26 日は早朝に-0.3℃の低 温を記録したが,日中は晴天で南風が入り気温が上昇して 最高気温が 14.6℃になり,日較差が大きかった。 次に 10 月 25 日に三国山脈(図 1)を越えて強風となっ たアメダスみなかみ・沼田の風速と気温の日変化を図 8 に 示す。気温変化は両地点で類似しているが,標高の高いみ なかみが 2 ~ 3℃低かった。風速は風下の沼田の方が先行 して 8 時頃に強風化し,みなかみは 12 時以降の強風であっ た。みなかみでは日最大瞬間風速は南風の逆風 24.1 m/s に 対して沼田では北風の 20.1 m/s であった。これは谷川岳直 下での逆風の南風と関連する。これらの地域の強風と標高 との関連は 4.7 節で考察する。 4.3 草津白根山・四阿山の標高と気温との関係 10 月 25 日の草津白根山付近のアメダス地点に高山の南 岳(2970 m)を加えた標高(x:m)と最低気温(y:℃) との関係(図 9)は,y = -0.0061 x + 8.1785,R² = 0.7989 で あり,草津白根山(2171 m)の最低気温は-5.06℃と推定 された。標高と最高気温の関係は,y = -0.0073 x + 17.698, R² = 0.7697 で,同山の最高気温は 1.85℃と推定され,日中 でも低温であり山地には残雪があった。 10 月 26 日の四阿山付近のアメダス地点に南岳を加えた 標高と最低気温の関係(図 9)は,y = -0.0042 x + 5.1504, R² = 0.5149 であり,四阿山では-4.74℃と推定された。標 高と最高気温の関係は,y = -0.0044 x + 18.683,R² = 0.655 であり,四阿山では 8.33℃と推定された。 4.4 草津白根山・四阿山の標高と相対湿度との関係 アメダスの相対湿度の観測点は非常に少ないため,範囲 を拡げて点数を増やしたが,下層域では相対湿度と標高の 間にはほとんど相関が認められなかった。そこで,現地に 近い 600 m 以上の高地に位置する長野県の松本(610.0 m), 軽 井 沢(999.1 m), 諏 訪(760.1 m), 栃 木 県 の 奥 日 光 (1291.9 m)および山梨県の富士山(3775.1 m)の 5 地点 について調べたところ,10 月 25・26 日の標高と日平均相 対湿度の関係,および標高と日最小相対湿度の関係は図 10 の通りであった。 なお,富士山は両日とも日平均・日最小相対湿度がそれ ぞれ 12%,3%(実測値)であった。富士山と 1000 m 付近 のデータを基に,高度による相対湿度の低下がおおむね 線形となることを仮定すると(図 10),草津白根山・四阿 山両山の日平均相対湿度と日最小相対湿度は,それぞれ 37%,18% 程度であると推測された。 4.5 草津白根山・四阿山の標高と風向・風速との関係 ① 10 月 25 ~ 26 日の草津白根山と四阿山の風向 図 5.2015 年 10 月 24 ~ 26 日の地上天気図(気象庁) 図 6.2015 年 10 月 25 日の 700hPa の高層天気図(気象庁)

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25 日の草津白根山周辺のアメダス観測点では,北寄り (北北西~北東)が主風向であるが,長野県の長野は東, 軽井沢は南西,群馬県のみなかみは南,田代は西南西,神 流は南南西など地形の影響で南寄り風が観測された地点も 存在した。26 日の四阿山は晴天で,周辺では北西~南西 の風向が多く観測されたが,例えば長野・神流の東北東, 㻜 㻞 㻠 㻢 㻤 㻝㻜 㻝㻞 㻝㻠 㻝㻢 㻜 㻢 㻝㻞 㻝㻤 㻞㻠 㻟㻜 㻟㻢 㻠㻞 㻠㻤 Ẽ  㻔䉝 㻕䞉 㢼㏿㻔 㼙㻛 㼟㻕 ᫬้㻔᫬㻕 Ẽ  㢼㏿ 㻢 㻝㻞 㻝㻤 㻞㻠 図 7.2015 年 10 月 25 ~ 26 日のアメダス草津の気温と風速の日変化 図 8.2015 年 10 月 25 日のアメダスみなかみ・沼田の気温と風速の日変化 図 9.2015 年 10 月 25 日の草津白根山,26 日の四阿山付近のアメダスの標高と最低・最高気温との関係

