保育者養成における領域「表現」の指導に関する一
考察 : 声に出して読むことと音楽を合わせた表現
活動
著者
寺田 己保子
雑誌名
埼玉学園大学紀要. 人間学部篇
巻
20
ページ
155-163
発行年
2020-12-01
URL
http://id.nii.ac.jp/1354/00001332/
は「豊かな感性と表現」である。「豊かな感 性と表現」には「心を動かす出来事などに触 れ感性を働かせる中で、様々な素材の特徴や 表現の仕方などに気付き、感じたことや考え たことを自分で表現したり、友だち同士で表 現する過程を楽しんだりし、表現する喜びを 味わい、意欲を持つようになる。」と記され ている。 「表現する喜びを味わい、意欲を持つよう になる」子どもの姿を具現化するためには、 まず保育者自身が豊かな感性を持ち、表現す る喜びや楽しさを知っていることが重要であ り、このことは将来保育者となる学生にとっ てもまた同様である。しかし「保育内容の研 究(表現―音楽)」の授業を担当するように なってから、学生の「閉じた声」と「閉じら れた身体」の様相が気がかりになっている。 領域に関する専門的事項の考え方として記さ れた「何を」にあたることとは、表現するこ とに向き合い、そのとらえを深めさせるよう な授業内容を構築し、それを通して学生の感 性と表現力を育てることが保育者養成に携わ 1.はじめに 平成31年4月施行の教育職員免許法で、こ れまでの「教科に関する科目」、「教職に関す る科目」、「教科又は教職に関する科目」の3 区分は廃止され「領域及び保育内容の指導法 に関する科目」が新設された。そして各科目 に含めることが必要な事項として、イ「領域 に関する専門的事項」、ロ「保育内容の指導 法(情報機器及び教材の活用を含む)が示さ れた。「イ 領域に関する専門的事項」の考 え方として、幼稚園教育において「何をどの ように指導するのか」という視点で見た時の 「何を」に当たる部分として、幼稚園教育要 領のねらい及び内容を含めながら、これらに 限定されることなく、より幅広く、より深い 内容が求められる。と記されている。これに 先立ち、平成29年には幼稚園教育要領、保育 所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・ 保育要領が改定され、「幼児期の終わりまでに 育ってほしい姿」(10の姿)が示されたが、 この中で領域「表現」と特に関わりが深いの
─ 声に出して読むことと音楽を合わせた表現活動 ─
A study of the Teaching of “Expression” in the Training of Childcare Workers
Activities for “Expression” that Combine Reading Aloud and Music寺 田 己保子
TERADA, Mihoko
キーワード : 表現、声、声に出して読む Key words : expression, voice, reading aloud
藤(2002)はことばと声と身体性について、「ぼ くが信じるのは、意味よりも声です。声になっ た時には、その人でしかありようがない交換 不能なことばが発せられるはずです。そうい う声の部分に基盤を置いたネットワークが探 られる必要がある。」と述べている。声を発 することは一つの表現であり、コミュニケー ションの手段でもある。自分の表現としての 声が相手に伝わらなければコミュニケーショ ンは成り立たない。もちろん声を発しなくて もコミュニケーションが成り立つ場合もある が、それは別の手段での表現が相手に伝わっ た場合と考えられる。 田中(2011)は顔と声を併用した多感覚的 な情動認知の研究を概観する論の中で、「日本 のコミュニケーション様式では、発話で意図 を伝える際には「何を言うか」よりも「どの ように言うか」を重視する」と日本語の特性 (高低アクセント)とともに述べている。ま た齋藤(2014)は学校の国語教育について、 今の国語の授業で足りないこととして教師自 身が国語作品というものに体ごとぶつかり、 朗々と歌い上げることによって日本語の素晴 らしさを表現することが足りないと指摘し、 身体を基盤とした教育を根付かせるための基 本として「声に出して読むこと」を提言して いる。