肢体不自由生徒の学習を支援する支援機器の開発と試用
全文
(2) 徒と記述する)に発問し,その生徒の解答を言葉で得られにくい場合は,教師が日本語の 50 音が記 された手作りのボード上の文字を指し示し,生徒の表情や身振り,しぐさなどを細かく観察して, 文字を特定する方法を採用している.このような方法では,生徒の観察に不慣れな教師であれば, 生徒が意図している解答を得られない場合がある. 特別支援学校高等部学習指導要領にある第 2 章第 2 款の 3 では, 「(5) 生徒の身体の動きや意思 の表出の状態等に応じて,適切な補助用具や補助的手段を工夫するとともに,コンピュータ等の情 報機器などを有効に活用し,指導の効果を高めるようにすること。 」[2]と記述されているが,前述の 発声が困難な生徒に対しての補助用具は,より一層の工夫が必要になる. 「教育の情報化」の進展により,北村らが述べているように,Microsoft Office のプレゼンテーシ ョンソフトウェアである PowerPoint (以下,PowerPoint と記述する)は普及し,校内の校務用や教育 用のコンピュータにインストールされているので,教師が PowerPoint を用いて作成したディジタル 教材を常時利用することが可能になってきた[3].また,肢体不自由生徒にも,PowerPoint を用いた プレゼンテーションをさせる授業を取り入れるようになってきた.さらに, 「TMSN-特別支援教育・ [4] 教材共有ネットワーク-」 等の,特別支援教育を対象としたディジタル教材が活用できる Web サ イトも複数できてきた. しかし,肢体不自由生徒は,自身の能力でディジタル教材を用いた学習やプレゼンテーションを したくても,障がいの状態や特性等により,コンピュータの入力デバイスである汎用のキーボード やマウスを使用する場合には,教師の操作補助が必要な場合がある. この問題に対して,金森らは,視線入力システムの有用性を検討している[5].筆者は,視線入力 システムの有用性は認めるが,高価等の要因から限定的な活用に止まっていると考えている.しか し,多くの肢体不自由生徒に,障がいの状態や特性等に対応し,生徒自身の能力で操作ができる安 価な入力デバイスを求める潜在的なニーズがあると考えている. 本論文では,発声が困難な生徒を支援する従来の補助用具や補助的手段の問題点を指摘し,当該 生徒が明確に確認できる平仮名 50 音表の試作と,生徒の動作から,教師が容易に意図をくみ取れ る支援機器の開発と評価について述べるとともに,教師の操作補助を必要とせず肢体不自由生徒自 身の能力で,ディジタル教材を用いた学習ができることや,PowerPoint を用いたプレゼンテーショ ンが行なえることに特化した入力デバイスの開発と効果について述べる.. 2. 平仮名 50 音表と生徒の意図を容易にくみ取れる支援機器の開発と評価 2.1 生徒が明確に確認できる平仮名 50 音表の試作 発声が困難な生徒の解答が言葉で得られにくい場合に教師が従来から利用する日本語の 50 音が 記された手作りのボード(以下,手作り 50 音表と記述する)(図 1)は,当該生徒の特性に合わせて, 教師が文字の配列や追加・削除等のカスタマイズを行なうことができる.しかし,手作り 50 音表 を利用する際に,教師がボード上の文字を正確に指していない場合や,文字を正確に指し示したと しても,発声が困難な生徒の観察に集中しすぎて文字から指がずれる場合等により,生徒はどの文 字が指し示されているかが分からなくなる問題がある. 近年,iOS タブレット端末(iPad 等)で動作し,専用の平仮名 50 音表を用いて入力した文字列を読 み上げる「かなトーク」や,Android タブレット端末で動作し,標準のスクリーン・キーボードを用 いて入力した文字列を読み上げる「かなトーク Mini2」等の音声発声型意思伝達アプリが利用でき るようになり,発声が困難な生徒は,手作り 50 音表より音声発声型意思伝達アプリを使うことが. -80-.