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上田の東南東,みなかみの南,沼田の北など,一部に地形 の影響による東寄りの逆風向も観測された。 なお,25 日の草津白根山,26 日の四阿山に対して,直 近のアメダス草津では 25 日の北北西に対して 26 日には南 南西で逆向きとなった。三国山脈を吹き下ろす直近 2 ヶ所 において,25・26 日のみなかみは南,沼田は北北西・北 で 2 日間ともほぼ逆方向を示す特徴があった。そして前橋 では 25 日は北北西~西北西の北西寄り,26 日は北西~南 西の西寄りであった。従って,みなかみ・沼田の風速や前 橋の風向・風速・気温・湿度から判断して低温・強風の特 徴は 25 日がより顕著であった。 な お,群馬県内の風向の逆転と風速の強弱が 20 ~ 30 km 間隔で発生するハイドロリックジャンプ(跳ね水) 現象はYabuki and Suzuki(1967),Yoshino(1975),吉野(1986) の局地風モデルがあるが,ここでの気象特性に関する詳し い解析は割愛し,今後の検討に待ちたい。 ②風速の推定 10 月 25 日の草津白根山と 26 日の四阿山の標高と風速 の関係を調べた。風速は草津白根山周辺のアメダスの風速 であり,富士山の風速(アメダスは無観測)は,河口湖 上空 3000 m 高のウインドプロファイラーによる推定風速 (富士さんぽ:www.fujisanpo.com/data/weather_forecast.html) によると 28 m/s である。 10 月 25 日の標高と最大風速の間には,低標高の場合は ほとんど相関がなかった。富士山の 28 m/s を加えた関係 は図 11 の通りであり,有意な相関(r=0.74)が認められた。 富士山の最大風速 5 m/s が小さいために,26 日の四阿山 周辺のアメダスの標高と最大風速との相関(r=0.14)は低 かった。 ③べき乗法による風速の推定 草津白根山の高度における10月25日の風速の推定には, 低標高にも関わらず非常に風速の大きい地峡風が発生して いると考えられる風下 2 地点の,みなかみ(最大風速 10.8 m/s,最大瞬間風速 24.1 m/s,標高 531 m),沼田(9.8 m/s, 20.1 m/s,390 m)の結果を用いて V2/V1=(H2/H1)0.3のべき 乗式(V:風速(m/s),H:標高(m))を適用した(吉野, 1986;真木,2019b)。ここでは,べき乗法を導入する目的 であり,0.3 乗の数値については推測風速と大きい差異・ 図 10.2015 年 10 月 25 日の草津白根山,26 日の四阿山の標高と日平均・日最小相対湿 度との関係(奥日光(1291.9m)の 25・26 日の最小湿度は 34%) 図 11.10 月 25 日の草津白根山周辺アメダスの標高と最大風速・最大瞬間風速との関係