そして「声に出して読むことで、体全 体で言葉を味わう。これはある意味、作者の 体に戻ろうとする試みでもある」と述べてい る。平成29年告示の小学校学習指導要領国語 では〔知識及び技能〕の中に、各学年にわたっ て「~音読すること。」と明示されている。 高橋(2019)は「国語化教育において、学習 プロセス(思考・判断・表現・交流活動)の 中で、音読・朗読の効果が近年再評価される ようになっている。」として、音読から始ま る者に求められているということであろう。 大事なことは、学生が自分に向き合い、表現 することを実感し、そのことについて考えを 深めることである。これまでも音楽表現の側 面から身体表現を伴った表現活動1)、言葉と リズム及び伝統音楽の側面から唱歌に着目し た表現活動2)などを実践してきたが、本稿で は声に着目し、声に出して読むことと音楽と を合わせた表現活動について、学生の振り返 り記述をもとに自己の中で表現することのと らえについて探り、今後の領域「表現」の内 容と指導に反映させたい。 2.声と表現 本稿で声に出して読むことと音楽とを合わ せた表現活動について取り上げた理由として、 先に述べたように学生の声についての気がか りがある。なぜ声が「閉じた」ように感じら れてこちらに届かないのだろうか。 声を発することは心のありようと身体のあ りようが大きく関わっていると考える。幼児 期は何にもとらわれることなく思いのままに 行動し、発する声も自然で表情豊かなものに 感じられるが、成長するにつれて周りの環境 や人間関係、場の雰囲気等様々なことの影響 を受け、幼児期と同じようには行動できなく なるものと考える。か細く頼りな気な声を発 する時は心も身体も閉じられているのではな いだろうか。 伊藤(2020)は「声でわかる 体の息遣い」 として「声には非常に多くのことを伝える力 がある。その人の人柄や体調はもちろんのこ と、言葉に込められたニュアンスや力加減、 こちらに対する思いまでもが一気に耳に飛び 込んでくる。」「声にはその人の生理のような ものが乗っている。」と述べている。また佐
要である。絵本「すっすっはっはっ こ・きゅ・ う」(作:長野麻子 絵:長野ヒデ子 童心 社)は、題名の通り呼吸の様子が素朴で温か みのある絵とともに描かれており、絵本の絵 と一緒に呼吸して声を発することで、声が気 持ちや感情を伝えていることが実感できる。 はじめは学生が表現することに抵抗感を持っ ていることが多いことから、身体をほぐし開 くための導入として2018年の授業から実践し ている。 〈授業の流れ〉 ・全員で意識的に呼吸したり身体をほぐすよ うなストレッチをする。 ・授業者が絵本の紹介、読み聞かせをする。 ・3、4人のグループになり、絵本を分担し て声と身体で表現を考え発表する。 ・絵本の流れに沿って全員で通して発表する。 〈振り返り記述から〉 ・恥ずかしさもあるが、面白いと思った。 ・前に出てやると体の動きが小さくなってし まうので、もっと大きく体を動かしてやる ようにしたい。 ・いろいろな表現の仕方があって学ぶことが できた。相手に伝えることを考えながらや ると難しい。 学生がこれまでに出会った絵本とは異なる タイプの絵本だったようで、初めは少し戸惑 いが感じられた。しかし呼吸という今まで特 に意識しなかったことに改めて向き合い、実 際に声を出したり身体を動かしていく中で表 現方法が少しずつ見出されていくようであっ た。また他者の表現を見合う中で様々な表現 のあり方に気付き、どうしたら伝わるのかに ついても考えるようになった。 り朗読が学習目当ての大切なひとつでありコ ミュニケーション活動の一端でもあると述べ ている。国語教育としての音読と朗読につい て高橋(2008)は「意味をとらえ、声を届け る。それが音読・朗読である。」として、意 識しただけでも声は変わることを説いている。 そして音読・朗読の成果として子どもたちの 声が豊かになった実践例を挙げ「身体一杯の 息と共に、ゆったりと、倍音をたっぷり含ん で、伝わってくる声だ。子どもたちが、声を 出すことを嫌っていない証拠だ。発声するこ とを喜んでいるのだ。」と実践校の子どもた ちの豊かな声について記している。 これらの論調を踏まえ、身体も心も開放し てまずしっかりと声に出すことが自分の表現 をすることにつながると考え、声に出して読 むことを重視した表現活動を行った。 