(3) 多くなってきている.しかし,生徒自身が操作をするので,誤入力の訂正をする作業に手間を取る ことや,生徒の特性に合わせたカスタマイズができない等の問題がある. このような状況であるので,発声が困難な生徒の特性に合わせて,手作り 50 音表と音声発声型 意思伝達アプリのいずれかを選択して利用しているのが実情である. これらの問題を解決するために Windows タブレット端末を利用して,Microsoft Office の表計算ソ フトウェアである Excel で平仮名の 50 音表(以下,Excel-50 音表と記述する)を試作した(図 2).こ の Excel-50 音表の特徴は,下記に示す 3 つになる. ①教師がタップした平仮名の背景に色が付くので,発声が困難な生徒は教師が示した平仮名を明 確に確認できる. ②教師が平仮名をタップすれば,指の位置に注意することなく生徒の反応に集中できる. ③生徒の特性に合わせて教師が文字の配列や追加・削除等のカスタマイズを容易にできる.. 図 1 手作り 50 音表. 図 2 試作した Excel-50 音表. 2.2 教師が容易に生徒の意図をくみ取れる支援機器の開発 本研究の被験者は,発声が困難な生徒の中でも,肘を支点に円弧を描くような腕の動作ができる 生徒にした. 当該生徒を主に担当する教師であれば,生徒が意図している解答を表情や身振り,しぐさ等を細 かく観察し容易に得ることができるが,新任教師等の当該生徒を観察することに不慣れな教師であ れば,生徒が意図している解答が得られない場合がある. この問題を解決するために,表情や身振り,しぐさ等で「はい」の意思表示をさせる代替として, 肘を支点に円弧を描くように可動する腕に装着し, 「はい」を表現できる支援機器を設計・開発する ことにした.この支援機器を Communication Assistance Device (以下,CAD と記述する)と命名し, 下記の 11 項目を基本設計にした. ①加速度センサを用いて,待機位置(リセット)と「はい」の角度を検出できるようにする. ②待機位置と「はい」の角度は,任意に設定できるようにする.この設定は,生徒の体調により 可動範囲が変化をすることに対応するためである. ③設定した待機位置と「はい」の角度付近にくれば,待機位置と「はい」の動作と同等の動作を するように,各々の設定角度に±5°の角度帯を設ける. ④待機位置の角度から 30°以上傾けなければ, 「はい」の角度を決定できないようにする.この 設定は,腕の不随意運動等で発生する誤動作を防止するためである. ⑤腕(CAD)が垂直付近の角度になれば,待機位置になったことにする.この設定は,腕の筋肉が. -81-.
(4) 緊張すると,腕が垂直付近の角度で最も力を入れていない状態になる被験者の特性に対応する ためである. ⑥腕(CAD)の傾斜が,待機位置の角度帯に入れば,ブザー音が鳴り緑色 LED の点滅で知らせる ようにする. ⑦腕(CAD)を水平方向に傾ければ, 「はい」の意思表示をしたことにする.この設定は,生徒自 身の意志で腕を動かさなければならない被験者の特性に対応するためである. ⑧腕(CAD)の傾斜が, 「はい」の角度帯に入れば,ブザー音が鳴り赤色 LED の点滅で知らせるよ うにする. ⑨単四電池 2 個で動作するようにする.これは,授業に支障が出ない程度の動作時間を確保しつ つ,できる限り軽量化をはかり生徒の身体的負担を軽減するための処置である. ⑩起動時に現在の電圧を 4 段階に分けて,ブザー音と赤色 LED の点滅回数で電圧を確認できる ようにする.なお,4 回の点滅では最も良好な電圧であることを示し,1 回の点滅では電池交 換時期が近いことを示す. ⑪動作電圧以下になれば, ブザー音が鳴り赤色と緑色のLED が交互に点滅し電池の交換を促す. なお,⑩の起動時に現在の電圧を確認できる仕様や,⑪の動作電圧以下の警告を発する仕様は, 授業中に利用が出来なくなることを避けるための処置である. この基本設計に従って,CAD(図 3)を開発した.. 図 3 開発した CAD ( Communication Assistance Device ). 2.3 CAD と Excel-50 音表の評価 試作した Excel-50 音表と CAD を,発声が困難な生徒に試用してもうために,大阪府立東住吉支 援学校高等部の坂田 享介 教諭に協力を依頼した.担当していただいた坂田 享介 教諭が観察した 結果から,有用性について評価すると次のようにまとめられた. 生徒 A は,上肢・上腕を滑らかに動かせ思う通りにコントロールできる.