熊沢蕃山の「気質変化」
孫
路易
(1)
熊沢蕃山の「気質変化」
孫
路
易
一
熊
沢
蕃
山
の
著
書
に
は「
気
質
変
化
」「
気
質
を
変
化
す
る
」
と
い
う
語
が
し
ば
し
ば
見
え (一)
、その語の具体的な内容が蕃山思想ではその「工夫」
論 (二)
を
構成しているのである。
蕃山のいう「気質変化」はつまり中国哲学にいう「変化気質」であ
り、これは、儒教では常人が聖人になる為の、その可能性及び具体的
な実践方法を示す理論における最も重要な用語である。朱子にあって
は、
人
間
の
臓
器
と
し
て
の
心
臓
の
空
間
に「
精
英
の
気
」、
つ
ま
り
凝
固
し
て
も実体を持つ実質的な物体を構成しない最も清らかな気が集まってい
るが、
常人のその「精英の気」に濁りが付着していて、
それ故に、
「精
英の気」が受け皿として受け止めた天より賦与された「仁義礼智」の
理がその濁りに蔽われてそのまま視聴言動に現れにくくなり、そこで
常
人
が
よ
く
理
に
背
く
言
動
を
行
う
の
で
あ
る
と
考
え
ら
れ、
そ
の
心
臓
に
集
まっている気が透き通った状態になるまでに「精英の気」に付着して
いる濁りを除去することが即ち「変化気質」だとされているのであ
る (三)
。
こ
れ
が
朱
子
の「
変
化
気
質
」
と
い
う
語
に
つ
い
て
の
解
釈
で
あ
る
が、
で
は、
熊
沢
蕃
山
は「
気
質
変
化
」「
気
質
を
変
化
す
る
」
に
対
し
て
如
何
に
解
釈
し
て
いるのか。蕃山思想の全貌を捉えるには、その内容解明がどうしても
欠かせないであろう。
本稿では、蕃山のいう「気質変化」について朱子学または陽明学と
比較しつつ考察検討し、その内容をできるだけ深く掘り下げて解明す
ることを試みる。
二
先ずは、蕃山のいう「気質」について考察する。
「天地万物みな太虚の一気より生じたるもの。
」(
『集義和書』
、『全集』
第一冊、九頁)
「太虚は理気のみなり。いへ
ば
ただ一気なり。理は気の徳なり。一気
屈
伸
し
て
陰
陽
と
な
り、
陰
陽
八
卦
と
な
り、
八
卦
六
十
四
と
な
る。
」(
『
集
義
和書』巻第三、
『全書』第一冊、五六頁)
とある。ここでは、自然界を構成する天地万物は理と気を内容とする
太虚より生じたものであり、太虚の一つの気が屈伸の運動をして陰と
執筆者紹介
堀 内 孝 大学院社会文化科学研究科 人間行動論講座 准教授(文学部)
孫 路 易 基幹教育センター 准教授
山 本 秀 樹 大学院社会文化科学研究科 日本・アジア言語文化論講座 教授(文学部)
大 平 真紀子 大学院社会文化科学研究科 博士後期課程
趙 麗 君 大学院社会文化科学研究科 博士後期課程
田 中 菜 摘 大学院社会文化科学研究科 博士後期課程
呉 揚 大学院社会文化科学研究科 博士後期課程・日本学術振興会特別研究員DC2
宋 武 全 大学院社会文化科学研究科 博士後期課程
宮 本 竜 彦 大学院社会文化科学研究科 博士後期課程
孫 瑛 鞠 大学院社会文化科学研究科 博士後期課程
※ 上記身分は、2016年11月25日時点のものである。
2016年11月25日印刷
2016年11月25日発行
岡山大学大学院社会文化科学研究科
岡山市北区津島中3丁目1番1号
編集兼発行代表者
佐 野 寛
印刷所 広和印刷株式会社
岡山市南区豊成3-18-7
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(『岡山大学大学院社会文化科学研究科紀要』に関する申合せ6の七による。)