3.声に出して読むことと音楽を合わせ た表現活動 2019年10月「保育内容の研究(表現 ‐ 音 楽Ⅱ)」を履修する3年生10名を対象に実践 した全15回のうち、特に声に出して読むこと を重視した以下の表現活動について述べる。 ・絵本「すっすっはっはっ こ・きゅ・う」 の表現活動 ・詩「ぽいぽい・たいそう」を読む ・詩「あめ」を読む。 ・声に出して読むことと箏による音楽表現 「あめ」 ・群読による昔話「かさこじぞう」 ・音楽絵本としての表現活動「ももたろう」 3.1 絵本「すっすっはっはっ こ・きゅ・う」 の表現活動 身体と心を開放して声を出す時に呼吸は重
キストに従って読み合わせた。 下記は詩とテキストの読み方を一部抜粋し たものである。(『教師のための群読ハンド ブック』p.17-18) 初めは声も小さく遠慮がちであったが、1 ~8の担当箇所を変えて2回、3回と読み合 ううちに言葉の調子のよさから楽しさが生ま れた。合いの手「はい はい」では笑顔がこ ぼれ、自然に体が動いてしまうようであった。 3回目には互いの声がよく聞き取れるように なり、最後の「つよくなる」には全員の声に 力が込もっていた。 3.2 詩「ぽいぽい・たいそう」を読む 3.1で声を出したり身体を動かすことに少 し慣れた後、声を届ける表現方法として、群 読を取り入れた活動を行った。群読は、複数 の読み手による朗読である。一つの作品を複 数で読むためには前者の読む声を聞きそれを 受けて読むことになる。互いの声を聞き合い 一人一人の声を合わせて作品の世界感を作り 上げる、つまり協働して表現を作っていくこ とになる。 詩「ぽいぽい・たいそう」は8人の読み手 を必要とする群読のテキストであったので、 互いの顔が見えるように円になって立ち、テ ぽいぽい・たいそう こいぬけんきち めのたまねむいぞ とろんとろん あくびがでるぞ ぷかんぷかん こんなときには たいそうだ ねむさポイする ねむ・ぽいたいそう ﹁おいっちに・はいはい さんし・ほいほい ごーろく・ふっふっ ななはち・ひっひっ﹂ しっぽのさきまで めがさめた いきがしろいぜ はっはっはっ はながつめたい つんつんつん こんなときには たいそうだ さむさポイする さむ・ぽいたいそう ﹁おいっちに・はいはい さんし・ほいほい ごーろく・ふっふっ ななはち・ひっひっ﹂ しっぽのさきまで あったかい なきべそかいたら べそ・ぽいたいそう ︵つづく︶ 全員 ぽいぽい・たいそう こいぬけんきち 1 めのたまねむいぞ 12 とろんとろん 2 あくびがでるぞ 23 ぷかんぷかん 3 こんなときにはたいそうだ 34 ねむさポイする ねむ・ぽいたいそう 1 おいっちに 全員 はいはい 2 さんし 全員 ほいほい 3 ごーろく 全員 ふっふっ 4 ななはち 全員 ひっひっ 5 しっぽのさきまで 56 めがさめた 6 いきがしろいぜ 67 はっはっはっ ︵つづく︶
・順番や言い方、表現を自分たちで決めてや ることで印象が大きく変わったことがわ かった。 ・読み方や人数を変えるだけで、全く違って 聞こえると思った。 群読について高橋(2008)は「前者の読み を聞かなければ自分の読みは生まれない。そ れは(中略)共鳴、共振、協働のための聞く 行為である。共に読むために聞くのである。 ここに朗読を聞く行為と朗読をする行為とが 同時的に成立する。(略)群読の教育的効果 の一つ「響き合い」がここにある。」と、読 むことと聞くことの往還の意味と群読によっ てもたらされる教育的効果を述べている。こ れは翻って音楽の演奏行為にも当てはまるこ とである。合唱でも合奏でも演奏することと 互いの音を聴き合うことが同時的に進行する ことで一つの音楽が紡がれていく。響き合う ということは個々が演奏し同時に聴くという 往還から生み出される状態であり、響き合い を感じることで表現することの楽しさや喜び がもたらされ、自分にとっての新たな価値と して位置づけられるのではないだろうか。 3.3 詩「あめ」を読む 3.2で一つの行を複数で読んだり行ごとに 交代して読むなど朗読の手法を知り、それに よって声の重なりや響き合いが変化すること に気付いたところで、まどみちおの詩「あめ」 を読みあう活動に入った。