また,簡単な単語は理 解しており質問に応じようとするが,知的障がいが重い脳性マヒにより発声が困難であるので,返 答は目線や表情,身振り等でできる程度の特性がある.この生徒 A に CAD を装着すると,CAD 自 体に興味を持ち CAD を手で持ちたい欲求から外そうとした.CAD をしばらく装着すると持ちたい 欲求はなくなったが,腕の動作でブザー音を鳴らせることが理解できると,再び手で持ちたい欲求 から外そうとしたので,CAD 本来の利用はできなかった.また,Excel-50 音表も利用できなかった. 生徒 B は,腕は意図した動きができるが,筋緊張が強めで不随意運動も多い.日常会話をある程 度理解しているようであるが,知的障がいが重い脳性マヒにより言葉での返答はできないので,目 線や表情で意図を伝えられる程度等の特性がある.この生徒 B は,CAD を装着する事自体を嫌が. -82-.
(5) り,腕を振って CAD を外そうとした.ブザー音を鳴らして興味を持つように働きかけたが,常に 腕を振るので,CAD 本来の利用はできなかった.また,Excel-50 音表も利用できなかった. 生徒 C は,知的には就学前程度の能力を有し,上肢・上腕を滑らかに動かせ緻密な動作でなけれ ば思う通りにコントロールできる.また,日常会話を理解することができるが,軽度の脳性マヒに より,発語が不明瞭なため相手に伝わりにくい等の特性がある.この生徒 C は,CAD を装着した 腕をある程度動かせばブザー音が鳴ることを理解し,発問に応じて腕の角度を変えて CAD を動作 させることができた.しかし,生徒 C は頭を前後に動かすことで「はい」 ,頭を左右に動かすこと で「いいえ」の意思表示ができ,この動作から教師は容易に生徒の意思表示を確認できるので,CAD を利用する方が煩雑であることから CAD は必要ないと判断した. また,Excel-50 音表の試用は,クイズ形式の発問に対して単語で解答する形式で行なった.結果 は,生徒が必要とする平仮名の背景に色が付くと「はい」の意思表示ができたことと,教師は平仮 名をタップした後は指の位置に注意することなく,生徒の意思表示の確認に集中できたことで, Excel-50 音表の有用性は認められたことになる. 生徒 D は,知的には就学前以上の能力を有し,強直型の筋緊張があるが左肘を支点に円弧を描く ような腕の動作のみができる.また,言語理解能力は高いが,重度の脳性マヒにより発声が困難等 の特性がある.この生徒 D は,CAD を装着した腕をある程度動かせばブザー音が鳴ることを理解 し,発問に応じて腕の角度を変えて CAD を動作させることができる.Excel-50 音表と CAD を利用 することで,発問に対して単語で解答をする形式の学習では,Excel-50 音表上の平仮名を教師がタ ップすると背景に色が付き,生徒が必要とする平仮名を明確に特定できる.生徒は「はい」の意思 表示を CAD を用いてできた.また,教師は平仮名をタップした後は指の位置に注意することなく, 生徒の CAD を用いた意思表示の確認に集中できた.このことから,生徒 D と同様の特性を持つ生 徒には,Excel-50 音表と CAD が有用な支援機器になる可能性があることが分かった.. 3. 教師の操作補助を必要としない入力デバイス 肢体不自由生徒が自身の能力で,ディジタル教材の操作や PowerPoint を用いたプレゼンテーショ ンを行う際に,汎用マウスを利用した場合の問題は,マウスの移動が困難であったり,マウスを移 動させられても,クリックをするとマウスが生徒の意志とは関係なく移動し,姿勢が崩れ身体的な 疲労が増大し学習効果が低下する等がある.また,汎用キーボードを利用した場合には下記の問題 等がある. ①手指の微細な動作が困難な為,ミスタッチをする. ②ミスタッチを最小限にするために,視線がキーボードと画面の間を交互に移動することで姿勢 が崩れ,身体的な疲労が増大し学習効果が低下する. ③キーを素早く叩く動作が困難な為に,コンピュータはキーを複数回叩いたと認識する. ④左手が優位な生徒の場合では,[ENTER]キーの位置が遠く叩きにくい. 本研究では,教師の操作補助を必要とせず肢体不自由生徒が自身の能力で,ディジタル教材の操 作や PowerPoint を用いたプレゼンテーションができることを目的とした入力デバイスを,センサ・ スイッチと命名し設計・開発をすることにした.. 3.1 センサ・スイッチの設計・開発 センサ・スイッチの基本設計は,汎用キーボードのキーを叩いた際と同様の命令を,コンピュー. -83-.
