100 日本労働研究雑誌 海外勤務者の帰国後の職場での再適応やキャリアの 再構築は,企業派遣による帰任者についても問題視さ れるが,具体的には検討されにくい問題である。本報 告では,日本人女性海外勤務経験者を事例に,海外赴 任者の帰国後のキャリアトランジションの仕組みや影 響要因について明らかにした。分析は,海外就業経験 を経て帰国し,フルタイムで働く 10 名の女性とのキ ャリアヒストリーに関する半構造化インタビュー結果 について,修正版グラウンデッドセオリーアプローチ (M-GTA)を用いて行った。 分析の結果,海外外就業経験女性の帰国後のキャリ アトランジションについて,帰国に先立つ海外からの 帰国の意思決定という段階からスタートし,日本国内 のマーケットでのマッチング,職場での適応を経て, 将来の展望獲得へつながるプロセスであると示した。 そのプロセスの結果,本人の抱く将来展望が帰国前の 経験を生かせる海外領域のものとなるかは,企業内外 のジョブ・マーケットでのマッチングと,職場での再 適応プロセスの 2 段階の影響を受けると論じた。 実践的な課題として,海外で経験を積んできた人材 を有効活用し,本人にとって望ましい展望をもたらす ためには,ジョブ・マッチングを通じたドメインの再 構築と職場適応の 2 段階の対応について検討する必要 がある。ジョブ・マッチングを通じ,帰任者は,自ら の海外で獲得したスキル,内面化した価値を生かす職 務に到達できるかの判断や,キャリアを継続するため のドメインの修正や更なる学習を行う。与えられた職 場での適応は,自らが海外で内面化した価値や態度の うち保持したいものを選び,そのために必要な学習, 同僚や職場との確認を進めながら行われる,本人が適 切だと思う行動や価値意識の書き換えによっている。 いずれのプロセスも,異なる文化的環境の中で相応の 苦労を通じて習得し内面化したアイデンティティの再 修正であるため,ストレスや不安を伴いやすい。その 状況に,ハラスメントや旧弊な価値意識の強要などが 加わることにより,組織への幻滅や離脱が引き起こさ れると考察した。 ほそがや・のぶこ 上智大学経済学部准教授。最近の主 な著作に『経営のルネサンス──グローバリズムからポス トグローバリズムへ』文眞堂(共著,2017 年)。人的資源 管理論専攻。
海外勤務経験者の帰国後キャリアトランジション──日本人女性事例における適応行動とアイデンティティ(PDF:485KB)
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