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矛盾がない経験値とした。みなかみのデータを使用した場 合の草津白根山の高度における最大風速と最大瞬間風速は それぞれ 16.48m/s,36.77m/s,沼田のデータを使用した場 合はそれぞれ 16.41m/s,33.65 m/s となり,両推定値に大 きな違いは見られなかった。両地点の推定値の平均はそれ ぞれ 16.45 m/s,35.21 m/s となり,植生の状態や体感風速 から推定したビューフォート風力階級 7(14 ~ 17 m/s)に 一致した。 四阿山の高度における 10 月 26 日の風速についても,み なかみと沼田の情報を基にべき乗式を用いて推定した。み なかみの情報を用いて推定した場合,最大風速は 7.63 m/s, 最大瞬間風速は 19.38 m/s であり,沼田の場合,それぞれ 12.56m/s,24.44 m/s となった。両推定値の平均は,それぞ れ 10.10 m/s,21.91 m/s となり,ビューフォート風力階級 5(8 ~ 11 m/s)に一致した。 4.6 降水量の分布 10 月 24 日の日降水量は長野県の長野 1.5 mm,松本・諏 訪・軽井沢 0.0 mm,新潟県の津南 7.5 mm,湯沢 23.5 mm, 群馬県の藤原 5.0 mm,みなかみ 7.5 mm,草津 2.0 mm で あり,草津白根山付近では降雪となり,25 日に積雪が残っ ていた。この雪は局地的降雪であった。なお,湯沢では 23.5 mm と相当の降雨(山地は降雪)となり,24 日夜は 強風を伴う荒天であった。 25 日は新潟県湯沢で 0.5 mm,群馬県みなかみで 2.5 mm の日降水量が小範囲で観測されており,これらの地域に近 い草津では 25 日には降水はなかったが,山地では濃霧が 掛かり,霧氷が発達していた。白根山(2360 m)直下の駐 車場(2050 m)では強風と霧で霧氷が成長し見事な樹氷(図 2)が発生していた。草津白根山も氷点下の霧で,樹氷の 発達が顕著であったと推測される。26 日の四阿山におい ても見事な樹氷(図 2)が見られ,24・25 日に付着したと 推測された。 4.7 局地気象的考察 10 月 25 日に草津白根山で遭遇した暴風の原因を明らか にするために周辺の風速分布を調べると,次のような興味 深い現象が解明された。 ①暴風の発生機構ついて,日本海側の新潟県柏崎付近か ら十日町(十日町盆地)付近を経た気流は,主に三国山 脈東側(越後山脈西端)(図 1)では越後駒ヶ岳(2003 m) や巻機山(1967 m)の越後山脈と三国山脈西側では苗場山 (2145 m)が障壁となり,湯沢付近で収束し,三国山脈の 切れ目の三国峠(1244 m)や清水峠(1448 m)あるいは谷 川岳(1977 m)付近の切れ目を越えて,群馬県側に地峡風 となって収斂した強風が吹き降りたと考えられる。そして 水上や沼田盆地を経て前橋・高崎・伊勢崎付近を通って, 関東平野に空っ風となって吹き込んだと考えられる。すな わち 10 月 25 日には,これらの関連地域の風向は北北西で 谷間に沿ったボラの地峡風となったと推測される。 24 日夜~ 26 日早朝は類似した日変化を示す天候で,強 風状況も類似し,尾根・山越えでボラの強風となったと考 えられる。25 日はアメダス草津・沼田・前橋の主風向は 北北西であり,一般的には冬季に吹く典型的な北西の季 節風による低温・乾燥のボラ型強風が,季節的に早い 10 月下旬に見られたと推測される。またアメダスみなかみ は地形的に三国山脈の谷川岳南側直下の谷間にあるため, 剝離流・吹き上げ風の南風となったと推測された。なお, 上述した通り,26 日に長野県のアメダス最高地の野辺山 (1350 m)の最低気温は-6.3℃であり,放射冷却の影響も 加わり 10 月の観測史上 10 位の低温であった。 ②一方,新潟県・高田平野から長野県・飯山市付近を 通った気流は,苗場山の西の三国山脈西側域で志賀高原南 方の草津白根山(2171 m)付近では,野反湖北部の白砂山 (2140 m)・大高山(2079 m)間の峠(1440 m)や横手山 (2305 m)の渋峠(2172 m),白根山(2160 m)-草津白根 山 (2171 m)の草津峠(1956 m),万座山(1994 m)の万 座峠(1830 m)の志賀草津道路付近を越えて北軽井沢・長 野原町方向に北北西風として吹き降り,浅間山(2560 m) と掃か も ん が だ け部ヶ岳(1449 m)・榛名山(榛名富士)(1391 m)間 から安中・富岡付近を通って関東平野に空っ風となって吹 き込んだため,ボラの強風が顕著になったと考えられる。 このボラについて考察するために一部繰り返すと,草 津白根山周辺では 25 日の主風向は北寄りであり,四阿山 周辺では 26 日は北西寄りであったが,両日とも一部の地 域で逆風が観測された。25 日の草津白根山直近のアメダ ス草津では 25 日の北北西に対して 26 日には南南西であっ た。四阿山直近の田代では 26 日には北西であった。三国 山脈を吹き越す直近 2 ヶ所のみなかみ・沼田では,ほぼ 逆風向を示す特徴があった。そしてみなかみは三国山脈 直下の南風の逆強風(25 日 24.1 m/s,26 日 12.7 m/s)に 対して,三国山脈を越えた沼田では主風向・北風の強風 (25 日 20.1 m/s,26 日 14.6 m/s)が顕著であった。なお , 栃木県側にも類似した強風域が発生し,25 日には奥日光 (27.6 m/s)-宇都宮(17.3 m/s)と那須高原(25.8 m/s)-大 田原(20.2 m/s)でも観測されている。 一方,日本海側の柏崎・長岡の最低気温の平均は 25 日 11.6℃,26 日 7.9℃に対して,より内陸の十日町・津南・ 湯沢で 25 日 7.2℃,26 日 6.3℃で低温化し,三国山脈西方 の草津白根山麓の標高の高い草津(1223 m)と四阿山麓の 田代(1230 m)の気温は 25 日 1.1℃,26 日-1.1℃の低温 であった。三国山脈を越えた南側のみなかみ・藤原で 25 日 6.9℃,26 日 4.1℃であり,その風下の沼田で 25 日 9.7℃, 26 日 6.9℃であった。関東平野北部の前橋・伊勢崎で 25 日 11.6℃,26 日 10.3℃,さらに南の熊谷・さいたまで 25 日 10.9℃,26 日 10.3℃となり,山越え気流の山地と山麓 域は低温であるとともに日本海側の気温と関東平野の気温 がほとんど変わらない。すなわち昇温しない低温のボラの 特徴を示していた。 以上,地峡風による強風化の特性が解明されたことや冬 季でない 10 月下旬に早々とボラが吹いたことを評価でき た意義は大きい。これらの現象解明は気候学的・局地気象 の評価に貴重な知見を提供していると考えられる。 下降気流の吹く地域の風特性を考慮して,10 月 25 日の みなかみ(標高 531 m),沼田(390 m),上里見(183 m), 前橋(112 m)の情報を用いて,ボラ地峡風の吹く地域の 最大瞬間風速(V:m/s)を標高(H:m)より推定する経 験式 V=3.5H0.3を導いた。ここで経験定数(3.5)は,みな