(6) タに伝えることができ,前述の汎用キーボードにおける問題点を考慮して,下記の 7 項目にした[6]. ①ディジタル教材や PowerPoint のスライドを,次へ進める[→]キーと一つ前に戻す[←]キーの命 令をコンピュータに伝えるのみに機能を限定した入力デバイスにする.この仕様は,ディジタ ル教材や PowerPoint のスライドを前後するのみに特化させることで,汎用キーボードを利用し た場合のミスタッチに相当する動作をなくすためである. ②一動作で移動できるディジタル教材や PowerPoint のスライドは 1 枚のみにする.この仕様は, 生徒の意志とは関係なく複数枚移動する誤動作を防止するためである. ③センサ・スイッチの設置場所を自由に変更することができる.この仕様は,生徒の手指や手首, 腕等の可動範囲に柔軟に合わせるためである. ④手指の力が必要な機械式スイッチを使用しない.この仕様は,機械式スイッチを押すことが困 難な生徒や,機械式スイッチを押すことができても,押す動作をすることで姿勢が崩れ身体的 な疲労が増大するような生徒であっても,利用できるようにするためである. ⑤コンピュータに,センサ・スイッチを接続するためのハードウェアやソフトウェアを追加する 必要がないようにする.この仕様は,ハードウェアについては,センサ・スイッチを利用する 際の繁雑さを軽減することで,ソフトウェアについては,学校の常設コンピュータに新たなソ フトウェアをインストールできない場合があることに対応するためである. ⑥動作電源は教室の電源事情を考慮して,コンピュータから供給する方法を採用する. ⑦生徒が自宅でも利用できるように,安価に製作ができる回路構成にする. この基本設計に従って,静電容量方式,赤外線センサ方式,超音波距離センサ方式のセンサ・ス イッチを開発した.. 3.1.1 静電容量方式センサ・スイッチの利用方法 静電容量方式センサ・スイッチ(図 4)の利用を想定した生徒は,肢体不自由生徒の中でも,手指 や手首のみに可動範囲を確保できる生徒である.. 図 4 静電容量方式センサ・スイッチ この静電容量方式センサ・スイッチの利用方法は,プリント基板上に作成した 4 本のタッチ電極. -84-.