板書した詩を各自 黙読した後、まずテキストに示された方法で 読み合わせ、次に4~5人のグループに分か れて読み方を工夫して発表し合った。 (『教師のための群読ハンドブック』p.15) グループ活動では「あめが ふる」を一人 ずつ交代して読んだり、1行ごとに人数を増 やして読むなど実際に声に出して試しながら 読み合わせる姿があった。「ふる」を男子が 担当し「やんだ」を女子が担当したグループ の発表では男女による声の音色や質感の違い が際立ち、ことばと声の音色の発見があった。 また、ことばとことばの間の取り方を工夫し た発表では、次のことばが発せられるまでの 空間に全員の耳が集まっていたことが感じら れた。 〈振り返り記述から〉 ・声だけでの表現は、構成も演出もとても難 しかった。 テ キ ス ト は、 あ め が ふ る を 一 行 ご と に 人 数 を 増 や す こ と で だ ん だ ん 雨 が 強 く な る 様 子 を 表 現 す る も の で、 ﹁分読﹂ともいえる方法が示され ている。 あ め まど・みちお あめが ふる あめが ふる あめが ふる そらが おおきな かお あらう あめが やんだ あめが やんだ あめが やんだ そらが きれいな かお だした
3.4 声に出して読むことと箏による音楽表現 「あめ」 3.3でことばの間の取り方や男女による声 の音色、質感の違いなどを互いの発表から感 じ取っている様子から、読み合わせるだけで なく音や音楽を入れることで空間の広がりや 深まりが表現できるのではないかと考えた。 学生が箏に興味を持っていたこともあり、詩 を読む中に箏の音を入れて詩の世界を表現す ることを提案した。 箏に触れるのは全員初めてであったが、簡 単な説明の後すぐに自由に音を出してどんな 音が出せるか音探しする時間を設けた。はじ めは恐る恐る楽器に触れて音を鳴らしてみる といった状態であったが、箏の音色が響くと 室内の空気が一変することに気付き、一つの 音だけでも詩の雰囲気を表すのに有効だと感 じ取ったようであった。発表では、箏の一音 一音を大切にして余韻や音の間を工夫したり、 音を重ねたり、弦を弾くだけでなく箏の裏板 を手でたたいて打楽器的な音色で変化を付け るなど、グループごとの工夫が見られた。ま たこれによって詩の読み方や声の調子にも変 化が見られ、学生の中で詩の世界感が広がっ たように感じられた。 〈振り返り記述から〉 ・音を入れることで、より情景が浮かんでく るようだった。 ・そのことばに合う音やリズムを見つけるの は難しかったが、合ったときは雰囲気が出 て気持ちがすっきりした。 ・箏を初めて使って、いろいろな音の出し方 があって面白かった。「びよーん」となる 音が好きです。良い時間だった。 3.5 群読による昔話「かさこじぞう」 3.4で箏を入れた表現活動に魅力を感じた ようであったので、昔話「かさこじぞう」を 読みと箏の音で表現する活動に取り組んだ。 使用した「かさこじぞう」のテキストは以下 のものである。(『教師のための群読ハンド ブック』昔話「かさこじぞう」より一部抜粋) ソロ、アンサンブル、コーラスの3パート で構成されることから、グループに分けず、 10人全員で取り組むことにした。初めにソロ (語り手)、アンサンブル(じいさまとばあさ ま)、コーラス(子どもたち兼地蔵)の役割 を決める時、語りには学生Kが適任との声が 挙がった。3.3、3.4の活動を通して互いの声 についての認識が深まっていたようである。 Kは口数が少なくいつも控えめで目立たない ようにしている様子だったが、落ち着いた声 質で、「あめ」でもことばとことばの間を工夫 したり、イメージをもって読んでいることが 伝わる学生であった。Kは語り手に推薦され たことで、少し自信がもてたのであろうか、 はじめは小さな声だったのだが、次第に読む 声がしっかりと張りのある声になっていくよ うに感じられた。また、読み方による全体の 雰囲気の変化について、学生の振り返り記述 に「読み方を変えるだけで雰囲気が変わって 面白かった」とあるように、コーラスの「さ らさらりん」「さくさく」を子音をたてたり 息の音で読み、「ずんずん」を低音で重みをか けて読むと、にわかに雰囲気がでるようで あった。このような雰囲気の変化に気付くこ とで読む声も少しずつ充実感を増し、全員が 読むことを楽しんでいることが感じられた。 最後まで読みが完成した時には、一つのお話 の世界が声で表現されていた。次に、箏の音 をどこに入れていくか検討を始めた。「箏が