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かみ(3.67),沼田(3.36),上里見(3.93),前橋(3.06) の平均値とした。0.3 乗は特に強風が対象であり,そのた めの最適の経験的数値である。この式を用いて最大瞬間風 速を推定すると,それぞれ 23.0 m/s,21.0 m/s,16.7 m/s, 14.4 m/s と な り, 実 測 値( そ れ ぞ れ 24.1 m/s,20.1 m/s, 14.6 m/s,16.2 m/s)との違いは± 2.1 m/s の範囲内にあった。 4.8 高層気象(風向,風速,気温,相対湿度)と高度と の関係 輪島:輪島における 25 日 9 時の風向・風速・気温・ 図 12.10 月 25 日 9 時(上 2 図)・26 日 9 時(下 2 図)の輪島の高度と風向・風速・気温・相対湿度との関係

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相対湿度の鉛直分布を図 12 に示す。風向は地上の北 北 西(10 m)- 北 西(2000 m)- 西 北 西(9000 m)- 西 (10 km)に順調に変化して偏西風となっている。草津 白根山(2171 m)相当では北西である。風速は単調に 増加して y = 0.006 x + 3.6012,R² = 0.9733 で決定係数は 非常に高い。草津白根山では 16.63 m/s である。気温は y = -0.0047 x + 7.7775,R² = 0.8065 であり,草津白根山で -2.43℃である。なお,1769 ~ 1851 m 間に 3.1℃のやや 大きい逆転層がある。相対湿度は地上から 1500 m 付近ま で増加し高湿度の雲の層があり,その上空で急減し,1955 ~ 2125 m では 1% 程度の極乾燥領域が認められ,さらに 上空 5000 m 高まで 8% 以下で乾燥している。 以上から草津白根山 2171 m 高度では北西の風向,風速 16.63 m/s,気温-2.43℃,相対湿度 3.00%(湿度は鉛直分 布上下 5 点平均)と算定された。 一方,10 月 25 日 9 時の直近 2 高度間の鉛直分布の比例 配分から草津白根山高度では北西の風向,風速 17.07 m/s, 気温-2.00℃,湿度 1.76% と算定された。 以上のように直線分布が全高度で観測される気象条件下 では最適であるが,主に湿度では直線関係はごく一部分で あるため 2 点間の値から算定せざるを得なかった。従って, 直線回帰法①(湿度など一部は鉛直分布の周辺域の回帰式) と直近 2 高度間比例配分法②の 2 方法による平均は北西の 風向,風速 16.9 m/s,気温-2.2℃,相対湿度 2.4% と推定 され,強風・低温で乾燥していた。 同様の方法で,草津白根山の高度における 25 日 21 時 の状況を算定したところ,風向,風速,気温,相対湿度 の順に①北北西,14.62 m/s,-1.13℃,17.50%,②北北 西,15.53 m/s,-1.41℃,15.14% となり,平均では北北西, 15.1m/s,-1.3℃,16.3% と推定された。 輪島における 10 月 26 日 9 時(図 12)の風向は地上の 南であるのに対して,90 m 高で北北西の逆風となり,そ の上は北西と北北西で次第に西寄りになり,高度 9000 m で 西 北 西 の 偏 西 風 と な っ た。90 m ~ 10 km で は 高 度 (x:m)と風向( y:°)の関係は y = -0.0034 x + 333.7, R² = 0.6419 であった。高度(x:m)が上がるに従い単調 に風速( y:m/s)が増加し,y = 0.0038 x-0.3525,R² = 0.9636 の関係が得られた。高度 10 m で 11.5℃であった気温は高 度 1214 m で 1.3℃となるまで単調に低下したが,1786 m で 4.9℃まで昇温して 3.6℃の逆転となっていた。その上空 では,高度 4600 m で-10.0℃となるまで急激に低下した。 