(7) を左側のタッチ電極から右側のタッチ電極の順番に手指を滑らすように触れていくと,汎用キーボ ードの次へ進める[→]キーと同等の動作をし,ディジタル教材や PowerPoint のスライドを 1 枚進め ることができる.また,右側のタッチ電極から左側のタッチ電極の順番に手指を滑らすように触れ ていくと, 汎用キーボードの一つ前に戻す[←]キーと同等の動作をし, ディジタル教材や PowerPoint のスライドを 1 枚戻すことができる.. 3.1.2 赤外線センサ方式センサ・スイッチの利用方法 赤外線センサ方式センサ・スイッチ(図 5)の利用を想定した生徒は,肢体不自由生徒の中でも, 手を水平に移動する腕の動作のみができる生徒である.. 図 5 赤外線センサ方式センサ・スイッチ 赤外線センサ方式センサ・スイッチの構造は,以下の通りである.中央の赤外線センサが,右側 や左側の赤外線センサの実行を可能にするためのセンサである.右側の赤外線センサは,汎用キー ボードの次へ進める[→]キーを叩いた際と同様の命令を,コンピュータに伝えるためのセンサであ る.また,左側の赤外線センサは,汎用キーボードの一つ前に戻す[←]キーを叩いた際と同様の命 令を,コンピュータに伝えるためのセンサである. この赤外線センサ方式センサ・スイッチの利用方法は,以下の通りである.ディジタル教材や PowerPoint のスライドを 1 枚進めるには,中央のセンサから右側のセンサの順番に滑らすように手 をかざしていく動作で行なえる.また,ディジタル教材や PowerPoint のスライドを 1 枚戻すには, 中央のセンサと左側のセンサの順番に滑らすように手をかざしていく動作で行なえる. なお,中央のセンサに手をかざした後でなければ,汎用キーボードのキーと同等の動作をしない ので,ディジタル教材や PowerPoint のスライドを 1 枚進める際に,左側のセンサから中央のセンサ を経て右側のセンサの順番に滑らすように手をかざしても誤動作せず,汎用キーボードの次へ進め る[→]キーと同等の動作を行なう.また,この仕様は,ディジタル教材や PowerPoint のスライドを 1 枚戻す動作にも適応している.. 3.1.3 超音波距離センサ方式センサ・スイッチの利用方法 超音波距離センサ方式センサ・スイッチ(図 6)の利用を想定した生徒は,肢体不自由生徒の中で も,肘を支点に円弧を描くような腕の動作のみができる生徒である.. -85-.
(8) 図 6 超音波距離センサ方式センサ・スイッチ 超音波距離センサ方式センサ・スイッチの構造は,以下の通りである.中央の超音波距離センサ が,右側や左側の超音波距離センサの実行を可能にするためのセンサである.右側の超音波距離セ ンサは,汎用キーボードの次へ進める[→]キーを叩いた際と同様の命令を,コンピュータに伝える ためのセンサである.また,左側の超音波距離センサは,汎用キーボードの一つ前に戻す[←]キー を叩いた際と同様の命令を,コンピュータに伝えるためのセンサである. この超音波距離センサ方式センサ・スイッチの利用方法は,以下の通りである.ディジタル教材 や PowerPoint のスライドを 1 枚進めるには,手や腕が中央のセンサの前を横切った後に,右側のセ ンサの前を横切る順番で腕を動作させれば行なえる.また,ディジタル教材や PowerPoint のスライ ドを 1 枚戻すには,手や腕が中央のセンサの前を横切った後に,左側のセンサの前を横切る順番で 腕を動作させれば行なえる. なお,手や腕が中央のセンサの前を横切った後でなければ,汎用キーボードのキーと同等の動作 をしないので,ディジタル教材や PowerPoint のスライドを 1 枚進める際に,手や腕が左側のセンサ から中央のセンサを経て右側のセンサの順番に前を横切っても誤動作せず,汎用キーボードの次へ 進める[→]キーと同等の動作を行なう.また,この仕様は,ディジタル教材や PowerPoint のスライ ドを 1 枚戻す動作にも適応している.. 3.2 奈良県立奈良養護学校におけるセンサ・スイッチの効果 奈良県立奈良養護学校の藤川 良純 教諭から協力を依頼され,PowerPoint を用いたプレゼンテー ションの練習及び発表を,教師の操作補助を必要とせず生徒自身の能力で行なうことを目標にした 授業で,超音波距離センサ方式センサ・スイッチを試用することになった. この授業の最終段階であるプレゼンテーションを,2015 年 2 月 7 日に開催されたパナソニック教. -86-.