入ると、読み始めるタイミングや間の取り方 などが変わって、新たに工夫することができ た。」「音の組み合わせ、言葉と演奏の幅が広 がったように感じられた。」「話の中に深みが 出て面白くなると思った。」からは、箏を入 れることで読みだけでは得られなかったイ メージの広がりや深まりが表現できることへ の気付きが見られる。このようなグループ活 動は、人数や一人一人の活動へのモチベー ションの違いによってなかなか活発にならな いこともあるが、「難しいと思っていたが、み んなで意見を出し合い行っているうちに、と ても楽しいと思うようになった。」の記述か ら、3.1からの活動の積み重ねが互いに意見 を言える雰囲気を作り、協働する楽しさを生 み出したようである。また、「子どもたちもで きるかもしれない」という声が学生から出た。 読むことと音楽を創って合わせることを体験 したことで、活動の見通しやイメージがわき、 楽しい活動として子どもたちに伝えたいもの としてとらえることができたのである。 3.6 音楽絵本としての表現活動「ももたろう」 3.1から3.5までのまとめとして、保育現場 での発表を想定して絵本「ももたろう」に音 楽をつけて表現することに取り組んだ。語り 手、おじいさん、おばあさん、ももたろう役 と音楽担当の分担をしたが、役割を決める時 に語り手は学生Kと暗黙の了解で決まってお り、他の役割も声質を考えて決められていた。 どの場面にどんな音や音楽を入れるかは全員 で検討し、「ももたろう」が日本の昔話である ところから、日本らしい雰囲気を出すために 箏、三味線、篠笛を用いることが提案された。 学生は箏や三味線に熟達しているわけではな いが、それぞれの楽器担当として自分のイ メージをどのような音で表現したらよいか、 納得のいくまで楽器と向き合っていた。考え た音や短い節を互いに弾いて聞き合ったり、 読み手と合わせて意見交換するなど、まさに 協働の時間であった。音楽表現の面からは、 おはなしの始まりと終わりに、創作した短い 節を篠笛、三味線、箏でテーマとして演奏す る構成と、川の流れを太鼓で表現するなどの 場面に合わせた効果音が工夫された。また絵 本の読み方も書かれている文をそのまま読む だけでなく、例えば「つんぶら つんぶら」 は複数の声を重ねてももが流れてくる様子を 表すなど、3.5での読み方の手法が生かされ ていた。学生の振り返り記述には一つの作品 を作り上げた達成感や楽しい活動であったこ とが多く記されていた。「ことば一つに一つ の音をつけるだけでいろいろな世界観を表現 できて、とっても面白いと思った。この授業 で感じたことを、ぜひ子どもたちにも伝えた いと思う。」からは、この活動が学生にとっ て価値づけられたことがわかる。学生Kの 「『こんな感じにしたいな』と思ったことを、 音に出して表現することができた。一から作 り出す楽しみに気付くことができた。」には、 自分の内なるものを音として外に出すことが できたという、言い換えるなら自己に向き合 い自分としての表現ができたことのうれしさ や満足感が読み取れる。いつも控えめで目立 たないようにしていた学生であるが、語りを 読むときの声には充実感が感じられるように なった。他者から語りの表現を認められたこ とが自信となり、箏の表現への意欲にもつな がったと考えられる。自分のイメージを箏で どのように表現するか楽器に向き合う身体に 閉ざされた感じは少しもなかった。
4.考察と今後の課題 声に出して読むことと音楽とを合わせた 3.1~3.6の表現活動の積み重ねにより、こと ばと音や音楽との関わり合いから生みだされ る新たな世界観に気付き、表現することの楽 しさや面白さを実感したことがわかる。そし てさらにそれを子どもたちに伝えたいことと して価値づけることができたのは成果といえ る。 佐藤(2002)は、表現する身体について「「自 由に表現して」と言われると身体はこわばり、 「気持ちを込めて」と言われると、感情は凍 りついてしまう。表現は自己の表出ではない。 むしろ自己表出に対する抑制である。だから、 表現者の身体は、海のような沈黙をたたえて いる。」と述べている。2018の授業の際、「自 由に~してよい」と言われたらどう感じるか 問うたところ、「うれしい、面白そう」と答え たのは30数名中わずか1名であった。