高度(x:m)と気温(y:℃)の関係式は y =-0.0038 x + 9.7834, R² = 0.8111 であった。相対湿度は下層(図 12)では 60% 程度であるが,上空で増加して 1000 m 付近で 77 ~ 86% の高湿域があり,その上空で急減して 2200 m 付近で 1% 以下の極乾燥域があり,4600 m まで 10% 以下であった。 以 上 か ら 四 阿 山 2354 m 高 度 で は ① 風 向 北 西, 風 速 8.59m/s,気温 0.84℃,相対湿度 5.60%(湿度は鉛直分布上 下 5 点平均)と推定された。 一方,26 日 9 時の②直近 2 点間の鉛直分布から算定し た四阿山の気象は,北北西の風,風速 7.97 m/s,気温 0.84℃, 相対湿度 4.78% と推定された。 従って,①法と②法の平均を取ると,北北西,8.28 m/s, 0.84℃,5.19% と推定された。 同様に,26 日 21 時の四阿山の気象は①西南西,9.75m/s, 5.44℃,4.00%, ② 西 南 西,9.19 m/s,5.53℃,2.54%, 平 均では西南西,9.5m/s,5.5℃,3.3% と推定された。 なお,高層気象の風速は 25 日・26 日とも小さいが,こ の日本海側からの風が主に群馬県の三国山脈で収斂して地 峡風の強風となり,沼田・前橋・熊谷地域に吹き下ろした と考えられる。 潮岬:輪島と同様,2 高度間比例配分法で解析を行った 結果,25 日 9 時の草津白根山 2171 m 相当では北北西の風, 風速 17.0 m/s,気温8.3℃,相対湿度1%,25日21時は北の風, 風速 10.1 m/s,気温 10.2℃,相対湿度 1%,26 日 9 時の四 阿山 2354 m 相当では北北西の風,風速 3.1 m/s,気温 8.2℃, 相対湿度 1.0%,26 日 21 時は南西の風,風速 5.6 m/s,気 温 9.0℃,相対湿度 5.0% であった。 館野:25 日 9 時の草津白根山の高度では北西の風,風 速 14.5 m/s,気温-1.2℃,相対湿度 25%,25 日 21 時は北 西の風,風速 7.9 m/s,気温 1.8℃,相対湿度 18%,26 日 9 時の四阿山相当高度では北西の風,風速 12.0m/s,気温 3.6℃,相対湿度 5.9%,26 日 21 時は南西の風,風速 7.6 m/s, 気温 5.0℃,相対湿度 8.1% と推測された。 25 日 9 時は輪島・潮岬ともに北寄り 17 m/s の強風であ り,館野でも北寄り 14.5 m/s の強風であった。25 日 21 時 に輪島では 9 時の風速と比べて,1.5 m/s 程度小さくなっ たものの強風が継続していたのに対して,潮岬・館野では 7 m/s 程度小さくなった。26 日 9 時の時点で輪島では風速 が小さくなったが,館野では 12.0 m/s の強風であった。 25 日 9 時の気温は輪島・館野の高度 2171 m で氷点下で あり,輪島では 25 日 21 時にも氷点下であった。輪島・潮 岬の高度 2000 ~ 4000 m 付近における相対湿度は 25 日 9 時~ 26 日 9 時の間 1% 程度で非常に乾燥しており,館野 でも乾燥していた。 輪島の高層気象と現地の気象を比較すると,25 日の午 前中は現地・草津白根山では霧氷が着くほどの強風と高湿 度であったが,輪島や潮岬の高層気象では非常に乾燥して おり,直接的には一致しないが,高山・山地では地形性の 雲・霧が発生していたためと考えられる。ボラとしての山 越え気流,すなわち輪島上空 2000 m 高付近の気流は低温 であることから,三国山脈の上層の気流は低温であり,三 国山脈を越える時に強制的に気流は上昇するが,その空気 は初め乾燥断熱減率から後は湿潤断熱減率で上昇して飽 和に達し,霧または一部で雪となったと考えられる。そ の状況は 25 日に新潟県湯沢で 0.5 mm,群馬県みなかみで 2.5 mm の日降水量として観測されている。現地に近い草 津では 25 日には降雪はなかったが,山地では濃霧が掛か り,霧氷が発生していた。