(9) 育財団 第 39 回特別助成研究で,高等部 1 年生が「自分の望む暮らしや支援を考えよう」をテーマ にし,超音波距離センサ方式センサ・スイッチを利用して行なった. この生徒 E は,脳性マヒで上肢下肢ともに動作が粗大であるが,左肘を支点に円弧を描くような 腕の動作のみができる等の特性がある.知的能力・コミュニケーション能力では、中学部卒業程度 の能力を有し,日常会話を理解し楽しむことができるが,発語が不明瞭なため相手に伝わりにくい ことが多くある. したがって,従来であれば,教師がキーボードやマウスの操作補助をしなければ,プレゼンテー ションを行なえない生徒である.しかし,超音波距離センサ方式センサ・スイッチを操作すること で,10 分間のプレゼンテーションを口頭で説明しながら,生徒自身の能力でスライドを進めること ができた. なぜなら,超音波距離センサ方式センサ・スイッチは,各センサを自由に配置することができる ので,生徒 E のように左肘を支点に円弧を描くような腕の動作のみが可動範囲であっても,本来右 側に設置すべき次のスライドに進めるためのセンサを左側に移動させることで,左腕の可動範囲内 にセンサを配置できたからである. このような処置をしたことで,生徒の姿勢の崩れが少なくなり,身体的な疲労を最小限に止める ことができた.また,視線も画面から離れにくくなったので,生徒 E はプレゼンテーションに集中 できた. この結果から,超音波距離センサ方式センサ・スイッチは,生徒 E と同様の特性を持つ生徒には, 有効な支援機器になる可能性があることが分かった.. 3.3 大阪府立東住吉支援学校におけるセンサ・スイッチの評価 大阪府立東住吉支援学校高等部の坂田 享介 教諭から協力を依頼され,PowerPoint で作成したデ ィジタル教材を生徒自身が操作する授業で,超音波距離センサ方式センサ・スイッチを試用するこ とになった. 第 1 被験者である生徒 F は,筋ジストロフィーの生徒で,知的には小学部高学年程度の能力を有 するが,腕を挙上することが困難であり,手を左右に移動させるには全身を使わなければならない. しかし手首から先は滑らかに動作させることができる等の特性がある. この生徒 F は,汎用キーボードの次へ進める[→]キーと一つ前に戻す[←]キーを叩くことが可能 であるので,超音波距離センサ方式センサ・スイッチを利用する必要性はなかったが,興味を示し たので試用してもらうことにした. 結果は,生徒の動作でスライドを進めることができることから,超音波距離センサ方式センサ・ スイッチを利用することに対して興味を持ち,主体的に授業に取り組む姿勢が見られた.ただし, 生徒 F は腕を大きく動作することが困難であるので,位置を調整することが難しいといった問題が あった.したがって,生徒 F には,手首から先を滑らかに動作させる特性に合わせて,静電容量方 式センサ・スイッチや赤外線センサ方式センサ・スイッチが有効に活用できるのではないかと考え ている. 第 2 被験者である生徒 G は,知的には就学前以上の能力を有し,重度の脳性マヒにより強直型の 筋緊張があるが,左肘を支点に円弧を描くような腕の動作のみができる等の特性がある. したがって,従来であれば,教師がキーボードやマウスの操作補助をしなければ,ディジタル教 材の操作を行なえない生徒である.しかし,超音波距離センサ方式センサ・スイッチを利用するこ. -87-.