そのほ かは「困る、迷う」という回答が多く、その 理由として多かったのは「何をしたらいいか わからない」というものであった。いくつか の選択肢が用意されていたり見本があれば始 めることはできるのだが、ゼロからというと、 はたと立ち止まってしまうことが多いようだ。 幼児期にはだれもが持っていたであろう自由 な目や感じる心は、成長するにしたがってど ソロ アンサンブル コーラス さらさらさらり さらさらりん こな雪降る日のことでした さらさらさらり さらさらりん さらさらさらり さらさらりん むかーしむかーしある村に 働きもののおじいさん 心のやさしいおばあさん まずしいふうふがおりました もうすぐ正月くるけれど おもちの一つもかえません そこでおじいさん考えた さらさらさらり さらさらりん 五つのかさをこしらえて さらさらさらり さらさらりん このかさ売ってばあさまに さらさらさらり さらさらりん ごちそう食わせてやりたいと さらさらさらり さらさらりん 町へ出かけたおじいさん さらさらさらり さらさらりん 残念一つも売れません さらさらさらり さらさらりん 大雪ずんずんふってきて ずんずんずんずんずんずんと ずんずんずんずんずんずんと しかたがないのでかえろうと ずんずんずんずんずんずんと 道を急げばあーれあれ ずんずんずんずんずんずんと 地蔵が六人ならんでる 昔話「かさこじぞう」テキスト(『教師のための群読ハンドブック』より一部抜粋)
こへ行ってしまったのだろうか。というより、 学校教育の場では正しい答えを求められるこ とが多く、いつの間にか「自由に」というこ とが隅の方へ追いやられてしまったのかもし れない。今回の表現活動で「こんな感じにし たい」と思えたことは成果である。まず自分 としてのイメージを持たなければ表現に向か うことはできない。そしてそのイメージを音 として表現できたことはうれしさや達成感を もたらし、「一から作り出す楽しみに気付くこ とができた」と学生の自己肯定感も高まった といえる。 声に出して読み合うことは他者の声を聴く ことであり、その声に互いを発見し認め合い 多様な表現の在り方に気付くことができた。 そして協働することによって自己の中での表 現のとらえ方が広がり、また深まり、保育者 の視点からもとらえることができたといえよ う。これは、「いろいろなものの美しさなどに 対する豊かな感性をもつ」というねらいが求 めている姿と言える。表現することに向き合 い、実感する体験を通してこそ身体も開かれ 他者の表現も受け入れることができるように なる。言い換えれば、保育者として子どもの 多様な表現を受け止めることができるように なることにもつながるのではないだろうか。 今後も、学生の感じる心を広げ、表現するこ との楽しさを実感し豊かな感性をもつことに 寄与できるような幅広い内容と指導法を工夫 していきたい。 注 1)寺田己保子 2019「表現活動についての一考察 ―身体表現を用いた授業実践から―」埼玉学園大 学紀要人間学部編第19号 2)寺田己保子 2019「保育者養成における唱歌に 着目した伝統音楽の指導」日本音楽教育学会編『音 楽教育研究ハンドブック』p.234-235 音楽之友社 【引用・参考文献】 伊藤亜紗「伊藤亜紗の利他学事始め 声でわかる 体の息遣い」2020.8.13朝日新聞朝刊 齋藤孝 2014『学校では教えてくれない日本語の授 業』PHP研究所 佐藤学 2002『身体のダイアローグ 佐藤学対談 集』太郎次郎社 重水健介 2015『教師のための【群読】ハンドブッ クス』高文研 高橋俊三 2008『声を届ける 音読・朗読・群読の 授業』三省堂 高橋永行 2019「大学における「音読・朗読教材研 究」の具現化と実践指導」『米沢国語国文』46 号 田中彰浩 2011「顔と声による情動の多感覚コミュ ニケーション」『認知科学』18巻3号 日本音楽教育学会編 2019『音楽教育研究ハンド ブック』音楽之友社 文部科学省 小学校学習指導要領国語(平成29年告 示) 文部科学省 幼稚園教育要領(平成29年告示) http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/youchien/ 1385790.htm(2020/8/21アクセス)