5.まとめ

2015 年 10 月 25 ~ 26 日に草津白根山と四阿山に登山し た。25 日のロープウェイは風速 26 m/s で運行停止となり, 徒歩での登山も 40m/s 近い暴風で断念したが,氷点下の中 を車で走ると白根山(2160 m)直下で暴風の霧と霧氷に遭 遇した。26 日には四阿山に登り,晴天・強風下,樹氷に 遭遇した。 10 月 24 日は日本海上の低気圧による寒冷前線の通過で

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降雨・降雪,25 日は草津白根山付近の高山で降雪・樹氷, 26 日は樹氷があった。 10 月 25 日の草津白根山(2171 m)の最低気温は-5.1℃ 最高気温は 1.9℃と推定され,樹氷が発達した。26 日は晴 天で四阿山(2354 m)の最低気温は-4.7℃,最高気温は 8.3℃と推定された。 富士山と 1000 m 付近のデータを基に,高度による相対 湿度の低下がおおむね線形関係となることを仮定すると (図 10),草津白根山・四阿山両山の日平均相対湿度,日 最小相対湿度は,それぞれ 37%,18% 程度であり,特に 26 日の四阿山では日中乾燥していたと推測された。 10 月 25 日の草津白根山の風向は北寄りで最大風速は 16.5 m/s,最大瞬間風速は 35.2 m/s,26 日の風向は北西 寄りで四阿山の風速は最大風速 10.1 m/s,最大瞬間風速 21.9 m/s と推定され,植生の状態や体感風速から推定した ビューフォート風力階級で 25 日草津白根山の 7,26 日四 阿山の 5 に一致した。 10 月 25 ~ 26 日に,日本海側からの気流は三国山脈ま でに収斂し,三国山脈東部の切れ目から谷筋を吹き降り, みなかみ・沼田の谷地で地峡風として前橋付近から関東平 野に吹き込む局地風となった。山越え気流は,みなかみ付近 で南風の逆強風であった。また気温では日本海側からの気 流は三国山脈付近で低温化し,山越え気流は関東平野でも 日本海側の気温より昇温しない典型的なボラ現象であった。 みなかみ,沼田,上里見,前橋の 4 地点から,ボラ的地 峡風の風速推定に適用可能な V=3.5H0.3(V:最大瞬間風速, H:標高)の経験式を求めた。 10 月 25 ~ 26 日の草津白根山・四阿山の気象解析から 高山・平地の局地気象特性の簡潔な推測法が提示できた。

引用文献

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Yabuki K, Suzuki S, 1967: A study on the air flow over mountain. Bulletin of the University of Osaka Prefecture. Series B 19, 51-193.

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参照

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