(10) とで,生徒自身の能力でディジタル教材を次に進めることができた. 生徒自身の能力でディジタル教材を次に進めることができた主要因は,下記の 3 点になる. ①超音波距離センサ方式センサ・スイッチを利用することに対して,興味を示した. ②センサの前を手や腕で横切るとブザー音が鳴るので,センサが反応したことが生徒自身にも分 かりやすく伝わる. ③左右のセンサを設置できる範囲が広いので,超音波距離センサ方式センサ・スイッチを利用す る際に,生徒の腕の位置や角度に合せてセンサを設置できる. ただし,解決が必要な問題点として,下記の 2 点があることも分かった. ①中央のセンサの前を手や腕で横切った後に,左側のセンサや右側のセンサの前を手や腕で横切 る動作は,生徒 G にとって運動量の多い動作である. ②身体の位置によっては,中央のセンサが身体に反応する場合があり,左側のセンサや右側のセ ンサの前を手や腕で横切る動作をしても,期待した操作ができない場面があった. これらの結果から,生徒 F と同様の特性を持つ生徒には,超音波距離センサ方式センサ・スイッ チを利用する必要はない.しかし,超音波距離センサ方式センサ・スイッチを利用することに対し て興味を持ち,主体的に授業に取り組む姿勢が見られたので,本来の効果を期待するものではない が,授業に興味を持たすための補助用具として有効であると考えられる.また,生徒 G と同様の特 性を持つ生徒には,超音波距離センサ方式センサ・スイッチは,中央のセンサが反応する距離を左 右のセンサより短くする等の生徒の特性に対応できるようにすることが今後の課題であるが,有効 な支援機器になる可能性があることが分かった.. 4. まとめ 開発した Excel-50 音表と CAD を,大阪府立東住吉支援学校の発声が困難である肢体不自由生徒 に試用してもらった.この結果から,Excel-50 音表と CAD を有効に活用するには,生徒の知的能 力の必要性と障がいの種類や程度を考慮する必要があることが分かった. 生徒の知的能力については,下記に示す Excel-50 音表を利用するための能力が必要である. ①表現したい単語を 1 文字ずつの平仮名に分解できる. ②Excel-50 音表上の背景に色が付いた平仮名を,確認することができる. ③Excel-50 音表上の背景に色が付いた平仮名が,表現したい文字であるかの照合ができる. また,下記に示す CAD がどのような支援機器であるかを理解できる程度の能力が必要である. ①CAD を腕に装着しても嫌がらない. ②CAD をどのように動作させれば,待機位置と「はい」を示すブザー音が鳴るのかを理解できる. ③「はい」のブザー音が鳴ると,他者が自分の意図に気づいてくれることが理解できる. 生徒の障がいの種類や程度については,前述の生徒 A と生徒 B のような知的障がいが重い生徒 は,Excel-50 音表は利用できなかった.また,CAD については,CAD 自体に興味を持ち CAD を手 で持ちたい欲求から外そうとしたり,CAD を装着する事自体を嫌がり,腕を振って CAD を外そう とするので,前述の知的能力を獲得させるための体験時間を多く取る必要がある.このことから, 当該生徒には CAD の利用に固守するのではなく,学習に集中することができる他の支援機器を考 案する必要があることが分かった. 前述の生徒 C のような日常会話を理解することができる身体障がいが軽い生徒は,発問に応じて. -88-.
(11) CAD を動作させることができた.しかし,生徒 C は頭を前後や左右に動かすことで意思表示がで き,この動作から教師は容易に生徒の意思表示を確認できるので,CAD を利用する方が煩雑である ことも確認できた.また,生徒 C と同様の特性を持つ生徒には,Excel-50 音表が有用な支援機器に なる可能性があることが分かった. 前述の生徒 D のような腕にある程度の可動範囲を確保でき,言語理解能力は高いが発声や表情, 身振り,しぐさでの表現が困難な身体障がいの重い生徒には,Excel-50 音表と CAD が有用な支援 機器になる可能性があることが分かった. 開発した超音波距離センサ方式センサ・スイッチを,奈良県立奈良養護学校と大阪府立東住吉支 援学校の肢体不自由生徒に試用してもらった. 前述の生徒 E や生徒 G と同様の特性を持つ生徒には,超音波距離センサ方式センサ・スイッチ は,生徒の特性に対応できるようにすることが今後の課題であるが,有効な支援機器になる可能性 があることが分かった. なお,生徒 G にとって運動量の多い動作であると指摘された問題点を好意的に解釈すれば,超音 波距離センサ方式センサ・スイッチは,自発的なリハビリテーションを誘引する補助用具としての 効果があると捉えることができる. また,奈良県立奈良養護学校の藤川 良純 教諭からは,被験者以外の生徒ではあるが,左手の動 作が困難で普段は左手を積極的に動作させない肢体不自由生徒が,超音波距離センサ方式センサ・ スイッチを操作する際に,積極的に左手を動作させていたとの報告があった. 前述の生徒 F と同様の特性を持つ生徒には,超音波距離センサ方式センサ・スイッチを利用する 必要はないが,このセンサ・スイッチを利用したい欲求から主体的にディジタル教材の操作をする 場合がある. これらの結果から,教師の操作補助を必要とせず肢体不自由生徒が自身の能力で,ディジタル教 材の操作や PowerPoint を用いたプレゼンテーションができることを目的として開発した超音波距 離センサ方式センサ・スイッチではあるが,このセンサ・スイッチを利用する必要があえてない生 徒であっても,このセンサ・スイッチを利用することに対して興味を示す場合がある. この興味を示す生徒には,超音波距離センサ方式センサ・スイッチを本来の目的を達成させるた めの支援機器としての利用ではないが,自発的なリハビリテーションを誘引する補助用具としての 効果があり,授業に興味を持たすための補助用具として有効であると考えている. 今後の課題として,開発した Excel-50 音表と CAD ならびに,静電容量方式センサ・スイッチや 赤外線センサ方式センサ・スイッチ,超音波距離センサ方式センサ・スイッチの試用件数を増やし, より多くの肢体不自由生徒が支援機器を利用できるように改善していきたいと考えている.また, 多くの生徒が利用できるように,支援機器についての告知方法や配布方法を考案することも課題で ある.. 謝辞 本研究で試作した支援機器を試用して頂いた際,大阪府立東住吉支援学校の坂田 享介 教諭なら びに奈良県立奈良養護学校の藤川 良純 教諭から貴重な意見を頂いた. 本研究の一部は,科学研究費補助金基盤研究(B)「15H02941」の補助を受けて実施いたしました. ここに感謝の意を記します.. -89-.
(12) 引用・参考文献 [1] 情報教育の実践と学校の情報化 ~新「情報教育に関する手引」~, 文部科学省, pp147-148 (2002) [2] 特 別 支 援 学 校 高 等 部 学 習 指 導 要 領. 平 成 21 年 3 月. 告示, 文部科学省,. http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/tokushi/1284605.htm,(参照 2017.6.28) [3] 北村 京子, 下村 勉, 須曽野 仁志,“肢体不自由児のためのパワーポイントを用いた「ワンクリ ック教材」の開発とカスタマイズの有効性”, 三重大学教育学部附属教育実践総合センター紀 要 (32), pp39-44(2012) [4] “TMSN-特別支援教育・教材共有ネットワーク-”, http://www.narayogo.jpn.org/,(参照 2017.6.28) [5] 金森 克浩, 土井 幸輝, 畠山 卓朗, 藤本 浩志,“肢体不自由児への視線入力システム適用につ いての検討”, 電子情報通信学会技術研究報告. ET, 教育工学 110(209), pp23-26(2010) [6] 森石 峰一,“肢体不自由児の主体的使用を目的としたマンマシンインタフェースの開発と試用”, 教育システム情報学会 第 40 回全国大会講演論文集, pp113-114(2015). -90-.
(13)
図
関連したドキュメント
The inclusion of the cell shedding mechanism leads to modification of the boundary conditions employed in the model of Ward and King (199910) and it will be
(Construction of the strand of in- variants through enlargements (modifications ) of an idealistic filtration, and without using restriction to a hypersurface of maximal contact.) At
It is suggested by our method that most of the quadratic algebras for all St¨ ackel equivalence classes of 3D second order quantum superintegrable systems on conformally flat
Kilbas; Conditions of the existence of a classical solution of a Cauchy type problem for the diffusion equation with the Riemann-Liouville partial derivative, Differential Equations,
This paper develops a recursion formula for the conditional moments of the area under the absolute value of Brownian bridge given the local time at 0.. The method of power series
Answering a question of de la Harpe and Bridson in the Kourovka Notebook, we build the explicit embeddings of the additive group of rational numbers Q in a finitely generated group
Then it follows immediately from a suitable version of “Hensel’s Lemma” [cf., e.g., the argument of [4], Lemma 2.1] that S may be obtained, as the notation suggests, as the m A
Our method of proof can also be used to recover the rational homotopy of L K(2) S 0 as well as the chromatic splitting conjecture at primes p > 3 [16]; we only need to use the